ネコをあがめよ

    作者:空白革命


     ネコというのはとんでもなく強い生き物だと思いませんか。
     虎やヒョウは確かに強いですし、なんなら恐竜が現代によみがえったらニューヨークなんてこっぱみじんかもしれませんが、かれらは巡航ミサイルを受ければ一発でおだぶつです。
     そのてんネコは強い。ネコが肉球をにぎにぎしてミャーと鳴いたなら、ミサイルの発射スイッチなんて押せないでしょう。
     なぜならネコは可愛いからです。
    「だから最強を求めてネコをあがめる人々が現われるのは、当然のことだよね。そんな都市伝説が実体化してしまうのも無理ないよ」
     うんうんと腕組みして頷くネコ着ぐるみの人。
     またの名を風雅・月媛(通りすがりの黒猫紳士・d00155)。
     全員は彼女を指さして、似たようなことを言いました。
     要約すると。
     『Is it you?』
     
     私のことじゃないよと釘を何本もさしてネコさんが言うにはだ。
     とある廃墟に発生した実体化都市伝説『ネコをあがめるグラップラーの会』略して『ねぐら会』はネコの着ぐるみを着た者たちが日夜ネコに祈りを捧げて筋トレを繰り返している……らしい。
     ゆーても都市伝説なので人が迷い込み次第エンカウント即デストロイである。
     放って置いたらネコの餌食である。ちがうねこまんまって意味じゃない。
    「話によるとネコパンチやネコキックで戦う武闘派なんだ。さすが最強生物だよね。ネコは最強だよ……間違いないよ……」
    「「…………」」
     だまーって自分を指さす仲間たちに両手を掲げてみせる月媛。
    「だから私のことじゃないよ!」


    参加者
    ミリア・シェルテッド(キジトラ猫・d01735)
    風祭・爆(凶悪灼滅者・d05984)
    木元・明莉(楽天日和・d14267)
    綺堂・ライ(狂獣・d16828)
    魅咲・狭霧(中学生神薙使い・d23911)
    四戸・志途(しとしと・d33823)
    立花・環(グリーンティアーズ・d34526)
    神無月・優(殺意に彩られたラファエル・d36383)

    ■リプレイ

    ●なかのひとなどいない
     ミリア・シェルテッド(キジトラ猫・d01735)はネコスーツのジッパーをあげ、きりっと目を光らせた。
    「ネコをあがめる会ですか。略して……『ねこちぐら』」
    「『ち』はどっからきたんだよ。どっかの居酒屋みてえな名前だな」
     瓶に新聞紙ねじ込みながら適当な返事をする風祭・爆(凶悪灼滅者・d05984)。
    「気が合いそうな人たちなんだけど、そこは本物のネコじゃないとね」
     どっかから買ってきたらしいネコの着ぐるみを着用する木元・明莉(楽天日和・d14267)。
    「おう、ネコもどきを容赦するつもりはねえぜ。ネコは鍛えるもんでもあがめるもんでもねえ、愛でるもんだぜ!」
     綺堂・ライ(狂獣・d16828)は懐に入れた子猫を指で撫でた。
    「同感です……」
     四戸・志途(しとしと・d33823)は晴(ウイングキャット)を両手で抱っこすると、額をあわせてぐりぐりし始めた。
    「やっぱり晴が一番かわいいのです。ふてぶてしい顔とか……」
    「この流れ……わたしも着ぐるみ持ってきたほうが良かったでしょうか。クリーニング中なんですよね」
     体操服をきゅっと伸ばしてみる魅咲・狭霧(中学生神薙使い・d23911)。
    「いや、別に必要ないだろう」
     眼鏡をちゃきっとやる神無月・優(殺意に彩られたラファエル・d36383)。
    「……ふと気になったんだが、着ぐるみのクリーニングってどういうことなんだ」
     一般的なイベント着ぐるみの洗浄には色々方法があるが、専門業者に出すと高圧水流でびゃーっとやるらしい。洗車みたく。値段は一万から二万と言ったところだ。趣味で着るには少々値が張るアイテムだ。そう考えるとESPの『クリーニング』は偉大である。
    「ま、折角です」
     立花・環(グリーンティアーズ・d34526)はぴちぴちしたマグロめいた何かを担いで眼鏡のフレームをなぞった。
    「いっそのこと、頂いてしまいましょう。『中の人』抜きで」

    ●ネコグラップラー
     教会と呼ばれるなんかの建物内で、ネコの着ぐるみを纏った誰かがダンベルを上下させながらあえいでいた。
     その横では筋トレマシーンを使って腹筋をいじめ抜き、その横ではパンチングボールに只管小刻みなネコパンチを入れ続けている。
     ある種狂気とも言える光景の中、飛び込む一つの瓶があった。
     瓶は炎を纏い、地面に当たって砕けると同時に火炎をまき散らしていく。
    「何者だニャア!」
    「過激派の討ち入りかニャア!」
     団塊世代みたいなこと言ってダンベルを放り投げるネコぐるみ。
     すると窓をかち割って爆が身を乗り出してきた。
    「バァハハハハハ! 武蔵坂保健所からやって参りましたァ! 出迎えくらいしやがれってんだオラァ!」
     ガトリングガンを構える爆。
     トリガーを引いて右から左へ掃射。鉛玉が跳ね回り火炎も燃えさかる屋内を、ネコぐるみたちは俊敏に散開しはじめる。
    「ニャニャー!」
     壁を蹴ってとびかかるネコぐるみ。
     そこに明莉が割り込んだ。
     岩をも砕くネコパンチを両腕のガードでしのぐと、ネコぐるみを蹴り飛ばした。
     でもって爆の前に着地。
    「あれだけ止めたのにキッチリ放火してるんじゃない! まずは一緒に筋トレでもしてネコ愛をだな……!」
    「おめえもおめえで都市伝説と愛が語らえるわけねえだろ!」
    「ええいお前ら仲良くしろ!」
     頭の上に子猫をのせたライが腕に電撃を溜めて振り返った。
    「「お前はネコを連れてくるな!」」
    「心配ない。こいつは俺が守る。どこにいてもな!」
     ニャニャーと言いながら跳び蹴りを繰り出すねこぐるみを影業の壁でもってガードすると、ライはガードの内側からパンチを叩き込んだ。コートのポケットにすぽんと飛び込む子猫。
     優は一キロダンベルを上下させつつ自主的にスポットライトを浴び肩を流れる汗をカメラに強調した。
    「さすが、最近の灼滅者は自由だな」
    「この人たち、割と昔から居ますよ」
     爆に至っては体験版の頃から居た。その頃からこうだった。ダークネスがお友達になっちゃう世の中でここまでブレないのも流石である。
    「それは、さておき」
     志途は晴に防御魔方陣を描かせると言霊を展開。周囲にしとしとと回復エナジーを降らせ始めた。
    「「ニャニャ!」」
     ファイティングポーズで突っ込んでくるねこぐるみたち。
     環はここぞとばかりにイカロスウイング。ねこぐるみたちの足や腕に分散した布を巻き付けていく。
     動きが鈍るのはほんの一瞬だが、その一瞬があればよい。
    「くらえっ、マグロランチャー!」
     環がマグロのお腹をぽこんと叩くと、マグロの口からびひゃーと溶解液が噴き出した。誰だこんなアイテム作らせたやつは。
    「「ギャアアアアアアアアア!!」」
     悲鳴をあげて解けていくネコぐるみ。
    「中の人などいないのかどうか、確かめてや……る?」
    「……」
     ネコぐるみの中には、ぶっちゃけ誰も居なかった。
     中には誰も居ませんよ状態である。
    「バーコードのバトラーかと思ったら……ナイスボートだと……?」
    「一つも意味が分からないんですが」
     世代的に生まれてるかどうかの志途。
    「その昔バーコードから体力攻撃力防御力を算出するデジタル玩具があってだな」
     絶対生まれてない筈なのに詳しく語る優(水平台でひたすら腹筋運動中)。
     その一方で。
    「あっあっ、ダンボールが、折角用意したネコさん用のダンボールがどんどん灰に……」
     冒頭の火炎瓶の影響で綺麗に燃えたダンボールをぱたぱたやって助けようとするミリアの姿があった。
    「ニャー!」
     左右から飛びかかるネコぐるみ。
     頭を抱えて身を守るミリア(よく見ると炎の翼がちっちゃくぱたぱたしている)とは対照的に、後ろから飛び出した狭霧が全身から殲滅道具を同時展開。
     交通標識とクルセイドソードをそれぞれ叩き付けてネコぐるみをたたき落とすと、エアシューズを装着して回転式着地。ダイダロスベルトに真空を纏わせると、周囲のネコぐるみに対して乱射し始めた。
    「ニャギャー!」
     何体かのネコぐるみが灼滅。中身も残さず消えていく。
    「ニャ!」
    「ニャニャー!」
     ネコぐるみたちは顔を見合わせた。ぱっと見ネタ要員だがこれでも武闘派都市伝説。
     それぞれのネコぐるみが別々の構えをとると、狭霧たちへと襲いかかった。
    「おっと、相手は俺だよ」
     明莉が間に割り込み、ダイダロスベルトを(着ぐるみの)腕や方に巻き付けていく。ぱっと見包帯まみれのネコである。
    「さあ来い、ネコ好き同士拳で語り合おうか」
     中身が美少女だったらいいなくらいの気持ちでファイティングポーズ。
     ネコパンチが顔面に炸裂するが、明莉も負けじと突きを繰り出す。
     明莉の突きはネコぐるみを吹き飛ばし、優が只管使用していた大胸筋トレーニング用マシンに激突。
     優は構わず大胸筋をいじめ抜き、ロッ○ーのテーマと玉の汗を流しながらフリージングデスとかマジックミサイルとか撃っていた。
     一方でネコパンチを食らった明莉。普通の着ぐるみを上から来ていただけなので、顔部分がべっこりいかれていた。
    「くっ、着ぐるみバトルもここまでか」
     頭を脱ぐ明莉に、志途が癒しの矢をグサっとやる。
     後頭部にグサッと、手に握って差し込んだ。
    「……」
    「志途は、実はとても怒っているんです」
    「今の怒りの表現なの?」
    「ネコは愛でるものなのに」
     後ろの方でネコぐるみと殴り合いの死闘を繰り広げる晴(ウイングキャット)。
    「ネコを怪我したむくいを受けて、滅びればいいのです」
    「矢をぐりぐりするのやめてくれない? 回復はしてるんだけど気持ちがさ」
    「だがその気持ち、俺が受け取ったぜ! 隠れてな、ヘカテにゃん!」
     ライは飛びかかってくるネコぐるみに向けてガトリングガンを乱射。
     ポケットから頭を出して手をちゃいちゃいするヘカテにゃんを押し込むと、ガトリングガンから怪光線を発射。ネコぐるみを撃滅した。
    「くっ、ネコと言いつつ中身は武闘派集団……はやくネコと戯れてえ……」
    「……」
     ならば早く終わらせようとでも言うように、狭霧はネコぐるみ集団の中へ自らダイブ。
     岩をも砕くネコパンチや大樹をへし折るネコキックをギリギリの所でガードしながら右へ左へ剣で切りつけ、駆け抜けていく。
     が、最後の最後でネコダイビングキックを受けて壁際へ。
    「だ、大丈夫ですか?」
     慌ててキャッチしたミリアが、防護符を取り出して狭霧にぺたぺたし始めた。
     追撃とばかりに四足走行で突っ込んでくるネコぐるみ。
    「はわわっ、ど、どうにかしないとっ……」
     ポケットに手を入れ、取り出したるは毛糸玉。
     これは違うと首を振り、けど折角だからと毛糸を弾丸化して投げつけた。
    「ニ゛ャ!?」
     額に当たった弾丸に驚いて転倒するネコぐるみ。
    「そこだァ!」
     爆はここぞとばかりにネコぐるみに放火。
    「とっとと脱がねえと火達磨だぜェ!? なんてなあ!」
     掴み上げ、地面にパワーボム方式で投げ落とす爆。
    「グヒヒヒヒ! トドメだぜぇ!」
     そこから容赦の無い零距離ビーム乱射。
     絵的に見たら普通にヒールである。
     そこへ環が参戦。
     ひときわ屈強そうなネコぐるみも参戦し、にらみ合いの状態になった。
    「ニャー!」
     タックルを仕掛けるネコぐるみ。環はマグロランチャーを叩き付けて軌道を反らすと、横っ飛びに相手をかわした。
    「そこだ、必殺――玉露ビーム!」
     マグロのお腹をぽこんと叩くとマグロの口から玉露のお茶がぼはーっと噴出。ネコぐるみに浴びせかけた。
    「ギャアアアアアア!」
     そして溶解するネコぐるみ。もう玉露じゃない何かだった。強酸性の何かだった。
     だがそれを最後に、環はマグロランチャーを床に立てる。
     周囲に敵影なし。
     灼滅者たちはネコぐるみの殲滅を完了した。

     後日談にならない程度の話をする。
     ネコをあがめる会の建物は軽く炎上したものの、なんやかんやで鎮火。元々周囲と離れた廃墟だったこともあって被害も無かったが、焼け落ちた絵画の裏に小部屋があった。
     入ってみると、ケースに入った着ぐるみが二つ。ヤマネコとサバトラネコの二種類が保管されていた。
     いや、保管では無い。なぜなら先刻の戦闘によって流れたサイキックエナジーが集まり、形成された物体だからだ。狭霧と環はこれを回収、持ち帰ることにした。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年6月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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