紅のみしるし

    作者:篁みゆ

     放課後の校庭に少年達の声が響く。活気のあるその様子は、若き子供達の集う学び舎にぴったりだ。
    「賢二ー! サッカーして行こうぜ!」
    「ごめん、今日無理!」
    「付き合いワリィなぁ」
     口をとがらせる友達に賢二は片手で拝むようにして、再度「ごめん」と告げる。
    「カテキョが来るんだ」
    「ああ、例のおばさん?」
     友達の言葉が聞き捨てならなくて、賢二はだだだっと駆け寄ってその頭を叩いた。
    「叔母さんだけどおばさんじゃねーよっ!!」
     そう、賢二の家庭教師をしてくれているのは、賢二の母の歳の離れた妹。賢二より6つ上の彼女は大学1年生だ。もともと勉強が得意ではなかった賢二が中学に入ってつまづいたのは大方の予想通りで、英文科の彼女が見かねて教えると名乗り出てくれたのだ。タダでは悪いからと母がバイト代を出し始めて一ヶ月。彼女が来る日だけは、賢二はまっすぐ帰って机の前でスタンバイするのだ。
    (「今日も圭子姉ちゃん……いや、圭子に会える」)
     賢二は中学校に上がってからわざと彼女を呼び捨てにすることにしていた。その方が大人っぽく思えたし、少しでも年齢差の分の距離が縮まればいいと思っていたからだ。
     ウキウキした足取りで自宅の鍵を開けて、靴を脱ぎ散らかして二階へと上がる。
    「!?」
     自室の扉を開けて、ぎょっとなった。
    「け、圭子……? 来てたんだ」
     そこには家庭教師の圭子がいた。賢二のベッドの上に座り、足を組んでいる。短いスカートだから、白い太ももが気になって仕方がない。目をそらしながらカバンを机に置き、賢二は思う。
    (「あれ……? 玄関に圭子の靴、あったか?」)
     突然何かに酔ったようにくらりと頭が揺れる。思考が何かに侵食されていくようにも感じる。
     ギシ……ベッドのスプリングが軋む音は聞こえたが、背後から白い二本の腕が迫っているのには気がつくことができないでいた。

     ご飯を食べていらっしゃい。終わったら私の家に戻ってくるのよ。これが、約束。
     圭子は血の代わりに紅色のルージュで賢二の首筋に唇のマークを描いた。まるで、私のものだとでもいうように。

    「皆様来てくださり、ありがとうございます」
     残暑厳しい今日も、灼滅者達に休みはない。五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は灼滅者の姿をみとめると、柔らかく微笑んで告げた。
    「今回は、闇堕ちしそうな一般人の少年を助けていただきたいのです」
     通常ならば闇堕ちしたダークネスからはすぐさま人間の意識は掻き消える。しかし彼は元の人間としての意識を残したままで、ダークネスの力を持ちながらダークネスには成りきっていないのだ。
    「彼、御厨・賢二(みくりや・けんじ)さんが灼滅者の素質を持つのならば、闇落ちから救い出してください。けれども完全なダークネスになってしまうようであれば……その前に灼滅をお願いします」
     姫子は灼滅者達を見渡して。
    「賢二さんは叔母であり家庭教師でもある圭子さんという女性がヴァンパイアとなってしまったことで、闇落ちしました。が、先述の通り彼は完全に人間の意識を失っていません」
     となれば灼滅だけでなく救える可能性もあるわけだ。
     姫子によれば、賢二が住むのは神奈川県の某市。賢二は主となった圭子の命令で『食事』を求めてシャッター商店街の辺りをウロウロとしている。夜の人通りの少ない時間に通行する女子供を中心に狙っているようだ。突然細い道に引っ張りこんで、血を吸おうとするらしい。
    「一人で無防備に歩いていれば、狙われる確率は高いでしょう。囮となるには危険が伴いますが……」
     姫子は言葉を切ったが、それでも必要ならばやるしかないのだ。
    「賢二さんは圭子さんの命令に従わなくてはという心と、いくら圭子さんの命令でもこんなことおかしいと思う心の間で苦しんでいるようです」
     この、おかしいと思う気持ちがなくなってしまった時、本物のダークネスになりきってしまうのだろう。
    「賢二さんは近接単体攻撃と遠距離単体攻撃を行なってきます。気をつけてください」
     姫子は一瞬目を閉じてから、口を開く。
    「少し背伸びした少年の恋心に似たあこがれ。それが歪められてしまいました。皆様の手で解決してあげてください」
     もし賢二を闇落ちから救えたとしても、今までの圭子はもういない。それは回避しようがない事実だが、賢二だけならまだ救える可能性はあるのだ。


    参加者
    山科・深尋(高校生ダンピール・d00033)
    石嶋・修斗(学生執事・d00603)
    榎本・哲(夜噺・d01221)
    ジネット・クローニア(うたたねしゃどーはんたー・d01513)
    赤槻・布都乃(暗夜刀・d01959)
    風水・黒虎(黒金の焔虎・d01977)
    土方・狼華(深蒼の女帝・d02581)
    前田・光明(中学生神薙使い・d03420)

    ■リプレイ

    ●万全を期すために
     灼滅者達は昼間のシャッター商店街を歩いていた。話に聞いていた通り殆どがシャッターを閉めて休業か廃業しているようだ。しかし時折二階の窓枠に干した布団を叩く音や洗濯物を干す住人の姿が見受けられたので、誰も住んでいないというわけではないらしい。
     それでも、窓からこぼれ出る光は僅かなのだろう。昔ながらの古ぼけた街灯が数本だけ、その現状を見て、ジネット・クローニア(うたたねしゃどーはんたー・d01513)が素直な感想を述べる。
    「これは夜になったら危なくなりそうな道ですねぇ~」
    「数は少ないとはいえ、ここを通り道にしている奴もいるだろーになぁ?」
     赤槻・布都乃(暗夜刀・d01959)の言葉も尤もだ。昼間でも夜間の通行が危ぶまれる場所なのだから、夜は避けて通る人が多いかもしれない。けれどもどうしても通らなければいけない人もいるわけで。そういった人のために街灯の整備がなされていないのはきっと、何らかの大人の事情があるに違いない。
    「怪しいのはこの辺か?」
    「この先にも同じような細い道があるようです」
     商店街から抜ける細い道を頭に叩き込みながら歩く風水・黒虎(黒金の焔虎・d01977)と土方・狼華(深蒼の女帝・d02581)。いざという時に囮となるジネットを見失う訳にはいかない。自然、慎重になる。
    「このでかいゴミ箱の影とか、酒箱タワーの影とかに隠れられねえか?」
    「隠れられないことはないと思う」
     山科・深尋(高校生ダンピール・d00033)と共に隠れ場所がないか、前田・光明(中学生神薙使い・d03420)は探している。と、共に細い通路を調べていたはずの榎本・哲(夜噺・d01221)が通路の向こう側から現れた。どうしたのだろうかと一同が首を傾げた時。
    「この先の細い通路とここの通路、行き先は一緒だ。回り込めそうだぜ」
    「それならば挟み撃ちも可能ですね」
    「俺は回りこんで挟撃を狙うぜ。ジネット、囮は任せた」
     石嶋・修斗(学生執事・d00603)の言葉に頷き、哲は最年少の仲間を見やる。彼女は眠たげにしながらも帽子のズレを直して、
    「囮、頑張りますね~。先輩方の事信じてますから~」
     笑った。

    ●闇の眷属は闇に紛れて
     とんとんとんとん……たったったっ……薄暗いシャッター商店街を歩く小さな足音を、急ぎ足のサラリーマンの革靴の音が追い越していく。古いタイプの街灯の弱々しい光に照らされた鈍色のシャッターは不気味だ。
     この商店街は眠り続けている。それは昼も夜も関係ないはずなのに、建物から弱々しい光の漏れだす夜のほうが遥かに気味が悪かった。
     けれどもジネットは臆することなくゆっくりと歩みゆく。ポケットには通話中のままにした携帯電話。何かあれば待機している皆に聞こえるはずだ。修斗と黒虎は連れだと思われない距離で、かつ付かず離れずジネットの後ろを歩いている。
     光明は腰に下げた懐中電灯に触れて存在を確認し、マナーモードにした携帯が震えるのを待つ。布都乃はいつでも飛び出せるべく身体中を神経のようにして集中していた。
    「う~ん、遅くなっちゃったなぁ~」
     普段からゆるい雰囲気のジネットはそれを最大限に活かして呟く。言葉の端から早く帰らないとという雰囲気が感じられないのもなんだか隙を感じさせた。加えてどこか蠱惑的に見える。
     彼女が細い通路の入口に差し掛かったその時、一同に緊張が走った。
    「ひゃっ……!」
     ポケットの中の携帯が拾った音が伝わる。ぐいと腕を引っ張られたのか、ジネットの小柄な身体が細い通路の闇の中に消えた。
    「修斗!」
    「はい!」
     ジネットの後ろを歩いていた二人が一番に駆け込む。次いで光明と布都乃が駆けつけ、狼華と深尋が用意していた看板を手に動く。一般人がうっかり入ってきて、巻き込まれてしまわないようにという配慮だ。一般人の侵入を防いでおけば、灼滅者達も万が一の闖入者を気にせず戦えるというもの。二人は看板を置くとすぐに通路へと入った。

     腕を強く引かれたジネットは、勢いそのままに通路の奥に連れ込まれ、ドンッと背中を壁に打ち付けられた。引っ張られる間に転びそうになったが、何とかそれは免れて。月の光だけが差し込む中、自分を押さえつけている少年を見上げる。
    「血……食事……血……」
     うわ言のように呟く賢二の瞳は血の色に染まっていて、明らかに正気ではないとわかるレベルだ。その牙がジネットの首筋を狙う。
    「……ダメですよ~。こんなことしちゃ~」
     ぴくり、賢二の動きが止まった。賢二の中の賢二の意識が反応したのかもしれない。
    「お待たせ! 後は任せろ!」
    「貴方ですか……かの少年と言うのは……」
     月の光だけでは互いの顔は見づらい。だがジネットには分かった。それば黒虎と修斗であるということが。
    「よお、待たせたな」
     ぴかっ! その時突然賢二を照らしだしたのは強烈な光。黒虎達が訪れたのとは逆の方向から光を受け、賢二は腕で目を覆うようにして眩しさを避ける。
     それは、挟撃のために別の通路を使って裏から回った哲の懐中電灯の光だった。
    「大丈夫か!?」
     次いで反対側からも光が当てられた。光明の腰に括りつけられた懐中電灯だ。賢二が眩しげに目を細めて振り向く。自分が包囲されたことに気がついたのだろうが、眩しさにやられて隙ができていた。その隙を見逃す灼滅者達ではない。光明の後ろから狼華が飛び出して、ジネットの手を引っ張った。
     賢二の束縛からは解放されていたものの眩しさに目を細めていたジネットは、されるがままに手を引かれ、身体が傾いて転びそうになった所で狼華の胸に抱きとめられた。
    「大丈夫ですか、ジネットさん」
    「はい~。ありがとうございます~」
     自分を労る優しい声に、ジネットはこくんと頷いて答えた。
    「始めようぜ」
     深尋が指をポキポキ鳴らして準備万端だと合図をする。布都乃も縛霊手を確かめるように振るって同意を示した。
     敵の手に仲間が捕らわれていなければ遠慮なく攻勢に移れるというもの。灼滅者達は大きく息を吸って、戦闘の開始に身構えた。

    ●届く思いは
     緋色のオーラを纏ったカッターナイフが哲を狙う。賢二が斬りつけた腕からは赤々とした血が覗いた。だが当の哲に動じた様子はない。
    「目覚めちゃった系かよ残念だったなァおい。っつーか、男は女コロがしてナンボだろうに、お前がコロがされてどーすんだよ」
    「血……血……」
     鮮血に目を奪われている賢二に軽口を投げ、哲はどす黒い殺気を広げていく。すいと宙を撫でると、その軌道に沿って影で出来たナイフがずらりと並んだ。
    「御同業としちゃァその衝動やら行動やらに同意しねーでもねーけど……お前がこんなことおかしいと思ってンなら止めとけよ。イイことないぜ? マジで」
     殺気が賢二を包み込む。追うようにして後方から深尋の、緋色のオーラを纏った鋼糸が賢二に迫る。
    「お前が今やろうとしてることは、やっちゃいけないことだって分かってるんだろ?」
     ぴくり、傷を受けた賢二が一瞬動きを止めたように見えた。ほんの一瞬。
    「彼女が好きだったとしても間違ってることはしちゃ駄目だ!」
    「君はこのまま落ちるのですか……」
     深尋の声にかぶせるようにして、修斗の落ち着いた言葉が不思議と喧騒の中を通った。ニヤリ、いつもは見せぬ好戦的な笑みを浮かべて彼が出現させたのは、赤きオーラの逆十字。
    「俺のようなダンピールになるのもあれですが、楽しい事もすべて忘れてしまうような殺人鬼になってはいけないです」
    「ヴアァァァァァ」
     逆十字が賢二を引き裂く。その悲鳴が痛々しい。
    (「初恋の人がヴァンパイアですか……遣る瀬無いですが……、救う努力を怠ってはいけませんね」)
     狼華は右頬の傷を左手親指でなぞる。
    「覚悟を決めろ」
     その小さな呟きが、彼女のスイッチ。戦闘モードとなった狼華は体内から噴出させた炎を賢二へとぶつける。
    「人としての全てを投げ捨て、ただの吸血鬼に成り下がるなんて私が許さない。還って来なさい、そして人としての未来を掴みなさい!!」
     強い思いが炎に包まれ続ける賢二の動きを鈍くする。それは、彼らの言葉が届いている証。
    (「憧れの女とずっと一緒に、ってか。男としちゃ悪くないシチュだがな、ダークネスじゃなけりゃな!)
    「これが俺の一刀入魂!」
     黒虎が振り下ろした一撃は超弩級で、まともに食らった賢二の身体が跳ねた。それを見つつ黒虎は口を開く。
    「お前の大事な女、おかしくなったと思わないのか? 以前は優しかったんだろ?血を吸う事を『食事』なんて言わなかったろう?」
    「う……う、あ……」
     呻くようにしながら、賢二はふらつく身体をまだ立て直す。
    (「因縁ってヤツかね。皮肉なモンだぜまったく。まだ間に合う奴なんだろ?じゃあ迷う事はねぇ。ブン殴って助け出す、やる事ぁそれだけだ!」)
     雷に変換した闘気を拳に宿した布都乃が、鮮やかにアッパーカットを決める。ドスン……吹き飛んだ賢二を逃げられぬようにと哲が受け止め、そしてぽんと投げ戻した。
    「アンタ、圭子サンって人がそんな命令する人じゃないって気付いてんだろ? 圭子サンはもう闇に呑まれてちまって居ない。この世の何処にも」
     灼滅者達が説得を続けるのは、賢二を救いたいから。圭子を救うことができなくても、せめて彼だけでもと思うから。
    「けれど、彼女はアンタが悪を成す事を望んでない筈だ。なのにアンタが己を亡くしたら、誰が圭子サンを弔ってやれる!?」
    「ケイ、コ……圭子、が……」
     起き上がった賢二は混乱しているのか、頭を抑えて振っている。本物の『賢二』がダークネスに強く抗っているのかもしれない。
    (「倒す事でしか救えない心と命ならば、最善策という名の実力行使も厭わないというものだ」)
     ジネットに守護の符をあてがいながら、光明は思う。
    (「断じてえろい叔母さんという言葉に釣られたわけではない……おばさんの白い太ももか……日本語とは美しいものだな」)
     頭の中はピンク色で少しテンションが高めかも知れないが、彼とて賢二のことを考えている。だから、諭すように言葉を紡ぐ。
    「お前が今頑張れば、道は開ける」
    「大丈夫ですよ~! まだ、間に合います~!」
     胸元にトランプマークを具現化させたジネットが呼びかけると、賢二は頭を振るのをやめ、布都乃に斬りかかった。だがその攻撃は先程までの彼のようなキレはなく、傷も深手ではない。灼滅者達は攻撃の手を緩めずに、ここぞとばかりに語りかける。
    「今までの話、聞いてたか? なら戻って来い!」
    「少年、お前はまだちゃんと自分の意識があるんだろ!だったら日常に、普段の自分に戻って来い!」
     哲と深尋が叫ぶのに合わせて、修斗もゆっくりと語りかける。
    「闇落ちなんてできません、俺にも護りたいものがあります。貴方にはもう無いのですか?」
    「正気に戻ったら悲しい事実が待っているかも知れません。けれどもそれを糧に前へ進んで欲しいと思います!」
     狼華が炎を放ちながら呼びかける。黒虎が続いて刀を振るった。
    「好きな女がおかしいと思うなら、お前が一番に正してやるべきだろ!」
    「俺の名は光明という。明るい光と書く。俺に導けるかは分からないがお前にも光明の道はある。叔母さん……圭子さんを真に救えるのは賢二、お前だけだ。男なら、なさねばならん仕事がある」
    「救う……圭子……」
     度重なる灼滅者達の攻撃にふらつきながらも、光明の言葉に反応を見せる賢二。
    「ちょっと痛いかもですけど~!」
     我慢してくださいね~、とジネットが攻撃するのに合わせて、布都乃が賢二に最接近した。そのまま彼を掴み、投げ飛ばす。それは、そろそろ頃合のように見えたから。
     実際、賢二にはもうほとんど体力が残っていなかった。そして、彼の意識がダークネスに勝ち始めていたのも事実。
     ガスッドンッ……ガラガラガラ……。
     電柱にぶつかり、その下に積まれていた木箱を崩しながら落下した賢二は、もう敵意を向けてくることはなかった。

    ●新たな目覚め
    「……目が覚めましたか?」
    「う……え、あっ……お、おれ……」
     目覚めて一番に目に入ったのが綺麗なお姉さんの顔だったので、これでもかというほどの動揺を見せる賢二。これが彼本来の姿なのだ、と介抱していた狼華は安心して。
    「漸く気がついたか」
    「そのようですね」
     少し離れた所で待機したいた深尋と修斗がその様子を見て安堵の笑みを浮かべる。
    (「少年は彼女が大好きなのですね……闇に落ちる悲しい話はダメですよ」)
     ダンピールとして、同じく好きな相手と年が離れている修斗は彼が他人とは思えなくて。視線を送っていた。
    「悪い心に負けちゃ駄目ですよ~。貴方も大丈夫な人だって、信じてますから~」
    「ああ……さっきはその、乱暴してごめん……」
     笑顔を向けてくるジネットに、賢二は済まなそうに眉尻を下げた。本当は優しく素直な少年なのだろう。
    「取り込み中悪いが」
     光明が断りを入れて、端的に事態を説明していく。それを聞いた賢二の顔色がだんだんと青ざめていくのが心もとない明かりの下でもわかった。
    「そんな……圭子は元に戻らないなんて」
    「悔しかったら、悲しかったら自分の手で彼女を楽にしてやることを考えるんだな」
     黒虎の言葉に不安そうな表情の賢二。布都乃が彼の心中を読んだかのように口を開く。
    「アンタ一人じゃ今の圭子サンにゃ太刀打ちできねぇよ。強くなりたけりゃ、手段はあるぜ」
    「手段……?」
     哲が学園の事を軽く説明する。そして付け加えるのはあざ笑うかのような笑み。
    「お前は割り切れもしねェだろう」
     それでも、賢二のこれからを祝福するように。
    「ん……、苦しいと思うけど、人としての心を失わず、前に進んで下さいね……」
     狼華が優しく告げる。賢二は迷ったようにしてからこくんと小さく頷いた。

     彼が事実を受け入れて立ち向かうにはまだ、時間が必要かもしれない。
     けれどもいつか、彼もまた自らの背負う運命を理解してくれるだろうと、夜風に吹かれながら灼滅者達は思った。

    作者:篁みゆ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月11日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 8
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ