強き衝動の果て

    作者:志稲愛海

     ガイオウガ、そしてスサノオ大神……。
     大地を喰らう幻獣種共が「竜種」に目覚める日も、そう遠くはない……。
     サイキックエナジーの隆起がゴッドモンスターさえも呼び起こしたこの状況で、未だ十分に動けぬとはいえ、日本沿海を我が「間合い」に収めることができたのは、まさに僥倖。

     小賢しき雑魚共の縄張り争いも、王を僭称する簒奪者共の暗躍にも興味は無い。
     我が望むは、我と死合うに値する強者のみ!
     「武神大戦殲術陣」発動!
     眠れる強者よ現れよ。武神の蒼き頂こそが、これより汝の宿命となるのだ!
     

    「武闘会って聞くと、少年漫画とかのバトルものの醍醐味って感じするよねー」
     でもちょっとそーいう純粋なバトルものの武闘会よりも厄介な仕様なんだけどね……と。飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)は、周囲の灼滅者達を見回してから、依頼の概要を語り始める。
    「アンブレイカブル達の『武神大戦天覧儀』っていう武闘会のことは、もうみんなも聞いてると思うんだけど。今回、その武闘会の未来予測が察知できたんだ」
     有力なダークネスである柴崎・アキラを失った業大老一派が、新たな師範代を生み出すべく行う試合――それがこの、『武神大戦天覧儀』。
     日本各地の海が見える場所に導かれたアンブレイカブル同士がぶつかり合い、勝者にはより強い力が与えられるのだという。
     なのでもし勝ち続けるアンブレイカブルが出れば、柴崎のような強さに手に入れてしまうかもしれないのだ。
    「だからアンブレイカブルがそんな強い力を得る前に、みんなにそれを阻止してきて欲しいんだ」
     試合時間は決まっていないようだが、周囲に一般人がいない時間が選ばれ、会場となった場所にどこからともなくアンブレイカブルがやってくるという。
     灼滅者の皆には今回、そんなアンブレイカブルを撃破してきて欲しいというわけだ。
     だが……敵を撃破しただけでは、終わりではない。
     遥河は、表情を険しくしてこう続ける。
    「でもね、アンブレイカブルに止めを刺した灼滅者は、勝利によって力を与えられて、闇堕ちしてしまうんだ。危機に陥って闇堕ちするわけじゃ無いから、もし状況的に余裕があれば、闇堕ちした仲間の救出まで可能なんだけどさ……連戦になるから、決して油断できるような戦いじゃないよね」
     それでも、アンブレイカブルに強い力を与えるわけにはいかない。
     闇堕ちしてしまうという覚悟、そして闇堕ちした仲間と戦うことになるかもしれない覚悟をもって、戦いに臨んで欲しい。
    「それで、今回察知した『武神大戦天覧儀』はね、ひとけのない埠頭が会場となってるよ。対戦相手は、美坂・ヒビキっていうアンブレイカブルで、随分前に灼滅者のみんなとも対峙したことあるみたい。その時と同じ、普段は眼鏡をかけて長袖のパーカーを着た見た目地味そうな男で、物腰も一見すると柔らかくみえるんだけどさ……その本性はサディスティックな気のある、強い相手を求め戦う戦闘狂だよ。ヒビキは前回と同じアンブレイカブルのサイキックとバトルオーラのサイキック、さらに強烈な足技も会得してるみたい」
     前回戦った時は、撤退させることで精一杯であった相手。
     今回も油断はできない力の持ち主ではあるものの、だが今の灼滅者達の強さをもって戦えば、灼滅も十分可能であるだろう。
     闇堕ちした仲間と連戦するかもしれないことも考え、作戦を立てて臨んで欲しい。
    「敵に止めを刺したら闇堕ちしちゃうなんて……武神大戦天覧儀、おそろしい大会だね」
     遥河はそう言った後、一瞬言葉を切るも。
    「でもオレ、みんなのこと信じてるから。全員で、武蔵坂に帰ってきてね」
     灼滅者達を見回して、いってらっしゃい、と皆を見送るのだった。


    参加者
    巴里・飴(砂糖漬けの禁断少女・d00471)
    宗谷・綸太郎(深海の焔・d00550)
    エステル・アスピヴァーラ(おふとんつむり・d00821)
    檜・梔子(ガーデニア・d01790)
    日野森・沙希(劫火の巫女・d03306)
    笹銀・鐐(赫月ノ銀嶺・d04707)
    勾月・静樹(夜纏・d17431)
    祀乃咲・緋月(夜闇を斬り咲く緋の月・d25835)

    ■リプレイ

    ●導かれし者たち
     夕陽に染まった静かな埠頭に佇んでいるのは、ひとりの男であった。
     黒縁眼鏡に大きめの長袖パーカーを着たその姿は、一見地味なようにみえるが。
     彼――美坂・ヒビキが今欲するのは、より強い力。
     自分と同じように『武神大戦天覧儀』に導かれし強者と拳を交えるべく、静かに対戦相手を待っていた。
     そしてヒビキは、ふいに夕焼け色の戦場に伸びた影に気付いて。
    「や。話は聞いてる、戦いに来たよ」
    「貴方達は……灼滅者?」
     友人かのような気楽さで声を掛け軽く会釈してきた笹銀・鐐(赫月ノ銀嶺・d04707)に、意外そうな視線を向けるも。
     まあ長話は要らないよな? と続いた言葉に、現われた8人の灼滅者達を見回した。
    「貴方達8人が、私の対戦相手ということですか」
    「そりゃ個々の強さじゃボロ負けだ。だから……集団戦術の強さ、存分に味わってくれ」
    「むぅ、1対8だけどこれでいいのかな、恨みっこなしなのですよ~」
     仲間やおふとんと共に駆けつけたエステル・アスピヴァーラ(おふとんつむり・d00821)の言葉にも、ヒビキは、勿論、と笑んでから。
    「構いませんよ。武神が定めた対戦相手が貴方達ならば……叩き潰すまでですから」
    「!」
     さぁ早速始めましょう、そう構えを取った瞬間。
     柔らかなその物腰にそぐわぬ強烈なオーラを放出し、その身に纏うヒビキ。
     力溢れるその姿は、さすが強者との戦いに明け暮れるアンブレイカブルといったところか。
     いや、新たな力や目的を生み出しながらも修行の日々を送っているのは、何も彼等に限ったことではない。
     過去に圧倒的な力を見せつけたダークネスでも、その後めきめきと力をつけた灼滅者でも、戦いとなると同じ。 
     リベンジするほうもされるほうも、油断ならないということ。
    「私達も、全力であなたを叩き潰します!」
     巴里・飴(砂糖漬けの禁断少女・d00471)はヒビキのオーラに決して怯むことなどなく、戦いに備え身構えて。
    (「かつて灼滅出来なかったというダークネス……また逃すわけには参りませんね」)
     闇堕ち、それが必要というならば……と。
    「貴方を灼滅しに参りました。お覚悟を」
     緋き月を思わせるその瞳に覚悟の色を宿し、鞘から抜いた黎月をヒビキへと向ける祀乃咲・緋月(夜闇を斬り咲く緋の月・d25835)。
     そして日野森・沙希(劫火の巫女・d03306)は、この『武神大戦天覧儀』という儀式について改めて思う。
    (「勝者に力を与える事もですが、灼滅者を闇堕ちさせるなんて。なんて恐ろしくおぞましい儀式なのですっ」)
     でも……自分達ならばきっと。
    (「アンブレイカブルを倒し仲間も救って、笑って帰れるですよ」)
    (「随分と厄介な状況な訳だが、過度な力は身を滅ぼすのが相場。全員で帰れる様全力を尽くすまで」)
     勾月・静樹(夜纏・d17431)も、誰一人欠けず帰還する為に。夕焼け色の戦場全体に気を配るように周囲を見回して。
     宗谷・綸太郎(深海の焔・d00550)は、宵星の海を揺蕩う月喰らいの鯨をその手に携えながら。眼鏡の奥の月宿す双眸を月白に向ければ、霊犬も主人の指示通りに地を蹴り位置を取る。
     闇に飲み込まれ堕ちてしまう危険を孕む、この戦い。
     気持ちと体が合わず、思わず足が震えてしまうけれども。
    「正直怖いがこのマスクがあれば戦える! ガーデニア参上!!」
     檜・梔子(ガーデニア・d01790)は、心に生じる恐怖をマスクで包み隠し、ライちゃんと共に、いざ戦いに身を投じる。
     マスクヒロイン・ガーデニアとして、悪に立ち向かう為に。

    ●赤に燃える武舞台
     少し前まで静かだった埠頭に刹那響き渡るのは、力と力がぶつかり合う激しい衝撃音。
     雷を宿すヒビキの強烈なアッパーが目の前に位置取る飴へと綺麗に決まるも。飴もすぐさま地を踏みしめ、同じ様に、握り締めた雷拳をヒビキへと返して。
     同時にオーラ纏う鐐の拳が、筋肉質な敵の身体へと、容赦なく連打を叩き込む。
    「私、丈夫なのが取り得な体力バカですから。小細工なしの、真っ向勝負です」
    「手数出さないと通らないだろ?」
     相手は、格上のダークネス。
     そんな相手に、小細工や温存などをしても意味など無いだろう。
     ならば、無鉄砲にならないまでも、正面から全力で攻撃を仕掛けるのみだ。
    「もきゅー、真正面の殴り合いなのね。心置きなく戦ってあげるのね」
    「呪われし儀式は絶対阻止してみせますです」
     それじゃぁれでぃ~ごぉ~なの♪ と。おふとんと共に皆を庇う様に前へと出たエステルも、ヒビキへと高速回転させた杭をドリルの如く繰り出して。
     漆黒のツインテールを流れる様に揺らしながら、沙希の異形巨大化した腕から放たれる拳が殴打を見舞わんと唸りを上げる。
     そんな仲間達が攻撃に専念できるようにと綸太郎が掲げるのは、癒しと護りを施す盾。月白も咥えた斬魔刀を敵へと振るって。
     ヒビキの逃走経路を防ぎつつ、海へと落ちぬよう立ち位置に配慮しながら、仄かに夕焼け色を帯びた銀色の髪やアクセサリーを靡かせ、紅き輝きを宿した得物から斬撃を繰り出す静樹。
    「打ち合いですか、嫌いではありませんよ」
     攻撃こそ最大の防御だと。
     そんな灼滅者達から向けられる攻撃に、そうヒビキは愉しそうに笑んでから。
    「……!」
     暴風を巻き起こす強烈な回し蹴りを放ち、目の前にいる灼滅者達を纏めて薙ぎ払いにかかる。
     だが素早く皆の前に立ちはだかり、その攻撃を肩代わりするのは、梔子とライちゃん。
    「ライちゃん、今回は厳しいけど最後までカバーよろしくね」
     梔子は仲間を庇ったライちゃんにそう声を掛けつつも。引き続き火力重視の攻撃を仕掛ける仲間達が攻撃に専念できるよう、積極的に庇うべく前へと躍り出て。
     ヒビキに生じた僅かな隙を狙い澄まし、鋭き眼光を向けた敵へと非物質化させた刃を向ける緋月。
     そんな灼滅者達が繰り出す猛攻を、ヒビキは筋肉で覆われた身体で受け止めながらも。
    「これは、なかなか面白くなりそうですね」
     その威力を確かめるかのように生じた傷を撫で、拳を握りなおした後。
    「さぁ、遠慮なくどんどんきてくださいね。殴り殺してあげますから」
     挑発するかのように手招きしながらも、残忍で愉しげな笑みを宿す。

     夕焼け燃える赤の武舞台で繰り広げられている戦いは、壮絶な打ち合いとなっていた。
     鐐の鳩尾へと、防御ごと貫くような硬い拳をヒビキが鋭角に突き上げた刹那。
     自分と同じ、ゼロ距離の戦闘を好む相手の懐に強引に入り込んで。握り締め巨大異形化させた拳を叩き込む飴。
     さらに、思わず膝にくるような強烈な打撃を受けるも、何とか持ち堪えてみせた鐐は。
    「痛がって止まってられる場合か!」
    「!」
     沙希と同時に、飴の一撃に微かに揺れたヒビキの足元を狙い済まし、焔の摩擦を生み出すほどの激しい蹴りを放って。
    「ダークネスになくて私達灼滅者にある力、それが何か判りますですか。それは互いに思いあう心。その心が私達をより高みに押し上げるのです」
     沙希も仲間と連携し合いながら、そうヒビキにはっきりと言い放つ。
     そして、語る言葉こそ少ないが。
    「笹銀、今回復する」
     綸太郎が効率良く戦況が回るようにと、皆に声を掛ければ。主人が鐐へと盾を与える間に、月白も皆を庇う梔子へと浄霊眼を。
     圧倒的な強さを誇る相手に、協力し合い支え合い、決して引かず真っ向から立ち向かっていく灼滅者達。
    「むぅ、後ろには通さないのね。どんどんくるのですよ~」
     再び強烈な回し蹴りを放ってきたヒビキの前に、『もふもふわんこが~ど』をするおふとんと一緒に割って入り、仲間の攻撃を肩代わりするエステル。
     その蹴りの威力は強烈だが。
    「うー、攻撃重いの、けどまだまだ行けるのね、かかってこいなのです~」
     決して倒れず地を踏みしめ、ヒビキを潰すべく眩い連打のお返しを。
     そして静かに広がる眼前の海のような、深く真っ青な瞳でヒビキの姿を捉えて。静樹が叩き込むのは、魔力をこめた強烈な一撃。
    「く!」
     静樹が見極め放った、苦手意識のある系統の攻撃に、ヒビキが微かに顔を顰めれば。
    「使うなら今!! 必殺ガーデニアーバスター!!」
    「!」
     ぐっと伸びた梔子の腕がヒビキの胸倉を掴んだ、その瞬間。
     筋肉質な肉体が宙に浮き、そして強烈に地に叩きつけられて。
    「生じたその隙、逃しはしません!」
    「今回は回復の間はくれないのか?」
    「ぐ……ふっ!」
     飴と鐐の拳の連携が、たたみかけるようにヒビキに見舞われれば。
    「むぅ、そろそろなのね、でっかい杭で大穴開けてあげるの、どっか~ん!」
    「一人一人の力は小さくても人が集まれば大きな力を得られる、それが人間であり灼滅者の力なのです」 
     エステルと沙希も間髪入れず攻撃を重ねて。その間に綸太郎と月白が仲間の傷を抜かりなく癒し、ヒビキの攻撃を仲間へは届かせまいと立ち塞がる梔子やサーヴァント達。
     そして、静樹がもう一度。
    「そろそろ終わらせてもらう」
     先ほど手応えがあった、魔力を帯びた一撃を敵へと叩き込んで。
     その魔力が大きく爆ぜ、ヒビキの身体がぐらりと大きく揺れた――次の瞬間。
    「さようなら、ヒビキさん」
    「馬鹿な、この私が……、ッ!!」
     闇堕ちした際の戦闘力の低い私が適任だ、と。覚悟を胸に、一気に敵前へと飛び出して。
     まるで夜闇よりも昏く輝く漆黒の月光のように。一瞬にして愛刀『黎月』を抜き、躊躇なく斬撃を繰り出した緋月の一閃が、ヒビキの首を跳ね飛ばしたのだった。
    「なんだ、好ましいから全力でぶつかったんだろう? また常世で、な」
     そして、崩れ落ちるヒビキへと、そう最後に鐐が言った後。
    「祀乃咲!」
    「お世話をかけますが……皆様、私をよろしくお願い致しますね?」
     理性が残っているうちにと、皆にそう声を掛けるも。
     ふっと浴びた返り血に薄く笑った緋月に……いや、『武神大戦天覧儀』を制した勝者に。
     強大な闇の力が、与えられたのだった。

    ●闇に咲く緋の月
     決して、逃がさない。
     これがヒビキを倒す為に闇堕ちしてくれた緋月の為に、成すべきこと。
     闇に堕ちながらも尚、時間が稼げればと。己の中で闇と抗う緋月を囲みながら。
     彼女を救うべく、戦いに備え、出来る限り回復を施す綸太郎や梔子や沙希。
     だが。
    「……!」
    「さあ、次は私と遊んでくださいますか?」
     これまで苦しそうな様子であったのに。
     緋月にふいに浮かんだのは、満面の笑みであった。
     そしてスラリと抜かれる、漆黒の刀。
     今皆の前に立っているそんな彼女は、もはや灼滅者ではない。
     そこに在るのは……殺し合いを好む、六六六人衆。
     だが闇色に染まった緋月を呼び戻すべく、地を蹴る灼滅者達。
    「全員で帰還するためにも絶対逃がしません、全力でいきます!」
     闇に堕ちることは正直、自分を見失いそうで……怖い。
     でもだからこそ、堕ちる選択をしてくれた彼女へ敬意を払いたいから。
     まるで大きな飴が伸びるように尾を引くオーラを再びその拳に纏い、闇に囚われた緋月へと、雷を宿す拳を全力で振り上げる飴。
    「すぐに連れ戻してやるからな、祀乃咲!」
     ヒビキとの戦いの時と同じ様に、背中を預けた仲間を信じ、回復や護りは任せて。
     鐐も、緋月の動きを少しでも制限できればと、高速回転させた杭の一撃を彼女へと見舞えば。
    「逃がさないですよ。私達はみんなで学園に帰るのです」
    「むきゅぅ、早く戻ってきて欲しいの~」
     沙希の異形巨大化した拳の殴撃と、エステルの光を集束させた拳の連打が同時に叩き込まれる。
     だが、逃げられぬよう囲まれたこの不利な状況をも楽しむかのように。
    「では次は、こちらから参りますね」
     戦場に舞う己の血を炎に変え、緋月がその逆巻く赤を『黎月』へと宿した瞬間。
    「……ッ!」
     力与えられし者の強烈な一撃が、容赦なく灼滅者目掛け振り下ろされる。
    「! くっ」
     だが、梔子が咄嗟に身を呈し仲間へと向けられた攻撃を肩代わりして。
     叩きつけられた炎が、彼女の身を燃やし尽くさんと激しく延焼する。
     しかし、すぐにそれを打ち消さんと動くのは、綸太郎と月白。
    (「闇堕ちを選んでくれた祀乃咲を逃がしてしまったら失敗だ」)
     絶対に逃がさない――そう綸太郎も緋月へと、金を湛える月色の瞳を向けながら。
    「闇に、呑み込まれるな」
     梔子の傷を癒し、守りを施すべくシールドを成す。
     先程まで共に協力し合いダークネスを撃破した仲間を攻撃することは、複雑ではあるが。
    (「遠慮して祀乃咲先輩が帰れなくなるのは勘弁なんでな」)
     ヒビキ戦でダメージが蓄積している前衛の皆やサーヴァント達の負担を少しでも減らすべく、前へと踊り出る静樹。
     全員で、武蔵坂へと帰る為に。
     梔子もできる限り確実に攻撃を当てるべく、握り締めた拳の連打を緋月へと叩き込んで。
     ライちゃんやおふとんも、頑張って灼滅者の皆を庇うべく立ち回る。
     だがそんなサーヴァント達へと、緋色の瞳を向けた緋月は。
    「申し訳ありませんが、消えていただきますね」
     抜刀から一閃。皆を最前線で守り続けたライちゃんを、消滅させたのだった。

     力を得て闇堕ちした緋月は、さすがに強敵で。
     ヒビキとの戦いの影響もあり、彼女を打ち倒すことは容易ではない。
     だが、格上のヒビキを倒した時と同じ様に。声を掛け、連携をはかる灼滅者達。
    「帰りを心待ちにしている人の為にも、その人を悲しませることはしてはいけないのです。心の闇に抗って打ち勝ってくださいですよ。誰一人欠けないで帰るですよ」
     魔力を宿す一撃を振るいながらも、懸命に思いを届けようと声を掛ける沙希。
     綸太郎は、緋月の繰り出した神霊剣から咄嗟に仲間を庇ったエステルの傷を癒し、月白と一緒にしっかりと戦線を支えて。
     静樹も、前衛の皆が負った傷を癒し火力の底上げをはからんと、魔力宿りし霧を生み出し仲間を支援する。
     そして灼滅者達の攻撃を受け続け疲労が目にみえはじめた緋月へと、梔子は一気に距離を詰めて。
    「必殺ガーデニアーバスター!!」
    「!」
     おもむろに彼女を掴むやいなや、思い切り投げ飛ばす。
     そして隙の生じた緋月へと同時に見舞われたのは、飴と鐐の全力を込めた連携攻撃。
     死神さまから授かったという断罪の刃が飴から振り下ろされ、爆ぜる魔力の強烈な打撃が鐐から叩き込まれた刹那。
    「一人も殺せないなんて……残念です」
     そう一言、言い残した後。
     目の前にいる六六六人衆は、地に崩れ落ちたのだった。
     そして。
    「大丈夫か、祀乃咲」
    「あ……皆様……ありがとうございました」
     支えられゆっくりと身を起こしたのは、六六六人衆ではなく。
     灼滅者に戻った、祀乃咲・緋月であった。

     そして、見事『武神大戦天覧儀』を阻止した灼滅者達は。
     武蔵坂へと帰還するべく、夕陽が沈み暗くなった埠頭を後にする。
     誰一人欠けることなく、8人全員で。

    作者:志稲愛海 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 15/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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