りんねの誕生日~初夏の花火と音楽と誕生日

    作者:黒柴好人

    「あれ?」
     ある日、観澄・りんね(高校生サウンドソルジャー・dn0007)は教室の自分の机の中に見知らぬ封筒が入っている事に気が付いた。
     差出人の名前の無い怪しい封書だが、『観澄りんね様へ』としたためられているため、自分宛てには違いない。
     疑問に思ったのは一瞬で、りんねは軽快に封を切った。
    「ふむふむ。え、魔神生徒会の人からのお手紙?」
     中の手紙には魔神生徒会の風紀を名乗る――本名は記されていないが――謎の人物が差し出し主である事が綴られていた。
     文体や筆跡を見るに、男子生徒であろうが……それ以上の情報はわからない。
     魔神生徒会だから仕方ないね。
    「風紀って、私、何かやっちゃったかな。あっ、テストの点が悪すぎてとうとう魔神生徒会が動いた、とか!? 待って待って、良い点も取ってるよ!」
     確かにりんねのはちゃめちゃな勉強方法と散々なテスト結果を見れば魔神生徒会は勿論、校長も説教を辞さないだろうとは思う。
     誰へともない言い訳に近くにいた級友にどうしたのかと尋ねられ、慌てて「なんでもないよ!」と誤魔化しながら再び手紙へと目を落とす。
    「えっと、私の16歳の誕生日を祝って……えっ?」
     慎重に読み進めて見ると、どうやら魔神生徒会の風紀がりんねの誕生日を祝福し、バースデーパーティーを企画したのだという。
     そのための場所の確保も行い、また必要であれば何らかの手段を使って参加者の募集の手伝いをも行ってくれるとか。
    「もうすぐ私の誕生日だっけ。わざわざお祝いしてくれるなんて、嬉しいなぁ」
     顔を綻ばせるりんねは、具体的なパーティーの内容へと目を移す。
    「5月28日は花火の日、なんだ。それにちなんで花火でもどうか、と。へぇー、7月とか8月とかじゃないんだね」
     1733年の両国川開きで両国の料理屋が花火を上げた日が旧暦の5月28日であり、それを元に制定されたようだ。
     ちなみに8月1日も花火の日だとか。閑話休題。
     流石に盛大に打ち上げ花火を――というわけにはいかないが、夕闇の中市販の花火を楽しみ、夏を先取りするのも楽しそうだ。
     それに加え、音楽ともコラボレーションできればまた最高だろう。
    「よし、こうしちゃいられないよ! 私も花火を用意したり一緒に楽しんでくれる人を探さないとねっ!」
     決意を胸に、りんねは立ち上がった。まずは廊下に出ねば!
     同時に教室の扉が開いた。
     扉を開いた教師とバッチリ視線が交差する。
    「先生」
     りんねは真剣な面持ちで口を開いた。
    「休み時間、もう少し長くならないかな?」
     怒られました。


    ■リプレイ

    ●誕生日!
     夕方になると涼しい風が心地良い武蔵坂学園の中庭で。
    「「「誕生日おめでとう、リンネ!!」」」
     クラッカーの豪快な破裂音と共に『食べ歩き同好会』の面々が用意していたケーキをご開帳。
    「わあっ、ありがとう!」
     彼らが用意したケーキはロウソクの代わりに花火がパチパチと爆ぜており、そこに目が行きがちだがデコレーションも綺麗で実に丁寧に作られている事が分かる。
    「俺のハニーが腕に縒りを掛けたから、味は保証するぜ!」
     親指を立てる流に、りんねは首を傾げる。
    「ハニー?」
    「キノの事だよ。お母さん系男子って呼ばれていてね、家事……特に料理が得意なんだ」
     俺も手伝ったから気に入って貰えると嬉しい、とレンツォは笑顔を見せる。
    「絶対においしいから遠慮しないで食べちゃって」
     肩に担いでいた巨大なシャンパンボトルの形をしたクラッカーを下ろし、蜜は皿に取り分けたケーキをりんねに手渡した。
    「それじゃ、いただきまーす! ……んん~、おいし♪」
    「りんね。あまいケーキに、薫り高い紅茶はどうか、な?」
    「あらためておめでとうございます! クマ之介もおめでとうって言ってます。これはぼくとニーナさんからのプレゼントです!」
     とろけるような顔でケーキを食べるりんねに、スヴェンニーナと遥は紅茶を差し出す。
    「2人ともありがとね! クマ之介も、ねっ」
     既に丁度良い温度で淹れてあり、カップからは上品な香りが漂う。遥が抱えるクマのぬいぐるみに手を振りながらそれを受け取り、りんねはゆっくりと口を付けた。
     瞬間、目を見開いた。
    「こ、これはっ」
    「もしかして、銘柄とかわかる、の?」
    「ううん、素敵な紅茶だね!」
     ともあれ特製のケーキに紅茶は最高の組み合わせだという事は間違いない。
    「私もチーズケーキとヨーグルトケーキを用意してみました。たくさんあるので、良かったら皆さんでどうぞ♪」
     翡翠の声に、周囲の仲間たちが集まってきた。
     ケーキは1口サイズになっており、手軽に味を楽しむ事ができる。
    「ありがとう、翡翠さん! 私がよく食べる物、覚えててくれたんだねっ」
     りんねは翡翠から渡されたケーキを嬉しそうに口にした。
    「はい。どうでしょうか……?」
    「うん、どっちも私好みな感じかも! 口の中が幸せっ」
    「それはよかったです♪」
     ケーキでエネルギーをばっちり充填し、パーティーはいよいよメインイベントを迎える。
    「りんねさん、お誕生日おめでとうございますっ♪」
    「リュシールちゃん、ありがと!」
     演奏用ステージに上がったりんねに、リュシールが花束を手渡した。
     少し屈んで受け取ったりんねの側頭部に顔を近付けたリュシールは「テストにお悩みのようですけど」と前置くと、
    「その……りんねさん。お勉強内容をまとめて歌詞にして歌ってみる、というのはどうですか?」
     小声でこっそり勉強方法についての提案をしてみる。
    「なるほどー。でも、テスト中に歌うと怒られない?」
    「声に出さなければいいのでは……?」
    「!」
     頃合いを見て、寛子は両手を振って注目を集めた。
    「じゃあ今年も演奏いってみるの~! まずはハッピーハードコアをガンガン回していくの!」
     お馴染みのDJブースを設置し、ノリの良い曲をセレクトしてプレイしていく寛子。
     夕暮れ、屋外、そして大迫力のサウンド。さながら夜通し音楽とダンスで盛り上がり続けるレイヴパーティーのようだ。
    「寛子さん! 後でオリジナルミックスのCDも聴くねー!」
     負けじとギターを振り上げ、音を弾き出す。
    「りんねさん、一緒にいいかしら?」
    「アリスさん! もちろん!」
    「ありがとう。さあみんな、盛り上がっていきましょう!」
     アリスが両手に持つ眩く色鮮やかな光を放つ花火は薄暗い夕闇を切り裂き、白い軌跡を残していく。
     軌跡はりんねのギターに合わせて弧を描き、ひとつのステージを完成させる。
    「ピック、早速使ってくれているようね」
    「うん、これ手に馴染んでいいかも!」
     りんねが今使っているギターピックは、ステージに上る前にアリスがプレゼントしていたものだったのだ。
     ストラップホールが開いており、ペンダントとしても使えるのがまたニクい。
    「みんなでワイワイ騒ぐのっていいよな! よし、俺も祝砲っぽく派手にいくか!」
     雄一はいくつか束にした打ち上げ花火を担ぎ(灼滅者だから大丈夫であって、よい子は真似してはいけないぞ)一気に着火。
     豪快な音と共にカラフルな閃光が辺りを包み込んだ。
    「しっかし、楽器って楽しそうだな」
    「なら一緒に演奏しようよっ!」
     雄一の呟きが聞こえていたらしいりんねがひょっこりと顔を出す。
    「やってみたいとは思うが、いきなり演奏できる楽器ってあるのか?」
    「そうだね――あっ、あれなら!」
     ふと目についたのは律とシャルロッテの2人。
    「って、歌うの俺っ? 無理だって!」
    「下手だっていいんデス。楽しく歌えば素敵な時間になりマスカラ!」
    「いやいや、だったらマラカス振って先輩の後ろで変な踊りでも踊っていた方が――」
     何やらゴタゴタしているようだが、りんねは律が持つマラカスに注目したのだ。
    「あ、りんねさんおめでとうデス!」
    「観澄サンおめでとー、そして助けて! 先輩にハモれるのはアナタしか!」
    「事情はわかったよ。とりあえずマラカス余ってたら貸してくれるかな」
     律からマラカスを入手したりんねはそれを雄一と律に分配する。
    「よしっ、歌って踊って振ろう!」
    「って状況悪化したー!」
    「さぁ、一緒に楽しむデス!」
     シャルロッテをメインボーカルとして、しばし歌ったり踊ったり、律たちは半ばヤケ気味でマラカスを振ってみたり。
    「こういうのもええもんやね。バラバラのようで、でも一体感がある言うかな……なあ伊澄?」
    「そーねぇ夕霧ちゃん」
     彼らのステージをリズムを取りながら眺めていた夕霧が、彼女にしては珍しく上機嫌な笑顔で一緒に来た伊澄の方へ振り返ると、
    「一緒に歌ってきたらどうかしら? あたしも伴奏入れるから」
    「そうそう、一緒に歌って……はあ!?」
     伊澄はシンセサイザーを構えていた。
     まさかの無茶ぶり!
    「わ、私が歌うん!? む、むりむりこんな人前で歌った事――」
    「だめだめ、恥ずかしがってちゃせっかくの声が聞こえないじゃない?」
     ちらりと視線をステージに向ける伊澄。
     そこには楽しそうに歌う少女たちがいて、見ている側も盛り上がっていて……だからこそ、夕霧は二の足を踏む。
    「そ、そんないきなり……」
    「きっと楽しいから。ね、夕霧ちゃん?」
    「……っ! 後で覚えときや、もう!」
     声が震えたり顔から火が出そうになるが、しかしここで引き下がるのも癪。
     伊澄に睨みを効かせてから深呼吸し、夕霧は歌の輪へと飛び込んだ。
     送り出した伊澄も夕霧がシャルロッテやりんねと肩を並べて歌い出したのを見て、流れを崩さないリズムを模索し奏でていく。
     間奏に入った所でシャルロッテはあるものを取り出した。
    「ここで花火を投入デスヨー!」
    「……だーかーら! 二刀流は危ないって!」
    「おっト?」
     両手に花火を装備したシャルロッテから片方を奪うように取り上げる律。
    「火傷しちゃったらその綺麗なお肌が――あれ、何かどんどん火の勢いが……」
     何と、噴出型の花火だったようだ。
     火柱の如く立ち上る火の粉が炸裂する!
    「ちょっ、うーわー!?」
    「ほほう、律さん即興でファイヤーダンスとはやるデスネ。独創的でいいと思いマス」
    「うんうん、いい感じだと思うよ!」
    「ほのぼのシーンじゃないからこれー!」
    「私も花火、持ってくればよかったかな」
    「そんな観澄さんに朗報です」
     コンビニのビニール袋に入った花火のパックを持ってきたにあ。
    「煙の少ない花火というのを見つけて、どんなものか気になって買ってみたんだけど、よかったらどうぞ」
    「わあ、ありがとう! 折角だし、一緒にやろうよっ!」
     思ったよりも種類は多いようで、オーソドックスなタイプから少し派手なものまで様々なタイプが用意されているようだ。
     にあとりんねはいくつかを選び取ると、背後に流れる音楽に乗せ、閃光のショーを楽しむのだった。

    「じゃーん、こんなの用意してみたよ!」
     壱琉はバラエティ豊かな花火パックを取り出した!
    「「おおー」」
     思わず感嘆の声と拍手を送るひな菊と嵐。
    「これだけあると流石に迷うね。どれからやろうか? あ、その前に」
    「水とバケツは用意してありますよ」
    「ナイスひなくん!」
    「あたしは勢いがある花火がいーな」
     ガサゴソし始めた嵐に続いて壱琉とひな菊もパックを覗きこんだ。
    「線香花火は最後に残しておきたいですね」
    「それならこれがいいかな。えーっと、火、火と」
     気になったものをチョイスし、早速火を点けようとするが。
    「あれ、なかなか火が移らない?」
    「今こそ露草庵の団結力を示すトキだな……。一、2人で火ィ点けてやるか」
    「露草の団結力……。わかりました、杠先輩!」
     嵐の言葉に神妙な顔で頷いたひな菊。2人はそれぞれの火を合わせ、壱琉の手元へと近付けた。
     するとどうだろう。1つになった炎は壱琉の花火を瞬く間に点火した!
    「わ、ついた! これぞ露草の団結力ー!」
     笑顔と火の花が咲き、しばし閃光に目を奪われる一行。
    「ひなくんはいつも綺麗な着物だよね。あ、汚さないようにね?」
     あまり和服を着た事のない壱琉は、着慣れたひな菊を羨ましく思いながら言う。
     自然な笑顔で頭を下げるその所作も、かなりサマになっている。
    「花火がよく似合うよね、ひなくんは」
    「綺麗だな」
    「お二人は、あまり着物は着ないんですか?」
    「そうだな、着物は普段着ないケド」
    「僕もそうだなぁ」
    「今度、浴衣でも着ようか」
    「浴衣かぁ。いいね!」
     談笑しながら演奏の音に耳を傾けていると、静かなメロディーへと遷移しつつあるようだ。
     その雰囲気に合わせ、線香花火を持ち出す事に。
    「誰が一番最後に落ちるか、勝負勝負ー!」
    「まー、お約束だな。団結力はあっても勝負は勝負」
    「ふふ、ぼくも負けません」
     同時に火を点け、いざバトル!
    「そういえば、嵐は楽器弾けるの?」
    「楽器? あんまり上手くねーケド、歌なら歌えるよ」
     嵐は小さく爆ぜる火の玉に目を細め、歌を紡ぎ出した。
     静かな歌声に夏への想いを馳せ、3人は線香花火の行方を眺め続けるのだった。

    ●後半もエキサイト!
    「りんね、高校に上がって1発目のセッションといこうぜ!」
    「周さん! あれ、いつもみたいなハイテンションな曲じゃないの?」
    「ああ、もうすぐ梅雨だし、こういう曲も弾けるようにしといた方がいいと思ってなー」
     一応大学上がったし、と周はフラメンコギターで静かな曲調をキープし続ける。
    「そういや、りんね的に夏祭りじゃない花火の曲ってどんな感じだと思う?」
    「夏祭りはみんなでわいわい、花火はバァーってなってきらきらしてる感じじゃないかな?」
    「アタシには高度すぎてわからい感覚だなー……」
     直感的すぎるようだった。
    「去年の学園祭のリクエストを受け、バイオリンを練習してきました」
     バイオリンを持つ由布の言葉にしばし思考を巡らせるりんね。
    「えーっと、確か弓がどうとかだっけ」
    「由布山の神の話ですね。では、つたない演奏ですけど楽しんでいただければ幸いです」
     由布の演奏はしっとりと響き、賑やかさとは一転した華を披露した。
    「バイオリンって覚えるの大変って話だけど、由布くんすごいね!」
    「ありがとうございます。……りんねさんは花火みたいな人ですよね」
    「花火かー。いいかも!」
     ぱっと明るく皆を照らし元気付ける。まさに花火だと由布は思う。
    「私もまだまだ練習中なんですけど……聞いて貰えますか?」
     リュシールの体には少し大きくも感じられるバイオリンを担ぎ、ゆっくりと弓を引く。
     ハミングと共に奏でられる音色は、とても明るい色を帯びている。
     惹きつけられるようにりんねも弦を弾き、また1人、また1人と共演者が増えていき――最終的に大合奏となったライブは賑々しくフィナーレを迎えた。

    「りんねさん、皆さん、お疲れ様です! 冷たい麦茶を用意しましたよー!」
    「アイスオレンジティーもある。爽やかな気分になれるからオススメだ」
    「お、悠花さんに朔耶さん! みんなありがとう!」
     りんねのクラスメイトである悠花と朔耶が配るドリンクで参加者たちは歌や演奏で熱くなった体をリフレッシュさせる。
    「それからなんと! さりあちゃん特製のレアチーズケーキだよ!」
    「心太を差し入れなんだよ。酢醤油と黒蜜、両方持ってきたからお好みでどうぞ、なんだよ」
     さらにさりあと琴弓が食べ物の差し入れを用意。
     皆で食べられるように食器類も多めに準備してあるようだ。
     ちなみにケーキにはチョコペンで『16歳のお誕生日おめでと! りんねちゃん!』と可愛らしい字体で書かれたメッセージ入りのネームプレートも完備。
    「これは豪華だね。ありがとうっ! ケーキの上のこの板を貰うのが醍醐味だよね」
     和洋を一緒に堪能しつつ、ライブの疲れを癒やし一息つくりんねたち。
     そうして甘露を堪能したり話で盛り上がったりしてしばらく。悠花たちが手に手に何かを持ってりんねの前に並んだ。
    「今日はりんねさんにプレゼントを持ってきたよ!」
    「本当!?」
    「わたしからは、もふもふは正義ということで――このわんこのぬいぐるみをプレゼントです!」
    「か、かわいい……!」
     貰ったぬいぐるみをぎゅっと抱っこするりんね。
    「ほら、コセイにそっくりでしょー?」
     悠花は足元にいたコセイをりんねと同じように抱き上げ、嬉しそうに笑った。
    「あはは、本当だね! わんこ、ちょっと欲しかったんだよねっ」
    「はーい! さりあちゃんからのプレゼントは生チョコだよ! もちろん手作り!」
     続いてさりあが差し出したのは、キュートな包装紙に包まれた小さな箱。
     包みを開けると、甘い香り漂う魅惑のチョコレートが。早速口に入れてみると。
    「むおぉ、おいひぃ!」
    「隠し味にはちみつを加えてあるのがコツでね。気に入ってくれたみたいで嬉しいな!」
     ほくほく顔のりんねに、朔耶と琴弓が更なるプレゼントを仕掛ける。
    「俺からはこの髪飾りを。それから」
    「わたしは鈴蘭の髪留めを用意してみたんだよ」
    「いつも髪を留めているようだから、たまに使ってくれると嬉しい」
     朔耶の髪飾りは音部記号――ト音記号のような音楽と関連付けた小粋な逸品で、ポップで実に可愛らしいデザインが装着欲をくすぐる。
     琴弓の鈴蘭の髪留めも、鈴蘭とは5月の花として有名であり、りんねの誕生月に合わせたチョイス。花言葉も意識した所もあるのだろうか。
    「こういう小物って見てるだけでも楽しいよね。あ、もちろん使うからねっ!?」

     パーティーもそろそろ終わりの時間が迫ってきた。
     用意された花火はまだまだ余っている。となれば。
    「ぼくのオススメは線香花火ですね。柔らかい火花がキレイなんです」
     遥の線香花火を興味深そうに見つめるスヴェンニーナ。
    「はなび、ちいさい、な。爆竹とは、ちがう……?」
    「あれは音がメインの火薬ですし。試してみませんか」
     日本の花火には初めて触れるスヴェンニーナ。
     渡された線香花火のパチパチ跳ねる火花を目をぱちくりしながら見つめている。
    「1本だけだと地味に見えるでしょ。でも、たくさんまとめて火をつけると結構凄いんだよ?」
    「すご、い?」
     蜜は頷くと「10本くらい豪快にね」と多量の線香花火に同時着火。
    「見て、おっきい火の玉ができた!」
    「ワォ、ミツすごいね!」
    「どうこの火球――と思ったらええええ!」
     案の定、持ち手まで一気に燃え上がってしまい、危ない所で水の中に放り投げる蜜。
    「ああ、まあ……欲張るもんじゃないね……」
     よい子は真似しないようにしよう!
    「日本の花火は楽しいね。俺もこれをやってみようか」
     レンツォが火を点けたのはカラフルな火の粉が勢い良く噴出する花火。
    「凄い、エキサイティングだよ!」
    「はは、楽しんでるみたいだなって、どわああ! 馬鹿レンツォ! こっち向けんなあぶねぇ……!」
     ついはしゃいでしまったレンツォは流に噴出口を向けたりしたが、既の所で避ける流。
    「あれ、人に向けちゃ駄目なの? 残念だね、ニーナ」
    「でも、レンツォ。にげられると、花火もって、おいたくなる、な?」
    「それもそうだね、ニーナ! どうだい、ニーナも一緒に」
    「ちょっと、やりたい、かも……」
    「おい馬鹿やめろ! 喜乃も笑って見てるんじゃねぇってー!」

    「最後に皆で花火を使って文字を空中に描かないか?」
    「皆の協力があればできる……と思うんだけど、どうでしょう」
     朔耶と悠花の提案にりんねは勿論、一緒に線香花火を楽しんでいた周や翡翠も首を縦に振る。
    「いいねえ。しっとりした終わりもいいけど、やっぱ派手なのも捨てがたいしな!」
    「はい。それも素敵だと思います♪」
    「でも、どうやるの?」
     りんねの疑問に琴弓がカメラを見せながら説明する。
    「カメラのシャッターを開放にすれば不可能じゃないんだよ」
     多少のコツは必要だが、全員で協力すればきっとできる!
    「それじゃいくよー!」
    「せーの!」
     1文字を数人で担当した花火文字。
     少し不格好だけどあたたかい『Happy Birthday!』の文字は、皆の、そして何よりもりんねの心に仲間たちが写った写真と共にいつまでも残り続ける事だろう。

    作者:黒柴好人 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月11日
    難度:簡単
    参加:25人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 2
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