クリスマス2016~ヤドリギのキス

    作者:朝比奈万理

     晴れた空からちらちらと細かな雪が舞い降り、聖なる日を彩る。
     うっすらと積もる雪を踏みしめて、見上げた浅間・千星(星導のエクスブレイン・dn0233)の口がぽっかりと開いた。
    「いつみても大きなツリーだよなー……」
     彼女の視線の先には、武蔵坂学園が誇る大きなクリスマスツリー。
     深い緑の枝にはリンゴにボール、ベルにキャンディ・ケーン、ヒイラギにリボンが飾られ、所々に新雪が積もる。
     そして天辺には、ひときわ大きなベツレヘムの星がキラキラと輝いていた。
    「夜になったらライトが灯って、もっときれいになるよ」
     千曲・花近(信州信濃の花唄い・dn0217)も目を細め、夜の幻想的な姿を想い、目を細める。
     と。
    「……ねぇ千星ちゃん。あれ、なに?」
     クリスマスツリーの低い場所に見慣れない飾りを見つけた花近が、そちらを指差す。
     そこに吊るされているのは、赤いリボンで纏められた黄色味を帯びた緑葉を頂く枝の束。ところどころに白い実が付いている。
     よくみれば、クリスマスツリーの低い場所に、幾つか飾られていた。
    「あぁ、ヤドリギだ」
     ヤドリギは、ケルト神話や北欧神話では幸福、安全、幸運をもたらす非常に縁起の良い聖なる木。
     人々はクリスマスにヤドリギの小枝の吊るし、その下を通るときに幸福や安全、幸運を願っていた。それに付け加えて、未婚の男女の幸せな結婚を願う習慣が生まれたという。
    「へぇー、初めて知ったー」
     花近は目から鱗とばかりに感嘆の息をつく。日本の一般的な家庭で育った花近には、初めて見るその枝がとても新鮮で。
     うっすら積もった雪を踏みしめ、ヤドリギの下まで来るとぐっと背伸びをして枝先に振れる。
    「なんかロマンチック。ステキな習慣だねー」
    「この下で待ってる人にクリスマスプレゼントを渡し、待っていた人はプレゼントのお礼にキスを返さなければならないけどな」
    「えっ……キッ……!!」
     千星の発言に花近は思わず口を抑えた。冷たい指に振れる頬が熱い。
    「まぁ、プレゼントのくだりは後付けだけど、キスをするのは本当だ」
     と説明する千星は、目の前の顔を赤くする乙女のような男子に呆れ笑いを浮かべ。
    「……なにをそんなにあせってるのでありますか?」
     ウサギのパペットを操ってからかった。
     笑む千星を見、なんかひとりで変な舞い上がり方をしてしまったと、なおさら花近の頬は赤く染まる。
     それでも、はねた鼓動を感じながら、思うこと。
    「……この下で好きな人を待つ。この下にいる好きな人を見つけてプレゼントを渡す。どっちもドキドキするね」
     贈り物もキスも、誰かを喜ばせ幸せにする。
     このヤドリギが、皆をひと時でも、いや、この先も幸せに導いてくれるなら――。
     花近は自分の頭上のヤドリギを見上げ、もう一度指先で触れた。
    「このヤドリギの下で、みんなに幸せがなるといいね」
    「そうだな。素敵なクリスマスになるといいな」
     千星も、いつものように笑顔で頷いた。

     さぁ、ヤドリギの下で愛しい人を待とう。
     さぁ、ヤドリギの下の愛しいあの人に、優しいくちづけをしよう。
     今日はクリスマス・イヴ。
     愛も幸せも幸運も、奇跡さえも皆に降り来る日だから――。


    ■リプレイ

     紅音は大きく手を振って駆け寄る狼煙を迎え入れる。
     挨拶代わりに狼煙がぶっきらぼうに渡した大きな箱には黒地に真紅の蝶が刺繍されたドレス。
    「ありがと」
     照れてそっぽを向いている横顔に紅音が不意打ちのキスをすれば、慌てた狼煙の頭上に落ちるのはツリーから落ちた雪。
     同じく雪を被った紅音をそっと雪の中に押し倒して狼煙はそっとキスをした。

     茨が見つけたのは仲良く話をしている恋人ふたり。
    「センパイこっちこっちー、遅いよー」
     結奈に急かされて駆け寄った茨に、
    「今年も一緒に居られてうれしいわ」
     羽衣も笑む。
    「羽衣、結奈。ヤドリギの下で待つ君へ」
     茨が彼女たちの胸元に留まらせたのは青い鳥と白い鳩。
     鳥を指で撫でた羽衣が茨にキスをすると、満面の笑みで鳩を眺めていた結奈も。
    「ずっとずっと、大好きだよ」 
     キスを返して手渡したのは赤銀の箱。
     羽衣も青銀の包装紙の贈り物を手渡した。
    「オレも、嬉しいよ」 
     茨の笑顔に、ふたりは目線を合わせて微笑みあった。

    「待った?」
     史明が駆け寄ると朔之助は首を振る。
    「ま、待ってない!」
     だけど鼻の頭が赤い。笑んだ史明は彼女に贈り物を差し出した。
    「開けていい?」
     と尋ねつつも包装を解く朔之助。中身は毛糸の靴下。
     嬉しそうに靴下を眺めたり触ったりしている彼女に史明は、
    「何か忘れてない?」
     と顔を覗き込む。
     頬に宿る熱を感じながら朔之助は巻いていたマフラーを彼の首にかけて引き寄せてキス。
    「二回目もよろしくね」
     照れながらも史明が告げた言葉は彼女の幼い頃の記憶を掻き立てた。

     愛奈は絵梨香の前へと歩み寄る。
     クリスマスやヤドリギ云々は関係ない。恋人に感謝の気持ちと一緒に居たい想いを伝えたかったのだ。
     差し出したのはピンクのマフラー。
    「これからもずっと、あなたを愛してる。私が生きるのはそのためよ」
     あなたが一緒ならこわいものなど何もない。
    「ありがとう、うちも愛してるよ」
     絵梨香は愛奈の頬に唇に。暖かなキスを落として微笑み抱きしめた。

    「そんな所に立ってるなんて迂闊だネ」
     頭上を見て慌てる花近にローラはケーキ箱を差し出した。
    「ここで男女が出会ったらキスをしなきゃいけないんだから」
     と、瞳を閉じてやや口をすぼめるローラ。その実、からかっているのだ。
     しばらくして額に何かが降りた。

    「お姉ちゃん、ごめん、待ったかな?」
     やっと現れたサーシャの身を案じていた悠花は、何かあったのかと心配していた。
    「レディを待たせるとは何事ですか!」
     言葉の後に漏れる安堵の息は白く消える。
    「ごめんね。はいっ」
     贈り物は悠花に似合う花のペンダント。
     いいセンスじゃないの。とサーシャを褒めた悠花がサーシャを見れば、彼は真っすぐ自分を見据えてた。
    「ありがとう」
     顔を寄せられ目を閉じたサーシャの唇に降りたのは優しく愛しいキスだった。

    「紅緋先輩。ごめんね。待たせちゃったかな?」
     息を切らせたエミリオが紅緋の前に立つ。
    「これ、クリスマスプレゼント」
     差し出された包みを受け取った紅緋の、憂いを帯びていた表情が緩む。
    「……ありがとう。キス、は?」
    「キ、キっ?!」
     赤面し慌てるエミリオ。
     ここがヤドリギの下だということも、キスをしなければならないことも彼は知らない。
    「来てくれただけで大丈夫です。リオさんには、自分で思っている以上の力があるんですから」
     その言葉はエミリオをさらに困らせた。

    「詩音さん。待たせ……ちゃいました?」
     カティアが声を掛けると、緊張していた詩音の表情がパッと明るくなった。
    「すみません、ちょっと悩んじゃって」
     カティアが差し出したのはネックレス。
    「受け取って、もらえますか?」
    「ありがとうございます」
     詩音が抱きつけばカティア彼女を受け止め、触れる唇も受け止める。
    「実はお返しのプレゼントがあるんです」
     カティアの手を取り自分の胸に当てる詩音。体を寄り添わせて彼女を見上げた。
     誰にも見られないように――。
    「受け取って貰えますか……?」
     私を。
     カティアは優しく笑んで頷いた。

    「お待たせしました、七葉さん」
     笑んで彼女に駆け寄る紅詩の手には小さな箱。
     将来のことは二人でよく話をする。だけどいざその証をと思うと……。
     だけどここは男性である自分がと、彼女の指に通すのは指輪。
    「七葉、私のフィアンセになってくれますか?」
    「不束者ですけど、よろしくお願いします」
     笑みの後に抱き着いて紅詩の唇にキスを。
    「プレゼントのお礼、だよ。素敵な旦那様」
     笑む彼女の頬はヤドリギを束ねるのリボンのように赤く染まっていた。

     マリィアンナは愛する彼を見つけると思わず顔を綻ばせた。
     熱志は彼女の前まで歩み寄り、
    「俺からのプレゼントを受け取ってください」
     小箱を差し出す。
     それを受け取って開けるマリィアンナは中身をそっと取り出して指にはめた。
     彼にそっとキスを交わして体を寄せる。
    「この良き日、神に感謝を。熱志さんに愛を」
    「神には感謝してます、あなたの愛をくれたから」
     マリィアンナと愛を交わした熱志は彼女を抱き上げる。
    「あなたの重さも苦になりません」
     マリィアンナは幸せそうに微笑んだ。
    「その重さは、私も分かち合いたく思います」

     彼女との日々を思い返して物思いに耽っている鶉の目の前に現れたのはルチル。
    「……待たせた?」
     クレープを食べながらもう片方の手で差し出したのは金針水晶。
    「一緒に食べたり、見たりする方が楽しいって、教えてくれたから」
     鶉はそれを受け取ると少し不安そうな彼女を抱きしめた。そして、その甘い唇にキス。
    「愛してます」
    「ん、ハッピークリスマス?」
     首を傾げたルチルに鶉は笑顔で返した。

    「アルクさん!」
     笑顔でアルクレインに駆け寄った真糸は抱いていたロングマフラーを器用に彼女の首に巻いていく。
    「どう? あったかい?」
    「はい、暖かいです」
     アルクレインは腕を広げて目を閉じてお返しを待っている彼の元へ。
    「愛しています」
     告げてキス。
    「愛してるよ」
     呟き返した真糸はマフラーの半分を自分の首にかけた。

     自分を待つ葵の姿を、嵐は少し遠くから見つめていた。
     彼が待ってるのはあたしなのだと思うと胸が暖かくなる。
     駆け寄る嵐。彼女を見つけて少し硬かった葵の表情も柔らかくなる。
     葵の前に辿り着いた嵐は手にしていた贈り物を彼に差し出した。
     ありがとうと受け取って笑んだ葵は感じていた。
     彼女の前でなら真っ直ぐに自分を出せる。
     たくさんの願いを込めて葵はいつものように嵐を見つめ、キスを落とす。
     彼を受け入れる嵐もヤドリギの下に誓いを立てる。
     葵をずっとそばで支えられる存在でありたいと――。

     いつもと違う緊張感を感じながら、それでも姿勢を正しているフォルケを見つけた瑠璃は駆け寄った。
    「こういう待ち合わせも、たまにはいいと思うんですよ」
    「なんというか、いつも以上に一緒に居れて嬉しくなっちゃいますね」
     頬を赤らめるフォルケに瑠璃は花束を手渡す。それを抱えた彼女にさらに小さな小箱を手渡した。
    「僕の大好きな人へ、愛しい貴方へ。愛を込めて」
    「凄く嬉しいです」
     笑んだフォルケは瑠璃にそっとキスをした。

     真花と颯もヤドリギの下でキスを交わす。

     千星に声を掛けられてアンカーはスーツの襟を正した。
    「やぁ、待ってたよ、千星君」
     笑んだ千星は彼に贈り物を差し出した。
     それはゴロンとした瓶。中の金平糖は星屑のように灯りに照らされる。
    「あんまり洒落た物ではないが受け取ってくれ」
    「プレゼントをありがとう。おっと、ここはヤドリギの下じゃないか! それではレディの幸せを祈って」
     アンカーは瓶を受け取り千星の左手を取ると目を閉じるよう促す。彼女が素直に目を瞑ったのを確認して、うさぎのパペットの額にキス。
    「これからの1年が素晴らしいものになりますように」
     アンカーは千星の手を持ち上げて指先にキスを落とした。

    「お待たせ」
     さくらえはエリノアの前に立つと微笑んだ。
    「そう待ってはいないわ」
     微笑み返したエリノア。
     それでもさくらえは別の件で彼女を待たせた。それを詫び。
     名を呼んで帰ってきてと言ってくれたこと。それが自分を帰還させた。
    「好きだよ。今のエリノアが。だから今もこれからもずっと僕の傍に居て?」
     頬を染めるエリノアの前に差し出されたのは小箱。ふたを開ければ輝く金剛石。
    「僕のお嫁さんになってください」
     この贈り物が言葉がどういう意味を持っているのかエリノアは理解し、嬉し涙をこらえながら彼にキス。
    「はい。私を、さくらえのお嫁さんにしてください」

     黒曜の前まで歩み寄った藍晶。
    「……受け取ってもらえると嬉しいわ」
     贈り物を両手に包んで差し出した。
     黒曜ははにかんで贈り物を受け取ると、その腰に手を回す。
    「嬉しい。愛してるよ、藍晶」
     囁いて優しくキスをした。
     それを受け入れる藍晶の頬は赤く染まる。彼の首に手を回して自分からもキスを重ね、頬を染めて彼を見つめた。

     共に暮らす家を別々に出発して別の場所で待ち合わせるのは新鮮で。
    「待ち合わせでーとです!」
     彼を見つけた雪緒は声を弾ませて彼の元へ。
    「待ってる間ずっと雪緒の事を想っていたよ!」
     清十郎は可愛い彼女を満面の笑みで迎え入れた。
     私もです。と雪緒は笑んで、
    「これからもずっとずっと一緒にいてください。大好きです」
     紙袋を清十郎に手渡した。
    「ありがとう。俺も大好きだよ」
     笑顔で受け取った清十郎は彼女を抱き寄せるとキスを落とす。
     雪緒は幸せを感じながら永遠の愛が続くように願い、清十郎はこれからも変わらぬ愛を誓った。

    「今日は、その、よい機会を作ってくれてありがとうのう」
     言葉に微笑み返した千星の背を見送った心桜の元に、彼は息を切らせて走ってきた。
    「ま……待った?」
     深呼吸で息を整える明莉を、心桜は笑顔で迎えてヤドリギの下の話を語る。
     興味津々に話を聞いていた明莉だったが、いざするとなると……。
     ふと彼女と目が合って思わず逸らすした彼。心桜は背伸びをして、ちいさくキス。
    「大好きじゃよ、明莉さん。貴方に祝福あらんことを」
     突然のキスに驚きはしたが、彼女の笑みに緊張がほぐれる。
    「心桜……」
     今度は明莉が彼女を抱き寄せて深いキスを交わした。

    「こっちだよ、明彦~!」
     笑顔で手を振る結衣奈。明彦は普段通りに颯爽と彼女の前へ。
    「結衣奈にこれを」
     と差し出したのは、ダイヤの指輪だ。
    「綺麗だね……」
     感嘆の声を上げる彼女を明彦は真っ直ぐ見つめ。
    「俺は結衣奈を愛してる。これからもずっと一緒にいて、二人で幸せになりたい」
     言葉の意味をかみしめた結衣奈も思いを言葉に乗せる。
    「ありがとう。わたしも愛している、そしてずっと一緒に共に歩んできたい」
    「ありがとう。滅茶苦茶嬉しい」
     明彦は笑んで、目を潤ませ笑む彼女の左手薬指に指輪を通す。そんな彼に結衣奈はキスを贈った。

    「理央! えへへ。お待たせ。寒くない?」
     ヤドリギの下に理央を見つけて燈は駆け寄って抱きつく。
    「来てくれてありがとう。僕はすごく幸せだよ」
     その言葉に燈の表情がほころぶ。
    「プレゼントはマフラーなの」
     差し出すマフラーは燈の瞳と同じ色。ちょっとした独占欲の証。
    「きれいな色」
     理央はマフラーを受け取るとふわっと首にかけ、ちらと見上げるのはヤドリギの枝。
     こういう趣旨とはいえ少し恥ずかしい。だけど。
    「目、閉じて」
     胸が高鳴るのを感じながら燈が瞳を閉じれば、抱き寄せられて落ちて来るのは暖かなキス。

     小走りでやってきた翠が立ち止まって身だしなみを整えている姿を見つけて、ミルドレットは気がつかない振りをした。
     一番可愛い翠で目の前に立ってくれるのを楽しみにしているから。
     翠は手櫛で髪を整えると雪を踏みしめ彼女の元へ。
    「待ってたよ」
    「ミリーさん、メリークリスマス」
     笑みに笑みを返した翠は小箱を手にしたまま頬を染めて彼女にそっと寄り添った。
    「翠自身がプレゼントかな?」
     くすっと笑んだミルドレットは照れを抑えながら彼女の頬に手を当てる。
    「ありがとう、愛してる」
     囁く声に目を閉じて、翠は落ちてくるキスにキスを返した。

    「待たせたー……っすね」
     小走りで掛けてきた虎次郎が現れて、くるりの鼓動がさらに跳ね。
    「遅いぞ馬鹿者」
     早口で言うのがやっと。
     虎次郎は息を整えると彼女の前に小箱を差し出し跪く。
     小箱の中は指輪。本当は嬉しいがぐっと堪えて悪戯の笑み。
    「これはどの指にはめればよいのだ?」
     問われた虎次郎は彼女の左手薬指に指輪をはめる。
    「上出来だ! ちょい目瞑れ」
     返ってきた言葉に安堵しつつ虎次郎は緊張しつつ素直に目を閉じる。
     ちょん。触れるか触れないかの距離に舞い降りたキス。
     一瞬の甘い時間が恥ずかしいくるりと唇に触れた暖かな感触をはっきり感じた虎次郎、二人の奇声が広場に響いた。

     名を呼ばれて桜が顔を上げると目の前には待っていた彼。
     笑顔で挨拶を交わし、桜は手にしていた白いマフラーを花近の首にかけた。
    「感謝を込めて、です」
    「ありがとう、嬉しい♪」
     笑んだ花近は、俺も。と桜の目の前に枝垂れ八重桜を模したつまみ細工の髪飾りを差し出す。一言断って彼女の黒髪に飾って笑む。
    「よかった、似合ってる」
    「お返し……ほ、ほっぺで、いいですか……?」
     と頬を染め背伸びをして彼の少し熱い頬にキスを。
    「俺も、もらったから……」
     今度は花近が腰をかがめ、キスを桜の唇に。
    「好きだよ、桜ちゃん」

     ヤドリギに手を伸ばす陽菜の元に小走りで錬がやってきた。
    「ごめん、待った?  ってちょっとお約束過ぎるかな」
     おどけて見せる錬に陽菜は照れ笑い。
     恭しくしゃがんだ錬が差し出したのはブレスレット。陽菜はそれを受け取ると彼に身を寄せた。頬に手を添え真っ直ぐ彼の元へ。
    「メリークリスマスだよ、錬くん」
     離れた唇をもう一度重ねたくて。錬は陽菜を引き寄せる。
    「……愛してる」
     お返しのキスなんて……。でも陽菜は抗えなかった。

     恋人になって初めてのデートで。だけど硬かったリケの表情が緩んだ。織兎の姿を見つけたから。
    「待たせてごめん! 寒かったよな」
    「ええ、少しだけね」
     微笑んだリケに織兎はケースからネックレスを取り出した。
    「気に入るかわからないけど」
     彼女の首の後ろに手を回せば、その首には光るライン。
    「ありがとう!」
     リケはお礼を告げて彼にかがむようにお願いをする。
     目も瞑るように言われて織兎は目を閉じる。
     唇に軽くキスを落とし、
    「お返しです」
     照れくさそうにしている彼女がとても可愛くて。
    「ありがとうな~」
     織兎はリケをぎゅっと抱きしめた。

     あの木の下で想いを告げてから二年がたった。
     何かと物騒だけど彼女と過ごす日々は咲哉には輝いている。
     だけど彼女は幸せなのだろうか。
    「咲哉さん」 
     目に飛び込んできたのは自分を見つけて笑顔の彼女。咲哉も笑みを返す。
    「真珠、メリークリスマス!」
     歩み寄って差し出す贈り物を真珠は嬉しそうに受け取った。
    「咲哉さん、ありがとうございます」
     そして頬を染める彼女。咲哉は目を瞑って彼女を受け入れ。
     離れれば彼女は幸せそうに笑っている。
    「愛してる、真珠」
     咲哉は答えを導き出して彼女を抱き寄せた。

    「はいっ。ましろぱんだの宅急便から、良い子の倭くんにクリスマスプレゼントのお届けなのだよ」
     倭に贈り物を差し出してましろは自分の唇を指差した。
    「受け取ったらここにハンコ下さいな」
     驚いて声も出ない倭。どうやらヤドリギの下の話を知らなかったらしい。ましろの説明を聞いてぐぬぬと歯を軋ませた。
    「おまっ、謀ったなっ!?」
    「謀ってない、よ? ちなみに、拒むと縁起が悪いみたいだよ?」
     天を仰ぐ倭の目にはヤドリギ。深呼吸をして、ましろの唇に受け取りの証を押す。
    「こ、これで、文句は、言わせないから、な」
     赤くなる彼。ましろも火照る顔で笑んだ。

     紫月に渡された紙袋の中身を見た柚羽の内心は穏やかじゃない。だってここはヤドリギの下。
     袋の中身は洋服。実は前から用意していたものだ。
    「男が女性物の服を買うのはかなり大変だった」
    「いつ私のサイズを知ったのですか。答えによっては地面とキスさせてあげましょうか」
     悪態をつく柚羽。紫月にはそれがとても愛おしい。
    「で、お礼は? 行動でお礼、してくれるだろ?」
     このために紫月は柚羽をここで待たせた。恥ずかしそうに眉根を寄せる彼女に、
    「な、柚羽」
     ダメ押し。
    「本当にずるい、いじわる」
     文句を連ねながらも柚羽は背伸びをしてキスをした。
     ありがとうと好きを込めて。

     篠介は依子を見つけて手を振る。
    「篠介君! 待っていてくれてありがとう」
     ずっと会いたかった彼の姿に依子の声は弾む。真っ直ぐ自分に駆けてくる彼女に篠介も笑む。
    「依子も逢いに来てくれて、ありがとさんな」
     贈り物を差し出す依子は言葉を重ねて。
    「好きです。また、傍にいさせてくれませんか」
     プロポーズみたいな言葉に頬を染めた篠介は、贈り物を受け取りながら、
    「打算も何も抜きで言える。君が好きで、一番だって」
     言い終わって彼女の唇にキスを、ポケットに贈り物を。
    「ありがとう」
     贈り物も心も。依子が頬をゆるませて彼に飛びつくと、篠介は彼女をしっかり抱きとめた。
    「こっちこそ」

     ヤドリギは皆を祝福する。
     幸せがあるように。

    作者:朝比奈万理 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年12月24日
    難度:簡単
    参加:59人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 4
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