花粉症の口裂け女

     四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)は、こんな噂を耳にした。
     『夜な夜な花粉症の口裂け女が彷徨っている』と……。
     エクスブレインの話によると、この女性は都市伝説で、クシャミをするたび、花の如く口が開き、近くにいた人間の頭を丸呑みしてしまうようである。
     そうする事で都市伝説自身は、花粉症の症状を和らげる事が出来ると信じており、彼女が現れた場所には決まって、人の頭が転がっているようだ。
     だが、どんなに人の頭を食らったところで、都市伝説の花粉症的な症状が和らぐ事はない。
     それでも、都市伝説は喉飴的な効果を狙って、人を襲い続けているようだ。
     しかも、説得は不可能。
     身の危険を感じると、口の中に含んだ頭を弾丸の如く飛ばしてくるので、注意が必要である。


    参加者
    ミリア・シェルテッド(中学生キジトラ猫・d01735)
    四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)
    倉科・慎悟朗(昼行燈の体現者・d04007)
    鳴神・千代(星月夜・d05646)
    廿楽・燈(すろーらいふがーる・d08173)
    桜庭・黎花(はドジッコと呼ばれたくない・d14895)
    ステラ・バールフリット(氷と炎の魔女・d16005)
    ラクエル・ルシェイメア(チビ魔王・d16206)

    ■リプレイ

    ●花粉症
    「今回の敵は何だかよく分かりませんね」
     事前に配られた資料を確認しつつ、倉科・慎悟朗(昼行燈の体現者・d04007)は仲間達と共に、都市伝説が確認された場所に向かっていた。
     都市伝説は口裂け女の姿をしており、花粉症が原因で徐々に口の裂け目が広がっているらしい。
     それを防ぐためには人間の頭……、特に若々しくて新鮮な頭が必要らしく、夜な夜な町を彷徨っているようだ。
    「口裂け女さんってマスクをしてるって聞いたけど、風邪を引きやすかったからなんだね」
     自分なりに納得した様子で、ミリア・シェルテッド(中学生キジトラ猫・d01735)が辺りを照らす。
     おそらく、噂の流れから考えても、ミリアが考えているような経緯を経て、広まっていった可能性が高かった。
    「花粉症ってなった事がないけど、そんなに辛いものなのかな? ……そういえばこの都市伝説はなんで人の頭が薬になるって思ったんだろ?」
     不思議そうに首を傾げ、廿楽・燈(すろーらいふがーる・d08173)が疑問を口にした。
     だが、考えれば考えるほど脳裏にグロ画像が浮かんでは消えなくなったため、だんだん気分が悪くなってきた。
    「ひ、ひ、ひ、人の頭を丸呑みとか……。うぷっ、気持ち悪くなってきた……」
     思わず想像してしまい、鳴神・千代(星月夜・d05646)が口元を押さえる。
     その途端、自分の口の中に赤ん坊の頭があるような錯覚を覚え、余計に気持ちが悪くなって悲鳴をあげた。
    「都市伝説って理不尽なものが多いとは聞いてたけど、これもなかなかに理不尽よね。頭を食べて花粉症が治るはずないじゃない。……というか、あれだけ口が裂けていたら、口から鼻の方へ花粉が行かないかしら?」
     さらに疑問が浮かんできたため、桜庭・黎花(はドジッコと呼ばれたくない・d14895)が考える事を止めた。
     どちらにしても、相手は都市伝説。まともに考えたところで、答えが出る訳がない。
     逆に疑問が次々と浮かんでいき、出口のない迷路に閉じ込められてしまうようなものである。
    「しかも、生首を発射してくるとは……なかなか恐ろしい奴じゃのう」
     弾丸の如く吹っ飛ぶ生首を思い浮かべ、ラクエル・ルシェイメア(チビ魔王・d16206)がぶるりと体を震わせた。
     生首は都市伝説の口の中に入っているせいか、ほどよく柔らかくなっており、何かに命中するとベチャッと潰れて弾け飛ぶようである。
     そのため、生首が飛んできたら、すぐさまその場から飛びのかねば、大惨事になる事は確実のようだ。
    「……ん? 向こうから聞こえるくしゃみがそうじゃないかな?」
     あからさまに大きなクシャミが聞こえたため、四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)が警戒した様子で声がした方向に歩いていく。
     その場所には長い髪の女性が立っており、マスクからはみ出てしまうほど、不気味に口が裂けていた。
    「花粉症対策の裏ワザ、さすがね。のど飴となんて比べるのが失礼なくらい」
     それに気づいたステラ・バールフリット(氷と炎の魔女・d16005)が、わざと大声を出して都市伝説の興味を引く。
     都市伝説もそれが罠だと気づかぬまま、その場で聞き耳を立てるのであった。

    ●気になる話
    「今年の花粉症もきつかったが、アレのおかげで何とか平気じゃったなぁ」
     都市伝説を横目で見つつ、ラクエルが大声を上げた。
     そのため、都市伝説も電信柱の後ろに隠れ、全神経を集中させて、ラクエル達の話を聞いている。
    「うん、アレさえあれば、花粉症なんて怖くないよねー」
     すぐさま殺界形成を使い、千代が都市伝説に視線を送る。
     都市伝説が一言たりとも聞き逃すまいとして、千代達の話を聞いていた。
     一体、アレとは何か。勿体ぶらずに、その名前を言えばいいのに。それさえ分かれば、人を襲う必要がないかも知れない。いやいや、人の頭ほど効果のあるものはない。ないはずだ。
     そんな言葉が伝わってきそうなほど、ピリピリとした空気が漂っていた。
    「それじゃ、皆さんにいつものアレを配りますね」
     そう言ってミリアが『風邪と花粉症に効く飴』と称して、市販のドロップを配っていく。
     その中にはドサクサに紛れて、都市伝説も混ざっていた。
     本人はまだバレていないと確信しているのだろう。
     ミリアとは出来る限り目を合わさず、咳き込む事で花粉症である事をアピールしているようだった。
     だが、あからさまに怪しく、とてもスルー出来寝るような代物ではない。
    「お生憎様、キミにあげる飴はないよ」
     都市伝説の横からヒョイッと飴玉を奪い、いろはが勝ち誇った様子で胸を張る。
    「ちょ、ちょっと、待ちなさいよっ! それはアタシが貰うはずだった飴よっ! 一体、何の権利があって、アタシから飴を奪う訳!?」
     そのため、都市伝説が飴を取り戻そうと必死になった。
    「……と言うか、誰?」
     ステラの一言で、都市伝説の表情が凍り付く。
    「だ、誰ってアレよ。ほら、忘れたの。アタシよ、アタシ」
     慌てて都市伝説が身内を装うが、かなり無理があるせいか、ステラ達の視線は冷たく、突き刺さるように鋭かった。
    「……」
     慎悟朗が小さく声にならない溜息を漏らす。
    「な、何よっ! そりゃ、あの頃のアタシは地味で、存在感がなかったけど……。それでも、忘れるなんてひどいわ」
     自分がいかにも被害者であるかのような素振りで、都市伝説がわんわんと泣き出した。
     そして、チラリと慎悟朗達の方を見る。
     まるでゴミムシでも見るかのような冷たい視線……。
     ヤバイ。バレてる。確実に怪しまれている! この状況で誤魔化し通す事など至難の業。
    「口裂け女……だよね?」
     燈が確認するようにして、懐中電灯で都市伝説を照らす。
    「こ、こら、ちょっと! 眩しいじゃない! た、確かに、口が大きいってよく言われるけど、避けてないわよ。避けてなんか……畜生! みんな、ぶっ殺してやる!」
     都市伝説がブチ切れた。豪快なまでに。
     次の瞬間、口の中で干しブドウのようになっていた生首を飛ばす。
     それに気づいた燈達が本当的に飛びのいた。
    「……たくっ! 頭を飛ばされたくらいで、ひるんでる場合じゃないわよっ」
     半ば呆れた様子で、黎花がスレイヤーカードを解除した。
     しかし、都市伝説は殺る気満々。黎花達を皆殺しにして飴玉を手に入れるつもりでいるらしく、口の中に含んだ生首を飛ばしてきた。

    ●都市伝説
    「む、む、む、無理無理無理――!」
     一気に戦意を喪失させ、千代が激しく首を振る。
     何かが潰れた。まるで腐りかけのトマトのように。
    「人を喰らい、あまつさえ遺体すら武器に使うその冒涜行為、許しません」
     都市伝説の死角に回り込み、ステラがフォースブレイクを仕掛けた。
     それに合わせて、燈が螺穿槍を仕掛けたが、都市伝説もマスクを外して、禍々しいほど凶悪な口を開いた。
    「それを待っていたんだよ」
     都市伝説の口に鞘を挟み込むようにして、いろはが間合いをつけて螺穿槍を仕掛ける。
    「あが、あごごごこ!」
     その途端、都市伝説の口からしわしわの生首が零れ落ちた。
    「活目せよ! そして、慄くがいい! 我こそは魔王ラクエルなり!」
     やたらと偉そうにしながら、ラクエルがふんぞり返る。
    「それがどうした。まずは、お前達の頭を食らってやる!」
     殺気に満ちた表情を浮かべ、都市伝説が牙を剥き出しにして襲い掛かってきた。
    「こうして、銃器をいっぱい抱えるのは初めてだけれど……、少し動きづらいわね」
     ふわっとスカートを翻し、黎花が千代と連携を取るようにして、都市伝説に攻撃を仕掛けていった。
     その一撃を食らっても都市伝説はバランスを崩さず、『早く飴玉を寄越しなさい!』と叫んで牙を剥く。
    「あ、これはタダの飴ですよ」
     ミリアがさらりと答えた。
    「……えっ?」
     都市伝説の表情が凍り付く。
     ミリアの言葉が信じられない。受け入れる事が出来ない。
     聞こえない、聞こえない。
     都市伝説が両手で耳を抑えている。
     その心に渦巻くのは……、絶望。
     唯一の希望が打ち砕かれてしまったため、身動きひとつ取れなくなった。
    「まあ、どちらにしても、花粉症が治る事はないと思いますが……」
     都市伝説に憐みの視線を送り、慎悟朗が龍骨斬りを叩き込む。
     次の瞬間、都市伝説が口から萎れた生首を吐き、断末魔を上げて跡形もなく消滅した。
    「はぁー……、終わったね、みんなお疲れさま! ……ところで、コレどうすればいいの?」
     都市伝説が消滅した事を確認した後、燈が辺りに転がった生首らしきものに視線を送る。
     さすがに持ち主に返すという訳にはいかない。それ以前に、持ち主が亡くなっているのだから、返すのなら遺族に……。
     だが、干し首の如く縮んだ首を遺族に返すのは、シャレにならないほど心が痛んだ。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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