●出会えた奇跡
ロード・ビスマスは泣いていた。
青い異形の身にはどこに目があるのか、そもそも目があるのかも分からないが、それでも泣いているのだと思った。
「何も言わずにコレを食いな」
そう言って差し出されたなめろうを一口食べる度に、美味しさだけではない温かいものが体を満たしていくのを感じる。
夢中になって食べ続け、気が付けば皿は綺麗に空になっていた。
あまりの美味しさに皿まで舐めてしまうという謂われに納得してしまう美味しさである。
「あなたはダークネスですよね? どうして私に親切にしてくれるんですか?」
空になった皿を手に、お手製のなめろうをふるまってくれた相手……なめろう怪人を見上げ、ロード・ビスマスが問いかければ、明瞭な答えが返ってくる。
「腹を空かせてる奴に、ご当地グルメを食わせるのは当たり前のことよ。隙あらばご当地グルメを振るまい、その美味しさを広め、ゆくゆくは日本全国と言わず世界すらこの味で征服する! それがご当地怪人の心意気ってやつさ。……それに、アンタの青光っぷりを見ちゃあ、なめろう怪人としては他人のような気がしなくてな」
青魚が主材料のなめろう怪人らしい理由だった。
「世界征服……。すごいです。私なんて、なんの目的も見つけられないのに……」
ロード・ビスマスの心に、なめろう怪人の言葉と心意気が染み渡る。
そして染み渡ったそれは奥底から沸き上がる震えとなってロード・ビスマスの心を突き動かした。
「そうだ! 私にもあなたのお手伝いをさせてくれませんか? あなたのご恩と心意気に報いたいのです」
ロード・ビスマスは空になった皿を両手で握りしめ、なめろう怪人へ訴えたのだった。
●動き始める鼓動
「捌く! 混ぜる! 叩く! ……ふぅ、なめろうとは奥が深いですね」
見よう見まねでなめろう作りに勤しんでいたロード・ビスマスは清々しい気分で、別に汗など滲んでいない額を拭う。
これまで明確な目的を持ってこなかったロード・ビスマスにとって、なめろうを作り、なめろうを広めるという行為はとてもやり甲斐のあることだった。
「なめろうは人を幸せにします。世界はなめろうによって征服された方が幸せなのです」
あの日、偶然にも出会ったなめろうと、なめろう怪人。
彼の崇高な使命のお手伝いを少しでもしたい。
その思いを胸に、今までにない充足感を味わいながら、ロード・ビスマスはまたアジとイワシの形を頑張って模した両腕の刃をかざして海へ向かう。
なめろうの材料を得る為……そして、なめろうを人々へ食べさせる為に。
「この青光る体に懸けて、なめろうをもっと広めてみせます!」
●その奇跡はいらなかった
「蓮咲・煉(錆色アプフェル・d04035)さんの調査により、新宿迷宮の戦いで行方不明になっていた、ロード・ビスマスの行方がわかったよ」
そう切り出した須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は、ペンの頭でこめかみを押さえつつ、経緯を説明する。
ロード・ビスマスは灼滅者達と別れた後、外道丸と合流しようとしたが、当の外道丸が灼滅された後だったので合流できず、あちこちを彷徨っていたらしい。
「それでお腹が空いて困っていた時に、なめろうを振る舞ってくれたご当地怪人に共感して、その手伝いを始めちゃったんだよ」
なんだそれは。
教室中にそんな空気が流れるが、まりんも似たような心境なのだろう。微妙に疲れた表情で事件についての詳細を語りだした。
「ロード・ビスマスは、なめろうの材料を手に入れる為に釣り人や個人の釣り船を狙って襲ってるの。今のところは釣った魚を奪われるだけで済んでるけど、近いうちに被害者も出てくるみたい」
そうして得た魚でなめろうを作っては、その辺の人間に無理矢理食べさせてもいるので、あまり看過できない事態だ。
ロード・ビスマスなりにご当地怪人っぽくあろうと頑張っているようだが、迷惑と被害をこのままにはしておけない。
「こんなことしてるけど、ロード・ビスマスは強敵だから、灼滅は難しいと思う。とりあえず、撃退できれば充分だよ。接触できるのはこの辺り……日中の海岸付近だね」
そう言ってまりんは、用意した地図の一点をペンの先で示した。
房総の一角、釣り人もよく訪れる海岸らしい。
まりんが予知した接触できるタイミングは、平日のお昼前後。
この時間なら漁師も殆どおらず、個人の釣り人も少ないから丁度いいだろう。
周辺は殆どがコンクリートで整地されている為、足場の心配もない。
「敵の攻撃手段なんだけど……頑張って、なめろう怪人の真似をしてるみたい。……あんまり意味はないんだけどね」
攻撃方法は以下のようなものらしい。
アジの形を模した刃で斬りつけてくる攻撃……簡単に言ってしまえばDMWセイバーのようなもの。
なめろうスプラッシュと言い張って何かを飛ばしてくる攻撃……簡単に言ってしまえばDESアシッドのようなもの。
イワシキャノンと言い張る光線攻撃……簡単に言ってしまえばDSPキャノンのようなもの。
あとはシャウトのような、自己回復サイキックを使ってくるようだ。
「……すごく頑張ってるみたいなんだけど、このままにしとくわけにもいかないし。皆よろしくね!」
残念臭がしても、ロード・ビスマスは灼滅は困難な程の強敵だ。
油断は禁物だよ、と最後にもう一度添えて、まりんは灼滅者達を送り出した。
参加者 | |
---|---|
七瀬・遊(烈火戦刃・d00822) |
西条・霧華(高校生殺人鬼・d01751) |
堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561) |
蓮咲・煉(錆色アプフェル・d04035) |
三和・悠仁(悪辣の道筋・d17133) |
八重沢・桜(泡沫ブロッサム・d17551) |
天倉・瑠璃(きこえたかい・d18032) |
サイラス・バートレット(ブルータル・d22214) |
●
「なめろーうは、しあわせのー味~♪」
調子外れの歌を歌いながら軽やかな足取りで港へ近づいてくる、人型の青い異形。見た目が少々痛々しいことになってはいたが、間違いなくロード・ビスマスだ。
彼なりになめろう怪人を真似たつもりなのか、頭部につけた上手く捻れてない捻り鉢巻と、画用紙を切ってホチキスで繋げて下手くそな字で『なめろう一番』と書いてあるタスキが、どことなく残念さと哀愁を誘う。
「なんや美味しいモンあるって聞いたけど、ウチらにもご馳走してもらえるん?」
カラフルなペイントが施された顔を傾け、堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)がなるべく穏やかにと心がけて声をかけると、ビスマスはようやく灼滅者達に気付いたのか驚いたように足を止めた。
「ビスマスさん、はじめまして……。みなさんを守れるようなヒーローを目指す、八重沢・桜です……」
八重沢・桜(泡沫ブロッサム・d17551)がヒーローの務めと名乗りをあげ、ぺこりと頭を下げる。
戦う覚悟はあるが、まずは話し合いをしたい――それが、この場に集った灼滅者達の意志だった。
「無事で……良かった。覚えてる?」
何事かと戸惑う様子のビスマスに、蓮咲・煉(錆色アプフェル・d04035)が前へ出て、以前別れ際にしたように握手を求めて右手を差し出す。
「あなたは……」
「あんたを利用しない人の所にいますようにって思って調べたら、本当にいたから……会いに来たんだ」
ビスマスは差し出された手と微笑を前に躊躇うそぶりを見せるも、結局は警戒するように一歩下がった。
「そんなこと言って、私も灼滅するつもりなんでしょう? ……外道丸さんみたいに」
ビスマスを新宿迷宮の乱戦から保護し逃がしたのは武蔵坂学園の灼滅者達だったが、ビスマスが慕っていた外道丸を灼滅したのもまた、武蔵坂学園の灼滅者。
あの戦いに関わり、思うところのある煉と桜が悲しそうに眉を下げるが、ただ悲しむ為にこの場に来たわけではない。
「わたし達のチームは灼滅する為ではなく、協力態勢を取りたいと、交渉する為に戦いました……。灼滅するためだけに戦っているのではないと、知っていただきたいです……」
いつもはつい小さな声になってしまう桜が、ビスマスの言を否定し自分の想いを届ける為に、できるかぎり大きな声ではっきりと訴えた。
「灼滅したのは、事実。でもね、それは決して、私達が灼滅者で外道丸がダークネスだったから、なんて理由じゃ、ないんだ」
続いて、三和・悠仁(悪辣の道筋・d17133)が小さな子供に言い聞かせるように、優しく諭すように、中には話し合って休戦したり武蔵坂学園と一部協力関係にあるダークネスがいることを説明する。
「思いの違いや時に応じて敵対するのは人同士であっても同じです。出来れば貴方ともそうありたいと思います」
悠仁の言葉を継いで、灼滅者は問答無用にダークネスを襲うことはないのだと説く西条・霧華(高校生殺人鬼・d01751)もまた、眼鏡の奥の眼差しは優しい。
外道丸は刺青を狙われており、保護や交渉が行える状態ではなかったのだという七瀬・遊(烈火戦刃・d00822)と煉の重ねての訴えに、ビスマスは一度、顔を伏せた。
「難しいことはよく分かりませんが、灼滅者にもいい人がいるのは分かってます」
やはりビスマスには、他のダークネス勢力との関係などはいまいちピンと来ないらしい。
外道丸のことで恨んでいるという様子もなく、ただ目の前の相手が怖い人かそうでないのかを気にして僅かに怯え、迷っているようだ。
ならばと、桜と煉が迎えるように再び手を差し伸べる。
「一度、学園へいらっしゃいませんか……? 自分の力を使ってもらうのではなく、自分がどう力を使いたいかを見出せるかもしれません」
「待ってるって言ったから、無理に連れてく気はない。あんた自身に選んで貰わなきゃ。……ただ、誰かの言葉じゃなく、自分で確かめてみない?」
ビスマスが狙われる危険がなくなったわけではないこと、武蔵坂学園を自分の目で確かめて欲しいと告げる二人が差し出した手を前に、ビスマスはが出した答えは――。
「いいえ。今の私は、ロード・なめろう・ビスマス。なめろう怪人さんの恩に報いる為、なめろうを広め、世界征服のお手伝いをすると誓ったのです!」
否、だった。
「目標も何もない私が、やっとお手伝いできることが見つかったんです。私のなめろうロードを阻むというのなら……怖いですけど、戦います!」
ビスマスの腕が変形し、鯵と鰯っぽいような形に変わる。
「力で制するなら力で抗うまで」
戦いの気配を感じ、即座に対応したのは朱那とサイラス・バートレット(ブルータル・d22214)の二人。
「……宿敵相手に言うのも変な話だがな。せめて自分の信念くらい持ちやがれ」
吐かれた言葉は突き放すものだが、鋭く細めた赤い瞳の奥にあるのは苛立ちだけではない。
「……最期までそれを貫いた外道丸くらいにはな」
「……!」
ビスマスが己の言葉に示した反応に舌打ちをしながら、サイラスは己の中に生まれる矛盾を振り払うように、戦闘音を遮断するESPを発動した。
●
迫り来る頑張って鯵に似せたのだろうブレードを、遊がクルセイドソードで受け止める。
長い刃は更に切り裂こうと斬撃を深くし、滑稽な形からは想像出来ないダメージを遊に与えた。
奥歯を噛みしめ耐える主を援護するようにライドキャリバーの八兵衛が突撃していき、別方向から朱那と桜が攻めていく中で煉は即座に癒やしの矢を放つが、追撃の分もあってか全てを癒やしきることはできない。
こんなでも強敵だと言ったエクスブレインの言葉を実感する。
守りを固めている遊でこれなら、他の者が集中して狙われれば危険だ。運が悪く急所に当たれば一撃で追い込まれることも有り得る。
だが彼らはここに灼滅する為にきたのではない。鯵セイバーの威力を目の当たりして表情を引き締めても、各々に意志ある瞳をビスマスへと向けていた。
跳ね飛び、高い位置から螺旋の動きで槍を放つのは、満を持しての登場となる天倉・瑠璃(きこえたかい・d18032)である。
「ビスマスちゃんよ。違う、ちげぇんだよ! 貴様はなめろう怪人から、その美味しさや素晴らしさを学んだんじゃないのか!?」
槍と同時に放つのは滔々とした説教だ。むしろこちらがメインのようである。
「征服って偏に言っても、やり方はたくさんあるんだ。まずは食材の調達方法だが、奪うんじゃあ駄目だ。頭を下げるなり手伝うなりして貰え。そして調理の楽しさ……は分かっているようだから先に進もう」
瑠璃は語る。槍を突き刺したまま、堂々と熱く。それが世界の当然の法則であるかのように、神々しくするらある様で。
料理というのは、食べる愉しさと食べさせる愉しさがあること。
前者を知ったビスマスは今、後者を行おうとしているが、そこに問題があること。
「いいか、無理矢理食わせてはいけない。無理矢理やられたら嫌になるだろう。無料で配るなりなんなりして食べてもらうんだ。そうすれば自然となめろうの噂は広がって『征服』できるだろ?」
「な、なるほど……!」
ビスマスよりも圧倒的に小さい体の瑠璃を、ビスマスは見上げるようにして拝聴し、感嘆の声をあげている。なんともお手軽な奴であった。
「その通り! なめろうは人を幸せにする。この房総の……いや、日本の魂の味と言っても過言では無い!」
感銘を受けた様子のビスマスに更にたたみかけるのは、なめろうを愛する千葉県民として黙ってはいられない遊である。
ご当地怪人ではなくとも地元民の熱い想いは伝わったらしく、ビスマスは同意を示すように何度も頷いていた。、
「しかし強引な広め方では、なめろうの魅力が伝わらず人々に嫌われる恐れがある。それはなめろうを愛するオレとしては放っておけないんだよな」
「君は、そんなことをされたのかな?」
「あなたがしていただいたように、好意的に召し上がっていただいた方が、広まると思うのです……」
続けられた悠仁と桜の言葉にも感ずるところがあったのだろう、ビスマスは確かにそうかもしれないと項垂れる。
「でも……ご当地怪人じゃない私には、無理矢理でもなければ食べてもらえないんです……! 何の目的もなく、ご当地怪人にもなれない私には、こうするしか……っ」
だがそれは叶わぬことだと嘆いて己に刺さった槍を抜くと、ビスマスは迷いよ消えよとばかりに、イワシキャノンを瑠璃に向けて放った。
小さな体が吹き飛び、地面に叩き付けられる寸前で主の命に従って動いた八兵衛がそれを掬い上げる。
更なる追撃をさせぬ為、フォローに当たるのは霧華と悠仁。
眼鏡と共に儚げな微笑すらも取り払い無表情となった霧華の剣は正確無比。狙い澄ました集中から放たれる斬撃は敵の意よりも己の意よりも先を知るかのように死角から斬りつける。
「目的と言いますけれど、貴方はどうなりたいのですか?」
斬撃の狭間、その過程や結果がもたらす全てに責任を持つ覚悟があるのかと問い、もっと広い視野を持たねば利用されるだけになると説いた。
その逆側からは悠仁がビスマスの動きを抑える為に霊力の網を放ち、丁寧に穏やかに言い聞かせる。
強敵故に気は抜けないが、子供のように善悪の区別がつかないだけで悪い子だとは思えず、灼滅したいと思えなかったから。
「本当に君自身がやりたいことがなめろうの普及なら、それでもいいと思う。でも、もしよくわからないなら、一緒に考えてみるのもいいかもしれないよ」
朱那もまた攻防の中で声をかけるが、それはビスマスの考えを探る為でもあった。
「力尽くで押し付ける事が『良い事』なンかな? ……じゃあ、君にとっての『悪い事』は?」
目的が見付からない不安や恩に報いたい気持ちには同意を示した上で問う。
「君の力で出来る『良い事』を自分で考える、てのも一つの目標にならナイ?」
真摯な問いかけだった。しかしビスマスには少し難しかったのか、戸惑った様子。
「悪い事は、怖い事です。力尽くは……駄目かもしれませんが、なめろうは、良い事です。だから今はこれが、私ができる良い事です!」
最初は辿々しい言葉だったが、徐々になめろうの美味しさに勇気を得てか、最後は言い切った。
幾つかの言葉は彼に届き心に響いたようで、時折躊躇う様子があるものの、やはり今のビスマスの心はなめろう怪人にあるらしい。
「……ビスマス」
なめろうスプラッシュを放ってくるビスマスを見遣る煉の表情は悲しげだ。
灼滅したいわけではなくとも、彼の凶行は止めねばならない。
確実に当てることと火力を重視した作戦は着実にビスマスにダメージを与えている筈だが、それまでこちらが保つかどうかは微妙なところだった。
比較的耐えられていた遊も仲間を庇った為にダメージが大きい。彼の八兵衛もまた霧華を庇って倒れていたし、瑠璃は一撃目の深傷と毒の上に二撃目をくらい、気力だけで立っている状態だ。
そんな焦燥の中で煉が見つめる先で――ビスマスの青い体を、よく似た青色の巨大な刃が切り裂いていく。
「そうは言ってもな、あちこちフラフラしてたんじゃ、そのうちボロ雑巾みてぇに使い潰されるぞ、テメェ」
愛用の鞭剣を飲み込ませた為にうっすらと赤い龍の文様が浮かぶ刃を更に深く斬り込ませていくサイラスの表情は苦々しい。
それはビスマスにではなく、宿敵であるデモノイド相手に助言めいたことを告げる不可解な自分に対してのもの。
確かにビスマスは見るからにアホでツッコミ所も満載だが、宿敵だ。
都合のいい道具として狙われている境遇を、自分と重ねて同情を覚えたのだろうか。
自分でも理解できない感情をぶつけるように、狙い澄まして斬りつけた刃を全力をこめて振り切る。
「誰を真似ようが、テメェはロード・ビスマス。それ以外にはなれねぇんだよ……!」
「……ッ!!」
肩から胸元にかけて袈裟懸けに切り裂かれ、ビスマスは大きくよろめいた。
だがそれは傷の大きさのせいだけではないようにも見える。
「……そう、ですね。私は……ロード・ビスマスですもんね……」
切り裂かれて地面に落ちた手作りの紙タスキの残骸を見つめ、ビスマスはぽつりと呟きを落とした。
鯵と鰯の形を模していた腕も元に戻り、戦意がなくなったことを見てとった灼滅者達もまた警戒しつつも攻撃の手を止める。
灼滅者達が見守る中、ビスマスはバッと顔をあげると、清々しい様子で、言った。
「誰かを真似るのではなく、私は私なりに……なめろうを広めていこうと思います!」
「え、そっち?」
満身創痍ながらも黙っていられずにツッコミを入れる瑠璃。
「それでは皆さん、失礼致します。……あ、これ私の作ったなめろう、よかったら食べてください」
そして何やら一人で納得し結論を出したビスマスは、一皿のなめろうを置いて意気揚々と去って行ったのだった。
●
ともあれ灼滅者達の言葉はある程度ビスマスに届き、少なくとも今回の迷惑行為はやめる気になったようである。
どこまでなめろうに本気なのかは微妙なところで、また優しくされればホイホイついていってしまいそうな危なっかしさはあるが、灼滅者達に対して険悪な感情を引きずっている様子もない。
ビスマスの背を見送りながら、眼鏡を再びかけ直した霧華は思う。
例え今は真に友好を結べなかったとしても、幾つかの前例があるように、不可能なことではない。
(「未来に可能性を残せるのなら……」)
その道を信じようと。
「今日の敵は明日の友……とも、言うのですよ?」
「またね」
桜と悠仁もまた次を信じて手を振り、煉もいつか敵としてではなく訪れてくれることを願って青い背中に声をかける。
「校内見学、希望してくれるなら、いつでも案内するよ……」
「自分で考える、てことが出来るようになればいいンだけどね」
少しでも自分達の言葉が届いていればいいと願いながら朱那は軽く肩を竦め、サイラスは途中で無理に引きはがすように去って行く背中から視線を逸らした。
そして遊は、美味しい物を分かち合う喜びを知っているならわかり合えることもあると希望を抱き、置いていかれたなめろうの皿を手にとって、食べる。
そういえば、見よう見まねで作っているというような話だったことを思い出したのは、既になめろうを口に入れた後のこと。
「……マズイ」
案の定、なめろうを冒涜しているとしか思えない味わいに遊は沈痛な面持ちで感想を述べ――ビスマスの凶行を止めることが出来て本当に良かったと心から思うのだった。
作者:江戸川壱号 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年6月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 8/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 65
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