ESP法制諮問会議~新たなる世界の秩序を

    作者:長野聖夜


    「皆、新たなる世界の為に尽力してくれてありがとう」
     とある教室にて集った灼滅者達に一礼する北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)。
    「さて、皆も知っての通り、変わりゆく世界についての議論の結果、エスパーのESPについては『ESPを前提とした法制度を構築する』事になった」
     ある意味で其れは当然の事だろう。
     今後生まれてくる者達も又エスパーなのだから、世界の有様は大きく変わっていく。
    「だけど、其れは一方で今迄の常識を根底から覆すことになってしまう。となれば、その新たなる世界の中でも通用する法律の整備は必須だろう」
     最も様々な意見は在れど、まだまとまった法律は存在していない。
     それを灼滅者の皆で改めて考えよう、という試みである。
    「さて、今回の法整備の形式なんだが、分かりやすいと言えば、分かりやすい。簡単に言えば、自分達が今考えているこのESPを踏まえた法について思うことを発表すれば良いだけだ」
     但し、議論の方向性として現在下記2つの事は法として定める事になっている。
     1、有益なESPについては便宜を図る。
     2、ESPを所持している事による差別は行わない。
    「これを踏まえた上で今後のESP法について、持論を考えて欲しい。大まかな流れとして上記2つがあるのだとしたら、個別のESPに関する問題……其々の細かい部分について考えていくイメージだね」
     例えばAというESPがあるとしよう。
     このESPについては、1に定められている有益なESPとして認めるか否か。
     そして、そのESPはこう取り扱う、と言った具合に。
    「或いはもっと重要なことがある。ESPは直接的な害を与えないとは言え、特殊な力だ。当然、それによって犯罪を起こす者もいるだろう」
     ESPは力だ。
     当然ながらその自分が目覚めた力を悪用する者もいる。
     そういったESPを使った犯罪が行われたらそれにどう対処するかについて法律化するのは、変わりゆく世界と向き合っていくうえで非常に重要な事になるだろう。
    「後細かい所で言えば、ESP所持者に対する年金はどうするか、とかそんな所も考えてみたら良いかも知れないね」
     尚、各法の可否についてだが、基本的に1つ意見が出たら特に反対意見が無ければESP法として採択される。
     また、反対意見があったとしても賛成多数ならばそれはESP法として採択される事になるだろう。
    「……このやり方は、正直少しリスクが高い気がするがそれでも、今、ESPを前提とした法整備について考える人達の想いを俺は無碍にしたくない。ある程度多数決になるのはやむを得ないだろうけれど、皆がこのESPを前提とした法制度について正面から向き合い、忌憚のない意見を言って貰う事を、心から望んでいるよ」
     真摯さと複雑さを抱えた表情の優希斗がそう告げ、そして法整備について議論するための場を作るかの様に一礼するのだった。


    ■リプレイ


    「皆さん、ESP法制諮問会議に参加してくれてありがとう」
     ESP法制諮問会議会議場。
     壇上に一番最初に立ち挨拶したのは松原・愛莉。
     その事実に微かに緊張で肩を強張らせる。
    「皆さんが提案を聞く前に、確認したいこと……と言うより、認識を揃えておきたいことが二つあるわ」
     小さく息を一つ。
    「まず、一般人に効果があるESPは、エスパーには効果が無い事。次に、ESP教育とESP登録制を行うことを前提として法制度を作る。この認識で大丈夫かしら?」
     愛莉の言葉に各自が頷く。
    「その上で、私から1つだけ追加したいことがあるの」
     ――それは……。
    「所持しているESPの『種類』による差別も行わないことよ」
     エスパーはESPを選べない。けれどもそれで差別されるのは不公平だから。
     会議に参加した専門家からもこの意見は尤もだと同意が取れ今の会議の評決の基本精神となる。
     これに則り灼滅者達は専門家を交えて数週間の時間を掛けてESP草案を練り上げる。
     その過程の中で不採用となった提言もあった。
     例えば紅羽・流希の提言。
    「非常に難しい問題ですが……原則として、災害などの非常時を除いて、公の場でのESPの使用は禁止した方が良いと考えていますねぇ……」
     最も就く職業によってはESPの使用が非常に有利になったり、ESPを使うことを前提とした職業も出てくる可能性もあるため、ESP使用許可免許証の発行も同時に提言している。
     月夜・玲も似た発言だった。
     玲は動物変身系統ESP及び旅人の外套・闇纏いの様な、潜入工作や光学機器による監視を逃れることが出来る為に悪用することの出来るESP及び類似ESPの使用の禁止、及びマネーギャザの様な現金を作成し得ることの出来るESP及び類似ESPの使用の禁止である。
     ただ愛莉の言う様にESPは自分では選べず法案は評決の精神に反していた。
     流希の方針も同様であり結果賛成者がいない事も手伝い否決される。
     ただESP法の在り方を考える時、こういった意見が出ることは意義のある事を疑うものは誰一人としていない。
     睦沢・文音は、ESPの証拠能力……特にDSKノーズやテレパス、類似のESPを有益なESPと認め、それらの証拠能力についての提言した。
     そこでESPの効果について検証が行われ、下記の理由から有益なESPとして使うことが出来ないと判断された。
     DSKノーズは『残虐な殺害』をしていなければその効果を発揮出来ない為灼滅者やダークネス以外に殺人が犯せなくなった世界では意味がなくなる。分かるのは全人類エスパー化以前に残虐な殺害をしていたかどうかだ。
     この以前の残虐な殺人については遡及して処罰するかどうかは今回の会議では取り扱われない。
     テレパスも有城・雄哉が提案した『記憶や感情を操作する様なESPの一般人への使用の禁止』と言う主張もあって検証されたが既にESPを使えずとも人類がエスパー化しているこの状況では適当な内容になってしまうことが判明する。
     故にこれらを証拠として使うことは出来ないと言う結論に至ったが出された提言に対して話し合い、実際に検証して使えないことが分かると言う手順自体は重要だったことが評価された。


    (「昔読んだ本を思い出したね」)
     それはふとした事を切欠にとある特殊能力を身に着けそれを人の役に立てる為に偶に使うお爺さんの物語。
     これが椿森・郁に教えてくれた事はどんなESPでも有益な使い方が見つかるかも知れないし漠然と使うより自分のESPをより深く知れたらなと言う事。
     だから彼女はこう発言した。
    「私は、自身のESPを他者や社会にとって有益に使う方法を考えて、提案できるような体制を作っていけば良いと思うよ」
    「そうだね、俺も似たような考え方だね。ESPによって社会が質的に大きく変化するのは間違いない。だから、その変化を受け入れつつ人の尊厳と自由を守っていくことが出来る様な仕組みを作る事を模索していくべきだよね」
     郁に、居木・久良が同意する。
     これを聞いた専門家達は何時の間にか郁達と共に、その柔軟な考えを如何に補うのかについての議論を進めるべく、郁達と共に実際の討論に移る。
    「それを行うなら、愛莉の発言通り所持ESP登録制度の実施は必須でしょうね。そうすることで人々が持ちうるESPを明確にすることで其れを利用した犯罪の防止につなげる事も出来るでしょう」
    「俺も同感だよ。自分が使えるESPを届け出て登録されていればそれがどんなESPなのかを客観的に判断できるからね」
     皇・銀静に久良が頷く。
    「そうだね。ESPはあくまでもその人の持つ才能の一つだから、過度に規制すべきだとは思わないし、かといって過度に優遇すべきものでもないよね」
     エミリオ・カリベも頷いていた。
     規制が過ぎれば特定ESP所持者の差別に繋がり、優遇が過ぎればESPで人生が左右されてしまい、その人の自由意志が奪われてしまうから。
    「それだったら、こういうのはどうかな? 自身のESPについて過程や原理、特性や効果範囲、使用による自身や周囲への悪影響の有無なんかを研究すると言う行動に対して、報奨金を出したりとか、所得控除を受けられるようにするって言うのは?」
    「僕達の方で何が有益で、何が不利益なESPなのかを考えるんじゃなくて、自分で努力して自分の持つESPの有用性が証明できれば、相応に便宜を図ると言う形を取るんだね。それは良い方法だね」
     郁の提案にエミリオが頷き、久良も微笑する。
    「その方法なら、自分のESPについて隠すメリットは無さそうだね」
    「そう言う事でしたら、登録していないESPに関しては理由如何に関わらず使用することを禁じ、使用した時点で逮捕拘束の対象としたらよいのではないでしょうか」
     銀静の提案にエミリオが頷きを一つ。
    「自分のESPの好影響、悪影響の有無に関して研究すればそれなりの見返りは貰えるけれど、研究しなくても登録さえしておけば罰せられることも無い。少なくともこれなら、自分のESPだけで将来の方向性が決まっちゃう世の中には、成り難そうだね」
    「後、出来れば今後どの様なESPが発見されていくかのデータ収集が出来るような研究や検証機関の設立も提案できませんでしょうか? 自分のESPを如何に社会にとって有益な物かどうかを提案するのは自由意志に任せて良いと思いますが、今後どの様なESPが生まれ現れるか未知数です。そう言った場所でデータを収集し公開すれば、郁の言った提案を個人でやり易くなると思いますので」
     銀静に郁、エミリオ、久良が再度頷き各国の専門家達とも相談した結果、専門家達に絶賛されたこの意見は下記となった。
     自分のESPがどの様に役に立つか、或いは悪用する事でこの様な利益が得られると言う事を証明しそれを公開することで報奨金やESP所持による年金が与えられると言う条約に。
     これには3つのメリットがある。
     1つは自分のESPを隠しておくメリットが無く、ESPの登録が進むこと。
     1つはESPの研究が進み、そのESP所持者を適材適所に配置し社会がより発展しやすい環境を整えられること。
     1つはESPの犯罪利用の研究が進み、犯罪をするよりも年金を貰った方が得と言う状況になるということである。
     これは後にESP法基本ルール通称椿森ルールと呼称される様になった。


     さて、椿森ルールが何故条約となったのか。
     それは風真・和弥の発言に端を発する。
    「俺がESP法について入れておきたいのは、『灼滅者、エスパー、どちらからでも既定の手順に則れば修正可能』というものだ」
     法とはより良い世の中を作る為に存在するが、最良とは時代や状況によっても異なる。
     現状では灼滅者主導なのは致し方無い事だがこの法は元々エスパー……全人類に関わるものだ。だからこそ、エスパー側が主体になる必要がある。
     和弥の意見は妥当であり、専門家たちの間でも喧々諤々議論された。
     和弥自身も気にしていた法改正の手順を最重要課題として。
     数週間にわたる討論の末専門家たちはエスパー法は『国際法』とし、国連決議で条文を変更できると言うルールが妥当であるとする結論を出した。
     結果国際法と扱われる様になったエスパー法だが、今度は新たな問題が生まれてくる。
     それはエスパー法制の優先順位。
     この件について意見していたのは文月・咲哉だった。
    (「エスパーのESPはその人の能力であり、特技みたいなものだ。だから、ESPを使うことを前提とした上で混乱を少なくするためのガイドラインを作っていきたい」)
     その思いから咲哉が発言したのは下記である。
    「俺はこのエスパー法について、『ESPを使っても使わなくても、既存の法を犯せば犯罪』であり、犯した罪に応じて罰則を受けるのは現段階の基準として有効だと思う」
     つまり国際法として定められたエスパー法に対しては、現地の法律の優越の法則が適用されると解釈する事だ。
     これも又、専門家達の中で討論が行われ、現地の法律の優越の法則が適用される様になった。
     だがこのESPによる犯罪は現行の手段で犯罪を確定できなければならないと加えられる。
     また当然ではあるが『ESP使用者を規制する目的で、新たな法律を制定してはならない』と言うルールも設けられた。


     ESPによる犯罪についての言及に関する発表もある。
     その中心は椎那・紗里亜と阿久沢・木菟。
    「肉体が無敵になっても心は傷つきますし財産は失われます。無敵化以前であれば傷害や死に至ったであろう行為はもちろん、精神的に害を与えたり、人の財産に損害を与える行為は現代社会のルールと同じく然るべき罰を処するべきです」
    「そうでござるな。特に、ESPを自由に使える社会ならばESPを使用しての犯罪への厳罰化は進めて欲しい所でござる」
    「そうですね。ですが具体的にどの様な罰を与えるべき、なのでしょうか……」
    「それは簡単な話でござるよ。肉体的に傷つけても結局死なないのであれば、心を折れば良いだけでござる」
    「心を折る……」
     微かに眉を顰める紗里亜に木菟が頷きを一つ。
    「先程お主が言っていた事をそのまま返す形になってしまうでござるが。肉体が傷つけられても死なないのであれば、ESPを使って他人の心や財産を奪って傷つけた犯罪者に対しては、今度は精神的にもう二度と同じことをしたくないと心が折れるだけの処置を行えば良いのではないかと思うのでござるが」
    「……つまり、被害者と同じ様な目に合わせれば、その犯罪者の心も折れると?」
    「それが一番確実でござろうな」
    「今私達に出来ることはそれしかない、と言う事ですね」
     紗里亜と木菟の意見を基にESP犯罪、或いはその他の犯罪によって捕縛されたエスパーへの刑罰として精神への罰則、財産刑などが主として適用されることになる。
     それは現状エスパーへの刑罰として最も有効な方法だった。
     一方で御鏡・七ノ香もESP犯罪について考察する一方、その中にある懸念を発表した。それは、紗里亜の懸念でもある。
    「ESPを故意に悪い事に使うのは犯罪ですが、まだ善悪の判断がつかない小さな子供、正常な判断が難しくなったお年寄りを罪に問うのは酷だと思います。また、ESPが初めて発言した時にトラブルが起きることも考えられますが、本人が意図せず起こした事故で罪に問われるのも酷なことです。そこで、次の2案を提案します。『善悪の判断が出来ない乳幼児、正常な判断が不可能な高齢者によるESPトラブルは罪に問わない』。『初発現時のESPトラブルは罪に問わない』です。いずれにしても、本当に判断能力が無いのか、本当に予期せぬ発言だったのか、よく確かめる必要はありますね。被害者の補償についても検討する必要があります」
     これが七ノ香の提案。
     これは銀静が発表した理由如何にせよ、登録されていないESPを使用した場合は逮捕すると言う意見と真っ向から対立している。
     だが温情が無ければ本当に突如としてESPに目覚めてしまったエスパー達や、判断能力の無い子供達を守れない。
     そこで専門家達が検討を重ねて選んだのは先の基本ルールに対する特例措置として上記の理由でESPが無自覚に暴発してしまった場合は、拘束はするがそれが証明できれば罪に問わないと言う措置を取る方針だった。
     最もこれを利用して犯罪を起こそうとする者達を罰する為の例外もある。
     それは、未成年者であっても悪質である場合。
     また、効果が判明していなくてもESPを利用している自覚があり、利己的な理由で使用をした場合は状況に応じて刑罰の一部が適用される場合がある事が付け加えられた。


     此処までは罰則などに関する法についての定めだった。
     だが只罰則や基本法を決めればよいものではない。
     次に重要視されるのは『教育』。
     ESPとは何なのかを一般に周知させる為にも必須だろう。
     この件に関して意見を出したのは、彩瑠・さくらえと寺内・美月。
    「ワタシはESPに関する教育について、現行の教育基本法、学校教育法をベースにして考え発表させて貰うよ」
     さくらえが提示したのは3点を押さえたESPに関する学校教育。
     個人が持つESPの特性と使い方を理解する事。
     他のエスパーが持つESPについて正しく理解し、他者を尊重する態度を養う事。
     ESPを通じた社会的活動を促進し自主、自律及び協同の精神、規範意識、公正な判断力並びに公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画しその発展に寄与する態度を養う事。
     これについて参加者達が出した意見は下記だ。
    「これをするならば、主要教科並みの時間を割り当てる必要がありそうだな」
    「それから、小学1年生の頃からESPを学校で使わせる事で『ESPを隠す』文化の根絶も期待できるかも知れません」
     ESPに関する教育を取り込めばこれから様々な事を学んでいくことになる子供達にとってESPは身近なものになるだろうし、また上記の様な効果も見込めるだろうと言う事でこの条文を盛り込むことになる。
     ふと、ある専門家が疑問の言葉を述べた。
    「子供達はそれでいいとして既に教育課程を済ませてしまっている大人達はどうする?」
    「それには、一部ESPを保持する者は、指定した講習所に赴き、該当する講習を受講し使用死角を習得すれば良いのではないでしょうか? この講習の監督官は修了した者に対し該当ESPの国際免許証を付与するのです」
     美月の意見は大人に対して如何にESPについて理解させるかを学ばせる為の最適解だった。
     今後学生年齢で無いエスパー向けの施設としてESP講習施設を新たに開設し加えてESPの認定試験を行い、自分のESPを詳しく証明する手順などを学べる環境を作ることも出来るようになるのであった。

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年9月21日
    難度:簡単
    参加:16人
    結果:成功!
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