クリスマス2015~武蔵坂一長いブッシュドノエル

    作者:三ノ木咲紀

    「皆でブッシュドノエルを作らへんか?」
     教室に駆け込むなり、くるみはクリスマスケーキのパンフレットを高々と掲げた。
    「何ですか藪から棒に」
    「惜しい! 棒やのうて薪やね!」
     首を傾げる葵に、くるみはブッシュドノエルのページを見せた。
     薪に見立てたロールケーキに、ココアやチョコレートのクリームを塗って、フォーク等で木目をつけたクリスマスの定番ケーキだ。
     節を作ってより木に似せたり、果物やサンタのマジパンを乗せて個性を出したりと、一口にブッシュドノエルといっても色々なデザインがある。
    「いいんじゃないですか? クリスマスらしくて」
     教室にいた灼滅者達とパンフレットを見る葵に、くるみは指を振った。
    「でも、ただ作るんも面白ないやろ? せやから、皆で並んで一本のながーーいケーキを作ろう思うねん! 前の日に学園にあるでっかいオーブンで四角い生地を焼いといてな、当日皆で並んでクリーム巻いてデコレーションして、完成したらケーキの前で写真撮影しよう思うてんねん!」
     両手を精一杯長く広げたくるみに、葵は苦笑いを零した。
    「いいんじゃないですか? くるみさんらしくて」
    「せやろ! 焼いたケーキは持って帰ってクラスやクラブの皆で食べてもええし、せっかくやさかいお茶会開いてその場で食べてもええと思うねん」
     ケーキの生地は基本はチョコレート味だが、希望があれば他の味にもできる。
     中に巻き込むフルーツは自由。デコレーションも、基本のココア又はチョコレートクリームの上にマジパン細工の人形やフルーツを飾ったり、アラザンや粉糖を軽くかけても素敵だ。
     一人一枚を並んで巻くため、幅五十センチ×長さ三十センチのスポンジケーキを巻く。
     誰かに手伝ってもらっても、もちろん構わない。
    「最近いろいろ忙しいけど、クリスマスは皆で笑って過ごそうな!」
     くるみはにかっと笑うと、親指を立てた。


    ■リプレイ

     中庭に並んだケーキを見て、彩歌は思わず頬がほころんだ。
     世界一長いおすしを作る! とか、そういう感じの企画を、ぜひ一度やってみたいと思ってたのだ。
    「まずは作っちゃわないとですね」
    「そうね。今年はココアクリームに栗を入れて巻こうかしら。彩歌ちゃんはどうする?」
    「私は生クリームとイチゴかな」
     ふと隣を見た彩歌は、樹の手際の良さに思わず感嘆の声を上げた。
    「流石に師匠の手並みは違います」
    「……もう、師匠じゃないからやめてね」
     言いながらもクリームを塗ってフォークで模様をつけた樹は、ふと仕上げの手を止めた。
     いつものパウダーシュガーを、ピュアココアでビターな感じにしてみる。
     その隣で彩歌がチョコペンで木の模様を描いていた。
     出来上がったケーキは、お互い素晴らしい出来栄えだ。
    「また来年もクリスマス、やりましょうねっ」
    「そうね。楽しみだわ」
     楽しそうに微笑む彩歌に、樹は微笑みを返した。

    「マッキ様、そういえば2人でケーキ作るのって今回が初めてな気がしませんか?」
    「お、そうだよね? ふたりで初めての共同作業ってやつ?」
     優希那の声に何の気なしに言ってしまったマッキは、思わず赤くなって視線を逸らした。
     初めての体験にドキドキしながら、優希那もまた頬を赤く染めた。
    「初めての共同作業……。なんだか照れちゃいますねぇ」
     照れ隠しのようにマロンペーストを手に取った優希那は、はしゃいだ声を上げた。
    「中をマロンクリームにして、栗を巻き巻きしたいのですが、いいですかねぇ?」
    「僕もモンブランとか好物だし、栗で作ろうか!」
     栗づくしのケーキを想像したマッキは、緊張しながらケーキに手を伸ばした。
     おっかなびっくり巻くマッキの隣で、優希那もまた手をぷるぷるさせながら優しくゆっくり巻いていた。
    「巻き終ったらクリームを塗って飾り付けですね! これ乗せましょう、これ!」
    「お、いいね!」
     ケーキに乗せられたハートや星のマジパンが、可愛らしく微笑んでいた。

     目の前に置かれたスポンジに、サズヤは頷いた。
    「……みかんは、どの果物とクリームを巻き込む?」
    「あたしは……もちろん、おみかんなのよ。それに、いちごと桃も。クリームは……まっしろ生クリームなの」
    「なるほど……蜜柑も苺も、桃もきっと美味しい」
    「サズおにいさんは、なにをくるくるするの……?」
     にこにこ笑顔で首を傾げるみかんに、サズヤは選んだ食材に視線を落とした。
    「俺は……栗と、チョコクリーム」
     対照的な食材を選んだ二人は、仲良く並んで巻いていった。
     チョコクリームの上に雪だるまの砂糖菓子と金平糖、少し大きい星形のチョコ。サズヤのケーキは、まるで天の川だ。
    「わぁ……金平糖がおほしさまみたい。サズおにいさんの天の川、とってもすてきなの」
    「……ん。みかんの、デコレーション、楽しそう」
    「えへへ。ありがとう!」
     クリームの上にぱらぱらと銀色のアラザンを撒いて、サンタさんと雪だるまの砂糖菓子。みかんのケーキは、とても愛らしい。
     完成したケーキに、二人はハイタッチで喜び合った。

    「うにゃーっ、すごーくながーいのりまき!」
    「……あー、花恋さん、海苔巻きじゃありませんからね? ケーキでございますからね?」
     はしゃいだ声を上げた花恋の肩を、ロジオンはぽむ、と叩いた。
    「え、のりまきじゃなくて、これがブッシュドノエルになるの? あの?」
     はへー、と生地をしげしげ見た花恋は、見よう見まねでココアケーキ生地を巻いてみた。
    「うぐ、思ったより生地が柔らかい……。これ結構難しいぞ……」
     悪戦苦闘する花恋は、毛むくじゃらの肉球な手でくるくる巻くロジオンに感嘆の声を上げた。
    「しかし流石ロジー、手際がいいにゃあ。どうしたらそんなに上手に作れるのん?」
    「ダークネス形態のままでも、身体の使い方をしっかり把握すれば問題は無いものですよ。要は練習です」
     どこか得意げなロジオンに巻くのを任せた花恋は、フルーツの前で振り返った。
    「ロジーは、どんな果物が好き? 教えてくれたらモリモリ入れちゃうよぉ」
    「果物はそうですね、イチゴやアプリコット、ブルーベリーなどが好きでございます」
    「えへー、とびきり可愛いのにするね!」
     嬉しそうに微笑む花恋に、ロジオンはストロベリークリームも良いかと巻く手を止めた。

     抹茶クリームに栗の甘露煮をプラスして、得意の太巻き寿司作りの要領で巻き上げて。
     雪音は完成したケーキに、シュエットの手元をチラリと見た。
     シュエットはココアクリームにフォークで木目を付けて、枝のチョコレートと雪のホイップクリームものせていく。
     故郷の森の中を思い出し、赤い花弁と緑の葉っぱ飾りも添える。
    (「……赤と緑はクリスマスの定番だけど、雪音ちゃんと私の色みたいね」)
     ふと思ったシュエットの耳に、雪音の感嘆の声が聞こえてきた。
    「おおっ、雪の積もった森みたい」
     精密な仕事ぶりに感嘆のため息をついた雪音は、自分のデコレーションに取り掛かった。
     だが、なかなかうまくいかない。
    「茴香先生、ケーキの上のデコレーションがイマイチ決まりません……」
     雪音が示したケーキの上には、白玉を上下に二つ重ねただけの雪だるまがぽつんと佇んでいる。
     シュエットは、雪音のデコレーションに目を輝かせた。
    「雪だるま和風ケーキも素敵ね!」
     シュエットはマジパンの兎を、雪音のケーキの上にそっと飾った。
    「私の森から、マジパン兎さんがお邪魔しちゃいそうだわ」
    「隣の森から兎が現れた!」
     仲良く寄り添う二つの人形に、雪音は嬉しそうな声を上げた。

     大きな生地を前に、才葉は目を輝かせた。
     チョコチップを混ぜた甘いクリームを、生地に伸ばしてくるり巻くのは難しくて、端から溢れるクリームに大苦戦。
    「わわっ! 巻くの難しいなー?」
     楽しそうに悪戦苦闘する才葉は、隣の狭霧に目を輝かせた。
    「狭霧のいちごサンタさん可愛いな? 食べるのがもったいない」
    「ふふん、実は意外と家庭的なんすよー」
     狭霧は得意げに、苺のサンタさんを持ち上げた。
     チョコ生地に紅茶香るクリームを広げ、くるると巻く。
     その上から更にクリームを塗り、木目をつけてココアパウダーでお化粧してある。
    「後は、ケーキに置いていけば完成っすね」
     一気に作り上げた狭霧のケーキに、供助は感心した声を上げた。
    「狭霧はそつなくこなしそうだが……って可愛いなそれ」
    「キョウちゃんセンパイのは、ほんのり和のかほり……!」
     供助は基本のチョコ生地に、薄く甘さ控えめの生クリームと砕いた栗とナッツを巻いたケーキだ。
     クリームにフォークで木目を付け、抹茶のパウダーで彩りを添える。
    「えっちょっと待って。何で男子組が普通にハイレベルなの?」
     次々と出来上がるケーキに、瑠音は思わず焦りの声を上げた。
    「器用で料理上手なきょーすけ先輩のみならず、狭霧くんまで意外な伏兵だったんだね……」
    「瑠音っちのも男子に負けてない女子力……!」
     瑠音のケーキに、朱那は目を輝かせた。
     チョコ生地を生クリームで覆ったケーキには、ナノナノのマジパンとハート型のマカロンと苺が乗っている。
    「雪の上で遊んでるみたいでしょ? シューナちゃんは別枠で楽しみ♪ いっつもらしくて素敵だもんね!」
     朱那のケーキは、ビターなチョコクリームにラズベリーとオレンジピール混ぜて大人な味だ。
     外もクリームで覆ったら、細かく刻んだチョコを木の表皮の様に散らして。
     虹色に並べたカラフルな丸いチョコには、粉糖の雲がかかる。
    「じゃーん、大人カワイイ目指してみましたー!」
    「オレも出来たー!」
     どやぁ、と言いそうに微笑む朱那は、嬉しそうに両手を上げる才葉の声に振り返った。
     断面にチョコペンで渦巻きを描いて、アラザンが散らされたケーキはキラキラと輝いている。
     完成したケーキはいつも通りやっぱり不格好だ。
     だが、それでも完成したことが嬉しくて幸せそうに微笑む才葉に、全員が思わず笑顔になった。

    「みんなで美味しいの作ろうね」
     きりりと手を握ったましろは、生地の前でシャーロットを振り返った。
    「ロティちゃんは何にする? わたしはね、生クリームとつぶあんにしようかなぁ。ほら、白と黒でパンダっぽいし」
    「おおっパンダ可愛いよパンダ! ましろっぽいね!」
     にぱと笑ったシャーロットは、少し宙を見て考えた。
    「それじゃあ私は、イチゴとピーチとー、アラザン入れよっかな! ピンクとキラキラ好きだからねぇ」
     楽しそうなシャーロットの隣で、タージが首を傾げた。
    「……ブッシュドノエルって材木みたいなケーキだよね。誰がこんなおもしろい形を考えたんだろうね」
     感心したように呟くタージに、フォークで筋をつけていた清和はふと思った。
    「薪っていうか、もうこれ木じゃねーかなぁ。……よし! 枝を生やそう!!」
     清和は持ち込んだ小枝のようなチョコレートを、ハリネズミのようにブスブスとさした。
     お喋りしながらケーキを巻くタージに、ましろはそっと声を掛けた。
    「巻く時は中のクリームが零れないように気を付けてねー」
    「あれ、こぼれてた? ごめんごめん、ましろ」
     慌てて手を離すタージに、ましろは心配そう首を傾げた。
    「服、汚れてない?」
    「エプロンしてたから、大丈夫。似合うでしょ、子猫柄のエプロン」
    「よく似合ってるよ!」
     にっこり笑うましろに、タージは笑顔を返した。
     シャーロットはその隣で、アザランを手に取った。
    「上にも、銀とピンクのアラザン振りかけちゃうよー! ……ね、マハルはどんな飾りつけにした?」
     手元を覗き込んだシャーロットに、タージはクッキーを手に取った。
    「僕はのこぎりクッキーを刺してみようかな」
     ましろのケーキの上には、チョコプレートに『井の頭3-6』の文字。
    「みんなで写真撮影しよ♪」
    「いいね! みんなで、記念撮影だ、いえーい!」
    「これも卒業アルバムに載せてもらわないとね♪」
     きりっとした笑みを浮かべた清和の隣で、タージも嬉しそうに微笑む。
    「じゃあ、せーの……フライングメリークリスマース!」
     シャーロットの声に、全員は満面の笑みを浮かべた。

    「スケールのデカい最長記録に挑戦!」
     拳を握り締めた健は、腕まくりをしながらケーキに向き合った。
     栗の他に砕いた胡桃やナッツを混ぜ込んで歯応えを出したクリームを、くるりと巻く。
     フォークで筋や年輪を付けた表面には、スライスしたアーモンドやクランチ、苺やミントの葉を飾る。
    「茸や筍の形のチョコで、木に生えたみたく見えないか?」
    「健はテーマ性がはっきりしてて素敵ね」
     曜灯の声に、健は振り返った。
    「曜灯はこう言うのマジ手慣れてるな」
    「長さに挑戦するのはさすがに初めてよ?」
     苦笑いを零す曜灯は、特製ピーナッツクリーム入りクリームにドライフルーツを混ぜ込んだ。
     クリームを薄く塗った上に、六層重ねのパイを乗せて、さらにクリームを塗って巻く。
     外側はシナモンと砂糖をまぶして、型抜きしたべっこう飴で飾られている。
     その見事な構成に、陽桜は思わずため息をついた。
    「よーひちゃん、やっぱり手が込んでるねっ」
     目をキラキラさせた陽桜の手元を、健は覗きこんだ。
    「羽柴ちゃんは、クリームの中に何入れるんだ?」
    「あたしが巻くのは、これっ!」
     陽桜は抹茶のスポンジに、抹茶チーズケーキと抹茶クリームを芯にした、輪の小さなロールケーキを示した。
    「これを今回のスポンジで巻いちゃうの♪」
     外側はココアクリームに抹茶チョコの葉っぱ、削ったホワイトチョコでふんわりと飾られている。
    「陽桜の抹茶クリームのも美味しそっ」
     嬉しそうに陽桜の手元を見た勇介は、アールグレイの茶葉を練り込んだクリームをクーラーボックスから取り出した。
    「えへへ、家で頑張って泡立ててきましたっ!」
     早朝から数限りない失敗作が生まれた末の品なのは黙っておく。
     慎重に巻こうとして、上手く行かずに潰しそうになった勇介は、健のアドバイスで巻き上げる。
     だんだん出来上がる飾りに、全員の視線が集中する。
    「……、勇介、何しようとしてるの?」
    「ハロウィンが忘れられない感じ?」
     曜灯と陽桜の声に、勇介は首を傾げる。ケーキが段々、魔女が住んでいそうな雰囲気になっていく。
    「その、飾り付けてたんだけど……は、はろうぃんっぽい?」
    「それはそれで、ありなんじゃないかな?」
     滝汗をかく勇介に、陽桜のフォローが響いた。

    「……ケーキなんて作ったことないな。難しそうだけど大丈夫か?」
     少し不安そうに呟いた赤の耳に、女性陣の明るい声が響いた。
    「ひよ、おほしさま大すきでち! いっぱいパラパラまくでちー!」
     色とりどりのチョコを手にしたひよの隣で、砂羽は缶詰を抱えて微笑んだ。
    「さわは、フルーツ、いっぱい、入れる。オレンジ、パイナップル、サクランボ、かんづめ、つかうね」
    「コンポートした果物とジャムをいっぱい持ってきたよ。たくさんあるからみんなも使ってね」
     綺麗な色の瓶を調理台に置いたリコリスに、ひときわ大きな歓声が上がる。
     その様子に、赤は苦笑いを零した。
    「まあ、飾るだけなら何とかなるか。女性陣が殊更楽しそうでなによりだ」
     呟いた赤の隣で、リコリスがプレーンの生地にジャムを塗った。
     コンポートした果物も細かく切って一緒に巻いたケーキを前に、リコリスが腕を組んだ。
    「……問題はこの表面なんだよね……」
     クリームに筋をつけていくが、だんだん想像と違う感じになってくる。
    「これリアルに木肌って感じがする」
     考えながらも、リコリスは板チョコとパラソルチョコをくっつけた。
     ソリの上のサンタさんが、みんなに幸せを届けますように。
     思いを込めたリコリスの隣で、砂羽が一生懸命ケーキに木目をつけていた。
     何とか木目をつけたケーキの上に、砂糖のお菓子をいっぱい置く。
    「きいろい、ひよこ、ひよ。となり、白い、鳥、さわだよ」
     言いながら、砂羽はサンタを二つ乗せた。
     赤いろがかわいいサンタは、きっとリコリスと赤。
    「みんなで、ケーキ、上、立って、おっきな、ケーキ、食べる、みたい、した」
    「砂羽ちゃんのケーキかわいいでちっ! ひよも、ケーキにのせたいでち!」
     砂羽のケーキに目を輝かせたひよは、羽の形のチョコレートに目を輝かせた。
     黄色と、白と、黒と、赤の羽は、みんなを象っているようで。
    「ならべて、なかよしでちっ」
    「だな」
     頷いた赤のケーキの上には、メンバーに見立てた砂糖菓子が飾られていた。
     黒い子犬は赤を、白い小鳥は砂羽を。四つ葉のクローバーはひよを、蝙蝠はリコリスを、それぞれ表してる。
     出来上がったケーキに、砂羽が目を輝かせた。
    「あとで、みんな、いっしょ、しゃしん、とろうね」
    「たべるのもったいないでち。でも、おいそうでち! はやくたべたいでちー!」
     ひよは黄色い羽をパタパタとさせた。

    「これ、お伽噺に出来そうじゃない?」
     完成したケーキをご機嫌で撮影しているひよりの後ろ姿を、侑二郎は戸惑いながら見ていた。
    (「勇気を出してひよりさんを誘ってみたものの、出張柴くんちって感じがどうしてもぬぐえません」)
     スケッチブックも取り出してデッサンするひよりは、いつでも漫画に対して熱心で。
     思いながら、侑二郎もカメラを取り出す。
     ようやく撮影を終えたひよりは、ふと侑二郎を見た。
    「そういえば。侑二郎とは余りお話ししてないわね」
    「一度二人でお話ししてみたかったんです。せっかくの、クラブでも数少ない同級生ですしね」
    「男の子は男の子同士で遊ぶのが一番楽しいと思ってたんだもの」
     思えば、皆で出掛けた場所は多いけど、二人きりは新鮮で。
    「話してみたかったのはアタシもだし……」
     言いながらも段々恥ずかしくなってきたひよりは、照れ隠しにツンと視線を逸らした。
     そんなひよりに、侑二郎は微笑んだ。
    「今日はお付き合いいただいて、本当にありがとうございます。ひよりさんの作るおとぎ話、楽しみにしてますね。……帰りにケーキ、クラブの皆さんへ持っていきましょうか」
    「荷物は持ってよね、ふん」
     切り分けたケーキを押し付けたひよりは、部室へ向かって歩き出した。

     暖かい部屋に入った海は、蜜柑と林檎とクリームを沢山詰込んだケーキをテーブルに置いた。
     蜜柑は小原紅早生みかんという、赤い色が見た目にも鮮やかな蜜柑だ。
     林檎は蜜が多めな物を選んだ。
     まりいはクリームをたっぷり乗せた、苺のケーキを作った。
     海が林檎と蜜柑で作るようなので、違うフルーツにしたのだ。
     まりいは、苺をフォークで持ち上げた。
    「海君、苺食べる?」
    「食べる!」
    「あ~ん」
     クリームの乗った苺をまりいに食べさせてもらった海は、甘酸っぱい苺に頬をほころばせた。
    「甘くてなんだか幸せな味♪」
    「海君おすすめの蜜柑ってどんなのかな?」
     首を傾げるまりいに、海は蜜柑をフォークで持ち上げた。
    「あ、僕のも食べてね。はい、あーん」
    「あ~ん」
     頬張った蜜柑は甘くて、なんだか嬉しくなってくる。
     ケーキを美味しそうに頬張る海の横顔に、まりいはふと寂しさがよぎった。
    (「あと、一年とか二年とかしたら、もう「あ~ん」なんてしてくれないかなぁ?」)
     寂しさを首を振って追い払ったまりいはケーキを頬張った。

     くるみと葵の机の上に置かれた写真には、十六.五メートルのケーキと、三十三人の最高の笑顔が映っていた。

    作者:三ノ木咲紀 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年12月24日
    難度:簡単
    参加:31人
    結果:成功!
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