修学旅行2014~美ら海のイルカたち

    作者:草薙戒音

     武蔵坂学園の修学旅行は、毎年6月に行われます。
     今年の修学旅行は、6月24日から6月27日までの4日間。
     この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅立つのです。
     また、大学に進学したばかりの大学1年生が、同じ学部の仲間などと親睦を深める為の親睦旅行も、同じ日程・スケジュールで行われます。

     修学旅行の行き先は沖縄です。
     沖縄そばを食べたり、美ら海水族館を観光したり、マリンスポーツや沖縄離島巡りなど、沖縄ならではの楽しみが満載です。
     さあ、あなたも、修学旅行で楽しい思い出を作りましょう!
     
     修学旅行2日目、美ら海水族館。
     その館外、徒歩5分ほどの場所にある『オキちゃん劇場』で繰り広げられるのは、青い海をバックにしたイルカショー。
     ダイナミックなジャンプを披露したり、インストラクターの投げるわっかやボールを器用にキャッチして運んだり。
     ユーモラスなダンスやコーラスなど、オキゴンドウやミナミバンドウといったイルカたちがその優れた運動能力を生かして楽しいパフォーマンスを披露してくれます。
     近くにある『イルカラグーン』で楽しめるのはイルカとの触れ合い体験。プールサイドでイルカに直に触れあったり、デッキ上からを餌をあげたりすることができます。
     オキちゃん劇場前にある『オキちゃんパーラー』は窓口で注文をして品物を受け取るセルフサービスの軽食店。そのままフードコートで休憩することも、ここで買ったジュースやアイスを手にイルカショーを楽しむことも可能です。
     
    「イルカショーの劇場の名前にもなってる南バンドウイルカの『オキちゃん』、1975年からイルカショーに出てて今年で現役39年目らしい」
     修学旅行のしおりを手に、一之瀬・巽(高校生エクスブレイン・dn0038)が口を開いた。
    「イルカラグーンにいるバンドウイルカ『フジ』は病気で尾びれを失ったけど、今は人工尾びれを装着して元気に泳ぎ回っているそうだ」
     僅かに目を細め、巽が続ける。
    「せっかく美ら海水族館に行くんだから、オキちゃんのショーやフジも見てみたいと思ってね」
     彼なりに修学旅行を楽しみにしているのだろう、ふわりと柔らかに微笑みながら巽はさらに言葉を紡ぐ。
    「――よければ、一緒に行ってみないか?」
     
     南国の青い空の下、元気に泳ぐイルカたち。
     彼らとのひと時を、皆で一緒に楽しみましょう――。


    ■リプレイ


     抜けるような青い空と、燦燦と降り注ぐ太陽の光。「オキちゃん劇場」から流れてくるのは南国沖縄を思わせるBGM――。
     初めての水族館、初めてのイルカショー、初めての旅行。
     初めてづくしにはしゃぐ黒澄の白いワンピースの裾が翻る。
    「クロ、そんなに急いじゃ危ないよ……!」
     窘める白銀も、期待に胸膨らませているのは同じで。
    「……アカねえさま、早く行かないと前に座れないかも……! 早く行きましょう!」
     今は見えない耳や尻尾をぱたぱたと動かし自分を急かす妹たちに、紅玉が微笑む。
    「せっかくだから間近で見ようよ!」
     弾む気持ちを抑えきれないといった様子で三ヅ星がエスを誘う。
    「オレも近いところで観たいと思ってたんだ。よし、前行くぞミヅホ」
     言い合いながら2人はすり鉢状になった座席の最前列へ。

     飼育員がプールサイドに並び、いよいよオキちゃんとその仲間たちによるイルカショーが開演――。

     飼育員の動きに合わせ、イルカたちがジャンプを披露。
     ジャンプが終わると水面から顔を出し、観客にご挨拶。
    「見て見て、イルカ可愛いわよね」
     デジカメを構えはしゃぐ律花の横顔を見て春翔が微笑む。常の凛とした風情とのギャップが微笑ましくて思わず笑いそうになってしまったのは内緒だ。
    「イルカもだが、律花も可愛いがな」
    「春翔、何か言った?」
    「何でもない」
     一瞬首を傾げた律花の目の前で、大きなイルカがジャンプする。着水と当時、跳ね上がる水飛沫。
     咄嗟に春翔の影に隠れる律花。春翔もその手で彼女を水飛沫から庇う。
    「ごめんね、盾にしちゃった」
    「此れ位大したことはない」
     答える春翔に、少し恥ずかしそうに律花が尋ねる。
    「ショーが終わったらラグーンも見に行きたいんだけど……ダメ?」
     滅多にない彼女の可愛らしいお願いに、春翔は口元を隠し小さな笑い声を漏らした。
    「そんなに可愛い顔をされては、俺が断れる訳がないだろう?」
    「ありがと。春翔のそゆトコ好きよ」
     小声で答える律花の頬が僅かに赤く染まる。
    「あ。春翔、見て見て!」
     彼女の指差す先で、イルカたちが元気に跳ねた。
    「エス君見た!? 今のすっごいジャンプだった!」
     イルカと飼育員の絶妙なコンビネーションに、興奮した様子で三ヅ星が声を上げる。
     その隣には呆気にとられたままショーを見つめるエスの姿が。
     サカナが賢いとか、ヒトの言うことが判るとか、彼はまったく信じていなかったのだ。
    「器用だねーっ! ……わっわっ、こっち来たよ!」
     イルカが方向転換し、飛沫が2人に降りかかる。
    「あはは、ボクらびしょびしょっ!」
     けらけらと笑う三ヅ星。
    (「君が少しでも『タノシイ』を感じてくれたなら。嬉しいな」)
     思う彼の横で、水飛沫を浴びて正気に戻ったエスがポツリと呟く。
    「あぁ、コレは凄ぇな」
     三ヅ星を見る彼の顔には、とても小さいけれど確かに笑みが浮かんでいた。
     イルカたちの連続ジャンプ。水面から垂直に体を出し、くるくるとダンスをするように踊る。
    (「どちらかというと、水中から見る幻想的な姿よりも水上を飛び跳ねる元気な感じが好きかしら」)
     口調と容姿が相まって普段は年上に見られやすい風鈴も、イルカショーを観てはしゃぐ姿は年相応。躍動的に泳ぎ跳ねるイルカたちの様子に大満足でニコニコと笑みが絶えない。
     時折飛んでくる飛沫はご愛嬌だ、と思うものの。
    (「こういう時、スライムの姿だと必要最低限の着衣でいいんだけど」)
     濡れた服に、ちらりとそんな考えが頭をよぎる。
    (「あらあら至妙なこと。まあ私でもできますけれど、あれくらい」)
     イルカの妙技に感嘆しつつも何故か対抗意識を燃やす紅玉に、黒澄が声をかける。
    「あんなにおっきなお魚があんなに高く飛ぶなんて、すごいですね!」
     きらきらと瞳を輝かせる黒澄、満面の笑みを浮かべて心底楽しそうな白銀。
    「ええ、そうですね」
     ショーに夢中な妹たちの様子に目を細め、紅玉がそう返す。
    (「捕まえて見世物や芸をさせるだなんてと思っていましたけれど」)
     これはこれでひとつの形なのかもしれない。
     高々とジャンプしたイルカが、勢いよく着水する。盛大に水を浴びた黒澄のために、白銀は購入しておいたTシャツを取り出す。
    「さてシロ、クロ、次はどこに行きますか? 姉は貴方たちの楽しい顔が見れるところがよいですよ」
    「クロはアカねえさまとシロねえさまと一緒なら、どこに行っても楽しいです!」
     ふわりと笑う姉と無邪気に答える妹の手を引き、白銀が歩き出す。
    「クロ、アカねえさま! 次はイルカさんとの触れ合いですよ!」


    「イルカかぁ、ぼく初めて会うんだ!」
     おまけに直に触れ合える――滅多にない機会にはしゃぐ澄に儚が答える。
    「私もね、イルカは見るの初めて」
    「あ……で、でも、噛んだりしない、かな」
    「大丈夫……きっと噛んだりしない、わ……」
     本にはイルカは無邪気で可愛い生き物だと書いてあった。
    「じゃあ大丈夫、かな」
    「でも少し不安だから……澄、イルカとの触れ合いの間、手繋ご……?」
     微かに首を傾げながら儚が提案する。
    「うん、うん。僕も不安、だから。儚ちゃんが手を繋いでいてくれたら、安心、だな」
     しっかり手を繋いだまま、もう片方の手をそっと伸ばす。
    「わあ……イルカってこんな肌触りなのね」
     つるつるなのにゴムのような、不思議な感触。
    「澄も触ってみてっ。この子たちとってもお利口さん……!」
     みるみる明るくなる儚の表情を見て、澄がほっと息をつく。
    「わ、本当だ! お利口さん!」
     明るく笑う澄に、儚も小さな笑い声を上げる。
    「イルカさんと触れ合えるの楽しみだね」
     ふんわりと笑う雪月に氷華が青い目を和ませる。
     飼育員に促され頭を出したイルカに触れると、雪月は氷華に視線を向けた。
    「ひょーちゃんってイルカさんみたいだね」
    「はぁ? なんでだよ」
     問い返す氷華。
     初めて触ったイルカはツルツルで、それに触れた雪月が何故に自分を「イルカみたい」と言ったのかが解らない。
     そんな氷華に「内緒だよ」と微笑んで、雪月はイルカに視線を戻す。
    (「こいつ時々訳分かんねぇこというよな」)
     それでも、楽しそうな彼女を見ていると来てよかったと思ってしまう。
    (「俺も単純だよなぁ……」)
     お前のほうがずるいだろ――とは、氷華の口に出せない本音。
    (「色々と乗り越えた上で、今があるんだろうな」)
     人工尾びれを付けて泳ぐフジの姿に、元気に泳ぐ様子が見られて良かった、と呟く雪月。
    (「私も前に進めるように頑張らないと」)
     氷華も何かを感じているのか、フジをじっと見つめている。
    「かっくいーなあ、お前」
     フジの頭を軽く撫でるキィン。
    「また泳げるって知った時嬉しかった?」
     触れる花織に応えるかのようにフジが鳴く。
    「海の生き物って凄く綺麗じゃないですか」
     帷が珍しく声を弾ませる。彼の普段とは違う表情が嬉しくて、ましろは思わず笑みを浮かべた。
    「この子がフジちゃん?」
    「この子が『フジ』さん」
     2人の前に顔を出し、キュイと小さな鳴き声をあげるフジ。
    「辛い病気を乗り越えて泳ぐ姿はカッコイイね」
     すごく綺麗だし、というましろの言葉に帷も頷く。
    (「強く逞しい……そして美しさを貰った」)
     これからも元気で、と思いを込めて2人はフジの肌をそっと撫でる。
     初めて触れたイルカの肌はひんやりとしていてすべすべで。
    「ひんやりしててきもちーね?」
    「本当だ……ひんやりすべすべできもちいい!」
     笑顔で見合う民乃と漣。
    (「誘ってよかった……にしても、漣ちゃん、すっげかわいーなぁ……」)
     思わず見ほれる民乃の目の前で、不意にイルカが急ターン。
    「ぶわっ!?」
     水飛沫を浴び目を白黒させる民乃の様子が妙に可愛らしくて、漣が思わず笑い出す。
    「あ、……あははっ!」
    「ちょ、漣ちゃん笑いすぎ!」
    (「本当にどこに行っても人気者なんですから」)
     胸いっぱいの喜びと幸せを秘めたまま、漣はハンカチで濡れた民乃の顔をそっと拭う。
    「笑っちゃってごめんね。大丈夫?」
    「あ、ありがと……吃驚したけど大丈夫……!」
     胸の高鳴りを誤魔化すように民乃が笑う。
    (「カッコ悪いとこ見せちゃったけど、ラッキーだった……かな」)
     間近で見る民乃の笑顔に漣もまた胸をどきどきさせていることに、彼はまだ気付いていない。
     ざばんと小さな波を立て、イルカが水面上へと顔を出す。
    「わっ、近い近いっ?」
     しゃがんだまま後ずさりし、尻餅をつきそうになった陽の体を隼人がそっと支える。
    「さ、触っても大丈夫?」
     おっかなびっくりで手を伸ばし、冷たい水の感触に思わず手を引っ込める陽。
    「陽、無理は良くない」
     気遣うような隼人の言葉に大丈夫と返し、陽は再びイルカに手を伸ばす。
    (「水苦手なせいでデートで行けない場所多いのは良くないし……」)
     もともと動物は好きなのだ。隼人もいるのだから、きっと大丈夫。
    (「少しでも克服できると良いな、陽」)
     見守る隼人の前で、陽は遠慮がちにイルカの肌に触れ……。
    「わ……見て見て隼人、可愛いよ♪」
     愛らしいイルカの表情と触れても怒る様子のない優しい風情が水への恐怖を和らげたのか、陽の顔に笑みが宿る。
     目を細め「そうだな」と応じる隼人の視線が追うのは、イルカではなく彼女の笑顔。

    「あ、イルカさんに餌あげられるの?」
     給餌体験のできるデッキに上がり、ましろが餌を投げ入れる。
    「ほーら、ご飯だよ」
     投げ入れられた魚をイルカが器用にキャッチ……したまでは良かったが。
    「ふゃっ」
     急に方向転換したイルカが起こした水飛沫がましろを襲う。
    「沖縄で風邪とか馬鹿じゃなくてアホですよ」
     笑いを滲ませながら、帷はましろにハンカチを差し出す。
    「んもーっ! 笑いすぎだよ帷くん!」
     かぱ、と開いたイルカの大きな口に、花織が半歩後ずさる。
    「た、食べるなら先輩のほうが食べ応えあるよ!」
     花織に押し出され半眼になるキィン。
    「……花さん」
    「ん、つい」
    「食われたらイルカと一緒に夢枕に立ってやろうか?」
     笑いながら脅すキィンに、花織も笑顔で応える。
    「逢いに来てくれるならいつでも。今度花が行こうかな」
    「大事なスケッチブックはしまってろよ」
     水が飛んでも庇ってやらないからなとキィンが言えば、花織は斜め掛けしたバッグを叩いて見せた。
    「先輩は動物が好きだから獣医学部に?」
     その通りだと答えるキィン。
    「最近あんまり話していなかったな」
    「ん、帰ったら大学のお話聞きたい」
     帰ったら購買でパンでも買ってゆっくりな、と応じるキィンに花織が頷く。
    (「先輩はこれからもきっとずっと花の先輩なんだろうなぁ……」)


    「あの子がフジ君かな? 元気に泳いでいるね」
     自由に泳ぎまわるその姿にフジの努力と尾びれの作成に携った人々の努力と愛情の深さを感じて、ギルドールは目を細める。
    「ふふ、キミは人懐こいね……どうも有り難う。キミ達も息災でね」
     イルカを撫でながら話す彼を見て、巽が小さく笑う。
    「イルカと話してるみたいだな」
    「話せるよ?」
     真顔で返すギルドール。呆気に取られる巽。
    「……本気にした? あはは、冗談だよ」
     笑うギルドールに巽が今度は困ったような笑みを浮かべる。
    「今日は付き合ってくれてありがとう」
     礼を言うギルドールに「こちらこそ」と巽が返す。
    「サイボーグのイルカさんがいるらしーねぃ♪」
    「サイボーグのイルカ? そんなのもいるんだ? 楽しみだなぁ」
     ニコレッタと直也のいうサイボーグのイルカとは、フジのこと。
    「人工の尾びれ、ですか。それでも元気に泳いでいるのは、すごいですね」
    「あっ、アレかなー? フジちゃんっ」
     瞳を輝かせてニコレッタが指差す先に視線を移し、凛音が興奮気味に声を上げる。
    「わ、わ……すごいですっ。こんなに泳ぐことができるんですねっ」
    「尾びれかっこいいー♪」
     その興奮のまま彼らは触れ合い体験に挑む。
    (「意外とデカい……」)
     一番にイルカに触れたのはニコレッタ。イルカのサイズに少々引き気味になりながらも直也が「どう?」と問いかける。
    「2人とも、ほら触ってみなよ! ぷにぷにー♪」
     彼女の言葉に直恐る恐るイルカに触れる直也。
    「イルカってこんな感触なんだ……」
     続いて凛音がイルカの頭をそっと撫でる――と、その直後。
     ぱしゃん、とイルカがその胸びれで水面を叩いた。
    「わっ……」
    「わひゃ!」
     派手に飛び散った水飛沫が3人を直撃する。
    「もう、暴れん坊さん……凛音さん、直也さん、大丈夫ー?」
     ニコレッタの言葉に直也が頷く。この陽気ならすぐに乾くに違いない。
    「えーとタオルタオル……はい」
     にこっと笑ってタオルを差し出す。
    「ふふ……いたずら好きなんですね」
     呟く凛音の視線の先では、まるで首を傾げるかのようにイルカが頭を斜めに傾けていた。
    「イルカ! イルカだぞ! 莉都! 乗れんの? これ乗れんの? ダメ? あー、やっぱダメかー!」
     イルカを前にテンションMAXの爽太。
    「って、莉都イルカ見んの初めて?」
     彼の問いに頷く莉都の内心は不安で一杯。動物は好きだが、何かの拍子に傷つけてしまうんじゃないかと思うと……。
    「ま、いいじゃん! 触ってみろよ! ほらフジちゃんも莉都に触って欲しいってカッコいい尻尾バシャバシャしてんぜ!」
     笑う爽太に背中を押され、莉都はおそるおそるイルカに触れてみる。
    (「何だろう……凄く身近にあるもののような……」)
     この触り心地は……。
    「……ナスみたい」
    「うん、そうだな! ナスだよ……っておかしいだろ!」
     莉都の呟きに思わず突っ込む爽太。しかし、自分が触れる段になってみると――。
    「……ナスだこれ」
     びっくり顔の爽太に莉都が「ほらね」返し、顔を見合わせ笑い出す。
    (「うん、すごく楽しい」)
    (「うん、めっちゃ楽しい!」)
     イルカに直接触れる機会など滅多にない。
    「楽しみっス。加賀美さんもそう思うっスよね?」
     声を弾ませながら問いかける零菜に笑顔で頷く有栖。
    (「はしゃいでる零菜ちゃんもマジ可愛い」)
     そんなことを思う有栖をよそに、触れ合い体験は進行していく。
    「イルカさん、自分とお友達になって欲しいっス!」
     零菜が手を差し出すと、イルカも胸ビレを水面の上へ。
    「にしし、友好の証、っスね」
     イルカと握手しながら零菜が笑う。
    「ほらほら、加賀美さんも触ってみるっスよ!」
    「オレ、イルカに触ってみたかったんッス!」
     嬉々としてイルカに触れ、零菜同様握手を試みる有栖。
    「へへ、宜し、く!?」
     大きく頷いたイルカの頭が水面を叩き、跳ねた飛沫が有栖を直撃。
    「あらら、水かけられちゃったっスか」
     零菜が笑みを大きくした瞬間、再びばしゃん、と水面を叩く音が。
    「わぷっ」
    「零菜ちゃんだってびしょぬれじゃないッスか~」
     互いを見やり、笑い出す。
    「……オレ達おそろいッスね!」
    「徹やん! やばい、めっちゃ近いねんけど!」
     はしゃぐ立夏とは対照的に、イルカと立夏の様子を静かに観察する徹也。
    「歯ぁとか結構あるんやなぁ」
     嬉しそうに報告する立夏の様子をスマホで撮影しながら徹也は思う。
    (「……イルカは危険な生物ではないようだ」)
    「徹やんも触ってみいや」
     お返し、とばかりに徹也がイルカと触れ合う写メを撮る立夏の耳に、イルカに語りかける徹也の声が。
    「俺の友人を喜ばせてくれて、ありがとう」
     至極真面目に礼を言う徹也に、立夏が思わず笑みを浮かべる。
    「徹やん、何いうとんの」
     笑いながも立夏がイルカとの3ショットを撮ろうとした瞬間、イルカがいきなり胸ビレを動かし水を跳ねさせた。
    「さっきまで大人しかったんに……っ!」
     水飛沫から立夏のスマホを守った徹也の服が盛大に濡れる。
    「はは、水かけんといてやー!」
     楽しそうな立夏の声が、徹也の心に優しく響く。
    (「イルカさん……見たことはありますが、触るのは初めてなのです」)
     わくわくしながらカレンはイルカの肌に手を伸ばす。多少海水が掛かろうが、気にしない。
    (「人工の尾びれ……というのも気になってるんですよね」)
     イルカに触れながらちらりと見やるのは、元気に泳ぎ回るフジの尾びれ。
    (「資料だけでなく実物を見たり、触れたりできるのはいいことです」)
     第一とても楽しいですし、と思いながらカレンは笑う。

     上がる歓声、楽しそうな笑い声。
     青い空にイルカが跳ねる――。

    作者:草薙戒音 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月25日
    難度:簡単
    参加:31人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 6
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