悪役お嬢様は往生際が悪うございます

     この世界には、肉体が滅びてもなお、留まり続ける思いがある。それは大抵の場合、未練、執着、憎しみといった負の感情に満ちていて、この営業をしなくなって久しいショッピングモールに存在するそれも、例外ではなかった。
    「有り得ませんわ、認めませんわ、この私が、あんな庶民どもなんかに負けるなんて……」
     憎々しげに恨み言を垂れ流す、縦ロールの金髪が特徴的で、いかにも高飛車な感じの少女の前に、杖を持ち、ファンシーな衣装に身を包んだ少女が現れる。
    「灼滅されて尚、残留思念が囚われているのですね。大丈夫、私にはあなたが見えます」
     杖の少女がそう語りかけると、
    「あんな浅ましくて、卑しくて、数だけしか勝るもののない庶民など、この私にひれ伏し、従い、私が望んだら血の花を咲かせれば良いのですわ。それを、あの庶民共が……」
     あからさまな上から目線でお嬢様は言ってくるが、少女は気分を害した素振りを見せず、
    「私は『慈愛のコルネリウス』。傷つき嘆く者を見捨てたりはしません」
     名乗りに違わずコルネリウスは優しさに満ちた目でお嬢様に手を差し伸べ、歌うように虚空に向かって語りかける。
    「……プレスター・ジョン、この哀れな少女をあなたの国にかくまってください」
     
    「慈愛のコルネリウスっていう大物のシャドウが、灼滅者のみんなに倒されたダークネスの残留思念に力を与えて、どこかに送ろうとしているみたいなんだよね」
     教室に集まった灼滅者達に、篠村・文月(高校生エクスブレイン・dn0133)が開口一番苦々しげに言った。
     残留思念に力は無いはずだが、灼滅された大淫魔スキュラの仕掛けで、残留思念を集めて八犬士のスペアが作られるという事件も起きているし、高位のダークネスならば力を与える事は不可能では無いのだろう。
    「コルネリウスに力を与えられた残留思念は、すぐに事件を起こすという事はないみたいだけど、放っといたら後々何をやらかすか分からないからね。コルネリウスが残留思念に呼びかけてる所に割り込んで、彼女の作戦を邪魔して欲しいのさ」
     机に振り下ろされた文月のハリセンが軽快な音を立てる。
    「慈愛のコルネリウスは、強力なシャドウだから、現実世界には出てこられない。現場に出てくるコルネリウスは、実態を持たない幻みたいなもので戦闘力は無いし、コルネリウス本人が灼滅者に対して強い不信感を持っているみたいだから、交渉は無理だよ」
     きっぱりと文月は言って、
    「おまけに残留思念も、自分を灼滅した灼滅者を恨んでて、コルネリウスから分け与えられた力を使って、復讐を果たそうとするから、戦闘は避けられないよ。ちなみにコルネリウスの力を得た残留思念は、残留思念と言っても、ダークネスに匹敵する戦闘力を持ってるから、油断は禁物だよ」
     再度ハリセンで机を叩き、文月は説明を続ける。
    「で、その残留思念なんだけど、名前は胡蝶院・麗華(こちょういん・れいか)と言って、2月に『縫村委員会』の儀式で強制的に闇堕ちさせられた六六六人衆の一人さ」
     元々漫画に敵役、もしくは悪役で出てくるお嬢様のテンプレートのような高飛車な性格だったのに加え、闇堕ちの影響で彼女が言う所の『庶民』を殺す事に何ら良心の呵責を抱かないようになったらしい。それだけに、灼滅された後、灼滅者に対する恨み・憎しみに凝り固まった残留思念が現れたのも納得のいく話である。
    「残留思念が現れるのは、以前灼滅者と麗華が戦った、潰れたショッピングモールだよ。中心にある開けたホールだから道に迷う心配はないし、周りに人通りがほとんど無い時間帯だから、一般人が巻き込まれる心配も無いから。問題は、前の戦いの時、麗華は縫村委員会で殺し合った直後でかなり消耗してたけど、今回コルネリウスに力を与えられた残留思念があの時の麗華と同じ戦闘力を持っているとしたら、厳しい戦いになるのは覚悟しておいた方が良いよ」
     ハリセンの先で灼滅者達を指して文月が言うと、
    「どんな奴でも関係ない。殴って、刺して、斬って、殺せば全て終わりだ」
     鳴瀬・慎一郎(高校生殺人鬼・dn0061)がいつもの無愛想な表情で答える。彼を知る灼滅者達の表情に「またか」と言った表情が浮かぶ。
    「慈愛のコルネリウス、やってる事はその名の通り一面的には優しさからみたいに見えて、結果的にアレだから、何考えてるか分からないけど、とにかくしっかり残留思念を倒してきておくれ頼むよ」
     そう文月が締めくくって、灼滅者達はゾロゾロと教室を出て行く所へ、
    「ねえ慎一郎」
     文月が慎一郎を呼び止める。
    「もうすぐあんたの誕生日だけど、プレゼントは何が」
    「要らない」
     文月が尋ねてくるのを途中で遮って、慎一郎は答えると、踵を返して教室を出て行く。
    「何だかねぇ……」
     やれやれを溜め息を吐きながら、風香は慎一郎の後ろ姿を見送るのだった。


    参加者
    鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531)
    黒崎・白(黒白の花・d11436)
    村本・寛子(可憐なる桜の舞姫・d12998)
    銃神・狼(ギルティハウンド・d13566)
    鬼神楽・神羅(鬼祀りて鬼討つ・d14965)
    冠城・蒼真(高校生シャドウハンター・d15133)
    ライン・ルーイゲン(ツヴァイシュピール・d16171)
    戦城・橘花(サイセイ・d24111)

    ■リプレイ

    ●頭の痛い色々な問題
    「残留思念でしたっけ? めんどくさい話ですね」
     潰れて久しいショッピングモールの通路を進みながら、黒崎・白(黒白の花・d11436)は本当に面倒臭そうに溜め息を吐く。一度倒したダークネスが力を与えられて再びこの世界に影響を与えるという話を聞けば、彼女だけでなく、一緒に行動する他の灼滅者達も気分が良いはずがなかった。
    「慈愛のコルネリウス──とは良く言ったものだ。救いの手を差し伸べているようで、その実は利用している。名ばかりも良い所だ。姑息なシャドウらしいと言えばらしいけどな」
     冠城・蒼真(高校生シャドウハンター・d15133)も苦々しげにそう吐き捨てる。
    「慈愛、ね。死者にチャンスを与えるって意味では確かに慈愛なんだろうがな」
     私達には面倒なだけだ、と戦城・橘花(サイセイ・d24111)はぼやく。
    「夢で幸せになっても、残留思念を掬っても、本当の意味で救いになることはないのに、どうしてコルネリウスはそこを見ないんでしょう?」
     悲しげに呟くライン・ルーイゲン(ツヴァイシュピール・d16171)に、「さあな」と鳴瀬・慎一郎(高校生殺人鬼・dn0061)は返す。
    「向こうが何を考えていても、関係ない。殴って、刺して、斬って、殺してそれで終わりだ」
     続く慎一郎の言葉に、周囲は『何だかな~』という表情になる。
    「鳴瀬殿はダークネスと見れば殺す事しか考えておらぬのか?」
     時代がかった口調で鬼神楽・神羅(鬼祀りて鬼討つ・d14965)が尋ねると、
    「人間同士でも分かり合えなくて、争いや殺し合いをやるんだぞ」
     まして相手がダークネスじゃ、灼滅するしかないだろう、という慎一郎の答えに、先程までとは違う理由で周りの灼滅者達は苦い顔を見合わせる。
    「そうだ、鳴瀬」
     光の届かない廊下で、ランプを片手に先頭を歩いていた銃神・狼(ギルティハウンド・d13566)が、振り返って声を掛ける。
    「灼滅が終わってもすぐ帰らないでくれよ」
    「何でだ?」
     そう尋ね返す慎一郎に、狼は「いいから」と詳細を話さないまま、半ば強引に約束させるのだった。

    ●悪役お嬢様の声はいつ聞いても耳障りです
     そうしているうちに灼滅者達の一行はホールに到着し、外の光が十分に入ってくるのを確認して狼はランプを消す。
     コルネリウスと残留思念はどこにいるのかと、灼滅者達が周囲を見回すと、
    「有り得ませんわ、認めませんわ、この私が、あんな庶民どもなんかに負けるなんて……」
     恨みがましい声が聞こえてきて、灼滅者達が声のする方を振り向くと、ホールの一角に杖を持ち、ファンシーな衣装に身を包んだ少女を見つける。
    「灼滅されて尚、残留思念が囚われているのですね。大丈夫、私にはあなたが見えます」
     そこには少女1人しかしなかったが、少女はそこに誰かがいるように、虚空に向かって話し掛ける。
    「私は『慈愛のコルネリウス』。傷つき嘆く者を見捨てたりはしません」
     その言葉に、過去にコルネリウスを実際に見た事のない者達も、杖の少女がそうなのだと理解する。
    「コルネリウスさん……やっぱり、その思念の方を、救おうとしてらっしゃるんですね……」
     サポートとして参加するアリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)が呟くと、
    「コルネリウス……あれは、アリスお嬢様にとっての【白の女王】か……それとも、お嬢様を惑わす【赤の女王】か……」
     アリスにメイドとして仕えるミルフィ・ラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・d03802)が、心配そうにアリスを見る。
    「さあ、力を分けてあげます。それであなたの望みを叶えて下さい」
     コルネリウスが手を差し伸べて言うと共に、彼女の姿はホログラムのように薄くなっていき、代わりにコルネリウスの前の何かが輪郭を成し、続いてはっきりした姿になっていく。それは縦ロールの金髪がとても特徴的な、いかにも漫画などで悪役として登場するお嬢様キャラクターのテンプレートとでも言うべき姿で、
    「ああ、素晴らしいですわ。これこそ私にふさわしい力。いいえ、元から私の物になるべき力よ。オーッホッホッホ!」
     間もなくコルネリウスの姿が完全に消滅すると同時に完全な形を取り戻すや、お嬢様はイメージ通りの高笑いを上げる。
    「麗華ちゃん、まだ成仏出来ないでいたんだ……」
     かつて同じ場所でお嬢様──胡蝶院麗華と戦った事がある村本・寛子(可憐なる桜の舞姫・d12998)が、物陰から伺いながら残念そうに呟く。
    「なんかあの髪型を見てると、オーガを思い出すね」
     鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531)の言葉に、『オーガ』というのは知り合いの名前だろうが、やはりお嬢様キャラなんだろうかと、周りの者達はつい考えてしまうが、すぐに思考を切り替える。
    「それじゃ、打ち合わせ通り行こうか」
     この場の最年長者である蒼真の号令で、灼滅者達は一斉に飛び出す。
    「鬼を以て鬼を討つ! 鬼神招来!」
     神羅が解除の台詞を叫んでスレイヤーカードの封印を解くと、他の灼滅者達も同様に殲術道具を纏い、麗華を取り囲む。
    「麗華ちゃんおひさなの~♪ アイドル村本寛子参上なの!」
     麗華の正面に回って名乗りを上げる寛子だが、
    「誰ですの、あなた達?」
     即座に帰ってきた麗華の台詞に、寛子はガクッと膝を崩しかける。
    「前に麗華ちゃんと戦った、アイドル村本寛子なの! もう忘れちゃったの!?」
     先程よりも強い口調で再度名乗って尋ねる寛子に、
    「庶民の顔と名前をいちいち覚えるなんて、私の高貴な脳細胞の浪費ですわ。庶民はおとなしく血の花を咲かせていればよろしいのよ」
     さも当然とばかりに麗華は答えると、髪型に似たクルクル巻きの房飾りが付いた槍を寛子に向ける。それを見た白が、
    「聞きしに勝る鼻持ちならなさですね。ただでさえ一度やられた敵が復活することほどみっともないことってないですのに。しつこいのは嫌いです。強力だったり個性的な敵ならともかく、さして記憶に残らない人ですしね」
     対抗するように毒を吐くと、麗華はキッと眉を吊り上げる。
    「庶民の分際で、無礼でしてよ!」
     槍の穂先を回転させながら、麗華が白に向かってくるが、そこへディフェンダーである寛子が割って入る。
    「麗華ちゃんの相手は寛子なの! アイドルの偉大さを今日こそきっちり証明するの!」
     槍の穂先が腹に刺さっているにも関わらず、気丈に叫ぶ寛子。他の灼滅者達が不安そうに見るが、
    「大丈夫なの、こんなの全然浅いの!」
     そう笑って答える割に、槍が抜けて服に広がる血の染みは、決して小さくなかった。
    「分かってますね、黒子」
     同じディフェンダーでありながら助けられる形になった白は、背後に控える霊犬の黒子がひと吠えして浄霊眼で寛子の治療に掛かると、槍に付いた血を払っていた麗華との間合いを詰めて抗雷撃を見舞う。クラッシャーの珠音も続いて閃光百裂拳を叩き込み、
    「ウチの友達のお嬢様は、誰かの為に頑張れる子じゃよ。ウチはそっちの方がずっとかっこいいと思う」
     そう麗華の耳元で言うと、麗華が痛みと屈辱で更に険しくなった表情で睨み付けてくるので、珠音は慌てて距離を取る。
    「部長、手伝う」
     神羅と同じクラブに所属する山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)が簡潔に言って、サイキック斬りで麗華に斬り込むと、そこへクラッシャーの神羅の巨大化した拳が追い討ちを掛ける。
    「何ですの、その野蛮な攻撃は!?」
     流石に我慢しきれなかったか文句を言う麗華に、
    「アイドルの真骨頂はまだこんなものじゃないの!」
     寛子も負けない音量で叫び、ソーサルガーダーで守りを固め、更にメディックのラインがシールドリングを重ね、ラインのナノナノのシャルがしゃぼん玉を飛ばすと、同時に人狼の黒い狼の耳と尻尾を出したジャマーの橘花が鏖殺領域を展開するが、麗華が槍を扇風機のように回転させると、橘花の殺気はしゃぼん玉もろとも呆気なく吹き散らされてしまう。そこへ狼の霊犬ふゅーねるが斬魔刀で斬り込むが、これも麗華の槍に弾かれる。
     クラッシャーを務める狼はそれを見て、ガンナイフを持った右手とは反対の、契約の指輪を填めた左手を胸に当て、「確実に当て、削ってやる」と呟きながらブラックフォームを発動させる。
    「喰らえっ!」
     蒼真がガトリングガンから漆黒の弾丸を発射して、命中した箇所から麗華の体を毒に侵していくと、紺懇・羊(真っ白なキャンバス・d25110)から防護符を受け取ったジャマーの慎一郎が、他のサポートと一緒に攻撃に掛かり、麗華の服を切り裂く。
    「キャァッ! なんて下品ですの、しかも数に任せて、これだから庶民は──」
     ダークネスになっても羞恥心はあるらしく、切り裂かれた服をかばう麗華の抗議に、
    「数だけしか勝るもののない庶民か、んならその数の暴力受けてみるがええで!」
     麗華の抗議を遮るように、人造灼滅者の花衆・七音(デモンズソード・d23621)が、シャドウ形態である、闇が滴り落ちるような漆黒の剣に姿を変えて斬りかかる。
    「意志を持つ魔剣、か──」
     それを見た慎一郎が、いつもより興味ありげな目で、ボソリと呟いた。

    ●炎に舞う蝶
    「ゆーは昔の自分みたいで、見たくないんよ。逝ってらっしゃいませじゃ、お嬢様」
     珠音が言いながら放つオーラキャノンが、運良く麗華の頭に命中し、これはかなり効いたらしく、額から血を流しながら麗華は大きくのけぞる。それでもまだ倒せる程のダメージには至ってないらしく体勢を立て直す麗華だが、床に落ちている金色の毛を見つけ、それが珠音の攻撃で千切れた自分の髪だと気付くと、
    「よくも、私の髪を!!」
     残った髪も逆立たんばかりの怒りで、麗華が珠音めがけて突っ込んでくる。それでもまだ理性は残っているらしく、途中でサイドステップして珠音が一瞬麗華の姿を見失った隙に麗華が突きかかろうとするが、そこへ予測していたかのように白が回り込んで槍を受ける。
    「そんなに大切な物なら、金庫にでもしまっておけば良いでしょう」
     麗華の髪を指差しながら、白が再度毒を吐き、脇腹の傷をサポートに治療して貰ってから、エアシューズで瞬時に麗華との間合いを詰めるとグラインドファイアを繰り出す。これは麗華にかわされるが、タイミングを合わせた黒子の斬魔刀が麗華の太股を切り裂く。そこへ神羅がマテリアルロッドで麗華の服の破れた箇所を突くと、そこから流し込まれた魔力が体内で爆発して、麗華が尋常でない量の血を吐く。
    「認めません……わ……あの時、殺されたのは、何かの間違いが、陰謀……ですわ……それを、また、繰り返す、なんて……」
     もはや高笑いする余裕も無いらしく、台詞混じりに血の咳をする麗華に、
    「何度やっても同じなの! 麗華ちゃんは寛子たちに勝てないの! 諦めて成仏するの!」
     高らかに叫んで寛子はハイジャンプ。
    「ハイクを詠むの! 札幌時計台キック!」
     ジャンプの頂点から時計の針の如く回転する、寛子のご当地キックが炸裂。麗華の肩から鈍い音がするも、まだ倒れない。そこへラインのグラインドファイアとシャルのたつまきが合わさって生まれた炎の竜巻が飛んできて、麗華を飲み込む。
    「あぁぁっ、またですのォォッ!?」
     間髪入れず蒼真のブレイジングバーストで更に炎は大きくなり、全身を炎に包まれて絶叫する麗華に、ふゅーねるから六文銭射撃の援護射撃を受けて狼が炎を恐れず肉薄する。
    「死合おうか、お嬢様」
     宣言と共に、狼が零距離格闘を仕掛け、炭化した部分が文字通り削られていく。それは床に落ちると、光の粒のような物になって、あっという間に消えていく。
    「……お前の名前を刻む。だから、眠れ」
     かつて『縫村委員会』の儀式による殺し合いが繰り広げられた、この場所の畏れを集めると、橘花はその全てを斬撃に込めて、炎にのたうち回る麗華の胴へ横薙ぎに振るう。
    「アァァァァァァッ──!!」
     悲鳴を上げながら麗華の胴体が両断されて床に転がると、切り口から彼女の体が光の粒のような物になってみるみる崩れていく。
    「有り得ま……せんわ……認め……ませんわ……」
     炎に包まれ、胴体を両断されてもなお、麗華は自分の身に起きている事を認めようとしないようだったが、間もなくその口も、そして髪の毛の1本に至るまで、光の粒になって消えていった。
    「麗華ちゃん、今度こそ成仏できたかな……?」
     炎が消え、何も無くなった床に向けて、寛子は呟くのだった。

    ●君の生まれた日
    「さてと、灼滅は済んだし撤収するか」
     そう言って、早々に立ち去ろうとする慎一郎の肩を、狼が掴んで引き留める。
    「待てよ、戦闘の前に約束したろ」
     慎一郎の肩越しに、狼がホールの出入口に目を遣ると、
    「皆さん、お疲れ様なのです」
     海老塚・藍(フライングラグドール・d02826)がクーラーボックスや紙袋をたくさん持ってやって来る。
    「もうすぐ誕生日だってな。こんな場所で悪いが、乾杯ぐらいさせてくれ。誕生日おめでとう!」
     狼は藍から紙袋とクーラーボックスを受け取ると、焼き菓子を出して慎一郎や他の灼滅者達に勧める。
    「しんいっちゃん、おめっとさーん。甘い物はお嫌い?」
     珠音はチョココロネを出してきて、
    「ジュースで乾杯くらいなら良いでしょう?」
     白もクーラーボックスからジュースを出す。
    「賑やかなのは好きじゃないそうだけど……これくらいは、ね?」
     サポートから日輪・藍晶(汝は人狼なりや・d27496)も言ってきて、それでもまだ気乗りしない表情の慎一郎に、
    「鳴瀬さん、この学園にいるのなら、こうして誕生日を祝われるのも義務、です」
     そうラインに言われると、慎一郎は深く息を吐き、
    「まあ、戦闘で喉も渇いたしな」
     そう言って、ジュースの入った紙コップを受け取る。
    「「やったー!」」
     周りの灼滅者達が一斉に快哉を叫び、ケーキや焼き菓子を出してくる。
    「乾杯だけじゃないのか?」
     眉をひそめる慎一郎に、蒼真がポンと肩を叩く。
    『諦めろよ、武蔵坂ってのはそういう所なんだからよ』
     口には出さないが、蒼真の目と表情は、そう雄弁に語る。
    「乾杯。良き1年とならん事を。そしてまた縁があれば宜しく願いたい」
     神羅が代表して乾杯の音頭を取ると、
    「乾杯、慎一郎、誕生日おめでとう!」
     少し照れくさそうに橘花が言い、他も続いて口々に「乾杯!」と叫ぶ。皆が一通り口にした所で、ラインがギターを出して弦の調子を確かめる。
    「それではみなさんも一緒に歌っていただけますか?」
    「「は~い!」」
     ラインの呼びかけに、慎一郎以外の声が一斉にハモる。
     そして、ホールに優しいギターの演奏が始まった──。

    作者:たかいわ勇樹 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 1
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