夏だ! プールだ! サメだ!

    作者:西灰三


    「こんな山の中のプールにサメなんか出るわけないじゃん」
    「そうだな、あはは!」
     その数分後プールは血で染まったという。
     

    「という感じのサメの都市伝説が現れるんだ」
     三行で状況説明をした有明・クロエ(高校生エクスブレイン・dn0027)が下敷きであおぎながら言う。
    「プールで遊んでいればそのうち出てくるから、遊びに行くついでに倒してきてよ」
     ぱたぱた。
    「で、このサメの都市伝説はそこそこ強いよ。噛み付き、体当たり、炎のブレスっていう基本の3点セットで攻撃してくるんだ」
     もっとも油断しなければ危なげなく倒せる相手だろうともいう。
    「とりあえず遊びに行くついでに倒してくれればいいよ、それじゃ行ってらっしゃい!」


    参加者
    佐藤・司(大学生ファイアブラッド・d00597)
    色射・緋頼(先を護るもの・d01617)
    ミリア・シェルテッド(キジトラ猫・d01735)
    大條・修太郎(一切合切は・d06271)
    虚牢・智夜(魔を秘めし輝きの獣・d28176)
    荒谷・耀(神薙ぐ翼の巫女・d31795)
    深夜白・樹(心は未だ薄氷の上・d32058)
    エメラル・フェプラス(エクスペンダブルズ・d32136)

    ■リプレイ


     山の中、周りは夏の光を取り込もうとする深い緑。それらを切り開いて出来た町の一角にプールがあった。人の動きによって現れる波は、強い日差しをきらりと跳ね返して目に入る。反射的に目を細めれば、その眩しさはどこへやら。賑やかに遊んでいる仲間達の姿が再び現れる。
     ミリア・シェルテッド(キジトラ猫・d01735)はプールサイドでちょこんと座りながらそんな様子で仲間達を見ていた。
    (「サメの都市伝説、ですか……。プールを血まみれにするなんて……」)
     内心彼女は怒っていた。だって肌見せる依頼なので、恥ずかしがり屋の彼女には少々荷が重かろう。
    「それにしても、何故こんな山奥でサメなんでしょうね」
     斬艦刀型の浮き輪をぷかぷか掴んでいる荒谷・耀(神薙ぐ翼の巫女・d31795)が空を見上げて言った。先ほどまでぱしゃぱしゃ動いていた足は今は水の中。深夜白・樹(心は未だ薄氷の上・d32058)もまた浮きながら話の内容に耳を傾けている。
    「私だったらもうちょっと山に居そうな……クマさんがしゃけ捕りに流れるプールに出た、みたいな?」
     それはただの腹ペコのクマさんが人里に降りてきただけではなかろうか。あと多分時期が違う。
    「はっはっは昔々山にいた事あんのは鯨だろー?」
     佐藤・司(大学生ファイアブラッド・d00597)の言うとおり確かに山鯨と呼ばれる生き物はいたりするのだが。あ、猪のことです。
    「でも、こんな海から遠いプールにサメがいるなんて都市伝説ですよ」
     ざっぱーんとプールに飛び込んでから色射・緋頼(先を護るもの・d01617)は言う。確かに都市伝説である。
    「うんうん。プールのサメなんてきっと、こういう浮き輪を見間違えたんだよね!」
    「なー出るわけないよなー」
     久しぶりの外ではしゃぐエメラル・フェプラス(エクスペンダブルズ・d32136)が浮き輪の鮫を掲げて、大條・修太郎(一切合切は・d06271)同じ様に近くに浮かんでいたものに手を置いた。
    「そうそうサメが山ん中のプールになんかいるわけ……いましたね!」
     司が修太郎の方を指さした。彼が手を置いた所ににょっきりと三角形のヒレが突き出ていた。
    「あああ出たあああ!?」
     突然の出現にビビりながらも即座にスレイヤーカードから力を取り出す。だがなんとなくなのだが出てくるまでの一同はなんか茶番を楽しんでいた雰囲気があった。
    「なるほど……そういう形の楽しみ方もあるのだな。ふむ、興味深い」
     格好つけながら虚牢・智夜(魔を秘めし輝きの獣・d28176)はスタイリッシュな犬かきで慌てて態勢を整えるためにプールの外へ出る。委細は気にしてはいけない。走行しているうちにのこぎりのような牙が彼らに迫る。


    「やだ、ほんとに出た!? こっち来ないで!」
     耀は慌てて逃げるように泳ぐ、付近にいた緋頼も共に飲み込もうと鮫が素早く近づいてくる。まるでそれはパニック映画のワンシーンのようだ。さすがにこのままではまずいと耀はスレイヤーカードを開放する、が。
    「ああっ!? これ水着コンの時の!?」
     ついでに武器の代わりに持っているのは変わらず斬艦刀型浮き輪である。とりあえず全力で振るってみるものの、鮫の牙にあえなく噛み付かれて空気が抜けていく。
    「うむ、奴の相手はこの我に任せよ」
     智夜が鮫と彼女たちの間に飛び込んで割り込み、相対する。突然の邪魔者に怒りを覚えたのか鮫は大きな口から炎を放つ。
    「もっと水属性っぽいの無かったん?」
    「炎のブレスって水の影響受けないのかね」
     司と修太郎は明らかに場違いな相手の能力について呟いた。まあ都市伝説だからトンチキなのは仕方ない。何はともあれ智夜に攻撃が向いている間に眠気から覚めた樹を筆頭に灼滅者達は攻撃を仕掛ける。
    「楽しいプールを台無しにしようとする場違いなサメは懲らしめなきゃですねっ」
     樹は智夜の回復をしがてら攻撃を放つがこれは少々狙いが甘い。もちろん集中してはいるのだが、同じ手癖の技では鮫にすら見切られる。
    「……ぷ、プールに出るなんて、許せません!」
     ミリアも立ち上がり水着姿で涙目になりながら戦闘に参加する。彼女は人一倍攻撃を受ける率の高い智夜をミリアが他の前衛と纏めて回復するが、その手段は霧を呼ぶしか無い。回復にも距離は考えなければ有効に使うのは難しい。
    「えいっ!」
     それでも回復は間に合っているとエメラルは十字架から光の砲弾を放ち鮫の横腹を狙う。
    「ささっと終わらしてしまいましょう」
     緋頼は銀の鋼糸で鮫の上顎と下顎を括る、これ以上その口で攻撃出来ないように。無手の耀は風の刃と鬼の腕で殴り倒していく。灼滅者たるもの武器が無くても普通に戦えるものである。
    「炎で負けてらんないからな」
     司は愛用の縛霊手に炎を纏わせて放つ。水の中でも力を損なわないサイキックの炎は都市伝説である鮫の身体を焼いていく。それでも辛うじて動こうとする鮫に緋頼の放った光の矢が突き立てられ、そのまま炎に焼かれて鮫は消滅していく。
    「こんがり焼きサメ……ってのは聞かんな……」
     塵も残さず消えていった様子を見て司は呟いた。


     プールサイドで浮き輪に乗った耀と足元だけを水につけている哉斗が会話している。
    「今回はどんな都市伝説だったんだ?」
    「えーっとですね……」
     二人が話していると耀の背後に三角形のヒレらしきものが水面に突き出ている。
    「ああいった感じの都市伝説でした」
     一目でそれが同じ【青春蒐集倶楽部】の佐祐理だと悟った二人は落ち着いて話を続ける。
    「――お疲れ様。無事で何より」
     耀に飲み物を渡して彼はプールを楽しんでいる灼滅者達を眺めた。彼の隣で耀は一つ呟いた。
    「他のみんなも誘って、また遊びに来たいですね」

    「樹さーん、受け取って!」
     【音楽遊所】のメンバーはボールを打ち上げて遊んでいた。結衣菜の打ち上げたボールが弧を描いて空を舞う。
    「おっとと、ぱ、パスでーすっ!」
     慌てて追いかけた樹が打ち上げれば、ふらふらと風に吹かれたボールが迷いながらエイナの方へと落ちていく。
    「よっ……と。響さんどうぞ」
     リラックスした様子でエイナは響にボールを回す。彼女の視線は響の方へと向き、向けられた響もまた落ち着いて返す。
    「5分経つとボールが追加されるから、ねー」
    「それくらい任せろー!」
     彼女からのボールを弾いて黒武は余裕げに言った。数分後自身の身に何が起こるのかを彼は理解していない。2つ、3つ、4つと増えていく度にそれぞれが慌ただしくなっていく。響が目配せすれば全員頷く。まあその意味を理解していないのが一人だけいるが。エイナが緩やかにボールを打ち上げれば、結衣菜が思い切りスパイクボールを黒武に叩きつける。
    「ごっ……!?」
    「女の子に囲まれて埋まるのは幸せって言ってたから、喜んでくれるわね♪」
     彼女が言うと同時に一斉に勢いの乗ったボールが彼に襲いかかる。
    「ちょ、おまっ!?数が、速度が!マジやべぇって!ちょ、マッテェリァアアアル!?」
    「てやーっ!」
    「あたーっく!」
    「ち、ちょっと黒武さんにはごめんなさいですけど、このびっぐうぇーぶにのらなくてはっ!」
     ……数分後黒武は水の上に浮かんでいた。ハーレムバッドエンドである。

    「な、な…なんじゃこりゃ! 尻! 丸! 見え!」
    「あら、褌じゃないの?クラブで話題になった、褌に」
    「そりゃね長い褌はサメ除けにどうのこうの聞いた気はするけどね。どうして俺を褌男子にしようとするのだ」
     司が戦闘中から着用していたのは尻の所にかじり取られたような穴の空いた水着であった。他の灼滅者から何も言われなかったのは優しさに違いない。櫂と朔之助によって今無意味になったけど。
    「何故嫌がるかって? 恥ずかしいからに決まってるでしょ! いいから泳げ!」
    「……その水着もまた何とも言えず……いや何でもない」
     笑いを噛み殺す葵と彼の姿を写真に収める冬崖である。司に急かされた【宵空】の面々はプールに入っていく。
    「………」
     朔之助が浮き輪に身を預けて水の揺らぎに身を任せてのんびり羽を休めていた。その彼女の死角から迫る影が二つ。
    「……!?」
    「あー気付かれちゃったカー」
     司は棒読みで返す。
    「なっ浮き輪の空気を……!」
     彼女が怒号を放つよりも早く、もうひとつの影が彼女の目の前に飛び出す。葵だ。
    「えいっ!」
    「おまっ……急に卑怯なり……」
     そのまま3人は水の掛け合いになる。その様子を少し離れた所で櫂と冬崖が眺めていた。
    「行かなくていいの?」
    「女一人に男三人はちょっとな」
    「そう、私はこっちにいてくれる方が嬉しいけれど」
     ふふと彼女が笑えば冬崖は目をつぶる。
    「それにしても暑ィ夏の日にこのプールの水がすげぇ気持ちいいわ」
    「でも汗もかいてるから、水分補給も大事よ? 飲む?」
     彼女たちが静かに過ごしている間、残る三人はジュースを賭けてレースを開始していた。

     ミリアはそっと手でプールの水をすくった。周りの喧騒とは離れた所でのその姿はまるで子猫のようであった。風が吹き彼女は目を細めた。


    「はー、のんびりとした空間が心地いいですねー……」
     エメラルのサメ型の浮き輪に、彼女と一緒に捕まってルーナは呟いた。弛緩した身体は水に浮いており、二人して寝そべっているようだ。
    「ルーナと一緒に二人でお出かけは初めてだね! 誘って大丈夫だった?」
     ちょっとだけエメラルらしくない、不安混じりの笑顔で問いかける。そこから何かを汲み取ったのかルーナはニカッと歯を見せて笑った。
    「勿論ですよー! 遊びならいつでも大歓迎って感じです! 色々サボる口実……いえ、息抜きにもなりますからね!!」
    「良かった! ボクもね、一緒に過ごすのは大歓迎だからね、なにか楽しそうなことあったらまた遊びに行こうね!」
     エメラルも同じように笑顔を見せる、先程までの不安げな様子は何処へやら。
    「ふむ、でしたら今度はこちらからお誘いしちゃいましょうか! エメラルさんどこか好みの場所とかあります? ばっちり調べてきちゃいますから!」
     そう言ったルーナとエメラルはその場で浮きながら何が良い、どこが良いと話を弾ませる。そんな風にして楽しげな時間は過ぎていく。

    「お誘い有難うございました」
    「何、気にせずとも良い。我としても丁度良い(遊びの)機会だったのでな」
     なお括弧の中の言葉は音となっていない。智夜の発言に対して透歌は少し考える素振りを見せてから口を開いた。
    「丁度良い機会、ですか」
    「うむ。(遊び相手と)共に過ごしたいと、思っていた」
     繰り返すが括弧の中は発言されていない。
    「……そうですか。……以前も、お誘い頂いた事があるので予測なのですが……」
     彼女の言葉にはどこか険が滲んでいる、ような気がする。
    「その『丁度良い』『共に過ごしたい』は、あれですよね。遊び相手としてとか、そのような感じで?」
    「? うむ。遊び相手だ。どうかしたか? ……おお、そうだ。折角の機会故ここはひとつ競争でもどう」
    「フリージングデス」
    「……待て、どうした。寒いぞ、我の周り凍ってる、ちょっと、透」
    「フリージングデス」
    「待って。ごめん、どうかした? ねぇ、ちょ」
    「フリージングデス」
     完全に動きの止まった智夜を前に透歌は息を吐いた。
    「……誘われた時からこの展開は薄々読めてはいましたが、だからといって加減する理由にはなり得ないのですよ」

    「おまたせ」
    「サメ退治おつかれさまー」
     修太郎は郁と落ち合う、郁は戦いから帰ってきたばかりの彼の視線に気付く。二人はやり取りしながらプールへと入る。
    「……まじまじ見られるとなんか居心地悪いどっかヘンですか」
    「好きな人の水着姿って違うよね、他の人ととは……ってうわちょっそんな恥ずかしがらなくてもいいじゃないかー」
     郁が恥ずかしさを隠すように修太郎に水をかける。そんな風にはしゃいでいると疲れたのか修太郎は浮き輪に身を任せて座るように浮かぶ。そんな彼の横顔を郁は間近で覗き込む。対する修太郎も何かと顔を寄せる。
    「うん? 何?」
    「眼鏡ないけどコンタクト? 違う?」
    「……水中でコンタクトはちょっと勇気が必要かなあ……」
    「見えてるの?」
    「眼鏡無くてもぼんやりとは見えるんだよ」
    「そうなんだ」
     そう言って郁は彼のその何も遮るもののない瞳を見つめる。修太郎も返す瞳で見返す。しばらく見つめ合ったあと先に目を瞬いのは郁の方だった。
    「えーっと?」
    「大篠くんの素顔を他の人より多く見れるのが嬉しいなって」
     そう言われて言葉に詰まった彼は飲み物でも飲もうかと手をとってプールから上がる。アームフロートや泳ぎ方、炭酸飲料の好き好きなどをラムネ片手に話題に上げる。修太郎は隣の彼女に次の話を始める。
    「あのさ。来年も良かったら、一緒にプールに行かない? 来年でなくても、来週でも、海でもいいけどね!」
     彼の言葉を郁は微笑みを浮かべて受け取った。

     緋頼と白焔が同時にプールへと飛び込む。
    「偶には勝負でもどうだ。……負けたら上がってからジュース買ってくるとか。それくらいでどうだ」
    「……負けないからね」
     そうして始まった二人の競泳は本気での戦いとなった。水を切る腕が、水を蹴る脚が力強く動く。双方とも互いに譲る気はなく全力で挑み合う。そして。
    「……勝ったか」
     白焔が振り返れば緋頼が悔しそうな表情で見ていた。買ってくるものの注文をつけると彼女はため息を付いて自販機へと歩いて行く。その背中に白焔は少しばかり見とれる。彼女に気付かれる前に近くの椅子に腰掛けたが。
    「はい、賞品」
    「ああ」
     白焔も自分の分を買ってきていたのか彼の隣に座る。
    「あのさ、臨海学校でも時間あったらデートしよう」
    「……今年も平和にはなりそうにない気がするな。ああ、でもデートは良いな。時間を取れたら是非」
     賞品のジュースで喉を潤す二人は、残る夏休みの計画を立て始める。なにせまだ半分ばかりあるのだ。長い夏は、まだ終わらない。

    作者:西灰三 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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