逃れられぬはずだったのに

    作者:一縷野望

     どこから入り込んだのか、明らかに奇異な……まるで宇宙で着るような格好の少年は、寝息を立てるそっくり少女達の枕元に、立つ。
     瓜二つの娘達は双子。
     ただその中身は著しく異なっている。
     とにかくできが良く、全てを完璧にこなす姉。
     普通よりはやや劣り、人に騙されやすい妹。
    「君の絆を僕にちょうだいね」
     少年が指を伸ばしたのは妹の額。

    「美弥子ちゃん、おはようございます」
     朝、予備校へ行く前の日常。
     テーブルに丁度良く焼けた鮭を置き、美弥子と同じ顔が華やかな笑みを向ける。
    「お姉ちゃん、おはよー」
     いつもなら、姉の整えてくれる、栄養バランスを考えた一汁三菜の朝食に、お腹を鳴らして飛びつくのに……。
    (「なんだろー」)
     ……どうでもいい。
     自分と同じ顔なのに、頭が良くて社交的で人間としてほぼ完璧と言える姉。
     ふがいない浪人生の自分の勉強の面倒も見てくれるなど、公私に渡り優しく頼りになると慕っていた、はずなのに。
    「美弥子ちゃん、美味しい?」
    「あー、うん」
     姉への思いが、啜る味噌汁のように味気ないモノに変じている。
     確かに、慕っていた。
     完璧すぎる姉への嫉妬もちらつき、そんな自分に自己嫌悪していたのも事実だけれど、それでも。
    (「なんか、穏やか?」)
     目の前の同じ顔の人が――どうでも、いい。
    「美弥子ちゃん?」
     何処か寂しげに揺れる姉の瞳など、まったく彼女には映らない。
     

    「絆のベヘリタスの卵が産み付けられるのを予知したよ」
     灯道・標(小学生エクスブレイン・dn0085)は、さらに補足する。
     ベヘリタスと関係が深いらしい人物が、一般人から絆を奪いベヘリタスの卵を産み付けているのだ、と。
     強力なシャドウである絆のベヘリタスが次々と孵化していく、そんな地獄絵図は絶対に阻止しなければならない。
    「孵化した直後が狙い時。うまく弱体化させて、ソウルボードに逃げ込む前に灼滅して欲しいんだ」
     
     卵を産み付けられるのは、三条寺・美弥子(みじょうじ・みやこ)という浪人生だ。
     彼女の頭の上には、紫と黒の不気味な卵がゆらゆら。ただし見えるのは灼滅者だけであり、この時点で攻撃するコトは無理だ。
    「孵化した絆のベヘリタスを灼滅する、それがキミ達の仕事。でも奴はとても強い。真正面から戦いを挑んでもまず負ける」
     ――だから美弥子と絆を結んで欲しい。
     そう、標は唇を動かした。
    「卵は宿主と他者の絆を栄養源にして成長するんだけど、その絆を結んだ相手に対しては弱体化する特徴があるんだ」
     与える攻撃力は減少し、絆を持つ相手からのダメージは増大する。
     ……どうやって絆を結ぶか、だが。
    「美弥子さんは予備校へ通ってるんだけど、最近はサボって町をブラついてるからあっさり接触できるよ」
     はじめの接触チャンスは、1日目のお昼のファーストフード店。
     そうやって、お腹が空けば適当なファーストフード店で食事を取り、後はゲームセンターや書店、デパートの洋服売り場で時間を潰している。
    「2日目は朝の10時頃からお姉さんと待ち合わせてる夕方まで、繁華街で美弥子さんと話すコトができるよ」
     大体いる場所を記したメモを標は皆へと配った。
    「――卵の孵化は、2日目の夕方。お姉さんと合流した少し後に、起こる」
     孵化したベヘリタスは、シャドウハンターとクルセイドソードのサイキックに似た能力で攻撃してくる。
    「斃すなら、9分以内で。10分したら、奴はソウルボードに逃げてしまうんだ」
     成功条件は、灼滅ないしは撃退。
     ただ逃走させると、ベヘリタスの勢力が強大化してしまうので、できれば斃して欲しい所だ。
     だから美弥子と過ごせる時間を使い、どのような感情でも良いので絆を結び戦いを有利に運んで欲しい。
    「ベヘリタスを斃したら、美弥子さんの中で希薄になってたお姉さんへの絆も戻ってくるよ」
     できればフォローしてあげて欲しい、と標は添えた。
     人の感情が一色ではないのは事実。
     でも、確かに美弥子から姉へはあたたか色の気持ちが満ちていた。
    「元通り、姉妹は仲がいい方がいいものね」


    参加者
    雨谷・渓(霄隠・d01117)
    羽柴・陽桜(ひだまりのうた・d01490)
    犬神・沙夜(ラビリンスドール【妖殺鬼録】・d01889)
    詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)
    堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)
    ユークレース・シファ(ファルブロースの雫・d07164)
    シャルロッテ・カキザキ(幻夢界の執行者・d16038)
    双葉・幸喜(正義の相撲系魔法少女・d18781)

    ■リプレイ

    ●11:48 ファーストフード店
     くいっ。
     予備校生の三条寺・美弥子は、裾を引かれて振り返る。
    「あれ? 違う?」
     蒼空の瞳をきょとりと瞬かせる小学生は慌てて頭を下げ続けた。
    「おねーちゃん、前にひおが道に迷った時に助けてもらったおねーちゃんに似てたの」
    「あぁ、多分お姉ちゃんだと」
     感慨がない台詞を羽柴・陽桜(ひだまりのうた・d01490)は憂う。
    「ひおね、今、待ち合わせしてるの」
     陽桜が「また逢いたかった」都の事を語るが、無関心露わにハンバーグを囓るだけ。そこへ従姉妹を名乗り、詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)が現れる。
    「本当にそっくりなんですね」
    「だよねっ」
     実は、はぐれている間に偶然都に逢ったと告げるも「そー」と平坦な返事。
     ――都に逢った。
     これは嘘では、ない。
     沙月は都との邂逅を思い出しながら、あの日隠した自らの事を語る。
    「私も双子なんです。ただ家を継いだのは妹で私は家を出たのですが」
    「おねーちゃん、格好いいよね」
     相づちを打つ陽桜に沙月は笑みかける。
    「自慢の妹で……でも、あまりに違うから綺麗でない感情もありました」
     それは恐らくは美弥子が抱くモノに、近いはず。
    「沙月さんも綺麗でしっかりしてるように見えるけどな」
     自らには触れず穏やか。
     違う。
     情緒の回路が断絶しているのだ。
     しばし怯むも、沙月は更に語る事を選択する。
    「以前お姉さんは嫌なものを全て壊す夢を見たそうです」
     正常な美弥子ならば、戸惑いながらもより深く聞こうとするはずだが無言。
     心配だったから。
     離れて暮らす姉がいつかぷつりと糸が切れるように壊れてしまわないか、心配だったから。
    「でも最後に妹が出てきて」
     響かない今が、唯哀しくて悔しい。
    「……自由で羨ましくて、それでも好きだから壊せなかった、と」
     空白。
    「そー」
     うつろな声が虚空に舞った。
     でも、美弥子の記憶には残るはずだ。

    ●14:02 書店
     鍵の部分だけ抜けたあやふやな、けど妙に惹かれるちぐはぐさ――先の従姉妹への感情を辿りつつ、美弥子は本棚に指を伸ばす。
     とすん。
    「……ッ、すみません」
     同じ本に手を伸ばそうとして肩が当たったのを雨谷・渓(霄隠・d01117)は詫びた。
    「貴方もサボりですか?」
     予備校で見かけたと言われバツが悪そうに俯いた。
    「金ドブしちゃってるなって思うんだけど、ね」
    「罪の意識があるだけマシですよ」
     渓は本を戻すと自嘲的な口ぶりで肩を竦める。
    「自分は夢も持たず目的なく勉強する事が嫌になったんです。貴方はどうですか?」
     似ていると水を向ければ、美弥子から緊張が去るのが見えた。
    「確かに『とりあえず大学は行っとけー』な感じだし、私も見失ってるなぁ」
     ほのかな絆が芽生えた所に、鋭角的な声が割り込んできた。
    「見つけた……ミジョウジ・ミヤコ……さんね」
     声のままに鋭い目つきでシャルロッテ・カキザキ(幻夢界の執行者・d16038)は美弥子を捉える。
    「予備校を……サボってるそうね」
     先輩と呼ぶのをかろうじて飲み込み、渓が同じ予備校仲間とフォローする。
    「うん、サボってる、けど」
     抗弁できる度胸もなくて居心地悪く身を竦める。
    「努力は報われる……とは言わない。でも……」
     いきなり腕を剥きだしにしてシャルロッテは力こぶを作って見せた。
    「形にはなるわ」
     ぽかーん。
     目をまん丸に見開いた美弥子だが、
    「すごい」
     零れたのは、感嘆。
    「勉強だけが将来に繋がるとは思いません。彼女を見てると特に」
    「確かに」
    「目的があるなら、何が必要かを見極めないと」
     ……無いのなら訓練して得るしかないとシャルロッテ。
     ……その選択途中であり、同じく悩む美弥子に安堵していると渓。
     それぞれに尊敬と共感を強く感じながら、美弥子は書店を後にした。

    ●15:38 洋服売り場
    「背が高すぎて、似合う服が見つからなくて……」
     あどけない顔立ちだが身長は優に10cm上な少女は、大柄な身を縮こまらせて上目。
    「どの服が似合うか見てくれませんか!」
     そんな双葉・幸喜(正義の相撲系魔法少女・d18781)を前に、店員を探しきょろきょろ。
    「店員さんに相談すると何でもお勧めって言われちゃいますから」
    「わかる、結局買わされちゃうんだよね」
     押し切られそうになったら断ってくれる姉……やはりそこまで繋がらない。でもきっかけにはなった。
    「センス自信ないけど」
    「そんな事ないですよ。そのパーカー素敵です」
     選んでくれたのは姉、だけど。
     取り立てて言う事でもないと美弥子は目についた服のサイズを確認する。
    「えっと、LLでいいのかな?」
    「わ、そのリボン可愛いです」
     幸喜は夏色コーディネイトに感激し、真剣に服を選んでくれた事に何度もお礼を言った。

    ●17:16 ゲームセンター
    「!」
     入り口にて縫ぐるみのクレーンゲームに黙々と挑戦する犬神・沙夜(ラビリンスドール【妖殺鬼録】・d01889)に美弥子は足を止める。
    「自分では逃げ出す事の出来ない子達を助けているだけです」
     立ち止まる気配にそう告げ、最後のわんこをくいっとつり上げた。
    「救出袋をお願いします」
    「は、はい」
     ――10分後。
    「救出の手伝いに感謝します」
    「いえ……これ全部持って帰るの?」
     がさり。
     沙夜は黒毛で片目が隠れた仔と切れ長目の仔を取り出すと後は美弥子へ押しつけた。
    「お礼です」
    「へ?」
    「私と姉の分があれば充分ですから」
     救えれば満足。
    「お姉さん、いるんだ」
    「はい。双子の姉が」
     姉を連れてきたら子供のようにはしゃいだのが嬉しくて、ゲーセンに足を運ぶようになった――なんてきっかけは意識に沈み。
    「……」
     この空白に本当ならば饒舌が入るのだろうか――。

    ●10:15 迷子
     次の日。
     姉からの携帯メール「17時半、駅前広場で待ち合わせて帰ろう」に欠伸を向けて、美弥子は当て所なく歩き出す。
    「迷子になっちゃった……おねえちゃんも見つからないの、さがしてー」
    「お姉さん、どんな人?」
     瞳を潤ませたユークレース・シファ(ファルブロースの雫・d07164)を無碍にもできず、美弥子は手を引き歩き出す。
    「しゅーな姉はとっても優しいの」
     ユークレースの誇らしげな声が心地よい。
     でも。
     どうして心地よいのか、美弥子にはわからない。
    「しっかりしてて、頼りになって……」
    「そう」
     ――しばし探し、警察へ行けば、
    「助かりマシタ、ありがとうございマス!」
     闊達な印象の姉、堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)が待っていた。
    「しゅーな姉! 美弥子、ありがとうー!」
     飛び込むように抱きついてきた妹の背をぽんぽんと叩き、朱那はお礼がしたいと近くの公園へと誘う。
    「わ、手作り」
    「お菓子を作る位しかできなくて」
     ペットボトルのお茶を渡し朱那は頭を搔いた。
    「がさつで姉らしくなくてうっかり者でよくはぐれて泣かせちゃう」
     ごくごくと喉を鳴らすユークレースへ注ぐ視線は、可愛くてたまらないと溺愛一杯。
    「もっとしっかりお姉さんらしかったら良かったカナ」
    「そんな事ないよ。ゆうが泣いちゃった時はずっと傍にいてくれる、しゅーな姉、大好き」
     素直な感情の発露に、朱那と美弥子はつられて微笑む。
    「違いすぎて嫌な事もあるケド、好きな気持ちには負けちゃうンだ」
    「えへへー」
     髪を梳られてユークレースは機嫌良く頭を揺らす。
    「ゆうちゃん、素敵なお姉さんってずっと言ってたよ」
    「うん。あとねー、美弥子もおねえちゃんみたいだった」
    「私は妹なんだけどね」
    「お兄さんカナ? それともお姉さん?」
    「双子の姉が一人」
     物珍しげな姉妹の視線にも深く語る事ができない、だがそれをおかしいと思えぬ美弥子……。
     ゆらゆら。
     頭頂で揺らぐ不気味な卵に、姉妹は目配せし「必ず砕く」と誓い新たにする。
    「美弥子サンて穏やかで、一緒にいるとほっとするネ」
     率直な朱那の褒め言葉に、美弥子は瞳を瞬かせた後、
    「あ、ありがとう」
     はにかむようにそっぽを向いた。

    ●18:12 工事現場
    「美弥子ちゃん。私、なにか悪い事をしてしまったんでしょうか?」
     人気のない工事現場に差し掛かった所で、都が口火を切った。
     ――誰かが昔言ってくれた気がするのだ、妹はお前にとっての『箍』だと。だから傷つけたのならばきちりと詫びたい。
     ……好きで、いたいし……好きで、いて欲しい。
     ぴしり。
     其れをあざ笑うように、頭上で卵に罅が走る。
    「みやこさん」
     二人の名を口に沙月は眠りへ誘う風を招いた。
    (「……あの時、本当の意味では救えなかった」)
     腕に倒れ込んだ都を沙夜に渡し、忌まわしの力が満ちるのに唇を噛みしめながらも行使する覚悟を固める。
    「奪った物は返してもらう」
     虚手が伸びるのを石飾り連れた槍で弾き、渓は美弥子を抱き留めた。
    「任せてください」
    「こちらへ」
     白まわし姿の幸喜が受け取ったのを確認し、改めて沙夜は工事囲いの影へと呼び寄せる。
     一方卵を止めるよう渓は槍を翻し、螺旋。浸食するようにめり込み腕からは殻のような肉片がひたりひたりとちぎれ飛ぶ。
     渓への絆は『親近感』……恐らく美弥子は夢を見つけた時渓の姿を探すぐらいに、泡沫ながらも強い結びつき。
    「はなうたさん、おねーちゃん達の絆、一緒に守ろうね!」
     髪色シュガーピンクの花飾り揺らし、陽桜は思い切りよく卵から伸びた手数本を巻き込み地面へ叩きつけた。
    「……どう、効いてる?」
     シャルロッテは陽桜へ聞きながらも卵に浮かぶスートを見極めんと瞳を眇めた。
     卵に浮かぶスートはクラブ。学識、意思の強さ……美弥子が都へ抱いた憧れがそこにはあった。
    「手応えあるよ、効いてる!」
     沙月と陽桜に結ばれたのは『姉への好奇心』を軸にした絆。計らずも奪われた絆の欠片はまだ美弥子に眠っていると物語っている。
    「しゅーな姉、なっちんとささえるから思いっきりどうぞですよ」
    「ナノ!」
     弓を構え後方からのあどけない声を響かせるユークレースに、朱那は唇の端を持ち上げる。
     ……もちろん本当に姉妹ではないけれど、気持ちに嘘はない。
    「色んな気持ちの中で一等輝いてるのを大切にできれば、いいンだ!」
     太陽と月、朱那をモチーフに誂えられたworld of colorから目も眩むような炎が吹き上がる。
     朱那とユークレースに結ばれたのは『照れと微笑ましさ』――仲良き姉妹の姿は、美弥子の心を解き和ませた。

     卵は八人の灼滅者へ思うようにダメージを与えられず、苦戦していた。
     ユークレースの矢と朱那の踵……星で繋がる攻撃に続くは、陽桜のはなうたからの糸。続けて、縛霊手への苦さを押し殺した沙月が虚手を薙いだ。
    「7分経過」
     沙夜の怜悧な声と同時に灼滅者の腕で時計が振動する。
     嘶き逃げる先を探しふらつく卵、其の希望を叩き斬るように渓は地面から蹴り飛ばした。
    「悪しき人憑きダークネスは、絶対に赦しませんよ!」
     神事たる相撲を誇りに今まで邁進してきた幸喜は、四股踏む形で太もも叩き鍛えられた脚力で回り込む。
    「絆を返していただきます!」
     輝く掌で突っ張りべしべし! 幸喜が勝ち得た絆『友情』が炸裂だ!
     ベヘリタスから繰り出される闇を沙夜は容易く躱し、カウンターを入れるように手の甲に浮かべた盾で思う様殴り飛ばす。
    『好奇心、興味』……それが沙夜へ向かう美弥子からの絆。
     体には『軸』がある、それを亡くすとどんなに鍛えても身にならない。
     美弥子は『軸』たる感情を奪われて、虚ろになった――ならば、
    「……返してもらう」
     ストイックなシャルロッテの意思の力へ、美弥子が抱いたのは『尊敬』
     磨いた拳に渾身の力のせて殴れば、ベヘリタスは世界から消し飛んだ。

    ●18:22 絆
     シャルロッテに肩を叩かれて、双子は同時に目を覚ます。
    「怪我はありませんか?」
     昨日選んでもらった服を身につけた幸喜が、美弥子へ手をさしのべる。
    「コレが……本当の仕事」
     でも皆から美弥子へ向けた『絆』に偽りはないと、シャルロッテは添える。
    「二人とも無事でよかったの」
     陽桜は二人に向けて微笑む、わだかまりを解くきっかけになりますようにと。
    「家族だからこその大好きと大切もたくさんあるの。だから、喧嘩しちゃっても気持ちをちゃんと伝えあって欲しいな」
    「喧嘩……うん。なんだか私、お姉ちゃんにひどい事……」
    「その気持ち、伝えてみようよ」
     陽桜と一緒に勇気づけるよう沙月が続ける。
    「美弥子さん、お姉さんはあなたの味方です」
     ふと、美弥子は「そうだ」と手を打った。
    「お姉ちゃん、壊してしまいたい事って……」
     率直さに焦る沙月、だが都は悪戯っぽく苦笑し、
    「やだなぁ、話しちゃったんですか?」
     話を合わせるように継いだ。
     何処まで憶えているかはわからない、けれど、都が今幸せなのは伝わってくる。
    「やだ。私また変な事言っちゃった。謝らなきゃ、なのに」
     姉へ向けた無関心は、なんだか違う。
     でも。
     幼い頃のように憧憬のみではないのは、本音。
     悩み出した美弥子へ沙夜が静かに説きはじめる。
    「例えば物事の視点が変れば? 立ち位置は変らなくても違った風景が見えるハズ」
     美弥子が都を見たように、都も美弥子を見ていた。
    「自身を縛り付ける要因に自分自身も関っている、と気付けば、見えてくる物もあると思いますけどね」
    「えっと……」
     難しくてわからないと頭を傾ける美弥子の手を、姉が取る。
    「私は美弥子ちゃんってすごいって思うんですよ」
     既視感。
     ただ伸べられた想いをはね除け実らす事が出来なかった自分と妹は、違う。
    「知らない人とどんどん仲良くなれるから」
    「はい。出逢ったばかりの私の服選びも親身になってくださいました」
     すかさず頷く幸喜に都はどこか自慢げだ。
    「お姉ちゃんだって大人の友達がいっぱいいるじゃん!」
    「あんなの上辺です」
     しれっと切り捨てる姉にあっけに取られる妹。そこへユークレースは朱那の手を引き改めて問う。
    「ユルはおねえちゃんのこと、とっても大好きですよ♪ 美弥子はどう、ですか?」
     照れくさそうに笑うと、美弥子は「大好き」と唇を動かした。
    (「ああ、良かった。本当に」)
     遠目から、渓は絆を取り戻した二人を暖かく見守っていた。
     人付き合いに乾いた姉を救うのは妹、補い合う二人に戻せて良かったと。
    「ゴメン、一つ大きな嘘ついた」
     礼を言って去りかける姉妹へ、朱那はそっと添える。
    「あたし、お菓子作れないんだ」
    「?!」
     はてさて、ではあれを作ったのは誰なのか? 爽やかな謎を残し、灼滅者達は双子の前から去っていくのであった。

    作者:一縷野望 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年7月3日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 1
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ