だってみんな、おっぱい大好きだろ!?

    作者:空白革命

    ●巨乳のぷるんぷるん依頼だと思ったか!?
    「俺だよ!」
    「「ヒャーッハー!」」
     ゴリラが生まれ変わったんじゃないかなってくらいにいかつい五里羅・ゴリオ(ゴリラ・ゴリオ)はブーメランパンツ一丁で両腕を振り上げた。
     鍛え抜かれた腕、足、腰! しかし最も見るべきは彼のしなやかで柔軟でしかし硬く美しい両サイドの大胸筋である。
     彼が力んでみせれば大胸筋はリズミカルに震え、その震えは左右を交互に振るわせたり右と左で三三七拍子をしたりと器用でなおかつ美しかった。
     まるで南国の鳥が求愛行動を示すときのなんかに似ていた。
     っていうかやっぱ求愛行動なんだろう。だって彼の周りには大量のガチムチパンツァーたちが獣のような雄叫びをあげていたのだから。いや雄叫びというか歓声だったんだが、『ウオォー!』とか『ドォリャーア!』とか『フゥンヌ!』とか『エイドリャア!』だったのでやっぱり雄叫びなんだと思う。
    「誰もが求めた大胸筋、きっと実現してみせるぜ! イエエエエエエア!」
    「「イエエエエエエア!」」
     

    「……と、以上が闇堕ちしてしまった一般人の現状だ」
    「う、うん」
     そこまでのことを身振り手振り事細かに説明してくれた神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は、薄手のジャケットを羽織りつつ話を区切った。
     いや、別にザキヤマさんがビキパン一丁で『ウ゛ォーリャア゛!』とか言いながら左右の大胸筋をリズミカルに振るわせていたわけではない。わけではないったら、想像するなったら、もう!
    「彼はソロモンの悪魔に闇堕ちしてしまった一般人だ。沢山の大胸筋マニアの願いを聞き入れていくうち、元々屈強だった彼は大胸筋を中心に鍛え続けいつしか『大胸筋の震えに耳をすます会』なる組織を作り、強化一般人を増やすに至っている。このままではいずれ完全なるソロにモンモンしてしまうサムシングがビンビンだ。みんな、彼を……いや彼らを助けてやってくれ!」
     どうやら彼らの集会はイベント施設のホールを借りて行なわれているらしい。
     そこへ飛び込み、彼らを倒すという一連の流れになるんだっちゃ。
    「頼む……こんなことを頼れるのはきっと、世界広といえど皆しかいないだろう」
     ザキヤマさんは胸の汗をタオルでぬぐいながら、シリアスに呟いたのだった。


    参加者
    駿河・香(ルバート・d00237)
    凌神・明(英雄狩り・d00247)
    清浄院・謳歌(アストライア・d07892)
    ナハトムジーク・フィルツェーン(黎明の道化師・d12478)
    御影・ユキト(幻想語り・d15528)
    御剣・譲治(デモニックストレンジャー・d16808)
    シュクレーム・エルテール(スケープゴート・d21624)
    天城・湊(小学生神薙使い・d27287)

    ■リプレイ

    ●定期的に筋肉について触れていないと死ぬ病気
     インナーイヤーヘッドホン(耳栓みたいなイヤホン)を両手で塞ぎ、身体をリズミカルに揺らしながら歩く。
     駿河・香(ルバート・d00237)のポニーテールは身体のリズムに合わせて小刻みに上下していた。だがそれも、彼女が信号前で停止したことでぴたりとやんだ。
    「私には、大胸筋はすくないけれど」
     耳からスピーカーを外し、気分を変えるためにか首を振る。
    「学園のみんなとのつよいきずなと、ちーむわーくがある。だから、負けないわ!」
    「あれっ、そういう話だったかなっ? そうだったかな? うん、そうだね、まちがいないね!」
     斜め下でつま先立ちになりつつ上下運動する清浄院・謳歌(アストライア・d07892)。
     香のスピーカーから筋肉を番付してた時のSASUKE的なミュージックが漏れ聞こえていたけど無視した。清浄院謳歌は振り向かない子である。
     さておき。
     今回の依頼の趣旨を確認するためか、凌神・明(英雄狩り・d00247)が懐から一枚の写真を撮りだした。
     ゴリラが間違って人間界に混ざってしまったようなサムシングがビンビンに伝わるポラロイド写真だった。なぜ今時にポラロイド。
     長くなるのでめっちゃ乱暴に説明すると、『ワタシ、みんなのために(大胸筋の)アイドルになる!』である。
    「筋肉を鍛えたいなら人のままやれ、人のまま」
    「だが他者のために自らを鍛え抜く彼なら、きっと闇にも勝てるはずゥゥゥゥゥゥンヌッ!」
     御剣・譲治(デモニックストレンジャー・d16808)が背中にウェイトを乗せて腕立て伏せをしていた。ウェイトっていうかシュクレーム・エルテール(スケープゴート・d21624)を乗せていた。
     張り付いたような笑顔のシュクレームを乗せていた。
     見なかったことにする明。
    「しかし、今回は殴り合いはナシか。俺の出番も見込めんな。地味な戦いになりそうだ」
    「そんなことより写真もっと見せてくださいよ。その人絶対ゴリラの生まれ変わりですって」
     横から写真を奪って眺める御影・ユキト(幻想語り・d15528)。
    「きっと来世もゴリラなんです。今世だけゴリラになりそこなったんですよ。きっとそうです」
    「かもしれんな。だが今の彼には人の心があアアアアアウォリャアアッ!」
     褌以外フルパージの譲治がウェイトを乗せてヒンズースクワットをしていた。
     ウェイトっていうか目に光の無いシュクレームを乗せていた。頭上にY字ポーズで乗せていた。
     わかりづらいなら、張り付いた笑顔で一メートルずつ上下運動する幼女を想像しておいてほしい。
     点灯する青信号。歩き出す人々に混じって、天城・湊(小学生神薙使い・d27287)は横断歩道に足を踏み出した。
    「帰りたい。今日という日を、過去にしたい」
     両肩にシュクレームとナハトムジーク・フィルツェーン(黎明の道化師・d12478)を乗せてウサギ跳びする譲治をできる限り視界から外しながら、湊はスクランブル交差点をゆく。
     すれ違いざまにナハトムジークが振り向いてこう言った。
    「あっでも私ちっぱいのほうが好きです」
    「セッ!」
     湊は渾身の回し蹴りでナハトムジークを蹴落とした。

    ●何度も言うが見せる筋肉は力ではなく信頼の象徴であってその存在自体に大きな意味が以下略
     暗闇である。
     静寂な暗闇である。
     闇に突如、ひとつのスポットライトが下りた。
     それだけではない。会場両脇に設置された大太鼓が打ち鳴らされ、男たちの勇ましい合いの手と共に舞台中央がゆっくりとせり上がっていく。
     中央から現われたのはそう、身長一メートル八十七センチ、ソロモンの悪魔あらためソロモンの筋肉、五里羅・ゴリオである。
     ――会場から鳴り止まぬ声援! 男の臭い! 全世界が求めていた、まさに筋肉のエルドラド! 実況はわたくしナハトム伊知郎と。
     ――役割が被りました、天城カビラでお送りします。そして解説はビハインドのビハさんです。よろしくお願いします。
     ――よろしくお願いします。さあ会場の方は既に盛り上がっております。なぜなら彼がいるからだ! 早速登場して頂きましょう!
     中央ステージの更に奥、大量のドライアイスとスモークガスの噴射によって現われたのは……。
     ――出たァー! 身長一メートル八十八センチ、武蔵坂学園有数の筋肉派! ある意味この依頼のためにやってきた男、御剣譲治の登場であります! アピールしている! 観客たちに鍛え上げた大胸筋をアピールしている! まさに筋肉の要塞。マッソゥフォートレス! 周囲の視線にいっそ誇らしげだァ!
    「ナイスバールク!」
    「キレてる! キレてるよ!」
     ――しかしダークネスの拠点に灼滅者が登場したというのに会場は全く動じていませんね。
     ――筋肉の前には言語すら不要ということでありましょうか。
     ――おっとここでスタッフの紹介です。照明及び音響担当に駿河香。コール担当に清浄院謳歌、御影ユキト。設備担当にシュクレーム・エルテールが協力しています。よく許されましたね。
     ――全くです。我々が堂々と実況席にいること自体が既に異常。ですがこの会場という空間自体が最初から異常だったのかもしれません。その証拠にご覧くださいあの筋肉! 来るなら来い、どんな妨害も飲み込んでやるとばかりに左右の大胸筋をリズミカルに上下させています!
     ――それに譲治選手も対抗していく!
     ――まさに筋肉のパーカッション! 筋肉のコラボレーションであります! しかしおっとぉ? ここで凌神明が動き出した。バックダンサーに徹しているマッスルファイブの背後よりこっそりと忍び寄る。忍び寄っていく! 茂みの奥から獲物を狙う肉食獣のごとく!
     ――このまま行けるといいがアアッーっとダメだ! 気づかれている、気づかれています! 不意打ちは通用しない。それがサイキックバトルというものなのでしょうか。惜しいですねビハさん。
    「…………」
     ――無言ですねえ。放送事故です。実況だけで状況を伝えようというのにとんだ放送事故です!
     ――相手はビハインドです、許してあげてください。会場のほうはどうなっていますでしょうか。
     ――会場はァ? おっとこれは予想外だ! 譲治選手とゴリオ選手が大胸筋バトルを繰り広げる横で、なんとマッスルファイブと凌神明の場外乱闘が始まろうとしている!
     ――それだけではありません。会場スタッフを巻き込んだ五対五のバトルへと発展している模様です。
     ――我々の出番は実況で使い切ったため以上となります!
     ――では引き続き場外乱闘の様子をお楽しみください。ごきげんよう、さようなら!
     ――さようなら!

     明は鋼糸の端を咥え、きゅうっと引いた。
    「今回この手の機会はないと踏んでいたが、どうやら俺の出番が回ってきたようだ。何となくテコ入れ感を感じるが……いっそ乗じておくか」
     明の目の前にはパイプ椅子を担いだマッスル。レスリングブラックが立ちはだかっていた。
    「俺にスニークサブミッションを仕掛けようとはいい度胸だ。筋肉の防御力、見せてやる!」
     実況の『ファァイッ!』という声と共にゴングが鳴り響き、明は相手に飛びかかった。回し蹴りのフォームから素早く相手の頭を足の間に挟み込み、強引にねじり倒す。
     しかし相手もそれに対応。空中で全身の筋肉を膨張させ、コイルのように回転。明を地面側へと振り下ろしにかかったではないか。
    「何――ッ!?」
     目を見開く明。このままでは自らの頭が地面に叩き付けられ最悪逆スイカ割りだ。明は渾身の力で回転を逆向きに制御。ギリギリのところで相手の頭を地面へ叩き付けた。
     一方こちらはユキト。ラグビーブラックの突撃を異形化した腕でもって押さえつけていた。表情に乏しいユキトのこめかみに血管が浮く。なぜならば、彼女は今の時点で十メートル以上も後方へと引きずられているからだ。それなりに頑丈な床に摩擦で削れたであろうユキトの靴跡が二本まざまざと残っている。ついでにすぐよこのラジカセ(ラジオチューナとカセットテープレコーダーが一緒になった古代の超兵器だよ!)から野太い男たちの歓声が響く。
    「ここで負けていられません」
     ユキトは押さえていた手にエネルギーを注入。タックル中の相手の肩を強制的に破裂させると、流れるような膝蹴り、からの肘、一旦間合いを空けてからの拳というコンボを炸裂させた。
     時を同じくして香サイド。ダンベルを両手に持った筋トレブラックの目にもとまらぬラッシュを右へ左へと飛び退くことでかわしていた。
    「ダンベル持ちながらよくそこまで……でもリズムが悪い、ガッタガタ!」
     香はラッシュの途中で素早く身を低くした。両足を広げ、片手をつく形での低姿勢である。
     そこから片手を軸にしてスピン。両足に纏わせた影技を刃に変え、相手のすねを大胆に切りつけた。
    「どのみちぶちのめさないとダメだもんね。オッケーいくわよ!」
     スピンからよどみない立ち上がり。伸びた影が相手を包み込み、フィンガースナップと共にびしりと指させば、光の矢が包んだ影ごと相手を貫いた。
     貫通して飛来してきた矢の残滓を指でとめる囲碁ブラック。
     とめた残滓を真っ黒い碁石の塊に変えると、彼は凄まじい速度でシュクレームへと繰り出してきた。
    「ほっ」
     突き出された二本指をのけぞりでかわすシュクレーム。
     のけぞったひょうしにブリッジ姿勢になるシュクレーム。
     そのまま停止するシュクレーム。
    「……お、起き上がれないのである!」
     もだもだしていると、これ幸いと囲碁ブラックの碁石突きが連続で繰り出された。慌てて足をばたつかせ、突きを足で払っていくシュクレーム。
    「こ、こうなったら!」
     シュクレームはスカートについたひもを引いてスモークを緊急排出。囲碁ブラックの視界を覆う煙。
     更に首元のひもを引っ張り、角後方からもジェットを噴射。強制的に起き上がると、囲碁ブラックへと強烈なヘッドバッドを叩き込んだ。
     余った煙がもわもわと広がる中、謳歌サイドでも同じような光景が展開されていた。ただし、水蒸気によるもくもくである。
    「筋肉で氷を……溶かしているの?」
     渾身のフリージングデスをはねのけられ、謳歌の目には戸惑いの色が浮かんでいた。
    「筋肉は発熱する。筋肉フリークならば当然の常識……」
     フリークブラックは大胸筋を小刻みに振るわせると、ダブルバイセップス体勢のまま謎の歩法で高速接近してきた。
    「ううっ……悪魔の力で手にした大胸筋に意味なんてないよ! 本当の筋肉は……ストイックに鍛えた者にこそ与えられるものだから!」
     迫る筋肉を前にジャンプ。相手の頭を足蹴にして後方へ回り込むと、謳歌は振り向きざまに剣を繰り出した。
     背中を切り裂かれるフリークブラック。
    「ぐ、ぐあああああ! 俺たちの弱点が背筋だとなぜ分かった!?」
    「そうなの!?」
     決着がついたのはなにも彼女だけの話ではない。
     明、ユキト、香、シュクレーム。彼らもまた戦闘に勝利し、『大胸筋の震えに耳を澄ます会』幹部のマッスルファイブたちはすべて床に沈むことになったのだった。
    「っていうか組織の名前からして絶対強さとか求めてないよねこの人たち」
    「むしろ胸囲を求めていそうである」
    「大丈夫……」
     実況席で一部始終を見ていたナハトムジークがグッと親指を立てた。
    「私はちっぱいも大好ぶっ――!?」
    「そぉい!」
     必殺シュクレームミサイルが炸裂した。
    「説明しよう。シュクレームミサイルとはシュクレームがスカートからジェットをなんやかんやすることで自力で相手を追尾してこうなんやかんやしてガッとやるサムシングである!」
    「あとこれはボクよりおっぱいが大きいうらみ!(この場合逆恨み)」
     倒れたナハトムジークを足蹴にする湊。
    「なんなんでしょうその唐突なボクっ子アピールは」
     と、そんなことをしている間にゴリオと譲治の戦いは佳境を迎えていた。
    「ゆくぞ、大胸筋プレス!」
    「なんの、大胸筋ミサイル!」
     高いジャンプからのボディプレスを仕掛ける譲治と、高らかに晒した両乳首から対空マジックミサイルを連射するゴリオ。
     迎撃された譲治だが、すぐに体勢を立て直して頭の後ろに手を組んだ。
     相手の攻撃を読んだのだろう。ゴリオもまた頭の後ろに手を組み、二人は大胸筋をグッと全面に晒し合った。
    「「閃光百烈大胸筋!!」」
     小刻みに震えまくる両者の大胸筋。ふるえはやがて光となり、光は波となり、波は力となって発射された。
     ぶつかり合う力と力。大胸筋と大胸筋。
    「わかるぞ、すごい大胸筋パワーだ。そして同時に感じるぞ、お前が本当は……本当はその筋肉を『見て貰いたかった』ことが!」
    「お前……!」
    「さあ全力で来い! 俺も全力でイく!」
    「ああっ、イくぞ!」
    「「イエエエエエエエエエア!!」」
     会場を包み込むほどに爆発する大胸筋オーラ。
     二人はアドミナブル・アンド・サイの姿勢のままぐるぐると回転し、光に包まれながら天へと昇っていった。
     螺旋を描いて天へ伸びる光を見上げ、マッスルたちは涙した。そして思い出したのだ。
     右と左、二つの筋肉が織りなす筋肉のパルス。
     大胸筋が奏でる魂の音が、自分たちの心をも振るわせていたことを。
     それはとても神聖な、そして清らかな音だったことを。
    「俺たちは間違っていた。力におぼれ、闇の筋肉に染まるところだった」
    「だが真の筋肉は嘘をつかない。そう、あの光のように……」

     はらはらと涙するマッスルたち。
     光景を光の無い目で眺めながら、湊は思った。
    「「……なんだこれ」」
     この日、多くのマッスルたちが人の道に戻った。
     そしてひとりのマッスルが、灼滅者の道へと入った。
     誰もが求めた真の大胸筋を実現するために。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 12/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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