恋しい絆

    作者:奏蛍

    ●深夜の訪問者
     静かな夜だった。怖いことは何も起こらない。
     そう思わせてくれる様な夜だった。そんな全てが眠ってしまった様な街に一人の少年が足を踏み入れた。
     不思議な宇宙服の様な服を来た少年は、気まぐれに歩を進める。そして一つの家の前で足を止めた。
     その家の一室では、幸せそうに眠る者がいた。少年は枕元に身を寄せる。
    「君の絆を僕にちょうだいね」
     そう囁かれるのと同時に、眠る者の頭上に紫と黒の気持ち悪い卵が現れた。そして少年は音も立てずに消える。
    「音々? 今日は出かけるんでしょう?」
     いつの間にか陽が登って、青空が広がっている。ドアを開けた母親には、音々の頭上に浮かぶ卵は見えていない。
    「そうだ、出かけないといけないんだ」
    「あんなに楽しみにしていたのに、どうしたのよ?」
     不思議そうな顔をした後、母親は階段を下りていく。昨日、眠りにつくまでは出かけるのをすごく楽しみにしていた。
     子供の頃から大好きな幼なじみと映画を見に行く約束だったのだ。けれどあんなに楽しみだったデートに、全く心が動かない。
     何だか今までたくさん詰まっていた何かがぽっかり消えてしまった様な……。
    「私どうしたんだろう……」
     大好きな幼なじみを思い描いても、何も感じないのだ。音々は動揺し、困惑するのだった。
     
    ●絆の重要性
    「新たなシャドウが動き出したみたいなんだ」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が真剣な表情で話し始める。ダークネスの持つバベルの鎖の力による予知をかいくぐるには、彼女たちエクスブレインの未来予測が必要になる。
     まりんの話によると、強力なシャドウである絆のベヘリタスが動いたらしい。絆のベヘリタスと関係の深いであろう人物が、一般人から絆を奪いベヘリタスの卵を産み付けているらしいのだ。
     このまま放置して、次から次へと絆のベヘリタスを孵化させるわけにはいかない。けれど産み付けられた卵には触れることも出来ない。
     孵化したところを灼滅するしか方法はないのだ。孵化した直後を狙えば、条件によっては弱体化させることも出来る。
     可能なら絆のベヘリタスがソウルボードに逃げ込んでしまう前に灼滅してもらいたい。時間にすると孵化してからだいたい十分というところだ。
     絆のベヘリタスの卵は、産み付けた相手の絆を栄養にして成長する。そして孵化した絆のベヘリタスは、産み付けた相手と絆を持っている相手には攻撃力が減少する。さらに被るダメージが増加してしまうという弱点を持っているのだ。
     この条件を利用すれば、孵化直後の絆のベヘリタスを灼滅することが可能だ。そのため、卵を産み付けられた人物とどれだけ絆を結べるかが問題になってくる。
     音々は十九歳の大学生だ。みんなが音々と絆を結べるチャンスは卵が孵化する前日からとなる。
    「絆は強ければ強いほど有利になるよ」
     そしてこの絆。別にプラス方向でなくてもいいのだ。
     マイナス方向であろうと強い絆であれば問題ない。恋心や友情でも、憎しみでも効果は同じなのだ。
     そして先にも言ったが、絆のベヘリタスは強敵だ。絆を結ばずに戦ったらまず勝てないだろう。
     音々は午前中は大学に行っているが、昼過ぎからショッピングに行く予定の様だ。大学の中では友人と一緒にいることが多そうなので、大学を出てからが狙い目だろう。
     孵化した絆のベヘリタスはシャドウハンターのサイキックと咎人の大鎌を使ってくる。灼滅が出来なくても、撃退させることが出来れば成功だ。
    「ただ逃走させすぎると絆のベヘリタスの勢力が強大化しちゃう可能性があるから頑張ってね」
     撃退も逃亡ということになる。また灼滅出来た時は、失われた絆が戻ることになる。
     その後のフォローが必要になる場合もあるだろう。しかし絆の結び方によってはフォローすることが難しい可能性がある。
    「無事に帰ってきてね」
     心配そうなまりんの瞳がみんなを見渡すのだった。


    参加者
    椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)
    細氷・六華(凍土高原・d01038)
    土御門・璃理(真剣狩る☆土星♪・d01097)
    ピアット・ベルティン(リトルバヨネット・d04427)
    三影・幽(知識の探求者・d05436)
    丹波・亮(風ト共ニ・d16315)
    縹・三義(残夜・d24952)
    獅子鳳・天摩(謎のゴーグルさん・d25098)

    ■リプレイ

    ●育む絆
    「紫と黒の卵――――あの方が音々さんですね」
     柱から顔を覗かせた細氷・六華(凍土高原・d01038)が呟く。そして顔を見合わせた灼滅者たちは無言で頷くと、散らばるのだった。
    「すみません……」
     アクセサリーを見ていた音々が三影・幽(知識の探求者・d05436)の声に顔を上げた。少し騙している様で気が引けてしまうが、謝るのは終わった後と内心で意を決する。
    「ここの本屋さんとか、服屋さんとか……」
     美味しいお菓子を置いている店を教えて欲しいと幽が伝えると、音々が微かに瞳を見開く。戸惑った様な表情で音々が口を開くのと同時に、椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)と六華が足を止めた。
    「あ、あの……もしよかったら一緒にお買い物しませんか?」
     六華の言葉に、一緒に買い物をする人がいるのなら自分は必要ないと思った音々が離れようとする。
    「待ってください!」
     このまま音々に去られるわけにはいかないと、なつみが手を伸ばした。
    「何ですか?」
    「デートの時に着て行く服を選んで欲しいんです」
     なつめの必死な様子に音々が躊躇する。携帯を取り出した音々が時間を確認した。
    「どんな服が好みなの?」
     好きな人のために服を選ぶ楽しみが、音々にはすでにわからなくなっている。だからこそ、なつみに協力したくなったのかもしれない。
    「えっと、その……音々さん、って呼んでも、いいですか?」
     なつみに服を合わせていた音々に、六華が話しかける。
    「うん、いいよ」
     音々の言葉遣いも敬語ではなくなり、だいぶ打ち解けて来た。
    「こっち何てどうでしょう」
     スカートを取り出した幽がなつみに合わせる。あれこれと服を選ぶ音々は楽しそうに笑っている。
     そんな音々の服を誰かが引っ張った。振り向くと可愛らしいわんこの様なピアット・ベルティン(リトルバヨネット・d04427)がいる。
    「ピア、迷子なの」
     捨て犬のように見上げてくるピアットに、行きたい場所があると告げられた音々が少し考える様に視線を上に向けた。
    「遠いから一緒に行こうか」
     こくんと嬉しそうに頷いたピアットが音々の後をついて歩き始める。服を選んでいた三人も、後に続く。
    「音々おねーちゃんたちは何をしてたの?」
     無邪気に聞いてくるピアットに返事をしようとした瞬間、体に衝撃が走る。
    「んっ……!」
     ぶつかった拍子に音々が息を飲んだ。小さな箱が転がる音が響く。
    「今から幼馴染とデートだったのにプレゼントぐちゃぐちゃじゃねえかどうしてくれんだよ」
     箱を拾った獅子鳳・天摩(謎のゴーグルさん・d25098)が声を上げる。イラついた天摩に音々がびくりと震える。
    「ご、ごめんなさい……」
     怯えた音々に天摩が視線を向けた。
    「お、かわいいじゃん」
     そしてにやっと笑みを浮かべる。もうデートはどうでもいいからつきあってよと手を伸ばした天摩に、音々が一歩下がる。
     後ろにあった柱に背中をぶつけて、音々はさらに息を飲む。
    「何してんだよ」
     天摩に近づいた縹・三義(残夜・d24952)が声をかけた。一瞬、助かったと思った音々が硬直した。
     二人の様子を見るに、友人であることが推測出来る。そして音々に視線を向けた三義から、殺気が放たれた。
     思わず逃げたい衝動に駆られた音々の体が動く前に、三義の腕が音々が背を預けている柱にかかる。逃げ道を塞がれた音々の心臓が痛いくらいに鼓動する。
    「ちょっと遊ばない? 暇なんだよね」
     歪んだ笑みに音々が瞳を見開く。三義にしてみたら素直に笑っているつもりなのだが、笑顔が得意じゃない三義なのだった。
     二人の迫力に思わず身動きが取れなくなっていた幽が慌てて三義と音々の間に滑り込む。演技とわかっていても、こう凄まれると怖いと思ってしまう幽だった。
    「嫌がってるのを無理強いするのは良くない……と思うの」
     震える声で音々を守ろうとピアットが前に出る。すっと天摩に視線を向けられたピアットがびくりと怯えて見せた。一般人がどんどん逃げるように去っていく中、思わず可愛い人形を見つけて購入していた丹波・亮(風ト共ニ・d16315)がそろそろ出番と足を踏み出した。
     一緒に目に飛び出した土御門・璃理(真剣狩る☆土星♪・d01097)がさっとポーズを取る。
    「変身!」
     その大きな声に、仲間と音々の視線が璃理に向くのだった。

    ●友情と恐怖と救世主
     プリンセス版に防具を変形させた璃理がすっと天摩と三義を指差す。
    「その手を放しなさい、ナンパ野郎ども!」
     しかしそう簡単に音々を解放してしまったら、絆が薄いかもしれない。
    「おいおい、しつこいやつは嫌われるぜー?」
     立ち去ろうとしない二人に、亮が呆れた様な声を出す。そしてきっと睨みつける。
     演技だとばれないようにしているわけなのだが、内心ではちょっと罪悪感を抱いている亮だ。後で謝っとくかなと心の中で呟く。
    「その汚い手を離さないと痛い目見ますよ?」
     腕を掴んで、後ろへ捻りあげようとした璃理の手から三義が逃れる。隙のない身のこなしに、音々が息を飲んだ。
     心を締めるのは、三義と天摩への恐怖だった。今までに経験したことのない恐れに体の震えが止まらなくなる。
     このくらいで十分と判断した天摩が行こうと合図する。すっと殺気を消した三義が離れる天摩の後を追うのだった。
    「大丈夫か?」
     恐怖に身動き取れなくなっていた音々を亮が覗き込んだ。びくりと震えた音々の視点が亮に合う。
    「あ……ありがとうございます」
     足の力が抜けて座り込んでしまいそうになる音々に、慌ててなつみと幽が支える。音々の瞳がしっかりと自分たちを捉えたのを確認すると、璃理と亮は気をつけるように言って退散する。
    「大丈夫なの?」
     ピアットが心配そうに首を傾げると、頷いた音々が自分の足でしっかりと立つ。
    「みんなもありがとう」
     震えて何も出来なくなってしまった自分と違い、守るように前に出てくれた四人に音々がやっと笑顔を見せる。音々にとっては偶然に出会った四人だ。
     自分に話しかけなければ、こんな怖い目にも合わずに済んだかもしれないのにと申し訳ないと思う。その絆の深さは測れないが、無事に音々との絆を結べた様だ。
     その後は楽しくショッピングをして、別れを告げたのだった。
    「後は卵が孵化するのを待つしかないっすね」
     仲間と合流した天摩がゴーグルに触りながらふぅっと息を吐く。
    「ナンパ役お疲れ様です……かっこよかったですよ?」
     にこりと笑った六華に天摩が苦笑いを、三義が霊犬のひとつの頭を撫でる。雌の柴であるひとつが愛らしいくるっとした瞳を輝かせて尻尾を振るのだった。

    ●孵化のとき
     ショッピングの帰り道、メールの着信音に音々は足を止めた。鞄から携帯を取り出した音々は、名前を見て微かに瞳を見開く。
     あんなにも焦がれたはずの幼馴染みからのメールは、ただのメールだった。心がふわりと浮き立つようなものじゃない。その時、音々が息を飲んだ。
     灼滅者たちが隠れて見ている目の前で、卵にひびが入っていく。そして殻を飛ばすようにして現れたのは絆のベヘリタスだった。
     何も映さず、全てを飲み込むような闇が広がる。
    「ひっ!」
     自分の頭上から現れた闇に、恐怖を抱いて音々が後ずさる。しかし震える足はうまく進むことが出来ず、すぐに地面に倒れた。
     異様な光景に瞳を奪われていた灼滅者たちも動き出す。
    「ひとつ」
     三義に名前を呼ばれたひとつは、すぐに意図を汲み取って駆け出した。そして音々を守るようにベヘリタスとの間に滑り込む。
     その間に再び殺気を放ち、三義が道から人を遠ざける。同時に音を遮断した幽が剣を非物質化させて、霊魂と霊的防御を直接攻撃した。
     突然現れたベヘリタス、そして一緒に買い物をした四人にナンパしてきた二人、助けてくれた二人。何が何だかわからなくなった音々が悲鳴を上げた。
     目の前で起こっていることが処理しきれずに、音々の体がガクンと倒れ地面に頭をぶつけそうになる。ぶつけずに済んだのは、幽の霊犬が体の下に滑り込んだからだった。
    「乙女の大切な絆を奪う悪い子には、馬に代わってピアが蹴飛ばしてあげるの」
     軽々と地面を駆け出したピアットがふわりと跳躍する。大切な絆を奪うなんて酷いにも程がある。
     その思いをそのままぶつける様に片腕を変形させて殴りつけた。
    「絶対に許さないの!」
     確かにピアットの攻撃はベヘリタスを捉えた。しかし手応えは曖昧だ。
     いつの間にかピアットの後ろから駆け出していた亮も、拳を闇に埋め込んで微かに瞳を開いた。効いているのか効いていないのか、ひどく曖昧なのだ。
     十分という時間は短い。ガンガン攻めていこうとしていた亮が瞳を細める。
     絆の深さはどうであれ、絆は結べている。もし絆が結ばれていない状態だったらと思うと背筋に冷たいものが走る。
    「そうだとしても引けないだろう」
     口の中で呟いた亮が、いったん間合いを取るようにベヘリタスから離れる。入れ替わるように構えていた天摩のガンナイフの銃口が黒く染まっていく。
     集められた漆黒に輝く想念が、漆黒の弾丸となって放たれる。
    「喰い散らかせ」
     表情のない天摩が鋭く冷たい視線でベヘリタスを見るのと同時に、弾丸が貫く。闇の中を突き抜けた漆黒にも、ベヘリタスは動じる様子がない。
     揺らめくベヘリタスに、拳にシールドを出現させたなつみが迫る。六華がそれに合わせて氷をのつららを放つ。
    「凍りついてください……重なり砕けて削ります」
     六華が呟くのと同時につららが闇に埋もれ、その上からなつみがシールドを叩きつける。
    「マジカル・クルエル・コンバット」
     演技ではあるが、音々を助けた時のようにプリンセス番に変身した璃理がベヘリタスを見る。
    「戦闘開始です、ダークネスよ……今日が貴様の灼滅の時です☆」
     防御は捨てて攻撃あるのみと決めていた璃理が拳にオーラを集束していくのだった。

    ●溶け込む闇
     オーラを宿した璃理の拳を受けながら、ベヘリタスが動く。虚から突然現れた無数の刃が後方にいた灼滅者を一気に襲った。
     気を失った音々を危険から遠ざけた三義の体も出現した刃に斬り裂かれていく。
    「弱体化させてこのダメージですか。まともに当たると本当にまずい相手ですね、これ」
     傷を負った仲間を見て六華が眉を寄せる。その間に指先に集めた霊力を三義が仲間に撃ち出し回復する。
     三義に合わせてひとつと幽の霊犬も回復に駆け出した。
    「ミドガルド、行くっすよ」
     構えた天摩がライドキャリバーに小さく呟いて駆け出した。天摩がベヘリタスに到着するまでミドガルドが掃射する。
     絆は不変のものではない。今日ある絆が明日も同じとは限らない。
     けれどそうだとしても、こんな形で奪われていいものじゃない。表情には出さないが、内心では怒りに燃えている天摩だった。
     闇を斬り裂く様にベヘリタスに向かう。再び妖気で氷のつららを作った六華が真っ直ぐに放つ。
     連続する攻撃に、その身を傾かせたベヘリタスに璃理がマテリアルロッドを構える。
    「頭部にあたって大爆発♪」
     そして思いっきりホームランスイングするのだった。殴る時に流された魔力が璃理の言葉通り内部から爆破が起きる。
     大きく揺れたベヘリタスになつみも飛び出す。
    「拳技と気術の応用技、見せてあげましょう」
     トンファーの形状をした武器で、璃理とは逆の方を殴りつけたなつみが瞬時に離れた。同じ様に内部から起きた爆破にベヘリタスが翻弄される。
    「もう一発行くの」
     ふわりと飛び出したピアットが内部からの爆破をさらに引き起こす。
    「……人の恋路を邪魔する者は……潰します……!」
     ゆらりと揺れた幽の影が一気にベヘリタスに迫る。足元まで到着すると、影が大きく伸びてベヘリタスを飲み込んだ。
     次の攻撃に移ろうとした亮に向かって、影の中から漆黒の弾丸が放たれた。身を守るように構えた亮が衝撃を覚悟したが、衝撃は襲って来ない。
     亮の攻撃を代わりに受けたなつみの体がその威力に後方に吹き飛ぶ。
    「っ……!」
     受身を取る余裕すらないまま、なつみの体が地面にぶつかる。すぐに三義が霊力を宿して放つ。
     回復してもらったことで立ち上がったなつみが痛みを飛ばすように軽く頭を振る。
    「ありがとな」
     お礼を言うのと同時に片腕を偉業巨大化させた亮が飛び出す。音々に絆を思い出させて、大事な幼馴染みとの約束をリベンジさせてやりたいと思う亮だ。
    「ほんと、しつこいやつは嫌われるだな」
     灼滅者たちに攻撃を受けながらも粘り強く倒れないベヘリタスに亮が呟く。そして思い切り殴りつける。
    「貴方に絆はあげられません――――返していただきます」
     きっぱりと宣言した六華が漆黒の弾丸を放つ。
    「これで終わりにするんだもん!」
     拳にオーラを宿した璃理が駆け出すのと同時に、天摩も再び漆黒の弾丸を放った。ベヘリタスが向かってくる璃理に向かって断罪の刃を振り下ろす。
    「……!」
     鋭利な刃で斬り裂かれる痛みに璃理が眉を寄せる。しかし攻撃あるのみ、一瞬ふらついた足元に力を入れて立て直す。
     璃理の拳がベヘリタスに当たるのと一緒にピアットが剣を非物質化させて放った。ベヘリタスの動きが止まって硬直していく。
     そして弾けるように砕け散った。夕日を浴びた漆黒の破片がキラキラと光って消えていく。
    「何なの、これ……」
     いつの間にか目を覚ましていた音々が掠れた声を出した。
    「……すみませんでした……!」
     騙してしまったという引け目から、開口一番に幽が頭を下げた。その間にも絆が戻った音々は自分がしでかした過ちに困惑する。
    「勇気出してみろ、な?」
     幼馴染みへの想いを取り戻した音々が困惑するのを見て、亮が誘うことを提案する。そして笑顔で後押しをする。
    「きっと音々おねーちゃんなら大丈夫なの」
     さらににっこり笑ったピアットに頷いた音々の瞳から涙が溢れる。
    「きっと、心配してるはずですよ」
     急に態度がおかしくなった音々を心配しないはずがないと言うなつみに、音々が微かに微笑んでみせる。
    「経験ないですけど。きっとデートって、楽しいのでしょうね」
     少し首を傾げて呟いた六華の声にきょとんとした音々が柔らかい笑みを見せる。そんな仲間と音々を、恐怖を抱かせた二人は離れた場所で見る。
     心から望んだ絆なら、消えようが切れようがまたもう一度結べるものだと三義は思っている。もちろん、どうするかは本人次第なのだが。
     恐怖を与えた自分がいるのも良くないかと、ひとつの背をそっとひと撫でした三義が背を向ける。隣にいた三義が動き出したのを感じた天摩もまた歩き出す。
     いつでもやり直しがきくなんて事はない。取り返しのつかないことだってある。
     でも今ならまだ出来ることがあると天摩は思う。何よりダークネスのせいで奪われてはいけない。
    「頑張れ」
     誰にも聞こえない声で天摩が呟いた。

    作者:奏蛍 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 1
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