朱雀門襲撃~竜種ファフニール

    作者:J九郎

     戸隠山の山懐に抱かれた霊場、戸隠神社。今、その戸隠神社で、原因不明の連続的な震動が多発していた。地震にしては長く、そして局地的なその揺れは、どうやら戸隠神社の最奥部にある、九頭龍社を中心に発生しているようであった。
     だがそれが、九頭龍社の奥に穿たれた洞窟に潜む、竜種イフリートの首魁・ファフニールによるものとは、誰も知る由もない。
    「卑小なる灼滅者共に配下の竜種達が次々と灼滅されているというのに、ここを動けぬとは、もどかしいものだ」
     赤銅色の鱗に覆われた巨体が唸るたびに、大地が鳴動する。
     できることならば自ら動きたいところであるが、自身の存在の影響力を考えると、それもままならない。その事実が、ファフニールをますます苛つかせているのだった。
    「問題は、なぜ俺の配下ばかりが狙われているかということだ。ASY六六六の者共め、報告が遅すぎるのではないか」
     苛立つファフニールの口元から炎が漏れ出て、薄暗い洞窟内を赤く染め上げた。
     
    「嗚呼、サイキックアブソーバーの声が聞こえる……。竜種イフリートの首魁・ファフニールの居場所が判明したと」
     集まった灼滅者達に、神堂・妖(目隠れエクスブレイン・dn0137)はいつになく真剣な声でそう告げた。
    「……みんなも、竜種イフリートの潜む洞窟に一般人が迷い込む事件が多発してたのは知ってると思う」
     その事件の背景を探るべく、芦屋の調査をしていた灼滅者達のおかげでASY六六六の拠点が判明したのだという。そして、そこに残された資料を精査したところ、ASY六六六が支援していた朱雀門の幹部達の情報を得ることができたのだ。
    「……残念ながらASY六六六は危険を察知して芦屋から撤退した後だったけど。……でもこれで、竜種イフリートのファフニール、義の犬士・ラゴウ、ロード・パラジウムという3体の有力なダークネスの居場所を掴むことが出来た」
     そして今なら、彼らに対して強襲を仕掛けることが出来るはずだと、妖は言う。
    「……そこでみんなには、ファフニールが潜んでいる戸隠神社に向かってもらいたいの」
     ファフニールは配下の竜種イフリートが次々と灼滅されたことで、その原因の調査をASY六六六に行わせていたようだ。
    「……だから、ファフニールに情報を伝えに行くASY六六六の人間のように振る舞えば、ファフニールの洞窟に難なく乗り込む事ができるはず」
     とはいえ、あまり大人数で行っては不審を抱かれ強襲が成立しなくなってしまう。この作戦に参加できるのは、8人が限度だと、妖は告げた。
    「……ファフニールが潜んでいるのは戸隠神社にある九頭龍社の奥に作られた洞窟の中。……洞窟の形状的に、ファフニールが撤退するのは難しく、逆にこちらは逃げようと思えばいつでも逃げられる」
     加えて、洞窟内であれば周囲の被害を気にせずに戦闘に集中できるだろう。
    「……とはいえ、ファフニールは強大な竜種イフリート。本来なら8人でどうにかできる相手じゃない」
     ファフニールの主な攻撃手段は、口から吐き出す超高温の炎と長い尾による薙ぎ払い、そして鋭い爪による一撃だ。さらに、その咆吼は大地を震動させて局所的な地震を引き起こすことも出来るという。
    「……でも、ファフニールが油断している所を奇襲できれば、勝機はあるはず。……ファフニールを灼滅できる可能性は決して高くないけど、絶好の機会であるのは間違いない」
     それからと、妖は付け加える。
    「……現時点で、芦屋を撤退したASY六六六や、朱雀門高校がファフニールに接触する事は無いみたい。これは、こちらから見れば好都合だけど……」
     妖は、少し思い悩んだ様子を見せた後、再び口を開いた。
    「……この先は、予知とは関係ない私の見解。……竜種イフリートの洞窟に一般人が送り込まれた事件も含めて、今回の件は何者かが、竜種ファフニールを始末しようと画策した陰謀じゃないかって気がするの。……状況によっては、ファフニールと戦わずに済む道もあるのかも知れない」
     とはいえ、最終的な判断は現場の灼滅者達に委ねられることになる。
    「……何が最善か、よく考えて行動して。そして、決して無茶はしないで」
     最後にそう言って、妖は灼滅者達を送り出したのだった。


    参加者
    不知火・響哉(紅蓮の焔・d02610)
    音鳴・昴(ダウンビート・d03592)
    川西・楽多(ウォッチドッグ・d03773)
    戒道・蔵乃祐(グリーディロアー・d06549)
    閃光院・クリスティーナ(閃光淑女メイデンフラッシュ・d07122)
    シグマ・コード(フォーマットメモリー・d18226)
    クロード・リガルディ(柘榴石と約束と・d21812)
    炎道・極志(可燃性・d25257)

    ■リプレイ

    ●接触
     戸隠神社にある九頭龍社の奥に穿たれた洞窟の奥で、竜種ファフニールがおもむろに首をもたげた。何者かが洞窟に入り込んだのを、敏感に感じ取ったのだ。それも、複数。
    「ようやく来たか、ASY六六六の者共め」
     この洞窟の存在を知るのは、ラゴウなど少数の朱雀門関係者を除けば、ASY六六六の連絡員だけだ。ファフニールが相手をASY六六六と判断したのも、当然だろう。
     やがて、現れたのは8人の若い男女だった。以前ここを訪れたASY六六六の人間とは別人のような気もしたが、ファフニールは人間の顔など一々覚えてはいない。
    「ご機嫌いかがでしょうかファフニール様。竜種イフリート洞窟事件の報告書をお持ちしました」
     先頭に立っていた炎道・極志(可燃性・d25257)が恭しく頭を下げ、それに倣うように残る7人も礼をする。
    「ふん、機嫌がよいものか。報告があまりに遅すぎる」
     ファフニールの巨大な顎から、彼の苛立ちを表すかのように炎が漏れ出した。
    (「これがファフニール……西洋の伝説の竜と同じ名前だが、どんな実力があるのか楽しみだな」)
     極志は内心で興奮しながらも、表向きはへりくだった態度を崩さない。
    「これは申し訳ありません。実はその件に関しましては『残念ながら』……」
     極志が報告に織り交ぜて『残念ながら』という合言葉を口にした時。川西・楽多(ウォッチドッグ・d03773)が、袖口に隠し持っていたリモコンのスイッチを押した。次の瞬間、巨大な破裂音が洞窟内に響き渡る。ファフニールに気付かれないようにセットしておいた音楽プレーヤーが、最大の音量で鳴り響いたのだ。
    「なんだ、この音は!?」
     ファフニールの気が逸れたのは、ほんの刹那のことだった。だがその一瞬を、灼滅者達は逃さない。
    「始めから全力でいきます」
     楽多は瞬時にスレイヤーカードからバベルブレイカーを解放すると、ファフニールの胴体へ杭を打ち出した。高速回転する杭は鋼の如き硬度を誇る赤銅色の鱗をも撃ち貫く。
    「いくぜ、ましろ!」
     ほぼ同時に、音鳴・昴(ダウンビート・d03592)はスレイヤーカードに封印していた霊犬のましろを解放。顕現したましろは高々と飛び上がり、口に咥えた斬魔刀でファフニールの眉間に一撃を加える。昴自身はローラーダッシュでファフニールに肉薄すると、摩擦熱で炎を吹き上げる蹴りを、その喉元に叩き込んだ。
    「今の内に、動きを封じさせてもらう!」
     不知火・響哉(紅蓮の焔・d02610)の影から放たれた無数の触手がファフニールに絡みつけば、
    「卑怯な真似かも知れないが、今は仕方ない」
     いつの間にかファフニールの足下に回り込んでいたシグマ・コード(フォーマットメモリー・d18226)は、その脚に深々と切りつける。
    「ぐうっ……」
     流れるような連続攻撃に、ファフニールの巨体が揺らいだ。
    「まだまだ、終わらないぞ……」
     クロード・リガルディ(柘榴石と約束と・d21812)が放った魔法弾が角の付け根に突き刺さり、
    「さあ、勝負っすよ、ファフニールッ!」
     極志は先程のへりくだった態度はどこへやら、楽しそうに笑みを浮かべながら強烈な飛び蹴りをファフニールの顎に炸裂させた。
    「僕ら所詮は半端者なんで、常に全力で挑ませてもらいます」
     続けて、戒道・蔵乃祐(グリーディロアー・d06549)が巨大な注射器をファフニールの前脚に突き立て、毒液を注入していく。
    「……ラゴウから聞いているぞ。怪しげなカードに武器を封じ、我らダークネスに抗う者。それは……」
    「そう、灼滅者ですわ!」
     ファフニールに皆まで言わせず、閃光院・クリスティーナ(閃光淑女メイデンフラッシュ・d07122)の構えたチェーンソー剣が、ファフニールの鱗を切り刻んでいった。

    ●開戦
    「武蔵坂の灼滅者……解せぬな、どうやってこの場所を探り当てた」
     奇襲による連続攻撃でそれなりに傷ついているにも関わらず、ファフニールは平然とした態度で灼滅者達を睨め付けた。
    「勝手な言い分ですが。元より敵同士、この手段になりました。本織は貴方、ラゴウ、パラジウムの居所を置き土産に、拠点を撤収済みです」
     蔵乃祐が、応じてそう答えると、
    「本織が裏切ったと言うことか? いや、灼滅者の言葉など、信じるに値せんっ!」
     ファフニールの全身から殺気が迸る。次の瞬間、振るわれた太い尾が響哉、シグマ、極志、ましろの3人と1匹をまとめて薙ぎ払っていた。
    「さすがに一撃が重いっすね……そうこなくっちゃ!」
     極志が吹き飛ばされかけながらも縛霊手で尾を掴み、体勢を立て直す。
    「くっ……、こんなの相手に説得してる暇はなさそうだな」
     響哉は影を刃に変えて反撃を試みるが、ファフニールはその巨体に似合わぬ素早い動きで、影の攻撃をかわした。
    「卑怯な真似して悪い、けど聞いて欲しい。配下の件も、俺らがここに居るのも差し向けたのはASYの連中だ。信じてくれ」
     シグマはVelvet Nightを鎧状に展開して自らの守りを固めながら、ファフニールに呼びかける。
    「たとえそれが事実だとしても、貴様達が俺の配下を灼滅してきた仇であることに変わりはないっ!」
     だが、振るわれたファフニールの黄金色の爪が、易々とVelvet Nightの守りを打ち砕いていった。
    「僕は貴方の配下を倒した一人です。それは取り繕い様がありません。ただこの状況は不自然な程おぜん立てされ過ぎていると思いませんか?」
     鋼糸を操りファフニールの傷口を広げようと試みていた楽多が、なおも言い募る。
    「そうかも知れんな。ならば貴様らを滅した後、事実を確かめるだけだ!」
     ファフニールの吐いた炎が楽多に迫り、ギリギリのところで割り込んだ響哉がそれを受け止めた。
    「自分の配下ばかり狙われているのに対して疑念があるのならば少しは耳を傾けても良いとは思うが……。お前にとって無益な情報ばかりではないはずだ……」
     クロードが、戦うにしても話を聞いてもらうにしても、まずは動きを封じるのが先決と制約の弾丸をファフニールに的確に撃ち込んでいく。
    「耳を傾けろだと? 一方的に襲いかかってきておいて、今更何を言うか!!」
     苛立つようにファフニールが咆えると、その全身から炎が噴き上がり、見る見るうちに身体の傷を塞いでいった。
    「けど、それも予定のうちだ」
     昴が、回復のために動きを止めたファフニールに、赤色の交通標識で殴りかかる。相手が回復に行動を費やしてくれれば、その分こちらが受ける攻撃は減るのだ。悪い話ではない。
    「せっかくの高位のダークネスを灼滅出来るチャンス。無駄にはしませんわ!」
     クリスティーナも、鋼糸でひたすらにファフニールを切り刻み、仲間の攻撃が与えたバッドステータスをさらに拡大させていく。いくらファフニールが回復を試みても、それを上回るだけの効果を与えられれば、勝機は見えてくるはずだった。

    ●逆鱗
     戦いは、長期戦の様相を呈していた。ファフニールの強烈な攻撃も、守りを固めた灼滅者達を倒しきるには至らず、一方で灼滅者の攻撃は確実にファフニールの行動を制限していくものの、致命的な一撃を与えるまでには至らない。そしてお互い、次第にサイキックでは癒しきれないダメージが蓄積していく。
    「僕は絶対に無事に帰りたいです。みなさん、頑張りましょう」
     楽多が、恋人にもらったお守りを握りしめると、ファフニール目掛けエアシューズによる蹴りを浴びせた。
    「ぐっ、灼滅者の力がこれほどのものとは……。蒼の王を倒したというのも、まぐれではないということか」
     ファフニールが、今日何度目かの咆吼と共に傷を回復させる。
    「ようやくわたくしたちの力を認める気になりました? ならば改めて名乗らせて頂きますわ。閃光ヒロイン、閃光院・クリスティーナ、推して参りますわ!」
     クリスティーナが、名乗ると同時に高く飛び上がり、流星の如き飛び蹴りを放つ。だが、
    「調子に乗るな、灼滅者風情が! 相手が強敵であれば、それを上回る力で叩き潰すのみだ!!」
     ファフニールは身をよじってその蹴りをかわすと、灼熱の炎をクリスティーナに浴びせかけた。
    「白の王はナミダ姫の憑竜碑、北征入道の蒼の技術を得て、黒牙を走狗に堕としました。貴方も三竜包囲陣で、黒の王の血縁者に恩を売る予定です?」
     蔵乃祐がペネトレイトアーマーをクリスティーナに纏わせて盾代わりとしながら、ファフニールに問いかける。
    「そうか、クロキバは白の王に降ったか。『黒牙』の系譜の者でありながら、ふがいない」
     ファフニールは顔色一つ変えず、隙あらば攻撃を加えようとする前衛陣を、尾を振り回して牽制した。
    「やっぱ動きを封じないと厄介っすね」
     極志が尾の攻撃を受け止めつつ、制約の弾丸を放ってファフニールの動きを封じようと試み、
    「その硬い鱗さえなんとかすれば……」
     クロードは影の刃を縦横無尽に振るって、ファフニールの鱗を剥いでいく。
    「本織に影響力を持つ誰かは、副会長派の幹部を排除したい様子。孤立した朱雀門・瑠架の身柄を押さえるか始末する。これが本命ですかね」
     その間も蔵乃祐はファフニールへの呼びかけを続けていて。
    「……なんだと?」
     そして、その蔵乃祐の言葉に反応したのか、ファフニールの動きが止まる。
    「止まった? よく分からんが、好機は逃がさん」
     すかさず昴が飛び蹴りを決めるが、ファフニールはまるで気にした様子を見せず、
    「そうか、分かったぞ。貴様ら、あの男と手を組んだのか! そして汚い策略を用いて俺達と朱雀門・瑠架を排除しようというのだな!」
     やがて、激昂したようにそう咆えた。その咆吼は、立っているのも困難な程の激震を洞窟内に発生させる。
    「待て、お前は何か勘違いしている」
     シグマが『割り込みヴォイス』を用いてファフニールを静めようとするが、猛り狂ったファフニールの耳には最早、どんな言葉も届きそうになく。
    「まずは貴様らを皆殺しにする! その上で、あの男に代償を支払わせてくれるわ!!」
     次の瞬間、ファフニールの放った炎が蔵乃祐に襲いかかった。
    「蔵乃祐は、絶対守る!」
     咄嗟にシグマが蔵乃祐の前に飛び出すと、たちまち業火がシグマの全身を包み込んでいった。
    (「全体の方針から戦う道を選んだが、敵対は俺個人の本意じゃない……。もしかしたらダークネスと共生できるんじゃないかって、そんな中途半端な覚悟で臨んだことが、仇となったか」)
     全身を焼かれ、薄れゆく意識の中で、シグマはそんな事を思うのだった。
    「まずいな。俺達は奴の逆鱗に触れたらしいぜ」
     倒れたシグマを安全な場所に待避させながら、響哉がそう呟いた。だが、ファフニールがこれだけ猛る以上、直前の蔵乃祐の言葉に真実が……少なくともファフニールが真実と信ずるに足る何かが含まれていたのは間違いなさそうだ。

    ●撤収
    「三竜包囲陣を使う爵位級の殺竜卿か魔女。或いは白の王が、手負いの竜種を追撃する、それも悪くない。屍王がアンデッドダークネスの手駒を増やすのも魅力的かと。この茶番が好機となる勢力は多いと思います」
     もはや届かぬと知りながら、それでも蔵乃祐は言葉を紡ぎ続けた。
    「貴様の戯れ言、もはや聞き飽きた!」
     ファフニールが吐いた灼熱の業火が、そんな蔵乃祐を覆い尽くす。
    「あなた方ダークネスは強い。だからこそ、弱さを恥じず。闇を恐れず。可能な限りの最善を為す。それが灼滅者の戦い方であり、覚悟なんです……」
     そんな言葉を最後に残して。蔵乃祐が、倒れ伏した。
    「回復役が倒れた……。こうなれば体力の管理は自分で行うしかないか……」
     クロードが覚悟を決めたように、言葉通り自らの傷をシャウトで回復させる。
     だが、防御役と回復役が一名ずつ倒れたことで、戦場の均衡は明らかに崩れつつあった。そして、
    「ファフニールの言う『あの男』ってのが誰か分からないが、そいつは連中にとっての邪魔者を始末しようとしているように思えるな。果たしてそれが俺たち灼滅者なのか、ファフニールなのか。……この状況じゃ、俺達の方かな?」
     大地を揺るがすファフニールの咆吼の衝撃から後衛を守った響哉の膝が、折れた。最早身体が言うことを聞かず、立ち上がる事ができない。そんな響哉に止めをさそうとするかのように、ファフニールが黄金の爪を振り上げる。
    「これ以上、犠牲者は出させねえよ」
     そして振り下ろされたファフニールの爪を、昴が右腕一本で受け止めていた。
     いや、それはもう、昴であって昴ではなかった。いつの間にか彼の頭には悪魔の如き角が、彼の背には龍の如き皮膜の翼が生えていたのだから。
    「貴様!? 闇堕ちしたというのか!?」
     ファフニールが、驚きの声を上げる。
    「ん? ああ、堕ちてたのか、俺」
     今初めて気付いたというように、昴は変わり果てた自らの姿を眺める。それから、
    「そういうわけだからさ、俺の意識が残ってる内に退いてくれ。……ましろを、よろしく頼む」
     昴は呆然と自分を見つめる仲間達に、そう呼びかけた。
    「できれば全員一緒に帰りたかったところですが、そんな状況じゃありませんね」
     いち早く我に返った楽多は、『怪力無双』を発動させるとシグマと蔵乃祐を抱えて、洞窟の出口目掛けて駆け出していく。
    「3人が戦闘不能で1人が闇墜ちした以上、やむを得ないか……」
     ファフニールを弱らせることに重点を置くあまり、攻撃力を重視しなかったことが災いしたのか。攻撃と説得、両方を同時に行おうとしたことが問題だったのか。敗因をあれこれ考えつつもクロードがその後に続き、
    「ファフニール、次に会った時は決着付けるっすよ!」
     極志はそう啖呵を切ると、響哉に肩を貸して後を追っていった。
    「本当はここで灼滅したかったのですけど、最低限の目的は達成出来たようですし、仕方ありませんわ」
     最後に残ったクリスティーナも、悔しそうにファフニールを睨み付けた後、踵を返して駆け出した。次善の策として、ファフニールに不和の種を植え付けることには成功したのだから、よしとするしかない。
    「鮮やかな引き際だ。強者は己の力を過信して引き際を誤ることが多いが、なるほど、これも奴らの強さの一つか」
    「あなた達イフリートの一番苦手なことですよね」
     そう言う昴も、いつの間にかファフニールと距離を置き、撤退の構えを見せている。
    「せっかく自由の身になったんです。ここで即あなたに灼滅されるつもりはありませんからね」
     そして、昴だった淫魔もまた、闇の中に消えていった。
    「ふん、まあいい。今は武蔵坂の灼滅者よりも、あの男だ。あの男がそれほどの悪だというならば、俺もいつまでもこのようなところに潜んではいられん」
     ファフニールは、誰もいなくなった洞窟で、一声高く咆えた。そして、長らく身を潜めていた洞窟から地上へと、足を踏み出したのだった。

    作者:J九郎 重傷:戒道・蔵乃祐(ソロモンの影・d06549) シグマ・コード(枯杯・d18226) 
    死亡:なし
    闇堕ち:音鳴・昴(ダウンビート・d03592) 
    種類:
    公開:2015年9月10日
    難度:難しい
    参加:8人
    結果:失敗…
    得票:格好よかった 18/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 2
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