水瀬・ゆま(箱庭の空の果て・d09774)は出先でこんな噂を耳にした。
その公園では夜、恋人たちが時間を忘れて2人の世界に浸っていると、どこからともなくおかしなクリスマスツリーが現れて、カップルに襲いかかってくるのだという。
クリスマスツリーは自身の飾りをピュンピュン投げ付けて恋人たちを追っ払おうとし、オーナメントの弾丸を受けたカップルたちも皆、
「あまーい!」
と、悲鳴を上げて逃げてゆくらしい。
これは……、と思ったゆまは内容を書き留めると、学園に戻るべく踵を返したのだった。
「ゆまさんの情報で、カップル狩りを行っている都市伝説の存在がわかりました」
五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は、集まった灼滅者たちを前にそう告げると、愛用のファイルを開いて説明を続けた。
場所は夜のとある公園。ライトアップされた噴水やクリスマス限定のイルミネーションなど、静かで雰囲気の良い場所だが、いかんせん寒いのであまり人気はないらしい。
「恋人たちも少し話をしてすぐ場所を移してしまうため、そこまで深刻な被害には至ってないのが救いですね」
発生条件は件の公園のベンチに、男女が一定時間以上並んで座っていること。
カップルは1組が黙って座っているだけでも良いが、ペアの数が多かったり、よりイイ雰囲気だったりすると、そのぶん早く都市伝説が出現する。
そこまで説明を受けたゆまが、おずおずと手をあげて疑問を口にした。
「もし、同性同士がペアになった場合は……?」
「その時はどちらが男役または女役を引き受けるか、お話して決めてください」
そうやって恋人を装っていると、先端にお星様を飾った全長2m級のクリスマスツリーが1体、どこからともなく現れて、飾られたオーナメントをこちらに撃ち出してくる。
「そしてこのオーナメントなんですが……、すべてお菓子で出来ていて、食べることが出来ます」
杖の形でお馴染みのキャンディケインや、アイシングでお化粧したクッキー、キラキラのお砂糖やチョコレートをまぶしたドーナツ、雪に見立てた白いふわふわは綿飴で出来ており、丸い形のオーナメントボールは飴を絡めた林檎だという。
「被害にあった方々はみな、甘い思いをして喫茶店やコーヒーショップに走って行ったそうです」
おいしく食べつく……倒すためには、ある程度備えがあったほうが、より良いかもしれない。
「もし飾りを食べきれない場合は、ツリーの一番目立つ所に弱点がありますので、そこを狙うと良いでしょう」
ただ、この都市伝説は消滅させた時点でお菓子も消えてしまいますので、その点は注意してくださいね、と姫子は付け加えた。
「甘いものが苦手な方を除けば、あまり危険は無いと思います。案外、都市伝説なりに恋人たちに甘い演出をしているつもりなのかもしれませんね」
エクスブレインは苦笑しながらそう締めくくると、灼滅者たちを送り出したのだった。
参加者 | |
---|---|
睦月・恵理(北の魔女・d00531) |
鬼無・かえで(風華星霜・d00744) |
ミリア・シェルテッド(中学生キジトラ猫・d01735) |
天峰・結城(全方位戦術師・d02939) |
水瀬・ゆま(箱庭の空の果て・d09774) |
セレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444) |
夏渚・旱(無花果・d17596) |
千疋・來地(暴走アジアンフルーツ・d18096) |
●恋人達の夜
夜のとある公園。ライトアップされた噴水やイルミネーションは、暗がりのこの場所を幻想的に彩っていた。
その噂のベンチに、二組のカップルが座っている。
「メリークリスマス」
そういって天峰・結城(全方位戦術師・d02939)が差し出したのは、たくさんのヒヤシンスを素敵に束ねた花束だった。
「まあ……」
驚く水瀬・ゆま(箱庭の空の果て・d09774)に、結城はにこやかな笑みを浮かべる。
「気に入っていただければいいんですけど」
「ありがとうございます」
嬉しそうに受け取って、今度はゆまが小包を取り出した。
「えっと……メリークリスマス……です」
可愛らしくラッピングされた小箱。
「ここで開けても?」
「ちょっと、恥ずかしいです……」
とはいっても中身が気になる。ぱりっと開いてあけた中身は……なんと、イカの塩辛だった。
最近見たテレビをヒントにしたようだが……正直、ちょっと微妙としか言いようがないプレゼントなのだが。
「ありがとうございます……後で美味しく頂きますね」
それを知ってか知らないでか、にこやかな微笑で、結城はそれをありがたく受け取っていた。そんな結城のイケメンさに、ゆまは、これからの予行演習として恋人を装っていることも忘れかけて、どきどきしちゃっている様子。
その隣では。
「カップルらしい事って何をしたらいいのでしょうか?」
「うーん、カップルらしい事……」
セレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444)と千疋・來地(暴走アジアンフルーツ・d18096)の二人は悩んでいる様子。
セレスティはどきどきした面持ちで少女漫画のシーンを思い浮かべた。きっとその中に手がかりがあると考え出したとたん、何かがひらめいた。
「手を繋ぐとか……?」
そのセレスティの言葉に、ぴーんと来た來地も乗ってくる。
「セレスティちゃん、手とか寒くない? 僕の手袋大きいけど使う?」
コートのポケットから手袋を出して、さっそくそれをセレスティに貸してあげている。「あ、ありがとう、ございます……」
そんな二組のカップルを見ているのは、その他の皆さんこと、クリスマスツリー打倒にやってきた面々。
「恋人、ですか……」
木陰で観察しながらも、自分に恋人ができたときのことを考えてしまう夏渚・旱(無花果・d17596)。
「クリスマスって愛が溢れてるんだね、いいなぁ……」
羨ましそうに眺めている鬼無・かえで(風華星霜・d00744)のお腹がぐーっと鳴った。それもそのはず。かえではたくさんお菓子を食べる為におやつとご飯も一食抜いてきているのだ。愛もいいけど早く来て欲しいと思っているのはいうまでもなく。
「なんだか、見ている方がわくわく……いえ、どきどきしちゃいますね」
木陰に隠れながら、カップル達を眺めているのは、睦月・恵理(北の魔女・d00531)。振りとはいえ、ちょっぴり期待もしちゃうんじゃないかと思っていたりするのは、内緒の話。
「ツリー怪人を倒すとおやつが消えると言う事は、いくら食べても太ったりしないんでしょうか……?」
ミリア・シェルテッド(中学生キジトラ猫・d01735)は、これから食べるお菓子のことを心配しているらしく。それと、物陰がなかったときのためにダンボールも用意していたのだが、その出番はなかったようだ。
その間にも、カップル達は更に恋人の振りを続けていた。
「きっと楽しくお喋りとかしていたらそれっぽいですよね! ちなみに犬は、シーズとかポメラニアンが好きです」
そういうセレスティの言葉に來地は。
「シーズもポメラニアンもかわいいよね。特に最近は、ポメラニアンの柴犬カットがいいなーって思ってて。あ、でも比べ物にならないくらいセレスティちゃんの方が可愛いからね!」
突然、可愛らしいといわれて、セレスティの頬がぽっと赤くなる。
と、そのときだった。
がさがさがさっ、ゆっさゆっさ!
噂のおかしなツリーがやってきたのは。
その姿を確認した一行は、すぐさま戦闘準備に入った。
ナイフとか、茶葉を持って……別の意味で。
●おかしなツリーとおかしなひととき
もちろん、灼滅者達は武装もしっかりとしている。
それでも戦わずに済むのならばと、皆、ツリーのオーナメントを食べきることを目標に準備してきていた。
カップル達相手にすぐさま、おかしなツリーはお菓子を飛ばしてくる。
「トリックオアトリート! 寧ろお菓子を寄越せ……なん、だよ」
かえでのお腹は既に限界寸前。ツリーの投げてきたお菓子をすぐさまキャッチして、かぶりついた。
「お、美味しい……ん、だよ」
とっても幸せそうだ。その隣では、かえでに渡すルイボスティーを優雅に注いでいる結城の姿も。しかもいつの間にか燕尾服に白手袋と、どこかの執事のような姿をしている。
「お嬢様方、ごゆるりとお楽しみ下さいませ」
「ありがとうございます。それにしても美味しいですね、少し甘いですけれど」
かえでの隣にもう一人。旱だ。彼女もまた、結城の注ぐお茶を片手にドーナッツを美味しくいただいている。
「伝説が消える時、お腹に入ったカロリーも消えるのかどうか。それが問題ですが」
ちょっと気になりながらも、恵理もまた皆と一緒におやつタイムに加わっている。どうなるかは今は分からないが、とにかく恵理は消えるという前提で食べることに決めたようだ。
「はいはいはいっ! 全部受け取りましたよっ」
一方、ミリアは打ち出されるおやつを、なんとか全て受け止めつつ、皆に配っている。
「うー、やっぱり甘い……」
結城から受け取ったお茶を飲みながら、ゆまもぱくぱく甘いお菓子を口に含んでいる。
気がつけば、かなりの量になっている様子。
「ところで……來地様、コートは脱がないのですか?」
結城が不信に思い、声を掛けてきた。
「いやその、気にしないで! うんっ! あ、お茶おかわり!!」
おいしくなぁれのおまじないをかけながら、もくもくと來地はおやつを食べている。
実は彼のコートの下はメイド服なのだが、それはなんとか隠し通せたようだ。
しかし……皆、がんばって食べているが、ちょっと量が半端ない。
「まだいけません! 折角のオーナメント、食べ散らしじゃ勿体無いでしょう。ちゃんと味わってますから……それに、ガツ食いのカップルなんて雰囲気台無しですよ?」
「お、おやつを飛ばして粗末にするツリー怪人なんて、バベルの鎖が許しても私は許しません!」
そういって、恵理とミリアがおかしなツリーを睨んだお陰か、出すスピードは落ち着いているものの、まだまだ減らない。いったい、このツリーのどこにこんな大量のお菓子が隠れているのだろうか。
恵理の持参した薄切り檸檬や薄塩クラッカー、無糖ココアパウダー等も役立っているのだが、これがなかったら、今頃どうなっていたことやら。
「それでは、参ります……」
そんな中、盛り上げるためにと、セレスティがお菓子を放り投げ、しゅぱぱんと、見事に切り分けてみせる。もう少しでお皿から落ちそうになっていたのは、お愛嬌。皆の様子を見て、セレスティも食べるのに加わった。
「とにかく、頑張りましょう。だって、お菓子こんなに一杯食べられるなんて貴重な機会、逃してなるものかーです!」
ゆまも励ますが、ちょっとパワーダウン気味。
「弱点……、ですか」
旱がツリーのてっぺんの星を眺めながら、弱点を攻撃することを視野に入れ始めていたが。
「こんなこともあろうかと」
卓上塩を舐めながら頑張ってたかえでが、ついに奥の手を使った!
その名もエイティーン!
あんまりお腹の満腹感は変わらないが、けれど、ちょっと動いたからか急にがつがつとかえでは、もの凄い勢いで食べ始めた。
仲間達もそれに釣られるように全力で食べつくす。
「皆様、いよいよ最後のようです」
結城の声に皆は、思わず手を止めた。
最後に残った、きらきら輝く星。
それを綺麗にセレスティが八等分して、揃ってメンバー全員が口に含んだ。
甘い黄色のシュガーの掛かった、星型のバタークッキーが口の中で広がっていく。
「あなたのお気持ちは私達が全部頂いて行きますよ。毎年立っていてくれて本当にありがとうございます」
そんな恵理の声を理解したのか、ツリーは頷くかのように前向きに倒れて、消えていったのだった。
●最後には「ごちそうさま」を忘れずに
気づけば、辺りは深夜に差し掛かっていた。
相変わらず、噴水は綺麗だし、イルミネーションも輝いている。
「皆さん、お疲れ様です」
セレスティがぺこりと頭を下げて、皆を労っていた。
「さ、流石に……ききましたね……」
ベンチでぐんにゃりしているのは、恵理だ。
「ぼ、僕ももうだめー」
そんな恵理と來地を介抱するのは、最後まで執事を貫き通す結城だ。
「執事たるもの、このくらい当然でございます」
背中をさすり、水を手渡していた。
「メリークリスマス、あ、一部の人は苦しんでる……? でもこういう都市伝説だったら、また……あ、これは余計なあれ、かな?」
「そうですね。甘いのは大変だったけど、こんな都市伝説さんなら、また出て来ても……いいかな」
かえでとゆまの言葉にセレスティが続ける。
「はい、たまにはこういう変わった依頼もいいですよね」
ゆまにそう微笑んで。
「お土産に、ケーキでも買って帰りましょうか? え? もう甘い物はいい? ふふ、そうかも」
悪戯な笑みを浮かべて、そうゆまが言うと。
「こんなに食べたのは久しぶり、だよ。甘いものが続いたんだから……ケーキよりもさ、ラーメンとか食べたい、よね?」
かえでの提案に何人か同意したようだ。
と、旱は夜空を見上げながら、呟いた。
「もうそろそろクリスマスですね」
クリスマス前におかしなツリーを倒すことができて、本当に良かった。
灼滅者達は、ゆっくりと綺麗な夜景と星空を眺めながら、帰路に着く。
いっぱいの甘さと幸せを、その胸に抱きながら……。
作者:ましましろう |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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