修学旅行2014~白熱バトル、深夜の枕投げ大会!

    作者:聖山葵

     武蔵坂学園の修学旅行は毎年6月に行われる。
     そして、今年の修学旅行は6月の24日から27日までの4日間。
     この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅立つという。
     また、大学に進学したばかりの大学1年生も、同じ学部の仲間などと親睦を深める為の親睦旅行が同じ日程、スケジュールで行われるのだ。

     行き先は、沖縄。
     沖縄そばを食べたり、美ら海水族館を観光したり、マリンスポーツや沖縄離島巡りなど、沖縄ならではの楽しみが満載のこの旅行。
     あなたはどんな思い出を作るだろうか?
     
    「修学旅行の夜って言ったら『枕投げ』でしょ?」
    「じゃないかな?」
    「えーと……」
     いきなり同意を求められ、鳥井・和馬(小学生ファイアブラッド・dn0046)は答えに窮した。いや、枕投げ自体は見つかったら先生に怒られるとは言え旅の思い出作りと考えれば悪くはない。
    「詳しく説明して貰ってもいい?」
     話を急にふられたのが問題だったのだ。
    「おお、悪い。実は、ちょっとした企画が水面下で進行中なのさ」
     それは、消灯後に行われる枕投げ大会。
    「先生の目を盗んで、ってことになるけどね」
     見つかれば当然怒られる。
    「先生達の裏をかくって意味もあるけど、普通に寝ている他のみんなを巻き込むのも本意じゃないってことで、場所は多目的ホールを考えてる」
     これなら流れ枕が寝ている人に当たることもない。
    「それに、サーヴァントと一緒に参加したい人だって居ると思ったのさ」
     そうなってくると、布団を敷いた部屋やベッドのある客室ではいささか拙いのでは無いかという話が出たのも場所を変える理由の一つだ。
    「ライドキャリバーのタイヤ跡とかが布団についたら絶対怒られるからね」
    「あはは」
    「もちろん、サイキックやは禁止だし人造灼滅者の人達には人間形態でって限定させて貰うけどそこは理解を求めたいかな」
     ESPについても設備に被害が出る者や、一般人に危害が及ぶものは当然禁止である。
    「度の過ぎた行為や迷惑行為は見かけた時点で、即つまみ出すよ」
     元々楽しい思い出を作る為の企画なのだから。
    「それでルールだけど、大会と銘打ってる以上、勝者を決めるものになるわ」
    「規定回数枕が当たったら脱落して行く方式で、決められた制限時間を生き残れた者が勝者さ」
     サーヴァントを同伴しない者は二度枕をぶつけられれば、アウト。サーヴァント持ちはサーヴァントと主で合計二回ぶつけられたところで脱落となる。
    「仲間内で楽しみたいって言うなら、棄権してホールの片隅で楽しむ分には自由よ。まぁ、流れ枕がとんでくる危険性はあるけどね」
     飛んでくるとはいえ、品は枕。当たったところで大したダメージにはならないだろう。
    「一応枕はホテルのモノのみを使って貰うわ。混ざっちゃったら探すのが大変になるかもしれないし」
    「持ち込みで有利不利が出ると不公平だからね」
    「へぇ、割と考えられてるんだ。じゃあ、オイラも参加してみようかな?」
     和馬は少し感心した態で呟くと。
    「良かった、賞品確保ぉ」
    「え゛っ」
     話し相手の一人に抱きすくめられて固まった。
    「賞品は常識の範囲内で和馬君に言うことを聞いて貰える権利、ね」
    「ちょっ、何それ? だいたいそんな賞品の需要なんて無いよ?」
     慌てて和馬が抗議するが、和馬をホールドした灼滅者は言う。
    「大丈夫、お菓子とか失せモノ系の商品も他に用意してるから」
     そう、賞品とか言い出したのは、和馬をからかう為だったのだ。
    「だいたい、言うこと聞くって言ってもメイド服着て貰うとか、そう言うテストの点数勝負のバツゲームレベルしか許可しないから問題ないわよ」
    「や、大問題だから!」
     うん、からかう為だと思いたい。
    「そうそう、自分達で脱落したらバツゲームってルール作るのも面白いかもしれないわね」
    「ちょっ、オイラの話聞いてる?!」
     そして、いつものように和馬の抗議はスルーされる。
    「だいたいこんなとこかな」
     参加するかは君達次第とでも言うように、ホールの場所と落ち合う時間を書いたメモを残して提案者の一人は去る。
     修学旅行の初めの夜、枕投げで楽しい思い出を作ってはどうだろうか?


    ■リプレイ

    ●交錯する想い
    「修学旅行といえば枕投げだよな。腕がなるぜー! おっ」
     消灯時間が過ぎ、多目的ホールに灼滅者達が集まり出したのは、つい先程のこと。虹路は巡らせた視線に【≪Ks≫】の仲間を見つけて、手を振った。
    「枕投げなあ、お約束とはよく聞くが実際やるのは初めてだな」
     呟きが聞こえていたのか、玖真はやや気怠げに周囲を見回す。
    「二人とも、ここに居ったか。うむ、参加するからには本気でやるのじゃ!」
     人、人、人。審判役を入れれば60人を越えるであろう参加者が集う枕投げ会場では、示し合わせて参加した面々が集まるのにも一苦労である。明も何とか他の二人を見つけると、今度は足下の霊犬に呼びかける。
    「夢々、頑張ろうのぅ! 虹路どのの援護もよろしくなのじゃ♪」
    「わふん」
    「サーヴァントかぁ、コンビネーションに注意しないと……」
     主従の姿を眺めて、ポツリと呟いたのは、鳥井・和馬(小学生ファイアブラッド・dn0046)。数えてみるとサーヴァント連れの参加者は、14名。何故か賞品にされてしまった少年は真剣だった。
    「やっぱ修学旅行と言ったら枕投げはロマンッスよね! と、いう訳でどっちが長く生き残れるか勝負しないッスか?」
    「和馬は被写体として優秀だからな」
     需要がないと思っていたのに、視線が突き刺さるのだ。中には、直接勝負を申し込んでくる和巳の様な者も居たし、大輔からはあんまり嬉しくないお褒めの言葉を預かっている。
    「あ、おれ棄権ね? 身内で楽しむことにしてるから」
     そう言う意味では審判に棄権を申し出ている民乃達【雨降】の面々は歓迎すべき参加者かもしれないが、全体からすればホンの一部。
    「フム、要はバトルロイヤルか」
     ルールを確認した勇也は、短く唸り。
    「枕投げで勝った人が、明日の自由行動でスイーツ奢るってーのはどう?」
    「ふっふっふ。いいよ、絶対に負けないからね!」
    「わかりました」
     【桜堤キャンパス高校2年1組】の在雛がフェルトとアンジェリカに持ちかけたように仲間内で決まりを作って参加している灼滅者も見受けられる。
    「ジルくん、ジルくん、どうせなら罰ゲームしましょう!」
     アルメリアもそんな一人。
    「なるほど。誘った理由はそういう訳か……」
     得心がいったと言った様子でジリアスは呟いた。何かが賭けられれば、嫌が応にも真剣さは増す。その重圧も心理戦だというなら、審判はまだ開始を告げていないが戦いは始まっているのかも知れない。
    「ふむ、罰ゲームか。面白い」
     もっとも隼人の様にプレッシャーどころか笑みを作る材料にしかならなかった事例もあるがそれはそれ。
    「じゃ、そろそろ始めるとしようか?」
     告げたのは審判役らしき灼滅者。
    「今だけは、皆ライバル言うやつ……ね」
    「……そうですね。思い出作りには良い機会です、頑張りましょう」
     ユエファの声に同じ【井の頭6年梅】のアルゲーは頷いて。
    「開始ッ」
     それは始まる。
    「というわけで覚悟!」
    「そんな無茶な要求飲むわけが……って、問答無用!?」
     タイミングを見計らっていたのだろう、罰ゲームの内容を語っていたアルメリアがいきなり枕を掴んで投げつけ。
    「ドーモ、トンカラスレイヤー=サン!!」
    「ドーモ、ヘンタイトンカラ=サン」
     浴衣に包帯の心とマッポーめいたアイサツを交わした鈴莉が枕を手に機を見計らう。
    「今コソ決着のタイム!! イヤーッ!!!」
    「ヘンタイ殺すべし慈悲はない、イヤーッ!!」
     この二人の周りだけクウキ=チガウ、コワイ。いや、戦いの場に変わったと言う意味ではどこも同じか。
    (修学旅行、真珠は該当学年だけど来れないんだよな。安全の為には仕方ないんだが、きっと寂しい思いをしてるよな……)
    「忍者の手裏剣からは逃げられないぞ?」
    「忍者というかGだろ」
     憮然としつつ会場の隅に座っていた咲哉は、同じ【探偵学部】の隼が壁に貼り付く様を見ると、とりあえずツッコミを入れ。
    「隼、君に決めた!」
    「イヤーッ!」
    「任せろ空飛! 拙……へぶしっ!?」
     空牙の枕パスを受け取ろうとした隼が忍者という単語に反応して誰かの投げた枕に撃墜され。
    「くっ、頼んだ文月ッ! この枕に未来を託」
    「後で何か奢ってやるからちょっと踏み台になってくれ、っと」
    「……ごふっ、拙者を……踏み台……に!?」
     言葉の途中で零から踏み台にされて落ちて行くのを見届ける、ショギョウムッジョ。

    ●戦いは非情
    「では、取り敢えず……」
    「ライナス兄ちゃん、いくよっ」
     新乃とビハインドのライナスに。
    「バトルと名のつく限りは負けません。いきますよ」
    「ええ。作戦通りがんばりますですよ、藍ちゃん」
     沙希と藍のペア。
    「ちょっ、やっぱりーっ!」
     始まる前から微妙に嫌な予感のしていた和馬は、枕の十字砲火に顔を引きつらせ。
    「え?」
     だが、複数方向から飛んできたはずの枕は、弾かれ、床に落ちる。
    「序盤で落ちられても面白味に欠けますしねェ。お助けしますよ?」
    「そこだ!」
     枕を打ち落としたトリハが笑い、和馬へ枕を投げつけた新乃を狙い利恵が枕を投じた。
    「和馬、援護するんだぜ!」
    「常道とは言え……同族に近い彼は放っておけぬ……」
     更に葵が駆けつけ、クロードが和馬への射線を塞ぐように立ち塞がれば、襲撃者側の分が悪い。
     兎変身で参加者を錯乱するところまでは良かった、問題は賞品に味方しようとする参加者の方が襲撃者より多く、一部は積極的でなかったこと。
    「……いや、和馬くんが罰ゲームしてるとことか、なんとな~く、見たいじゃない?」
     そう言われれば同意した参加者だって居たかもしれない、だが。
    「ここ離れた方が良さそ……ね」
     旗色悪しと見て遠距離から一投するなり離脱したユエファは霊犬のジョンに乗った葵に追い払われ。
    「えっと、まずは、リンさんと幸谷さん、十四行さん、流希さんに枕をぶつければ宜しいのですね?」
     人が減って行く。枕が飛び交うようになれば、直撃を受けて失格者が出るのも当然の流れだった。【玉川上水キャンパス 高校2年9組】の双調が口にする確認も一つの発端。
    「いや、ちょっと待て」
     味方だと思ったクラスメートから狙われるというまさかの超展開が混乱を呼ぶ。
    「さて、クラスの学年と組を知らしめるチャンスじゃぞ!」
     浴衣姿でそう言っていた祇音はまだチーム外の参加者を狙っていたが、双調の投げる枕は既にクラスメイトに向けられていたのだ。
    「いーかお前ら、いつもいつもヤラれ役に徹する俺と思うなよ?」
    「これは……なぜ仲間内で追い詰められているんだろうか」
     不敵に笑む幸谷と背中を合わせる形で、流季は困惑の色を隠さない。
    「ここで負けると罰ゲーム二連荘になるのは確実……っ!」
    「や、やられるものですか! 生き残ってお腹一杯ソーキそば食べるんです……!」
     顔を引きつらせながら十四行は落ちてる枕を拾い上げ、リンは壁歩きを使い壁へと貼り付く。
    「慈悲は、ありません」
     有言実行、宣言通りに芙蓉はにこっと微笑んで容赦なく枕を投げる。
    「今日の俺は……なんと! ポジションが! ジャぶっ」
    「……ごめん、幸谷」
     流季を狙った筈のそれは、幸谷の後頭部を直撃し。
    「助太刀するのじゃ!」
     ポテッと床に落ちた枕を拾い、姫月は賞品の敵に襲いかかった。
    「きゃあっ」
    「沙希ちゃんっ」
     悲鳴が上がるが、命中は一枕目、脱落ではない
    「我は違和感を覚えておっ」
    「お返しですっ!」
    「く」
     回想シーンさえ許さぬ反撃が枕の形をとってマシンガンの如く姫月に攻め寄せる。
    「枕投げなど病院でした悪ふざけ以来だな」
     あちこちで激しくなって行く枕の応酬。雪緒は口の端を綻ばせると、自分に投げられた枕を回避し、ちらりと【天文台通りキャンパス2G】の仲間を見た。
    「へっへっへ……いいの仕入れておきやしたぜ」
    「悪いな」
     人間形態へ「誰だお前」と言った相手への不意打ちは忘れない。だが、枕を持ってきたくれた利英への礼も忘れず。
    「ってちがいやす、あっしは枕じゃありやせん! あっしを盾にせんでください」
    「盾に使ってなどいないぞ。私は身長が高いから視界の邪魔にならないよう後ろにいるだけだ」
     コントのようなやりとりを繰り広げつつ、前を見た。
    「なかなか面白くなってきたっすね……まけないっす!」
    「全力でいきますよ!」
     チームを組んで戦おうとも周りは敵。一撃貰ったらしい夏々歌が前髪を払いのけ、仲間を攻撃してきた参加者の頭上に詩乃は枕の雨を降らせる。
    「あ、ここにもあった」
     ただし、それは囮。だが、【マーベラス】の面々には恵みの雨だったかも知れない。
    「戦いの基本は補給だよ」
     床に落ちて力を失った枕を登は拾い上げるとライドキャリバーのダルマ仮面に積み込み、アッシュもまた霊犬のミックに拾った枕を渡す。
    「しかし、流れ枕も多いですね」
     壁を背にし、外周から戦場を眺めつつ盾用の枕で白虎は飛んできた枕を弾くとポツリと呟いた。中盤にさしかかりつつある戦いはチラホラ脱落者を出しつつも三人からすれば総攻撃には早すぎたのだ。

    ●外の戦い、内の戦い
    (「まこと一緒。うれしい、がんばる」)
    「修学旅行で枕投げってロマンだよね! みんな、がんばろー!」
     同じグループに割り振られたまことを見て春は無表情のまま頷けば、残りの二人をスルーして敵陣を見た。やりづらい相手でも居るのかもしれない。
    「遊びと言えども勝負は勝負、てなわけで覚悟し」
    「戦は初手が肝心に御座りまする」
     会場内の激戦が産む混沌から切り離された場所で、【雨降】の面々は二手に分かれ、対峙しており、勇と慈乃の投げた枕が戦いの火ぶたを切って落とした。
    「うわっ」
     僅かに早かったのは、勇。
    「ならばこちらもとりあえず――」
     近くにあった枕を拾い上げて、涼風は投げ、拾っては投げる。
    「っ、この程度」
    「ふふ、負けないんだから! お返しだよ涼風!」
     二人の攻勢の為か、反撃は男性に集中し。
    (「絵に描いた様なイケメンですね……」)
     庇われてることに気づいた漣は密かに思う。
    「ふふ、皆楽しそう」
     直もそんな仲間達を見て、また微笑み。
    「はい、直も一緒に思い切り投げよ?」
    「ようし……えいっ!」
     漣の差し出した枕を受け取ると思いっきり投げつけた。
    「あれ?」
     ただし、枕カバーがすっぽ抜けて、中身はあらぬ方向に飛び。
    「っ、民乃は俺が守る!」
    「やだ惚れちゃう……」
     落ちてくる枕を打ち落としたまことを見て民乃が呟く。
    「っ、民乃は俺が守る!」
    「やだ惚れちゃう……」
     落ちてくる枕を打ち落としたまことを見て民乃が呟く。
    「っ」
     丁度その直後だった、春の後頭部に枕が命中したのは。
    「え、慈乃先輩! どういうことですか!?」
    「寝返り裏切りは戦の華ってね!」
     くるりと振り返り慈乃はこれまでの味方に指を突きつけ、口を開いた。
    「覚悟だ民乃! そしてま」
    「慈乃パイセンめ、裏切るとは許すまじっ」
    「裏切り者には制裁を」
     言葉の途中で怒声が被せられ、更に反撃の枕が飛ぶこととなったが。
    「……けれど貴方はお呼びでないですよ、センパイ?」
    「……って、アイタ! ちょっと誰だよーって……ん?」
     慈乃に向けられた枕は元味方だけのモノではなく。
    「裏切りとは不届き千万!」
    「あれー? いつの間に孤軍になったのよ僕」
     寝返った先の【雨降B】側からも狙われて顔が引きつる。
    「あれ? 何だか混戦……してきた、かな?」
     直は状況に理解が追いつかないで居たが、それはそれ。
    「喰らえ、雪崩枕っ!!」
     片隅で一人の裏切り者が粛正の流れになっていた頃、会場の参加者も脱落により減りつつあった。
    「よっと、危」
    「悪いな」
     弥咲が大量に投げた枕から同じ【外国語学部】の歩夏は近くで回避行動を取っていた舞桜を盾にする。
    「ちょっ」
     待てと言われても意志を持たぬ枕は止まらない。
    「くそ、あたっちまっ」
    「はい、キミ退場ね。あ、そっちも」
     熱くなってサイキックを行使しようとしたり、目つぶしにそば殻をバラ撒こうとして審判に見つかった密かに退場者を出しつつも白熱する戦いは続く。
    「てめぇ……こっち投げてんじゃねぇぞ、ごらぁ!」
     流れ枕が顔面にヒットしたアトシュはいきり立ちながら枕を手に乱戦へ飛び込み。
    「くっ、新手か。一応俺にもシューターとしての意地がある。そう簡単にゃやられん!」
     真言は顔しかかめつつも、乱入者を視界に入れたまま抱えた四つの枕から一つを抜き取った。

    ●勝敗の行方
    「にゅ、何するんですかぁ、良い気持ちで寝ていたのにぃ」
     正しい枕の使い方を教えてあげるのですよぉ、と言って横になっていた亜綾を眠りの園からけり出したのは、一つの流れ枕だった。
    「わううっ?!」
    「にゅ、こうなればぁ、烈光さん枕ミサイル発射なのですぅ」
     突然主に掴まれて挙動不審に陥った霊犬が涙目で宙に舞う。
    「えーっと」
    「きゃうーんっ」
     戦いが始まる前、クラスメイトの亜綾に容赦しないよと語っていた蛍も、その扱いはあんまり思ったのかいつものハイテンションさにお休みをあげつつ、枕で迎撃された霊犬散りざまを見送った。
    「か、勝ちは勝ちなんだよ!」
     主人と霊犬それぞれ一回枕を受けたので失格なのだ。
    「ナノナノ~」
    「おっと」
     ナノナノのももの鳴き声を聞いて柚理が反射的に頭を下げた上、背面にある壁にぶち当たった枕はポロリと落ちた。
    「参加者も減ってきましたね」
     乱れた浴衣姿でアンジェリカは呟く。同行者が相打ちに近い形で倒れ、壁歩きで壁面を移動しつつ見つめる先は未だ続く激戦区。
    「さって仕掛けるとしましょうか」
     そう、葛葉が機と見て飛び込んだ戦場だった。
    「無事で、よかっ」
    「勝負ですからねェ♪」
     先程までの味方が敵となり。
    「総攻撃だよー」
    「ひぃ、逃げ切れると思ったのに。後生ッス! 見逃」
     様子見していた者が転じた攻撃が賞品を狙う攻防の双方を巻き込む。
    「男子も全滅したようですし、次は和馬君を狙いましょうか」
    「かっこつけても……こんなもんか」
     【マーベラス】の総攻撃で幾人もの脱落者を出したところでの【玉川上水キャンパス高校2年9組】残存メンバーによる攻撃。
    「さあ、探偵の力を見せてやろう」
    「……油断しているところを確実に狙う、ステロが教えてくれた」
     そこかしこで決着が付こうとしていた、ジリアスとアルメリアの決着もまた。
    「うぐっ……負けた……ああもう悔しい! なんなの、全部顔を狙ったのがいけなかったの!?」
    「流れ枕、かぁ」
     同じ理由で脱落した賞品は遠い目をし、やがて訪れるタイムアップ。
    「勇也、姫月、隼人、零、蛍、アルゲー……」
     勝者のうち賞品にお願いを聞いて貰える権利を選択した者の名前が静かに読み上げられる閉会式を経て、枕投げ大会は幕を閉じる。
    「勝負言うしても、勝っても負けても何だか楽し……ね」
     激闘の思い出を残しながら。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月24日
    難度:簡単
    参加:59人
    結果:成功!
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