クリスマス2015~雪が粧した舞踏会


     12月24日。此処、武蔵坂学園にも特別な夜が訪れる。
     メイン会場に聳え立つ『伝説の木』も美しく着飾られ、聖なる夜を祝福するかの如く優しい灯を燈すのだろう。
     陽が傾き始めた頃、きらびやかな伝説の木の下で催されるのは盛大なダンスパーティーだ。
     クリスマスキャンドルの灯火に彩られ、メイン会場はきらびやかな華燭の色に染まって。
     この日の為に流れる生演奏はさらなる華を添え、クリスマスムードに満ちた一日限りの舞踏会は幕を開ける。
     さあ、きみの手を取り、共に踊るのは――――。


    「聖夜のダンスパーティー……とっても素敵! まるでお伽話の舞踏会みたいね」
     学園の掲示板に貼り出されたダンスパーティーの招待状をまじまじ見つめ、ジョバンナ・レディ(中学生サウンドソルジャー・dn0216)は薄紅の眸をきらきら輝かせた。
     開場時間は、陽が沈みかけた夕暮れ時。
     武蔵坂学園に伝わる伝説の木は『巨大ツリー』としてクリスマス仕様になり、メイン会場周辺には皆で飾り付けたキャンドル達が灯されるであろう。
    「舞踏会に相応しいドレス、あったかしら? 衣装箪笥から引っ張りだしておかなきゃ。でも、当日貸し出せる衣装も沢山あるみたいだから気になるわ」
     あとダンスの練習やお作法も……と、ジョバンナは深く考え込む。そこへ通り掛かったのは、常の明るい笑みを湛えた白椛・花深(高校生エクスブレイン・dn0173)だ。
    「まあダンスパーティーっつっても、あくまで学園内のイベントだ。そんな堅苦しいものじゃあねーから、思う存分、心の赴く侭に楽しもうぜ!」
     ダンスは基本、ペアでの参加となるだろう。恋人同士はもちろん、気になる相手を誘ってみる絶好の機会でもある。
     他にも気の知れた友人とダンスへ洒落込むのも、ひとり気の向くままに相手を探したり、サーヴァントと楽しむのも悪くない。
    「つまりアレだ、ダンス経験とかも気にすんなってこと! 俺様も素人だしさ! ……れ、練習中だけどよ」
     引き攣り笑いを隠すように、学帽を被り直す花深。どうやら彼も、ダンスを楽しみたい気持ちが強いようだ。
     そんな様子にジョバンナはくす、と微笑んで、
    「ふふっ、でもそれも良い想い出になりそうね? 特別なひとときだからこそ、フォーマルにお洒落して、生演奏に合わせてステップを踏むの。相手の手をとってその温もりに触れて……だなんて、ドキドキして寒ささえも忘れちゃう」
     ロマンチックなパーティーになりそうね、と両手を組んで聖夜当日に想いを馳せる。
     当日は、会場を彩る奏者も募集しているとのこと。歌やピアノ、ヴァイオリンなど、腕に自信がある者は、ぜひ披露してみては如何だろう。
    「さあ、せっかくのクリスマスだ! 親愛なる学友諸君の晴れ姿を拝める舞踏会、心待ちにしてるぜ?」
     花深は学帽を脱ぎ、仰々しく一礼したのちにちらと顔を上げて――目の前の『きみ』へ得意気に笑ってみせた。


    ■リプレイ


     結理は白基調のタキシード、錠は白のスーツでフォーマルに。
     まるでお揃いのようだと笑みが溢れ、二人の準備は万端。
     ドラムセットに位置取る錠。此処から見える結理の背は、キャンドルの灯に照らされ更に儚く映る。そんな彼へ届くよう、ドラムロールを響かせて。
     結理の相棒たる宇宙色ベースは、聖夜に相応しき柔らかな音色で。
     歌うように、舞うように――音楽を贈ろう。
     これが俺達、僕達の舞踏(セッション)だ。

    「愉しく躍らせて頂戴ね♪」
     蠱惑的に笑みを浮かべ、タシュラフェルは千尋に合わせて薄青色のナイトドレスを翻す。
     けれど、迂闊にも足を滑らせた処へ――抱き留めたのは、頼もしき王子の腕。
     大丈夫、お姫様? と千尋はタシュラフェルへと微笑む。
     触れ合うことで互いの身体の熱を感じ、胸が高鳴る二人。
    「舞踏会はこれくらいにして、あとは二人で……かな?」
     絡めた手はそのままに、会場を抜け出す。此処から先は、二人だけの時間。

     一通り舞踏を楽しんだ処で、終わりの時間を惜しむように悠はぎゅっとひよりを抱き寄せた。
    (「やっぱすっげー可愛い……本当に、お姫様みたいだ」)
    「どうしたの?」と仄かに色づくひよりの唇が声を発す前に――悠は優しい温もりを落とした。
     翡翠の瞳を驚きで見開くひより。雪降る舞踏会での口づけだなんて、まるで物語のワンシーンだ。
     お返しに、と今度は自分から口づけて、ぎゅっと悠を抱きしめた。
    (「――幸せだから、もう暫く君を独り占めさせてね」)

    「僕と一曲踊っていただけますか、お姫様? ……なんて」
     燕尾服姿の楽多は、精一杯格好つけて晶子へ手を差し出す。
     露出を抑えたドレスを身に纏う晶子は、彼の手を取って照れ臭くも笑ってみせた。
     慣れないダンスは辿々しくても、二人で踊れる時間は何よりも楽しい。
    「こういうのも素敵だね……メリークリスマス、晶子さん」
    「はい、メリークリスマス、です……楽くん、今年も、一緒にいてくれてありがとう……」
     ――きっと、来年も一緒に。

     結月の緩いシニヨンに、詠が可憐な青薔薇を添えて。
     贈り物をもらい喜ぶ彼女へ、詠は「結月はいつまでも綺麗な心でいて頂戴ね」と海色の眸を細めた。
     ラベンダーパープルと華やかな黒。二着のドレスの裾が雪を散らしてきらめき躍る。
    「今日は、よみちゃんを誰よりも素敵なお姫様にしてあげるね」
     結月はよみちゃんの願い星になるから――。
     詠へそう微笑む結月の笑顔は星のように輝いていた。

    「……あぁ、パッドっすか」
    「う、うるさい! 見栄えの問題でだな!」
     どうせぺったんこだよ馬鹿! とくるりは不躾な虎次郎の足をヒールで踏みつける。
     けれど彼女の赤いドレス姿は美しく、育ちの良さが窺えた。やはりお嬢様なんだな、と虎次郎は改めて想う。
     気を取り直し、くるりがリードする形で演奏に合わせステップを刻む。
     ふと顔を上げると、身に纏うタキシードも相まって虎次郎は魅力的に感じた。
     ――その先も、きっと、ずっと。こうして二人で居られるように。

     華月は淡いピンクのカクテルドレス、ハイヒールでちょっぴり背伸びして。
     迎えに来てくれた雷歌は、軍服にも似た白い礼服姿。
     見惚れてしまうくらい素敵だと華月が告げると、雷歌は安堵しつつも大人びた彼女の姿に胸を高鳴らせ。
    「それじゃ、お手をどうぞ、お姫様」
     頑張ってエスコートするからさ――雷歌が手を差し伸べると。
    「どうぞ宜しくお願いします、素敵な騎士様」
     その手に己の手をそっと重ね、華月は微笑み返した。

     サンタと同じ赤色のスーツ姿で、伝説の木の下に佇むのは遊だ。
    「メリークリスマス、素敵なお嬢さん」
     今日の遊は、桃香だけのサンタクロース。
     世界でただ一人、愛する人の為だけに魔法の時間を贈るのだ。
    「メリークリスマス! 私だけのサンタさん。魔法の時間……楽しみです!」
     ダンスの最中、ふと思い出すのは伝説の木の下での待ち合わせ。
     昨年と変わらぬ気持ちと、更に増えた愛情を込めて――寒さを溶かす口づけを、遊は桃香へ贈った。

     私服姿のくるみをたちまち魔法のようにしてドレス風に仕上げ、
    「それじゃ、踊ろうか、シンデレラ♪」
     タージは手を差し伸べ、くるみをダンスへといざなう。
     アイドルのダンスとはまた違う社交ダンスだけれど、タージのエスコートで徐々にくるみは踊れるようになる。
    「ありがとうマハルさん……ボクしあわせだよ♪」
     聖夜の魔法使いからの、最高のプレゼント。シンデレラのくるみは笑顔を咲かせた。

     曲が流れ始め、結衣奈から明彦をお誘い。白から桃色へ移ろうドレスを翻し、彼へ手を差し出す。
     リードしてくれる明彦の男らしさを実感し、頬を染め上げる結衣奈。
    「すごく幸せだ。ありがとう。俺、結衣奈を好きになって良かった」
     ダンスの途中で彼女を抱き寄せ、明彦はそっと耳打ち。
     その言葉に、結衣奈はじっと彼の瞳を見つめて。
    「わたしもだよ。ありがとう、大好きだよ」
     最高の笑顔と共に、口づけで気持ちを伝えた。

     会場へと現れた真珠は、咲哉の勧めた白のドレスに身を包んでいた。
     その可憐さに目を奪われながらも、咲哉は片手を差し出しエスコート。
    「Shall we dance? お嬢さん、一緒に踊って戴けませんか?」
    「咲哉さん……はいっ、喜んで」
     そう応えた真珠の笑顔は、何よりも愛おしいものだった。

    「鞠音、踊ってくれないか?」
     白焔が微笑んで手を差し出せば、鞠音はこくりと頷きその手を取った。
    「……ありがとうございます、いつも。あれこれ」
     踊る最中、ぽつぽつと毀れる感謝の言葉。いつも世話になっていることが多いから、どうしても口に出してしまう。
     一方、鈴乃と緋頼も二人のひとときを楽しんでいた。
     曲のリズムに合わせて軽やかに踊る最中、緋頼は鈴乃を抱えて優しく口づけを。
    「今夜は寝るまで楽しもうね」
    「まだまだ夜更かししますよ。もっと楽しんじゃいましょう!」
     無邪気に笑ってキスのお返し。陽が暮れようとも、楽しい時間は終わらない。

     芽衣は水色、曜灯はワインレッドのドレスで着飾って。
     二人の晴れ姿に見惚れるものの、勇介は気を取り直し、芝居がかった所作で振る舞って。
    「……っとと。お待ちしておりました、お嬢様方。どうぞ一曲、お付き合いくださいませんか」
     優雅に一礼。
    「ふふ、しっかりエスコートお願いね」
    「折角のパーティーですから、存分に楽しみましょうね」
     曜灯と芽衣が微笑み手を差し出せば、勇介はその手をとってエスコート。
     途中、見かけたジョバンナへと手を振る。三人の仲睦まじさに、彼女はアミカと共に微笑ましく見守っていた。

    「一曲、踊りませんか?」
     せっかくの舞踏会。壁の花など勿体ないと名草を誘う優衣。
    「喜んで。My Dear」
     そんな彼女の誘いへ、名草は悪戯っぽくウィンクを送り。
     ――『My fair my lady』の方が良かったかな?
     続けたのち、二人で共にステージへ。名草が踊りやすいよう、優衣がリードして軽やかにステップ。
     何とかダンスについていく名草。でも目の前で楽しげに踊る彼女を見れて――幸せだ。

     ジョバンナとアミカの元へ駆け寄るのは、陽桜と瞳、そして霊犬の庵胡だ。
    「チャオ! 二人とも、それに庵胡ちゃんも素敵な衣装ねっ」
    「ふふ、ジョバンナさんもアミカちゃんと一緒で可愛いわよねー?」
     そう言って相棒へと微笑む瞳。庵胡もまた、瞳と同じクリスマスカラーの衣装だ。
     一方の陽桜は、雪色のミニ丈ドレスでホワイトクリスマスツリー風に。
     ダンスの曲に合わせ、手をとり楽しく一緒にダンス!
    「ハッピーメリークリスマスはみーんなと一緒、なの!」

    「ジョバンナ、私とも踊って頂けます?」
    「まあ、エリさん……! 喜んでご一緒するわ」
     恵理のドレス姿はまるで、月夜に映える赤き薔薇。
     深い黒のドレスの裾を揺らし、楚々とした淑女の所作で舞踏を愉しむ。
     ――これって、私達の社交会デビューと言えますかしら?
     恵理はジョバンナの手を引き、中央へ。月とキャンドルが照らすは、二輪の美しき華たち。

    「花深ーあいかわらず暇そうね! なら私と一緒に踊りましょ!」
    「お、おいっ肉焼き娘! お前ダンスとか経験あんの……っていだだだだぁ!?!」
     あっごめん早速踏んじゃった! てへぺろ☆ なんてクリスは相変わらずのハイテンション。
     とほほ、と花深はクリスのリードに圧倒され、パワフルな舞踏を繰り広げる。

    「花深くんこんばんはさんなの。楽しんでるさん?」
     黎明から青空へ彩られたドレスに身を包む夜音が、花深へとダンスのお誘い。
    「おおっ、夜音! 俺様も楽しんでるさんだぜ。雪と一緒に妖精が降りてきたのかと思っちまった」
     彼からの褒め言葉にへにゃりと顔を緩ませ、手をとって舞踏を楽しむ。
     今年もありがとう、という言葉に、花深は穏やかな笑みでストールの上からぽんぽん、と頭を軽く撫でた。

     黒雛の元へ膝をつき、クォーツは彼女の手の甲へキスを落とす。
    「お姫様、俺と一曲踊ってくれませんか?」
     キャラじゃねぇのは分かってんだよ、今日ぐらい良いだろ? ――照れ臭そうにクォーツが言えば、黒雛は真っ赤になって頷く。
    「あ、あの……初めてなので、上手く踊れなかったらごめんなさい」
     クォーツのリードに任せて一頻り踊ると、彼は友人に預けたプレゼントを回収し、黒雛へと贈った。
     ――それは、聖夜に捧ぐ最高のプレゼント。

    「何故こんな女をそれ程に思う。……私の中の淫魔に魅せられているのではないのか」
     エルザはその黒のドレスの下に、絶望と葛藤を押し込む。己の贖罪に、誰も巻き込みたくないと。
     けれど、既濁は真摯な想いをぶつける。
    「淫魔の力に惑わされるから? この気持ちは偽りか? 違うな」
     一緒に居てもいいって思えた――だから好きって言えるんだ。
     既濁の言葉に、エルザは思い返す。深手を負ったあの時、腕の中で感じた彼の温もりを。

    「お、ティアナ。すげー似合ってるぜ、そのドレス」
     紫音がティアナを見つけると、彼女の黒のドレスを見てすっと目を細める。
     対する紫音もタキシード姿。ティアナは彼へも「すごくお似合いですわよ」と微笑む。
     ワルツ等のダンスはあまり得意じゃないから足を踏むかも、と不安げな紫音へ。
    「そうあせらないで。ゆっくりでよろしくてよ」
     ティアナはそう声をかける。
     そうして、実感する。共に踊れるこの時間が、何より楽しいと。

     七波と真琴――騎士と姫の舞踏は楽しく続く。
     曲が止まった処で、真琴がふわりと、七波の首へマフラーをかけてあげた。
     これは彼女からのクリスマスプレゼント。折角だからと、七波は真琴を引き寄せて彼女の首にも一緒にマフラーを巻いた。
     真っ赤になって慌てながらも、真琴は小さく囁く。
    「メリークリスマス、です」
     そんな彼女に、七波も微笑んで。
    「ちょっと寒くても心は温かいよね。メリーホワイトクリスマス」

     白の会場を彩るは、ライラの蒼のドレス。
     今宵の彼女は今日という日を待ち望み、更に美しさを増していた。
     対する巧は礼服姿でライラをリードし、此方へ近づいた処で――彼女の首へ、贈り物であるネックレスをかけた。ライラの胸元で、赤い宝石が輝く。
    「プレゼントです。ああ、それとお返しは勝手にもらいますよ」
     そのまま巧はライラの顎に手を添え、そのまま唇を奪う。
     彼女もまたそれを受け入れて。
    「……今日は大胆ね。でも、それも悪くない」

     淡いラベンダーのドレスを翻し、茅花はふわりと御伽へ身をうずめる。
     タキシード姿の彼は幾分大人びて見えて。
     離さないでね、と彼女が囁やけば、御伽は照れたように笑って指先を優しく絡めた。
     そうして茅花がそっと眸を閉じ――あぁ、やられた。彼女の姿を見、御伽の胸が一段と高鳴った。
     先手を取られ、内心苦笑する。
     添えた手で彼女を引き寄せ、その花脣へと特別な口づけを。

     赤薔薇咲き誇る深紅のドレスは、大好きな姉からの贈り物。
     そして胸に輝くガーネットの花は――愛する彼からの。
     大切なそれらで着飾り、羽衣は慧樹を淑やかに待つ。
     待ち人たる慧樹が彼女を見つけると、その可愛さ……否、美しさに涙ぐみそうになる。
    「ではお姫様、参りましょうか」
    「うんっ! でもその前に……ガマンできないから抱きつかせてね!」
     手を差し出す慧樹に対し、羽衣はぎゅーっと抱きつき!

     魔法使い姿の理央の傍らには、暖色のふんわりドレスをまとった燈。
     共にダンスを踊り、楽しそうな様子の理央を見て、
    「――好きだよ」
     思わず口から溢れた言葉。燈は慌てふためく。
     理央は意地悪して「もう一回」なんて言うけれど。
     もう一度告げられた彼は目を逸らさず、燈の気持ちを受け止める。
    「うん。僕も、燈が好き」
     ぎゅっと抱き寄せ、額に一つの口づけを。

     フローラルレースのドレスを揺らし、ゆまは久方ぶりのダンスに心を弾ませる。
     一方の龍之介はダンス初体験。足取りは覚束ず、緊張している様子。
     だが、ゆまが躓き転びかけた処を――龍之介が支えて。
    「はう、ごめんなさい……もし、次があったら、今度はちゃんと練習しましょか?」
    「そうですね、また次があったら……」
     そうして、二人で紡ぐ『次』がいつまでも続きますように。

    「あら、良い男。こんな時ぐらい素顔を隠すのはやめなさいな……お互いに、ね」
     兼弘のサングラスを奪い取り、黒のイブニングドレスに身を包むエリザベスは妖艶に微笑む。
     そんな彼女の美しい姿を、兼弘は正視できずに居て。
     けれど、誤魔化すようにして彼は手を差し出す。
    「こんな不器用な男で良かったら、一緒に踊ってくださいますかレディ?」
     誘いに応じ、エスコートしてくださる? とエリザベスは手をとった。
     ――今夜この時、そしてこれからも共に居られるように。

    「もう一曲、お相手願いますか?」
     深いブルーのドレスを纏う散耶は、もう一度乙彦を舞踏に誘う。
     彼女の言葉に一礼し、再びダンスは始まる。
     夢の様な時間、願わくばいつまでも。
     幻想的なこの時を共に刻めることが、乙彦にとって何よりも愛おしくて。
    「……ずっとこの時間が続けば良いのにな」
     散耶にも聞き取れぬ程の小さな乙彦の独白は、旋律に紛れ、雪の如く淡く蕩けていった。

     舞い降る雪はメルキューレの銀糸の髪と交じり、美しき白銀の光を増す。
    「……今年もこうしてメルといられて、良かった」
     瑞樹が愛しげに想いを溢す。細めた射干玉の眸が、キャンドルの灯を孕み柔らかな光を帯びる。
     指を一層絡め、瑞樹の言葉に応えるようメルキューレは微笑を湛えて。
    「私もですよ。いつまでもこうして二人で踊っていたいです」
     時と云うものは瞬く間に過ぎ去り、今宵の終曲はいつしか訪れる。
     けれど――二人の時間はずっと長く、これからも紡いでいけると信じて。

    『shall we dance?』『Sure,I'd love to』
     手を差し出す空が誘う言葉も、笑顔で灯倭が返す言葉も、去年の今と同様に。
     そうして黄昏が移ろい、ラストダンスが終わる頃、
    「ね、空くん……ちょっとしゃがんで」
     灯倭が背伸びして、口づけを一つ。そして眼前で囁かれた言葉は。
     ――君の事を、愛しています。
    「あぁ、ありがとう、俺も灯倭のことを愛しているさ」
     微笑みを返し、そっと彼女を抱きしめて。

    「さて、それではお手をどうぞ、プリンセス」
     ミッドナイトブルーの王子様――叡は手を差し伸べ、萌愛をダンスへいざなう。
     萌愛は雪降る舞踏会のお姫様。彼の優雅なリードで、軽やかにステップを踏む。
     頼もしい叡へと、萌愛は感謝を述べた。
    「……ずっと、また、一緒に過ごしたいな……って思ってたんです。……だから、」
     ――今、一緒にいることができて……楽しいです!
     頬を染める彼女へ、叡はそっと耳打ち。此処から先は、二人だけの物語が始まる。

    「……月夜に照らされた海の妖精さん、宜しければ僕と一曲踊って頂けませんか」
     普段のレイなら言わない様な気障な台詞。
     ラーナはカチンと来て彼を睨むが、どこ吹く風といった様子。
     その悔しさに、ダンスを終えた後にレイへ伝えた。
    「今日誘った理由、分かる? ……アンタが好きだからよ」
     強引にレイの唇を奪うラーナ。言葉だけじゃ分からないだろうから、背伸びをして。
     突然の出来事に驚くレイを見やり、ラーナは不敵に微笑んだ。

     大きく胸元が開いた黒いイブニングドレスを纏う秋沙。
    「あら。誘ってくれないの、男の子?」
     目のやり場に困るリュカに対し、此処ぞとばかりに胸元を見せつけ、誂うように笑い。
     一方のリュカは頬が真っ赤に染まる。大人の色気は恐ろしいけれど――気を取り直して。
    「お姉さん、どうかボクと踊っていただけませんか?」
     恭しく手を差し伸べ、今宵の相棒たる秋沙へ一礼。
     密着シスギ? 当タッテル? 欧州紳士ハ狼狽エナイ! の精神でダンスを楽しんで。

    「お手をどうぞ、ナータ。会場まで御連れしますよ、ミーラヤ・プリンツェーサ」
     着慣れぬ燕尾服を身に纏い、ヴィタリーはナタリアへと一礼。
     ナタリアは「頼りにしています、ヴィッター」と柔和に微笑み、手を差し出して二人で会場へ。
     ヴィタリーのリードはぎこちなくも、力強くて頼もしい。
    「……ヴィッター、少し大きくなりましたか?」
     そうナタリアが訊ねれば、「まだまだ、オレも成長途中だしね」とヴィタリーは笑って返した。
     成長を感じて、そして成長を感じてもらえて、二人の顔には嬉しさが滲む。

    「誘った手前だ、リードはさせてくれ。……不格好かも知れないが」
     燕尾服を何とか着こなして、真心がユーリアへ誘いを申し込む。
    「Ja では、宜しくお願いします」
     ユーリアは常の無表情のまま、誘いに応じて手を差し出した。
     赤いドレスの裾がふわりと舞う。北欧出身であるが故に、ユーリアは寒さには強いのだ。
     シンは寒いのですか? ――そう訊ねながら、彼女は真心の胸へ飛び込んだ。
     寄り添っていれば、寒くはない。感じる微熱が、時間を長く感じさせる。

     朔楽の軍服姿は、まるで王子様のようだと花音は瞳を輝かせた。
     そんな花音へ朔楽は気取って手を差し伸べて。
     緊張で最初はぎこちなくも、楽しさで段々と気持ちも弾む。慣れてきた頃には、純粋に心からダンスを楽しんだ。
    「朔楽さんがリードしてくれたおかげで、最後のほうは踊れました。ありがとうございますっ」
    「僕も花音さんとダンスが出来て幸せだよ、最高の思い出だ」
     今宵もまた、素敵な想い出を紡げた。これからも、共に。

     さくらと知り合ってから二度目の聖夜が訪れた。
     去年から勉強したのだと凍路が話せば、
    「なら、安心してお任せできますね」
     さくらはふわりと微笑む。勉強したのは自分と踊る為? というのは自惚れか、それとも真実か。
     舞踏の終わり際、凍路は彼女を見つめて訊ねる。
    「このあと、もう少し付き合って貰え、ませんか」
     ――はい、喜んで。
     さくらは笑顔で誘いに応じた。
     黄昏が暮れようとも、二人の聖夜はまだ終らない。

     ――霧夜様、宜しければ私と一曲お付き合い下さいませんか?
     主人たる霧夜へ、巽は舞踏の誘いを申し出た。
     執事の言葉、そして差し出された手に、幾度か瞳を瞬かせ。
    「……まあ、たまにはいいだろう」
     滅多に誘いをしない巽からの申し出だ。彼の手に、霧夜は己の手を重ねる。
    「御身委ねて下さいませ、リード致します」
     穏やかな常の微笑はそのままに、巽は霧夜の細い身体を抱いてワルツを舞う。
     何にも変え難い幸福だと、巽はこのひとときを反芻した。

    「Merry Christmas、詩乃。そのドレス、とっても似合ってるよ」
     陳腐な台詞しか出てこないと大郎は己の語彙力を悔やむが、彼の言葉は詩乃の心にも届いていて。
     ダンスも終わりに近づく頃、舞踏の拍子に詩乃のヒールが折れてしまう。
     運んでくれますか? と訊ねれば、大郎は快く彼女を抱きかかえて。その隙に、詩乃は彼の頬へ口づけを。
    (「ふふ、大好きですよ。大郎くん♪」)
     彼の顔に浮かぶ感情は驚きか、喜びか――或いはその両方か。

    「ふふ……思い出すね、文化祭のあとのフォークダンス」
     舞踏会の光景に、海星はくすりと後夜祭の事を思い出す。
     あの時は緊張で逆にリードされていたけれど、今度は自分が……とルーチェは意気込んで。
    「僕のことだけ、見ていてくれれば良いから」
     真っ直ぐに海星の瞳を見つめ、ルーチェは告げる。
     舞踏の最後、手を握ったまま彼は訊ねた。
     ――少しは、頼もしく見えたかい?
     その言葉への答えとして、もちろんだと海星は笑ってみせた。

    「カティアさん……私を貰ってください。今日も、明日も、ずーっと。私の旦那様で居てください」
     曲の合間に、詩音からの突然の告白。
    「って、えぇぇぇぇ!?」
     驚きの声と同時、カティアは顔を真っ赤にしながらも首肯して。
     詩音もまた頬を赤く染め上げ、互いに紅潮が抑えきれぬまま。
    「お、踊りましょう!」
     カティアから発した言葉を機に、改めてダンス再開。
     いつもより少しだけ、近寄って舞踏を続けた。

     イルミネーションで輝くのは、何も景色だけじゃない。愛する小夜も一段と美しく見えた。
     秋邏の気持ちも膨らみ、彼は小夜を見つめて囁いた。
    「今日の小夜は、またさらに綺麗で……文字通りお姫様みたいだ」
     その言葉に小夜もときめいて。彼女もまた、今日の秋邏が王子様みたいだと想っていたからこそ。
    「今日が終わっても……わたしの王子様、で……いてください……」
     そう伝えた小夜の細い指先へ、秋邏は優しい微熱の口づけを落とした。

    「綺麗やねぇ……あ、雪!」
     黄昏の空から舞い降る雪を見つけ、想々はぱあっと笑顔を咲かす。
     そんな彼女の様子を見やり、「踊る?」と智之は手を差し伸べて引き寄せる。
     緩やかにくるり、と回って、ステップを踏む。智之が贈った薄氷のドレスも相まって、想々はまるで白雪の天使だ。
     対する智之も白銀のスーツが彼女とお揃いのようで、舞い散る雪たちが二人を更に飾り立てる。
     時間はゆっくりと過ぎてゆく。そんな一瞬すらも楽しくて、しあわせで。

     雪降る黄昏の舞踏会。
     それぞれのロマン溢れる物語の一幕に、儚くも美しい華を添えて。

    作者:貴志まほろば 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年12月24日
    難度:簡単
    参加:87人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 2
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