小樽硝子マトリョーシュカ怪人!

    作者:鏡水面

    ●優美にマトリョーシュカ
     小樽のとある硝子製品専門店でのことだ。春の陽気がぽかぽかと降り注ぐ、平日の午後にそれは起こった。カランと涼しい鈴の音を響かせ、店の扉が開く。
    「いらっしゃいませー……え?」
     入店を知らせる音に店員は扉へと目を向けて、思わず息を止めた。
    「まあ、美しい硝子細工たちでシュわね!」
     感激したように上がる高い声。しかし、声を上げているはずの口は動いていない。丸い頭に、女性の顔が文字通り描かれているだけだ。店員はその姿に見覚えがあった。以前知人から、ロシアのお土産でもらったことがある……マトリョーシュカだ。
     通常のそれと違う点を上げるならば、人間サイズで、かつ手足が生え、ボディを包むように花の刺繍を施したブラウスとワンピースドレスを纏っているところか。
     呆然とする店員の前を通り過ぎ、マトリョーシュカは硝子製品の前に歩いていく。
    「でも、こうしたらもっと素敵になりまシュわ!」
     何やらゴソゴソと動き、手際良く硝子製品を硝子製のマトリョーシュカへと入れ替えてしまった。
    「え、ちょ? はっ!?」
     目を白黒させる店員など構わず、マトリョーシュカは次々に製品を入れ替えていく。
    「見ていてください、ロシアンタイガー様……この街もロシアンパワーで満たしてみせまシュカら!」
     祈るように手を合わせ、彼女は高らかに宣言するのだった。

    ●小樽硝子の危機
    「小樽にご当地怪人……小樽硝子マトリョーシュカ怪人が出現します」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は黒板を背に、灼滅者たちを見つめる。姫子の予知によると、小樽硝子マトリョーシュカ怪人というロシア化怪人が、小樽の硝子製品をロシア化しようとしているらしい。
     小樽硝子と言えば、小樽の歴史と文化を感じられる名物の一つだ。漁に使う浮き玉から始まり、現在はグラスなどの工芸品を生産するに至っている。その硝子製品を、怪人はすべてマトリョーシュカ化しようとしているのだ。
     先日、黒蜜・あんず(帯広のシャルロッテ・d09362)の調査によって、ロシアンタイガーが、日露姉妹都市を転々と移動していた事が判明した。ロシア化怪人たちは、姉妹都市をロシア化し、集めたロシアンパワーをロシアンタイガーに捧げるつもりでいるようだ。
    「このまま放置すれば、ロシアンタイガーが力を蓄えて復権するかもしれません。それを阻止するためにも、そして、ご当地のロシア化を防ぐためにも、ロシア化ご当地怪人の灼滅をお願いします」
     一呼吸置いて、姫子はさらに続ける。
    「小樽硝子マトリョーシュカ怪人のポジションはディフェンダー。マトリョーシュカキックなどのご当地ヒーロー系のサイキックと、バトルオーラ系のサイキックを使ってきます。また、怪人は実際のマトリョーシュカのように、入れ子構造になっています。攻撃を一定以上加えると、外側が割れて一回り小さい怪人が出てくるようです」
     一番奥に入っているものが本体ということはなく、体力を削がれると共に外側のボディが壊れていくらしい。なお、小さくなると共に素早さが上がるようだ。ボディは五つだが、高火力のダメージを与えることができれば、二つ同時に破壊、ということも可能かもしれない。
    「怪人とは、店で客のフリをして待ち伏せすることで接触できます。入店と同時に、怪人は硝子製品をマトリョーシュカに入れ替え始めるでしょう」
     マトリョーシュカに替える間、怪人は硝子製品に気が向いている。背後を叩き、最初にダメージを与えることができれば戦闘を有利に持っていくことができるだろう。
    「戦う場所については、広さで言えば店内でも十分に戦えます。でも、周囲は繊細な硝子製品ばかりです。被害は避けられないでしょうね」
     被害を抑えるために、店の外に誘導するという手段も存在する。しかし、誘導方法は十分に考えなければならないだろう。怪人を怒らせてしまった場合、灼滅が難しくなることも考えられる。
     このことから、製品の無事は成功条件には含まない。客や店員の無事についても同様だ。確実に灼滅するためには、ある程度の犠牲を払う必要があるかもしれない。
     これらについて、どう対処するかは灼滅者たちに任せるとのことだ。
    「……マトリョーシュカもロシアの伝統から生まれた大切な名物ですが、だからといってすべてをマトリョーシュカ化していいわけがありません。それに、ロシアンタイガーの復権の可能性……これを阻止するためにも、どうか灼滅してきてください」
     姫子は真剣な面持ちで告げると、灼滅者たちを送りだすのだった。


    参加者
    イオノ・アナスタシア(七星皇女・d00380)
    霧島・竜姫(ダイバードラゴン・d00946)
    森沢・心太(二代目天魁星・d10363)
    巳越・愛華(ピンクブーケ・d15290)
    遠野森・信彦(蒼狼・d18583)
    若林・ひなこ(夢見るピンキーヒロイン・d21761)
    ヴィア・ラクテア(歩くような速さで・d23547)
    ナターリヤ・アリーニン(夢魅入るクークラ・d24954)

    ■リプレイ

    ●怪人との接触
     店内には硝子細工が飾られ、窓から差し込む太陽光にきらきらと輝いている。観光客に扮した灼滅者たちが硝子製品を見ている最中、店の扉がカランと開いた。
    「綺麗な硝子細工でシュ。今からもっと素敵にしてあげまシュわ!」
     予知通り、小樽硝子マトリョーシュカ怪人が姿を現す。怪人は早速製品を硝子のマトリョーシュカへと入れ替え始めた。
     それを見て、若林・ひなこ(夢見るピンキーヒロイン・d21761)が歓声を上げる。
    「なんて精巧な作り! それに超カワイイー☆ 硝子でマトリョーシュカ! すごい技術ですっ!!」
     ひなこの声に、怪人はハッとしたように振り向いた。ヴィア・ラクテア(歩くような速さで・d23547)も硝子のマトリョーシュカへと近寄り、つるりとした表面を撫でる。
    「この滑らかな曲線が幾重にも重なっているマトリューシュカ……とっても綺麗です」
     その言葉に、怪人の瞳がうるうると潤み始める。
    「ガラスの、マトリョーシュカ。はじめて、みました。きらきら、とてもとても、キレイ。と……! そと、でみるの、も。キレイ、と、おもうのですが、いかがで、しょ?」
    「名案です! 太陽の光に当てたら、もっと輝くんでしょうねー!」
     ナターリヤ・アリーニン(夢魅入るクークラ・d24954)の言葉に、ひなこが大きく頷いた。瞳を潤ませた怪人が、ぱあっと表情を輝かせる。
    「きっと、とても綺麗でシュわ! 外にも飾りまシュ!」
    「そうと決まれば、裏庭へ行きましょう」 
     裏庭へと続く扉を指し示し、ヴィアが告げた。褒められ上機嫌の怪人は意外にもあっさりと同意し、裏庭に歩き出る。
     マトリョーシュカを両手で持ち上げくるくると回る怪人を、灼滅者たちは取り囲んだ。
    「? 何でシュか?」
     囲まれたところで、ようやく怪人は状況がおかしいことに気付く。
    「小樽硝子マトリョーシュカ怪人だね。あなたがやろうとしているロシア化を止めにきたの。……恨みはないけど、あなたの好き勝手にはさせられない!」
     巳越・愛華(ピンクブーケ・d15290)の凛とした言葉に、怪人は太陽にマトリョーシュカをかざしたまま動きを止めた。
    「あ、あなたたち、もしかして灼滅者でシュ? さっきのは誘い出シュための罠だったんでシュか!?」
     ショックを受ける怪人に、森沢・心太(二代目天魁星・d10363)が素直な感想を述べる。
    「硝子製のまとりょーしかは、普通に凄いと思いますよ。もし買えるのであれば、買いたいくらいです。……おいくらですか?」
    「……! ロシアを愛シュる心があれば、お金は取らないでシュ!」
     踊りながら心太にマトリョーシュカを渡し……ハッとして首をブンブン振る怪人。単純か、よっぽど褒められるのが嬉しいのだろうか。
     霧島・竜姫(ダイバードラゴン・d00946)は怪人の様子を眺めながら静かに息を付き、武器を構える。
    「とにかく、あなたの祖国の伝統を戦いに巻き込みたくなかったので、出てきてくれてよかったです。美しいものは、傷付きやすいですから」
    「……悪い人たちではなさそうでシュね。ここでロシアの良さを叩き込んであげるでシュ!」
     怪人のドレスが強烈なオーラの解放によって翻った。一般人への対処を終えたイオノ・アナスタシア(七星皇女・d00380)は陣形に加わり、唸る風音に、気品に溢れた微笑みを浮かべる。
    「なかなかの強敵のようですね、相手にとって不足はありません。まぁ私は謙虚なので不足があっても一向に構いませんけど」
    「私の力に不足などないでシュわ! さあっ! あなたたちを倒し、ロシア化の第一歩を!」
     闘気を漲らせる怪人に、遠野森・信彦(蒼狼・d18583)は軽く息を付く。
    「ロシアはロシアでいいと思うけどな、小樽までロシアにするのはどうかと思うぜ」
     冷静に言いつつも周囲に膨大な殺気を放ち、人々を遠ざける空間を作り出した。
    「ロシアが一番! ぜーんぶ、ロシアにシュるのでシュわ!!」
     怪人は叫び、拳にオーラを集束させていく。

    ●志を砕け
    「きます!」
     ナターリヤは防音の壁を展開する。怪人は強烈なパンチを心太に向け繰り出した。
    「っ……やはり、重たいですね」
     続けざまに放たれる拳を受け止める。祖母の想いが込められた盾、『「不撓不屈」弐式』で衝撃を吸収するも、重たい連撃が確かなダメージとなり体に蓄積する。
    「回復は任せてください! みらくるピンキー☆めいくあっぷ!」
     解放の光がひなこの体を包み、弾けた。爽やかなマリン柄のキャミソールとショートパンツを彩るように、透き通るワンピースが太陽光を受け虹色に輝く。
    「放て! 癒しのびーむ☆」
     ひなこはピストルのように指を構え、光を放った。
    「回復、感謝しますよ」
     祭霊光を受け痛みが和らいだ直後、心太は怪人の拳を弾く。
    「今度は僕の番です」
     盾を駆使し、怪人を力のかぎり殴り付けた。エネルギーの集束により威力を増した盾は、怪人のボディにミシリと食い込む。殴られ、怪人は反対側に吹き飛んだ。
    「君とはあまり戦いたくないのですが、致し方ないですね」
     ヴィアは怪人の落下地点へと先回りする。二つの伝統工芸が合わさった硝子製マトリョーシュカはとても綺麗だ。それでも、怪人の行いを許すわけにはいかない。ヴィアは想いを胸に、縛霊手を振り上げた。漆黒へと変貌した髪がぶわりと宙を舞う。縛霊撃の衝撃が、怪人を襲った。
    「動きにくいでシュ~!!」
     同時に放射された霊力の網に捕らわれ、動きを鈍らせる怪人にナターリヤがさらに追い打ちをかける。
    「ずっと、そこにいてくれてもいいのよ?」
     ナターリヤは流れるように紡ぎ、楽しげに微笑む。怪人の足の付け根を狙い、急所を深く斬り裂いた。
    「まだまだでシュ! これくらいで負けないでシュ~!」
     怪人の両目がキランと発光する。直後、カッ! と目からビームが放たれた。眩い光の光線は、イオノへと伸びていく。
     ギリギリのところで竜姫のライドキャリバー、ドラグシルバーが割り込んだ。光線を直に受け、ドラグシルバーは後方へと吹き飛ばされる。
    「ビームの分、お返しですよっ!」
     イオノは己の杖、『桜花閃々』に魔力を込めた。桜色の杖がさらに輝きを見せた刹那、竜巻を撃ち放つ。それは桜吹雪のように激しく舞い踊り、怪人を包み込んだ。怪人の一つ目のボディが、風に煽られてべりべりと剥がれていく。
    「あああっ!! 体が! それより服が! 服が!!」
     外側のボディに着ていた服も風に飛ばされ、怪人は悲痛な叫び声を上げた。
    「そんなもろい身体で大丈夫ですか? ……というか、服の方が大事なんですね」
     イオノのツッコミに、怪人が顔を手で覆う。
    「酷いでシュ! お気に入りの服だったのに!! それに裸なんて恥ずかしいでシュ!」
     もちろん、怪人の体にもちゃんと服の絵は描かれているわけだが。
    「仕方ねぇな。服の代わりに炎を纏ってみるのはどうだ?」
     提案するように告げ、信彦は体から炎を噴出させた。冷めた彩りを放つ蒼炎が、マテリアルロッドに絡み付いていく。確かな熱が、さらなる解放を待つように全身を駆け巡った。
    「炎は遠慮するでシ」
     ゴオオオオッ!!!!
     有無を言わせず、信彦は炎の奔流を迷いなく怪人へと撃ち込んだ。
    「ホアアアアアッ!!!」
     怪人の体が激しく炎上する。
    「綺麗な色ですね、さらに虹色も加えてみてはどうでしょう」
     竜姫が怪人の正面に踏み込んだ。ドラグシルバーは反撃に備え、激しいエンジン音を上げる。竜の咆哮のような轟きと同時、虹色のオーラが竜姫の拳で渦巻いた。
    「レインボービート!」
     激しい連打撃を、怪人の中心に叩き込む。よろめく怪人目がけ、愛華が滑走する。
    「手加減なしだよっ!」
     恨みはなくとも、怪人は倒すべき相手だ。綺麗に並ぶ硝子製品たちを眺めて思ったのだ。必ず、守らなければと。エアシューズの車輪から、紅蓮の炎が激しく舞い上がる。
    「砕け散れーっ!」
     力のかぎり、怪人の横腹を蹴り上げた。炎が爆ぜる音と共に響く大きな破裂音。刹那、怪人の二体目のボディが砕け飛んだ。
     灼滅者たちは順調に怪人へと攻撃を重ね、ボディを破壊していく。本来なら身軽になるはずの怪人も、ヴィアから放たれた妨害攻撃により、本来の力を発揮できないでいるようだ。
    「この程度で負けるはずないでシュ!!」
     怪人が気合と共に空へと飛び上がる。愛華を狙い、キックを繰り出した。ナターリヤが間に入り、構えた縛霊手で衝撃を受け止める。
    「させないわ」
     足元が地面にめり込んだ。無理やり持ち堪え、オーラを纏った拳を繰り出す。
    「ナターリヤちゃんナイス! わたしもいくよ!」
     愛華はマテリアルロッドに魔力を込める。
    「支援します。……大人しくしていてください」
     怪人をまっすぐに見据え、ヴィアは魔槍を前方に突き出した。槍の先から氷柱を生成し、怪人に向けて撃ち放つ。打ち出されたヴィアの妖冷弾は、吸い込まれるように怪人の脚部へと命中する。
     脚を覆う氷に動きを止める怪人。愛華は魔力に満たされたロッドを、怪人に叩き込んだ。衝撃に怪人は上空へと打ち上げられる。
    「よく飛びましたね。今度は、落ちてください」
     心太が空に向かいジャンプした。足元の大気をエナジーに変え、エアシューズの車輪を高速回転させる。流星のごとき煌きを脚に纏い散らしながら、落下する怪人へと降下した。鋭い飛び蹴りは怪人の頭にめり込み、落下をさらに加速させる。
     怪人が地面に落下すると同時、竜姫が高く跳躍した。怪人が起き上がるよりも早く、虹色に輝く光剣を振り下ろす。
    「レインボースラッシュ!」
     頭部を一刀両断する勢いで斬り下ろせば、虹色の光が弾け飛んだ。裂いた傷口を抉るように、ドラグシルバーが銃弾を撃ち込む。
    「さっきから酷いでシュわ!」
     声を荒げる怪人に、イオノはビシッと杖を突き付けた。
    「これはおしおきです! 小樽硝子を私欲のために使うからいけないんですよ」
    「ロシア化の何が悪いんでシュか!」
     怪人の言葉に、信彦が落ち着いた口調で返す。
    「街並みってのは、土地柄もあって個性があるから良いもんだ。全て同じにしたらつまらねぇだろ」
     言いながら、赤々と燃え盛る炎を足元に巻き付かせる。
    「もう悪さはしちゃいけません。おねんねするですよ!」
     イオノは杖をくるりと回し、風の刃を生み出した。生成された刃はブーメランのように怪人へと飛んでいく。
    「逃がさないぜ!」
     刃が飛ぶと同時、信彦は怪人へと距離を詰めた。鋭い蹴りを繰り出し、灼熱の炎を怪人に叩き込む。
     イオノと信彦の攻撃が、怪人を挟み撃つ。渦巻く風と炎は激しく舞い上がり、怪人のボディを二体同時に焼き剥がした。小さくなった怪人が、地面に膝を付く。
    「ま、まずいでシュ……なんでこんなことに」
    「硝子製マトリョーシュカ、とても素敵です! でも、小樽硝子を排除しちゃダメですよ☆」
     ひなこがウィンクし、ファイティングポーズを取る。
    「こ、こっち来るなでシュ!」
     怪人が渾身のビームを放った。ひなこは横に避け、滑走する。距離を詰め、怪人の体をガシッと掴み上げた。
    「小樽硝子ダイナミック!!!」
     地面に叩き付けた瞬間、漲るご当地パワーの爆発が、怪人の体を巻き込んだ。巻き上がる砂煙の奥で、怪人は地面に倒れ伏す。
     最後のボディに罅が入り、崩壊が始まった。完全に消滅するのも時間の問題だ。
    「硝子のマトリョーシュカ、初めて見た。きれいだね。こんなことしなければきっと皆気に入ってくれたと思うけどな……」
     愛華は悲しげに呟く。ナターリヤも切ない目で、怪人を見下ろした。同じ物ばかりでも楽しいけれど、一つ一つが違うからこそ素敵に見えるものもあることに、怪人は気付けなかったのだろう。
    「……のこした、あの子た、ち、は……」
     怪人が弱々しく呟いた。死期に直面した今、店内に残るマトリョーシュカの行く末を気にしているようだ。それを察したナターリヤが、遠慮がちに問う。
    「あの、ひとつ、もらっても、いい、でしょうか?」
     その言葉に怪人は瞳をきらり、と光らせた。それはどこか、涙を思わせる光だ。
    「! 大事に、して……くだ、さ、い、で……」
     言葉を言い終える前に怪人は完全に罅割れ、ガシャンと崩れ落ちた。

    ●戦いの終わりに
     店に戻ると、無事に並ぶ硝子製品の姿があった。事前に対処したため、一般人への被害も出さず任務を遂行することができた。戦闘を終え、店も平穏を取り戻しつつある。
    「店が無事で何よりだぜ」
     涼しげな硝子製品を眺め、信彦は戦いの熱を冷ます。炎が似合う時期が近づいたせいか、戦いの最中は体内の炎が活き活きと踊るようだった。
    「人払いナイスでした! 任務も終わりましたし、観光してから帰りましょうか☆」
     ひなこはデジカメをさっと取り出しながら、にっこりと笑う。
    「そうだね! 硝子製品とか涼しげでこれからの季節にピッタリかも! いくつか買って帰ろうかなっ」
     愛華は事前にチェックしておいた硝子製品を、選び直すように手に取った。
    「食器から置物まで、本当にたくさんありますね……」
     店に並ぶ硝子製品を見渡しながら、竜姫が呟く。
    「こんなにあると目移りしてしまいますね」
     いくつか湯呑みを手に取りながら、心太が言葉を返すのだった。一方、ヴィアはある硝子製品の前で足を止める。
    「このお皿、買いましょうかね……」
     藍色に星の模様を施した硝子の皿を手に取った。店内を歩き回っていたイオノがそれに気付き、うっとりと皿を見つめる。
    「夜空みたいなお皿ですね! やはり、綺麗なものに国境はないのです! 小樽硝子……どれも素敵です!」
     その言葉に、ナターリヤが頷いた。
    「はい、きらきら、キレイ。いつまでも、ながめて、いられます」
     ナターリヤは隅に残るマトリョーシュカを手に取る。故郷を思わせるそれを、懐かしげに胸に抱えるのだった。

    作者:鏡水面 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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