「もふもふの呪い……?」
奇妙な噂を耳にした佐藤・誠十郎(高校生ファイアブラッド・dn0182)は、その言葉に表情を曇らせた。
「もふもふって、あれか? ぬいぐるみ的な?」
「まあ、そんなところです。例えるなら、洗い立ての毛布。あのもふもふ感に似ています」
いかにも神経質そうな青年が、眼鏡をくいっとやった。
「悪ぃ! 俺、毛布って滅多に洗わないんだよねぇ。なんつーか、ほら。自分の臭いがないと、落ち着かないタイプってヤツ? 何となく、俺って犬っぽいところがあるだろ? いや、むしろ犬。ひょっとすると、前世は犬だったのかも……」
誠十郎が『……あり得る!』とばかりに腕を組む。
「いや、あなたの前世はどうでもいいです。むしろ、毛布は洗ってください。女の子に嫌われますよ」
青年が小さくコホンと咳をした。
「いや、こういうワイルドなところに女ってのは……」
「惹かれません、絶対に! むしろ、離れていきますよ」
青年が頭を抱えて、ツッコミを入れた。
「おいおい、勘違いするなよ。洗わないのは、毛布だけだ!」
誠十郎がキッパリと断言をする。
「いや、そんな事はどうでもいいんです。それよりも、欲しくないんですか、情報?」
青年が本題に移る。
「……たくっ! お前は前置きが多いんだよ。ひょっとして、友達……、いないだろ?」
「あなたには言われたくありません、あなたには! とりあえず、これが資料です。適当に纏めておいたので、仲間達を集めて倒すなり、放っておくなり、やってください」
「あっ! やっぱり、図星だったんだ、友達がいないの。……安心しろ。俺が一番の親友になってやる!」
そう言って誠十郎がビシィッと親指を立てた。
もふもふの呪い……。
その噂が流れ始めたのは、今から数か月ほど前……。
最初は何気ない噂からだった。
『もふもふが現れると、まわりのものがすべて、もふもふしてしまう』と……。
最初は近所の柴犬が……。次に公園にある遊具が……。そして、最近では天麩羅屋が……。
もふもふと呼ばれる真っ白な毛玉の塊が目撃されるたび、辺りのモノがもふもふしていった。
ただし、もふもふしているのは、ほんの数分。
もふもふがいなくなれば、元に戻ってしまうのだが、その感触は夢心地。
しかも、底なし沼の如く、もふもふの海に飲み込まれてしまうため、例えるならコタツの中に入った猫状態!
抜け出すためには、アリジゴクから這い上がるアリ並みの精神力が必要になる!
故に、もふもふを求めて彷徨う一般人までいるらしく、中には『お、俺はもふもふ欠乏症だ。常にもふもふしていねえと、死んでしまう身体なんだ……。げふっ!』と言った感じで、深刻な症状に陥っている者もいるとか、いないとか。
これを阻止するためには、もふもふを倒さねばならないのだが、もふもふの周囲は何もかもがもふもふしているため、攻撃がふんわりガードされてしまう。
その反面、もふもふは炎や汚れに弱く、本能的に逃げ出してしまうほど。
この弱点さえ分かっていれば、もふもふを倒す事は容易だが、幸せふんわりな感触を求めて、一般人がまわりに集まっているため、その事も踏まえた上で行動をする必要があるだろう。
参加者 | |
---|---|
白・理一(空想虚言者・d00213) |
識守・理央(マギカヒロイズム・d04029) |
枝折・優夜(咎の魔猫・d04100) |
アーネスト・シートン(動物愛好家・d11002) |
乱獅子・紗矢(獅子心乙女・d13748) |
三条院・榛(猿猴捉月・d14583) |
三葉・林檎(三つ葉のクローバー・d15609) |
ノーラ・モーラ(ちょっぴり毒吐く異界の白兎・d22767) |
●もふもふ
「なんか、実害はあまりなさそうな都市伝説だけど……。まあ、倒すのはもふってからでいいか」
枝折・優夜(咎の魔猫・d04100)は、待ち合わせの場所に一番乗りで現れていた。
仲間達を待つ間、イフリート姿の佐藤・誠十郎(高校生ファイアブラッド・dn0182)をもふもふとやった。
(「俺、コンビニに行く途中だったんだけどなぁ……」)
誠十郎は困っていた。
少し早く来過ぎてしまったため、コンビニによって時間を潰そうと思っていたのだが、優夜に見つかってもふり倒されていた。
そのため、霊犬のゼファーも呆れ気味。
「……あ! 佐藤さんだ――!」
水瀬・ゆま(箱庭の空の果て・d09774)が、瞳をランランと輝かせた。
「……って、ちょお待て! もふるのは都市伝説! 佐藤さんじゃないから!」
すぐさま、神堂・律(悔恨のアルゴリズム・d09731)が、ゆまを羽交い絞め。
「何するの、りっちゃん! 夢にまでみた(いや見てないけど)佐藤さんがいるのにー! はーなーしーてー!」
途端、ゆまがジタバタ。
「だーから! 佐藤さんもふるんじゃねぇっての! 放せるわけねぇだろーが! こんな迷惑の権化……がふっ!」
ゆまの肘鉄を食らい、律がその場に崩れ落ちる。
おそらく、これがもふもふの呪い。もふもふを愛するが故の……悲劇!
「もふもふ! もふもふ! 普段からもふもふなアタシとしては、逃すべくもない状況なんだよ……!」
垰田・毬衣(人畜無害系イフリート・d02897)は、ゆまと一緒に誠十郎をもふもふした。
誠十郎の身体はふさふさで、ほんのりと石鹸の匂いがした。
(「俺もみんなに身体を触らせるつもりで来た訳じゃないんだけどなぁ……」)
困った様子で、誠十郎が溜息を漏らす。
「……と言うか、佐藤さんはイケモ(イケメンケモノ)としてのポテンシャルが、とんでもなく高過ぎ。佐藤さん、佐藤さん!! すき! 愛してる!! 結婚しよう!!」
六六・六(極彩色の悪猫アリス症候群・d01883)も、興奮した様子で誠十郎にギュッとした。
(「何というか。ひょっとして、俺……モテているのかな。この状況って」)
誠十郎が何となく、自分の置かれた状況を理解した。
……とは言え、まるで東京に初めてパンダが来た時のような賑わいだ。
「佐藤さん! ……て言うか、年下なんだっけ? えーっと、誠十郎! いや、なんか違う! 『佐藤の旦那』。……これだ!」
九牙羅・獅央(誓いの左腕・d03795)が、瞳をランランと輝かせた。
(「いや、旦那はマズくないか。響き的に……。俺、独身だし。でも、そう言う意味じゃないのか、もしかして……」)
誠十郎が首を傾げた。
「オレ……、実は前からずっと、誠十郎ちゃんのコト……ッ。もふりたいと思ってたんす!! イフリート姿の誠十郎ちゃん、もふらせてくださいっ!!」
煌星・紅虎(紅き獣・d23713)が、もきゅっと誠十郎に抱き付いた。
(「何だか、困った展開になっているな。いや、こうやってもふもふされるのも、嫌いじゃないんだが……」)
思わず、わふっと声が漏れた。
「ひょっとして、ここが弱いんですか……? えっと……、ここですよね……?」
ロジオン・ジュラフスキー(ヘタレライオン・d24010)が、誠十郎をもふもふとする。
その途端、誠十郎が『わっ、わっ、わふぅ』と声を上げ、そのまま腰砕けになった。
「オレ達みたいに、誠十郎ちゃんをもふりたいなって思ってる子……沢山いると思いますから……是非とも、もふらせてあげてほしいっす!」
紅虎は既にもふもふなしでは生きられない体になっていた。
それは、歴戦の兵士でさえ恐怖する禁断症状。もふもふ欠乏症。兵士にとっては、致命的な病。
「優香も誠十郎先輩をもふもふしたいのですー!」
愛川・優香(陽だまり・d24185)も、我慢する事が出来なくなって、誠十郎に体当たりアタックした。
(「こ、 困ったなぁ……」)
誠十郎は身動きが取れなくなった。少し涙目であった。
「学園が病院を受け入れた要因の八割は、ファイアブラッドの人造灼滅者をモフりたいと言う学園の総意なんやで」
三条院・榛(猿猴捉月・d14583)が、ニヤリと笑う。
「(な、なんだと……!?」)
だが、そう言われてみれば、いくつも心当たりがあった。
あのすべてが学園の仕掛けた壮大な計画である事を考えると……すべての辻褄が合った。
「わー、大きなわんこがいるよー」
しかも、近所の子供達まで集まって来た。
「汚い手で佐藤さんに触れないでください」
すぐさま、殺界形成ばりの気迫で、鷹嶺・征(炎の盾・d22564)が子供達を睨む。
子供達のその表情に恐怖すら感じて、怯えた様子で茂みに隠れた。
そこで征もハッと冷静になって、『もふもふの呪い、恐るべし』と呟いた。
「もふもふの呪い……、なんて恐ろしい呪いだ」
乱獅子・紗矢(獅子心乙女・d13748)が、自らの利き腕を眺めて汗を流す。
いつの間にか、自分の手がモフモフしやすい形になっており、自然と誠十郎の体に伸びていた。
頭では分かっていても、止める事の出来ない衝動。
それが今の状態であった。
「みんな、こっちですよー」
そんな空気を即座に察して、アーネスト・シートン(動物愛好家・d11002)がラブフェロモンを使う。
子供達もそれで安心したのか、アーネストに連れられ、安全な場所まで避難した。
「……ところで遊具や天麩羅屋がもふもふするってどういう状況だろうね。想像つかないや」
そう言って白・理一(空想虚言者・d00213)が何気なく辺りを見回して……、納得した。
何もかも、もふもふしている。まるで雲を使って作ったメルヘンランドの如く、辺りにあるモノがもふもふしていた。
「……なるほど。だから私のたてがみがいつも以上にもっふもふになっていたわけですね。トリートメントを念入りにしてきた甲斐があったというものです……」
ロジオン・ジュラフスキー(ヘタレライオン・d24010)が、妙に納得をした。
「もふもふするのってそんなにいいのです? ノーラ耳とか触られるの苦手だからもふもふされるは嫌なのです」
ノーラ・モーラ(ちょっぴり毒吐く異界の白兎・d22767)が、首を傾げた。
「それにまあ、人に危害を加えるタイプではないようなので、少し可哀想かな……とは思いますが……都市伝説さんなら仕方ないですよね」
三葉・林檎(三つ葉のクローバー・d15609)が、覚悟を決める。
「とにかく、始めましょうか。これ以上、犠牲者が増える前に」
そして、識守・理央(マギカヒロイズム・d04029)は、仲間達と共に、都市伝説を捜し始めた。
●もふもふ
「どうやら、近いにいるようやな」
もふもふを求めて彷徨う一団を見つけ、榛が手加減攻撃で当て身を放っていく。
それでも、一般人達はまるで何かに取り憑かれたように、『もふもふ、もふもふ』と呟いていた。
「アタシはもふるまで、絶対に倒れない」
それは女王様タイプの神経質そうな女性であった。
日頃のストレスを解消すべく、もふもふを求めていたのか、何とか気合で立っているようだった。
「……ね、おねえさん。僕と遊んでよ。……もふもふはしてないけど、触っていいよ?」
すぐさま理央がシャツのボタンをふたつ開け、ラブフェロモンを発動させた。
途端に女性が恋におち、そのまま理央を物陰へと連れ込んだ。
「ひゃああ、ノーラの毛皮がもふもふなのです!」
そこでノーラが異変に気づいた。
毛皮がもふもふ、ふわっふわ。
まるで魔法でも掛けられたかのように、一瞬にしてふわっとなった。
「確かに、もふもふだ」
いつの間にか、見知らぬオッサンが、もふもふしていた。
それに気づいた、榛が呆れた様子で、当て身攻撃。
だが、ノーラはヘナヘナした様子で、その場に座り込んでいる。
「わっ、佐藤さんもすごくもふもふだよ」
毬衣が驚いた様子で、誠十郎をもふもふし始めた。
「佐藤さん! もふらせてください!」
ゆまもたまらず、誠十郎をもふる。
「だから、落ち着……ぐほっ!?」
再び、意識を取り戻した律が、ゆまを羽交い絞めにしようとしたが、再び裏拳を食らってノックダウン!
「が、我慢できません!」
優香も再び誠十郎にダイブして、欲望の赴くまま、もふもふし始めた。
(「そろそろ、元に戻りたい……」)
誠十郎は思った。
どうせなら、人間形態の時に抱き付いて欲しい、と……。
もちろん、それはそれで問題なので、実際にやられたら、困ってしまうのだが、この状況で抱き付かれるのは、正直複雑であった。
「申し訳ありませんが、少しの間だけ、このままでよろしいでしょうか」
ロジオンもその流れで、もふる。
最早、理性で抑え込んでおく理由もなければ、必要もない。
「イフリート、いいよね。ほぼ動物の姿だし」
アーネストも幸せそうな表情を浮かべていた。
「ああ、すごいもふもふだ~♪ もう最高だな!」
紗矢も、ほんのり夢心地。
「任務、任務だから我慢です」
そんな中、征は我慢していた。理性で耐えた。
しかし、いつの間にか現れた都市伝説の円らで、きゅるるんとした瞳を見た瞬間、征が……堕ちた!
それは闇堕ちとは違う……例えるなら、もふ堕ち。
気のせいか、征の体までもふもふしている。
「見つけました、都市伝説です!」
すかさず林檎がバニシングフレアをチラつかせ、都市伝説を廃墟と化したライブハウスへと追い込んでいく。
「このまま都市伝説を放っておくわけにもいかないからねぇ」
途端に理一も我に返って、都市伝説を追い込み始めた。
「絶対に逃がさないようにしないとね」
霊犬のゼファーと連携を取りつつ、優夜が都市伝説の逃げ道を塞ぐ。
こうなると都市伝説も後先考えている暇もなく、自分が誘導されている事にも気づかず、ライブハウスまでピョンピョンと飛び跳ねていった。
「けも好きケモナーしおしお惨状ー!」
自ら名乗りを上げながら、獅央がステージに降り立った。
都市伝説は慌てて踵を返したが、そこには六が陣取っていた。
「悪いもふもふは、我輩ゆるさないのだ……」
そう言うや否や、六が一気に間合いを詰め、都市伝説に攻撃を仕掛けていく。
都市伝説もまわりにあるものをすべてもふもふにして、何となくダメージを軽減しつつ、逃げ道を探しているようだった。
「はあはあ……、危うくそのまま逃げられなくなるところでした」
そんな中、理央は乱れた着衣で、仲間達と合流した。
●もふキング
「うわ……、物凄くもふもふしてますねー」
本能的に都市伝説めがけて飛びついたアーネストは、ほんわかとした。
まるで雲の上にいるような気分……。
並大抵の人間であれば、これだけでもふもふの虜。
もふもふなしでは生きられない体になってしまうというのも、納得だった。
都市伝説も、『このままもふり倒していればいいんだよ』と言わんばかりに、その場から跳ね去ろうとした。
「それじゃ……、覚悟してくださいね!」
林檎がニコリと笑う。
都市伝説がビクッと震わせ、後ろを向いた。
「考えが甘いんだよぉ!」
すぐさま、紗矢が都市伝説の身体を掴んで、地獄投げ!
「もう少し、もふりたかったけど……」
その思いを断ち切るようにして、優夜が都市伝説にレーヴァテインを炸裂させた。
次の瞬間、都市伝説の身体が炎に包まれ、まるでセルロイド人形の如く、醜く崩れて跡形もなく消滅した。
「ううっ……。全然、力が入らなかったのです」
都市伝説が消滅した後、ノーラがションボリとした。
それに気づいた誠十郎が、『お前はよくやったよ』と言わんばかりに頬擦りをした。
(「し、しまった……! 人間形態に戻るタイミングが……。やっぱり、いきなり元に戻ったら引くよね、女の子達も……」)
気分は遊園地で子供達に抱き付かれたマスコットキャラクター。
戻るべきか。戻らぬべきか。そこが問題であった。
「それにしても、立派な角だね……」
理一が興味津々な様子で、誠十郎の角を撫でた。
その間も誠十郎は人間形態に戻るタイミングを見計らっていた。
「お近づきの印に連絡先も交換しときましょうや。ついでに鈴森はんと主任はんのも教えてぇな」
榛がサッと名刺を配り始めた。
誠十郎も人間形態に戻って、自分の名刺を渡そうとしたが、そもそもそんなものは作っていない。
「せっかくだし、佐藤さんの歓迎会をしよう。……あらためて、歓迎します。病院の灼滅者。僕が代表して……っていうのはおこがましいかもしれませんが……。ようこそ、武蔵坂学園へ」
そう言って理央がニコリと笑う。
そして、誠十郎は人間形態に戻るタイミングを失ったまま、パーティ会場に向かうのだった。
作者:ゆうきつかさ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年1月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 14
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