埼玉ぎょうざ怪人危機一髪!?

    作者:飛翔優

    ●埼玉ぎょうざにもロードローラーだッ
     埼玉県坂戸市。埼玉県や東京都を軸に全国へと手を広げ始めた、餃子を主軸に中華料理を扱う外食チェーンの本社がある街。
     餃子を世界へと広めるため日々活動を行っていたご当地怪人、埼玉ぎょうざ怪人が絶体絶命の危機に陥っていた。
    「ぐ……貴様、何が目的だシュウ!」
    「~♪」
     逃げる埼玉ぎょうざ怪人の背後には黄色いボディのロードローラー。六六六人衆二八八位ロードローラーの分身体。その圧倒的な質量から逃れる術など存在しない。
    「な、なんでこんな奴に追われなきゃならないシュウ。聞いてないシュウよ! あっ」
     埼玉ぎょうざ怪人は逃げ惑った果て、ぎょうざ工場裏手の通りへと辿り着いた時に転んでしまった。
    「し、しまったシュウ」
    「~♪」
     速度を上げ、ロードローラーは踏み潰す。
     埼玉ぎょうざ怪人を。何が目的化など語らぬまま……。

    ●夕暮れ時の教室にて
     灼滅者たちを出迎えた倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は、挨拶を交わした後に説明を開始した。
    「謎に包まれた六六六人衆???が動いたようです」
     ???は得意な才能を持つ外法院ウツロギを闇堕ちさせ、分裂という稀有な特性を持つ六六六人衆を生み出した。
     その六六六人衆こそ、序列二八八位ロードローラー。
     二八八位の序列はクリスマス爆破男が灼滅された後、空席となっていたのだが、得意な才能を持つ六六六人衆の誕生により、その空席が埋まったのだと思われる。
    「ロードローラーは分裂により日本各地に散り、次々と事件を起こそうとしています。皆さんには、この分裂したロードローラーの起こす事件を解決して欲しいんです」
     概要説明はここで終わりと、葉月は地図を広げていく。
    「皆さんに向かってもらうのは、埼玉県坂戸市。時間帯的にはお昼すぎになるでしょうか」
     具体的な場所は、と、葉月はとある工場裏の通りを指し示した。
    「この場所で待ち構えていれば、ロードローラーはやって来ます。……ご当地怪人、埼玉ぎょうざ怪人を追い回しながら」
     何が目的かは分からないが、ロードローラーは埼玉ぎょうざ怪人をぺしゃんこにするために追い回している様子。故に……。
    「上手く交渉できれば、埼玉ぎょうざ怪人と共闘できるかと思われます。成功すれば、戦いは大分楽になりますね」
     件の埼玉ぎょうざ怪人。ぎょうざ頭を持つ人型といった姿をしており、力量は灼滅者八人が万全の状態ならば十分に倒せる程度の力量を持つ。技は防具を破壊するぎょうざパンチ、加護を砕くぎょうざキック、勢いを弱めるぎょうざを食わせるぎょうざスロー、の三種となっている。
     一方、ロードローラーの力量は灼滅者八人が万全の状態で挑んで倒せるか否か、と言った力量。
     威力を高めることに意識を咲いており、威圧感のある轢き潰し、ローラーを回転させながらの押しつぶし、のんきに道を舗装することにより毒などを浄化し傷を癒やす……と言った技を使い分けてくる。
    「以上で説明を終了します」
     地図などを手渡し、葉月は静かな息を吐く。
    「先程も言いましたが、ロードローラーが埼玉ぎょうざ怪人を狙う理由はわかりません。しかし、ダークネス同士の戦いに介入する事で漁夫の利を得ることができるかもしれません」
     ですので、と、葉月は締めくくる。
    「ロードローラー撃破後、余力があれば、埼玉ぎょうざ怪人も灼滅する事ができるかもしれません。皆さんの状態によって、その辺りの判断をお願いします。そして、何よりも無事に帰って来て下さいね? 約束ですよ?」


    参加者
    鏡水・織歌(エヴェイユの翅・d01662)
    桜川・るりか(虹追い・d02990)
    富山・良太(ほんのーじのへん・d18057)
    菊水・靜(ディエスイレ・d19339)
    メリッサ・マリンスノー(ロストウィッチ・d20856)
    アイリスエル・ローゼスフォルト(戦場のマエストロ・d22427)
    稲荷・九白(気がつけば食いしん坊キャラ・d24385)
    左藤・大郎(撫子咲き誇る豊穣の地・d25302)

    ■リプレイ

    ●利害の一致
     皮はパリっと、中は旨味の染みた肉汁がじゅわぁ。
     あるいはプリっと、噛めばみずみずしくもほろりと崩れるあんこが広がっていく。
     醤油にラー油、酢にポン酢……好みの調味料で味を足し、心ゆくまで楽しむ白い奴。それが、餃子。
    「……いけません、本格的に食べたくなってきました……おや」
     お昼すぎ、ぎょうざの匂いが香ってくるような錯覚を覚える埼玉県坂戸市ぎょうざ工場近くの裏通り。仲間たちと共に歩いていた稲荷・九白(気がつけば食いしん坊キャラ・d24385)は、口の端を拭いながら視線を正面へと向けていく。
     地平線の彼方から、ぎょうざ頭のご当地怪人、埼玉ぎょうざ怪人がほうほうの体で駆けて来る姿があった。その背後には、鼻歌交じりにエンジン音を唸らせる六六六人衆の二八八位ロードローラーの姿もある。
     九白は気を引き締めながら、埼玉ぎょうざ怪人を指し示した。
    「餃子を食べに来たら詳しそうなヒト……じゃなくて怪人を見つけてしまいました」
     灼滅者たちは予定通り埼玉ぎょうざ怪人へと歩み寄り、何がなんだか分からないけれど……との前置きをした上で共闘を申し出る。
    「……ど、どういうことだシュウ」
     疑問に対し、桜川・るりか(虹追い・d02990)が応対した。
    「ちょうど餃子を食べに来たところだし……それに、貴重な食べ物がつぶれるのを見るのってしのびないもん」
    「勘違いしないでください。僕らは美味しい餃子を食べに来ただけです。そう、ココ、埼玉の美味しい餃子をね!」
     続いて左藤・大郎(撫子咲き誇る豊穣の地・d25302)が声を上げ、ロードローラーへと向き直る。
     実際、美味しい餃子を食べに来たという想いには、概ね所で嘘はない。ロードローラーを撃破したいという想いも本物だ。
     それでもなお訝しげな視線を向けてくる埼玉ぎょうざ怪人に、続いて富山・良太(ほんのーじのへん・d18057)が声をかけた。
    「そうですね。では、共闘の代わりに美味しい餃子を食べさせてください。悪くない取引でしょう?」
    「……確かに悪くない取引きだシュウ。信用し切るわけにはいかないでシュウが……」
     疑いながらの言葉に了承の意を感じ取り、良太は改めてロードローラーへと視線を向けた。
    「狂った機械は壊されるのが運命です。大人しく壊れてください」
    「~♪」
    「困ってる奴はほっとけないたちでね。それにあいつはこちらにとって仇敵に等しいんだ」
     アイリスエル・ローゼスフォルト(戦場のマエストロ・d22427)が、ロードローラーと戦う積極的な理由を付け加え、スレイヤーカードを取り出していく。
    「雷光の如き苛烈さを!」
     空に投げると共に雷光が走り、アイリスエルへと戦うための武装をもたらした。
     灼滅者たちは埼玉ぎょうざ怪人と肩を並べ、鼻歌混じりの黄色いボディに立ち向かう……。

    ●共闘の契り、真なる信頼
     共闘の契りは交わしたものの、現段階では信頼関係などない間柄。メリッサ・マリンスノー(ロストウィッチ・d20856)は埼玉ぎょうざ怪人をちらりと長め、灼滅者側への警戒も途切れさせていないだろうことを感じ取った。
     さりとて、現段階では働きかけるような事もない。もしも裏切るようならば灼滅すれば良いと思考しながら、鋭き爪を持つ篭手を虚空に振り下ろす。
     発生した風刃の後を追い、鏡水・織歌(エヴェイユの翅・d01662)が駆け出した。
    「埼玉のぎょうざが美味いって聞いたから来たのに、まさかこんなのに遭遇するなんてナ」
     シールドを展開しながら加速し、手が届く距離に到達すると共に跳躍。全体重を乗せた突撃を、ロードローラー正面にかまして行く。
    「ヨォ、偽物。潰しにきたゼ!」
    「~♪」
     鼻歌交じりに弾かれるも、問題無いと口の端を持ち上げ着地する。
     エンジン音を唸らせ突撃してきた車体を、シールドを前回にして真正面から受け止めた。
    「ロードローラーに正面からぶち当たるのも悪くねぇってか!」
     一歩、二歩と身を引きながらも、正面からはどかずにロードローラーを抑え込む。
     しばらく、他へと攻撃が飛んでくる気配はない。落ち着いた足取りで、菊水・靜(ディエスイレ・d19339)は側面へと回り込んだ。
    「辛い役目を引き受けてくれて、感謝する」
     礼に対し勝ち気な笑みを受け取りながら、靜は肥大化させた腕で殴りかかる。
     車体が大きく揺らいだ時、ロードローラーはエンジン音を弱めて後方へと飛び退った。

     数の上では九対一。しかし、埼玉ぎょうざ怪人は灼滅者たちからは独立する形で動いており、連携などはまるでない。
     足し算では抗えぬとでも言うかのように、ロードローラーは車体を僅かに収縮させて遥かな空へと飛び上がった。
     落下してきた車体を跳ね除けた織歌が、バランスを崩して転んでしまう。
     相当量の衝撃を受けたのだろうと、良太が澄み切った大気を送り込んだ。
    「全力で支えていきます。このロードローラーには、美味しい餃子の為に犠牲になってもらわなければなりませんから」
     続いてビハインドの中君を前線へと向かわせた。
     中君が得物を叩きつけた中、アイリスエルが指揮棒に魔力を込めながら口を開く。
    「それにしても、重機か人かダークネスかはっきりして欲しいものね。まあ、化け物だと思えば躊躇なく処理できるから戦う側としては有難いけどっ」
     言葉の終わりに跳び上がり、指揮棒を天へと掲げていく。
    「いくよ! 組曲カルタゴから……」
     ロードローラー正面上部に存在する頭へと、思いっきり振り下ろす。
    「バルカの意志!」
     ぶち当てるとともに魔力を爆発させ、車体を大きく揺るがした。
     動きも止まっていると判断し、るりかが後方へと回りこんでいく。
    「……」
     槍の穂先に炎を宿す中、抱く思いはロードローラーの行動。
     なぜ、ぎょうざ怪人を狙うのか。別の黄色い分身も倒したけれど、もしかして実はぎょうざが嫌いだったりするのだろうか。
    「……あんなに美味しいのに」
     小さくお腹を鳴らしながら、震える巨体の背中に炎の穂先を突き出していく。
     炎上するロードローラーはエンジン音を唸らせ強引に灼滅者たちを振りきった。
     向かう先には、ジャンプするためにしゃがみ込んでいた埼玉ぎょうざ怪人。
    「シュウ!」
     真正面から受け止めると手を伸ばした時、九白が間に割り込んだ。
    「シュウ!?」
    「怪人さん危ない!」
     埼玉ぎょうざ怪人が驚きの声を上げる中、九白はシールドを全開にしてロードローラーが進む事を封じていく。
     一秒、二秒と九白は下がる事を余儀なくされているけれど、すでに、埼玉ぎょうざ怪人は進路にはいない。
    「受けるシュウ! ぎょうざキック!」
     九白を飛び越えロードローラーの脳天へと、蹴りを叩き込んでいた。
     たまらなくなったかロードローラーが再び飛び退った時、九白は安堵の息を吐き出していく。
    「良かったです。美味しい埼玉ぎょうざを教えてもらうまでは倒れてもらうわけにはいきませんからね」
    「シュウ……」
     感銘を受けたか、埼玉ぎょうざ怪人は立ち止まる。
     静かな息を吐いた後、灼滅者たちに向かって一礼した。
    「お前たちの気持ち、受け取ったシュウ。改めて、共闘を申し出たいシュウ」
     今度は、信頼からの共闘を。
     靜が落ち着いた調子で返答した。
    「何、旨い店を教えてくれればいい、ただそれだけだ」
     契りを結ぶとともに駆け出して、青く塗装されている細身の杖を振りかぶる。
     ロードローラーの側面へとぶち当てて、爆発する魔力にて車体に亀裂を生み出した。

     数に直して九対一。
     九の内一つは、ロードローラーに劣るとしても相当以上の実力を持つダークネス。本格的な連携が始まれば、元より不利だったロードローラー側に抗う術は殆ど無い。
     それでなお抗わんというのか、ロードローラーは再び飛び上がる。
     落ちてきたロードローラーを、靜は橙色に輝くオーラを全開にし、体の軸をずらして受け流した。
    「それでは、こちらの番だ」
     大きな音を立てているロードローラーに向き直り、拳にオーラを宿していく。
    「喰ろうて見よ」
     向き直る勢いを載せて殴りかかり、一撃、二撃と閃光のごとく刻み始めた。
     さらなる斬撃が、炎で攻めていくも、ロードローラーは強引に引き剥がす形で進軍した。
     進路には再び埼玉ぎょうざ怪人。
    「ここは任せるでシュウ!」
    「わかったわ!」
     両腕に力を入れて正面から抑えにかかった埼玉ぎょうざ怪人の背後にて、アイリスエルはエアシューズのローラー部分をこすっていく。
     激しき熱を宿した後、埼玉ぎょうざ怪人の頭上を飛び越える形で蹴りかかった。
     ロードローラーがさらなる炎に包まれていく中、大郎は手元に光輪を引き寄せた。
    「美味しい餃子を食べに行く為にも、一人足りとも欠けさせたりはしません!」
     勢いのまま埼玉ぎょうざ怪人へと投げ渡し、守りの加護をも分け与えた。
     数々のサポートに攻めきれぬと感じたか、ロードローラーが再び飛び退る。
    「……当てる」
     後を追うように、メリッサが魔力の矢の束を遥かな空へと解き放った。
     頂点へと達した後、魔力の矢はロードローラーに向かって雨のように降り注ぐ。
     硬質な音を響かせながらも、一つ、二つと、鋼の肉体に新たな穴が穿たれていく。
     塞ぐためか、ロードローラーが道の舗装をし始めた。
    「……にがさない」
     いくら傷を塞いでも切り裂くと、メリッサは篭手を虚空に向かって振り下ろす。
     生じた風の刃が車体を切り裂き、修復不可能なほどの深い亀裂を生み出した。
     亀裂の中こそが弱点だと、織歌が矢を放つ。
     内部へと入り込み、黄色い車体を大きく激しく震わせた。
    「今だ! 解体しちまえぇ!」
    「これで、仕留める……!」
     満足に動けぬ車体に靜が歩み寄り、腕を肥大化させていく。
     亀裂にめがけて振り下ろし、奥の奥まで打ち破った。
    「~♪」
     なおも鼻歌を歌いながら、ロードローラーは砕け散る。破片は瞬く間に砂となり、風に運ばれ消え去った。
     靜は小さな息を吐いた後、埼玉ぎょうざ怪人へと向き直る。
     戦意はない。ただただ快活な笑みを浮かべ、灼滅者たちを見つめていた……。

    ●埼玉ぎょうざの旅路へと
     治療などの事後処理が済んだ後、野性的に最前線を貼り続けていた織歌はヘッドホンをかけ直した。
    「みんな、お疲れ様」
    「お疲れ様! 無事に終わって何よりです。さて……」
     次はぎょうざだと、九白が埼玉ぎょうざ怪人へと向き直った。
     いち早くるりかが歩み寄り、瞳をキラキラと輝かせながらねだっていく。
    「どうか、餃子を下さい! 埼玉の餃子ってどんなのだろうって、わくわくしていたんです!」
    「……すまないシュウ。持ち合わせはないんだシュウ。その代わり、この場所に行けばお店があるんだシュウ! そこで食べるといいシュウよ!」
     埼玉ぎょうざ怪人が差し出してきた地図を眺め、大郎が声を上げていく。
    「ほう、それが埼玉ぎょうざの美味しいお店なんですね! 埼玉ぎょうざ怪人もどうです? 共に戦ったモノ同士、仲良く餃子を食べに行きましょう」
     心からの提案に、埼玉ぎょうざ怪人は首を横に振った。
    「申し訳ないシュウ。まだまだ今日もやらなきゃならないことがあるんだシュウ。それに……次会った時、きっと辛くなるんだシュウ」
     悲しげに目を伏せた後、埼玉ぎょうざ怪人は笑っていく。
    「いや、何でもないんだシュウ。とにかく、楽しく食べていくといいシュウよ」
     どこか寂しげな調子を受け取りながら、メリッサは小さく頷いた。
    「……わかった。それは、それとして……なんで、ぎょうざの怪人なのに、語尾がシュウなの……?」
     ついでとばかりに問いかければ、埼玉ぎょうざ怪人はニヤリと笑う。
    「店の名前の一部だシュウ。詳しくは調べて欲しいんだシュウ! それではさらばだシュウ!」
     返事とともに背中を向け、ぎょうざ工場裏手の通りから立ち去った。
     小さくなっていく背中を眺めながら、良太は小さな言葉を口にする。
    「……早く本体を探さないと」
     それは、各地で活動を続けているロードローラーに対する切なる思い。
     心の中に宿したまま、灼滅者たちは埼玉ぎょうざへと洒落こんでいく……。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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