修学旅行2014~無病息災! 宮古の奇祭パーントゥ

    作者:高遠しゅん

     武蔵坂学園の修学旅行は、毎年6月に行われます。
     今年の修学旅行は、6月24日から6月27日までの4日間。
     この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅立つのです。
     また、大学に進学したばかりの大学1年生が、同じ学部の仲間などと親睦を深める為の親睦旅行も、同じ日程・スケジュールで行われます。

     修学旅行の行き先は沖縄です。
     沖縄そばを食べたり、美ら海水族館を観光したり、マリンスポーツや沖縄離島巡りなど、沖縄ならではの楽しみが満載です。
     さあ、あなたも、修学旅行で楽しい思い出を作りましょう!


     修学旅行の日程が発表され、放課後の食堂は自由行動の計画で持ちきりだ。
     何をしよう、どこに行こう、お土産は何がいい?
     沖縄の旅行雑誌やガイドブック、パンフレットに口コミ情報を集めたノートPCやタブレット端末が、テーブルに所狭しと集められている。
     そんな中で、自由行動で宮古島を選んだ面々が奇妙なものを発見した。
    「『パーントゥ』?」
    「初めて聞いた。なにそれ」
    「お祭みたい」
     通りがかったのは、刃鋼・カズマ(高校生デモノイドヒューマン・dn0124)。片手に修学旅行のしおりを持っている。
     ノートPCで動画を見る面々の隙間から、そっと覗き込んだ。
    「ちょっと、これ怖い!」
    「泥まみれ! これがお祭りなの!?」
    「でもすごく面白そうだよ」
    「泥をつけられたら、無病息災の御利益があるんだって」
     その言葉が、カズマの耳に届く。
    「無病、息災」
     そのタイミングで通りがかったのは、立場上、大学に進学しても様々な学年の校舎に出入りしている櫻杜・伊月(大学生エクスブレイン・dn0050)だ。
    「カズマ。旅行の相談か?」
    「無病息災祈願だ」
     学園に来る前、デモノイドヒューマンとして目覚める以前のこと。幼い頃から幾度となく入退院を繰り返し、健康のありがたみは人一倍理解している。灼滅者となり重い病と無縁の体になっても、それは変わらない。
    「無病息災のためなら、俺は」
    「……」
    「神にも悪魔にもなれる」
    「……はい?」

     伊月には話が見えなかった。
     普段からそう多弁ではないカズマだが、一度何かを決めて話し出すと、生真面目すぎるあまり、素なのかボケなのか判別できない台詞を口走ることが、たまにあるのだ。
     ふと気付いたのは、カズマの手にある修学旅行のしおりだ。配布されたのは今日だったはず。真新しいはずのしおりが、丹念に読み込まれた形跡がある。
     伊月は全能計算域と関係ない脳の領域をフル回転……させるまでもなく、一つの結論に達した。
     ――カズマは修学旅行を、もう、ものっっっすごい楽しみにしている。
     旅行は行くこと自体も楽しいが、計画もまた楽しいものだ。おそらくは長期旅行、修学旅行に縁の無い時代を過ごしてきただろう事は、容易に想像できた。
     テーブルで騒いでいる『無病息災』の詳細を観察し、伊月は一瞬で計画を練った。
    「わかった。手配は任せてくれ」
     テーブルの面々と、カズマの視線が伊月に向く。
    「奇祭・パーントゥ、我々の手で再現してしまえばいい」
     どよめくテーブル。呆気にとられるカズマ。
    「旅先で羽目を外すのは、学生の特権だ。そういうものと決まっている!」


    ■リプレイ

     抜けるように青い空、ぷかりと浮かぶ白い雲。
     空と違う青を充たした南の島、海の遙か向こうには、神宿る異界があるという。

     藁の蓑! 怖い仮面! そして泥、泥がなければ始まらない!
    「カカッ、やっぱ祭りは全力で楽しまねぇとなぁ!」
     梵我は思い切りよく泥をかぶる。こんな機会に遊ばないなんてもったいない!
    「同感だ」
     隣に鬼がいた。鬼っていうか、なまはげっぽい。勇也のパーントゥは地方が違う気がする。
    「わるいごはいねえがあ!」
     なまはげもう一匹いた。奏は大きく叫ぶと、たっぷり泥を含んだ蓑を纏って勢いよく駆け出した。
    「おお、刃鋼ではないか! ……刃鋼だよな?」
     パーントゥに扮した織子、隣の頭一つ高いパーントゥを見上げる。たぶんカズマだ。
    「……無病息災」
     だめだこの人すっかりなりきってる。そんな顔をそっと仮面に隠し、織子もまた駆け出した。油断しきってる観客が前方に約一名。
     伊月は泥作り中盤で力尽き、早々に戦線離脱して完全傍観モードだ。
     燎が軽く頭を下げて隣に座る。
    「奇祭の再現とか面白いっすね。なんかええことありそやし」
    「面白半分で、神事に乗り込むわけにはいかないからな。それに──」
     静かに近づく気配を感じ、伊月の後ろにそっと隠れる燎。柔らかい泥玉が空を切り、すぱーんと伊月の胸元に命中した。手から落ちるシークァーサーソーダの空き缶。
    「カカッ、やっぱ祭りは全力で楽しまねぇとなぁ!」
     梵我の一撃を皮切りに、織子と奏がわしゃっと泥を塗りたくり、
    「やべっ!」
     楽しそうに逃げ出した燎を追いかけていく。後を追う伊月は三歩で転んだ。
    「逃げ切るのは無理かもしれないが」
     まだTシャツの白いライオが走って行けば、雄叫びを上げて追いかけていく勇也。どんとぶつかれば双方泥まみれ。
     ばしゃっと降りかかる泥にカズマが振り向けば、貢が仮面の奥で挑戦的な眼光を向けていた。同様に仮面の奥で察するカズマ。
    「泥を投げてもいいのは、泥まみれになる覚悟のある者だけだ」
    「違いない」
    「標的は」
     前方に本気で逃げる、不健康そうな一般人発見。二人は砂浜を駆け抜ける。
    「やめ……」
     青空に伊月の悲鳴が上がった。

    「俺はムサシザカ・パーントゥ・オブザイヤーを頂く」
     パーントゥの王たる二つの仮面、無病息災の権化となった恭太朗は、完全なる無病息災をもたらすため【妄想の匣】の仲間を追いかける。
     逃げる琉嘉は、なぜか仮面を付けていないレイッツァまで、泥をかぶって追いかけてくるのを見て大声を上げる。
    「え、ちょ、なんでレイッツァ先輩まで!」
    「お祭りゴトは大好きだよ!」
     白い服のレイッツァ、既に体半分が泥まみれ。どーんと二人でぶつかれば、泥と砂とで三人とも大変な有様。
    「だめー! 水城先輩、ぱんつの中はだめー!」
     恭太朗の手から逃れてごろごろ転がる琉嘉、果たして貞操は守れたのか。

    「やだなー逃げないで。皆の健康の為なんだよ?」
     こちらは【吉祥寺2-4】組。恐ろしげな仮面を付けた煉が、孤影と叶世を追い回す。
    「返り討ちするななんて一言も言ってないけど」
     にやり笑った孤影が泥を投げ返す。びしゃーっと盛大に仮面に当たる泥。見れば叶世も反撃に回っていた。
    「受けて立つ!」
     仁王立ちの煉に次々当たる泥の弾、泥まみれの蓑でばさっと跳ね返せばみんな泥まみれ。 記念写真は三人の笑顔。泥まみれでも、笑顔は南の太陽のように眩しい。

     フェードアウトしようとした伊月の後ろ首を響がひっ掴む。
    「どさくさ紛れに逃げんなよー?」
     【華咲】の面々、容赦がない。カズマを呼び止めれば、すかさず奏一郎が泥団子を投げつけた。売られた勝負は買うカズマ、蓑を払って泥しぶきの反撃。
    「ふふ、みんな凄い顏」
     カメラを構える律花、シャッターを切る瞬間全てがベストショット。
    「ははは! 俺は逃げも隠れもしな」
    「私は逃げる、隠れ」
     素晴らしいタイミングで、奏一郎と伊月に泥団子炸裂。涙を浮かべて大笑いする、律花の両肩を響が掴む。
    「カズマ、律にも塗ってやれ!」
    「わ、私はいいわよ!」
     兄妹に容赦なく奏一郎が泥を塗りたくるが、見ればカズマが固まっていた。
    「どうしたんだ?」
     砂浜に倒れたままの伊月がぼそり。
    「『先輩で年上で女性の、どこに触れていいのかわからない』顔だ」
     顔を逸らすパーントゥ、どうやら図星。代わりに集中攻撃される伊月。
    「ほら笑えー!」
     笑顔はじける記念撮影、一人は砂浜に埋もれて動かなかった。

     疲れ果て、泥と砂で汚れた眼鏡を波で洗う伊月の肩を、ぽんと叩くものがいる。見れば【図書館学部1年】の級友たちだ。
    「これでレポート書いたら点数稼ぎできるかな」
     傍観の姿勢の芭子に、それなら助かると伊月も頷く……が。
    「無病息災の為、私もまた神となろう」
     呟く『I am Providence』の声。振り向けば、もっさり髭面の仮面がいた。深淵から来たっぽい不気味な雰囲気。
    「誰だ」
    「我が祝福を受けるが良い」
     エリザベスの容赦ない泥攻撃に晒される、芭子と伊月。よろりと這い出せば、
    「ニライカナイの伝承は、パーントゥと関係あるのかしら」
     そ知らぬ顔のエレナ、背後に隠した両手が怪しい。
    「もう悪い予感しかしない!」
    「ぼーっとしてるから、悪霊が憑いてるかと!」
     瞬発力は圧倒的に芭子の方が上。しかし芭子は飛んでくる泥を避けもせず、伊月の前に立ち塞がった。
    「……」
     おもむろに芭子、泥作りに使ったバケツを取りに行き。
    「無病息災悪霊退散家庭円満焼肉定食ー!」
     ひと息にぶちまければ、三人きれいに泥化粧。あとはもう何が何だかわからない。髭仮面のエリザベスはいあいあ叫び、エレナと芭子は両手で泥をぶつけ合い。
     女性三人がはしゃぐ笑い声の中、一人浜辺に倒れ力尽きた伊月だった。

    「結構異様な光景だな?」
     なんていうか、今まで見てきた『祭』と全然違う。
     【悠々楽々】の一員、充は呟きながら泥飛沫飛び交う仮面に戦慄する。
    「無病息災を祈るのは、確かに良いことだがな」
     長い間を置いてモーガンも頷いた。傍らではライドキャリバーのミーシャが、エンジン音で同意する──と、そこへ飛んでくる流れ泥玉。
     胸で受けて泥まみれ、亨人が呆然と宙を見た。口を開く気力もないと言いたげに。
    「お、おい亨人。大丈夫か?」
     続けて飛んできた流れ泥玉は、まっすぐモーガンの背中に当たる。
    「おや、イードナーさんも二次被害ですか」
     傍観の構えの架月。あくまで他人事でいこうと頑張る架月に、モーガンの指示でミーシャが動いた。エンジン音も高くスピンターンをかければ、砂混じりの泥が架月の頭から爪先まで、まんべんなく泥色に彩った。
    「これはアレか。ヤバい感じか」
     じりじりと後ずさる充。ヤバイというか、ひどい。
     モーガンが膝を付く亨人に駆け寄れば、その袖の一振りで散った泥を頭からかぶった。
    「……少々、魔ガ差シタ」
     そのまま亨人はふらり立ち、日陰を求めてよろよろと。見送れば今度は、架月が靴に泥を詰め、ダッシュで逃げ出す充にぶち当てる光景。イイ音を立て飛び散る泥。
    「逃げられるだなんて、まさか思ってませんよね?」
     こうなっては大乱戦。大学一年男三人が、全力で泥を掴み投げ合う阿鼻叫喚。
    「……疲レタ、なァ」
     ミーシャに支えられる亨人の呟き。エンジンが楽しげに鳴った。

    「泥ぱんつ!」
     パーントゥ、発音はむずかしいですね。沖縄ハイでどんなのか教えるの忘れてたけど、千佳は堂々としたものだ。却ってミカのほうが腰が退ける。
    「わたしがミカちゃんを、家内安全安産祈願にしてさしあげます!」
    「いや産まねェから!」
     穏便に済ませたいミカ、そこだけはしっかり突っ込み。まずは準備運動と体を伸ばせば、泥まみれで飛び込んでくる泥ぱんつ──パーントゥ千佳を本能でかわした。ギリセーフ。
     思ったよりも手ごわいのです、黒豹の称号はだてではないのです……と、丁度よく通りかかるパーントゥがいた。
    「刃鋼さん、ミカちゃんをつかまえてください! 無病息災をこばもうとするのです!」
    「……それは」
     少し仮面を上げたカズマ、目が純戦ばりに笑ってない。この人もきっと沖縄ハイ。
    「手を貸そう」
    「ちょ、卑怯だぞ!」
     素早くカズマに羽交い締めにされたミカ、そあー! と勢い付けて飛び込んでくる千佳を腹で受け止める。泥まみれに挟まれて息が止まる。
     ひとしきり笑ったあと、千佳はミカに、にこやかに仮面と蓑を差し出した。
    「こんどはミカちゃんがぱんつですよ!」

     大騒ぎから少し離れた泥の中、篠と詩奈は泥あそび。
    「……篠、無病息災を祈らせて」
     片手に泥の塊を乗せ、ふわり穏やかに微笑む詩奈。正面から篠にぶつけようと構えれば、きゃああと歓声が上がり篠がよろける。泥が崩れて、大暴投は胸から足元へ。
     砂の混ざった泥に尻餅をつき、篠は笑って手を伸ばす。
    「しぃにゃ、へるぷ~」
    「大丈夫……って、きゃあ!?」
     ぐいっと引っぱれば、二人して泥まみれ。楽しくて笑いが止まらない。
    「しぃにゃ覚悟~!」
     篠がTシャツを引っぱって捲り上げる手を必死に制し、ならばこちらもと詩奈は泥を篠のシャツの中へ。
     ころころ砂まみれの泥まみれ、仔猫がじゃれ合うような泥遊びは続く。

     走り回る仮面と蓑、追いかけ回される泥まみれの笑顔。
    「やっべー、超楽しそうじゃんよ!」
     テンションだだ上がりの御伽に比べ、隣の誇はポーカーフェイス。瞳はきらきらさせて、それでもまだ賑やかな場所は少し苦手で。
     だけど今日の誇はいつもと違う。誰かも判らない泥仮面に駆け寄り、思いきり念入りに泥を塗られては楽しそう。
    (「パーントゥさんせんきゅーっ」)
     誇は無病息災を得られた喜びに、深々と頭を下げる。
    「ははっ、誇泥だらけ。」
     心配することもなく楽しんでいる誇の姿に、御伽は安堵しながら指さして大笑い。
    (「御伽、まだ泥ぜんぜんじゃないか。可哀想に」)
     このままでは病気になってしまう。せっかくの無病息災の御利益があるのに、泥を塗らないなんて、もったいない。
     いそいそと泥を砂からもかき集める誇の姿に、なんとなく嫌な予感がする。
    「うっわ、ちょ! やっぱりか!」
     泥の直撃を受ければ、御伽の体も顔も泥まみれ。誇、やり遂げた顔。
    「せっかくだ、このまま他の連中にも付けてやろうぜ」
    「どっちが沢山泥付けれるか、競争っ」
     二人は泥を集めて走り出す。もう誰かもわからなくなった、カオスな戦場に向けて。

    「え? ぱんつ? ナニソレ」
     ぱーんつーと言っていただければ、少し原語に近くなります。それはともかく、紅虎はもう何が何だか判別不能な泥まみれの集団を、興味津々で見守る。
    「カズマくん……じゃなかったパーントゥさん、こっちこっちー☆」
     泥まみれにしてやろうと画策するのは麦、実は詳細黙って紅虎を連れてきてた。
    「HAHAHA-捕まえてみろぉぉー!」
     逃げる紅虎、追いかける麦。そこへ呼ばれて現れたパーントゥ・カズマ。
    「逃がさん」
     なんだか知らないうちに、本気の脚力で本気の追いかけっこが始まっていた。砂浜を恐ろしい勢いで走っていく三人。
     ふらり、と。その前に立った人影。用を為さなくなった眼鏡を外した伊月だ。どこか半死半生、魂が抜けかけている。
    「あぶなーい!」
    「え」
     眼鏡無し伊月、世界が見えてない。勢いどーんと四人が絡まって砂に転がる。砂浜だから痛くない! はずだが。
    「……つぶれ、る」
     一番下に伊月がいた。まあ、些細な事故だ気にしない。
     どさくさで捕まえ、麦が羽交い絞めにした紅虎をパーントゥ・カズマに差し出せば、容赦の無い泥の洗礼が浴びせられた。両方に。
    「身長伸ばすご利益がほしいです!」
     かばっと起き上がり、真顔で訴える麦(泥まみれ)。
    「えッ、オレも身長欲しいから!」
     負けじと起き上がり、真顔で訴える紅虎(泥まみれ)。
     カズマは仮面をずらして、真顔で考えた。
    「それはたぶん……無病息災とは、少し違う」
    「「デスヨネー」」
     笑い転げながら泥をなすりつけあう麦と紅虎、なし崩しに巻きこまれていく伊月から眼鏡を預かり。仮面を外したカズマは、大きな仕事をやり遂げた表情をしていた。

     ざばあっと勢いよくバケツの泥をかぶるパーントゥが二人。
     【花の扉】の面々は、パーントゥ役の二人の本気を知った。
    「やるからには全力でやるぞ!」
     微塵の情け容赦もない、気魄に充ちた非。
    「非とあたしのコンビネーション、なめんなよ」
     恐ろしげな仮面と蓑を付け、奇怪な動きで威嚇する嵐。
     ──マジでこわい。
    「うわああ、想像以上にこえええ」
     どんな祭りかパソコンで調べていたら、泣く子も叫ぶ怖さだった。中の人が分かっているなら怖くないとか、そんなレベルじゃなかったと、逃げながら楽弍は思い出す。
    「厄払いな上に、泥って言ったら泥パック……」
    「なーんじょーおお~」
     のんびり構えてる場合じゃなかった蓮、すぐ後ろまで、全速力のパーントゥが迫っている。フェイントを入れて回り込むのは、ぼんやり眺めていた智之の影。
    「すまん……俺は逃げる!」
     やっぱり想像以上に怖かった。もしかすると今夜の夢に出るかも知れないなんて、智之も思いながら走る逃げる。
    「中身が2人って分かっててもやばいっス」
     颯人もとにかく二人から逃げる。追いかけっこはどこまで続くのか、それは誰にもわからない。捕まるまでか転ぶまで、諦めるという文字は存在しない!
    「勘弁してくださいお手柔らかに!」
     最初に派手に転んだ楽弍、手加減されないタッグ泥まみれ攻撃に陥落。次の餌食を求めて、二人のパーントゥが辺りを見渡す。
    「男なんだから女の子を守らなきゃ。理不尽だなんて言わせない」
    「え、ちょっとうわああああ!」
     智之を盾にしながらの蓮、二人に追い詰められて逃げ切れず。まとめて笑いながらの泥まみれ。
    「シャァァ! 次は颯人!」
    「おうよ。私達のコンビネーションの前に敵なし!」
     息の合った二人の神の全速力、颯人は掴みかかる指先を背中に感じながら、逃げる逃げる逃げ──
     ずざあっと砂の抉れる音。振り向けば、勢いのまま転んだ嵐の姿。
    「痛ッ」
     足を押さえてうずくまる、その様子にうっかり歩みを止める。
    「嵐ちゃん大丈夫っスか……」
     支えになるよう手を伸ばせば、にやり笑った気配がする。飛んでくるのは泥の塊。
    「嘘だよ」
     つかまえた、と仮面を外した嵐が笑う。
     最後は神も人間も、入り交じっての大騒ぎ。泥まみれの顔を笑って、砂の上に寝転んで、見上げればまだ陽は高い。
    「久しぶりに沢山笑った気がする」
     蓮の言葉に誰もが頷き笑い合い、服も髪も気にせず、砂から海へ飛び込めば。

     学園の空に繋がる、青い青い空。
     心地よい南の風が吹き抜けていった。
     

    作者:高遠しゅん 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月26日
    難度:簡単
    参加:37人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 3
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