獄炎獣の凶行

    作者:星乃彼方

     そこは地獄だ。
     否、それは少し語弊があるかもしれない。
     この現世に地獄が現れた。そう表現することが正しいのだろう。
     元々そこはただの洞窟だった。しかし、今は違う。
     湖が冷やした清涼な空気は、息を吸うだけで体の内側から乾かすものに変わった。
     月明りが僅かに闇を照らし出していた洞窟内は燃えるような赤が光と闇を塗りつぶした。
     月明りに反射して煌いた小さな湖は血の池のように真っ赤に燃え盛った。
     ごつごつとした無骨な岩壁には大人数人分くらい大きい爪痕がいくつも残された。
     この洞窟内で共存していたいくつもの生命は一つ残さず消滅した。
     この地獄において尚、輝く生命は洞窟の最奥で地響きのような唸り声をあげていた。
     それは、燃え盛る獅子のごとき、破壊と破滅をもたらす獣。
     この獣こそがこの地獄を生み出した存在であり、この地獄の主であった。
    「どうやら集まっていただけたようですね」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)が集まった灼滅者たちに声をかけた。
    「今回、私の方でダークネスの行動を未来予測することができました」
     そう告げる姫子の表情はいつにも増して真剣そのものだ。
     ダークネスは灼滅者の宿敵だ。ダークネスは非常に強力で危険な敵ではあるが、灼滅する事こそが灼滅者の使命であることを姫子は改めて灼滅者らに説明する。
    「厳しい戦いになることは確かですが、今回予測した未来に従えば十分ダークネスを追い詰めることはできるはずです」
     だから頑張りましょう、と告げて姫子はノートに記載した内容にもう一度目を走らせる。
    「今回のダークネスはイフリート、神話の存在である『幻獣種』です」
     破壊と殺戮の限りを尽くす暴虐の獣である。まだ一般人に被害を出していないとはいえ、そのような獣を放置するわけにはいかない。
    「現在、イフリートが住処として構えているのが、とある山中にある洞窟です。観光地や登山道からも離れているために地元の人でも知らない人が多いようです」
     今回はそれが幸いしているのですけれどね、と姫子は少し困ったように微笑んだ。
    「けれども楽観することができません。イフリートの衝動は既に限界に近づいているようで、このままだと洞窟を飛び出して山中を破壊し尽すでしょう。そうなる前にみなさんに灼滅してほしいのです」
     灼滅者たちが頷くのを確認してから姫子は説明を続ける。
    「イフリートの住処までの地図はこちらで用意しておきました。これに従えば現場まで行くことができます。ただし注意してほしいのはイフリートのいる洞窟に行くのは夜明けの直前でなければなりません」
     夜明けの直前に行かなくてはならないのは姫子が未来予測から導き出したものだ。この時間であるならばイフリートは僅かな休息を求めて洞窟の一番奥に戻る。そこがチャンスだ。それ以外の時間帯だと戦闘中にイフリートが洞窟外へと出る可能性がある。そうなってしまえば、灼滅者たちの手に負えないばかりか周りの環境が悉く破壊されるだろう。
    「イフリートの能力は全部で四つです」
     四つのうち三つはファイアブラッドと同様のサイキックだ。しかし見た目も威力もファイアブラッドのそれとは段違いだ。
    「そして注意してほしいのは、フェニックスドライブを使った後です」
     姫子が言うには、体力が半分程度までになるとフェニックスドライブを使用するようになり、それ以後、四つ目の能力が解放されるのだという。
     四つ目の能力は近接単体攻撃だが、追撃のエフェクトが追加されているので、他の攻撃よりも威力が高いだろう。
    「私からの説明は以上です」
     説明を終えた姫子はノートを閉じて灼滅者たちを見つめる。
    「未来予測の優位はありますけれども、一筋縄ではいかない相手です。どうか気を引き締めて向かってください」
     必ず生きて、全員で帰ってきてください。と姫子は灼滅者たちを送り出すのだった。


    参加者
    七篠・誰歌(名無しの誰か・d00063)
    ポンパドール・ガレット(ほうおうのひな・d00268)
    赤倉・明(高校生殺人鬼・d01101)
    那賀・津比呂(何処にでも居る調子の良いヤツ・d02278)
    王華・道家(中学生ファイアブラッド・d02342)
    山崎・余市(火属性の空手少女・d05135)
    ブリギッテ・ヘンネフェルト(なまけもの天国・d05769)
    雨宮・悠(夜の風・d07038)

    ■リプレイ

    ●月明りが消える時
     道中を照らしてくれていた優しい月明りは既に地平線へと落ちようとしている。
     灼滅者たちは姫子から指定された洞窟から少し離れた所に待機をしていた。
    「夏にイフリートって今考えりゃキツイよな」
     那賀・津比呂(何処にでも居る調子の良いヤツ・d02278)は額に浮かぶ汗を手の甲で拭った。津比呂ら灼滅者は目的の洞窟から少し距離がある茂みで時が来るのを待っていた。少し離れた洞穴からは熱風と獣の咆哮が絶え間なく続いている。
     そして熱風は容赦なく灼滅者たちを乾かしていく。
    「お茶持って来てるけど飲むか?」
    「腹が減っては戦ができぬ、どうだい?」
     そう気を利かせたのは七篠・誰歌(名無しの誰か・d00063)と山崎・余市(火属性の空手少女・d05135)だ。用意してきたお茶とかりんとうで灼滅者たちは戦い前の僅かな休息を楽しむ。
    「それにしても、まだなのかな」
     道中からバルーンアートなどで場を和ませていた王華・道家(中学生ファイアブラッド・d02342)は空を見上げた。
    「月は……沈んだわね」
     ブリギッテ・ヘンネフェルト(なまけもの天国・d05769)は月が沈んだ方向とは反対を向く。反対の空は少しずつ白み始めているようだ。
    「暑さが、少し和らいだ?」
     赤倉・明(高校生殺人鬼・d01101)は洞穴の方に手をかざして、その温度を確かめると確かに先ほどまでの熱風は息をひそめ、獣の咆哮も途切れがちだ。
    「きっと、今がその時みたいだね」
    「――よし、行こうぜ」
     雨宮・悠(夜の風・d07038)の言葉に灼滅者らは頷く。ポンパドール・ガレット(ほうおうのひな・d00268)は勇んで洞窟へと足を踏み入れようとするも小石に蹴躓く。
    「……改めて、行こうぜ」
     そう仕切りなおして灼滅者たちは洞窟の中へと入っていくのだった。

     そこは洞窟の入口で感じていた暑さとは比べものにならない程、暑かった。
     そして、洞窟の最奥。そこに赤黒い獣が鎮座していた。
    「これが幻獣種か」
     滴る汗を拭いながら誰歌は呟く。
     幻獣種――イフリートは来訪者達に殺意を向けている。来訪者がやってくるまでは、周囲に自分の衝動を放っていたのだろう。イフリートの周囲にある岩壁や岩は爪痕や高温の熱によって融かされている。
    「ずいぶんと暴れてくれたようだぜ。お外でこんなおイタはさせられないんだぜ」
     向けられた殺意を恐れることなく余市は拳を構える。余市の周りの闘気がゆらゆらと揺れる。
    「いくぜ! イグ……スレイヤー……? ああもう何でも良いから武器プリーズ!!」
     決め台詞がしっくりこない津比呂の手にはスレイヤーカードに格納していた解体ナイフが収められる。
     戦いが始まる。

    ●獄炎獣――立つ
    「夏なのにイフリートが相手なんて……それでもほうっておけば背筋が凍る事態を引き起こすことになったわね」
     よかった、と最初に飛び出したのは悠だ。日本刀を抜き放ち、イフリートへと立ち向かう。
     しかし、先を制したのはイフリートだ。巨体に似合わぬスピードで一気に灼滅者との距離を詰める。地面をも抉るような爪に炎が宿る。
    「危ないYO!」
     道家の言葉に反応した悠はイフリートの軌跡から外れながらも、戦艦斬りをしかける。しかし、鋭い爪の先は悠の服を易々と破り捨てる、反対にイフリートへの傷はかすり傷程度にしかなっていない。
    「さあ、存分に踊ってもらおうNE♪」
     ライドキャリバーのMT5に機銃掃射をさせながら、それに乗る道家がバトルオーラに炎を宿したものをイフリートに投擲する。その攻撃を尻尾で受け止めたイフリートだが、怯む様子もなく、小賢しいと言わんばかりに咆哮する。
     その隙に明は日本刀を握りしめてイフリートの足元に立つ。
    「さあ、散りなさい」
     その呟きは短くも鋭い。明が力いっぱい長刀を振り切った。
     手ごたえはあった。しかし、岩を斬ったかのような硬質な鱗に刀を握る手が痺れる。霊犬も同じような感触だったことを主人である明に伝える。
    「オレ、この戦いが終わったら冷房の効いた部屋でアイス食べるんだ」
     危ないフラグを立てた津比呂が突っ込む。それに追走する誰歌。
    「今だよ!」
     ブリギッテの声に従って、津比呂と誰歌は左右に分散する。そこからブリギッテの放ったバスタービームが真っ直ぐにイフリートの前肢を貫いた。
     よろめくイフリートの下に潜り込んだ誰歌は拳に雷を宿す。それが鋭いアッパーと共に繰り出された。
     体勢を立て直そうとするイフリートに死角へと回り込んだ津比呂の強撃が叩き込まる。
    「あっちい! こんがり美味しく焼けちまう!」
     流れ落ちる汗を振り払いながら、津比呂はイフリートと距離をとる。
     だが、イフリートの巨体がぐらりと倒れ、地響きが起こる。
    「おいおい、何食えばこんなにデカくなるんだよ……」
     地響きを体全体で感じとるポンパドールはガトリングガンに炎を宿らせる。
    「ついてきなっ!」
     ポンパドールの前を駆ける余市はこのチャンスを逃さない。己の拳に気を集中させながら跳躍する。
    「はああああ!」
     収斂された気は余市の拳となって、流星の如くイフリートの頭部へと注がれる。下からはポンパドールのレーヴァテインの炎が打ち込まれる。
    『グォォォォ!』
     痛みで閉じかけられた目は見開き、身に纏う炎をより凶暴にしたイフリートは体勢を立て直す。
    「そうはさせないYO!」
     おどけたように笑う道家は纏うオーラを両手に集中させる。
    「危ねえ!」
     だが、それを放とうとした瞬間、ポンパドールの制止が耳に入る。
    『ウオオオオン!!』
     遠吠えと共に口から吐き出された火球が道家の背後に着弾すると同時に爆炎が中衛に立つ者たちを襲う。その威力は灼滅者が放つ威力とは段違いだ。
    「早く、この翼に!」
     そうして癒しの炎を生み出す不死鳥の翼を顕現させた明が灼滅者たちの傷を癒す。それでも、その回復量を遥かに上回るだけのダメージを喰らっていた。
    「わたし達八人をまとめて倒せるくらいには強いわね……」
     ぶすぶすと何かが焦げる臭いを感じながら、悠は日本刀の柄を力強く握りしめる。
    「その真価を発揮する前に全てを縛らせてもらおう」
     悠がイフリートへと斬り込んでいく。それは最初よりも速くそして鋭くイフリートの間合いを切り裂いた。そしてそのまま、悠の長刀が唸りをあげてイフリートの胸を斬り裂いた。
    『クォォォオン』
     悲痛の叫びをあげて怯むイフリートに灼滅者たちは手応えを感じながら、戦いは次のステージへと移り変わっていく。

    ●獄炎獣――覚醒
    「オレの鉄壁の防御が簡単に破れ、痛! ちょ! まだ話が!」
     ディフェンダーとして、攻撃の対象を自分にしようと声をあげる津比呂にイフリートは容赦なく炎を宿した爪で切り裂いた。岩をも砕く威力のあるそれは、一撃で危険域にまで達するほどだ。それでもディフェンダーの特性を生かした津比呂がその攻撃に耐える。
    「回復、お願い!」
    「おう、任された!」
     ブリギッテの言葉に素早く反応したポンパドールは癒しの歌声で津比呂の傷を癒しにかかる。
    「私がフォローに回る、上手く避けてくれ!」
    「ボク達に任せてYO」
     誰歌が果敢にイフリートの懐へと潜りこもうとし、道家はひょうきんな笑顔のまま不規則な動きでイフリートを撹乱する。そこで生まれた一瞬の隙をブリギッテが遠距離から撃ち抜いて、チャンスを広げる。
    「ここだ!」
     そのチャンスを生かすべく余市、悠、が同時にイフリートへと武器を振り下ろす。だが、イフリートを覆う炎がその威力を弱め、更に強固な皮膚が衝撃を抑える。
    「まだだ!」
     明の闘志に宿る炎が刃にも宿る。二人が攻撃をして防がれた箇所と寸分違わぬ箇所に刃の先が食い込んだ。明が力いっぱい刃をイフリートの体内へと埋め込み、紅い炎が内側からイフリートを燃やし尽くそうとする。しかし。
    『ウオオオオオオ!』
     高らかに吼えるイフリートの背中が突如割れる。そこから現れるのは朱の羽根。炎に包まれたそれは不死鳥を髣髴させる。
    「あれは!」
    「フェニックスドライブだ!」
     同じ力を持つポンパドールがいち早く口にする。不死鳥の羽根が羽ばたくたびに飛び散る炎がイフリートの傷が癒していく。
    「そろそろ大技が来るぞー!」
     津比呂が大声で危険を知らせる。
     姫子の予知にもあったように、イフリートの攻撃はより激しさを増すだろう。
     ただの赤の炎を身に纏うイフリートの姿はいつしかドス黒いものを底に宿して、より禍々しい様子となった、迂闊に攻め込むのは愚策だということを灼熱者たちは本能的に察知していた。しかし、それはイフリートも一緒だった。
     互いに相手の動きを見定める。
     激しかった戦闘に一時の静寂が訪れる。
     再戦の火蓋を切って落としたのは悠とイフリートだった。
    「夏に欲しいのは涼風であって、戦慄じゃないんだから」
     強く燃え上がる悠の炎がイフリートの炎と激しくぶつかり合う。
    「合わせるぞ!」
     誰歌が両手で十字を切るとイフリートの体に逆十字架の紋様が浮かび上がる。
     その攻撃によろけたイフリート。だが、破壊の衝動に囚われた瞳が誰歌に照準を絞ると、巨大な炎でコーティングされた爪が洞窟の壁を抉りながら誰歌に襲いかかる。
    「危ないっ! オレバリアー!! ぶふぉっ!?」
     誰歌を咄嗟に庇った津比呂は鼻血を噴きながら壁にまで吹き飛ばされる。
    「シャレにならない威力だな」
     すかさずポンパドールが皆を鼓舞する歌を歌い上げて、津比呂の傷を癒す。
    「フェニックスドラーイブ!」
     イフリートの背中と同じ翼を顕現させた道家が仲間達にエンチャント破壊の力を新たに与える。
    「姫子も私たちの安否を気にしてくれていたのだから……」
     怪我して学校に行けなくなるわけにはいかないのよ! とブリギッテがバスターライフルの銃口をイフリート向けると同時に砲身よりも太い魔法光線がイフリートを貫く。
     その攻撃にイフリートが足を折る。
     好機と捉えた道家と霊犬が攻撃を仕掛ける。だが、その攻撃はイフリートに見切られていた。大きく跳躍して、それらの攻撃を全て裂ける。
    「あっ――!」
      道家にめがけてイフリートの豪腕が襲い掛かる。
    「甘い!」
     しかし、その腕はあえて攻撃のタイミングをずらした悠によって軽減させられる。
    「大丈夫か、もう少し頑張ろうぜ」
     傷ついた道家に余市が駆けより、自らが纏う闘気を力から癒しへと変化させる。
     イフリートはまだまだ牙を灼滅者たちに向けている。それでも戦いは最後のステージへと移っていくのだった。

    ●獄炎獣――咆哮
     灼滅者たちは苦戦を強いられていた。
     破壊と殺戮を欲する獣だけに、その攻撃の激しさは群を抜いていた。特に人数の多い中衛は範囲回復が効率的にかかるのと同時に、範囲攻撃の餌食になり、しかもその威力が回復よりも大きいことが苦戦を強いられる一つの原因だった。だが、イフリートの力は確実に削っていた。
    「ふふ、面白い、ですね」
     イフリートの攻撃を食らいながらも身震いをする明は嬉しそうにイフリートへ刃を向ける。
    「本当は使いたくなんかないけど……」
     ブリギッテの胸にはクラブの紋様が浮かび上がる。
    「シャドウに近づくなんてまっぴらだけれども、いくわよ!」
     倒すべき時は今、敵は目の前にいる。
     ブリギッテも照準をイフリートへと定める。
     イフリートも既に息は荒く、戦いの決着がつくのが近いのは両者とも感じ取っていた。
     そして、先に動いたのはやはりイフリートだった。
     イフリートが纏う炎がその感情に呼応するかのように大きく燃え上がる。そして炎はイフリートの前肢にある爪へと集まり巨大化する。
    「大きいのくるよ!」
     ポンパドールが声をあげる。そうはさせないと、灼滅者たちも応戦するが、イフリートは黙々と一撃のチャンスを窺う。
    「――しまっ!」
     その声は余市が発したものだった。僅かに自分の間合いに入り込んだことをイフリートは逃さない。次の瞬間には鋭い爪が余市に巨大な爪痕を残す。だが。
    「その程度じゃ、アタシはどってことないよ!」
     遠のく意識の糸を必死に手繰り寄せ、痛みに耐え、そのままイフリートの懐にまで潜り込んだ余市はそのままアッパー気味にイフリートを殴り返す。鋼鉄並に固い拳はイフリートの装甲を突き破って、中身にまで衝撃を伝えきる。それが、今まででも最大級のダメージであったがためにイフリートも苦しみを隠せない。
    「今だぜ、チャンスだ……」
     余市はそのまま膝をついて倒れかける。だが、余市の耳にポンパドールの歌声が耳に届く。その包まれるような歌声に余市は再び力を得る。
    「ふふふ、こっちだよ!」
     道家とMT5はアクロバティックな走行からイフリートへと突撃する。
    「ボク達の方が熱かった、それだけだYO」
     更に、道家はそこから宙返りしながらオーラキャノンをイフリートの頭部に叩きつける。
     思った以上の衝撃で頭が下がったイフリートの元にほのかに赤みを増した髪をした誰歌が立つ。
    「これまでのお返しに喰らわせて貰う!」
     誰歌の斬撃の軌跡が緋色となって、イフリートの首を切り裂く。
    『ご、ルゥゥウ』
     しっかりと発声もできなくなったイフリートの懐に潜り込んだのは明とブリギッテだ。
    「そこね!」
     ブリギッテはバスターライフルの銃口をイフリートの体にあてがう。放たれた炎はイフリートの炎を包み込み、明が放った斬撃がイフリートの命を断ち切った。
    『――ッ!』
     声にならない咆哮を上げて、イフリートは物言わぬ屍へとその存在を変えたのだった。

    ●そして陽は昇る
     洞窟を出ると、夏だというのに、涼しげな風が明らの火照った体を冷やしてくれた。
    「みんな大事ないようでよかったよ」
     誰歌はほっとした様子で仲間達を見た。本当によかったな、とポンパドールも微笑む。
    「みんな、勝利の一杯!」
     なんちゃって、とブリギッテは魔法瓶に入れてきたお茶を皆に配る。
    「炎の化身イフリート……その名に違わぬ暑さだった……」
     悠はお茶を一息で飲み干して、ほっと空を見上げた。
    「ん、キレイなんだぜ!」
     同じように空を見上げていた余市が言う。東の空はもう明るくなり始めている。
    「そういえば、これからどうするんだい?」
    「アイス食べにいこう」
    「そうだな、冷房の効いた部屋でな」
     道家の問いに悠と津比呂が答える。
    「帰るついでに朝ご飯でも食べに行こうか、奢るぞ」
     柔らかな笑みを浮かべる誰歌、それにつられて皆も笑う。
     灼滅者たちは確かな達成感を感じながら、山を下るのであった。
     

    作者:星乃彼方 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 14/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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