クリスマス2015~ナノナノさまに届け!

    作者:夏雨

    ●伝説のナノナノさま
     毎年恒例の武蔵坂学園のクリスマスパーティー。今年も楽しく盛り上げようと、生徒たちの話題はパーティーの準備のことで持ち切りになる。
     24日がクリスマスパーティー本番。例え恋人同士が主役のような行事だとしても、年に1度のごちそうが待っている! 学友たちとバカ騒ぎして楽しむクリスマスが待っているのだ。
     クリスマスの楽しみ方は人それぞれだが、24日に起こる不思議な現象を心待ちにする者も少なくない。その現象とは、この時期に決まって現れる大量のナノナノたちのことだ。どこからともなく学園にやって来たナノナノたちは、クリスマスが終わるとどこかへ去っていく。この不思議は未だ解明されていないが、愛らしいナノナノたちと思う存分触れ合える絶好の機会が巡ってくるという訳だ。
     24日に現れるナノナノには、更に不思議な伝説がある。学園のどこかに現れる『ナノナノさま』と呼ばれる特別なナノナノを見つけると、恋人同士を祝福し、その絆を永遠のものにしてくれるという。遭遇できる確率はほぼ運次第。普通のナノナノとは明らかに違う見た目をしているらしい。


    ●伝説の樹の下で愛を叫べ!
     クリスマスイブが迫る12月のある日。大体の飾り付けが終わり、学園を見下ろす『伝説の樹』は巨大なクリスマスツリーへと様変わりしていた。
     10メートル弱の大きさのクリスマスツリーを見上げる暮森・結人(未来と光を結ぶエクスブレイン・dn0226)と月白・未光(狂想のホリゾンブルー・dn0237)。そのツリーの真下には、コンパクトなステージというか台座とスタンドマイクが設置され、横にはクリスマスの装飾の立て看板がある。
     看板には、『伝説の樹の下で愛を叫べ! ナノナノさまの祝福を』と書かれている。看板の字を見た未光は疑問を口にする。
    「ナノナノさま?」
    「知らんの? 24日になると――」
     結人は未光に『ナノナノさま』について説明する。
     学園のどこかに現れるナノナノさま。ナノナノさまに会えるのは運次第と言われているけれど、ナノナノさまからの祝福を得るためにこちらからアピールしてみてはどうだろう。そんな誰かの思い付きで、ツリーの前には特設ステージが姿を見せた。
    「『クリスマスイブに告白して玉砕しろ』という裏のメッセージがあるようにも思えるよな」
     ネガティブな発言をする結人に対し、未光は言った。
    「そんなこと言ってると、サンタさんから『彼女』プレゼントしてもらえないよ」
    「そうでなくてももらえるかっ!」
     伝説の樹の前には、パーティーの準備を進める生徒たちのために簡易休憩所が設けられている。ベンチやテーブルが設置され、温かいココアやスープが入った保温ポットが用意されている。当日はそこで誰かの愛の告白を見物することもできるだろう。
     ナノナノさまが聞き届けてくれるかどうかはさておき、この機会に愛のこもった気持ちを誰かに伝えてみては?


    ■リプレイ

     年に1度、学園のあちこちにナノナノたちが姿を現すクリスマスイブ。すっかり日も落ち、伝説の樹を彩る電飾が点滅を始めた。クリスマスツリーとなった伝説の樹のイルミネーションを眺めたり、付近を漂うナノナノたちと戯れる生徒たちの姿が目立つようになる。イブの特別な夜が学園にも訪れ、寄り添う2人の雰囲気も特別なものに感じられる。
    「ゆーき、寒くない?」
     高橋・亮は、手をつないで一緒に廊下を歩く雪螺・悠祈に問いかけた。
     悠祈はにこにこしながら亮の手を握り返すと、
    「へーきだよ。ゆーきは羊さんでふわもこだからだいじょーぶ♪」
     悠祈の来ている白いもこもこのパーカーは、フードをかぶれば羊耳が生えそろう。
     落ち着き払った態度の亮だが、心の内では何度かわいいと連呼したかわからない。
    「悠祈は本物の羊より何倍もかわいいね」
     亮の言葉に対し、悠祈は「えへへ」と微笑む。
     廊下ですれ違うナノナノを1体ずつ確かめながら、頭をなでたり、羽にタッチしたり――悠祈は亮の手を決して離さずに、ナノナノさま探しに対する思いをつぶやく。
    「りょーちゃんが一緒だから、ゆーきとってもあったかいの。心がふわふわなのー。だから、ずーっとりょーちゃんと一緒に幸せするってナノナノさまにお願いするのよ」
     握る手の温もりを感じながら、亮は悠祈の笑顔を穏やかな眼差しで見つめ返す。
    「ありがとう、ゆーき。一緒に見つけよう」


    「伝説の謎は俺たちが解明してやるぜ!」
    「今年こそ見つけるっすよ!」
     いつものように黒猫の着ぐるみ姿の文月・直哉と、制服の上に白衣を着た鈴木・レミは、ナノナノさまを探して探偵のごとく捜索を続ける。
     それぞれの思惑を秘めて、2人はナノナノさまを熱心に見つけ出そうとするが、めぐり会うのは普通のナノナノばかりだ。
     ナノナノさま捜索で行き詰まる2人は、伝説の樹のそばで一休みする。
    「あのさ、レミっち」
     ある機会をうかがっていた直哉は、意を決してレミに伝える。
    「いつも相棒として、俺の無茶にも付き合ってくれてありがとな。事件とか戦争とか危険な事も多いけど、レミっちが隣に居てくれるから楽しいし、心強い」
     何やら真剣な表情で改まったことを言い連ねる直哉に疑問を抱きながらも、レミは直哉の言葉に答える。
    「どういたしましてっす。なら私を敬ってあがめ――」
    「レミっち、俺はレミっちが好きだ」
     勇気を振り絞った直哉の声に遮られ、レミはとっさに言葉を飲み込んだ。
    「こんなしがない着ぐるみだけど、人生の相棒として、俺と付き合ってくれないか?」
     不意打ちの告白に面食らうレミは聞き返そうとするが、朗々と響いていた直哉からの告白に、周囲からパラパラと拍手が巻き起こる。その状況に、レミは余計に動揺する。
     真っ赤な顔で慌てた様子のレミは、「やり直し!」と声を張り上げた。


    「も、もう1回!?」
    「大好きだけど、テイク2を要求する!」
     ツリー前の休憩所に用意されていたホットココアを飲みながら、
    「ふふふ……いいものを見させてもらったよ」
     二木・るる子は直哉とレミの様子を暖かい眼差しで見守っていた。
     空には星が輝き始め、より冬の寒さが増してくる。るる子は近くを飛んでいたナノナノを捕まえると、
    「寒くないのー? ぎゅーっとして暖まってもいい?」
    「ナノ?」
     ナノナノは大人しくるる子にハグされ、ぬいぐるみのように抱えられる。
    「ナノナノさまってどんな容姿なのかなぁ。大きくて、体はマシュマロでできてたりしてね。君もちょっとマシュマロみたいだね、いちご味かな?」
     るる子の何気ない一言を聞いたナノナノは脅え出して身をよじり、腕の中から飛び立っていく。


     生徒たちが出払った校舎の一角の教室には、青海・竜生と神崎・結月、ナノナノのソレイユの姿があった。向かい合わせにして並べた机の上に、竜生はケーキの入った箱を置く。
    「メリークリスマス、ゆき。これ、僕からの贈り物」
     そわそわと席に着いた結月は、箱の中から現れた手作りのケーキに目を輝かせる。
    「すっごぉい! おいしそう。竜生ちゃんが作ったの?」
     うれしそうな表情の結月の笑顔を見て、竜生は言った。
    「お菓子は初めてだけど、ゆきのために頑張って作ったんだ」
    「ゆきのために? わぁ、嬉しいなーっ!」
     竜生はお湯の入った水筒に、紅茶のティーバッグを用意し、ささやかなクリスマスパーティーをセッティングする。
     結月は竜生の作ったケーキを一口賞味する。しっとりした生地にリンゴの風味を味わい、結月は更に表情を綻ばせる。
    「とってもおいしいのよ。ソレイユも、食べる?」
     紅茶の香りに釣られて来たのか、複数のナノナノが2人のいる教室を覗き込んでいる。
    「一緒に食べたいのかな?」
     それに気づいた結月は、手招きしてナノナノたちを呼び寄せた。ナノナノたちが加わり、パーティーの席はよりにぎやかになる。


     伝説の樹を目指す道中、付近を見渡せばあちこちにナノナノたちの姿が見られる。マサムネ・ディケンズはその光景を眺めながら、『ナノナノさま』のことを話題にする。
    「ナノナノって確かにかわいい愛の使者だよなー。 しかも、ナノナノに『さま』がつくんだぜ!?」
     その隣りを歩く朝霧・潮は「会えるといいな」とつぶやく。遠くからでも目立つツリーの光を見つめながら、潮は言った。
    「ナノナノさまって普通のナノナノとどんなふうに違うんだろうね。 年に一回だけ会えるなんて、不思議……」
     ツリーに変身した伝説の樹の目の前までやって来ると、潮は小走りで樹の真下まで向かうマサムネを見送る。
     マサムネはマイクの前に立って向き直ると、深くを息を吸い込んでナノナノさまに届くよう声を張り上げる。
    「潮とずーっと一緒にいられますように! 父さん母さんじっちゃばっちゃ妹が健康でいられますように! ダチに何かいいことがありますように! 今所属してるクラブがいつまでも楽しい場所でありますように!」
     照れ笑いを浮かべながら戻って来たマサムネに、潮はそばにあった休憩所のココアを差し出す。
    「ナノナノさまに聞こえてるといいね」
    「へへ、ありがと」
     微笑む潮は大きなツリーを見上げ、声に出すことはないが彼女もまた彼の幸せを静かに願った。


     多くのナノナノたちが飛び回る学園の風景を楽しみ、夜暗を照らすイルミネーションの輝きに釣られてやって来た志那都・達人と草薙・結。
    「えと、師匠……」
     ツリーの下での一幕を一通り見物したところで、結は達人の手をそっと握り返して切り出す。
    「たくさん、たくさん、楽しいや嬉しい、をありがとうございます。素敵な気持ちや思い出に出会えたのは、師匠があの時扉を開いてくれたから、なんです。 だから、たくさんありがとうございます! えと、これからもたくさん素敵な思い出作っていきましょうね!」
     達人は少し驚いたような表情になり、
    「⋯⋯急に改まった調子になったから、何かと思ったら 」
    「――ってなんか改めて言うと照れ臭いですね。でも、クリスマスですから!」
     結は照れ臭い雰囲気を笑ってごまかす。そんな結の頭を達人は優しくなで、同じように感謝の気持ちを伝える。
    「俺も結のおかげで、それまで気付かなかった自分に気付けたり、楽しい思い出に出会えたりしたんだ⋯⋯だから、俺からもありがとうを言わせてよ。これからも、一緒に色んな思い出を作っていこうね」
     仲睦まじい師匠と弟子。手を取り合っている間は、冬の寒さの中でも穏やかな心地がした。


    「アリカさん。どれだけたくさんのナノナノを連れて歩けるか、勝負ですわ! 無理強いはいけませんわよ」
     そう言って張り切る緋薙・桐香と、やる気を見せるビハインドのアリカ。その2人の後に、いちごは審判役としてついていく。
     学園内を一周してきた3人は、伝説の樹の前までナノナノたちを連れてやって来た。
     ナノナノの頭をなでながら桐香は相手の戦果をチェックし、より多くのナノナノに集まってもらおうと専念する。が、どういう訳かナノナノの群れは2人のそばから離れていく。
    「ま、待ってください! まだ勝負は終わってませんわ――」
     アリカも桐香と同様にナノナノたちの動向に慌てふためく。
     ナノナノたちが流れていく先には、お姫様風のドレスとティアラを身につけたナノナノのみことの姿があった。ナノナノたちの視線の先には、先導するみことと皇・もこがいる。
    「今年の我輩は、ナノナノ達に服をプレゼントするサンタである!」
     サンタ服に身を包んだもこは、張り切ってナノナノたちのためにそろえた衣装をアピールする。
     もこはサンタらしく白い袋からナノナノたちのために用意した衣装を取り出し、白雪姫や金太郎、桃太郎など昔話の登場人物を再現した衣装をナノナノたちにプレゼントする。
    「よりどりみどりやで、ナノナノたち。みんなでおめかししましょー、可愛いお洋服あるでー」
     桜庭・智恵理がガラガラと運び込んだキャスター付きのハンガーラックには、ナノナノ専用の豊富な種類のロリータ服がかけられている。智恵理のナノナノのなの美もいちご柄のロリータ服を着て、手作りのヘッドドレスをナノナノたちに着けるのを手伝う。
    「わたしのファンタジーな衣装はいかがかな〜。小道具とかかっこいいのも用意したの〜」
     騎士の甲冑や魔法使いのローブ、剣や盾、杖までナノナノ専用のものを用意した黒部・瑞葵。もここと一緒に、興味津々なナノナノたちの相手をする。
     ナノナノさまを探すついでに、ナノナノたちの写真を撮りながらぶらついていた邪聖・真魔は、
    「素敵な衣装だね……」
     甲冑やローブを身にまとい、おもちゃの武器を構えてポーズを決めるナノナノたちを見つける。
    「この子はお供のましょまろ。だよ、よろしくな」
     真魔はそう言って、白いアザラシのぬいぐるみをナノナノたちと向かい合わせる。「ナノナノ!」と挨拶をするナノナノたちにケータイのカメラのレンズを向けて、
    「クリスマスの記念に付き合ってもらえるかな?」
     小夜啼・小鳥と神薙・法子は、伝説の樹の近くにナノナノさまがいる可能性を考え、その付近までやって来た。2人は思いがけず、ナノ隊の面々からプレゼントされた衣装を着てうれしそうに飛び回るナノナノたちの姿を目にする。
    「わぁ、すてきな衣装の子たちがいっぱいいるの」
     小夜啼はナノナノの白妙を抱きかかえて目を輝かせる。「こんばんは、すてきな衣装ね」とそれぞれのナノナノを愛でる小夜啼を、法子はほっこりした心地で見守る。
    「すてきなナノナノたちも見れたし、ツリーもとってもきれいね」
     小夜啼はそう言って、法子の手をぎゅっと握り返す。
    「小鳥、法子とクリスマスツリー見れて、とっても嬉しいの……」
     ふわりと笑いかける小夜啼の言葉が何よりもうれしく、法子も笑顔で答える。
    「ありがとう、小鳥。私も嬉しい!」


    「えっと……これは、引き分けですね」
     振り出しに戻ってがっくりと肩を落とす桐香とアリカを見て、いちごは苦笑しながら引き分けと判定する。
    「し、仕方ありませんわね……くぅ、今年も決着つかずですか――」
     悔しい思いをにじませていた桐香だが、ふと伝説の樹の前にあるマイクが目に止まる。
     せっかくですからとマイクのところまで行った桐香は、いちごとアリカに向けて思いの丈を響かせる。
    「いちごさーん! アリカさーん! 今年もたくさん遊べて楽しかったですわー!!」
     その桐香に対し、アリカは口元に笑みを浮かべ、両手の拳をぐっと握ってみせた。いちごはアリカの気持ちを笑顔で代弁する。
    「来年は決着つけますわー! ……だそうですよ?」


     年に1度のナノナノさま探し。こうして2人でクリスマスイブを過ごすのが恒例になりつつあるが、例え見つからなくてもそばにいられる時間はかけがえのないものだ。
     ナノナノさまを探して校舎内を歩く太治・陽己と水沢・安寿は、そんなお互いの気持ちを再確認する。
    「俺も本当はな、本気で探してるわけじゃないんだ。最初にナノナノ様を探した時からずっと、水沢の隣に居られたらそれでよかったんだ 」
     安寿は若干緊張した表情で、隣りを歩く陽己の言葉に聞き入る。
    「⋯⋯なぁ、水沢。 君の事が好きだ。どこが好きだとかうまく言えないがずっと一緒に居たい」
     うれしさで声が上擦りそうになるのをなんとかこらえ、安寿は言葉を返す。
    「……太治くんばっかりずるい。あたしだって言いたいんだから」
     安寿は立ち止まって陽己に向き直ると、一呼吸置いて思いを伝える。
    「太治くんのことが大好きですって。これからもずっとずっと、そばにいさせてくださいって」
     校舎の窓の外に、何かイルミネーション以外の金色の輝きがふわりと浮かんだ。


     しばらく校内を回っていた万事・錠と一・葉は、暖かい飲み物を携えて屋上に出る。少し離れた場所に見えるツリーを屋上から眺め、時折響くナノナノさまにも届かんばかりの声に耳を傾ける。
    「俺さ。本当はナノナノさまの存在、信じてなかったんだ」
     ぽつりともらす錠の腕の中には、1匹のナノナノがおとなしく抱えられている。
    「葉と居る口実が欲しかっただけなんだよ……お前も、この子撫でっか?」
     錠は表情を隠すようにナノナノを顔の前に掲げる。
    「……そんなの、とっくに知ってたわ」
     今では互いの考えや好みまでよく分かる。その理由については葉は尋ねず、
    「わかりやすいんだよ、お前は」
     錠の抱えるナノナノの頭をわしわしとなでてやった。


    「あれだよあれ、追っかけよっ」 
     ベルベット・キスは見間違いではないと信じ、箒で上空を飛ぶ望月・小鳥と共に1匹のナノナノを追いかける。
     ベルベットと一緒にナノナノさまを探していた望月は、ナノナノさまを捕縛しようと意気込む。
    「では、私は上から退路を塞ぎますから、ベルはとどめをお願いしますっ」
    「トドメさしちゃダメじゃないかなぁっ!?」
     そう言いつつも建物の影へと消えていく金色の光を追いかけ、ベルベットは走り込む。
    「ナノォォォォォォ!」
    「わ、わわっ、とー!」
     その向こう側から泣き叫ぶように出てきた赤い首輪をつけたナノナノに驚き、ベルベットは急停止した。そこでナノナノさまらしき姿を見失い、ベルベットは残念そうに肩を落とす。
     地上に降り立った望月は、ベルベットを励ますように声をかける。
    「行ってしまいましたか。まあ、伝説のナノナノさまなんて本当はどうでも良いんですけどね⋯⋯私はベルを信じてますから」
     寂しがり屋な彼女を安心させたいと考えていたベルベットは、望月に柔らかい笑みを向けられて照れ笑いを浮かべる。逆に望月の方から自信をもらい、ベルベットは満ち足りた思いを伝えた。
    「ふふー、もちろん。だから⋯⋯ささきも、ずっと一緒にいてねっ!」


    「ずいぶん欲張りなナノナノね」
     そう言って、神夜・明日等はナノナノの白豚の赤い首輪を見つめる。
     明日等の周りにはお菓子をねだるナノナノたちが集まり、銀色の毛並みのウイングキャットのリンフォースは、背中にナノナノを乗せて楽しそうに飛び回っている。白豚もその中に混じり、明日等から差し出されたお菓子をいくつもぱくつく。他のナノナノたちの分まで横取りしてしまい、怒ったナノナノたちは白豚を追い払おうとする。
    「ナノ、ナノ〜!?」
    「ちょっと、喧嘩はダメよ!」
     明日等に制止され、白豚は転がるようにその場から逃げ出した。
     大聖堂に横たわる少年のように、白豚はぽとりと地面に体を預ける。白豚は戒道・蒼騎から穀潰し扱いされることに耐えかねて逃げ出したものの、空腹と心細さは限界まで高まり、おまけに雪までちらつき始める。
    「サーヴァントの癖に逃げ出すとは大した豚だ」
     天使とは程遠い様子の蒼騎に見下ろされるが、白豚は迎えに来てくれたと思い込む。泣きながら顔にしがみつく白豚を、蒼騎は鬱陶しそうに引き剥がした。
    「願うならナノナノを少しは役に立つ存在にして欲しいものだ」


     休憩所にいる暮森・結人と月白・未光の姿を見つけたイヴ・ハウディーンは、ナノナノにも配っていたケーキを渡し、ココアを飲んで一息入れる。その後、イヴは1人ツリーの前のマイクに向かう。
     結人がマイクに向き直るイヴに気づくと、イヴは結人に向かって声を張り上げた。
    「今年は、暮森先輩と色々遊べたから楽しかったぜ! 先輩、愛してる!」
     無邪気に笑いながら言い逃げていくイヴを見て、未光は結人を冷やかす。
    「ひゅーひゅー、このロリコ――モテ男ー!」
    「なに言いかけやがったてめぇ!?」
     「そんなんじゃねぇから!」と否定する結人を横目に見る木嶋・キィンとシグマ・コードは、休憩所のそばでココアを飲みながらツリーの下の様子を眺めていた。寄って来るナノナノたちと触れ合ったり、ナノナノさまの姿について話したりする間も、シグマはナノナノたちとイブを過ごす誘いを持ってきたキィンのことを気にかけていた。
     雪がちらつく天気になり、いつもと変わらない様子のキィンとの帰り際。
    「シグマ!」
     歩みを止めて少し離れたキィンを顧みようとした直前、シグマは大声で名前を呼ぶキィンに驚かされる。
    「どうした? キィン」
     そう尋ねるシグマの横を、キィンは何食わぬ顔で通り過ぎようとする。
    「呼びたかっただけだ。行こうか」
     そう言って笑うキィンに踊らされたと思い、シグマは軽くキィンを小突いた。
    「なんだよ! 告白かと思っただろ」

    作者:夏雨 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年12月24日
    難度:簡単
    参加:30人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 5
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ