バッファロー伊香保温泉怪人襲来

    作者:小茄

     ――ちゃぽん。
    「あー、良いお湯……極楽極楽♪」
    「エミおじさんっぽいんだけどー」
    「でも日本人で良かったーって感じだよねー」
     群馬県は日本有数の温泉地でもあり、東京から日帰りで行けるアクセスの良さも人気の理由である。
     今ここで露天風呂を満喫しているOL3人組もまた、他県からの入浴客であろう。
     ――ドカーン!
     唐突に大きな音がして、驚いて振り向けば、脱衣所の小屋が無惨に倒壊している。
    「ひっ……な、なに?」
     そして体長2m以上はあろうかと言う大男が、手には巨大なまさかりを手にして佇立しているではないか。
     しかもよく見れば、頭部には角を生やし、身体は焦げ茶色の体毛で覆われている。まるで、ファンタジーやゲームに出てくるミノタウロスの様だ。
    「あ、ぁ……」
     恐怖に震え上がり、身を寄せ合う3人。
    「良いご当地パワーだ、全て喰ろうてやろうぞ」
     牛男は笑みを浮かべつつそう言うと、まさかりを振り下ろす。
     ――グシャッ!
     万事休す。……と思いきや、牛男の狙いは3人ではなく、露天風呂その物であった。
    「「……きゃああぁ!!」」
     なりふり構わず逃げ出す3人を背に、牛男はせっせと風呂の囲い石を砕き続けるのだった。
     
    「アフリカンパンサー配下のご当地怪人が、破壊活動を行っていますの。急いで阻止しないと、被害は拡大するばかりですわ」
     有朱・絵梨佳(小学生エクスブレイン・dn0043)の説明によると、群馬県の温泉地に出現したのはバッファロー伊香保温泉怪人と言う牛男で、この町の温泉を破壊する事で、ご当地パワーを略奪していると言う。
    「これまでのご当地怪人と違って、彼にご当地愛はありませんわ。ご当地パワーだけが目的というたちの悪い敵ですわね」
    「なるほど……完全なる悪という訳か」
     眼鏡のズレを直しつつ言うのは三笠・舞以(鬼才・dn0074)。
     破壊による被害もさる事ながら、放置すればご当地パワーを好き放題奪われてしまう。速やかな対応が求められる所だ。
     
    「先ほども言ったように、敵は温泉を破壊する事によってご当地パワーを得ていますわ。最も有効な手段は、温泉で待ち伏せし、破壊しに来た怪人を、返り討ちにする事ですわね」
     不思議なもので、怪人は美しくうら若き女性(に見える人間)が入っている温泉を優先的に破壊しようとするらしい。
    「それはゲスにも程があるな……」
     舞以も眉を顰めるが、こちらとしてもどこに現れるか解らないより好都合だ。
    「貴方達なら、誘き出すには打って付けのはずですわ」
     何故か嬉しそうに一行を見回す絵梨佳。
     
    「手早く任務を終えたら、そのままゆっくり温泉を満喫するのも良いのではないかしら。はしゃぎすぎて転んだりなさらないでね?」
     そう言うと、絵梨佳は灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    霧島・竜姫(ダイバードラゴン・d00946)
    犬塚・沙雪(黒炎の道化師・d02462)
    堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)
    ミルミ・エリンブルグ(焔狐・d04227)
    黒岩・りんご(凛と咲き誇る姫神・d13538)
    鬼追・智美(メイドのような何か・d17614)
    ソフィ・ルヴェル(カラフルジャスティス・d17872)
    ナターリア・オルダノヴァ(王子様を待つ少女・d18333)

    ■リプレイ


     ――かぽーん。
     群馬県、伊香保温泉は古くから日本を代表する名湯の一つである。
     温泉……と言えば、美女。そんな発想は解らないわけでもないのだが、今回の標的であるご当地怪人は、そんな風情溢れる温泉を破壊する事が目的だと言う。
    「俺はまぁご当地ヒーローではないけれど、ここは実家に近いし、そこを荒らされるって言うのはさすがにちょっと許せないよな」
     内湯で手ぬぐいを絞りつつ呟く犬塚・沙雪(黒炎の道化師・d02462)。
     今回の作戦で唯一の男子生徒となる彼だが、故郷に近いこの場所を、不埒なダークネスに蹂躙される事は忍びないとの義憤から、この依頼に参加していた。
    (「温泉を破壊してご当地パワーを得ようだなんて、そんなの間違っています!」)
     その近くで、こちらもソープの泡を大きくしているソフィ・ルヴェル(カラフルジャスティス・d17872)。
     幼いとは言え、れっきとしたレディである彼女が何故沙雪の近くに居るかと言うと、ズバリこの温泉が混浴であるからに他ならない。
     近年、男女別浴は当たり前になりつつあるが、こうした歴史ある湯場の片隅には、まだまだ混浴の文化が残っているのも事実である。
    「お使いになりますか?」
    「有難う智美。あたし達も早く入りたいネー」
     鬼追・智美(メイドのような何か・d17614)からボディシャンプーを受け取りつつ言うのは、黒のセパレートタイプ水着姿の堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)。お色気、というよりは健康美を感じさせるスタイルである。
     申し遅れたが、今回は特別、彼女以外も全員が水着着用での入湯である。

     さて、一方露天風呂の方はと言うと……
    「良いお湯ですわね」
     ちゃぽんとお湯をすくい上げ、日常生活の疲れを癒やす黒岩・りんご(凛と咲き誇る姫神・d13538)は、リボンに合わせたピンクのビキニ。
    「ほんと、役得だね」
    「こうしてると任務とは思えないわ」
    「……こ、これは囮だからね?」
     同じく、それぞれビキニ姿の由希奈と悠花、そして何とスリングショットを着た奏。『花園』のメンバーも今回助っ人としてりんごに同行している。
     無論、敵を誘き出す為の囮役なので、こうしている間も油断はできない。
    「いきますよ、てやー♪」
    「お上手ですね、こうですか……?」
    「ううん、もっと空気が入らない様にしてー……」
     こちら、ミルミ・エリンブルグ(焔狐・d04227)とナターリア・オルダノヴァ(王子様を待つ少女・d18333)は手で水鉄砲を作り、お湯をぴゅーっと遠くへ飛ばして遊んでいる。
     ちなみに重要情報なので付け加えるならば、ナターリアが着ているのはライトグリーンのタンキニ。やや大人びた彼女が着るには、子供っぽいデザインと言えなくも無い。なにより、サイズ的に小さめらしく、先ほどから胸の辺りを気にしている。
    「舞以さん、眼鏡は取らないんですか?」
    「ん? あぁ……眼鏡キャラとしては例え入浴中であろうと、外すわけにはいかないからな。なぁに、レンズは入っていないから曇ったりはしないさ」
     じっと不思議そうに眺めつつ尋ねる霧島・竜姫(ダイバードラゴン・d00946)へ、良く解らない理論で答える三笠・舞以(鬼才・dn0074)。
     一同は、かくの如く一分の隙も無い態勢で敵の出現を待つ。
     もし、隙だらけに見えたのならば……それは灼滅者の術中にはまっている証拠に他ならない。


    「これは極上のご当地パワーだ。残さず喰ろうてやろうぞ」
     何の前触れもなく露天風呂にいきなり現れたのは、大きなまさかりを手にしたミノタウロス。トマホークでなくまさかり、腰布の代わりに手ぬぐいと言うのが、申し訳程度のご当地感を出している。
    「あわわ……」「っ!?」「きゃー」
     一同はと言うと、突然現れた異形の侵入者に対し、悲鳴を上げ、呆然として凍り付く。
    「ふはは……怖かろう! 怯えろ! 竦め! 湯煙に事件は付き物よ!」
     そんな女性達の反応に気をよくしたのか、怪人はずんずんとこちらへ近づいてくる。
    「そして見ているが良い、この温泉が跡形も無く――」
     ――ガラガラッ。
     怪人がまさかりを振り上げた丁度その時、開け放たれる扉。
    「ぬうっ!?」
    「おいたは、アカンなぁ!」
     地を這う黒い影が怪人の足下に絡みつくとほぼ同時、ジェット噴射の勢いで飛翔し、バベルブレイカーを怪人の背中に突き立てる朱那。
    「人の故郷で暴れようとはいい度胸だ。殺してやるから覚悟しな」
     次いで影の主、沙雪は怪人を睨み付けつつ言い放つ。
    「き、貴様ら、何者だ……」
     怪人はダメージよりも不意打ちを受けた事に動揺している様子で、内湯側へ振り返る。
    「この温泉を護る者。温泉には一撃たりとも手出しさせません!」
     この問いかけに答えたのは、湯船より跳躍し、スレイヤーカードを解放した竜姫。
    「レインボースラッシュ!」
     ――ザシュッ!
     怪人が振り返るよりも早く、サイキックソードで深々と斬り付ける。
    「ぐうっ……貴様らもか……?」
    「牛程度がおきつね様に勝てるわけないです、軽くあしらってあげますよ!」
     同様に湯船から飛び出したミルミは、続いてWOKシールドを叩きつける。
    「おのれ……小細工などっ!」
     自分が敵のまっただ中に踏み込んでしまった事に気づいた怪人だが、気づいたからといって有効な対処法もない。
    「隙有り、です」
     ――ヒュッ!
     中段の構えから、日本刀を振るう智美。
     温泉側を向けば内湯側が、内湯側を向けば温泉側が、それぞれピッタリと呼吸を合わせて交互に攻撃を試みる。シンプルだが、それだけに破る事は至難。
    「おのれぇっ!」
     ――ゴォッ!
     とは言え敵も然る者。ただこのままサンドバックと化す事はない。まさかりを力任せに振るい、状況を打破せんと試みる。
     ――ガキィン!
     火花を散らし、自分の身の丈近くあるまさかりを受け止めるミルミ。
    「温泉を破壊とか最悪ですわね。しっかり片付けてあげましょう」
     りんごはすかさず癒やしの霊力を放ち、ミルミの傷を癒やす。
    「変身! カラフルキャンディ!」
     白のワンピタイプ水着を着ていたソフィも、ベルトにカードデッキを装填して姿を変える。
    「彩り鮮やかは無限の正義! ソフィ参ります!」
     ファンシーなデザインのキャリバーに騎乗し、びしっとクルセイドソードを構える。
    「行きます、正義の鉄槌を!」
     抜刀し、間合いを詰めるナターリア。ソフィもこれに呼応し一気に接近する。
    「ええい邪魔立てをするなぁっ!」
     ――ヒュッ!
     上段から振り下ろされる刀が怪人の皮膚を裂き、片やクルセイドソードはその霊体に斬り付ける。
    「私達も応援を」
    「はい」
    「皆頑張って!」
     奏、悠花、由希奈もそれぞれに援護を開始する。
     完全な形で先手を取った灼滅者達は、一気に怪人を倒しにかかる。一方怪人は、その桁外れのタフネスを活かして反撃に出る。
     湯煙の挟撃戦は、一層その熾烈さを増してゆく。


    「ウォォォーッ!!」
     ――ドドドドッ!
     咆吼を響かせながら、その巨体をそのまま武器へと変える怪人。
    「っ……この間合い、頂く……我らに断てぬもの無しっ!」
     沙雪は衝撃波を堪えつつ、紅蜂を振るって氷柱を放つ。
     ――バキィン!
     先ほどのレーヴァテインで熱されていた角が急速に冷やされ、急激な温度差に砕け割れる。
    「ぐうっ!? 良くも俺の角をぉっ!!」
    「ホンッと、気に入らないンだよネ……アンタらの遣り口!」
     数条の影を放ち、怪人を絡め取る朱那。表面上はいつも通りの彼女だが、内心今回の怪人達の遣り様には、腹立ちを禁じ得ない様子。
    「小賢しい連中め! このご当地パワーは我々が有効に利用してやろうと言うのだ! 大人しく引っ込んでいろぉっ!!」
    「レインボービート!」
     勝手な事をのたまう怪人に真正面から肉薄すると、無数の拳を叩き込む竜姫。
    「ミノタウルス……ちょっと殴り合いをしてみたかった相手です! いざしょーぶ!」
     ――バキッ!
     続いて、妖狐の炎を纏ったミルミの拳が、怪人の鼻先を捉える。
    「ぐぬうぅっ……! ちょこまかとっ!」
     ――ブンッ!
     怪人はまさかりを振って反撃を試みるが、灼滅者は数を利して間断無い攻撃を続ける。
    「回復はお任せを」
     清めの風を呼び起こし、皆の体力を回復させるりんご。
    「いきましょう、ブラン! 温泉と女性の敵を倒します!」
     ソフィはキャリバーを加速させ、怪人へと突進。
     緋色の闘気に覆われた刀を構え、ナターリアも同時に仕掛ける。
    「おのれ、おのれぇぇぇっ!!」
     唸りを上げて振るわれるまさかりを紙一重でかわし、懐へと飛び込む2人。
    「アメちゃんキック!」
     ――バッ!
     ソフィの蹴りとナターリアの切っ先が、それぞれに怪人の急所を貫く。
    「ぐふっ……この俺が、こんな所でやられるとはな……だが、俺の奪った力は全てアフリカンパンサー様の元へ……」
     ぐらりと傾いた巨体は、そのまま石畳の上に倒れ伏し、やがて跡形も無く爆散した。


    「ふはー、一仕事した後の温泉も格別ですねー♪」
    「やー、ホント日本人でヨカッタ~、癒される♪」
     大きく伸びをするミルミの言葉に頷きつつ、日本人らしからぬ外見からいかにも日本人っぽい台詞を口にする朱那。
     実際日本人ではないのだが、そんな事は気にしない。
    「本当に、丁度良い湯加減ですね」
     智美も、ようやくゆったりと湯船に浸かる。今更ではあるが、彼女もまたかなりのナイスバディである。
    「ゆったりと毎日を生きる為の英気を養いましょう」
     一方こちらは、先ほどまでのやや子供っぽい水着から白のビキニに模様がえしたナターリア。きつさも解消されて、リラックス出来そうだ。
    「コセイ泳いでもいいですよ? ……り~んごさんっ♪」
     ――むぎゅっ。
    「ふあっ?!」
     再び水着姿に戻った悠花は霊犬のコセイを入浴させ、自身はりんごに正面から抱きつく。
    「今日は先手必勝よ」
     普段は弄られる側に立たされがちの奏だが、この時とばかりにりんごの背後に回る。
    「あんっ!」
    「……せっかくですから、ゆっくりお風呂に入りましょうよ」
     由希奈は相変わらずの面々を傍目に、一足先に温泉を満喫中。
    「それもそうですね、では……隙ありですわ♪」
    「って、りんごちゃん、後ろから抱きついちゃだめぇっ! ちょっ、胸っ!?」
    「3人とも同じくらいのサイズだから揉んで確かめませんと」
    「カップサイズ測れるって……ぁっ、やぁっ!」
     人間メジャーの異名を持つかどうかは不明だが、3人のサイズを次々に言い当ててゆくりんご。成長の自覚があった奏も、なかった由希奈も例外は無い。
    「やれやれ、男子も居ると言うのにあんなサービスシーンを……」
    「ん?」
     舞以の懸念を余所に、唯一の男子である沙雪は、我関せずと言った風情でまったりと温泉に浸かっている様子。
    「そうだ、この後まだ時間がありそうなら、この辺をガイドしようか」
    「それは良いですね、幸い手こずることもありませんでしたし」
    「温泉町の情緒に浸るのも一興か」
     土地勘のある沙雪の申し出に、竜姫のみならず一同乗り気。
    「あ、じゃあその前に、あがったら牛乳おごってあげますよ、牛乳!」
    「もしかして、あのクーラーボックスは牛乳だったんですか?」
     ミルミは湯上がりに備えてよく冷えた牛乳を持参したとのこと。用意周到だ。
    「でもほんと、無事この温泉を守れてよかったです。あれ……なんだかぼやーって……」
     ――ぶくぶくぶく。
     戦闘前から湯に浸かっていたソフィは、顔を真っ赤にしてすっかりのぼせてしまった様子。

     とにもかくにも、一行は自らが守った伊香保の宝、温泉を心ゆくまで満喫するのだった。

    作者:小茄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月3日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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