
それはある日の真夜中の出来事。
暗い部屋の中でふっと目を覚ました少女の耳に聞き覚えのない声が届く。
『今日も私たちの使ってもらえなかったわね……』
『もうこんな生活ガマンできないわ! 出て行きましょ!』
(「――だれ? だれかおへやにいるの?」)
眠い目をこすりながら少女がゆっくりと起き上がると、そこにいたのはリボンが付いた赤い長靴と水玉模様のピンク色の傘。
「え――!?」
驚いた少女は一瞬で眠気など吹き飛んだ様子でぱちぱちと瞬きを繰り返す。
「アユのながぐつさんたちが、どうして――!?」
事態が飲み込めずにいる少女――アユに長靴が優しく語りかけた。
『ごめんなさいね、アユちゃん。私たちせっかく買ってもらったのに全然お外に行かないでしょう? だから、ここのお家には必要ないかなって思うの』
――ああ、やっぱりきにしてたんだ。
絵本に書いてあった通りだとアユは哀しそうに目を伏せる。
でも、長靴さんや傘さんを使ってあげられないのはアユのせいじゃない。だって……。
「だって、あめのひがこないんだもん……」
しょんぼりと俯きぽそりと呟くアユ。たが傘は関係ないとばかりにそっぽを向いた。
『言い訳は聞きたくないわ。ともかく、アナタちっとも使ってくれないんですもの。だから私たち、もっといっぱい使ってくれる人のところへ行くわ!』
「え、やだ! いかないで!」
慌ててアユは傘を引き留めようとばっと手を伸ばすが、傘はするりと小さな手を避けて窓の傍へと行ってしまう。
『止めても無駄よ! さぁ、いきましょ!』
『……ごめんなさいね、アユちゃん。さようなら』
傘はアユからぷいっと顔をそむけ、さっさと窓から外へと出て行った。そのあとを追って長靴も出て行ってしまう。
「まって! アユ、ちゃんとつかってあげるから!」
おねがい、いかないで――。
窓から身を乗り出してなきべそをかいている少女が気付かぬところで、黒い影がニヤリと不敵は笑みを浮かべていた。
「――これ、全部、シャドウの悪夢」
抑揚のない声で淡々と語っていた久椚・來未(中学生エクスブレイン・dn0054)がゆっくりと顔をあげる。
來未の話によると、被害者は雨宮アユリという名の5歳の少女。
そのアユリは先日両親にお店で一目惚れした可愛い長靴と傘を買ってもらった。ピンク色のリボンがついた赤い長靴をはいて水たまりをぱしゃぱしゃと歩くのはどんなに楽しいだろう。白い水玉模様のピンクの傘に跳ねる雨粒の音は聞いているだけで心が弾むに違いない。
アユリはその長靴と傘を使う日を心待ちにしていた。しかし――。
「一向に、雨の日は、来ない」
雨の日を心待ちにしているアユリがたまたま読んだ絵本。その絵本は壊れてしまって使われずに仕舞い込まれた道具たちが悲しみ、家出をしてしまう様を描いた内容だった。それは物を大事に最後まで使うことを子供たちに教えるための絵本だったのだが、アユリには別の想いが生まれてしまった。
――せっかく買ってもらったのに長靴も傘も使ってないから、怒ってどこかへ行っちゃうかも。
アユリの心は不安でいっぱいになり、そこをシャドウに付け込まれたというわけらしい。
「夢の中に入ったら、まず、女の子を、励まして」
悪夢の中、アユリは自室でしくしく泣いている。お気に入りの長靴と傘が出て行ってしまい意気消沈しているアユリを慰め、励ましてあげてほしいと來未は言う。
アユリが灼滅者たちを信頼すれば、その励ましによってアユリは立ち直ることが出来る。そうすれば少女は再び長靴たちを引き留めるための説得を決意する。
長靴たちはアユリの家からさほど遠くない噴水のある公園にいる。説得時にはアユリに助け舟を出してあげるなどして彼女の説得を手伝ってあげてほしい。
説得にあたってもしも何らかの方法で雨が降ったと思わせることが出来れば、長靴たちも使ってもらうことが出来て満足するので引き留めることは格段に楽になる。悪夢とはいえ夢の中。願うだけでは雨は降らないだろうが、少々無謀と思える策でも『雨が降った』と思わせることが出来るだろう。とはいえ、アユリに危険が及ぶ可能性がある方法――例えば攻撃サイキックを使用する等は控えてほしい。
「長靴たちを、引き留めることが出来たら、怒ったシャドウが、出てくる」
巨大なてるてる坊主の姿を模したシャドウは配下に赤い長靴とピンクの傘を引き連れて現れる。可愛らしい姿をしているシャドウだが。配下を前に立たせて自身は後衛から的確な攻撃を仕掛けてくるので油断は禁物だ。
説明を終え、來未は緩慢な動作で窓の外へと視線を向ける。
もうすぐ梅雨がやってくる。
梅雨になれば、長靴や傘の出番は毎日のようにやってくるだろう。
「明日は、雨、降るかな――」
どこからともなく広がる薄暗い雲を見つめながら呟きを漏らす來未の声を聴きながら、灼滅者たちは教室の扉をそっと閉めた。
| 参加者 | |
|---|---|
![]() 王子・三ヅ星(星の王子サマ・d02644) |
![]() ニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078) |
![]() 大場・縁(高校生神薙使い・d03350) |
琴葉・いろは(とかなくて・d11000) |
![]() 竜崎・蛍(レアモンスター・d11208) |
![]() 空本・朔羅(うぃず師匠・d17395) |
シリェーナ・アルシュネーウィン(鳴かない小夜啼鳥・d25669) |
![]() ヒュートゥル・マーベリック(ピースオブクラップ・d25797) |
●暗い部屋
星灯りが差し込む子供部屋で幼い少女が床に座り込んでしゃくりあげている。
溢れる涙を必死に小さな手で拭いながら少女は窓の外に向かって懸命に呼びかけていた。
「いっちゃヤダ……おねがい、かえってきて……!」
彼女がアユリ――今回の悪夢の被害者だと確信し、ニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078)は穏やかな口調でアユリに声をかける。
「――どうしたんだい?」
誰もいない暗闇を見つめべそべそと泣いていた少女は、突然声をかけられ慌てて振り返った。ニコは少女の目線に合わせてしゃがみ込み、ゆっくりと物静かな声で語りかける。
「良かったら、俺達に何があったか話してくれないかい?」
「あのね、アユの、ながぐつ、さんと、かさ、さんが……」
ニコの言葉にこくんと頷き話し出したアユリだったが、話を始めるや否や堪えていた涙がぶわっと溢れだした。
「お目々に雨を降らせては、前が見えなくなってしまいますよ」
えぐえぐと嗚咽をあげるアユリの肩にそっと手をかけ、琴葉・いろは(とかなくて・d11000)は零れる涙をハンカチでそっと拭ってやる。いろはの霊犬・若紫もまた涙で濡れたアユリの手を優しく舐めた。
「ゆっくり、お話してくださいな」
いろはと若紫に励まされ、アユリは灼滅者たちに傘と長靴が出て行ったことを告げる。そして、2人を怒らせた原因は自分にある、と。
「アユがね、ぜんぜんつかってあげないから、ふたりともおこっちゃったの……」
しょんぼりと肩を落とすアユリ。だがヒュートゥル・マーベリック(ピースオブクラップ・d25797)はゆっくりと首を横に振った。
「傘さんも、長靴さんも、アユリちゃんが大好きで、使ってもらいたいんですよ」
アユリと目線を合わせ語りかけるヒュートゥルの言葉に少女はぱっと顔を輝かせる。
「ほんとう? アユのことキライになってないかな?」
「ええ、雨が降らなくて、いまはちょっと拗ねちゃってるだけです」
にこりと微笑むヒュートゥルに「よかった」とアユリは胸を撫で下ろした。
「アユリちゃんも傘さんと長靴さんが大好きなんだね」
少女の隣にしゃがみ込んで話しかけるのはシリェーナ・アルシュネーウィン(鳴かない小夜啼鳥・d25669)。シリェーナにアユリは迷わず頷く。
「うん! だからアユね、はやくいっぱいつかってあげたいの」
「そっか。その気持ち、早く2人に伝えないとダメだね。――じゃぁ、ボクたちと一緒に気持ちを伝えに行こう」
思いがけない誘いに元気よく頷きかけたアユリ。だがその表情は突然凍りついた。
「でも、アユ、ながぐつさんたちどこにいるか、わかんない……」
やっぱり、もう2人にはあえないんだ――。再びアユリの目に涙が溢れだす。だが……。
「大丈夫です!」
少女の心配ごとを吹き消すように大場・縁(高校生神薙使い・d03350)の声が響いた。
「えへへ、実はですね……わたしたち、魔法を使えるんですっ」
「ま、ほう……?」
つぶらな瞳でアユリはじっと縁を見つめる。
「あ、えっと、今、証拠を見せますね。いいですか、よーく見ててくださいね……」
縁はアユリにキャンディを見せるとそれを空っぽのポケットに入れてポンと1回叩いてみせた。
「アユリさん、ポケットに手を入れてみてください」
「うそ――!? あめが2こになってる!」
すごいね、と瞳をキラキラさせて感激するアユリに気付かれぬよう灼滅者たちはそっと目配せをする。これはESP【ビスケット】の効果なのだがアユリの目には魔法として映ったようだ。
「ね、もしかして、みんなまほうつかいなの?」
アユリの問いに縁はにっこりと頷いて肯定する。
「だから、傘さんたちの居場所もすぐにわかっちゃいますよっ」
行きましょう、と差し出されたいろはの手にアユリは躊躇うことなく自身の小さな手を重ねた。
「よし決まりだ!」
王子・三ヅ星(星の王子サマ・d02644)は仲間たちにも立ち上がるよう促すと、さっと外を指差す。
「さあ、皆で傘君と長靴君を迎えに行こう!」
●雨の魔法
一方、その頃。仲間たちよりも一足先に公園へやってきていた空本・朔羅(うぃず師匠・d17395)はナノナノと師匠とともに『魔法』の準備に励んでいた。
「師匠、そのホースちゃんと持っててくださいっすよ」
近くの木々にホースを付け終えた朔羅はぐるりと周りを見回す。枝の影に隠れぱっと見ただけではホースは見えない。
「師匠、水撒きよろしくっす」
後は雨を降らせるタイミングに合わせて水道の蛇口をひねるだけだ。
ちょうど公園へと到着したアユリたち一行は無事に朔羅たちと合流を果たす。
「まずは傘さんと長靴さんを探しましょう。きっと近くにいるはずです」
アユリの手をひき公園を探すいろはの耳に誰かの話し声が聞こえてきた。
『……で、これからどこへ行こうかしら』
『そうねぇ、まずは……』
(「かささんたち、いた!」)
2人を見つけたアユリはぱっと顔を輝かせると早速傘たちに向かって呼びかける。
「かささん、ながぐつさん、アユといっしょにおうちかえろう?」
だが、傘は間髪入れずにアユリの誘いを断った。
『イヤよ!』
「まぁまぁ、そう怒らないで。話聞いてよ」
竜崎・蛍(レアモンスター・d11208)がとりなすが、傘はぷぃっと顔を背けたまま。
不安そうな表情を浮かべるアユリの背をヒュートゥルがそっと押す。アユリは勇気を出して再び口を開いた。
「ふたりのこと、わすれたんじゃないよ。アユも、あめがふるのまってるの」
『アユちゃん……』
『だまされちゃダメよ! 雨が降ったからって本当に使うかわからないじゃない』
長靴の心は揺れているようだが、傘は疑わしそうにじっとアユリを見つめる。
「本当に不要と思っていたら、そもそも雨が降ろうが降るまいがこんなに気に掛けたりしないだろうよ」
それだけ大事に思っているという事なのに――。
やれやれといった様子で肩をすくめるニコの服をツンとアユリが引っ張った。そしてアユリは泣きそうな表情でニコを見上げ涙を堪えながら言葉を絞り出す。
「まほうつかいさん、おねがい。あめをふらせることって、できる?」
「出来るよ」
事も無げに頷くニコにアユリの顔は一瞬にしてぱっと明るくなった。
「困っている優しい子を助けるのが魔法使いである俺達の仕事だからね」
――じゃぁ、雨を降らせてあげよう。
さっとロッドを取り出した三ヅ星が仲間たちをぐるりと見回す。
「みんな、準備はいいかい? 行くよ……」
ワン! ツー! スリー!!
皆の声に合わせて三ヅ星がさっとロッドを一振。と、同時に縁たちが水道の蛇口を次々と捻るとホースから一斉に水が噴き出してきた。師匠が空から撒く水は街灯の光を反射してキラキラと輝く。
「あめがふったー!」
まほうすごい! と濡れることも厭わずはしゃぐアユリの背後でポン! ポン! と次々と灼滅者たちが持ってきた傘が開いた。濡れたくない一心で蛍は水から逃れようと必死に師匠の水撒きエリア外へ逃げ回る。
「ほらほら、早くアユリのところへ戻ってあげないと風邪ひいちゃうっすよ!」
「帰ってこないなら、ボクの傘を貸してあげちゃおうかな」
『……仕方ないわね。今回だけよ』
『アユちゃん、疑ってごめんなさい』
「ふたりとも、おかえりなさい!」
さっそく赤い長靴を履いて水玉模様のピンクの傘をさしたアユリは嬉しそうにぱしゃぱしゃと水たまりを歩き回った。
「よかったね、アユリちゃん。2人とちゃんと仲直りできたね」
笑顔で話しかけるシリェーナにアユリは満面の笑みを浮かべて頷く。
「うん! まほうつかいさん、ありがとう!!」
嬉しそうにアユリが言ったその瞬間。突然、噴水がぐにゃりと歪んだ。
素早くアユリを背に庇った縁が歪んだ噴水の陰から現れた巨大な黒い影を指差す。
「皆さん、シャドウです!」
先程までの柔らかな雰囲気は消え一斉に灼滅者たちの表情がキリリと引き締まった。
――とても待ち遠しい雨の日をアユリが笑顔で迎えられるように。
「さぁ、皆でこの悪夢を終わらせましょう!」
●悪夢を晴らして
「アユリさん、危ないですから私の後ろへ下がっていてくださいね」
縁がアユリを安全な場所へと誘導するのを確認し、ニコは【Shooting Star】でピンク色の傘を正面から穿つ。飾り枠の中央に埋められた星型の宝石がキラリと輝いた。
灼滅者たちは事前に相談していた通り迷うことなく全員が傘に攻撃を集中させる。
だがヒュートゥルだけはなかなか攻撃を開始しない。
「すみません、『命令』をしていただけないでしょうか」
ヒュートゥルの奇妙な願いに蛍は不思議そうにしながらもあっさりと快諾した。
「命令? 『あの悪いてるてる坊主をやっつけろ!』って感じ?」
「Yes master」
司令官っぽくノリノリで『命令』をする蛍に真面目な顔でヒュートゥルは頷く。そして【HAL-XAMR50 “tumble weed”】をしっかりとてるてる坊主に向けて照準を合わせた。
「ちょ、ストップ! まずはあっちの傘から狙って」
「Yes,sir」
慌てて訂正する蛍の言葉に従いヒュートゥルも狙いを傘に合わせて引き金を引く。
敵も強力な攻撃を繰り出すが護り手の強固な壁と回復も十分に考慮した灼滅者たちの手堅い作戦の前には恐れるには値しない。仲間を信じて今は確実に1体ずつ敵を倒していくだけだ。
「若紫、いい子ね」
てるてる坊主の攻撃から三ヅ星を守った若紫をいろはは優しく褒めた。すぐさま縁が防護符を飛ばして若紫の傷を癒す。
シリェーナが天上の歌姫を思わせる澄んだ歌声を響かせ傘を攻撃した。その歌は聞く者の心を惑わし掻き乱す。だが、傘には抗うだけの体力は残っていなかった。傘はシリェーナの歌声に包まれたままふっと煙のようにその姿を消す。
まず1体撃破。
標的を長靴に移した灼滅者たちの猛攻撃は止まることを知らない。
ふわふわとしゃぼん玉を飛ばす師匠に合わせて朔羅が黒い影で縛り上げた。
「こんなちっさい子いじめるとか何考えとんじゃ、この腐れ外道めが!」
負けじと長靴も炎を纏った蹴りでニコを狙うもその攻撃はガードに入った蛍によってしっかりと受け止められる。
「ふふん、熱くないよ」
事前にかけておいたワイドガードのおかげか炎は蛍の身体を燃やすことなくジュッと音を立てて消えた。
お返しといわんばかりに蛍は長靴の死角へと回り込み黒死斬を放つ。ぱっくりと二つに切り裂かれた長靴はそのまま闇の中へと溶けるように消えて行った。
残るはてるてる坊主ただ1人。
「アユリさんの顔を晴らすため、てるてる坊主には今日は泣いてもらいましょう」
いろはが放った風の刃が一斉にてるてる坊主へと襲いかかる。鋭く激しい風に切り刻まれてもてるてる坊主はびくともしない。
「流石に簡単には勝たせてくれないよね」
アユリに見せていた優しい表情はすっかり影をひそめニコは淡々と言葉を紡ぐ。柊の木で出来た魔法の杖をぐっと振り被り、ニコは全力で杖をてるてる坊主に打ち付けた。てるてる坊主の体内で強烈な魔力が勢いよく爆ぜると同時に杖に絡みついていた薄桃色の花が再びぱっと咲く。
てるてる坊主も黙ってやられているばかりではない。大きな体をぐっと逸らして勢いをつけると縁に狙いを定め全身の力を込めて漆黒の弾丸を撃ち出した。
「危ないっ!」
さっと小さな身体を滑り込ませた朔羅が縁に代わって攻撃を受ける。
「アユリ君は、笑顔の方が絶対に似合う!」
皆もそう思うだろう――?
自信たっぷりに断言する三ヅ星はたたっと軽くステップを踏んで勢いをつけると腕をぐっと後ろに引いた。
「だから君には降れ降れ坊主になってもらおう!」
渾身の力を込めて異形と化した腕でてるてる坊主を殴りつける。鬼神変で殴られたてるてる坊主がぐらりとバランスを崩した。
そのチャンスを見逃す灼滅者たちではない。一斉に畳み掛けるように攻撃を仕掛ける。
「アユリちゃんの傘や長靴への想いはとても素敵なものです」
だからこそヒュートゥルはそこにつけ込んだシャドウが許せなかった。
「アユリちゃんが素敵な雨の日を迎えられるようにしっかりと撃ち抜いてさしあげます」
ヒュートゥルは狙いを定め【HAL-M13/.45“Battle Hammer”】の引き金をひく。パァンという音とともに放たれた弾丸はてるてる坊主を狙いまっすぐに飛んで行った。
「わたしの銃弾からは、逃れられませんよ」
弾丸が狙い通りてるてる坊主の額を撃ち抜く。ぐにゃりと体を歪ませるとてるてる坊主の身体は音もなく暗闇に溶けていったのだった。
●雨上がりの笑顔
魔法の雨が止んだ公園では朔羅とシリェーナがアユリとともに噴水で遊んでいる。すっかり仲直りをした傘や長靴とともに噴水でばしゃばしゃと遊ぶアユリは心底楽しそうだった。
「これだったら雨降ってなくても遊べるっすよ!」
「ね、アユリちゃん。こうやって使ってあげるのも楽しいでしょ?」
この提案にはアユリだけでなく傘と長靴も大満足の様子。
「若紫も遊びたい? いいわよ、行ってらっしゃい」
いろはの許可を貰った若紫は『やったぁ!』とばかりにばしゃーんと噴水へ飛び込む。
「アユリさーん、今から魔法で噴水の勢いを強くしますからね~!」
縁の合図でニコがさっと噴水の水量を調節し、宣言通りに勢いよく水が溢れだした。
「すごーい!」
ざあざあと流れ出す水を傘で受け止め、アユリはきゃっきゃと笑い声をあげる。
はしゃぐアユリを見遣り蛍はぐっと大きく腕を伸ばした。
「やれやれ、一件落着ってな。そんじゃ帰るか」
満足気に頷く蛍の隣でヒュートゥルが「あら」と声をあげる。
「見てください。虹が出てますよ」
彼女が指さす噴水の水陰には小さな虹がくっきりと浮かんでいた。
「雨の後には虹、って決まってるんだよ」
「にじ、キレイだね」
三ヅ星はうんうんと頷き優しくアユリの頭を撫でる。
「すっかり笑顔になったね。やっぱりアユリ君は笑顔の方がいいね」
三ヅ星の言葉に大好きな赤い長靴を履いて大切なピンク色の傘をさした少女は嬉しそうに顔を綻ばせた。
無事に少女を悪夢から救い出した灼滅者たちも帰路につく。
アユリが傘と長靴と一緒に出掛ける日もそう遠くはないだろう。
「なんだかわたくしも雨の日が楽しみになってまいりました」
ふふりと楽しげにいろはは微笑む。それは皆、同じ気持ちだった。
(「おや?」)
ポツリポツリとどこからか雨粒が落ちた気がする。
足を止め空を見上げたニコは悪夢から覚めた朝はきっと雨が降っていると確信した。
――少女が心待ちにしている雨の日はもうすぐそこまで来ている。
| 作者:春風わかな |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
![]() 公開:2014年6月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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