ペリメニスープカレー怪人あらわる!

    作者:七海真砂

     北海道、札幌市の中心部に位置する大通公園。東西約1500mに渡って広がり、いつもならば多くの市民の憩いの場となっているはずのその場所で今、人々は悲鳴を上げながら逃げ惑っていた。
    「いやあああっ!」
    「熱い、熱い~っ!」
     ある者はワゴンをなぎ倒しながら公園を逃げ出し、ある者は噴水に飛び込む。その元凶となっているのは……。
    「ふはははははは! さあ食え、もっと食え! この『札幌ペリメニスープカレー怪人』が作り上げた、至高のペリメニスープカレーを!」
     高笑いしながら、札幌ペリメニスープカレー怪人と名乗ったダークネスは、熱々のスープを人々に撒き散らしている。
    「札幌名物スープカレーはロシア化する事で、更に至高の味覚へと羽ばたいた。このペリメニスープカレーを広めることによって、ロシアの姉妹都市である札幌市全体のロシア化を促進し、生まれたロシアンパワーをロシアンタイガー様に捧げ、世界征服を叶える……うむ、素晴らしい計画だっ!」
     自信満々に頷いたペリメニスープカレー怪人は、逃げ惑う人々を追いかけ、そして熱々のペリメニスープカレーをたっぷりと彼らに浴びせた。
     
    「という傍迷惑なロシアン怪人が現れる事が分かったから、何とかして欲しいの」
     集まった灼滅者達に告げた須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が、ちょっとげんなりとした様子に見えたのは、気のせいでは無いだろう。
    「黒蜜・あんずさんの調査で、ロシアンタイガーが日露姉妹都市を転々としている事が判明したんだけど、この札幌市もそうでね。どうも今回の怪人は、ロシアンタイガーが立ち寄った影響でロシア化しちゃったみたいなんだよね」
     放っておけば、ご当地怪人はロシアンパワーを着々と蓄積していくだろう。
     やがてはロシアンタイガー本人の強化などにも繋がるかもしれない。それを阻止するためにも、そして札幌市のロシア化を防ぐためにも、この札幌ペリメニスープカレー怪人を灼滅する必要があるのだ。
    「食べろって言いながら、実際には掛けるだけで食べさせてないよね、この怪人。……ところで、ペリメニってなぁに?」
     へーんなの、と呟いた後、きょとんと首をかしげたフェルディナンド・アマデウス(中学生エクソシスト・dn0123)に、「それはね」とまりんは応じる。
    「ロシアの家庭料理で、一口サイズの水餃子みたいなお料理だよ」
     生地にヨーグルトが練りこんであったり、スメタナと呼ばれるサワークリームのような物に絡めて食べるなど、日本の餃子とはちょっと違う。
     一方のスープカレーはスパイスを利かせ、大きな具材をごろごろと煮込んだ料理のこと。スパイシーなスープの具材が、一口水餃子になっている所をイメージすると、ペリメニスープカレーがなんとなく、どんな料理か分かる……かもしれない。
     
    「で、その札幌ペリメニスープカレー怪人なんだけど」
     本題に戻り、まりんが怪人についての説明を始める。それによると、札幌ペリメニスープカレー怪人は、熱々のペリメニスープカレーをビームのように飛ばしてくる『ペリメニスープカレービーム』を得意技としているようだ。
    「火傷の心配は無いだろうけど、本当に熱々だから、落ち着いて冷静に対処してね。他には札幌ブリザードキックと、ノヴォシビルスクダイナミックっていう技を使ってくるよ」
     ちなみにノヴォシビルスクとは、実際に札幌と姉妹都市になっているロシアの街の名前である。
    「事件が起こるのは、明日の午後13時。天気が良いのもあって、公園には大勢の人がいるから、極力巻き込まないようにできると、いいんだけど……」
     こんなのでもダークネス、しかもロシア化している位なので決して弱い相手ではない。
     人々に気を取られすぎて怪人への対応がおろそかになってしまうと、元も子もない状況に陥ってしまうだろう。
    「バランスが重要ってことだね? こんな滅茶苦茶なこと許せないもん、うまく頑張って、何とかしなくちゃね」
     話を聞いて、フェルディナンドもうんうん頷いている。そんな灼滅者達を見回し、まりんは最後にみんなを鼓舞する。
    「これから、札幌ペリメニスープカレー怪人が起こす凶悪な事件の数々を防げるかどうかは、みんなにかかってるよ。よろしくね!」


    参加者
    桜庭・理彩(闇の奥に・d03959)
    橘・清十郎(不鳴蛍・d04169)
    城橋・予記(お茶と神社愛好小学生・d05478)
    赤松・鶉(蒼き猛禽・d11006)
    契葉・刹那(響震者・d15537)
    笹川・瑠々(異形を振るう凶殲姫・d22921)
    ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)
    東・喜一(走れヒーロー・d25055)

    ■リプレイ

    ●いざ行かん北海道!
     朝のラッシュに逆らうように空港へ向かい、飛行機に乗ること1時間半。更にまた電車で移動し、灼滅者達は札幌駅へと降り立っていた。
    「へえ、ここが札幌駅か」
     城橋・予記(お茶と神社愛好小学生・d05478)は淡々とした様子を装いながらも、思わず駅構内を見回す。
    (「九州から遠く離れた北の地……き、緊張なんてしてないよっ」)
     初めての北海道、慣れ親しんだ佐賀駅との違い。内心どきどきしながら改札口へ向かう。
     そんな灼滅者一行に、行き交う人々の視線がチラチラ集まる。何故ならば、
    「現場は駅の南だったな」
    「あっちが南口みたいだよ」
     フェルディナンド・アマデウス(中学生エクソシスト・dn0123)が指差す方へ大真面目な顔で歩き出したルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)の背中には中華鍋。
     リュックサックのように中華鍋。
     機内で一旦外した以外は、常にずっと中華鍋。
     さすがに集合からこうだったので、他の面々も「なんで鍋?」と尋ねたのだが、
    「実は私には病院時代から面倒を見ている義理の幼い弟妹がいてな。この話をしたら明後日が誕生日の末っ子が、ペリメニというご馳走をどうしても食べてみたいと言い出したので、何とか持って帰ろうと決意したのだ……という設定を今考えた」
     要約するとペリメニを持って帰りたいらしい。
     ちなみに中華鍋の内側は、蓋やジッパーのついた保存容器が詰め込まれているという念の入れようだ。
     人々の視線は浴びたものの、大きな騒ぎになる事はなく。一行はそのまま、札幌ペリメニスープカレー怪人が現れるという、大通公園へ向かった。
    「広いですね」
     到着してすぐ、契葉・刹那(響震者・d15537)が感じた印象はそれに尽きる。右を見ても左を見ても公園の果てが分からない。東西1500mは伊達じゃないようだ。ひらけた公園なので避難経路には困らなさそうだが、怪人がどこから来るかによっても、ルートは変わるだろう。いくつかのパターンを刹那は素早く考えていく。
    「できれば事前にある程度、人払いをしておきたいですね」
     東・喜一(走れヒーロー・d25055)は早速封印を解除すると、殺界形成で自分から遠ざけられないかと考える。
     が。
    「………」
     その姿を見た人々の多くは、殺界形成を使わずとも喜一と目を合わせないようにして離れていく。
     おそらくそれは、喜一が「みんなに心を込めて御奉仕するために!」と普段から身に着けているメイド服姿だからだろう。その輝くほどに真っ白な純白エプロンとニーソックスが、まぶしいからに違いない。

    ●札幌ペリメニスープカレー怪人を倒せ!
     そんな大通公園に、今新たに迫る怪しい影ひとつ。
    「はっはっは! 今こそペリメニスープカレーを広く市民に知らしめる絶好のチャンス!」
     高笑いしながら大きな声で言い放つと同時に、辺りにスパイシーな香りが立ちこめる。
     間違いない、あれこそ札幌ペリメニスープカレー怪人だ!
    「ほれほれ、とっとと逃げ失せるが良い!」
     それに気付いた笹川・瑠々(異形を振るう凶殲姫・d22921)はライドキャリバーの古鉄丸を怪人の足止め役に送り込みつつ、すぐさまパニックテレパスを周囲に送る。一瞬でパニック状態に陥った人々は、取る物もとりあえず駆け出した。
    「ひええぇ……」
    「大丈夫か?」
    「あ、あちらへ……!」
     腰を抜かしてしまったお婆さんには橘・清十郎(不鳴蛍・d04169)が手を貸して立ち上がらせ、割り込みヴォイスを使っていた刹那が、最も効率の良い避難経路を誘導していく。
    「おのれペリメニスープカレー怪人! 許さん!」
     このままでは公園も人々も汁まみれになってしまう!
     怒りを胸に、そうならないよう迅速に避難を進めなければと、喜一も手を尽くす。
    「それにしても名前長いな――」
     ふと、舌を噛みそうだから、何か良い略称は無いだろうかとぼやく喜一。その余裕があるくらいには、避難誘導の手は十分に足りていた。
    「ですので、手筈通りにお願いします」
    「勿論ですわ、お任せあれ♪」
     刹那に呼びかけられた赤松・鶉(蒼き猛禽・d11006)は頷くと、怪人に向かって歩き出しながら、ばさあっと上着を脱ぎ捨てる。封印解除した鶉の体は光を浴びながら、一瞬にしてコスチューム姿へ変わっていった。
    「前衛の守りは任せたぜ、鯖味噌!」
     清十郎も避難の目処がつくと、残りは仲間に任せ、霊犬と共に怪人の元へ向かう。

    「ぬぬ。邪魔をするでない!」
     一方、怪人は刹那のライドキャリバーを振りほどきつつ、ぽつんと公園出入口付近にいた1人の少女へ目を光らせた。
    「ふははは! さあ少女よ、お主もこの至高のペリメニスープカレー食らうのだ!」
     熱々のペリメニスープカレーを浴びせかけようとする怪人! だが、
    「……スープカレーを流行らせたいなら、こんな季節じゃなくて、冬にすべきだったわね。ロシア化の影響で季節感覚が無くなったのかしら?」
     その少女、桜庭・理彩(闇の奥に・d03959)は微かに一瞥しながらスープカレーを避けると、冷ややかに怪人を睨み返した。12時まで公園の外にいた理彩は、騒ぎを聞きつけ、今まさに公園に入った所だったのだ。
     逃げ遅れた訳でも手頃な獲物でも何でもなかった。
    「くっ、灼滅者であるか……!」
     しからば! とペリメニスープカレービームを放つ怪人。ナノナノ有嬉がふわふわハートを飛ばす中、
    (「うっ、ちょうどお昼時だもんね……で、でも、怪人の誘惑には負けないっ!」)
     美味しそうな香りにお腹が鳴るのをこらえつつ、予記はWOKシールドで怒りを誘うように殴りつける。すかさず、すいーっと近付いていったのはルフィアだ。瞬時に殲術執刀法を繰り出すルフィアが放つ殺気に、周囲の一般人は更にどんどん離れていき、
    「さあさあ皆さんこっちです! 私達が付いてますから安心してくださいね☆」
     土星からやってきたという魔砲少女、真剣狩る土星(マジカルサターン)が明るく笑顔で元気よく、彼らを公園の外へ誘導していく。
    「ペリメニスープカレーの味を広めるのは多いに結構! 結構ながら、熱すぎる料理は料理自体の味を殺してしまうでしょう――というか掛けるだけで食べさせてないですし?」
    「ぐぬっ」
     鶉からのフォースブレイクは、ダメージ以上の何かを怪人に与えたらしい。「広めるというと正当な理由のようですが、スープをかけて嫌がらせするのでは、かえって嫌われるのでは……」という遠くからの刹那の呟きも、しっかり耳に届いて更にダメージ倍増の勢いだ。
     その反応に「自覚無かったんだ……」と、少し可哀想な子を見るような視線を向けつつ、フェルディナンドはジャッジメントレイを撃ち込んだ。
    「うううるさい! これもすべて札幌ペリメニスープカレーを布教するために練った壮大な計画の一部にすぎん!」
     明らかに動揺しながら札幌ブリザードキックを放つ怪人。それを受け止めた予記を回復しつつ、喜一は怪人を真正面から見据える。
    「どうして人に汁を掛けるなんて酷いことをするんだ! ペ・リメ・……」
    「変な所で切らないでぇぇぇ!」
     喜一のペリメニスープカレー怪人の呼び方に、思わず耳をふさいでる城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)。可憐でお年頃な乙女に、そのフレーズは禁物だ!
    「必要以上に時間を掛ける気はないわ。確実に片付けましょう」
     呼び名も倒してしまえば関係ないものね、と理彩がトラウナックルを叩き込む。すかさず鶉は跳び上がり、螺穿槍を捻じ込んだ。
    「死の閃きにて永きを断つ……即ち、死閃永断衝!」
     因果と名付けられた咎人の大鎌を翻し、瑠々は鋭い一撃を繰り出す。手早く人々の誘導を終えた刹那も、合流するとディーヴァズメロディを歌い上げ、その旋律でペリメニスープカレー怪人を揺さぶっていく。
    「それに、食べ物を粗末にしてはいけません。い、いえ、そのっ、決して私が食いしん坊だから、言っているわけでは……」
    「ぬ、ぐぐぐ……!」
     後半ごにょごにょしながらの刹那の声ではあったが、前半は実際正論なので、怪人の方はぐうの音も出ない様子。
     しかしそれでも「札幌より生まれし、この至高の味覚を広く知らしめる邪魔をするとは、不届き千万!」と抗う怪人だったが、更に予記から青く煌くスターゲイザーを浴び、
    「お前さんの郷土愛、痛いほど感じるぜ。だが、道が間違っている。郷土料理で人を傷つけて何がご当地愛か!」
     同じくご当地を愛する身である、清十郎からの必殺ビームに貫かれる!
    「うおおおお!」
     雄叫びを上げる怪人だったが「まだだ、まだやられる訳にはゆかん!」と、踏み止まって身構えた。
    「ロシアと融合した新たな食文化を根付かせ、今こそ世界征服を果たすのだー!」
     怒りに駆られた怪人は予記を掴み、一気にノヴォシビルスクダイナミックを繰り出す。
     そうはさせません! とすぐさま喜一は指先に霊力を集め、
    「皆さんの安全は、メイドであるオレが守ります!」
     祭霊光を放って回復していく。更に響き渡った美しい歌声は、刹那のエンジェリックボイス。2人の力で回復は十分だと見て取ったルフィアは、ならばと怪人に向き直り、フォースブレイクを叩き込んだ。
    「美味しい料理でも無理矢理押し付けたら駄目でしょ。そんな事もわかんないの?」
     予記は攻撃と同時に霊力を放射し、怪人を縛り上げる。予記だって育ち盛りの食べ盛り、美味しい料理には確かに目が無いかもしれないが、なんでも無条件に大歓迎すると思ったら大間違いだ。街の人々だって誰だって、それは変わらない。
    「この時期だものね。しっかり火は通しておかないと」
     それでも食べて欲しいと言うのなら。理彩は愛刀の心壊に炎を宿して、一気に怪人を叩き斬る。炎に身を包まれながらも、怪人はペリメニスープカレービームを撃つが、
    「倒れちゃ駄目ですよ! カレー怪人なんかぶっ飛ばせー!」
     市民の皆さんに代わってサターンが応援しながら、リバイブメロディを奏でる。
    「出会いが別の形なら友になれたかも知れないが……ここで倒させて貰うぞ!」
     すかさず斬魔刀を繰り出す鯖味噌と、スターゲイザーを放つ清十郎の、コンビネーションアタックが見事に決まった。
    「古鉄丸!」
     瑠々はライドキャリバーに飛び乗り、螺旋を構える。一気に加速する古鉄丸の勢いを生かして跳躍した瑠々は、大きく螺旋を振り上げた。
    「戦神の力を用い全てを凌駕する……故に、戦神凌破刃!」
     超弩級の一撃が、まさしく一刀両断のごとく怪人を粉砕する。その体を、瞬く間に鶉の腕が絡め取った。
    「さあ、北の大地に叩き落して差し上げますわ!」
     まさしく地獄を見るかのように強烈なバックドロップ!
     真っ逆さまに叩きつけられた怪人は低く呻くと、
    「くっ! だがしかし、まだ終わりではない。第2第3の怪人が必ず貴様らを――!」
     怪人お約束の捨て台詞を残して、札幌ペリメニスープカレー怪人は大爆発すると、跡形も無く消え去っていった。

    ●そして平和は守られた!
    「……しまった! ペリメニが……!」
     ハッと我に返ったルフィアが駆け寄るが、辺りにはスパイシーな残り香が漂うだけ。ペリメニスープカレーは、怪人と共にすっかり消え去っていた。
     まるで、ひと時の夢、幻であったかのように……。
    「……私の所属していた病院は貧乏でな。ペリメニなんてハイカラなものは、これまで食べたことが無かったというのに……」
     嗚呼、一体どんな味がしたのだろう。
     ペリメニがゲットできずに嘆くルフィアだったが、消えてしまった物はしょうがない。
    「お疲れ、鯖味噌」
     かくして戦いは終わった。清十郎も大切な相棒をねぎらっている。予記がサウンドシャッターを解いた上で、灼滅者達は人払いの為に使っていたESPを次々と解除し、殲術道具をスレイヤーカードの中へ戻していく。
    「……いい加減技名を叫ぶ年でもないが、癖でのう……」
     ちょっと思い返して照れくさそうにしつつ、瑠々も愛用の鎌を片付ける。
    「ロシアンタイガーには、どこかで追いつけるのですかねぇ」
     ふうと一息ついて、鶉はご当地幹部の行方に思いを馳せる。エクスブレイン達によれば、札幌以外の場所でもその足跡があるという。
    「いつか追いつく事ができたら、技の1つも見舞ってやるのですが!」と戦いのダメージを感じさせない様子で意気込む姿は、お嬢様とは思えない程に勇ましい。
    「さて、せっかくです。時計台とか見てから帰りませんか?」
    「いいですね、ぜひ観光したいです」
     気を取り直して呼びかける鶉に、渡りに船だと刹那が嬉しそうに頷く。オススメの場所ならば、ぜひ見てみたい。
    「近いんですか?」
    「すぐそこだな」
     地図を広げた刹那に頷き、ここだと指差したのは、同じく時計台を観光して帰ろうと考えていたルフィアだ。おそらく徒歩5分も掛からないだろう。
    「観光か、それも良いな」
     女性陣の会話に瑠々も頷き、ふと大通公園の緑豊かな風景に目をやる。
    「広大な自然を見ると故郷が懐かしくなってくる……郷愁に浸るのもよかろうて」
     古鉄丸に運転を任せて、いろいろ見てみるのも悪くないかもしれないと瑠々は呟く。
     謎多き瑠々の故郷を詳しく知る者はこの場にいない。だが、その瞳に込められた思いには皆、共感する事ができた。
    「……ところで」
     理彩が、そっと静かに皆へ切り出す。
    「まったく今の戦いと因果関係は無いのだけど、スープカレーが食べたいわ。どこか美味しい店は無いかしら」
    「はいはい! 理彩ちゃん任せて!」
     実は食べる事……特に辛いものが大好きな理彩が、こらえきれなくなって零した言葉に、フェルディナンドが大きく挙手しつつスマホを取り出す。
     初めて聞いたペリメニスープカレーという料理に興味を持っていた刹那も、2人の会話にそっと耳を傾ける。
    「ペリメニスープカレーのお店は見つからなかったけど、スープカレーの有名店に『モモ』っていう似たメニューがあるみたいなんだ~」
     モモとはネパールの餃子である。そしてペリメニも餃子だ。つまり両方とも餃子。
    「なるほど、ぎょうざ繋がりですか」
     それはいいですね! と喜一も頷く。
    「じゃあ時計台を見学したら食べに行こう!」
     完成した観光プランに、予記がわくわくしながら歩き出す。千波耶も楽しみだと嬉しそうな笑顔を覗かせた。その間に、ちゃっかり近くのワゴンでとうきびを買っていた鶉が戻ってくる。
    「それだけ回っても夕方には戻れそうだな」
     清十郎は、自分の帰りを待っているだろう恋人の顔を思い浮かべながら、そうカードの中の鯖味噌へ語りかけると、皆の一番後ろについて歩き出した。

     こうして怪人の野望は潰え、灼滅者達の手によって平和は守られた。
     そして、しばしの観光を楽しんで、一行は帰路につくのだった。

    作者:七海真砂 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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