運動会2017~学内2周RBクロスカントリー

    作者:相原あきと

     『競技名』
     「学内2周RBクロスカントリー」

     『内容』
      学園の敷地内を走り回るクロスカントリー。

     『RB』
      リアルバウトの略。
      クロスカントリー中に相手走者を妨害する事を可とする。

     『禁止事項』
      サイキックの使用は禁止。
      ライドキャリバーに乗ったり利用したりは禁止。
      学校の備品や校舎を破壊するような事は禁止。

     ………………………………………………………………………………。

     6月11日(日)は武蔵坂学園の運動会。学生たちは優勝を目指し盛り上がる。
     だがここに、別の意味で盛り上がる者たちがいた。

     彼らに統率者は無く、全てが同志だった。
     彼らは自然発生し、気がつくと自然へと帰って行く。
     メンバーに誰がいるかは不明、どう連絡を取り合っているかも不明。
     しかし、彼らはリア充が発生するタイミングで確実に自然発生する。
     ある者は覆面を、ある者は三角頭巾を、ある者は素顔で……。
     彼らの名は――RB団。

     運動会まで数日と迫った武蔵坂学園の屋上に、怪しい学生たちが集まっていた。
    「運動会とは、学園祭、修学旅行に並ぶ3大リア充増加学校行事のひとつ」
    「クリスマスとかバレンタインは違うのか?」
    「あれは学校行事じゃないだろう」
    「ああ、そうか、リア充行事か、なるほどな」
     覆面や頭巾や見バレ覚悟の素顔の団員は、雑談を続ける。
     しかし、その内心では何かを一心に祈り続けていた。
     そして、屋上へ続く扉がバンッと開かれ、1人の同志が現れる。
     皆の視線が一斉に集まる。結果は……どうだ!?
    「みんな! 今年もこの時がやってきたぞ! 俺達の競技……いや俺たちの出番だ!」
    『だっしゃーっ!!!』

     『学内1周RBクロスカントリー』。
     RBの上にはリアルバウトとルビが振ってあるその競技は、学校中を舞台としたリアルバウト有りの何でもあり競争の事だ。――表向きは。
    「ふふふ、良しッ! この隠語で今年も同志が集結するだろう」
    「ああ! 遠慮なく流れ弾でリア充を爆発させられる!」
    『おお~!』
     そうして盛り上がる同志達だが、競技の連絡を持ってきた男が言い辛そうにつぶやく。
    「みんな、今年もまたルールが変わったんだ……見てくれ」
    「去年は折り返し制だったけど、また何か変わるのか?」
     やれやれだぜ、とジェスチャーしつつ資料に目を通す男達。
     そこにはこう書いてあった。
    『今年は2周ね』
     冷静にその文字を見て。
    「……ま、去年の折り返しからちょっと変更って感じか」
    「マイナーチェンジって奴だな」
    「この程度は想定内だろう」
     うんうん頷く同志達。
    「いや、その下に追記があるんだよ! ほらコレ!」
     追記部分を読めと指差されたそこにはこう書いてあった。
    『周回遅れは即失格』
    「な、なんだってー!?」
    「ど、どういう事だ!」
     つまり、今年は指定されたルートを2周まわってゴール、という事らしく、その際に他の参加者に周回遅れにされると失格――運営によって退場させられる――という事だ。
     まさかの注意事項にどよめく屋上。
    「冷静になれ同志達よ! 周回遅れで失格になる可能性があるのは我らだけでなく、我らの妨害に現れる者達とて同じ、そうなれば――」
    「おいっ! 手前ぇ口調が偉そうだな、去年もいただろ!」
     兎に角。
     今年のRBクロスカントリーも一波乱ありそうだった。
    「とりあえず、俺達はただリア充どもを襲撃できれば良いんだ! 俺達は……そう、リア充を爆破するのが得意な不恋厨だ!」
    『たーのしー!!!』
     野太い声がこだまする。やがて同志達の声は大きくなっていき、その異様なオーラが頂点に達した時、吠えるように団員達が叫びをあげる。
    「年に1度、おおやけに暴れられるお祭りだ! いつもの行くぞ!」
    『おー!』
    「目的は!」
    「リア充撲滅!」
    「合い言葉は!」
    「リア充爆発しろ!」
    「我ら!」
    『RB団!!!』


    ■リプレイ


    「空凛さん、頑張りましょう」
    「ええ、双調さん」
     スタート地点でお互いを気遣い士気を高め合う空凛と双調だが、肩に抱いて頬にキスをする行為を見た周囲のRB団達はすでに開始前からクライマックス!
     そしてスタートの発砲と共に、運動場のトラックが毎度の事のように爆発!
     それは文と火華流による火薬と爆竹の無差別コンボだったが。
    「……まぁやらないよりは、ね」
     飛び出した文の言う通り爆発を物ともせず十数人が一気に逃げの体制で爆煙を抜ける。
     無論、速攻でリア充に襲いかかるRB団もいたが、背後から跳び蹴りをくらい星に。
     それはシスター服のオリヴィア。
    「私、恋人さんがいるので……遠慮なく挑んできて下さいね」
     その台詞にRB団も燃え上がりスタート地点は大乱闘となるのだった。

     トップは早くも校舎の壁登りに達しており、その中をスイスイと登っていくのは遥香だ。
    「園観ちゃん、今回のポイントはここだと考えました、ふふ、いい感じです」
     事前の作戦通り登る園観ちゃんだが、その横をシュタッと何かが飛び越える。それは鉤爪のついたロープだった。小町がそれを使って一気に距離を稼いで追従してくる。しかも背後からの投擲による妨害に対しマキビシで対抗したり臨機応変だ。
     やがて中位グループも壁を登る頃にはここもRB団による襲撃が日常的となるも。
     ズキュンッ!
     狙撃、撃墜。
    「全ては秩序ある楽しい行事の為に……」
     高い木の枝に陣取る菫。3年前と一緒だが効果は抜群だ。壁に付く虫を撃ち落とす簡単なお仕事です。もっともカップルが視界に入ると少し寂しく思ったりもするのだが……。
     丁寧な口調で容赦なくRB団をぼこりつつ夫婦コンビネーションで壁を登るはスタートでイチャイチャしていた空凛と双調、だが最初から目を付けられた代償は大きく襲いくるRB団も大量だ。それを退けているのは2人の姉であり保護役の燐。
    「2人を妨害する輩は、私が許しません」
     その背後に見えぬオーラが立ち上り、それが鬼母を形作る。
     思わず二の足を踏むRB団達であった。
     インラインスケートを履いたまま壁を登きった火華流は、画鋲やら何やらをばらまき屋上を滑るように走っていく。少し出遅れたが、この後のコースで挽回できるはず!

     屋上でRB団に囲まれ勧誘を受けるはヘイズ。
    「俺も独り身、あんたらの事は解らんでも無い……が、これも世のため人のためだ――抜刀、一閃ッ!」
     一気に吹き飛ぶRB団。
     屋上は見事【戦戦研】のヘイズによって制圧、完了。
     ちなみにその周囲では「負傷者発見!」とシエナが立場無関係に治療しまくる。
    「治癒できる相手は負傷者ですの、治癒できない相手は殴り倒せば負傷者ですの!」
     ちなみにシエナは気付いてないが、現在はクロスカントリーの競技中です。
     屋上最後の飛び降り壁面では、和弥が落下時にブツかるようバットやハンマーが壁面から飛び出るよう設置中。と、頭上に影、見るとそれは壁ぐるみを着たまま滑空するモモンガ――いや、クリミネルだ! そのまま遠くプールにまで行きボチャンと着水……水吸ってスゲー大変だろうが大丈夫なのだろうか。
     一方、飛び降り地点ではアイスバーンがリア充達に仲間だと言って接触し、大量に掘った穴に埋める作業を続行中。和弥もだが公式ルートに記載されてない(けど通らざる得ないルート)でRB活動を行うとは……恐るべし古参RB団員!

     毎年過激な戦場となるプールでは今年も大爆発が起こる。
    「リア充は爆発しろ! それ以外も巻き込まれて爆発しろ!」
     過激な発言と爆発を行うは一正。
     1周目のプール、RB団によって占拠完了。
     この功績はRB団にとってでかい!
     そして。
    「さぁ諸君! 昨夜の準備は撤去されたが、今からでも遅くないのだよ。周回遅れを恐れず作戦を実行しようか!」
     若の指示にモブRB団達がいそいそと細工を開始。
     湯気が昇ってくるプールを見つめ、ダンボールに隠れた若はほくそ笑むのだった。

     トラックへ戻ってきた先頭集団はかなりの人数がいた。今回、1周目を真面目に走った面子が多い証拠であり運営も満足だろう。
     だが!
    「リア充爆発&野生解放!」
     集団から黒いサバト服、刑一が飛び出す。
     一気に義勇軍の緊張感が高まる。
    「ここはリア充生存率3%ぉぉぉー!」
     叫びと共に四方八方に透明テープを投げ放つサバト。髪や服、腕や足に絡まり皆ドッタンバッタン!
    「現代風に言うぞ……恋のハイウェイ邪魔する奴は、車にひかれて死んじまえ」
     テープを引きちぎりサバト服の前に立つ唯織。
    「っー訳で、俺に蹴られて退場しろや!」
    「ああ、せめてもう1人ぐらい道ず――(きらーん!)」
     唯織の蹴りで彼方まで吹っ飛ぶ刑一。サバト服の早々の脱落に義勇軍やリア充達から賞賛が送られる唯織だった。


     レースは2周目。
     最初に仕掛けたのは戦戦研の紅詩&七葉ペア。2人でベンチに座りイチャイチャとRB団を煽る。
    「リア充爆発し――ぐふっ!?」
     トラップワイヤーが発動し、2人に釣られたRB団が一網打尽となる。
    「婚約した私達の邪魔は許しませんよ」
    「ん、紅詩さんと私も、えっと、りあじゅー、だからRBは敵、だよ」
     ちなみに2周目のRB団は、以降のコース上に七葉が張ったワイヤートラップにかなり苦しむ事になるのだった……。

     2周目の壁登り付近では最後尾の参加者2人が睨み合っていた。それはRB団「自爆の」フィン・アクロイドと戦戦研「指揮官」鹿島・狭霧。フィンの地雷を狭霧が除去し続け、お互いがお互いを放置もできず今に至る。
     だが、先に笑みを浮かべるはフィン。
     先頭集団がやってきたのだ。
    「ネーベル・コマンドより全戦戦研ユニットへ。私はここまでだ。皆は敵制圧に全力を尽くせ。以上」
    「ついに諦めかい?」
    「いや、イチ戦闘員に戻ろうかと思っただけよ」
     瞬間、狭霧の手には回転式擲弾銃。乱射し先頭集団のRB団諸共フィンが身に纏う自爆用の爆薬を打ち抜く。

     チュドーーーンッ!

     爆発による僅かなチャンス、狭霧は振り向き周回遅れを免れようと――。
    「『よくあること』だよ」
     仮面の少女、法子に抜き去られる。
     先頭集団にいたRB団を相当数巻き込んだが、戦戦研は鹿島狭霧……失格。

     壁を登り頭集団から外れ、屋上端で無線を握るは戦戦研の翡翠。金属オールでRB団を迎撃しつつ無線をONに。
    「高所確保。ここより指揮を引き継ぎます」
     自主的に役割を引継、全メンバーに高所から見える戦況を伝え始める翡翠。11人もの人員を動員した戦戦研の層は厚い。


     屋上でトリモチを設置しつつRB団を叩き続けていたのは3人。
     キスしそうになるぐらいイチャイチャしRB団を誘う雄哉と愛莉。そしてやってきたRB団を木刀で制裁する明日香だ。
    「どうもリア充義勇軍です」
    「なんだってー!?」
    「人の以下略!」
    「略するの早ーよ!」
    「かかった奴は皆RB団だ!」
    「ぎゃーーーっ!?」
     かなりカオス。
     そして気が付けば先頭集団がすぐそばまで迫っているではないか!?
    「このままじゃ周回遅れに! 行こう!」
    「愛莉ちゃん、ちょ、待っ、トリモチ踏んだ!」
    「はぁ!? おにいちゃん何やって――」
    「かかった奴はRB団だ!」
    「って、明日香さん、それおにい――」
     そのまま先頭集団に飲まれる3人。いい想い出になっただろうか?
     ところで、周回遅れの危機がもう1人。
    「ゆーさん……いつも通りのツンドラ極寒対応。まさかリア充枠で参加して見捨てられるとは……」
     トリモチを外そうとしつつ紫月が嘆く。
     ちなみにRB団も紫月を優しい目で見て放置。
    「俺は八つ当たりもできないのか!?」
     そして先頭集団に抜き去られ――。
     ガックリ。
     と、気配を感じ見上げれば、そっぽを向きつつ手を差し伸べる柚羽。
    「さて、2人揃って周回遅れです。お邪魔にならないよう外へ出ましょうか」
    「ゆーさん」
     そして2人は手を握り仲良くリタイアするのだった。

    「うりゃっとなっ!」
     屋上の端からテンション高く飛び出すは夕月。
    「(こういう時灼滅者で良かったと本当、思いますね)」
     気持ちよく跳ぶ夕月を、さらに助走の勢いで抜き去るはインラインスケートの火華流。
     そんな跳躍者達を、着地地点から名古屋撃ちするは和弥。
     1周目で仕掛けた壁から突き出たバット等で落下スピードを落とすリア充を狙い撃つ。
     が、落下地点にいるということは「良い踏み台」とも言え――。
     一度はこのクロカンで優勝したことのあるアリスは、飛距離をのばす為の着地点として和弥の頭をターゲット。あれを踏みさらに向こうへ――その瞬間。
     ドガッ!?
     同じことを考えていた菜々とお見合い激突。
    「……ごめん……ね……」
    「いえこちらこそ」
     それはお互い思いがけないロスだった。

     落下地点からプールへ向かうルート上で、RB団に説得を続けるのは流希だ。
    「暴力だけが全てではありません。まずは話し合いましょう」
    「………………」
     流希の前でRB団が止まって見つめる。
    「……って、あの、これ、そろそろ助けてくれませんかね」
     流希が振り向けば同じく穴にはまって首だけ出ている良太がいた。これは良太の作った落とし穴だった。子供は落ちない仕様だったせいで、女の子のRB団員に紳士的に話を付けようとした所で、流希だけ引っかかってしまったのだ(良太は穴の位置が解らなくなりハマりました)。
    「大丈夫です。RB団も埋めてますから」
     淡々とRB団を平安京宇宙人の術で埋め続けるジェフ。助ける気はない。ちなみに埋められたRB団達の中に犬神家状態で埋まるアイスバーンもいる。……ってか死んじゃうよ!?


    「ヒーローとしちゃ、最重要ポイントを守護しなきゃなんねーよな!」
     周が熱湯に変わっているプールの前で拳をぶつけ合い見栄をきった瞬間、ズザザーッと砦のようなモノがプールから浮上する。
    「なっ!?」
     驚く周の前で砦に乗るは小次郎。昨夜沈めた砦は撤去されていたので、モブRB同志たちに頼み1周目に設置してもらったのだ。1周目でここを占拠できた功績は大きい。
    「あ、熱い……」
     砦上で膝をつく軍師。プールが熱湯とは思わなかった……。
     ちなみに熱湯にした若は、ダンボールに隠れたまま周回遅れになり失格に……。
    「厄介な」
     そこに無線で連絡を受けた戦戦研達――夢乃と隅也、そしてプールの脇で機を見ていたフォルケと瑠璃――が集まってくる。
     だが、義勇軍が何より驚いたのは。
    「ふふふ……」
     砦の上には軍師だけでなく1周目で脱落した黒いサバト服が立っていたのだ。
     サバト服が手を挙げるとRB団達が現れザッと整列。
    「リア充爆発しろです。でも、男同士は通してあげます」

     ……ん?

     義勇軍全員の頭にハテナマークが浮かぶ。
     女の子?
    「(この黒いサバトさんの服、着てみたかったのですよね)」
     サバト服――を着た菜々乃は「行きなさい!」とモブ達に命令。
    「アレが誰だって関係ねぇ! アタシが全員ぶっ飛ばす!」
     周が先陣を切り、戦戦研のメンバーも続く。
     数で劣る義勇軍を物量で押し込もうとするRB団。しかし、夢乃が鎖付き鉄球を投げれば数人まとめてプールへ落下、それでも這い出る者にはスタンライフル。隅也は騒音爆弾でRB団を無力化し(他の仲間からは苦情が来たが……)さらにプールの熱湯や砦まで利用し戦い続ける。
    「(……依頼では無いが……色々と参考になる……)」
     そしてフォルケと瑠璃は敵を砦から引き離そうと、プールサイドで手をつなぎつつ戦い(自動的に集まってくるRB団達)、ゴム弾の機関砲掃射で一網打尽に。嫉妬が肉体を凌駕し蘇る者もいたがそこは瑠璃がフルオートショットガンで的確に処理。
     やられ遺伝子が発動し次々に倒れていく同志達。ついには木刀と強力水鉄砲で戦っていた菜々乃もプールに投げ込まれ――。
    「これまでか……」
     砦に作った裏口から逃げようとした軍師の前に。
    「やはり……」
    「対峙するのはこれで何回目でしょうか」
     清美、その横には家来のように登も佇む。
    「2対1、か」
    「その通り、今年は自滅しないよう迂闊なこと言わないよ?」
     登がそう言うと同時、その足下が崩れ熱湯プールへ落ちる登る。
    「ちょ、まだドワーフの女性はとか、言うこと……ごぼごぼ――」
     ………………。
    「1対1、か」
    「そうですね。でも、今年は趣向を変えましょう。どうぞ、爆発オチを見せて下さい」
    「なん……だと……!?」

     一方その頃、屋上から双眼鏡でプールを確認していた梨乃は、そろそろかな、と準備していたソレを2つ持ち。
    「年々お姉ちゃんのやる事が頭悪くなっているような……」
     指示通りプールへフルスイング。

     カチリ。
     軍師が砦の自爆ボタンを押し、そこかしこで爆発が連鎖していく。
     瞬間。
     カコ――ンッ!
     軍師と、そしてなぜか清美の後頭部に2つのソレ――金タライが命中。昏倒する小次郎。
    「ふふ、爆発オチ阻止したれり……どうです、タライオチ、は……(ガク)」


     最後のトラックに入った先頭集団は、プールの方から聞こえる爆発音に振り返ればキレイな虹が空に……。
     ぶんぶん、集中集中――と頭を振るは殺識。いろいろ考えて望んだ競技会、毎年見る強豪ベテラン勢に混じってこの位置にいるのは初参加としては驚異的だ。が、人数が減って来た事で殺識にも被害が及び始める。
     スパンッ! スパパンッ!
     先頭集団内で最初に飛び交いだしたのはスリッパだった。
     投げ始めたのは赤鬼お面の伊織とひょっとこお面の彗樹ペア。平和だ……などと1周目こそ言いながら普通に走っていたが、2周目は全力、そしてここに来ての妨害、とんだダークホースペアだ!
     だが、2人によって着火された妨害の火は、先頭集団に紛れたヤツラの心にも嫉妬の炎を灯しだす。
    「やったー! すとらーーーいくっ!」
     ボウリングの玉でリア充をピンに見立てたボウリングという名の投擲競技を始めるは柚理。ボウリングの玉が無くなってからは冷たい水風船を投げ付け次々に被害が拡大。
    「リア充どもはコース外で泣き喚きやがれー!」
     ずっと担いでいた物干し竿をリア充の間に差し込みなぎ倒し。
    「ハノンちゃん大勝利ぃ!」
     ハノンもハイテイションに暴れ始める。
     流れ弾や直接の被害に合った競技者が脱落するのを見て見ぬ振りできなかったのは先頭集団にいた夕月、優勝を諦め救助に回る。
    「もう、どうしてこうなるんでしょう」
     やれやれと思いつつ夕月は優しい。
     もっとも、今年は先頭集団にRB団が多く、助けても助けても被害は増え続けるが……。
    「まぁ……『よくあること』だよね、ふふっ」
     法子が作戦勝ちだった事に気を良くして笑みを浮かべつつ木刀を振るう。
     RB団の攻勢に戦戦研がペア、ヴァイスと宗嗣がリア充を守って戦いつつ無言で目配せ、ダッとヴァイスが跳躍。
    「(もうちょっと2人で……)」
     とか一瞬思うもブンブンと振り払い、ターゲット――法子へ上空からとりもち砲を乱射。
     それを競技者を盾に逃げる法子だが。

     ドスッ!

     背後から後頭部を強打され昏倒してしまう。
     鹿島の仇を取ったのは宗嗣、ヴァイスに目がいった瞬間に背後に回り込み不意打ちを行ったのだ。さすがはベストパートナーの2人である。
    「あ、ごめーんっ」
     どんっと合流した宗嗣とヴァイスが背後から突き飛ばされ、さっき自分達が撃ったとりもちを踏んでしまう。
     くっ、と背後を見ればいい笑顔で笑う赤ずきん姿の少年――木乃葉だ。
     愉悦、愉悦♪
    「いいぞ同志よ! 2人ペアという事はリア充か! ならば殺られる覚悟はいいな!」
     激辛水鉄砲を構えたアトシュがとりもちに足を取られた2人に迫る。
    「今年は自爆用の花火を使わないですみそうだ! 死ねぇええい!」
     激辛水鉄砲を発射――の瞬間。
     ドカッ。
     バキッ。
     木乃葉とアトシュの頭を誰かが踏み越え、手元が狂った水鉄砲が木乃葉の口へ。
     悶絶する木乃葉。
     さらに踏まれた勢いで倒れたアトシュはとりもちにべったり。
    「ふぐーーー!?」
     やられ遺伝子が発動しカオスな祭りになったそんな現場に現れるは静菜。
    「やっぱり、お祭りには参加しませんとね」
     戦戦研の2人を助けつつ、周囲のモブRB団を痒み液水風船で撃退しつつ、孤軍奮闘……するも、さすがに1人は厳しい。
     と、地面のアトシュと目が合う。
    「ん?」
    「あ、それ」
     自爆用の大量の花火。
     カチッ……ジジジジ――。
    「おいーーー!?」
     アトシュが叫ぶも静菜はひらりと逃亡。

     カッ!!!

    「『よくあ――。
    「さらば、同志達……。
    「RB団に栄光あれ!
    「こんな事でRB団を辞める気は――。
    「やられ遺伝子に屈するものがごふッッ!!!

     背後の大爆発を振り返りもせず走るは先ほど誰ぞの頭を踏んだアリスと菜々、一度ペースを落とした2人だが作戦が被る程の2人だ、その後は協力連携しトップへ。
     だが。
     パーンっ!
     直前にゴールラインが切られた。
    「日頃の鍛錬の結果……ただ、それだけだ」
     1位の旗を受け取り久遠が淡々と告げる。
     周囲の妨害を最低限の所作で回避しつつゴールへ邁進する作戦が、今年は最終トラックでのRB団の暴れっぷりとドンピシャはまったと言える。
    「1位か……悪くは無いな」
     まんざらでも無い顔で告げる久遠だが、彼女持ちの久遠が来年はどうなるか……RB団達は己のブラックリストに彼の名を刻むのだった。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年6月11日
    難度:簡単
    参加:56人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 13
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ