体重計にご用心

    作者:聖山葵

    「ラジオウェーブのラジオ放送が確認されたにゃ」
     君達の前に現れたエクスブレインの少女は、ぴっとひとさし指を立てつつそう言った。
    「このままだとラジオウェーブのラジオ電波によって生まれた都市伝説によって、ラジオ放送と同様の事件が発生してしまうにゃよ」
     事件が起こるとなれば当然被害も出る。
    「放送内容は今から話すからまずそっちを聞いて欲しいにゃ」
     頭につけた猫耳カチューシャの位置を調整しつつ少女は前置きすると、語り始めた。

    「それでさー、伊達巻きだけ綺麗になくなってて」
     愚痴る少女にあははと苦笑したのは横に居たもう一人の少女だった。
    「でも食べ損ねた訳じゃないんでしょ?」
    「まぁねー。むしろ食べ過ぎてちょっと気になる系?」
     まだ大丈夫だと思うんだけどねと言いつつ問われた少女は自分の体に視線を落とす。夕暮れの帰路、それはこの季節ならではの悩みを話題にしたよくある光景と思われた。
    「……正月太りはおらんか? 正月太りはおらんかね?」
     などと物陰から声がしなければ。
    「「え?」」
     はじかれたように二人の少女が声の方を見やれば、そこにあったのは本体から生やしたメジャーの触手を動かし這いずり近寄ってくる体重計。
    「「嫌ぁぁぁぁぁっ」」
     二重の意味で酷い怪異との遭遇に少女達の悲鳴が上がるのだった。

    「だいたいそう言う感じにゃね」
     語りながらもエクスブレインがどこか遠くを見るのは、実は他人事では無かったりするからか。
    「むぅん、何ともコメントしがたいっ、はっ、都市伝説だね」
     ポージングしつつ応じたのは、情報提供者である内生蔵・土門(ワールドモッチア・d37396)。筋肉を誇示したいのだろうが、当人の意図に反しておっきすぎる胸ばかり協調されてしまう筋肉大好き系女子である。
    「ただ、女の子達にとっては色々敏感な問題だから、出来れば男の子の方が良いかなと思って和馬君には声をかけさせて貰ったにゃ」
    「そっか、そう言うことなら仕方ないよね」
     すんなり納得するあたりチョロいと言わざるをえないが、しょっちゅう女の子扱いされる鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)としては、まぁ、無理もないことなのだろう。
    「話を戻すにゃ」
     赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)の調査によって都市伝説を発生させるラジオ放送が突き止められたことで、この事件についても都市伝説が発生する前に情報が得られたのだとか。
    「つまり、今なら件の女の子二人がメジャー触手であんなとこやこんな所のサイズを測られちゃったりする前に事件を解決することが可能なのにゃ」
     被害など起こらない方が良い。
    「こう、友達のサイズを知っちゃった時の気まずさとか、相手の方が大きいと気づいた時のモヤモヤ、ぐぬぬって感情、あんな悲劇はもう二度と……というか、土門さんは私に何か恨みでもあるのかにゃぁ?」
     個人的な色々を噴出しつつジト目でどこかが地平線、いや壁、いやいや、まな板なエクスブレインは情報提供者を見た。まぁ、これも無理はないと思う。
    「えーっと」
    「あ、失礼しましたにゃ。現場はとある路地。そこで夕方以降、日の出前までのいずれかの時間帯に正月のことと体重とかお腹周りなんかのことを口にすると都市伝説は出現するようにゃ」
     そして正月太りはおらんかと問いかけつつ襲ってくる。
    「抵抗しないとサイズとか体重なんかを測定されちゃうおぞましい都市伝説にゃ」
     もちろん無抵抗では測られるだけで解決しないので、君達は攻撃して倒して貰う必要がある訳だが。
    「戦闘になれば都市伝説は影業のサイキックに近い攻撃で応戦してくると思われるにゃ」
     なんと言っても触手もちなのだ。それを利用した攻撃をしてきても不思議はない。
    「そして、当然にゃけど、自身を出現させるキーワード的なサムシングを口にした者を優先して狙う傾向があるみたいにゃ」
     故に呼び出し役はディフェンダーポジションがオススメなのだとか。
    「最後に、この情報はラジオ放送の情報から類推される能力にゃ。可能性は低いにゃけど、予測を上回る能力を持つ可能性があるので、その点は気をつけてほしいにゃ」
     そう忠告を口にすると、エクスブレインの少女はくるりと君達に背を向けた。相変わらずポージングを時折する誰かが視界に入らなくしたのかも知れない。
    「ダイエット……最近は暖かくなってきたしジョギングも……いやいや、そう油断させておいて寒い日が来る来もするにゃし、うむむ」
     女の子は色々大変な、と言うことか。
    「……えっと、それじゃ、みんな、行こっか?」
     独り言を口にし始めたエクスブレインの少女を見て視線を泳がせた和馬は君達に向き直るとそう促したのだった。


    参加者
    アルゲー・クロプス(稲妻に焦がれる瞳・d05674)
    竹尾・登(ムートアントグンター・d13258)
    火土金水・明(総ての絵師様に感謝します・d16095)
    夜坂・満月(超ボタン砲・d30921)
    牧原・みんと(象牙の塔の戒律眼鏡・d31313)
    内生蔵・土門(ワールドモッチア・d37396)

    ■リプレイ

    ●サイズと女子と
    「女の子って何であんなにサイズを気にするんだろう? 極端じゃなければ、気にする事も無いと思うんだけどなあ……」
     誰にも聞こえない程の声でぼそっとこぼした竹尾・登(ムートアントグンター・d13258)は、顔を物影から半分だけ覗かせて女性陣を見やった。
    「体重計とメジャーで構成された都市伝説、ですか」
     ポツリと呟いたのは誰だったか。
    「じょ、女性の天敵ですね」
     知人が凄く嫌がっていたことを思い出しながら夜坂・満月(超ボタン砲・d30921)はその気持ちに分かりますと同意する。
    「……一部の方々からは凄く恐れられそうな都市伝説ですね」
     同じクラブに所属なのだからアルゲー・クロプス(稲妻に焦がれる瞳・d05674)が脳裏に浮かび上がらせた人物は満月の記憶にある知人達とおそらくは同一人物なのだろう。
    「やれやれ、また女子の敵な都市伝説が発生しましたね」
     嘆息する火土金水・明(総ての絵師様に感謝します・d16095)も含めて都市伝説に抱いた印象は敵か嫌な存在のどちらかもしくは両方であるらしい。
    「しかし……もう一月も終わりなのに……ああ、だからですか」
     何やら引っかかりを覚え、それを自己解決した牧原・みんと(象牙の塔の戒律眼鏡・d31313)は腰からライトをぶら下げたまま都市伝説の出現するとされる路地を見た。
    「直後は怖くて測れないけど時間がたってそろそろ大丈夫と油断して測って大ダメージというアレ。全く血も涙もないですよね。メジャーだから元からないですけど」
    「ひ、被害者が出る前に見つけられたのは行幸ですね」
    「ええ、ごもっともです」
     満月の言葉に頷きちらりと特定の物影を見やったのは、そこに隠れて居るであろう男性陣へのサインだったのかもしれない。
    「鳥井君は他人のサイズとか気になる?」
    「んー、オイラ自身はそれ程でもないんだけど、気にせざるを得ないというか、ホラ」
     丁度この時、登に尋ねられた鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)はさっきみたいな事になるしと視線を逸らした。
    「あー」
     話は物陰に隠れる前に遡る。
    「おや? ボクの、むぅん、筋肉が気になった、はっ、かな?」
     和馬にとって言うならそれは失敗、だろうか。視線を感じた気がして周囲を見回した内生蔵・土門(ワールドモッチア・d37396)はポージングしつつ目のあった和馬に尋ねた。
    「えっと」
     ただ、この時和馬は別に意図して見た訳ではなくたまたま視界に入っていただけなのだが、はっきり答えなかったのが拙かったのか。
    「はっはっはっはっは、君も、ふうっ、男の子と言うことかな。気持ちはわからないでもないよ?」
    「ちょっ、オイラそう言うわけじゃ――」
     朗らかに笑いつつ、胸を強調する様なポーズをとった土門は自称ごく普通の男の子の前で両手を頭の後ろへ持って行き、組む。
    「男の子が筋肉に憧れを抱くのは、ふっ、自然なことだからね?」
    「そっち?! や、そうじゃな」
     的はずれな言葉に驚愕してからツッコみかけるが、もう遅かった。
    「……和馬くん」
    「ちょ、アルゲーさん」
     背中に押しつけられるむにゅんとした柔らかな感触にあたふたし出した所で第二の矢は放たれる。
    「そ、そうじゃありませんからっ」
     勘違いしていた土門に満月がツッコミと言う名の体当たりをぶちかましたのだ。
    「おわっ?!」
     むにゅんとたわんだ豊かな膨らみがサラシに巻かれた土門の胸とぶつかり、バランスを崩した土門は倒れ込む、和馬とアルゲーの方へと。
    「え゛」
     やわらかなビリヤードの果てに待っていたのは誰かがサンドイッチされる光景だったのだ。
    「ああ言うこともあるからさ……」
    「あぁ、そう言う――あ」
     過去から戻ってきた複雑そうな顔をする和馬に納得した登は気づく、みんとの出したサインに。

    ●作戦開始
    「いなづまちゃんは、話に参加しないのですね」
     みんととは別の理由で男性陣の隠れていた場所に視線をやった明はぼそっと漏らすと前方へと向き直る。準備はほぼ調っているのだ。
    「では、そろそろ呼び出しの為の体重絡みのお話をしましょうか」
    「……そうですね」
     促す仲間の声に同意しつつもアルゲーがちらりと振り返った理由は少し前のドタバタを鑑みれば問う必要すらなく。
    「正月太りか、体重もお腹周りもしっかり確認しておかないとね! それでもお餅は沢山食べたけど」
     何かを思い出す様に呟いた土門がまず、むんと筋肉を誇示しつつポーズをとった。
    「……ふむ、自身を律しないと大変な事になりますからね」
    「……この時期は体重や体型が変化しやすい時期ですし気をつけたいですよね」
     ツッコミを入れるべきか迷ったのか、一瞬間をおいてからみんとが応じれば、アルゲーも同意を見せ。
    「そうですね。帰省なんてした日には親戚があれこれ世話を焼いてくれたりしますし、調子に乗ってしまうとあらららら。まあ、日常で戻ってい――」
     再び口を開いたみんとが最後まで言い終える寄りも早く。
    「……正月太りはおらんか? 正月太りはおらんかね?」
     物影に気配と声が生じた。
    「では、きっちり始末しましょうか」
    「そ、そうですね」
     だが、灼滅者達に動揺など微塵もない。誘き出したのだから当然だ、満月がどもっているのは仕様である。
    「いよいよですね」
    「……和馬くんとステロは援護をお願いしますね」
     明がすかさず戦場の音を遮断し、物影から思い人が姿を現すのを視界の端で確認したアルゲーは思い人とビハインドの双方に声をかけ。
    「ボクの筋肉が測れるかな! はあっ!」
     腕を巨大化させた土門がまず殴りかかった。
    「しょぶっ、しょ、しょ、ショショショショーッ!」
     体重計部分から軋む音をさせつつアスファルトでバウンドしてひっくり返ったソレは複数の触手で地を叩き反動で元に戻ると今度はこちらの番だと言わんがばかりに土門へ這い寄ろうとし。
    「べっ」
    「蜘蛛でしょうか? いえ、違いますね……もっと、こう生理的嫌悪感を覚えさせると言いますか……」
     破邪の白光を放つ一撃で都市伝説をはたき落とした明は首を傾げる。
    「め、メジャーで器用に動いてますね。気をつけないと」
     一方で、満月はその機敏な動きへ警戒心を露わに身構え。
    「知識の鎧、触手に困る方々を庇ってください。貴方は測られても困るものではないですし」
     後方から聞こえるみんとがビハインドに出す指示を聞いた直後。
    「いきますよ」
     脇を抜けた仲間が担いだクロスグレイブで触手付き体重計に殴りかかった。
    「しょがっ」
     衝撃で体重計のメーターが大きくぶれ。
    「……叩き壊しますよ」
    「っぶげっ」
    「やぁっ」
     更にジェット噴射を伴い飛び出したアルゲーのロケットハンマーが都市伝説をかちあげ、炎を宿したサイキックソードの一撃がそこに叩き込まれる。見事な連係攻撃だった。
    「がぶびっ、ばっ」
     しかもそこでおわりではないアスファルトに叩き付けられたソレを待って居たのはビハインド達からの追加攻撃。
    「っ、しょうが――」
    「やあっ」
     吹っ飛ばされ転がる都市伝説が勢いを削ごうと触手を地に付けた直後、高速で回り込んできた満月が体重計部分を斬りつけた。
    「へぇ、中までちゃんと体重計なんだ」
     身を守るモノごと斬り裂く一撃は体重計の内部構造にまで及び、かいま見えた構造に登はポツリと漏らすと鍛え上げた拳を握り込み、距離を詰める。
    「毎度毎度しょうもない物出して……ラジオウェーブ大好きだよ」
    「しょげばっ」
     再びメーターをぶれさせつつ殴りつけられた体重計が外装の欠片をまき散らし、ライドキャリバーであるダルマ仮面の機銃を浴びつつアスファルトをはねる。メジャーの触手がなければ数人がかりで体重計をぶっ壊しているようにしか見えない光景だが、それはそれ。
    「しょっ、しょ、ショショショショショーッ!」
     曲がりなりにも相手は都市伝説、きっちり反撃してくるのだから。
    「っ」
     触手メジャーが土門の足を這い登り、衣服の中へ潜り込み。
    「うおっ」
     都市伝説はそのまま身体に絡み付きつつ、土門の身体のサイズを露わにして行く。まさに、いろんな意味で女性の敵であった、が。
    「137cmか、また大きくなったみたいだね! アンダーバストにウエスト、ヒップは変わらずかな」
    「全く動揺しない相手に攻撃したのは失敗だったんじゃないかなぁ?」
     この都市伝説の目的が捕まった相手に絶望を与えるというのであれば選択ミスとしか言いようがない。
    「体脂肪も測れればよかったんだけどね、その機能はないのかな?」
     リクエストまでされる始末だもん。
    「もっとも、正解を選んだところで私のビハインド、知識の鎧マキハラントメイガスがそれを阻む訳ですが」
     完璧に近い布陣だった。こう、被害に遭うの前提でプレイングかけてきてる方どうしようと誰かが頭を悩ますレベルで。

    ●本気を出してみた
    「この調子なら私が被害を受けることはなさそうですね」
     かっこいいエアシューズのつま先でアスファルトを突きつつ呟いた明は、そもそも優先的に狙われるであろう呼び出しの会話に参加もしていない。
    「まぁ、被害がないならそれが一番何じゃないかなぁ」
    「だよね、オイラとしても別にこのまま終わってくれても構わないというか――」
     ちらっとアルゲーの方を伺って苦笑する登に同意した誰かがむしろ歓迎と続けようとし。
    「か、和馬さん、それはフラグに」
    「え゛?」
     満月からツッコミを受けた直後だった。
    「正月ぶとりゃぁぁぁぁっ!」
     謎の雄叫びを上げた都市伝説が触手を使って跳躍したのは。
    「知識の鎧っ」
    「しょがっ!」
     庇いなさいと命じるまでもなく行く手を塞ぐ知識の鎧に体重計はメジャー触手を絡み付かせながら足場とし、更にジャンプする。それは完封されてなるモノかという都市伝説の意地か、たまたまダブルが発生しただけか、ソレは満月目掛け飛びかかり。
    「きゃああっ」
     悲鳴をあげつつのしかかられた満月は堪えきれずに倒れ込む。
    「うっ、く……め、メジャーが苦しいです」
     ここぞとばかりに動きを封じようと触手を絡みつけてくる都市伝説の下で顔をしかめた満月は身じろぎし。
    「あ」
     気づいてしまった。メジャー触手が胸囲を一回りしていることに。
    「134cm、Vカップ」
     そして機械音声が容赦なく明かすバストサイズ、満月の顔はみるみる赤く染まり。
    「嫌ぁぁぁぁっ」
     やっぱりこの都市伝説、女性の敵であった。
    「……大丈夫ですか」
    「や、やっぱりブラウスのボタンが締まらなかったり、ブラがすごくきつかったですがまた大きくなってしまいましたか……ついにカップだけなら土門さん以上に……」
    「……大丈夫ではなさそうですね」
     助けようと駆け寄ったアルゲーは男性陣にとって目の毒になりそうな格好のままでずーんと落ち込む満月の姿に色々察し。
    「え?」
     故に足下から這い昇ってくるメジャーへの反応が遅れた。
    「成る程、攻撃しても庇われるなら攻撃せずに単にサイズだけ測ればいいと」
    「もの凄い屁理屈だよねそれ? って、そうじゃなくて!」
    「あ、謎の光が!」
    「わぷっ?!」
     助けなきゃと我に返り走り出そうとする和馬の目を容赦なく懐中電灯の光が襲う。きっと気遣いだったのだろう、駆けつけてサイズを目撃させまいと言う。
    「9――」
    「ピピピピーピピピ」
    「ちょ」
     だからこそサイズの読み上げが為されても登は和馬の耳元で口笛を吹き、阻止し。
    「……1カップほど大きくなったみたいですね、理想にはまだですが」
     顔を赤くながらも衝撃を受けた様子はなく、アルゲーはロケットハンマーを振り上げた。
    「しょべっ」
     結果として、相応の報いを受けたのだろう。
    「こ、これ以上の被害者は増やさせませんっ!」
     ショックは受けつつも起きあがった満月は自身と同じ悲しみを背負わせぬ為、殴打された都市伝説に掴みかかるとそのまま投げ飛ばす。
    「ぶがとべっ」
     ひっくり返され、アスファルトに叩き付けられた体重計は悲鳴をあげ。
    「しょ、正月ぶ、とりは、おっ」
     裏返しのまま元に戻ろうと出鱈目に振り回した触手の一本が何かに触れる。
    「正月太りはおらんかねぇぇっ!」
     それが人の足だと知覚した体重計は新たな犠牲者の到来に歓喜した、だが。
    「残念だけどそれはオレの足だよ……漢がサイズなんて気にするか!」
    「しょ、が、べつ、ぶっ、げばっ」
     足に触手が引っかかっているから、登が選んだのは、蹴りではなくオーラを集中させた拳の乱打。
    「えっと、みんな大丈夫?」
     格闘ゲームのボーナスステージよろしく壊されて行く触手付き体重計から視線を外し、和馬は浄化をもたらす優しき風を招き。
    「今のところは。……といいますか、私はこう、その辺りはきちんとしてますので」
    「あーうん」
     なんとなくキリッと擬音でもつきそうな風味で答えるみんとに視線を逸らしつつ応じ。
    「私もまだ大丈夫ですが――」
     だからといって戦いが長引けば万が一もあり得る。
    「……このまま畳みかけてしまいましょう」
    「ふむ、では、むんっ、そうしようか」
     促す明にポージング付きで同意した土門はアスファルトを蹴って飛ぶ。
    「しょ、しょうが、ががが……」
     ズタボロで動きも若干鈍った都市伝説は肉迫する土門に気づくも、回避行動にまでは移れず。
    「どうやら筋肉の可能性は測れないみたいだね! これでっ」
    「ぶべらばっ」
     WOKシールドを叩き付けられた体重計は吹っ飛ばされて弧を描き。
    「しょがああああっ」
     地に落ちたところで降り注ぐ攻撃の雨。
    「しょ、しょ……しょ」
    「これで、おしまいですよ」
     摩擦熱で生じた焔を足に纏った明が蹴り砕くと悲鳴もあげられず都市伝説は消滅し、色々大変だった戦いは終わったのだった。

    ●言葉選びは難しい
    「何とかなりましたね」
     都市伝説は倒された。
    「……太ったわけではないですし良しとしましょうか」
     幾人かは測定られてしまったものの、とりあえずアルゲーにショックを受けた様子はなく。
    「た、体重はまだ平気だと思いたいですが服の為にもダイエットとかしたほうがいいのでしょうか? で、でもその前に新しいブラジャーを頼みに行ったほうが……」
     だが、ブツブツ呟く満月の方はダメージが大きそうであり。
    「えっと……」
    「どうしたの?」
     まごつく様子を見かけ声を登がかければ、フォローすべきか迷っててと答えが返ってきて、登はふと思う。
    (「最近、酷い事ばかりしてる気がするし」)
     ここはフォローでもしておくべきではないかと。
    「そう。あ、オレは鳥井君が大好きだよ」
    「え」
     そして口から出た言葉に、一瞬驚いた顔をした和馬は視線を逸らし。
    「えっと……オイラ、ホモはちょっと……」
    「あれ? この展開何だかデジャヴ……でなくって、オレもそのケは無いよ」
     首を傾げつつもすぐさま我に返った登は否定する。
    「なるほど、いなづまちゃんは鳥井君が好きだったのですね」
     とか呟きつつ頷いている明に気づいたら、反応ももうちょっと違ったモノになったかもしれない。尚、和馬の方は登の言がフォロー的な意味だとは実は気づいていた。
    「あー」
     胸を変形させる程押しつけ思い人を取られまいと背中にくっついているアルゲーが視界に入ってきて登も和馬がわざわざそう答えた意図を察し。
    「その、アルゲーさん。バレンタインなんだけど……オイラのうちに来る?」
     予定を聞かれていたことも相まって、アルゲーの思い人はアルゲーの方をチラチラと伺いつつ問う。家、としたのは外を出歩いて女の子に間違われたくないからとかそんな理由なのだろうが。
    (「……和馬くんのお家にお嫁に?」)
     アルゲーの中では何か一つ、単語が付け加えられてとんでもないことになっていた。
    「……か、和馬くんは、その白無垢とウエディングドレスではどちらが良いですか?」
    「え゛?」
     固まった和馬が慌てて誤解を解こうとしたのは言うまでもない、と思う。
    「何はともあれ、これで大丈夫だね! さて準備運動も済んだし帰りがてらロードワークだ!」
    「あ」
     そんなこんなで一部がドタバタしている内に戦場の後片付けも終わり、土門が踵を返そうとしたところで、明が声を上げる。
    「24時間開いているお店で何か食べて帰りましょうか」
    「ふむ、それもいいか。むぅん。まだまだ沢山食べて、はっ、沢山鍛えて筋肉をつけないとね!」
     立ち止まり、顎に手を当てて二秒ほど考えた土門は明の提案に同意し。
    「確かに。寒い時期ですし、温かいモノを食べて帰るのも良いですね。……私はこう、あの辺りはきちんとしてますので」
     重要なことだからかもう一度言いつつみんとも賛成する。寄り道を決めた幾人かを含め一同は帰路へとつき、路地には風の音だけが残されたのだった。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年2月1日
    難度:普通
    参加:6人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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