朱雀門襲撃~ロード・パラジウム

    作者:長野聖夜

    ●楽しい休日を過ごす為に
     夏も過ぎ去りかけ、少しずつ、涼しくなりつつある今日この頃。
    「ロード・クロムは気に食わないけれど、研究結果を私に回してくれるのなら文句はないわ」
     軽く鼻歌を交えながらロード・パラジウムが呟き、傍に控えていた少女に声を掛ける。
    「いい? 今度の金曜日は久しぶりの休日なの。ネイルアートに行った後、クルーザークルージングを楽しむつもりだから、手配しておいて頂戴」
    「畏まりました。ロード・パラジウム」
     深々と頭を垂れ、休日の手配を取りに出かけて行く、少女をロード・パラジウムは、上機嫌のまま、見送る。
    「どうせだったら、クルージングはラゴウと一緒に行けたらよかったのだけれども。まあ、その日は忙しいならしょうがないわね」
     少しだけ残念そうにしながらも、ウキウキと歌を口ずさみながら、ロード・パラジウムは、次の休日に向けた準備に勤しむ。

     ――その手配を終えた後、ASY六六六であるその少女が、人知れず姿を消したことを知る由もなく。

    ●女王様のちょっと贅沢な休日
    「皆が芦屋の調査を必死でやってくれたお蔭で、1つの光明が見えて来たよ」
     北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230) が、自分の周囲に集まって来た灼滅者達のそれぞれと目線を合わせながら、珍しく少しだけ興奮した様子で矢継ぎ早に続ける。
    「朱雀門のロード・パラジウム。次の彼女の休日のスケジュールが判明したんだ」
     優希斗の宣言に灼滅者達はそれぞれに顔を見合わせる。
     そんな灼滅者達に優希斗は苦笑を零しつつ、小さく告げた。
    「ロード・パラジウムが、1人で休日を過ごすことが分かったってことだ。今回、彼女が予定している休日の過ごし方の中で、襲撃できるタイミングは主として2箇所。ネイルアートをしている時と、クルーザークルージングをしている時みたいだ。それ以外にも一応チャンスはあるみたいだけれど……逃げられやすい状況にあるみたいでね」
     ネイルアートが行われる店は、とある3階建のビルの1階にあり、それなりに広い。
     また、広い交通道路に入口が面しており、かなりの人気店なのだそうだ。
     その為、ロード・パラジウム以外の客もかなりいる。
    「要するに、人が多いってことだね」
     となると、それに紛れ込んで逃げられたり、一般人に被害が出る可能性が高い。
     一方、クルーザークルージングは、大阪湾で行われている。
     そこで、17時過ぎからクルージングを楽しみ、20時頃には戻って来るらしい。
     クルーザーは平日ということもあり、ロード・パラジウム以外の乗客は少ないそうだが……。
    「まあ、船の上での戦いになる以上、帰りに大変なことになる可能性はそこそこあるだろうな、と思っている。それも踏まえた上で……どうするか、考えて欲しい」
     優希斗の呟きに、灼滅者たちはそれぞれに首を縦に振った。

    ●戦力分析
    「ロード・パラジウムは、皆が邪魔さえしなければ、予定通りに休日を楽しむつもりだ。だから、どのタイミングで襲撃をするのか、どうやって襲撃するのかは皆で考えて欲しい」
     ロード・パラジウムは、デモノイドと天星弓のサイキックを中心に使用するだろう、と優希斗が続けた。
    「彼女は、配下であるデモノイドと引き離されている。だから、皆に包囲されて勝ち目がない、と判断すれば逃走しようと試みるだろう。最も……傲慢だから、自分が有利と思っている間は、逃走しようとしないと思うけど」
     ここを上手く利用出来れば、彼女を灼滅に追い込むことが可能になる。
     今回、彼女を灼滅に追い込むポイントはそこになるだろう、と優希斗は小さく首を一つ縦に振った。

    ●微かな疑問
    「……今回は、ロード・パラジウムを灼滅できる絶好のチャンスだ。だから……無理はして欲しくないけれど、何かあれば、俺が必ず君達を見つけ出す覚悟でいる。ただ……」
     集まった灼滅者達に告げたところで、優希斗が微かに眉を顰めた。
    「……ロード・パラジウムが俺達が彼女を襲撃する可能性があることを知らないと言うことは……俺の中で少しだけしこりになっている。ASY六六六の手配で、休日を過ごすと言うのも、どこか違和感があるし、配下のデモノイドと一緒にいないタイミングで俺達が襲撃できる状況も出来過ぎだ。……もしかしたら、なんらかの陰謀があるのかも知れないな……気を付けて」
     優希斗の見送りに、灼滅者達はそれぞれの表情で頷き、静かにその場を後にした。


    参加者
    忍長・玉緒(しのぶる衝動・d02774)
    リーリャ・ドラグノフ(イディナローク・d02794)
    アレクサンダー・ガーシュウィン(カツヲライダータタキ・d07392)
    虹真・美夜(紅蝕・d10062)
    セレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444)
    白石・めぐみ(ハイドレンジア・d20817)
    芥生・優生(探シ人来タラズ・d30127)
    水本・小夜子(藍乃宙・d33172)

    ■リプレイ


     17時35分……。
     船がゆっくりと沖に向かって出港する。
    「……いたわね」
     忍長・玉緒(しのぶる衝動・d02774) の言葉に、共に行動していたリーリャ・ドラグノフ(イディナローク・d02794) が小さく頷き、甲板で夕食前に軽く風に当たっているパラジウムと目を合わせぬ様に監視を続けていた。
    「ここまであっさりと潜入できる段階で、どう考えても第3勢力の思惑を感じるわね」
    「例え、それでもです」
     変装し、さりげなく甲板の様子を見る、玉緒たち。
     他の仲間達も其々の持ち場に着く為に、今頃船の中を各々確認していることだろう。
     彼女たちの緊張を他所に、船は穏やかな立ち上がりで、沖に向かって行く。
     10分程して、沖の方にまで出てきた辺りで、気取られぬよう、さりげなく監視をしていた2人に気づく様子も見せずに、パラジウムは、身を翻し、船内へと戻ろうとする。
     玉緒がさりげなく影を作り、それに隠れるようにして、リーリャが船内の避難経路を確認している水本・小夜子(藍乃宙・d33172) へと連絡を入れた。
    「凄い綺麗な方がそっちに行きました」
    「! ……こっちはレストランの方なら人もいなさそうなの」
    「……他に、変な奴は見当たらねぇなぁ」
    「此方も、異常なしだ」
     芥生・優生(探シ人来タラズ・d30127) のさりげない声の他に、玉緒のインカムの方からは、アレクサンダー・ガーシュウィン(カツヲライダータタキ・d07392) からの連絡が入り、2人は目線だけで合図を交わす。
     船の構造は大体把握している。救命ボードもここにある。
     となると、後は一般人をまとめて避難させ、先に脱出させてしまえば何とかなるだろう。
     
     ――かくして、決戦の舞台は整った。


    「! 灼滅者達……ですわね!」
    「はい、そうです。あの時の借りを返しに来ました」
     18時頃。
     最低限の処置をした後、レストランに集い、パラジウムを囲う様に包囲網を作り上げて、静かに礼をしたのは、セレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444) 。
     セレスティの姿に、見覚えがあったのか、パラジウムはほんの少しだけ目を細める。
    「……そうですわね。あなたは、あの時、私の邪魔をした灼滅者。まあ、いいですわ。さっさと決着をつけてあげますわ!」
     言うが早いか、その手に光を集めて矢を形成し、凄まじい速さで撃ち出すパラジウム。
     とっさの反応が遅れたが、白石・めぐみ(ハイドレンジア・d20817) が飛び出し攻撃を受けた。
     貫かれた肉の焼け焦げる匂いが、周囲に満ちるのに、めぐみは軽く体が震えるのを感じる。
     ――痛い。
     痛いのは怖い。戦うのも怖い。
     でもそれ以上に誰かを殺すのが、恐い。
     それでも……。
    「負ける訳にはいかないんです!」
     リーリャにソーサルガーダーを掛けながら叫ぶめぐみ。
     支援を受けたリーリャは星屑を纏った蹴りを叩き付けようとするが、其れは軽く片腕で弾かれる。
     その間にアレクサンダーがキャリバーに騎乗し、ガトリングを連射させつつクルセイドスラッシュを放ち、自らを聖戦士化させた。
    「kill me if you can. 逃がさないってなぁ」
     スレイヤーカードを起動させながら、優生がレクイエムの旋律を歌う十字架砲を放つ。
     避け切れず腕を変化させた鞭で其れを弾き返すパラジウムに、玉緒が、音も無く接近してその動きを鈍らせるために急所を切り裂き、更に虹真・美夜(紅蝕・d10062) が幻狼銀爪撃。
    「ねぇ、あんた。赤い髪と目の紅魔ってヴァンパイア知らない?」
    「なんのことかさっぱりですわね!」
     ヒット&アウェイで素早くバックステップをしながら問いかける美夜に軽く答えて、パラジウムは光の鞭を振るう。
     鞭はまだ守りが完成していなかっためぐみの首に絡みつこうとするが、其れよりも先に、小夜子の使い魔であるねこさまが前に立ちはだかり、代わりにきつく締めあげられた。
     絡めとられた鞭を咄嗟に引く様子を見つめながら、小夜子が声を張り上げる。
    「直ぐに此処から逃げて!」
     シェフや、僅かに残っていた人々が彼女の叫びに一瞬動きを止め、小夜子に命じられるままに、甲板への避難を急ぐ。
     これで後背の憂いを断つことは成功するだろう。
     一般人の避難を妨げられぬよう、他の灼滅者達が次々に攻撃を仕掛けていく。
     パラジウムの俊敏性に翻弄されながら。
     ――とは言え、その全てが全力と言う訳ではなかったのだが……。
    「あら? 灼滅者達の力何て所詮そんなものでしたかしら?!」
     威圧的に、挑発的にそう叫び、天井に向けて光の弓を構え、射るパラジウム。
     撃ち出された矢が無数の光の礫へと変貌を遂げ、アレクサンダー達前衛に降り注いだ。
    「くぅ、流石にやる……!」
     コートの上から皮膚を焼かれるような痛みを覚え、苦痛に顔を歪めながらも、炎を纏った激しい蹴りを叩き付けるリーリャ。
     援護する様に、セレスティがスカートのベルトを射出してパラジウムの腕を絡め取り、締め上げる。
    「今回楽々と襲撃できましたけど、何か心当たりはあったりします?」
    「それはアンタ達の方が良く分かっているのではありませんこと?」
     セレスティの問いかけを一蹴し、ベルトで逆に自分の方へと彼女を引き寄せ、手痛い一撃を与えようとするパラジウム。
     咄嗟にベルトを引きもどすセレスティに向かって放たれた刃の斬撃から、みずたまが彼女を守る一方、衝撃で窓が割れたのを目の端に留めながら、スキップジャックに跨ったアレクサンダーが爆走音を力に変え、スキップジャックと共に強烈な体当たりを叩き付けた。
     踏鞴を踏むパラジウムに、美夜が星屑を纏った踵落としを決め、更に玉緒の影が、パラジウムを喰らわんと襲い掛かる。
     連続されたその攻撃を弓と鞭で迎撃するパラジウムの懐に飛び込み、変則的な攻撃で体を抉り取る様に切り裂く優生。
    「少しはやりますのね! でも……私を倒すには力不足ですわ!」
    「たとえ力不足でも、私達は絶対に負けないの!」
     少々時間をかけて人々の安全を確保した小夜子が戻ってきて仲間を癒しながら宣言すると、パラジウムはほくそ笑んだ。


     それから、十数分の時間が経ち……。
    「く、流石に厳しいみたいね!」
     美夜が苦しげに呟きながら、仲間達の傷を癒す。
     他の灼滅者達も、相手の動きが鈍くなった隙をつきつつ、敢えて見切られそうになる攻撃や、余裕を持った回復を心がける様になる。
     それは、半分演技で、半分本気だった。
     パラジウムに自分が不利であることを悟られてはならない。その為の手段としての、演技。
     ただ……其れは、命がけの演技だ。
     自らの体に矢を撃ち込み、傷を癒すパラジウムに、アレクサンダーが接近して、神霊剣を放ち、その身を包む光を打ち消せば、聖歌を奏でながら優生の十字架砲が放たれる。
     辛うじてパラジウムがそれを避けると、彼は軽く舌打ちを交えて悔しげな表情を作った。
     何処か動きに精彩さを欠く様になった灼滅者達に、僅かな疑念を感じつつも、苦痛に顔を歪める少年・少女達の姿に加虐心を煽られ、パラジウムは嘲笑う。
    「あらあらどうしたのですわ! まさか、もう終わりってことはないですわよね?」
    「くっ……この位でやられたりはしないわ!」
     肩で息をつきつつ、玉緒がセレスティの一撃を身を引いて躱したパラジウムの死角から懐に飛び込みティアーズリッパー。
     小夜子も、幾度かその身を矢に貫かれながらも、少しでも戦線を維持するため、仲間たちの傷を癒している。
     ――自分が一番足手まといなのは分かっているの……!
     でも……だからこそ、意地で倒れられない。
     玉緒と入れ替わる様に接近して、十字架による猛打を浴びせかける優生の姿を見ながら、彼女は思う。
     必死の彼女たちの姿に、パラジウムは残酷な笑みを浮かべた。
    「どうしたのかしら!この程度で、私を倒せると思ったら、おこがましいにもほどがありますわ!」
    「……あぅ!」
     放たれた鞭に強かに膝頭を打ち据えられ膝をつくめぐみ。
     演技のつもりだったが、疲労から来る一瞬の眩暈が、其れを演技ではなくしてしまう。
     その隙を逃さずパラジウムが追撃を掛けようとしたその時、ねこさまが庇い消滅する。
    「ねこさま!」
     悔しげに叫ぶ小夜子。
    「くそっ! やってくれるじゃないか!」
     やや本気で舌打ちをしながら美夜が接近し、足払いを掛けようとするが、余裕に満ちた表情でその攻撃を躱すパラジウム。
     だが、続いたスキップジャックの銃口が焼け焦げよ、とばかりに撃ち出された弾丸がパラジウムの体を傷つける。
     更にアレクサンダーが接近してクルセイドスラッシュ。
     度重なるバッドステータスの効果もあり、その一撃は的確にパラジウムを捕え、袈裟懸けに切り裂かれた彼女から鮮血が飛び散った。
    「この位で倒れたりはしないですわ!」
    「まだです……!」
     舌打ちするパラジウムにセレスティがハイウェストスカートの端を切り裂かれながら螺穿槍による捻りを加えた一撃を放ち腹部を貫き、みずたまが追撃を掛けると、流石のパラジウムも苦痛からか、僅かに焦った様子で叫ぶ。
    「く……調子に乗るんじゃないですわ!」
    「あう!」
     振り下ろされた鞭に肩を強打され、やや大袈裟に仰け反りながら後退するセレスティの脇を抜けて、回復を拒んでいた傷だらけのリーリャがサイキックエナジーを籠めた弾丸を撃ち込んだ。
     貫かれ、穿たれた傷を受けていた其の腹部に弾丸が叩き込まれ、浅く無い一撃を与えたはずだが、パラジウムは意に介する様子もなく、光の矢を撃ち出す。
    「倒れなさいですわ!」
    「くっ……!」
     回復していたが、直撃したその一撃にドゥ、と音を立ててリーリャが倒れた。
    「リーリャ!」
     咄嗟に小夜子が治癒を施そうとすると……。
    「そうはいきませんわよ!」
     勢いに乗ったパラジウムが立て続けに矢を放ち、其れに貫かれ小夜子も倒れる。 
     だが……パラジウムの負傷もまた、相当な所までに達していた。


     ――18時30分。
    「此処まで強くなっているとは思いませんでしたわ……。でも、今ならまだ逃げられるはず!」
     ねこさまに続いてリーリャが倒れ、スキップジャックも消滅し、崩れかけている包囲網を突破しようとする、傷だらけのパラジウム。
     ……その時、めぐみの中でとある光景が脳裏を過った。
     ――初めて会った時、きれいな人だな、と思った。
     自信に溢れて、真っ直ぐで、恋をしているみたいで。
    「……わたしも少しは強くなれた、かな」
     誰に聞かれるでもなく、ただ、自分に言い聞かせる様に呟くと同時に。
     全身を返り血と自分の血で朱に染めためぐみが一気に肉薄し、リーリャが倒れて崩れた包囲網を無理矢理埋める。
     只事ならぬめぐみの気配に、パラジウムの表情に、初めて怖れと震えが過った。
    「くぅ……この力……! まさか、闇堕ちですの!?」
    「絶対に逃がさないんだから!」
     自らに宿るタタリガミにその身を委ねためぐみがみずたまと共に絶え間ない攻撃を加えるのに後れを取らぬよう、玉緒がタイミングを合わせて黒死斬でその身を深々と切り裂いた。
     すかさず美夜が接近し、十字架を振るって滅多打ちにし。
     アレクサンダーが、クルセイドスラッシュで逆袈裟に切り裂き。
     玉緒が、アレクサンダーの影から飛び出し、急所を抉り取るように脚の腱を断ち切った。
     ほんの刹那の間に完全攻勢に出た灼滅者達の攻撃を捌き切れず、パラジウムが焦りの悲鳴を上げた。
    「! まさか、これ程までの力を秘めていたとは……!」
    「秘めていたんじゃない! 何時か貴方を越える為に、私達はずっと力をつけて来ていたんです!」
     セレスティが叫び、月杖フィアーネに蓄えた力を暴発させると、胸に叩き付けられた爆発に、パラジウムが大きく仰け反った。
     それでも尚、脱出しようとするパラジウムの背後に音も無く姿を現したのは、優生。
    「めぐみが言っただろう、俺達は絶対に逃がさないってなぁ」
     超至近距離から、まるで、彼女の弔いの様に流れる鎮魂曲と共に白く光り輝く砲撃を撃ち込まれ、パラジウムは、2,3歩前のめる様に倒れる。
     明らかに致命傷だった。
    「くっ……副会長……油断しておりましたわ……ですが……せめて、一矢報いて……終わりにしますわ……どうか、私の最期をご照覧あれ……!」
     殆ど灼滅者達の耳に届くか届かないかの小声で呻く様に呟きながら、パラジウムは、最期の力を籠めてその弓を地面に向ける。
    「! やらせないわ!」
     玉緒が其れを止めようと、咄嗟に攻撃を仕掛けるが、ほんの僅かに遅い。
     光の矢が長い戦いの中で少なからぬ損害を被っていた床を易々と貫き、あっ、と言う間に船底を貫き通した。
     激しい衝撃がクルーザーを襲い、灼滅者達は思わず手近の者に掴まり、ある者は倒れている者達を案じて覆いかぶさる。
     衝撃に身動きを取れぬ彼等の姿は、死の間際にあったパラジウムの嗜虐心を、ほんの少しだけ満足させたが……その激しい衝撃に耐えきれず、そのまま壊れた窓から湾の方へその身を放り出される。
    「ラゴウ……」
     そう、最期の一言を呟きながら。


    「くっ……やっぱりこうなったか!」
     船の外に投げ出されそのまま消滅したパラジウムを見送る間もなく、美夜が忌々しげに舌打ちを一つ。
     周囲を見回せば、めぐみが何時の間にか姿を消していた。
     先程から続いている衝撃で船から放り出されたか、それともパラジウムの止めを確認する為に後を追ったか。
     無事であることを信じながら、美夜が再度周囲を見回し、近くに倒れていた小夜子を拾う。
     浸水しつつある船から脱出する為に、仲間に呼びかけると、傷だらけになりながらも立っているアレクサンダーがリーリャを抱え、玉緒や、セレスティも何とか美夜の呼び掛けに答えてくれた。
    「こっちだねぇ」
     優生の指示に従い、灼滅者達は何とか浸水を免れる為、何とか甲板へと上がっていく。
     戦場が船室であり、一般人たちを予め逃がせていたのは行幸だった。
     救命ボードは甲板に用意されている。
     だからこそ、灼滅者達は、突然の浸水に混乱していた人々を何とか宥め、まとめ、そして甲板から救命ボードを複数下ろし、脱出に成功した。
    「なんとかなったのでしょうか……?」
    「いいや、まだであろう。まだ……残っている課題が一つある」
     セレスティの呟きに、アレクサンダーが淡々と答えるのに、他の灼滅者達もそれに頷く。
     
     ――あの時、優希斗は言った。必ず、皆を『見つけ出す』覚悟でいると。
     だから……彼等は、一般人たちの救助を入り江から来る人々に任せ、脱出した救命ボードで静かにこの場を去り、武蔵坂学園へと帰投する。

     ――パラジウム灼滅の報を伝えた上で……行方を晦ましためぐみを見つけ出し、彼女との再会を果たす為に。

    作者:長野聖夜 重傷:リーリャ・ドラグノフ(イディナローク・d02794) 水本・小夜子(藍乃宙・d33172) 
    死亡:なし
    闇堕ち:白石・めぐみ(ハイドレンジア・d20817) 
    種類:
    公開:2015年9月10日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 15/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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