修学旅行2014~紅型体験で鮮やかな思い出を~

    作者:江戸川壱号

     武蔵坂学園の修学旅行は、毎年6月に行われます。
     今年の修学旅行は、6月24日から6月27日までの4日間。
     この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅立つのです。
     また、大学に進学したばかりの大学1年生が、同じ学部の仲間などと親睦を深める為の親睦旅行も、同じ日程・スケジュールで行われます。

     修学旅行の行き先は南国・沖縄!
     沖縄そばを食べたり、美ら海水族館を観光したり、マリンスポーツや沖縄離島巡りなど、沖縄ならではの楽しみが満載です。
     さあ、あなたも、修学旅行で楽しい思い出を作りましょう!

    ●沖縄の伝統工芸・紅型体験
     修学旅行の最終日、午前中は自由行動。
     帰路の前にもうひととき、沖縄を楽しむことができます。

     最後の思い出作りに、おきなわワールド内にある紅型(びんがた)工房で、あなたも『紅型』を体験してみませんか?
     紅型は沖縄を代表する伝統的な型染物。
     型紙を用いて糊を置き、顔料を使って彩色します。
     紅型の『紅』は色全般を指し、『型』は様々な模様を指すと言われている通り、その図柄や色合いは様々。
     沖縄の自然の色鮮やかさを写したような鮮烈な色彩が特徴の紅型は、きっとあなたの思い出も色鮮やかに彩ってくれることでしょう。

     コースター、ティーマット、バンダナ、手提げ鞄、携帯電話ケース……と、作れる物も豊富で、職人さんが丁寧に教えてくれるので、初めての人でも不器用な人でも、心配は要りません。
     どのアイテムにも既に防染糊で型が作られているので、どのアイテムのコースにするのかと、どんな柄にするのかを決めたら、いきなり染めに挑戦できるのです。
     所要時間も一番簡単な物なら二十分ほど、少し難しいものでも、一時間ほどしか掛かりません。
     選べる図柄も、シーサーやハイビスカス、ジンベエザメといった沖縄らしいものから、蝶々やツバメといったものまでバリエーションに富んでおり、アイテムによっては複数の図柄を組み合わせることもできます。
     どのコースで、どの柄にするかを選んだら、好きな色を挿していきましょう。
     塗る前に気を付けるのは、塗った色が滲まないよう、異なる色が隣合わないようにすることと、薄い色から順番に塗ること。
     筆先が平らな独特な筆で、均一になるように、布にすり込むように丁寧に塗っていきましょう。
     次はいよいよ、紅型の特徴でもある『隈取り』。
     色を挿したその上から、濃い色でアクセントを付け、ぼかしを入れていきます。
     これを行うことで全体が引き締まり、立体感が出るのです。
     
     隈取りが終わって顔料が乾いたら、ここでの作業は終了。
     あとはお家に帰ってから、水洗いして糊を落とせば、完成です。
     世界にたったひとつ。あなただけの、色鮮やかな思い出の品になっているはず。

     型に拠らないデザインを楽しみたい人や、器用さに自信がある人には、自由に絵や文字を手描きで染めることのできるコースも。
     こちらもトートバッグやエコバッグ、手ぬぐいやTシャツと色々なものが選べるので、好きなものに挑戦してみましょう!


    「君も、紅型体験が気になったのか?」
     無表情ながら、梛七薙・凪子(凪世の厄払い・dn0119)は何度も読み返した跡のある修学旅行のしおり片手に振り返った。
    「写真もいいが、自分の手で、沖縄の思い出を彩るというのも悪くないと思ってな。……君も、挑戦してみないか?」
     凪子は自分用の土産や思い出として挑戦するようだが、誰かへのお土産にするのもいいだろう。
     友達と一緒に参加して、見せ合ったり、贈り合ったり、おしゃべりしながら作るのも良いかもしれない。
    「互いに、パンフレットにあるような、色鮮やかな思い出を飾れるといいな」
     そう言って、凪子は珍しく表情筋を動かして微笑んだ。


    ■リプレイ

     明治後期に建てられたという歴史ある建物の中で、紅型体験は行われている。
     その中で職人達から体験教室の手順を聞き終わった凪子は、選んだバンダナの布地を手に空いている席を探していた。
     無関係の人も居る為、なるべく固まった方がいいだろうと考えて学園の生徒へと近づいてく。
    「失礼。ここは空いているだろうか?」
     声をかけたのは、必死な様子で作業をしている桃色の髪のおとなしそうな少女――桃花だった。
    「は……っ、はい。あの……大丈夫、です……」
     突然声をかけられて驚いたのか、肩を大きく震わせて答えた後で、桃花はずれてしまった眼鏡を両手で直す。
    「感謝する」
     驚かせてしまったようで申し訳ないと思いながら席についた凪子も、教わった手順に従って黙々と初めての紅型体験に取り組み始めた。
     その隣では、桃花が手順やアドバイスが書かれたパネルに何度も目をやりながら、一生懸命筆を動かしている。
     あまり器用ではないのかその動きは辿々しいが、真剣な表情に手伝いの職人も微笑ましく見守ってくれていた。
     上から下へ、白から薄水色へと変化していくグラデーションの上に散りばめられていくのは、薄桃色の桃の花。
     桃花の名と髪を思わせる可愛らしい花が、トートバッグの上をバランスよく舞っている。
     なんて綺麗なんだろうと暫く見つめてしまってから、失礼かと思い視線を外して正面に向けると、そこにはもう一人、桃花よりも少しばかり濃いピンクの髪を左上でまとめあげた少女――夏々歌が、楽しげに作業をしている姿が目に入った。
     夏々歌が挑戦しているのは、デザインを自由にできる手拭いのコース。
     なかなか広いキャンバスに描かれるのは、たくさんのミニキャラクターが枕を持って楽しそうにしている一場面である。
     もしかしたら、友達同士で枕投げをしているシーンを描いているのかもしれなかった。
    「楽しい思い出を、少しでも思い出しやすくする為に、形に残すっす!」
     見ているだけで楽しくなる活き活きとした絵に感銘を受けて凪子が声をかけると、本当に楽しかったのだろうと思わせる声で夏々歌はそう語る。
     違う色を塗る為に乾燥させている合間に時々あくびをしているのも、友人達と旅行を思う存分楽しんでいるからなのだろう。

    「へぇぇ、紅型? 独特な色合いが見てて飽きない感じー!」
     隣の机で見本を眺めて声をあげたのは、麦と紅虎の二人組。
     器用さに自信有りの二人も、自由に描ける手描きの手拭いコースを選んだようだ。
    「紅虎くんは何柄にすんの?」
    「ジンベエザメと珊瑚礁あたりかなー」
    「あー、ジンベエザメ柄かわいいよな!」
     デザインや色を考えながらお喋りするのも楽しいけれど、物を作る作業もまた楽しいもの。
    「なーにつくってんのッ!?」
     珍しく集中している様子が気になって紅虎が覗きこんでみれば、麦は黙々と作品に取り組んでいる。
    「ぉーさすが麦ちゃん、やるなー……」
     意外な友の姿に感心した紅虎もまた、自分も頑張らなければと慌てて筆をとった。
     一生懸命頑張った作業が終われば、次は互いの作品の披露だ。
    「できたーっ! きぶな手拭い珊瑚の海スペシャル!」
     麦の手拭いは、珊瑚の海で遊ぶクマノミと、ご当地である栃木の郷土玩具『きぶな』を描いたもの。狙い通り、海の青にきぶなの黄色がよく映えている。
    「じゃーん!」
     そして紅虎が作ったのは、ぽにょっとしたフォルムにデフォルメされたジンベエザメと珊瑚礁が描かれた手拭いだ。
     ジンベエザメの水色に、橙、ピンク、黄緑と様々な色で表現された珊瑚礁を引き締める隈取りは鮮やかな紅色。更に隅に記された作成日と、サイン代わりなのか虎の手形模様が可愛らしいアクセントになっている。
    「おっ、紅虎くんのも色キレイだー! いいね!」
     これは帰って糊を落とすのが楽しみだと、二人は互いの作品を讃え合った。

     そんな元気な少年達の隣の席に座るのは、信志とキィンの二人。
     スキンヘッドの青年と、ばっちりメイクに長髪という派手な青年というのは、なかなか目立つ組合せだ。
     信志の大きな手が驚くほど繊細に動いて白地を染めていくのを、キィンは興味深げに見つめている。
    「紅型の色や柄って、南国風でポップでカラフルなのに和の香りがして、とってもステキ!」
     そう言って楽しげに信志が重ねていく色のセンスは普段の彼の服装と同じく独特で、面白くないのではという信志の危惧に反し、生み出されていく色の世界を見ているだけでキィンにとっては充分面白い。
    「塗り絵みたいなものだし、キィンだってできるわよ♪」
     とはいえそれでは勿体ないと信志が勧めれば、キィンも渋々ながら筆を手に取った。
     その間に一足先に隈取りに入っていた信志は、説明書きを読んで納得の声をあげる。
    「ああ、ちょっとグラデや差色を入れるのがコツなのね! メイクと同じだわ☆」
     色や線から完成形をイメージできないとボヤくキィンに、目尻に鮮やかな色をほんのり乗せたりするのと同じだと解説する信志だが、いまいち伝わらない。
    「ほらほら、今日のメイク、どう?」
    「あ? 今日のメイク? 普段と何が違うんだ」
    「なぁーによ、その反応!」
     例を兼ねて今日のメイクの出来を見せても甲斐のない反応に信志がわざとらしく口を尖らせるが、乗り気でなかった割にキィンの塗りは細かく、なかなか綺麗である。
     しかもシーサーとジンベエザメという可愛らしい柄だ。
    「アンタの図案、案外カワイイのね? 誰かさんへのお土産かしら~?」
     からかい混じりに肩に腕をのせて覗き込む信志に返答はなかったけれど、きっとこのコースターは誰かのお土産になることだろう。

     体験教室に来ているのは、修学旅行の生徒ばかりではなく、大学部の親睦旅行で来ている者もいる。
     大学で同じ学部になった朱海、などか、いろはの三人もその一部だ。
     昔テレビで観てからずっと憧れていたというなどかは、大学生になったのだからと素敵なお姉さんを目指してスカーフ、朱海は扇子入れを選び、後でブックカバーに加工し直す予定のいろはは、手提げ鞄用の麻布を一枚いただくことにする。
    「南国っていうと、色とりどりのお花や海かなー」
    「……あ、今話しかけちゃダメだからね!」
     楽しげに色や柄を選んでいくなどかと、二人の手つきを見てから慎重に筆を使っている朱海を見て、いろはは微笑んだ。
    「写真に撮るよりもっとはっきり、二人の沖縄旅行の印象がわかるわ」
     出来上がった作品は、どれも沖縄旅行の思い出を映したよう。
     そうしてこのメンバーが揃ったからには――。
    「やっぱり詠まなきゃ嘘よね!」
     というなどかの提案で、各々の作品をテーマに一首読むことになった。
     まずは朱海。
     繊細な作業は得意ではなかったが、時間をかけて丁寧に慎重に作業したおかげか、なかなか満足のいく出来になった。
     海と空の青に燕が飛び、暖色を散りばめられた扇子入れを前に、共に作った紅型とこの三人でまた旅が出来たらいいと願いをこめて詠む。
    『紅型のさやけき空につばくらめ 渡るも戻るも三羽群れ成し』

    『一枚の布にトキメキ焼き付けて 友と歩んだアルバムになる』
     そう詠んだなどかのストールは、青い海に優しい色合いの可愛らしい花が浮かんだもので、ストールの風合いに良く合っていた。
     これなら数年後、社会に出てからも着けていられるだろう。
     見る度に沖縄の海や染物の鮮やかな色彩、そして友達との思い出が蘇るだろうストールと長く一緒にいられると思えば、それだけで嬉しくなった。

     いろはがブックカバーにする予定の麻布は、旅行の中で一番印象に残っている沖縄の鮮やかな海の色。
    『思うまま彩る布地は目も綾な 想い映して未来への糧』
     思い出のままの色鮮やかさで彩った熱帯魚とジンベエザメが泳ぐ布の海を見る度に、共に詠んだ三首の歌と、この旅行を思い出すに違いない。
     そしてそれは、きっと三人の次の思い出にも繋がっていくだろうと思えた。

     一番賑やかだったのは【股旅大学組】の五人だろう。
    「字面っからして紅一本なのかと思いきや、目移りしちまうくらい幅があるな」
    「俺も『紅』っつーから紅一色かと思ったけど、そーでもねーんだな」
    「綺麗だなぁ、凄い技術だ」
     藍の言葉にパンフレットや職人の作った見本品を眺めながら伴も頷いて、グロードもまた真剣に職人から作り方を聞いていた。
     ある程度見たり聞いたりを終えたら、今度は自分達が作る番である。
    「まァ、嵩張らねェしな」
     と、ティーマットを選んだのは藍と、グロードの二人。
     藍は沖縄旅行の最後の締めとして、記憶に焼き付いた海と空の色を。
    「藍は薄青か。さっぱり晴れてるみたいでいいな!」
     そして暮らす家を思い浮かべて、グロードはベージュをベースとして決めた。
     中央に大きく配したジンベエザメに水色を挿し、隈取りに深い青でグラデーションを作っていく。
    「同じ品物でも大分違うな。でけェ鮫が格好良いってのもよく分かる」
    「グロード君らしいね」
     藍と晃平に頷きを得たグロードは、自分も気になると皆の手元を覗き込んだ。
     絵心がないとなかなか大変だと藍と苦笑いしていたヒナは、青を基調にしたTシャツに『龍』という漢字を描くことにしたらしい。
    「成程文字と言う手もあったか」
    「俺も少しは日本語を書けるようになったんだぞ」
     発想に驚く晃平とグロードに誇らしげに言ったヒナがこの字を選んだのは、やり甲斐と沖縄らしいというものだったが、仲間はそう思わなかったようだ。
    「ははーん……字を見るに大事な人物へのプレゼントってとこか」
    「む? いや、これは自分で着るつもりだが?」
     伴のからかいに否定を返したけれど、ヒナの恋人を示す字であることは確かで。妙に納得した顔の藍も果たして信じていたかどうか。
     その伴は、夏場の帽子代わりにもいいだろうとバンダナを選んだ。
     遊びにも常に本気な伴は紅型体験にも全力投球で、黒地にどれも色の違う鳥を、幾つも染めていく。
    「綺麗な鳥だな、そんなに器用とは知らなかった」
    「随分欲張ったなァ。や、誉めてンだぜ。豪勢な鳥の数、仕上がりが楽しみだ」
     布の中を無数の鳥が羽ばたいている様子に、ヒナが目を瞠り、藍が楽しげに口の端をあげる。
    「出来上がったら、着けた所を見せてくれよ!」
     グロードが言うように、身につけたら更に映えることだろう。
     豪快な出来に感心していた晃平が作るのは、手提げ鞄。
     器用でもなく絵心もないと謙遜していたが、塗り絵と思えば気が楽になったのか、なかなか筆の進みは丁寧でスムーズだ。
    「思ったよりも、楽しいかもしれない」
     落ち着いた青を基調に、紫や濃緑が鳥と魚の柄を彩っていく。
     紅型らしく夕陽のような鮮やかな紅を一点させば、返って引き締まり他の色が際だった。
     美しい配色はヒナの参考にもなり、滑らかな筆の動きはグロードを大いに唸らせる。
     そんな晃平が気にして覗いたのは、藍の作品。
     晴れた空の色に円く象った花が咲き誇り、その傍らには小さな鳥が羽ばたいていた。
    「それは自宅用か贈り物か、どちらですか?」
    「さァて、な。そりゃァ出来と自分の甲斐性次第って奴だ」
     美しい出来にからかい混じりに問うが、照れるでも慌てるでもなく鳥に金色を挿しながら苦笑で返す藍からは、真実を引き出せそうもない。
     真剣に作業したり、互いの手際や作品の感想を言い合っていれば時間はあっという間に過ぎていく。
     そちらに気を取られすぎて手が滑ったグロードの手描きのサメが、ヒナにただの小魚と間違われたりもしたけれど、それもまた思い出のひとつ。
     気兼ねない友人同士での体験ごと、お土産にできそうだった。

     中には兄妹で参加している生徒達もいる。
     黙々と互いの作品作りに勤しむ戀夜と戀花の義兄妹も、そのうちの一組だ。
     戀夜は手提げ鞄、戀花はティーマットに、丁寧に色を挿しているところ。
     どんなものを作っているかは互いに内緒だけれど、二人とも上手に出来たら相手に贈りたいと密かに考えているので真剣だ。
     戀夜が選んだ柄は、戀花が好んでいる桜の花。手先が器用なのか、危なげない落ち着いた手つきで丁寧に色を塗り込めていく。
     紅型独特の隈取りはグラデーションを綺麗に出すのが難しいのだが、戀夜は楽しみながら桜の花を綺麗な色で咲かせていった。
     一方の戀花が選んだ柄は、戀夜をイメージした椿の花。
     あまり器用さに自信がないのか、筆を持つ手や表情は緊張で随分と硬い。相手へ贈りたいという気負いもあるのだろう。
     丁寧に布に色を塗っていくも、絵を描くこと自体が初めてなこともあり、なかなか綺麗に均一にならない。
     ふと戀夜に目を向ければ、手元はよく見えなくても危なげない様子が見てとれる。
     きっと上手なのだろうと凹みそうになるが、不意に戀夜が顔をあげて視線が合い、優しい笑顔を向けられれば心が温かくなって緊張も融けていった。
     こうして二人で出掛けるのは初めてなのだから、まずは楽しもう。
     気持ちを切り替えた戀花の筆が、その心を反映するように滑らかに動き出す。
    「上手に、出来たかなぁ……」
    「……よし、出来た」
     相手が喜んでくれるといい。
     そんな心を込めた紅型は、二人の心のままに、鮮やかだけれど温かい色で仕上がっていた。

    「兄様。折角ですし、完成した物を交換、なんていかがでしょう?」
    「お前、言ったからにはしっかりした物を作ってくれるんだろうね」
     妹の智壽に誘われ体験教室に足を運んだ嘉織が、出された提案に返したのはそんな言葉で。
     何気なく口にしただけだったのだが、何より兄を大切に想う智壽は、どうやら必要以上い重く受け止めてしまった様子。
     兄に相応しい物が作れるだろうかと思い詰める智壽に、世話の焼ける妹だと、嘉織は震える妹の手にそっと己の手を重ねた。
    「……お前が心を込めたものを、無碍にするような兄だと思うのかい、智壽」
    「いいえ……! 兄様に、智壽は心を込めて、作ります……!」
     重ねた手を握れば途端に智壽の震えは収まって、一転して楽しげに兄に贈る為の品や色を選び始める。
     その姿に嘉織は苦笑を禁じ得ないが、可愛い妹の為に自分も贈り物を考えなければと、視線を転じた。
     智壽はどうやら、自由にデザインできる手拭いを選んだようだ。
     そこに描くのは、兄が飼っているメジロの姿。
     緑を主として、黄色に、兄の色でもある藍色。それからアクセントに赤色を挿していく。
    「兄様、見てください、抹茶です……! 気に入っていただけると、嬉しいのですけれど……」
     乾燥が終わるなり、いそいそと兄に見せに行った智壽だけれど、兄が作っていたものは既に仕舞われた後。
    「何を作ったかって? ふふ……家に帰るまで、教えてやらないよ」
     残念がる智壽にくすりと笑った嘉織が作ったのは、色とりどりの花を描いた薄手のストール。
     家に帰って仕上げをすれば、夏らしく智壽を飾るに相応しい色鮮やかな花が現れるだろう。
     けれどそれは、まだもう少し先の話。
     沖縄は名残おしいけれど、今はちょっとだけ早く帰りたくなってしまう智壽であった。

     布を彩った顔料が乾けば、あとは自分の作品を持ち帰るだけ。
     最後の仕上げは家に帰ってからとなる。
     水洗いして糊を落とせば、いま見ている以上に鮮やかで綺麗な色が顔を出す筈だ。
     その時を楽しみに、参加者達は乾燥が終わった自分の作品を持ち、それぞれが体験教室を後にしていく。
     だがたったひとつ、身動きしない影があった。
    「むにゃ……」
     作業の合間にも眠そうにしていた夏々歌だ。
     どうやら乾燥を待っている間に、すっかり眠ってしまったらしい。
    「……にん……、旅行、楽しかったっす、よ……」
     きっと夢の中で、一足先にお土産を披露しているのだろう。
     近くに居た桃花と凪子は、どうしたものかと顔を見合わせたが、零れてきた寝言に微かに笑みを浮かべると、そうっと肩を揺すって夏々歌を起こした。
     お土産の披露も思い出の報告も、きっと実際に会った方が何倍もいい筈だから――。

    作者:江戸川壱号 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月27日
    難度:簡単
    参加:18人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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