街中が華やいでいる。
ショーウインドウにツリーやリースが飾られ、どこからか聞こえてくるクリスマスソングが賑やかだ。手を繋ぐ恋人たち、大きなプレゼントの袋を抱えた父親が帰路を急ぐ。学校帰りらしい学生のグループが、雑貨店のぬいぐるみをあれこれと選んでいる。
そんな様子を横目に、刃鋼・カズマ(大学生デモノイドヒューマン・dn0124)は日用品の買物に行く足をとめた。スマートフォンを見る。そうか、クリスマスシーズンというものか。
少し考えて、最近強引に入れられたアプリを起動する。
『街が賑やかだ』
一言だけメッセージを流す。それだけで、まるで狙っていたかのように長文の返信が届いた。やはり、こういうイベントごとを黙って過ごせる性質ではないらしい。
「クリスマス……か」
この学園に来てからのクリスマスは、毎年驚くほどに華やかで賑わいがある。
今年もさぞ、鮮やかな思い出になることだろう。この予感は、外れたことがない。
●
「イブの街に出ようか」
その日、櫻杜・伊月(大学生エクスブレイン・dn0050)は、いつもの手帳を鞄にしまい、冬のストールをきっちり巻いて言った。
クリスマスイブの夕方、街も人も輝く時間。寒さも忘れるほど、この時期の街には暖かなものが満ちあふれている。
「時間は夕方がいい。ちょうどイルミネーションと夕暮れが重なって綺麗だ」
大切な人へのクリスマスプレゼントを選ぼうか、それともカフェのクリスマスケーキで小さなパーティをしようか。一人でだっていい、この季節の街ならば誰だって大歓迎だ。
買物ならば雑貨店や文具店、衣料品店がある。
パーティならば小さなカフェやカジュアルレストラン。
街歩きならば、イルミネーション輝く小道がいいだろうか。
「寒さ対策は万全にね、私の予知では雪が降る。きっと」
ホワイトクリスマスは週間予報の情報だけれど、エクスブレインが言うのなら間違いないだろう。クリスマスならば少しくらい寒くても、その方が記憶に残る。
一人で、二人で、グループで、誰かを誘って。
買物に、遊びに、そぞろ歩きに。
「クリスマスだ。賑やかに行こうじゃないか」
扉を開けたなら、そこは聖夜には少し早い時間。
気の赴くまま、足の向くまま、夕暮れの街を歩こう。
きらきらの街を歩くだけでも楽しいのに。のんびりの妹分とやんちゃな弟分、二人へ贈り物をしたくて、ひよりはそわそわと視線を廻らせる。聞こえてくるのは電子音のクリスマスソング。
「カードに何曲も歌が入ってるよ!」
「おー、その曲知ってる」
紗奈と春がはしゃぐ姿。ひよりはカードの棚をくるりと回す。ツリーのポップアップするカードは、きっと二人に似合いだろう。
「ねえ、どこかでケーキ食べながら休憩しない?」
「賛成! あとね、お留守番してるナツマにもプレゼントしたいな」
「ケーキに賛成!」
紗奈の手にはシロクマのカード、春の手にはスノーマン。メッセージは金色とグリーン、レッドで聖夜の色。笑みの小波が広がった。
パーティの買物はあらかた終わったから、これからはプレゼントを選ぶ時間。
「男性でも女性でも喜ばれるものがいいよね」
くるみが選んだのは星型と音符型のブローチ。クラブの名前『星空芸能館』にもぴったりだ。
雑貨店を通る紗里亜のところには、優しい香りが漂ってきた。
「フレグランス・バスキューブ?」
寒さ染み入るこの時期に香りの湯に包まれるなんて幸せ。薔薇にラベンダーに蜂蜜、皆で入ってもきっと楽しい。
買い出しの荷物持ち、流希は紙袋を下ろし息をつく。目に留まったのは手のひらサイズの雪だるま。くるりと返せば雪が舞うスノードームだ。
「来年の今頃は、何所で何をしているのでしょうかねぇ……」
時間は留まらず流れ続けていく。でも今は、今日を楽しむことにしよう。
小太郎と希沙は、幸せな荷物を下げて笑み交わした。ふと小太郎の足が止まり、希沙は繋いだ手を取られる。不思議そうに愛しい人を見上げた。
「今年も、色んなあなたを見せてくれてありがとう」
包み込まれる思いと視線に、希沙の頬が熱くなる。希沙のぜんぶは小太郎のためだから。
「全部、此方こそです」
だいすき、と一番の笑顔で囁きかけた。
時間までもう少し、輝く小道を歩く悠一と彩歌。寒さが気にならないのは彩歌と一緒だから、と悠一は口に出しては言わないけれど。
「全面的に期待しちゃいますね?」
「まぁ、クリスマスらしいディナーな?」
何処か似た面差しの二人も、腕を組んで歩けば想い交わした恋人に見える。軽口も心地良く二人はレストランの灯りを見上げた。
待たせちゃった? なんて特別な日のお約束。理央は燈と手を繋いだ。ツリー下の待ち合わせ、時間はぴったり。
「トナカイさんの電飾かわいい!」
歓声を上げる燈が愛らしい。きっと二人で見るからこんなに街も人も輝いて見えるのだろう。
「今年も燈と一緒に過ごせてよかった」
あったかいねと、繋いだ手を引き寄せた。
イルミネーションと人々の笑顔。清十郎はツリーの輝きから、普段より少し大人びた装いの雪緒に視線を移す。そっと肩を抱き寄せれば、周囲の喧噪から二人だけの世界に変わる。
「一緒に居られて幸せだよ」
暖かな腕に包まれた雪緒は、その胸に頬を寄せる。
「私も。愛しています、清十郎」
コート越しの温もりに、二人これ以上の言葉はいらない。
するりと腕が抜けたのは、翠が急に立ち止まったから。改まった様子の翠に、ミルドレッドが声を掛ける前に。
「大好きです。わたしとつきあってもらえますか?」
ぽかんとするミルドレッド。
「い、今更どうしたの?」
ずっと付き合っていたよねと目を丸くすれば。悪戯っぽく翠が腕にしがみついてきた。
「もいっかい告白、したかったのです♪」
いつでも何度でも『好き』を伝えたい。二人は微笑み交わし、温もりを分け合った。
付き合いの長い相棒と、いつもと同じ他愛ない会話。
「そろそろ帰るか」
彗樹が空を見上げる。日が落ちれば、今夜は更に人は多くなるから。
「ん? あ、そうだねー、帰りますかー」
何気なく視線を追う伊織。日常の延長線の一日、この日もそんな風に過ごすのが二人には合っている。
見上げた空は夕焼けが夜闇に溶ける。茜と濃紺のグラデーションが美しい。
カフェのテラス席、南守はコーヒーで指先を温めた。
「プレゼントって買った? 弟くんや妹さんの」
「……時間が無くて」
梗花に問われれば、南守はがっくりと肩を落としてみせる。年末にかけての怒濤のシフト、懐は温かく時間が足りない。買物に付き合ってほしいと南守が願えば、梗花は苦笑して承諾する。道すがら互いに互いに贈る品も考えようと、二人同じ事を思っていた。
「バイトお疲れ様!」
トナカイとサンタ姿のバイトの帰り道。輝く小道にさしかかった所で直哉が出したリボンの小箱。不意打ち、レミは息を止める。寒気と歓喜で頬が熱くなる。
「だから不意打ちはやめろ、と」
鼓動が早い、顔を見られない。直哉はこれからもよろしくと、さっきトナカイを着ていた時とは違う真摯な目をしている。
「ありがとう」
相棒であり恋人からの贈り物、ブルートパーズは優しい光でレミの胸元を飾った。
カフェの席に神妙な雰囲気をした二人がいる。ビアンカは鞄の小箱を気にしつつ、千早もまたそわそわしながら相づちをうつ。千早は心に秘めていた想いを、思い切って口にした。
「好きです。僕と付きあってく」
がしゃんと音立て水のグラスが転がり言葉が切れた。
「すみません先輩!」
「あの、大丈夫だか」
がしゃんと音立てて転がる二つめのグラス。店員さんがてきぱきと片付けていく。
仕切り直しかぁ、と千早が俯きかけたなら。
「うん。どうぞよろしくね」
年上の美しい人の花咲くような微笑み。千早はその瞳にまた魅了されていた。
窓際の特等席。愛しい人とのディナーに、淑女の装いの百花はエアンに感謝を伝える。運ばれてきた聖夜のプレートは色とりどりで。
「このローストビーフ美味しい!」
「美味い。付け合わせも」
眼下にはイルミネーション輝くイブの街。そっと手に手を重ね、エアンは囁きかける。
「メリークリスマス、もも……幸せだ、とても」
応えは聞かなくとも、百花の潤んだ視線と微笑みで伝わる。愛しています、と。
食べてしまうのが勿体ない可愛らしいクリスマスケーキを前に。
「さあ、明彦。一口どうぞだよ!!」
あーんを力強く一口を向けてくる結衣奈に、明彦は照れながら大きく口を開ける。
「うん、美味い! ほら結衣奈も、あーん?」
ソースを纏った一口をお返しに。幸せそうに応じて甘さに頬を緩ませたなら。
「やっぱり可愛いなぁ」
ほろり零れた明彦の言葉に、結衣奈の頬が赤くなる。人前でそんなの! 周りも似た様子の恋人たちばかりだから、きっと大丈夫。
薫は構図を吟味しながら、スマホを掲げてシャッターを切った。家で待つ愛する人にもイブの様子を見せてあげたい。揺れるレンズに滲むピント、ご愛敬と思ってもらえるだろう。すれ違う人波に目を遣れば、見知った顔がいた。
「今晩は、櫻杜さんと、刃鋼さん」
何処へ行くのかと問うてみたなら、伊月には先約があるとのこと。
カフェの窓際、京が人波を見遣れば、長身の青年が眼鏡の青年と歩いてくる。カップを掲げれば、眼鏡の方が長身を押しやる様子がある。やがてドアベルが鳴った。
「メリークリスマス、カズマさん」
「少しは遊んべと言われた」
夕空の星とイルミネーション、一年は瞬く間。
「……とくべつ、だと思う、わ」
通りを伊月と歩きながら、静佳は胸の内を精一杯の言葉で表現しようと考える。ごめんなさいとの呟きに、伊月はストールの襟を直しながら自分の言葉を探す。
「言葉は、私は得意な分野と思っていた」
こんな時に言葉が見つからないと伊月が笑む。これも特別というのかな、と。
カラオケのリモコンを手に戸惑うニコ。慣れた手つきで未知が曲を呼び出せば、大音量の前奏が響いた。聞き慣れたアニメソング、人前で歌うなんて殆ど初めてだ。
「結構上手いじゃん!」
肩で息するニコに未知は拍手喝采。替わってマイクを握れば、伸びやかな歌声がニコに届いた。
「流石だな」
「ニコさん声量あるから、すぐに上手くなるって。あとは場数と度胸!」
カラオケスイーツって気になりませんかと、タンバリンの想希。クリスマス限定豪華盛りフレトーいってみる? とマラカス掲げる悟。
たっぷり歌ってたっぷり味わい、ふと想希が呟く。
「卒業したら、気軽に来られなくなったりするんですかね」
学生生活最後の冬。
「行ったらえぇやないか」
マイク片手にあっさりと悟は言う。自分から道を狭める必要など何処にも無いのだ。
ここの品物はいつもと勝手が違う。人混みで離れぬよう、葉月は真火の手を取った。
「これなんかどうかな?」
葉月が指した指輪は、恋人たちの為のもの。二つ合わせて浮かぶハートが、真火の胸も熱くさせる。
「僕も、これがいいです」
とうとう買っちゃったねと、二人笑み交わした。
わたしの誕生日とクリスマスが近いって、毎年大変そうですね。頭捻ってくれて嬉しいです、ありがとうございます! なんて千波耶の軽口を躱す葉。今年はリクエストでペアリングに決まっていた。
やっと見出したのは一つの星空を分けあったリング。
「マーキングっぽいけどいーの?」
「……い、今更じゃない?」
彼氏なんだし、彼女なんだし? 繰り返す千波耶は可愛くて。葉は店員を呼びながら思う。店の外はきっとこんな星空だ。
真咲の手の平に乗ったリングケース。中身はまだ空との不意打ちに、初美は固まるばかり。
「一緒に買いに行こう。もちろん左手薬指の」
言葉が見つけられない。嬉しい、けれど本当に不意打ちって本当に。
「……ありがとうだが、ずるくないかね!」
繋いでいる手を力任せに引き寄せる初美に、真咲は笑った。これでも緊張はしていた。こんな日々がこれからずっと続くのだな、なんて考えながら。
ふくれっ面の恋人、侑二郎は懸命に盛り上げ役。ネックレスがいいと思ったのだけれど、何がお気に召さないのだろう?
「百花さん……はどんなデザインが好きですか?」
「シンプルなのが良いわ、ゆー君」
名を呼び合うことにまだ慣れない、侑二郎の反応が楽しくて。でも百花は欲しい言葉がまだ貰えていない。
「先日はありがとうございました、百花さん」
時の流れがあまりに速くて、言葉を届け損ねていた。侑二郎の瞳に蕾が綻ぶような百花の笑みが映る。なんだ、この言葉だったのか。
贈り物のためのワゴンに腕時計が並ぶ。自分好みの腕時計を手に取り、篠介は依子に問いかけた。
「同じの着けるんなら、やっぱシンプルなのが良いかの?」
「シンプルがいいけど、何か……」
小さな看板にセミオーダーの文字。時間が掛かるけれど、カスタマイズをこの場で施してくれるようだ。時間なんて、二人でいればあっという間だ。
「文字盤変えれるの素敵!」
「ベルトの色を変えても面白そうじゃよな」
あれこれと選び合う、この時間すらも宝物。
「手袋……ぉー? いや、イヤーマフが欲しい」
慌てたように付け加える友衛。ふかふか真っ白の毛玉のようなマフを手に取り、これが似合いそうだと示しながら紅は視線を棚に移す。
「紅はマフラーだったな」
「ああ、ロングマフラー。どれがいいと思う?」
恋人と二人で楽しむ買物をすぐ終わらせるなんて勿体ない。時間をかけ一番を一緒に選びたい。
「この柄は良い雰囲気だな、着けてみてくれるか?」
友衛の選び出したのはアジアンテイスト。モノトーンに鮮やかな青。満足のゆく買物を終え、通りに出た友衛の手に紅の手が重なる。手袋よりも、ずっとあたたかい。
ショーウィンドウに飾られた帽子を指さし、真琴がはしゃいだ声を上げた。
「もこもこした帽子、シャーリィさんに似合いそうっ」
気になる子とでーと、どきどきのシャーリィはニット帽に可愛いと声を上げた。お店に入れば色とりどり、暖かな小物がたくさん。
「えへへー、似合います?」
「かわいい。せっかくだから、買ってみない?」
「じゃあ、お返しにまこちゃんに似合うの、選びますの」
暫し買物を楽しんだあと、人混みに流されぬよう手を繋いだシャーリィに真琴が笑顔で囁きかけた。
「来年も一緒に見られるといいね」
「ほい、メリークリスマスっと」
アヅマが何気なく渡してきたのは綺麗に包装された小箱で。二人でクリスマスセールを冷やかしていたと思っていたのに、手の中に滑り込んできた贈り物。夕月は思わずアズマを見上げる。
「流石クリスマス、視覚が賑やかだな」
明日には正月ムードに塗り替えられるのになんて身も蓋もない、普段通りのアズマだ。
「? どした?」
「……なんでも」
どんな時でも普段どおり、そんな中にちょっぴり『特別』も混ざったりするものなのだろう。今日のような日は。でも普段通りが、二人には自分たちらしく心地良いのだ。
「冷えたな。なんか温かいもの食べにいくか」
「ラーメン。イルミネーションも行ってみる?」
ムエットに薫らせた新作の香水を、七狼がシェリーに手渡した。探すのはいつかのペアフレグランス、でも新作も気になるところ。至近距離で香りを試す。
「いい香り。でも変えるのは少し惜しい?」
「……ソウダナ、少し惜しいかも」
見覚えた馴染みのボトルを二つ、包んで貰う。
「さァ行こう、俺ノ姫君」
片手には愛しい香り、片手には愛しいシェリーの手。次は聖夜のカフェ、甘美なる世界へ。
イブの大通りは小学生の二人にはちょっとした冒険気分。黒と悠里は流されぬよう、しっかり手を繋いで探検を始める。
「なぁなぁ、これブローチって言うの? 何て花?」
黒は一つのワゴンに目を留めた。素朴な木彫りの花が咲く店、小さな紫色の花。悠里に贈るのだ、綺麗に包んでもらって驚かせたい。
悠里は悠里で、通りすがりの玩具店を思い出していた。ピカピカ光る傘なんて黒が好きそう。男の子には魅惑のLEDライト、きっと気に入ってくれるだろう。
クリスマスといえば!
「サンタガール!」
「サンタ、ガール?」
クリスマスソング轟くコスプレショップ、いちごはまっすぐ試着室へ。ほどなく出てきたいちご(22才男子)、完璧なサンタガールっぷり。
「……似合ってる」
「由希奈さんも着てみましょう。着付け手伝ってあげますねー♪」
なんだか流れるように二人で試着室、そこから先は二人の秘密。二人だけのパーティだから。
切り株を模したココアクリームのケーキに、柊の葉が彩りを添える。イミテンシルは一口含み、コクのあるクリームとほろり溶け合うスポンジの競演を楽しんだ。テイクアウトのコーヒー豆はクリスマスブレンドのもの、あとはあの雑貨店の店頭にあった愛らしい人形を買って帰ろうか。
艶やかなチョコケーキにパウダーの雪が降る。スポンジの間は杏のジャム、甘酸っぱさで食べやすい。目を細めた紗夜は、テラス席で道行く人を見遣った。年に一度の特別な夜の始まりに、人々は幸せそうに家路を急いだり、愛しい人と手を取り歩いて行く。
それはきっと、クリスマスの魔法なのだろう。
作者:高遠しゅん |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年12月24日
難度:簡単
参加:59人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 3
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