派手で何が悪いのよ! 名古屋ウェディング怪人!

    「なんで……なんでなのよ……!」
     少女は怒っていた。
     彼女には、将来を誓い合った幼なじみがいた。
     ここは名古屋。結婚式と言えば、菓子をまき、嫁入り道具で行列を作る……とにかく盛大に行うものだと聞かされて育ったし、彼もそれを望んでいると信じていた。
     だが先日、その話題が出た時だった。
    「そういうの、やめた方がいいと思うんだ」
     名古屋クオリティは財布に優しくなさすぎる……そう彼は言った。
     少女の人生設計が粉砕された瞬間だった。
    「結婚式、楽しみにしてたのに……名古屋民として、結婚式を派手にやるのは当たり前じゃない……ッ!」
     やるせなさ、怒り、失望……負の感情がマックスまで高まった時。
     少女が変貌を始めた。華奢だった体が、みるみる膨張していく。たくましく、禍々しく。
    「地味な結婚式なんて許さない……そんなもの、私が全部ぶち壊してやる!」
     一転マッシブになった少女が目指すのは……結婚式場であった。

    「皆さん、一般人が闇堕ちしてご当地怪人になる事件が発生しようとしています。名前は名古屋ウェディング怪人です」
     野々宮・迷宵(中学生エクスブレイン・dn0203)の今回の格好は花嫁衣裳だった。レンタルだと思われるが、結構お金がかかっていそうである。
    「妙な予感がしておったが、まさか……じゃのう」
     シルフィーゼ・フォルトゥーナ(に跪け・d03461)が、むむ、と眉を寄せた。
     闇堕ちした時点で人間の意識はかき消えるものだが、この少女はぎりぎり踏みとどまっている状況だ。
     そこで、もし少女が灼滅者の素質を持つようなら救出を、完全なダークネスになってしまうようなら、灼滅を。それが迷宵の依頼だった。
    「今回闇堕ちするのは納谷・結衣(なや・ゆい)さん。中学二年生の女の子です。彼女はおばあちゃんから話を聞かされて、結婚式と言えば派手なのが当たり前と思っていたのです」
     しかし、幼なじみの少年・ケンジにそれを拒まれたのが原因のようだ。
    「もっとも、名古屋でも実際はそこまで派手ではないらしいですけどね」
    「そうなのか。危うく信じりゅところじゃった」
     シルフィーゼが安心していた。
     結衣は、地味な結婚式を台無しにしようとしている。そこで皆は名古屋の結婚式場に向かい、そこに現れる結衣に接触して欲しい。
     幼なじみの忠告を聞き入れるべきか、自分のわがままを貫くべきか。結衣は葛藤している。それを踏まえて彼女に呼びかければ、弱体化させられるかもしれない。
     なお、彼女を救出する場合でも、KOは必須だ。
     ご当地怪人としての結衣は、ご当地ヒーローと契約の指輪のサイキックを駆使する。おそらく結婚指輪への憧れと思われる。
    「結衣さんの、豪華な結婚式を挙げたいという気持ちもわからないではありません。ですが、ケンジさんとの未来のためにも、彼女を止めてあげてください」


    参加者
    神門・白金(禁忌のぷらちな缶・d01620)
    織凪・柚姫(甘やかな声色を紡ぎ微笑む織姫・d01913)
    曹・華琳(武蔵坂の永遠の十七歳・d03934)
    不動峰・明(大一大万大吉・d11607)
    黒芭・うらり(高校生ご当地ヒーロー・d15602)
    氷灯・咲姫(月下氷人・d25031)
    ガーゼ・ハーコート(自由気ままな気分屋・d26990)

    ■リプレイ

    ●花嫁衣裳の怪人
    「うぇでぃんぐ……か。結婚とはお祝い的な行事だったな」
     名古屋の空の下、神門・白金(禁忌のぷらちな缶・d01620)が呟いた。
    「大まかにしか知らないが、大きな意味のあるものなのだな。闇堕ちのきっかけとなるほど」
    「そうだね。結衣さんは、特に思い入れが強いみたいだけど」
     頷く曹・華琳(武蔵坂の永遠の十七歳・d03934)。まともな結婚は無理そうかも、という自覚がある彼女としては、せめて結衣の思いは大事にしたい。
    「結衣さん、歳も同じで境遇もそっくりとは! これは放っておけませんよ!」
     救出に燃える、氷灯・咲姫(月下氷人・d25031)。
     一方、難しい顔でいるのは黒芭・うらり(高校生ご当地ヒーロー・d15602)。
    「絢爛豪華な式と言えば高級魚の王様、マグロの出番……漁業者としては結衣さんの人生設計を応援するべきか……いやでも、ヒーロー的にご当地怪人化は見過ごせない!」
     ぐっ! と、拳と決意を固める。
    「ふみゅ、ここかのう」
     式場に着くと、シルフィーゼ・フォルトゥーナ(に跪け・d03461)と織凪・柚姫(甘やかな声色を紡ぎ微笑む織姫・d01913)が様子を見渡す。
    「結婚式は、こういう風に厳かに行うのも素敵ですよね……」
     式の始まりを待つ客で賑わう中、1人浮いた存在を見つける。
     ウェディングドレスを着てはいるが、とても新婦とは呼べないそれは、納谷・結衣……いや、名古屋ウェディング怪人!
    「しかしでかいな……とても女に見えんが……」
    「闇堕ちでこんなにたくましくなっちゃうのかー……」
     怪人のビジュアルに圧倒される、白金とガーゼ・ハーコート(自由気ままな気分屋・d26990)。
     モリモリの筋肉でウェディングドレスがぱっつんぱっつん。似合っているとは言い難いし、唯一少女らしいツインテールも霞んで見える。
    「まぁ、人のこと言えないか……」
     泥人形な自分の闇堕ち姿を思い浮かべると、ガーゼはメガホンを取り出す。
    「納谷・結衣!」
     響いた声に、列席者はもちろん、ウェディング怪人も反応した。彼女がこちらを振り返ったのを確かめると、
    「そういうの、やめた方がいいと思うんだ」
    「名古屋クオリティは財布に優しくなさすぎる」
     結衣の幼なじみの言葉を借りたガーゼの呼び掛けを、不動峰・明(大一大万大吉・d11607)が引き継いだ。
    「その言葉、ケンジと同じ……!」
     大きな体を揺らし、怪人がヒステリックに詰め寄る。
    「あなた達も否定するの、名古屋ウェディングをッ!」
    「ああ、とても現実的とは言い難いからな。ケンジもきっと同じ思いだろう」
     怪人は明を、そして灼滅者達を追いかけ、式場を飛び出した。

    ●灼滅者達の主張
     他の誰でもない、幼なじみの言葉が効いたのだろう。
     ウェディング怪人を、近くの駐車場へ誘導するのはさほど難しい事ではなかった。
    「ところで、名古屋の結婚式が派手じゃという話は聞くのじゃが、実際どのようなことをしゅりゅのか聞かせてもらえにゅかの?」
     仲間が人払いを行う中、シルフィーゼが尋ねる。
    「たくさんの家具や家電を、何台ものトラックで運ぶのよ。紅白の幕を掲げたガラス張りのトラックでね」
     凄いでしょう、と自慢げに胸を張る怪人。
    「他にも、新婦が家を出る時はおまんじゅうやお菓子を撒くの。式の時だって何度もお色直しするし、当然引き出物だって豪華だわ」
     説明からは内容の派手さ以上に、怪人……結衣の思い入れが強く伝わって来る。
    「なのにケンジってば、地味でいいだなんて……名古屋民なのに!」
    「乙女の憧れ、大事だよね。私もマグロ丼定食メガ盛りの夢を否定されたらすごく悲しいし」
     うらりが言う。特に『マグロ』の部分を、力強く。
    「でも一番素敵な結婚式っていうのは2人が納得して、心から望める式なんじゃないかな。形態とか風習って時代の中で変わっていくものだけど、そこだけは変わらない筈」
    「そんなの関係ない! 大事なのは結婚式のやり方よ!」
     強く反論する怪人。
    「結婚はウェディングドレスという女の戦闘服を纏った一世一代の大舞台! お金という現実的思考をねじ込まれたら激おこですよね、わかります!」
     うんうん、と同意してみせる咲姫。
    「ですが、私最近気付いたんです……たとえTシャツに短パンであろうと、真実の愛ならば服装なんかで揺らいだりはしないと!」
    「ああ。派手か地味か……それよりも、好きな人が居て、その人と一緒になること、それが大事なのではないのか?」
    「……っ」
     明に問いかけられ、怪人がたじろぐ。
     仲間に説得を託した白金が、そのやりとりを静かに見守る。
    「あ、あなた達もケンジみたいに地味な結婚式にしろって言うのね!?」
    「確かに盛大にやって、来てくれたみんなに自分達の幸せを分かち合えるものにしたいね」
     優しく語り掛けるガーゼ。
    「だがお主とて、多額の資金がかかり躊躇しゅりゅ幼なじみの気持ちも、本当はわかりゅのじゃろう?」
    「そ、それは……」
     シルフィーゼの指摘に、口をつぐむ怪人。
    「結婚するなら価値観が合う人としたほうがいいよね。辛い別れを経験しないようにね」
     華琳が、揺さぶるような言葉をかける。
    「もし結衣さんが望むのなら、一緒に運命の人を探そう。私は女性だから結婚はできないけど、友達にはなれる。運命の人と一緒になるまで、支えになるよ」
    「運命の人なんかより、私には結婚式の方が重要なの! そのはずよ……」
     怪人の言葉がしりすぼみになる。
    「結婚は女の子最大の夢ですし、大切な思い出の1ページとして素敵にしたいという納谷ちゃんの気持ちは、とてもよくわかります」
     ただ、と柚姫は続ける。
    「結婚は1人でできるものではありませんよね? 相手と一緒に相談しながらプランを考える方が、相手の好みや考え方をもっと深く知れると思います」
    「1人じゃ、できない……」
     頭を抱えるウェディング怪人。
     葛藤する彼女は、外見よりずっと小さく見えた。

    ●未来の花嫁を救え!
    「は、派手なだけが結婚式じゃないって言うなら、私を止めて、それを証明してみせてよ!」
     怪人の左手薬指がきらりと光った。はめられた指輪が、破壊の弾丸を生む。
     一途に、真っ直ぐに飛ぶそれを阻んだのは、うらりの霊犬・黒潮号だった。
    「ならば……少々痛いが、わりゅくおもうでないぞ」
     断り1つ。シルフィーゼが抜剣とともに斬りかかる。柚姫のビハインド・翡晃が、それを援護。
    「癒して藍、護れし星」
     そして柚姫は白い龍砕斧を振るう。
     マカロンやキャンディー、蝶を模したアクセサリーが輝き、竜の加護を宿す。
    「貫けアルテマグロウェポン! マグロスピア―!」
    「元『氷灯夜の花嫁』、氷灯咲姫! 参りますっ!!」
     共に槍を構えたうらりと咲姫が、突撃をかける。
    「自分の夢だけを追求するんじゃなくて、パートナーになる人ともよく話してみて。きっと、うまく折り合えるところがある筈だから」
    「そうです! まずはケンジさんに聞いてみてください、ありのままの私を愛してくれる? と!」
     槍をつかもうとする手をかいくぐり、怪人のウェディングドレスに穴を穿つ。
    「伝統を守りたい気持ちも大事だが、それよりも大事なことがあるだろう?」
     違うか? と明の長ドスが閃く。怪人の足からこぼれた鮮血が、純白の衣装を染めていく。
    「待たせたな神門。出番だ」
     明がバックステップで開けた射線を、銀の糸が駆ける。
     怪人の周囲を取り巻くと、瞬時に縛り上げた。
    「うむ、巨人よりは小さいな」
     ぎりり、と白金が鋼糸に力をこめる。
    「君の大切な人は、ただ驚いてしまっただけだよ。時間はたくさんあるんだしさ、ゆっくり考えるのも幸せの1つでしょ?」
     白光をまとったガーゼが、下段から切り上げる。
     そちらに意識が向いたせいで、上方からの攻撃に気づくのが遅れた。
     華琳の斬艦刀が、怪人の肩に食い込む。
    「多額の資金が必要ならば、文句がいえにゅ資金を用意しゅればよい、結婚なぞ何年後の話じゃ、それまでにためればよいことじゃ」
     紅の剣を突き立てるシルフィーゼ。
    「來れり紅、踊り散れ華」
     更に、柚姫の龍砕斧が描いた十字が、怪人の心を乱す。
    「結婚は、男性と女性が一緒に作り上げていくものなんです」
    「確かに私は結婚式の事ばっかで、ケンジの気持ちなんて全然考えてなかった……」
     再度煌めく指輪。しかしその光は、虚空で弾けただけ。
     無意識に後ずさる怪人へ、ガーゼが跳び上がる。
     彼女の流星蹴りを受けた先には、明と華琳。
    「伝えたい事は全て言葉にした」
    「後は、結衣さん次第だよ」
     聖なる剣が怪人の胴を薙ぎ、斬艦刀が背中を打つ。ヒットの寸前、力を緩める華琳。
     ずうん、と倒れこむ怪人の巨体が、持ち上げられた。
    「目を!」
     怪人を投げ上げた咲姫が、自らも地面を蹴る。
    「覚ませーーーーーッ!!」
     空中で追いつくと両手を組み、ダブルスレッジハンマーで叩き落とす。
     落下していく怪人。そこへ、うらりのキックが放たれる。
    「必殺! マグロダイブキィィィック!」
     マグロの幻影と共に、怪人を蹴り飛ばす!
     地面が鳴動し、煙が立ち上る。
     それでも立ち上がろうとする怪人の視界を、マフラーが遮った。
    「悪い夢は終わり。今度は現実で夢を見ればいいのだ」
     白金の刀が、怪人から奪い取る。
     命ではなく、意識を。

    ●いつか2人で
     怪人から元に戻った結衣は、華奢な少女だった。
     何せ生まれたままの姿だから、よくわかる。
    「って、裸!?」
     すかさず華琳が駆け寄ると、上着をかけてやる。
    「私、なんてことを……」
    「私も同じ様に故郷・芽室で大暴れしたから、気持ちはすごーくよくわかります、 愛故に女は苦しまなければいけないのです……」
     目覚めるなり落ち込む結衣を、咲姫が慰める。
    「でも私が自分の夢ばかり追っていたせいで、こんな事に……」
    「なぁに、結婚式は乙女の夢じゃ、夢を見てかなえりゅために努力すりゅのは悪くはありゅまい」
     のう、とシルフィーゼが仲間に同意を求める。
    「フォルトゥーナの言う通りだ。伝統を守りたいと思う心は素晴らしいと思うぞ。もっとも、それで闇堕ちしてしまってはいかんがな」
     明から諭すように言われ、結衣がバツが悪そうに首を縮めた。
    「でも私、名古屋式以外の結婚式のやり方を知らないし……」
    「大丈夫ですよ。ケンジさんと一緒に考えたプランで挙げる結婚式なら、きっと素敵な想い出になりますから」
     柚姫の笑顔に、結衣の表情が和らぐ。
    「そう、そうよね。皆さんもありがとう」
     ぺこり、と結衣が頭を下げた。
    「なぁ、結婚ってそんなに魅力なのか……? 全然わからんぞ……」
     白金が首を傾げる。結衣が悩むのを見ていると、むしろ大変に思えるのだが。
    「大好きな人と一緒になれるのよ、当たり前じゃない……って」
     結衣の頬が桜色に染まる。
    「初対面の人に何言ってるの、私……!」
    「はいはいご馳走様ー。にしても、話を聞いただけでも大変な感じだよねー、名古屋クオリティ」
     ガーゼが困ったように微笑む。
    「今後の参考のためにもう少し詳しく聞かせてほしいな。もっとも、私と一緒になってくれる人はいるのだろうか……」
     遠い目をする華琳を励ましたのは、結衣だった。
    「あきらめないで。私もあきらめたわけじゃないから」
    「えっ」
     驚くうらり。
    「まさかまだ……」
    「あ、勘違いしないで。派手さよりも一番幸せになれる結婚式を考えるつもりだから。……ケンジと一緒に」
     あわあわと両手を振る結衣。
     幸せそうな笑顔を見て、8人は思った。
     このリア充め……と。

    作者:七尾マサムネ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年3月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
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