悲しみと怒りの先に

    作者:聖山葵

    「や、やめろ……」
     それも世の理不尽の一つなのか、少年は和菓子屋の床に倒れ伏し力を振り絞り、顔をゆがめた男の足へ腕を伸ばしていた。
    「へへへ、良くもクビにしやがったなぁ」
     天気が良いから桜を見ながら好物の桜餅でも食べよう、そんなつもりで足を踏み入れたいつもの和菓子屋は突如乱入してきた男のせいでめちゃくちゃになり、制止しようとした少年も凶器で殴られ、立ち上がることさえままならなかった。
    「こんなものはなぁ」
    「やめ」
     故に男が桜餅を床に叩きつけようとする姿を見ても弱々しく声を上げるのが精一杯で。
    「こうしてやらぁっ」
     凶行は行われた。他の和菓子と同様に理不尽な暴力に晒された桜餅は焼き皮からこしあんがもれて床を汚し。
    「うわぁぁぁぁぁぁ」
    「なっ、なん」
     叫び声と共に少年の身体から放出された闇が店内を飲み込むと。
    「フッ、なぜ今更」
     次の瞬間、少年が倒れていた場所には特撮ヒーローものじみた桜色の鎧に身を包んだ人物が、桜餅を思わせる色合いのマントをに身を包み佇んでいた。
    「なんだその格」
    「まあ、いいもちぃ」
     狼狽する男が最後まで言葉を口にするより早く、ご当地怪人は動き出す。
    「桜餅の仇、討たせて貰うもち……」
     屈めた身体は跳び蹴りの前動作、男の命は風前の灯火だった。
     
    「一般人が闇堕ちしてダークネスになる事件が発生しようとしている。今回は桜餅だな」
     以前一般人が桜モッチアになる事件はあったのだが、今回座本・はるひ(高校生エクスブレイン・dn0088)が告げた事件は、大きく二つに分類される桜餅のもう一方を愛した少年が変貌するのだとか。
    「時期的にプチ花見としゃれ込むつもりでなじみの和菓子屋にやって来たらしいが、タイミングが悪かったと見るべきか」
     店に乱入してきた男の狼藉に対する憎悪とそれを防げなかった絶望から問題の少年はご当地怪人へ変貌するらしい。
    「とは言うものの、まだこの少年は人の意識を残している。故に頼みたい」
     この少年が灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちから救い出して欲しい、と。
    「また、完全なダークネスとなってしまうようであれば――」
     その前に灼滅を。
    「今回闇堕ちしかけている少年の名は、西桜院・飛鳥(せいおういん・あすか)。高校一年生だな」
     闇堕ちの理由に関しては前述の通りで、ご当地怪人桜モッチアと化した少年はまず和菓子屋を荒らした男に大して制裁を加えようとする。
    「バベルの鎖に引っかからずに介入出来るのは、ちょうど少年が男に手を出そうとした瞬間となる」
     庇おうとすればギリギリ間に合うタイミングであり、少年の一撃目から男を救うのは難しくない。
    「ろくでもない男であれ、人を殺してしまっては心のありように影響するかもしれない。逃がすのがシャクならESPで眠らせておくと言うてもあると思うのだよ」
     また、桜餅を愛する少年のこと、足下の桜餅を踏んでしまうかもしれないといった理由付けをすれば、戦場を移動すると言った申し出にも同意することだろう。
    「もっとも、少年は件の男へ自ら裁きの鉄槌を下すことに捕らわれているはずだ」
     よって男を逃がしてしまうとそちらを追いかけて行く可能性が残る。
    「故に和菓子屋の中に転がしておいて、店のすぐ外で戦う展開を私は推奨する」
     標的が中に居ることをガラス越しに確認出来ればご当地怪人も想定外の行動には出ないだろう、と言う訳だ。ついでに三十分以内に事態が収拾するなら人避けも不要とはるひは言う。
    「尚、戦闘になれば桜モッチアはご当地ヒーローのサイキックに似た技で応戦してくる」
     闇堕ち一般人を救出するには戦ってKOする必要がある為、戦いは避けられないのだ。
    「人間の意識に呼びかけることで弱体化させることは出来るのでね、それを狙ってみてもいい」
     人間の意識の方も男の非道に憤っている為、説得は骨だが人間であるが故に良心も一般常識もある。
    「『殺すのではなく罪を償わせるべきだ』などというのは月並みかも知れんがな」
     ある程度の効果が見込めるのではないかとははるひの談。もちろん、セオリーを無視して桜餅を餌に気を惹くというアプローチの仕方もあるかもしれない。
    「敢えて言わせて貰うなら語尾と体質以外にツッコむべき所はほとんどない」
     今までのモッチアがあれだっただけ、というのはいささか酷か。ちなみに、体質とやらだが、どうやらこの少年ラッキースケベ体質の持ち主であるらしく。
    「一歩間違えばシリアスな空気はあっさり崩壊するとだけ言わせて貰おう」
     わりとどーでもいい補足のような気もするが、それはそれ。
    「他に言っておくことがあるとすれば、この少年が愛す桜餅ともう一種の桜餅を比べるような発言は禁句だということくらいか」
     まぁ、要らない波風を立てる気がないならもう一つの桜餅については触れない方が無難と言うことなのだろう。
    「救える相手であれば私は救いたいと、そう思う」
     真剣な顔を崩さず、言い得たはるひは君達へ頭を下げる。
    「宜しく頼むよ」
     食べかけの桜餅を手にしたままで。
     


    参加者
    ミリア・シェルテッド(中学生キジトラ猫・d01735)
    護宮・サクラコ(猟虎丫天使・d08128)
    山田・菜々(元中学生ストリートファイター・d12340)
    安田・花子(クィーンフラワーチャイルド廿・d13194)
    フィオレンツィア・エマーソン(モノクロームガーディアン・d16942)
    白牛・黒子(とある白黒の地方餅菓・d19838)
    セリス・ラルディル(月下の黒蝶・d21830)
    赤城・碧(メロン・d23118)

    ■リプレイ

    ●もうひとつの桜餅
    「ここのようですわね」
     店のガラスに近づいて行く自分の姿を映しながら白牛・黒子(とある白黒の地方餅菓・d19838)はスレイヤーカードを取り出し、微かに顔をしかめた。
    (「なんだか複雑な心境ですの」)
     黒子からすれば今まで桜モッチアであったのは、せんぱいと慕う一人だけ。
    「桜餅怪人には因縁があるようですねい」
     と漏らす護宮・サクラコ(猟虎丫天使・d08128)の兄が助けた現灼滅者の少女だが、それは別の話だ。
    (「またモッチアが現れたんすね」)
     かって灼滅したダークネスを思い出しつつ、山田・菜々(元中学生ストリートファイター・d12340)は店の中へと視線を向け。
    (「桜餅、か。この時期になるとよく食べる、が……ご当地怪人が出るとは、な」)
     和菓子屋の外で風にはためくのぼりを見て小さく嘆息したセリス・ラルディル(月下の黒蝶・d21830)は、迷うことなく店内へと足を踏み入れる、介入タイミングは割と際どいタイミングであったから。
    「女王……それは花の如く!」
     すぐ側で安田・花子(クィーンフラワーチャイルド廿・d13194)がカードの封印を解く声が聞こえたのも、理由は同じ。
    「まあ、いいもちぃ」
     内部を覆っていた闇が晴れ、佇んでいたご当地怪人が動き出そうとしていたからだ。
    「男子のもっちあ、ですか……。……もっちあって男子もいるんですね」
     商品棚の影からミリア・シェルテッド(中学生キジトラ猫・d01735)が見つめる先、特撮ヒーローを思わせる桜色の鎧を身に纏うそれが見ているのは、断罪すべき科人。
    「桜餅の仇、討た」
    「おやめなさい! それ以上いけない!」
    「食べ物を粗末にする者は許さんでいす!」
     次の瞬間、身体をかがめたご当地怪人桜モッチアの前に花子が飛び出し、同時にサクラコが物理的に断罪されるところだった男の腕を引っ張った。
    「うおぁっ、あがっ」
    「自業自得っすからね。そこらへんで寝といてもらうっすよ」
     つい先程まで少年だった存在の変身に狼狽していた男は不意をつかれてすっ転び、起きあがってくるよりも早く吹き付ける爽やかな風が男の意識を奪い去る。
    「これで後は、あっちだけっすね」
     処置が終わったのを確認し、菜々が振り向いた先に対峙するのは、花子と桜モッチア。
    (「これが噂のモッチアですのね」)
    「女、邪魔をするなもちぃ」
     抜き身の剣の様な威圧感を伴い、ご当地怪人はバイザーの奥から花子を睨み据える。桜モッチアからすれば断罪を邪魔された正当な憤りなのだろうが、それを攻撃サイキックとして放つことは出来なかった。
    「此処では桜餅を踏みかねん。……外に出ろ」
    「もちっ」
     割り込んできた赤城・碧(メロン・d23118)の提言が、ご当地怪人に現状を再認識させたのだ。
    「貴方の愛する桜餅が被害に逢うから、外で戦いましょう」
    「いいだろうもちぃ」
     床だけでなくガラスケースやカウンターの上にも和菓子は残っている。眠ったままの男を一瞥した桜モッチアは、フィオレンツィア・エマーソン(モノクロームガーディアン・d16942)の提案を受け入れて背を向けると、和菓子を踏まないように下を見ながら歩き出した。

    ●表に出たでいす
    「私の名はクィーン☆フラワーチャイルド2世! それは混沌に咲く一輪の花-FLOWER-!」
    「ドーモ、西桜院=サン、べこ餅ヒーロー白牛黒子ですの」
     外に出て対峙するなり、名乗った者が一名、アイサツした者が一名。
    「なぜ、あれを庇うもちぃ?」
     店の外に出てから無言だった桜モッチアは、挨拶ではなく疑問の言葉を発しつつ身構えた。
    「桜餅を無碍に扱った事は確かに許しがたいですわ。でもそれが彼を力で断罪していいと言う理由にはなりませんわよ」
    「あなたの桜餅への愛は痛いほどわかりますの……でも! あなたの手や桜餅を血で汚すのは間違ってますの!」
     まるで倒す前に聞いておこうとでも言うかの様だったが、説得するつもりで居た灼滅者達には好都合。まず名乗った花子達が反論し、これを継ぐ形で口を開いたのは、サクラコだった。
    「食べ物を大切にする心は尊い。それと同じくらい人の命も尊いものでいす」
    「貴方の桜餅への想いは暴力で伝えるもの、なのか?」
    「っ」
     サクラコに続いてセリスが発した問いはバイザーではっきりとは見えなくてもわかる程、ご当地怪人の視線が揺らがせ。
    「真に桜餅を愛するなら……味で勝負、だろう」
    「も、もちぃ」
     反論よりも早く口にした言葉が、元少年に膝をつかせた。桜モッチアにとって、物理的ダメージ無しで態勢を崩させるほどの正論だったのだろう。
    「た、食べ物をダメにされたからって攻撃したら、ダメにした人と同類です! ……あ、はぅ」
     物陰からなけなしの勇気を振り絞って叫んだミリアは、振り向いたご当地怪人と目が合ってしまい、ビクッと震えて物陰に引っ込んだが、桜モッチアが気にしたそぶりはない。
    「もし彼を殺しでもしたら、桜餅に悪者のレッテルを張られかませんわ」
    「なっ」
    「あの男がやった罪は大きい。だが、だからといって殺してしまえばお前もこの男と同じ身に落とすことになる。それでいいのか?」
    「くっ」
     むしろ、それどころではなかったとも言える。桜餅が悪者になると言われた時点で、信じられないモノを目撃したかの如く呆然とした元少年は、碧の問いかけへの答えに詰まった。
    「貴方は桜餅を溺愛しているのかもしれない。その桜餅を愛する心はヒーローそのもの。あの人は悪の心に染められただけの一般人」
    「憎しみを持ってそんな怪人になるより、みんなから愛されるヒーローになって桜餅の良さを広めた方がいいと思わないっすか?」
     桜餅への愛を認めつつ語るフィオレンツィアの言に続いて菜々は尋ねる。
    「も、もちぃ。俺はっ」
    「罰で倒すんじゃなくて、慈愛で改心させるぐらいの力じゃ愛と、ただの悪役になっちゃいます……」
     物陰からひょこっと半分だけ顔を出し、それだけ言うとミリアはまた引っ込んだ。呻きながら顔を掌で覆うご当地怪人からは殆ど見えていない筈だが、人見知りな性格と内気さがさせたのだろう。
    「ふざけるなっ」
     もっとも、ある意味で大正解であった。灼滅者達の言葉を振り払おうとするように元少年は腕を振るったのだ。
    「俺はあ……あ?」
     ただし、言葉は途中で途切れる。
    「ふふ、ふふふ……」
    「なん」
     不気味な笑い声に恐る恐る振り向いたご当地怪人が見たのは、大きなべこ餅(比喩表現)を鷲掴みにした自分の手と剣呑な目で見てくる一人の少女。
    「ザッケンナコラーッ! スッゾオラー!」
    「がふっ」
     なしくずしにせんとうになったってしかたないとおもう。もっちあ(どうし)されたんだもの。バベルブレイカーで突き刺されたご当地怪人はまるで少年漫画のワンシーンの如く宙を舞ったのだった、コワイ。

    ●真に恐るべきは
    「煩悩退散!」
    「ぶっ」
     左腕を巨大化させたフィオレンツィアが落ちてきた桜モッチアを殴りつけた。被害者が仲間だったからといって他の仲間が制裁に加わっていけないというルールはない。インガオホー。
    「桜餅には被害が出なかったけどべこ餅が被害に遭ってしまったのでいす」
    「えっと、そう言う話っすか?」
     サクラコと菜々が眺める間も、ご当地怪人はフルボッコにされていた。
    「行きますわよっ」
     痛そうな音と悲鳴が周囲に響き、怯えたミリアが物陰に引っ込んでしまう中、花子がWOKシールドに影を宿して殴りかかろうとしたのも同性が被ったものや元少年を救う為に一度倒す必要があることを考えれば、当然の流れ。
    「はうっ?!」
     とびかかろうとしてつまづきてんとうしたことについては、だーくねすのしわざにちがいない。おのれだーくねす。
    「うおっ」
     しかもこの転倒は、殴られるはずだった桜モッチアを巻き込んだ。折り重なるように倒れ込んだ二人の内、下になったご当地怪人は反射的に受け止めようとしたのだろう。
     ただ、手を添えた場所が悪かった。
    「……ひいっ?! どこ触ってますの?!」
    「す、すまんもちぃ」
     もっちあされた犠牲者は増えて行く。説得で確実に弱体化し、一方的に叩かれていたというのに恐るべきは体質か。
    「こうしてはいられん。征くぞ、月代……!」
     いくらディフェンダーの碧とて攻撃しに行っての自爆は庇えない。とはいうものの、起きようともがいて更に状況を悪化させて行く仲間を黙って見ていられる性格ではなかった。ビハインドに呼びかけると、ビハインドの月代と挟み込むよう左右に回って方膝をつく。
    「立てるか?」
    「ううっ、助かりましたわ」
    「あぁ、助かったもちぃ」
     ご当地怪人にまで礼を言われてしまったが、それはそれ。
    「さて、仕切り直し、だな」
    「フッ、望むとこ――」
     セリスの声に答え構え直そうとする桜モッチアは気づかない。この場にいたビハインドは月代だけでなかったことに。
    「セバスちゃん!」
    「なっ」
     想定外の方向から放たれた霊撃は明らかにご当地怪人の虚を突いていた。
    「もぢっ」
    「纏え、蒼炎……レーヴァテインッ!」
     一撃貰って怯んだところに今度は、セリスが殲術道具を振りかぶりアスファルトを蹴る。
    「もちぃっ」
     咄嗟に向けた桜モッチアの指先からビームが放たれるも、狙いが甘かったか光条は大きく逸れ。
    「がもぢっ」
     ご当地怪人は、炎に包まれながら蹌踉めく。
    「フッ、これほどとはもちぃ」
     一撃を貰った場所をおさえつつも、もう一方の手で構えをとると、灼滅者達を見据えた。戦いはまだ続くらしい。
    「本当のヒーローは悪の心を倒し、悪に染まっていた一般人を許すものよ。それができないなら、悪の大幹部と同じよ」
    「ぐっ」
     かけられる言葉へ不快そうに唸りつつも桜モッチアが身体をかがめる。
    「さ、させませんっ」
    「っ」
     跳び蹴りの前動作をとった桜色の特撮スーツは次の瞬間、足下から膨れ上がった影に襲いかかられて慌てて横に飛んだ。
    「食べ物を捨ててしまったら終わりでいす。でも、作り直すことはできるでいす!」
    「やめろもちぃ、俺を」
    「あの男は不味かったのはわかりますが、作り直す機会は与えてあげてくださいませ」
    「俺を惑わすなっ」
     元少年を、内なるダークネスを追い込んでいるのはサイキックだけではない。言葉も桜モッチアを追いつめていた。
    「さぁ、貴方に本当に桜餅を心から愛する正義の心はあるの? 証明して見せてよ!」
    「そして何よりも、美味しい桜餅を私に紹介するために元に戻るべきっ!」
    「それは、欲望がだだ漏れの気がするっす」
     後者に対してツッコミながら菜々はマテリアルロッドを握ると、同じ殲術道具を手にした仲間に倣って動き出す。
    「内より弾けろっ!」
    「もぢあ゛っ」
     説得に動揺するから動きが鈍り、避け損なって殴打を受けた元少年がたたらを踏む。
    「がも゛っ」
     そこに叩き込まれるもう一本のマテリアルロッド。
    「畳みかけるぞ、月代」
     感情らしきモノは表に出さず、ただビハインドの名を呼んだ碧は蹌踉めく桜モッチア目掛けて斬撃を放つ。
    「も、ぢぃ」
    「お次はこれでいす」
     白光が一瞬目を奪いくぐもった悲鳴を漏らすご当地怪人を次に襲ったのは、拳の嵐。
    「が、べ、が、も゛、ぢ、ぢぃ、ぐぅ、く……」
     ほんろうされ、やがて傾いだご当地怪人の身体は、アスファルトの上に倒れ込む前に受け止められ。
    「ふぅ、何とかなったようですわね」
     特撮スーツもどきが消滅し、バイザーの奥にあったのは、至近で見た灼滅者が思わず息を呑むほどに調った美しい顔立ち。
    「あっ」
     もっとも、それが失敗だったかも知れない。意識を失い倒れ込んできた身体は、黒子を押し倒したのだ。

    ●お約束
    「心を広く持ちなさい、少年」
     黒のジャケットで身を包み、和菓子屋ののぼりがはためく光景を背にフィオレンツィアは言った。
    「あ、ああ」
     それはきっと顔に出来た拳やら平手打ちのあとと加害者に怒るなと言う意味ではないのだろう。
    「少々甘く見てたのですねい」
     体質は、少年ことアスカが元の姿に戻った直後にも牙を剥いたのだ。
    「まぁ、それはそれとして――」
     もっとも言うべきこと、本題は別にある。
    「桜餅を本当に愛する心があるなら、桜餅を護り、広めるヒーローになりなさい」
     私達の学校にはそう言う人達結構いるわよとフィオレンツィアが口にすれば、すかさず黒子が実例を挙げる。
    「わたくしの素敵なせんぱいも桜餅が大好きですし、餅の大好きな仲間が武蔵坂学園にはいっぱいいますの!」
     そう、黒子もべこ餅のご当地ヒーローなのだ。
    「あなたもどうですの?」
    「と言うことだけど、来る?」
     差し伸べられた手は、黒子とフィオレンツィアで二人分。
    「……迷惑も世話もかけた、ならば報いるべ」
     飛鳥は手を取るべく一歩前に踏み出そうとし、うっかりひしゃげた最中を踏む。
    「うおっ?!」
    「「っ」」
     バランスを崩して倒れ込む先にいたのが豊満な少女と胸の大きな少女ならどうなるかは言うまでもない。これも、和菓子を床に叩き付けた男が悪いのだ。
    「この男性の処遇は……桜餅漬けでいいかしら?」
    「そこは各々に任せる感じでいいと思う……が、ケリはつけておかないと、な」
     少女の悲鳴が響き渡る中、花子とセリスはこの状況下でも暢気にいびきをかいている元凶を前に顔を見合わせると、ゆっくり近づき――きっとふたりのおとこにはせいとうなるさばきがくだされたのだとおもう。
    「いつかゆっくり、こちらの桜餅を堪能したいですわね」
    「だな」
     相づちを打ったセリスとしては、「お礼と言う意味でも飛鳥は私に美味しい桜餅を私に紹介するべき」らしいのだが、問題の少年はいまだ処刑様BGMが似合いそうなお仕置きの真っ最中である。
    「煩悩退散!」
    「ぐっ」
     要求出来るのは、少なくとももう少し後のことになりそうだった。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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