クリスマス2015~雪だるまが誘う銀世界

    作者:春風わかな

     街中が赤や緑に彩られ、クリスマスソングが耳をくすぐる頃、武蔵坂学園の伝説の樹も色鮮やかな電飾を施され巨大なクリスマスツリーへと姿を変える。
     窓の隙間から吹き付ける風の冷たさに思わず久椚・來未(高校生エクスブレイン・dn0054)は首元のマフラーを引き上げた。
    「あ、もうすぐ、クリスマス」
     今年も学園内では様々なイベントが企画されているらしく、宣伝のポスターを見たことを思い出し、來未はポツリと呟きを漏らす。
     ――ということは。
     今までのイベント時の流れが來未の脳裏を過ぎった。いつも通りであればそろそろあの子がやってくる頃か……。
    「來未ちゃん!」
     ぱたぱたと廊下を駆ける足音と聞き慣れた少女の声。
     やっぱり、と小さく唇を動かしながら來未は緩慢な動作で声の主へと視線を向け、誘いの言葉を待った。
    「あのね、聞いて! クリスマスにね、みんなでいっしょに雪だるま作ろうよ!」
    「雪、だるま?」
     反応の薄い來未の様子に不安を感じたのか、星咲・夢羽(小学生シャドウハンター・dn0134)はもう一度「うん!」と大きく頷いてみせる。
     ほら! と夢羽は來未の目の前にずいっと一枚のチラシを突きつけた。
    「グラウンドでね、みんなで雪だるまとか、雪うさぎとか……雪の像を作るの!」
     夢羽に促されるまま、來未は無言でチラシに目を通す。
     今年のクリスマス当日も学園のグラウンドには人工雪が降り、眼前には雪景色が広がる予定だという。このグラウンドに積もった雪で自由に雪像を作ろう、というのがイベントの趣旨のようだ。
     雪像の作成テーマに制限はない。人物やペット、建物や空想上の生き物もOKだし、装飾も自由だとチラシには書かれている。
     しかし、その一方で雪像のサイズは一般的な雪だるま位の物から、大きい物は2メートル四方サイズ位までを目安にしてほしいと注意書きが添えてあった。
    「大きいのも作りたいけど、一人だとむずかしいかな~」
    「友達同士で、一緒に、作れば、いいんじゃない?」
     仲間で協力して巨大な雪像を1つ作っても良いし、手分けしていくつもの雪像を作ってテーマを表現する、なんてのも良い。
    「そっかぁ! じゃぁ、ユメは小梅をモデルにして作ろう~っと! 來未ちゃん、手伝ってね!」
     可愛い雪だるまを作るぞ! と弾む気持ちを抑えきれずはしゃいだ声をあげる夢羽につられ、彼女の足元では小梅も嬉しそうに尻尾を振る。
     出来上がった雪像に装飾品を着けてあげるのも良いだろう。木の実や枝で目や口を作ってあげたり、マフラーや手袋を着けてあげたり等、自由にできる。
     グラウンドでは温かい飲み物も用意される予定だというので、冷えた身体を温めながら完成した雪像を眺めるというのも悪くないだろう。

     ――雪だるまたちと一緒に過ごすホワイトクリスマス。
     あなたも銀世界で楽しい一時を過ごしませんか?


    ■リプレイ


     見渡す限りの雪景色は見ているだけで心が躍る。
     白い息と共にあがる歓声。さっそく【Cc】一同はころころと雪玉を転がし始めた。
    「……し、しかくい」
     丸い雪玉を作ることがこんなに難しいとは――……。
     苦戦する昭子の視線に気づいたシェリーが「どう?」と声をかける。
    「綺麗に丸めるのって意外に難しいかも」
     二人親近感を感じつつ、頑張ろうと笑顔を交わした。
    「篠介は何にすんだ?」
     推し固めた雪塊を竹串で掘り進めながら問いかける紋次郎に、篠介は重ねた雪玉を前に暫し考え込む。
    「そうじゃな……母さんだるまでも作ろうかのう」
     暴雨は? と問われ、サズヤはゆっくりと顔をあげた。
    「んー……俺は、兎」
     雪玉が出来上がれば整形をして、細部を掘り、飾りを付けて。
     ペタペタ形を整え、若干四角い昭子の雪だるまの首元でちりりと小さく鈴が鳴る。
    「依子の熊は、でっかいのう……!」
    「リクエストにお応えして肉球も頑張りましたよ」
     ふふっと柔らかな笑みを浮かべる依子はぐるりと仲間たちを見回せば。
     紋次郎が作った特大サイズのランチュウに思わず目が奪われる。
     見覚えのある金魚に嬉しそうに頬を緩ませるアイナーに、サズヤが小さな雪兎を抱えて走り寄った。
    「どんなのが出来た? 兎と一緒に……並べたい」
    「ちょっと待ってな、今、顔をつけるから」
     みんなの雪だるまが出来たら、全員一緒に並んで写真を撮ろう。
     一期一会の、今日の記念に。

     白い巨大な雪のツリーにサンディはオーナメントを飾る。その隣でファムはモールをぐるぐると巻き付けた。
    「じゃぁ、俺も……」
     熱々の肉まんを飾るリュータを真似るファムを見て。サンディが大慌てで二人を止める。
    「……リュータさん、ちょっとカタグルマおねがいしまス!」
     サンディのリクエストにリュータは二つ返事で肩車。無事トップスターを飾り、サンディは満足そうに微笑んだ。そんな二人にファムはぐるりとモールを巻いてご満悦。
    「二人共、カワイイ、キラキラ!」
    「んじゃ、ファムもキラキラだー!」
     がばっとリュータがファムを捕まえ、3人皆モールでぐるぐる。
     途切れぬ笑い声はいつまでも響き渡る。

     かまちと七の前にどーんとそびえるゆうに2mはある巨大な雪塊。
    「……おい、ちょっと待てこれ……考えて大きくしような……?」
     かまちのツッコミも何のその。七は暫し考え込むとポンと手を叩いた。
    「んーかまくらにしよっか」
     七の提案にかまちもいいな、と頷いて。二人が入れるかまくら作りが始まれば。
     幼い頃の想い出と共に、楽しげな声を響かせ、二人は雪を掘り進める。

     楕円状に雪を集めて、ペタペタ、ペタペタ。
     雪兎の耳をどうやって作ろうか、と桜音は傍らの朱羽に視線を向けた。
     じっと朱羽の手元を見つめていた桜音は、彼の作る雪像に気づき「パンダさん♪」と嬉しそうな声をあげる。
    「上手く作れているだろうか」
    「うん! 雪兎さんも、パンダさん、一緒に並んで仲良しだね♪」
     マフラーを巻いて貰ったパンダを見つめ、桜音は嬉しそうに笑みを浮かべて頷いた。

     雪玉を作って、転がして。小さなスコップを手に雪像を形成して。
     大きな雪兎を作ろうと、まるで子供のように夢中で雪と遊ぶ紫月に柚羽は小さな雪兎を作る手を止め、静かに尋ねる。
    「しーくん、楽しいですか?」
    「楽しい」
     迷うことなく告げられた返事に、柚羽はほわりと微笑んだ。
     ――童心に帰るのも悪くないです。
     柔らかな笑みを浮かべる柚羽をそっと紫月も優しく見つめていた。

    「結構作るの大変だね~」
     ちょっと休憩しますか? とシェリカが差し出したのは温かいほうじ茶。
     冷えた手をお茶で温め、斬夜はずらりと並ぶサーヴァントの雪像たちを見回す。
    「でも、いいところまで進んだだろう? それじゃ、もう一仕事頑張るか」
     霊犬の刀を彫る作業へと戻った斬夜の隣にシェリカもちょこんと座り。
     完成したら記念に写真を撮ろうね、と約束を交わした二人の時間はもう少し続く。

     雪遊びなんて、いつ以来だろうか。
    「ビハ……いえ、にいさんも手伝って下さいますか?」
     みをきの願いに黙って頷くとビハインドも一緒に雪玉を転がし始めた。
     目指すは3段雪だるま。せーの、と声を合わせて持ち上げようとする雪玉はずしりと重い。何とか乗せてしまえば後は飾り付け。
    「カノウ、もうちょっとその辺……そうそう」
     雪だるまの首に布を巻くカノウにカナキは指示を出す横で。
    「お前、そんなんつけるのかよ……」
     ハート飾りをつける煉を見て、思わず漣香は溜息を漏らす。
     完成したのは【じゃすぺ】3人だけの雪だるま。
     ――それじゃ、もう後2体、作ろうか。
     楽しげな笑い声をあげる3人をビハインドたちは愛おしそうに見つめていた。


     時間が過ぎゆくとともに、グラウンドのあちこちに現れる大小様々な雪像たち。
     クマ、ハムスター、ネコ……あっという間に春陽の周りに動物たちが大集合。
     そこは、まるで【ながれぼし】動物園。
     イケメン雪だるまの肩をポンと叩き、ドヤっと希沙は梛に顔を向ける。
    「ほな、きさの雪だるまが園長さん! ちなみに名前はナギー園長です」
    「園長……男前すぎじゃね?」
     雪兎を作りながら真顔で呟く梛の傍ら、ゆるだるまを完成させた希はシグマを探していた。
    「呼んだか?」
     クックと悪戯めいた笑みを浮かべ、ひょっこりと顔を覗かせたシグマが指差した先にはぐるりと並んだ雪兎たち。
    「何時の間にか、雪兎に包囲されてる!」
     雪遊びに夢中で気づかなかった、と春陽は悔しそうに唇を噛んだ。
    「どうだ! 可愛いこいつらを踏み倒せるかな!?」
     ふふん、と得意気な表情を浮かべるシグマが可笑しくて。
    「いや、シグマの方が可愛いよ」
     希はくすりと笑みを零して手招きを一つ。
    「写真撮るから、こっちにおいで」
    「何!?」
     雪兎バリケードで行けない――!
     慌てるシグマに梛が手を差し伸べてひょいと引っ張る。
    「さて、どっちの手が冷たいかな」
     梛の手から首元を死守するシグマの声が、青空へと吸い込まれていった。

     一心不乱に雪像を作っていたオリキアが満足そうな表情を浮かべてジンを見る。
    「出来た……! 巨大今川焼き像ー!!」
     ドヤ顔のオリキアに負けじとジンも声をあげた。
    「甘いよ、おりりん――秘技!『皿に乗った今川焼き!!』」
     負けたと肩を落とすオリキアに「でも」とジンは声をかける。
     ――おりりんと一緒に作ったことになるから、おりりんの勝ちとも言えるかもね。
     甘いジンの一言によりこの勝負、オリキアの勝利!

     プチトマトの目に、細い枝で口を描いて。ちょろりと出した舌はリンゴの皮。ちょっと頭でっかちなのはご愛嬌。
    「見て! 完成ー!」
    「おぉ、可愛らしくなったじゃないか!」
     晶の声に巳桜も嬉しそうに笑顔を向けた。
    「ふふ、本物のシャーリィも嬉しそう」
     喜ぶ白蛇のシャーリィも一緒に。
     晶と巳桜は両手をあげて、二人で作った力作の前でハイタッチ。
     パンと二人が鳴らす手の音が青空の下で響き渡る。

     『しあわせうさぎ』を二人で作ろう。伊織と並び、殊もころころ雪玉を転がしていた。
     器用に雪兎を作る伊織とは裏腹に、殊が作っているのは狐顔。
    「ってあれあれ? 狐みたいになってはるね」
     くすくすと笑みを零す伊織に殊は思わずむぅっと口を尖らせる。
    「き、狐にするからいいもん!」
     殊が作った2匹の狐はいつも傍にいる影に似てて。
     完成したら、写真を撮って。二人の想い出に記念の一枚、また増やそう。

     空煌と二人で作った雪だるまにシェスティンはふわりとお揃いの白衣を着せ。可愛いお顔のお医者様雪だるまの完成だ。
    「雪だるまの、医者、素敵だと思いませんか、空煌君」
     ゆっくりと語りかけるシェスティンに空煌はこくこくと何度も頷く。
    「うん、いいね――そうだ、折角だから写真も撮っておきたいね」
     楽しい想い出はいつも一緒にいたいから。
     携帯を取り出す空煌にシェスティンもにっこり微笑んだ。

     体用の雪玉に、頭の雪玉を乗せたところで一休み。
     桃が用意した温かいココアが冷えた二人の身体を暖かく包む。
    「やっぱさ、皆でわいわいするのもいいケド、桃と二人で遊ぶのも別の楽しさがあるな!」
     笑顔を浮かべる稀星に桃もにこりと頷いて。
    「そうだね、二人で、というのも楽しいね」
     この雪だるまが完成したら、写メを撮って皆にも送ろう。
     でも、出来上がるまでは二人きりだから。もう少し、このまま二人で――。

    (「この先の作り方、何かよく分かんない……」)
     胴体だけの雪だるまを前に、良顕はマグカップを両手で抱えてぼんやりと見つめる。
     傍ではモデルを命じられた霊犬の小梅が動かないでじっと我慢。
    「夢羽、手伝いに来たわよ」
     曜灯の姿を見つけ、嬉しそうに手を振る夢羽の横には歪な雪塊が転がっている。
     皆で一緒に造りましょう、と恵理が置いた大きな雪塊を紗月や來未も一緒に掘り始めた。
     やる気だけはある夢羽に曜灯も恵理も助言は惜しまない。
    「あ、そこ……手をこうして。こう握ると……そうそう」
    「わぁ、ちゃんと小梅のお耳になった……!」
     まるで姉のような恵理に紗月はくすりと笑みを零した。
    「よしっ、ボクは隣にトワを作ってみましょう!」
     鼻歌まじりに雪玉を転がす紗月に、來未も「手伝う」と一緒に雪を集め出す。
     夢羽を手伝う合間を縫って、曜灯は可愛い雪の動物たちを次々作りあげ。
    「そうだ、一緒に大きなのも作ってみない?」
    「いいねー、作るー!」
     クマとかどう? と曜灯の誘いにぱっと顔を輝かせ、夢羽は雪原に駆け出して。
    「……仕上げ、やらなきゃ」
     黙々と小梅像に向き合う來未を、恵理が作った4体の小さな雪像が優しく見守っていた。


     雪があるだけでなぜかテンションはあがる。
     わいわいと賑やかに雪像を作っていた【フィニクス】の仲間たちに鈴音は声をかけた。
    「皆さん、お疲れ様です! 此処でちょっと一休みしましょう」
     鈴音の声にいそいそと集まる皆に勇弥は珈琲を差し出した。珈琲とココアをブレンドしてマシュマロを浮かべたもので『モカ・カリエンテ・ジャパネサ』という。
    「温かで美味なるお飲み物をいただき、しやわせ……!」
     珈琲の温もりに酔いしれながら、バンリは皆が作った雪像に視線を向ける。
     さくらえの作った加具土雪だるまの周りにバンリが作ったカフェの仲間たちを模した雪だるまが並び。迫力のある昇竜の雪像は健の力作だ。2羽の雪兎も愛らしいが……あれ? 今、片方動いた?
     珈琲とお菓子で身体を温め、元気が出たところでさくらえが笑顔で仲間たちを見回した。
    「ね、もひとつ、不死鳥みたいな大きな雪像も作ってみようよ?」
     さくらえの提案に最初に「いいな!」と賛成したのは健。
    「ココのカフェらしいモチーフと言ったら不死鳥って思ってたし!」
     鈴音とバンリも一緒に作ると笑顔で頷く。
    「よし、それじゃもういっちょ頑張るか!」
     立ち上がった勇弥はふと仲間が一人足りないことに気付く。
    「あれ? 実くんは……?」
     そこへ、とことこと近寄ってくるクロ助。口元を見ればぶるぶる震える白兎の姿が。
    「実くん、いつの間に兎に!?」
     慌ててタオルで包み、冷えきった実の身体を温めるのだった。

     クリスと桃夜が作るのは、巨大な巨大な雪兎。耳はバナナの葉で目はリンゴ。仕上げに普通サイズの雪兎を周りに並べれば完成。
    「うん、これで完璧!」
     満足そうにクリスは桃夜を見上げて口を開く。
    「ねぇ、トーヤ。あの時の雪兎みたいになったかな?」
     もちろん、と桃夜は優しく頷いて。
    「かなりそっくりになったんじゃない?」
     ――また、あの雪兎に逢いたいね。
     ぎゅっとクリスを抱きしめた。

     去年はビックきしめんを作ったから、今年作るのはミニきしめん。
    「きしめん、モデルなんだぞ。じっとしてろよ~」
     小次郎の言葉にきしめんは笑顔を浮かべちょこんと座る。
     無心で作業に専念する小次郎とは裏腹に、早速飽きた葉は悪戯開始。小次郎の服の中にドサリと雪を入れた。子供の顔して悪戯を楽しむ兄を横目に、瞬は小さく溜息をつく。
     花飾りは左耳。5円玉を首に付け。
     完成した雪像を手に、葉は小次郎と瞬に声をかけた。
    「ミニきしめん持って、記念撮影しよーぜ」
    「じゃぁ、きしめん真ん中がいいな」
     瞬の言葉に3人はきしめんを囲んでシャッターを切る。
     ――その顔は、きしめんとお揃いの満面の笑み。

     【いも部】究極の雪像を作るため、仕上げに悩む舞依とサキ。
    「言っておくけど、巫女服仕様になってしないわよ……」
     ジト目の舞依に熾はきっぱりと首を横に振った。
    「それよりも二人とも見てくれ!」
     ババーンと熾が取り出したのは巫女さん雪像(サイズ60cm)。
    「何時の間に、そんなの作って……」
     呆れ顔のサキの手には雪玉が。嫌な予感に熾は慌てて巫女さんを隠そうとする、が……。
    「お兄様はまた変な雪像作って!」
    「それ、他の人に見せるのは、ちょっと恥ずかしいし、ね」
     二人が投げた雪玉が巫女さんに命中!
    「あぁ、オレの渾身の雪像が……!」
     壊れた巫女さんを前に、がくりと熾も崩れ落ちた。

    「わーい、できたーっ!」
    「完成ですー」
     嬉しそうな声をあげ、潤子は傍らの真琴とパチンと手を合わせる。
     お揃いのケープを身に着けた自分たちそっくりの仲良し雪だるま。
    「そうだ、記念に写真撮ろうか」
     潤子の提案に真琴は笑顔でハイ、チーズ。
    「ふふっ、わたしたちの中の良さも負けませんよね」
     続きは温かい飲み物を飲みながら。二人は仲良く手を繋いで歩き出した。

     完成した猫かまくらにくるりは一番乗り。そして、歓声をあげながら中へ入ってくる【股旅館】の仲間たちを迎える。
    「メリークリスマース! さぁ、父からのプレゼントであるぞ!」
     くるりが皆に振舞うのはほかほかの鯛焼き。
    「わーい、熱々の餡子の甘さが舌に……って、クリーム味だコレ!」
     予想と違う味だが、熱々クリームも美味しいよね、と虎次郎は嬉しそうに鯛焼きを頬張った。
    「くーさん、おかーさんも、おつかれさまでしたー」
    「あたしからはクリスマスらしくジンジャークッキー、焼いてきましたよ」
     華月が持ってきた温かいお茶を飲み、安寿が持ってきたクッキーを齧り。式夜はぬくぬくとかまくらで暖を取る。
    「……ん? なんだ、お藤。すにこに雪像作って貰って嬉しそうだな」
     式夜の足元で嬉しそうにはしゃぐ霊犬のお藤だったが、ストレリチアの作った雪像のモデルはオオカミ変身した自分自身。事実を告げないのも主の優しさだ。
    「うぅー取れませんの……溶かした方が早いでしょうか」
     雪玉まみれになった尻尾を相手にストレリチアは大苦戦。鯛焼きの熱で手を温め、必死に雪を融かす彼女に華月も加勢して懸命に雪を払う。
     ――また来年も、皆でこうして集まって。楽しいことがやれたらいいね。
     安寿の笑顔に全員が元気よく頷いた。


     ――あの、一緒にゆきだるま作りませんか!
     陽太の誘いは嬉しかったけど、彩澄は今日もやっぱり恥ずかしくて。会話はおろか、陽太の顔を見ることもできなくて。
    (「二人でいると落ち着かない……!」)
     陽太が差し出すドリンクを「ありがとう……」と受け取るも。悲しげな彩澄を陽太は心配そうに見遣る。
    (「一体、どうしたのでしょうか、彩澄さん」)
     不思議な気持ちに決着がつくまで、もう少し、もう少し――。

     家族で過ごす二度目のクリスマス。
    「リギーお姉ちゃん」
     名前を呼ばれて顔をあげたリギッタの前に、リアが雪兎をのせた両手を差し出した。
    「えへへ、雪ウサギさん、かわいくできました、です……!」
    「……ああ、とても可愛い雪ウサギができた」
     満面の笑みを浮かべるリアの頭をリギッタは優しく撫でる。
     はにかむリアの手の上で、雪兎の耳についたパンジーがふわりと香った。

     二人でひとつの雪だるま。表面を滑らかに磨き、ボタンをつければ瑠羽奈担当の胴体は完成。ミルドレッドも海苔やニンジン、木の実で顔を作るが……不恰好なのは否めず、しょぼんと肩を落とす。
    「うぅ、ごめんね、不器用で……」
    「こ、これは中々味があって素敵な雪だるまですわね! ね!」
     自分を励ます瑠羽奈の気持ちが嬉しくて。
     ミルドレッドは瑠羽奈の頭をそっと撫でた。

     羽衣と織兎の周りを雪だるまと雪兎たちがぐるりと囲む。
     幼い頃に想いを馳せ、羽衣は無邪気に雪像を作る織兎の手元をひょいと覗き込んだ。
    「これは……まーまれーどさん?」
     愛らしいウィングキャットの雪像は、まーまれーど本人も吃驚の完成度。雪像の首元で鈴がチリンと鳴る。
    「記念に羽衣ちゃんもいっしょに写真とろ~」
     雪はいつか溶けてしまうけれど、今日の楽しさはいつでも思い出せるように。

     音雪はナノナノのちまさんと並んで雪玉に顔を描いて。最後に芍薬を耳に飾ればちまさん雪だるまの完成だ。
    「じゃーん! 嵐さん、いかがですか?」
     得意そうな音雪に嵐は柔らかな笑みを浮かべる。
    「大きな雪兎もできたよ。……どうかな?」
     嵐が差し出した雪兎はとても可愛くて。思わずぎゅーっと音雪はウサギに抱きついた。
     記念にと二人一緒にデジカメでパシャリ。
    「メリークリスマス!」

     「せーのっ」で二人力を合わせて体に頭をのせたら、ここからが本番。
     顔を描き、頭には赤いバンダナを巻いて。嬉しそうな麒麟の隣で司はじっと雪だるまを見つめる。
    「……もしかして、これ僕?」
     本人も思わず「似てるかも」と呟きを漏らす出来栄えに麒麟はにこりと笑みを浮かべた。
    「きりん、ちょっとうまくできたかもって思ったよ」
     雪だるまのつかさも一緒に、3人で。楽しい時間はゆっくりと流れる。

     錬が差し出したココアを受け取り、陽菜は美味しそうに一口。いつまでも見ていたい気持ちを抑え、錬は小さな雪兎を陽菜の手に乗せる。
     かわいいなぁと微笑む彼女の横顔が綺麗で。思わず「……綺麗だな」といつもの呟きが漏れた。
    「あ、ありがとう……いっつも」
     頬を染めた陽菜が慌てて錬に小箱を渡す。中身は、指輪。
    「メリークリスマス……って、これ」
     プレゼントを握り締め、錬は無言でぎゅっと陽菜を抱きしめた。

    「少し寒そうですかね?」
     冬空の下で佇む2体の雪像の首元に想希はくるりとマフラーを巻き付けた。
     これで、寒くない。
     笑みを浮かべるや否や、今度はくしゅっと想希がくしゃみ。
    「っと、想希大丈夫か」
     慌てて悟がロングマフラーを想希に巻き付けぺたりとくっつく。
     ほっこりや、と笑顔を浮かべる悟はスマホを取りだし、カシャリ。
     金色の瞳と藍色の瞳の雪像たちの向ける眼差しも、温かかった。

     完成した二人の雪像を前にコルトと天草はちょっと一休み。
     ふふっと悪戯めいた笑みを浮かべ、コルトは天草にキスをしようと顔を近づける。だが、寸でのところで天草が親指でコルトの唇を抑え、口を開いた。
    「お前が好きだ。俺と付き合ってほしい」
     突然の告白に頭が真っ白になりながらも、コルトは言われるがままに目を閉じる。
    「……魔女と付き合うなんて、後悔しても知りませんわよ」
     二人の唇が静かにそっと重なり合った。

     グラウンドの隅。七星は儚に抹茶ラテが入ったマグを差し出す。
     七星が作ったはなうさの隣に寄り添うのは儚が作ったライオンの雪像。
     頑張ったけど……と真っ白なマフラーに儚は顔をうずめ。
     七星はそんな彼女の名を呼び唇を重ね、言葉を紡いだ。
    「すき、だいすき。な、儚は?」
    「私はね……」
     二人笑い合える、今この時間が、一番幸せなとき。
     キラキラと星のように瞳を輝かせて問いかける七星の耳元に口を寄せ。
     儚はそっと囁きを零す。
     ――もっと、大好き。

     雪だるまや雪兎。皆が作った雪像たちでグラウンドは賑わいを見せる。
     幼い頃の想い出を胸に、大切な人と、かけがえのない仲間と過ごす、特別な一時。
     大切な聖夜の想い出は、皆の写真と記憶にしっかりと刻み込まれた。

    作者:春風わかな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年12月24日
    難度:簡単
    参加:82人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 4
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