おいでらっしゃいおネコ様

    作者:春風わかな

    「なぁ、オマエ知ってるか? あのウワサ」
    「もっちろん! あれだろ、『おネコ様』の話」
     赤い夕陽が照らす路地を歩きながら言葉を交わす小学生たちに臆する様子は微塵もない。
    「二丁目の御屋敷に行けば『おネコ様』に会えるっていうけど……」
    「でも、『おネコ様』は食いしん坊だから何でも食べちゃうんだろ?」
     ――それって人間も食べちゃうのかな?
     友人の何気ない呟きにぞくりと背筋が寒くなった気がして子供たちは口をつぐんだ。そして、無言のまま歩く子供たちの視線の先で、古い日本家屋に一人の老婆が入って行く。
     その屋敷は20年以上空き家となっており誰も住んでいない。
     屋敷の門を開け中へと入っていった老婆は慣れた様子で庭へと回り、縁側に「よっこいしょ」と座ると早速手に持っていた巾着に手を入れる。
     にゃー、にゃー、にゃー。
     いつの間にか庭には数匹の猫たちが集まっていた。
    「遅くなってごめんなさい。はいはい、今出しますからね」
     老婆は嬉しそうに巾着からどこにでもある安価なかりかりした猫の餌を取り出し、足元近くの平たい石の上にバラバラと置く。
     老婆の名は『ちよ』。すでに旦那を無くし今は年金暮らし。この廃屋で野良猫たちにこっそりエサをやるのが最近の趣味だった。
    「そうそう。今日はね、奮発してちょっと高価なごはんを持ってきてあげましたよ」
     ちよお婆さんが嬉しそうに巾着から高級な猫の餌を取り出した、その時。
     ――キランッ。
     薄暗い背後の屋敷の部屋の中で、巨大な猫の目が輝き、のっそりと2メートルを超える化け猫が音も無くちよお婆さんの背に近づき。
     ……そして――。


    「古い、お屋敷に、『おネコ様』が、現れた――」
     教室へと集まった灼滅者たちを前にいつもと変わらぬ様子で久椚・來未(高校生エクスブレイン・dn0054)が淡々と視た内容を告げる。
     それは、とある町にある無人のお屋敷に現れる人を食う化け猫――おネコ様が現れるという都市伝説。おネコ様はある条件を満たした時のみ出現する。
    「ちょっと豪華な、猫の餌に、つられてやって、くる」
     來未が言うには普段は食べないような高級な餌や珍しい餌があると出てくるらしい。
     例えば、スーパーで一番高価な猫の餌やお刺身、猫の為に作られた美味しい手作りご飯など。食いしん坊な『おネコ様』は安価な猫の餌には見向きもしないが、見慣れぬ美味しい餌には興味津々、他のことには一切見向きもせずただひたすらに餌を貪り食うらしい。
     戦闘になるとおネコ様は怪談蝋燭とバトルオーラに似たサイキックを使ってくるという。ちなみにポジションはクラッシャー。
     心惹かれる餌があった場合、おネコ様は攻撃よりも餌を食べることを優先する。
    「でも、餌を持ってるのに、あげなかったら、怒る」
     餌を隠している人がいた場合、おネコ様は餌をくれるまで執拗に狙い続けるので気をつけてほしい。
     もしも、おネコ様が現れた時に庭に他の猫たちがいた場合、動物的勘が働くのか、一斉に逃げ出すという。猫を連れて避難とかは気にしないで良いらしいのでおネコ様退治に全力を尽くしてほしい。
    「『おネコ様』を退治したら、野良猫たちと、遊んでもいい、かも」
     余った餌を庭においておけば、近所の野良猫たちが集まってくるだろう。
     普段から近所のちよ婆さんに餌付けをされているため、屋敷にやってくる猫たちは人間を怖がらないという。
     ねこじゃらし、ボール、ビニール袋など猫たちが好きそうな遊び道具を持って来れば餌を貰いにきた猫たちと遊ぶこともできるだろうと來未は告げる。
    「『おネコ様』を放置、すると、ちよお婆さんが、被害に、あう」
     だから、よろしく――。
     そう言うと、來未は灼滅者たちへ頭を下げたのだった。


    参加者
    小坂・翠里(いつかの私にサヨナラを・d00229)
    ポンパドール・ガレット(祝福の枷・d00268)
    仙道・司(オウルバロン・d00813)
    ミリア・シェルテッド(キジトラ猫・d01735)
    日輪・かなめ(第三代 水鏡流巫式継承者・d02441)
    エウロペア・プロシヨン(舞踏天球儀・d04163)
    雪椿・鵺白(テレイドスコープ・d10204)
    近衛・一樹(創世のクリュエル・d10268)

    ■リプレイ

    ●おネコ様は美食猫?
     お屋敷へとやってきた灼滅者たちが持ち寄った猫の餌は実に多様だった。
     高級な猫缶詰、まぐろのお刺身、鮭の切り身、高級地鶏のささみジャーキーや箸休めのチーズにお肉を惜しみなく使った手作りねこまんま、それにデザートの猫専用ケーキまで。
     ずらりと並んだ豪華な餌を前に小坂・翠里(いつかの私にサヨナラを・d00229)は感嘆の声をあげる。
    「これだけいろんな種類があると、おネコ様もよりどりみどりっすね~」
     用意した餌はおネコ様を誘き出すための超高級猫缶を残し、守護役を志願した仲間たちに預けることに。
    「……」
     自作の猫まんまをじっと見つめるミリア・シェルテッド(キジトラ猫・d01735)の視線に気付いたエウロペア・プロシヨン(舞踏天球儀・d04163)が怪訝そうな表情を浮かべてミリアに声をかけた。
    「ん? どうかしたかぇ」
    「い、いえ……何でも、ありません……っ」
     ミリアはぶんぶんと大きく首を横に振ると、庭の片隅に置かれたダンボールの影にさっと隠れる。自分で用意した猫まんまが美味しそうで、後でこっそり食べてもいいかな……なんて考えていただなんて口が裂けても言えない。
    「さて……周りに被害が出ないうちに灼滅しておきましょう」
    「よーし、それじゃ、早速おネコ様に来てもらおっか!」
     近衛・一樹(創世のクリュエル・d10268)の言葉にポンパドール・ガレット(祝福の枷・d00268)が頷き、ぐるりと仲間を見回せば。
     仙道・司(オウルバロン・d00813)がウキウキと嬉しそうに超高級猫缶を開けて中身を皿にあけた。
    (「ふふ……でっかいもふもふ……」)
     じゅるりとたらした涎を慌てて拭いて、司は姿を見せぬおネコ様に声をかける。
    「おネコ様、かもーん♪」
     程なくして誰もいなかったはずの薄暗い部屋に大きな猫の瞳が浮かんだかと思うと、トテトテと何かが近づいてくる足音が聞こえた気がした。逸早く人ならぬモノの気配を察した雪椿・鵺白(テレイドスコープ・d10204)が仲間に目配せをすると一同は無言で頷き、すっと背筋を伸ばす。
    『ニャ~ゴ』
     低い猫のような唸り声が聞こえたかと思うと、どこからともなくさっと飛び出してきた白い大きな塊が目にも止まらぬ速さで餌に喰らい付いた。
    「な、なかなか貫禄のあるおネコ様ね……」
     苦笑交じりに漏らす鵺白の呟きになど応えることはなく、おネコ様は一心不乱に餌を食べている。あっという間に猫缶1つを食べ終えたおネコ様はくるりと灼滅者たちの方へ向き直るとフンフンと鼻を鳴らして他に餌が無いか探し始めた。
    『ニャ……ッ!』
     見つけた、と餌を隠し持った者たちに気づくや否や、おネコ様はギラリと目を光らせ勢いよく前足を振り被ると有無を言わさず灼滅者たちに襲い掛かる!
    『ニャギャー!』

    ●もふもふ満喫大作戦
     最初に動いたのは、日輪・かなめ(第三代 水鏡流巫式継承者・d02441)だった。
    「水鏡流が発勁の奥義!!天地神明ッ!」
     気合を入れて叩きこんだ双掌打をおネコ様のもっちりボディが優しく包み込む。
    「わーい、めり込む! めり込みますよ!」
    「ぬぅぅ、ずるいぞ! わらわもやるのじゃ!」
     その柔らかな感触に喜ぶかなめの声を聞き、負けじとエウロペアが異形と化した腕でおネコ様を殴りつけた。見た目を裏切らないふんわりした毛並みの感触に思わずエウロペアの顔が綻ぶ。
    「おぉ……もふっとしたぞ」
     もふもふを堪能できるのはおネコ様を攻撃する時だけではない。
    「あれぇ? ボクはエサなんか隠し持ってませんよ~!」
     ホントですよ! とわざとらしく手を振って見せる司だが、実は隠された逆の手でしっかりと高級ささみを握りしめている。もちろんおネコ様の鋭い眼差しはそれを見逃すような甘い真似はしない。
    『ニャァァァー!』
     ささみ目がけてまっしぐら。おネコ様の体当たりで吹っ飛ばされた司の傷をダンボールの陰からちょこんと顔を出したミリアが放った夜霧が包み込む。もふもふするのも命がけだ。
    「なんや巨大とはいえ猫に攻撃すんのは気が引けるな……」
     冷気と妖気を纏った長槍【氷茜】を振るう一樹の動きもどこか遠慮がちで躊躇いが感じられた。巨大な猫の都市伝説と対峙するのは今回が初めてではないような気がするが……。
    「あかん、今は戦闘に集中せな」
     愛用の眼鏡は外して今はポケットの中。
     一樹はバサリと頭を振って雑念を振り払うと長槍をおネコ様に向かって繰り出す。
     ダダダっと勢いよくガトリングガンを撃ち込む翠里に続き、鵺白が放った氷の弾がおネコ様に当たってパリンと小さくはじけ飛んだ。しかし、灼滅者たちの攻撃を受けても未だおネコ様の様子に変化は見られない。隠し持った餌を求め、執拗に攻撃を繰り返す。
    「おーい、おネコ様! 餌、開けるぞー!」
     わざとおネコ様に猫缶を掲げたのはポンパドール。彼がパカッとイイ音を立ててゆっくりと缶を開け始めるのを見て、おネコ様は舌なめずりをして餌が出てくるのを待っていた。
     だが、ポンパドールはゆっくりゆっくり焦らしながら缶を開けるので、おネコ様は苛立ちを隠せない。
    『プギャァァッ!』
     早くよこせ! と待ちきれなくなったおネコ様は鋭い爪で容赦なくポンパドールの身体を切り裂く。
     ザシュッ!
     間一髪。猫缶を死守したポンパドールだったが、その代償に背中に赤い血が滲んだ。ウィングキャットのチャルが主を励ますようにすぐさま尻尾のリングを光らせるとポンパドールの傷がゆっくりとふさがってゆく。
    「あっぶねー……」
     ――油断は禁物。頼れる相棒に感謝しつつ、それでもおネコ様のもふもふ攻撃にポンパドールの頬は自然と緩む。
     おネコ様の攻撃は思ったよりも強烈で回復に手を割くことが多く、思うように攻撃が出来ない。
     とはいえ、おネコ様1体に対し、こちらは灼滅者8名にサーヴァントが4体の大所帯。
     おネコ様のもふもふを堪能しつつ、灼滅者たちはゆっくりと、だが確実におネコ様を追い詰めていた――。

    「さあさあ、欲しいかえ? でも駄目!」
     あげぬぅー! とエウロペアがさっと牛丼カルパッチョの粥丼を隠す。
    『シャァァー!!』
     怒りをあらわに襲い掛かるおネコ様を指差し、エウロペアはころころと笑い声をあげた。
    「おお、怒っとる怒っとる。はっはは……あれ? 痛いのうー?」
     はてと視線を向ければ餌を持ったエウロペアの腕をがっちりと抑え込んだおネコ様が一心不乱に喰いついているではないか。
    「助けて、エイジア!」
     エウロペアは大慌てでおネコ様に餌を渡すとビハインドの背後にささっと逃げ込んだ。
     ――おネコ様が餌を食べている、今がチャンス!
     キランと目を光らせ、司が巨大な鬼の腕へと変化した己の片腕をおネコ様に振り下ろし、一方でかなめは閃光百裂拳を撃ち込むと見せかけ、無我夢中で餌を食べているおネコ様をモフモフして幸せに浸っている。七不思議使いならばこの巨大モフ猫をゲットできたわけだが、餌代が心配なのでかなめ自身実行するかどうかは迷うところ。
    「あぁ、猫さんの、ごはんが……」
     あっという間に丼の中身は空っぽに。エウロペアの傷を回復するミリアはしょんぼりと俯くが、まだ隠されている猫の餌は半分以上ある。これ以上、猫の餌をとられる前にこの食いしん坊な都市伝説を倒さなければ……!
    「やっぱり、おネコ様、倒さないとダメっすかねぇ……」
     ミリアの念が伝わったのか、翠里はチラチラッとおネコ様の動向に視線を向け、小さく溜息をついた。――心苦しいが、ここは我慢。その分、後で野良猫さんたちといっぱい遊ぶのだ……!
     翠里の足元から伸びた触手のような黒い影がおネコ様を絡め取り、その隙を逃さず霊犬の蒼が口に銜えた斬魔刀を器用に振るっておネコ様を斬り付ける。
    『ニャー…ゴ……』
     ふらふらと身体を不自然に揺らすおネコ様だが、それでもまだなお餌を求め続けていた。
     ――そろそろ、終わりにすべきだろう。
    「……奈城」
     鵺白はビハインドの名を呼ぶと、隠していた猫用ケーキをおネコ様に差し出すように指示をする。
    『ニャニャッ♪』
     嬉しそうにケーキに齧りつくおネコ様を見つめ、鵺白はやれやれと首を横に振った。
    「餌が美味しくて幸せなのはわかったけど、贅沢三昧は良くないわよ……!」
     おネコ様に向かって射出された鵺白の意思を持った帯がその豊満な身体を容赦なく貫く。
     そして、おネコ様はそのままゆっくりと溶けるように姿を消した――。

    ●おいでらっしゃい野良猫さん
    「野良さん……来てくれるでしょうか……」
     ミリアはおネコ様に見つからないよう、こっそりと庭の隅っこに隠しておいたねこまんまをコトンと庭先に置く。
     これからやってくる猫たちにわくわくが隠せぬ翠里は嬉々としてキャットフードをザラザラッと皿にあけた。
    「どんな子に会えるか、楽しみっすね!」
     その他、おネコ様に隠し通した高級な餌も惜しみなく庭に並べれば、あとは野良猫たちが来るのを待つばかり。
    「少し、このまま待っていましょうか」
     鵺白の言葉に一同は頷き、野良猫たちがやってくるのをドキドキしながら待っていると。
    「ニャァ~」
     ひょいっと草陰から顔を出したのは1匹のミケ猫。
    「来ましたっ! ミケ猫さんが来てくれましたよーっ!」
     嬉しそうに瞳を輝かせる司たちの目の前に続々と野良猫たちが集まってくる。いつも食べ慣れている物とは違う餌に猫たちも最初は慎重な素振りを見せていたが、すぐにパクパクと餌を食べ始めた。
    (「ごはん、食べたい……」)
     ずっと我慢していたがそろそろ限界だ。ミリアはキジトラ猫に姿を変えるとこっそりと野良猫たちに混じって餌を頬張る。我ながら良い味付けだとご満悦。
    「ふふ、そんな慌てなくても大丈夫よ……」
     新鮮な鮭の切り身を差し出す鵺白は夢中で餌を食べているサバトラ猫をそっと撫でた。
     もふもふの毛並みにうっとりと目を細めていると、反対の指先に何かザラザラとしたものが触れる。
    「ミャー?」
     もうないの? と言いたげな猫の視線にくすりと笑みを漏らし、鵺白はおかわりを取り出した。
    「まだまだあるわ、たくさん食べてちょうだい」
     一方、庭に座って日向でのんびりと寛いでいる一樹の傍にも猫たちが寄ってくる。
    「おいで」
     チョイチョイと一樹が指を動かして気を惹くと、シマミケ猫はゴロゴロと喉を鳴らして顔を擦り付けた。戦いを終えて再びかけた眼鏡の奥で藍色の瞳が愛しそうに猫たちを見つめている。
    「餌、もっと食べますか」
     甘えた声で餌を求める猫たちに「どうぞ」とチーズを差し出して。
     美味しそうに餌を齧るシマミケ猫の背を一樹の長い指が優しく撫でた。

    ●遊びましょう野良猫さん
     ひとしきり餌を食べて猫たちが満足したら、ここから先は遊びの時間。
    「さぁさぁ、野良猫さん! 一緒に遊びましょうなのですよ!」
     じゃーん、とかなめが取り出したのはマタタビ入りの抱き枕とねこじゃらし。
     それぞれ左右の手で持ったら準備万端、あとは猫さんと思う存分遊ぶだけ。
    「マタタビの魔力に酔いしれると良いなのですよ!」
     ほらほら! とかなめがねこじゃらしをぴょこぴょこ振れば、茶トラ猫を筆頭に猫たちが無我夢中でじゃれあった。マタタビの魅力も相まって、かなめを追いかけて走り回ったり、ジャンプしたりと猫たちは大忙し。ちょっと疲れたらマタタビの匂いに包まれながら抱き枕で一休み。
    「楽しいっすか? もっと遊んでいいっすよ~」
     終始笑顔を浮かべてキジ猫をあやしているのは翠里。そんな彼女の傍をウロウロと歩きまわる蒼がチラチラと猫たちに視線を向ける。
    「ん? 蒼もいっしょに遊びたいっすか?」
     蒼の視線に気づいた翠里はポーンと毛糸玉を放り出した。
    「ニャッ!?」
     コロコロと転がっていく毛糸玉を見るや否や、タタタっと追いかけていくキジ猫たちに混じって蒼も毛糸玉を追いかける。
     猫たちと一緒になって毛糸玉で遊ぶ蒼を見つめ、翠里はニンマリと満足気に微笑んだ。
    「ほれほれ、こっちぞー?」
     エウロペアは着物の帯を器用に動かして猫の気を惹く作戦。
     だが、猫たちはチラっチラっと帯には好奇に満ちた視線を向けるものの、エウロペアが近づく素振りを見せただけでぱっと逃げる。
     今回もダメか、と肩を落としかけたその時、帯に惹かれてクロブチの子猫がエウロペアに近づいて来た。
    「ゥニャ!」
    「む、むむ? ……おぉ!」
     エウロペアが近寄っていっても子猫は気にする様子もなく遊び続けている。
    「この猫は近寄っても怒られぬぞ! 遊んでくれるぞい!」
     わぁい! と大はしゃぎのエウロペアが子猫と遊ぶ姿を横目にエイジアは陽だまりで猫たちに混じってひなたぼっこ。大きな体を丸めているその姿はまるで猫のようだ。
    「ん……気持ちいいね」
     ひなたでのんびりと寛ぐシロサバ猫をぎゅっと抱きしめ、司はほにゃりと相好を崩す。ゴロゴロと喉を鳴らして甘えるこの猫をお嫁に迎えたいという思いが司の頭をよぎるが、千代さんを寂しがらせてしまうかも、と考え直した。
    「みんなでこのままお昼寝、しようか……」
     目を閉じれば今すぐにでも夢の世界に行けそうな、幸せに満ちた時間がゆっくりと流れていく。ひなたぼっこ中の黒猫の毛繕いをしているミリアの背後からバリバリと爪を研ぐ音が聞こえてきた。
     爪とぎにされてボロボロになったダンボールに入り込んだ灰色の子猫の目の前に突如現れたネズミの玩具。
    「ニャゥ?」
     何だろう、と言いたげにテシテシと突く猫の前でネズミさんを動かすポンパドールはその可愛らしい仕草にデレデレ。
    (「わーかわいい! ねこかわいい! マジ天使!」)
    「ほーら、コッチ、コッチ……」
     ぶらんぶらーんと左右に動かしたかと思えば、今度はくぃくぃっと小刻みに上下に動かしてみたり。予測不能なネズミさんの動きに子猫は真剣な眼差しで捕獲を試みる。
     そんな子猫に夢中な主人から少し離れ、チャルはつまらなそうな顔で欠伸を一つ。
    「チャル? ……もしかして妬いてる?」
     ポンパドールは大切な相棒をぎゅっと抱きしめ、ゴメンな、と小さな声で呟いた。
     彼の気持ちが伝わったのか、チャルは黙ってムニッと目を閉じる。5月の柔らかな風に髭がそよそよと揺れた。

     気づけば夕刻。
     餌も遊びも心行くまで堪能した野良猫たちを見送る灼滅者たちの顔にも満足そうな笑みが浮かんでいる。
     ――もしかしたら、またあのコたちに会えるだろうか。
     そんな未来に思いを馳せつつ、一同は家路に着くのだった。

    作者:春風わかな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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