朱雀門高校攻略戦~暴挙のなされた場所へ

    作者:雪神あゆた

     夏の日差しが差し込む教室で。五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)が口を開く。
    「朱雀門の元生徒会長、ルイス・フロイスからヴァンパイア勢力の動きについて情報がありました。
     爵位級ヴァンパイアに従うデモノイドロードの一体、ロード・クロムが、朱雀門高校の生徒全てをデモノイド化しようとするという暴挙に出たというのです。
     この情報は、朱雀門高校に留まりルイス・フロイスのスパイをしていた生徒の一人が、命からがら脱出した事で得られました。
     朱雀門高校の組織は、ロード・クロムが掌握した事になっていましたが、組織の重要な部分は、敢えて朱雀門に残ったルイス・フロイスのシンパが握り、ロード・クロムの情報収集を妨害していたのだそうです。
     妨害の結果、爵位級ヴァンパイアは、武蔵坂学園とノーライフキングの決戦『胎蔵界戦争』の時期を察知できず、武蔵坂学園への攻撃の機会を逃してしまったのです。
     ロード・クロムは、機会を逃した原因は『朱雀門内部にルイス・フロイスのスパイがいる』からと考え、自分に忠実な生徒も含め全生徒をデモノイド化しようとするという暴挙に出た……という事らしいです。
     ダークネスらしく、誰がスパイか分からないなら、全て殺せば良いと考えたのでしょう。
     勿論、全ての生徒がデモノイドになる素質を持つわけではありません。なので、デモノイド化せず死亡する者も多いでしょう。
     が、放置すれば、デモノイド戦力が増強されるでしょう。
     今、朱雀門高校に攻め込めば、調整中のデモノイドが動き出す前に、灼滅できる筈。
     ですから皆さん、朱雀門高校に攻め込んでください」
     姫子は深々と頭を下げた。
    「サイキックアブソーバーの予知が無い状態の突入作戦ですが、情報が正しければ、朱雀門高校内部の戦力はデモノイドのみと思われます。ですから力押しでの制圧が可能と想定されます。
     出来るなら、デモノイドを撃破し、デモノイドの首魁の一人、ロード・クロムの灼滅を目指してほしいのですが。でも、ロード・クロムの居場所は特定されていないので、彼が朱雀門高校内にいるかどうか、賭けとなるでしょう」

     姫子はしばらく間をおき、続ける。
    「今回の作戦の目的は、朱雀門高校のデモノイド勢力の打倒。
     調整中のデモノイドを全て灼滅できれば、戦力の増強に歯止めをかけられるでしょう。
     確実ではないですが、ロード・クロムが校内に居る可能性も高いと思われます。
     ロード・クロムが校内にいない場合もあるので、ロード・クロムの捜索にはあまり時間をかけられないでしょうが、発見したら、可能な限り灼滅を目指してください。
     ここで『ロード』を倒せれば、爵位級ヴァンパイアの勢力に打撃を与えられるでしょう」
     とはいえ、と姫子は付け足す。
    「朱雀門の校舎内の何処にデモノイドがいて、何処に調整中のデモノイドがいて、何処にロード・クロムがいるかは、判りません。
     また、襲撃開始後、時間をかけすぎれば、爵位級ヴァンパイアの軍勢の増援がくるかもしれません。
    『どのような場所を主に捜索するか、どのような方針で捜索するか』等、指針を決めておく事が必要でしょう。素早く的確な行動をとるためにも。
     また、ロード・クロムが校内にいたとしても、ロード・クロムは状況が不利とみれば、撤退する危険もあります。ロード・クロムを狙うなら、撤退させない為の策も必要かもしれません」
     いずれにしても、と姫子は補足する。
    「1チームだけで全てを行う事はできません。ある程度チーム同士で連携ができるといいでしょうね」

     姫子は思案気な顔になる。
    「ロード・クロムは、朱雀門の生徒を利用する事で『武蔵坂学園に気づかれずに大量のデモノイドを作ろうとした』のでしょう。彼にとって手段を選んでいられない状況なのかもしれません。
     ともかく、サイキックアブソーバーの予知が無い状態で不安要素もありますが、全力を尽くしこの作戦を成功させてください。お願いします!」


    参加者
    仲村渠・弥勒(マイトレイヤー・d00917)
    彩瑠・さくらえ(幾望桜・d02131)
    ミネット・シャノワ(白き森の旅猫・d02757)
    水無瀬・旭(両儀鍛鉄の玉鋼・d12324)
    香坂・翔(青い殺戮兵器・d23830)
    師走崎・徒(流星ランナー・d25006)
    陽乃下・鳳花(流れ者・d33801)
    十束・唯織(獅子の末那識・d37107)

    ■リプレイ


     朱雀門高校の塀の外側に、香坂・翔(青い殺戮兵器・d23830)ら八人はいた。
     校舎から、大きな音が響く。別班が門を破壊する音だ。
     音を聞くや、翔はコンクリートを登り、頂点でジャンプ。朱雀門高校のグランドへ侵入。
    「蒼の力、我に宿り敵を砕け」
     朗々たる声でスレイヤーズカードを開放。
     師走崎・徒(流星ランナー・d25006)も翔の隣に降りると、スマホや無線を確認。
    「携帯も無線も使えないね。ホイッスルや防犯ブザーを持ってきてよかった……うん、まずは体育館に行こうか」
     第一目標の体育館はすぐそば。よいポイントに侵入できたようだ。
     徒達以外に別班もグランドに降り行動を開始し始めたのが見えた。彼らはプールやクラブ棟に向かうようだ。また校舎に侵入した班が奮戦しているのか、窓から煙が漏れ出す。
    「オレ達も――」「――急がないとね」
     翔と徒の言葉に、一同は動き出す。地図やDSKノーズを使いつつ、体育館へひた走る。

     侵入した体育館内には、約百の巨大なカプセルが並んでいた。中に、人型が浮かぶ。それは調整されつつあるデモノイド。この装置で、人をデモノイドに変えているのだ。
     陽乃下・鳳花(流れ者・d33801)はカプセルに目を凝らす。カプセルはどれも亀裂があり、時折ガタガタと不規則に振動。鳳花は呆れたように、
    「デモノイドの大量生産の為に無点検で装置を稼働させて、故障寸前? あー……んー……ダメ上司に無能な部下が従った、典型的な末路って感じだー」
     水無瀬・旭(両儀鍛鉄の玉鋼・d12324)と彩瑠・さくらえ(幾望桜・d02131)はカプセルに近づき、
    「命を絶つ事が救いとか、そんなことは言わないよ。……俺は、君たちを討つ悪になる」
    「……これ以上、利用されてしまう事のないように、壊してあげる」
     旭は苛烈な意思を込め。さくらえは感情を押し殺し。二人は視線を交わし動く。
     さくらえはカプセルを槍で突く。中の者を穂先で刺す。さらに旭が縛霊手で殴りかかる。飛び散るガラス。他の者も次々に攻撃。
     割れたカプセルから、中のデモノイドが転がり落ちる。濡れた青い肌のそれは、既に虫の息。意味なく腕を動かす。
     ミネット・シャノワ(白き森の旅猫・d02757)は剣をそれの首に突きつけ、
    「学校は何千とあり。同年代の子も何万と居り。そんな中で、この朱雀門にいた……運がありませんでしたね。……恨んでいただいて構いません。……ですが、せめて安らかに」
     ミネットは無表情。が、金の瞳に、ここにはいない存在への静かな怒り。ミネットは刃先から光を放ち、デモノイドを終わらせた。

     灼滅者は集中攻撃でカプセルの中のデモノイドを一体ずつ破壊していく。床にはガラスの破片と体液。
     撃破数が十体を越えた時、灼滅者から少し離れた位置で、装置の一つが煙をあげ出した。装置は今まで以上に激しく振動。そして爆発。
     爆風がいくつかのカプセルを巻き込み、ガラスが割れた。
     十束・唯織(獅子の末那識・d37107)と仲村渠・弥勒(マイトレイヤー・d00917)は仲間に警戒を促す。
    「急な大量生産で機械が爆発か。ロード・クロム、極端なうえに無茶すぎだろ……とにかく、あいつらをなんとかしなくちゃな」
    「違う学校ってやっぱドキドキするけど、こんなドッキドキもあるなんてねー……みんな、くるよー!」
     唯織は肩を竦めつつ、弥勒はあくまで普段通りの声で、
     唯織と弥勒の視線の先には、壊れたカプセルから転がり落ちたデモノイド十体。
     青い肌から体液を垂らし『ギャアア』と悲鳴をあげつつ、灼滅者に迫る。


     こちらに手を伸ばしてくるデモノイドたち。その腕から滴る体液。
     手が己に届くより早く、徒が敵の懐に潜りこむ。
    「複雑な気持ちはあるけれど、やらなきゃいけないね。ロード・クロムを止めるためにも……瞬殺するよ!」
     巨体のみぞおちへ、徒は拳を突きあげる。命中。
     徒の先制攻撃に、体をくの字に曲げるデモノイド。
     敵の右側にさくらえは回り込む。手には『叶鏡』。回転を加えた突きで、敵の脇腹を貫通!
     敵左側には鳳花が移動。ウィングキャットの猫に魔法を行使させ、自身は腕を半獣化。鋭い爪で敵の肌を抉った。
    「ウアアアァァアアアッ!」
     デモノイドの悲鳴。その声をきっかけにしてか、他のデモノイドらが、鳳花やさくらえに殺到。
     刃化した腕に斬りさかれるさくらえ。口から噴射された光線に撃たれる鳳花。
     ミネットはクルセイドソードを掲げた。
     ミネットの黒髪が揺れ一陣の風が館内に吹く。風の中のミネットの力が、鳳花とさくらえの傷を癒す。
    「全力で支援しますから、どうかこのまま防御を」
     凛としたミネットの言葉に、
    「オッケーだよー。敵の攻撃はボクらに任せて」
    「ディフェンダーとして全力を尽くすよ。だから皆は攻撃に集中を」
     答える二人。声に、仲間を守るという気概。
     声を聞きつつ、翔は敵の群れの中を駆け回る。傷ついた一体の正面へ。
    「……オレは迷わない。今はただ、戦うだけ、それだけだ……っ!」
     敵は距離をとろうとしていた。翔はその敵の腕を片手で掴み体勢を崩させ、もう片手で殴り掛かる。閃光百烈拳。
     拳を受けたデモノイドは、両膝を突き、絶命。

     一体を倒されても敵の群れは怯まない。敵数体が皮膚から毒ガスを噴き出してくる。
     唯織はガスを浴びてしまったが、構わず敵との距離を詰めた。唯織はナイフを振る。ティアーズリッパー。敵の肌を切り刻む。
    「防御は削いだ。旭、追い打ちを頼めるか?」
    「了解したよ、十束さん。俺は彼らを、討つ」
     旭は唯織に応え、双刃の馬上槍『鐵断』を振り回す。発生した氷柱がデモノイドに襲いかかった。その冷気に、デモノイドは体を震わせ仰向けに倒れる。
     が、まだ生きていた。立ち上がろうと手と膝をつく。
     弥勒は走った。立ち上がろうとする敵の顔へ足を一閃。炎の蹴りを見舞う。敵を焼き尽くし、消滅させた。
    「敵はまだまだいるけど、この調子なら大丈夫だよー。頑張って、けど油断せずいこうねー」
     仲間を鼓舞する弥勒。


     デモノイド二体を速やかに倒した灼滅者達は、その後、さらに二体を撃破。
     が、デモノイドの一体がやみくもに振り回した腕が、装置の一つにぶつかり、中から新たなデモノイドが飛び出した。
     一体を加え、計七体のデモノイドは灼滅者へ駆けて来る。
     彼らの前に立ちはだかるのは、鳳花。
    「積極的にカプセルを割るわけじゃないけど、割れようが構わないって感じかな……とにかく、これ以上他の装置が爆発したり、壊されたりする前に倒さないとね」
     そのために自分が皆の盾となると、鳳花は攻撃を受け止め続ける。刃化した腕三本に斬られる鳳花。続いて飛んできた光線を、体を捻り炎の蹴りで相殺。
     さらに鳳花は戦場を駆け回る。一分後には、三撃の刃を体で止めた。猫が放つ光とラビリンスアーマーで己を癒し、鳳花は仲間の攻撃の時間を稼ぐ。
    「ギャギャギャッ~~!」
     苛立ったか腕を大きく振り上げるデモノイド。その背後に旭が回り込んでいた。
    「その腕は振り下ろさせないよ」
     旭の腕は剣と化していた。持ち込んだ武器を呑み込ませたのだ。その刃を、デモノイドの首筋へ叩きつける。体液が散る。旭の一撃が、敵の命を奪う。
     少し離れた位置では、別のデモノイドが暴れ回っている。放置すれば、デモノイドの腕がまたカプセルを破壊するだろう。
    「ミルク先輩、このままだと……」
    「うん、止めなきゃねー。翔、飛び込むから合わせてねー」
     翔の声を受け、弥勒は断斬鋏を大きく開き、敵へ突進。鋏を開閉しつつ、振り回す。刃で、敵の腕や首に傷を増やす。
     デモノイドが弥勒を見下ろす。翔は槍を両手に持ち替えた。敵の顔面へ、渾身の突き。螺穿槍。敵の頭部を撃ち抜き、絶命させた。

     時間が経過し、ミネットは状況を観察する。
     灼滅者は、敵数を四体まで減らしている。敵は一体一体強くない上に、連携が取れていない。そこを攻守バランスの取れた陣形でうまく対処したのだ。
     が、多くのデモノイドを相手にしてきた灼滅者たちの消耗も少なくない。
     さくらえも額に汗を浮かべていたが、なお最前線に立っている。
    「後悔のないようにやるべきことを精一杯する。そう決めたんだ」
     仲間を狙う光線をさくらえは受け止め、震えそうな膝を強引に動かしジャンプ。光線を放ったばかりの敵の脳天へ輝く踵を落とす。
     着地したさくらえにミネットは駆け寄る。手にはベルト。無駄のない動きで、さくらえにラビリンスアーマーを施し、治療し守りを固める。
    「こちらの消耗もある以上、長引かせれば危険です。早く決着をつけないといけませんね」
    「うん。迅速に行くよ……犠牲になった彼らをこれ以上苦しませたくないしね」
     ミネットに応えたのは、徒。
     徒は高く跳んだ。足には、流星をあしらったデザインの『エアシューティングスター』。徒はその足を突き出す。流星の如き蹴りを敵の胸部へ。
    「がああ……あ……あっ」
     徒の蹴りに、敵は仰向けに倒れ、活動を停止。
     灼滅者は勢いに乗り、一気呵成に攻め敵数をみるみる減らす。
     そしてしばらく後には、残る敵は一体となる。その一体は、
    「ああああっ」
     口から唾液をぼたぼたと零しつつ、刃化した腕を振り回す。標的は唯織。が、唯織はすばやく後方に跳んで回避。
     着地と同時、唯織は狼子獣心を構えた。槍頭から柄まで朱く血に染まったような槍の穂先を敵に向け、
    「長い戦闘だったが、これで終わりだっ」
     妖冷弾! 敵の胴体を氷柱で刺し貫く。デモノイドは最後の悲鳴を上げる間もなく、命を終えた。


     大規模が戦闘が終わった後は、カプセルに残るデモノイドを一体一体と着実に葬っていく。
     鳳花は最後の一体を倒し終え、息を吐く。
    「うん、これでここは終わりかな。予知なしでけっこー綱渡りだけど、なんとかなるねー」
     さくらえは周囲を見回す。生き残ったデモノイドはいない。あるのは、カプセルやデモノイドの残骸。その光景に、さくらえは一瞬だけ眉を動かしたが、しかし、すぐ表情を消し、
    「……まだやることがあるね」
     事後処理にとりかかる。
     徒も荷物から『制圧済み』と書かれた札を取り出す。この札を入り口に張り、仲間に制圧済みであることを知らせようというのだ。札を手にしつつ、徒は独白。
    「(彼らにも僕らとは違ったかもしれないけど、日常があったんだよね、その日常を突如奪われて……)」
     弥勒は徒の作業を手伝おうとしつつ、体育館の窓から校舎を見る。
    「他の班の皆はどうしてるかなー? 無事だといいけどー」
     その時。壁に備え付けられたスピーカーから声。仲間の声だ。
     その声は、『ロードクロムを倒した』と告げていた。
     朱雀門高校との一戦は灼滅者の勝利に終わったようだ。
    「勝てたみてえだな。これで一連のことに終止符が打てたならいいが……」
     体から力を抜く唯織。
     やがてその場での事後処理を終え、唯織は行こうぜ、と外を指さす。
     残り七人も唯織に同意し、出口へ歩いていく。
     翔は歩きつつ口の中で呟く。
    「(ロード・クロムに会ってみたかったような、会いたくなかったような……オレは……『俺』はどうしたかったんだろう?)」
     翔は自問しつつも、仲間と歩調を合わせ歩き続けた。
     体育館を出、ミネットは校舎に目をやる。おそらくそのどこかで、ロード・クロムが灼滅されたのだ。
    「見せしめにする相手も残さない首領など、為政者の資格もないでしょうに……ですから、当然の結末ですね、クロム」
     ミネットの言葉を聞き、旭は目を閉じる。
    「クロム、君の悪に信念と誇りはあったのか? いずれにしても……高くついたね」
     小さな旭の声。
     調整中のデモノイドを灼滅し、敵勢力の戦力を減らす成果をあげた灼滅者たちは、それぞれの思いを胸に歩き続ける。朱雀門高校での決戦を共に勝利に導いた仲間と合流するために。

    作者:雪神あゆた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年7月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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