――ドッドッドッドッドッ……。
深夜、通行する車両も無くなった山間の県道に、重低音が鳴り響く。
音が大きくなるにつれ、次第にその姿を露わにするのは、ロードローラー。
付近に民家も無いこの道であれば、こんな時間に舗装工事をしていても、そこまで不思議は無い。
無い、のだが……やはり不思議はあった。
「舗装するよー☆ 舗装しまくっちゃうよー♪」
操縦席の前方には、人の顔。愉快そうにそう喋りながら、道を舗装している。
異形のロードローラーが、ただただ、道を舗装しているのだ。
「その名も不思議、『???(トリプルクエスチョン)』によって外法院ウツロギが六六六人衆の序列二八八位『ロードローラー』になった所までは既にご存じかしら?」
有朱・絵梨佳(小学生エクスブレイン・dn0043)の説明は、そんな問いかけから始まった。
ロードローラーは分裂によって日本各地で事件を発生させているのだが、今回もそんな事件に対応する任務らしい。
「今回、ロードローラーは道路を舗装していますわ」
ロードローラーなのだから、道路を舗装するのは本来の姿……なのだが、六六六人衆がただ道路を舗装していると考えると、疑問は尽きない。
「ともかく、現場は見通しの良い二車線の県道。夜は交通量も少ないですし、灼滅には好都合ですわ」
印の付いた地図を差し出しつつ、絵梨佳は言う。
「ロードローラーの目的は不明ですわ。分裂体には違いないのだけれど、他の色とはちょっと雰囲気が違いますわね……いずれにしても、強敵には違いありませんわ。気をつけて行ってらっしゃいまし」
そう言うと、絵梨佳は灼滅者達を送り出すのだった。
参加者 | |
---|---|
アナスタシア・ケレンスキー(チェレステの瞳・d00044) |
琴月・立花(徒花・d00205) |
九条・風(紅風・d00691) |
桜庭・翔琉(徒桜・d07758) |
竹尾・登(ムートアントグンター・d13258) |
八神・忍(黒の囀り・d21463) |
ノーラ・モーラ(ブリキのラビリンス・d22767) |
言守・弦斎(殺戮喜劇の縁斬り童子・d27762) |
●
かつては、山の形に沿ってうねうねと曲がりくねるこの県道が、付近に暮らす人々の生活を支える唯一無二のライフラインであった。
しかし新道の開通によってこの道は第一線を退き、現在の交通量は激減していた。
――ドッドッドッドッドッ……。
そんな旧道を、轟音響かせつつゆっくりゆっくりと進んでいくのは一台の人面ロードローラー。
もちろん、定期的に舗装は行われているが、所々にひび割れや凸凹が出来、余り快適とは言いにくい道。
それがロードローラーによって、綺麗にならされてゆく。
実際の道路舗装工事は、相応の機材やマンパワー、高い技術によって行われるのだが、そこはそれ。ともかく、通常のダークネスの様に、あからさまな破壊行動を行っていないと言う事だけは明白であった。
「あの付いてる顔もいだらどうなんだかな、アレ。しかしあんなのが全国に分裂ねェ、ぞっとしねェわ……」
数多分裂したロードローラーだが、実際に目にするのは初めて。九条・風(紅風・d00691)は軽く身震いしつつ、それが道を舗装する様を見下ろす。
灼滅者一行は、ロードローラーの出現を予見したエクスブレインの情報を元に、迎撃態勢を整えていた。
ポイントで待つこと数十分、予定通り獲物が出現したと言うわけである。
「舗装するよー☆ 舗装しまくっちゃうよー♪」
本人(?)は、むろん気づく様子もなく、ただただ舗装に熱中している。
(「それにしても、節操が無いと言うか何というか……。本体を説得しないと終わらないのはわかってるけど、いい加減にして欲しいなあ」)
一方、竹尾・登(ムートアントグンター・d13258)はこれまでにもロードローラーと戦った経験のある一人。
インパクトのありすぎるロードローラーの外観とキャラクターは、1度倒せばしばらくは見なくて良いレベルなのだろう。
「なんやろこの違和感。オーライオーライしたら、路肩に寄せて止まってくれそうな感じやわ」
八神・忍(黒の囀り・d21463)が見立てるとおり、これまでの、他色のロードローラーと比べると、奇妙な温厚さと言うか、もっと言えば意思の疎通さえ出来そうな、そんな雰囲気にも感じられる。
「何の目的があるのだろうか」
「それとも目的なくて、楽しんでるだけなのですかね?」
桜庭・翔琉(徒桜・d07758)の呟きに、小首を傾げつつ答えるのは、ノーラ・モーラ(ブリキのラビリンス・d22767)。案外そうだったりしても不思議は無い。
とは言え、道を破壊するでもなく、どこかに向かっているでもなく、ただひたすら道を舗装しているだけの敵は、逆に不気味でさえある。
「……ともかく、放っておくわけにはいかないよな」
いずれにしても、辿り着く結論はそこである。
「そうね。まあ、理由は倒してから考えるとしましょう。分裂体なら、遠慮はいらないもの」
いつも通り、温和な口調で言う琴月・立花(徒花・d00205)の言葉に、頷く一行。
「はい、早く本体の人を助けるためにも……!」
アナスタシア・ケレンスキー(チェレステの瞳・d00044)はこの戦いが、いずれは闇に堕ちたウツロギを救う事に繋がる様、未来を見据えて呟く。
ゆっくりと進むロードローラーが、丁度灼滅者達の真下へ到達したのを合図に、8人は静かに行動を開始する。
「あ、やべ……テンション上がり過ぎか? ……まあ、殺界形成になってるし良いか」
スレイヤーカードを解放し、愛刀を抜き放つ言守・弦斎(殺戮喜劇の縁斬り童子・d27762)。戦闘狂……と言うよりは、敵を斬ることを何よりも好む。
ともかくも、彼女の放つ抑えがたい殺気によって、万一にも一般人が紛れ込むこともない。
戦闘開始である。
●
「舗装ー♪ 舗装ー☆ ……んっ?」
――タンッ。
「舗装作業お疲れさん……?」
ロードローラーの運転席に降り立った忍は、そのまま相手の顔を見下ろしてねぎらいの言葉をかける。が、それと同時にクルセイドソードを突き立てる。
――ドスッ。
「ぎゃっ!? 何するのかな? かな?」
破邪の白光放つ切っ先を突き立てられ、さすがに悲鳴を上げたロードローラーだが、その舗装作業は止まらない。
「許可も取らずに勝手に道を舗装するな!」
ライドキャリバーのダルマ仮面が機銃による弾幕を形成するのと同時に、登も氷柱を放つ。
全くの正論である。
「いてて……舗装の邪魔はしないで欲しいなー☆」
弾は確実にロードローラーに吸い込まれるが、さすがに六六六人衆の序列二八八位。簡単には怯まない。
「見た目に違わず堅いようだな。……ならば波状攻撃だ」
今回は愛刀の徒桜を置き、支援に徹する心積もりの翔琉だが、先ずは攻撃を仕掛ける。
エアシューズでアスファルトを摩擦、火花を発しつつ間合いに飛び込むと、繰り出されるのは鋭い蹴り。
「オッケー、まずはタイヤを叩き壊しちゃうよ!」
これに呼応して、参式灼滅槌【狗鷲】を振り下ろすのはアナスタシア。
――ガッ!!
「さあ、見切れるものなら見切ってみなさい。見ようとしても、終わってるけどね」
加えて、間髪を入れずに反対側から影の刃で斬り付けるのは立花。
「うわっ!?」
連続的に足回りを攻められ、さすがにロードローラーの舗装作業が止まる。
とは言え、敵の足は堅牢なローラー。多少の攻撃によって行動不能に陥ったりはしない。
「もー……そんなに邪魔するならー、君たちも舗装しちゃうぞー♪」
――ドドドドッ!
先ほどまでのゆったりした動きではなく、猛獣の如き速度で動き出すロードローラー。
「やれるもんならやってみやがれ!」
その威容に多少は気圧されつつも、身構える風。
あわや、その巨大ローラーに押しつぶされてしまうかと思われた刹那、紙一重のタイミングで地面を蹴る風。
そして突進を回避しながらローラーと車体の間に滑り止めの砂袋を押し込む。
――ギャリリリリ……。
「あれあれ?」
砂袋を巻き込み、異音を上げながら速度を落とすロードローラー。
「この前猟奇倶楽部に入った言守弦斎だ、宜しく部長の分体」
「んんー?」
そんな人面車両の顔へ、入部の挨拶をする弦斎。しかしその間にも、彼女の手には黒い想念が球体を形作る。
「容赦はしないのです」
雷を帯びたノーラの拳が、車体を強かに叩くと同時に、その漆黒の弾丸も叩き込まれる。
待ち伏せからの奇襲で幕を開けたロードローラー迎撃戦。灼滅者達は苛烈な波状攻撃によって、じわじわと、しかし確実にロードローラーの耐久を削りつつあった。
●
「ベールクト、スパイクモード! ズバッと行くよ!」
背後に回り込んだアナスタシアがティアーズリッパーを命中させると、音を立ててバンパー部分が砕け散る。
「もう一息……か?」
除霊結界を展開しつつ、風はキャリバーに機銃掃射を指示する。
数分間に及ぶ灼滅者の集中攻撃により、ロードローラーの車体は無数の斬り痕や弾痕によって破損が大きくなりつつある。
「まだまだ……舗装し足りないよー♪」
――グォォォォン!
響き渡るエンジン音。マフラーからは黒色の排気ガスが噴き出る。
「しつこいやっちゃ、これでどうや!?」
地面を蹴り、再び運転席に乗り込んだ忍は、ハンドルを掴んでギアをバックに入れる。
「待て、何か来る……!?」
暫くその場に留まってエンジンを吹かしていたロードローラーは、やがてその場で高速回転を始める。
――ゴォッ!!
「っ……!?」
本来その車両が行い得ないアクロバティックな機動から生み出される烈風と衝撃波が、前衛を瞬時に飲み込む。
「……なんて動き方を。……八神さん……?!」
立花は体勢を立て直しつつ、ロードローラーから最も近い場所で回転に巻き込まれた仲間の存在に気づく。
舞い上がった砂煙がようやく落ち着いてくれば、運転席で身を伏せるように、微動だにしない忍の姿。
「野郎っ! ……大丈夫か?」
すぐさま、弦斎が正面から斬りかかる。
――ばきんっ。
サイドミラーを破壊し、座席の忍へ声を掛ける。
「……大丈夫や。目回してもたけどな」
大鎌を支えにして、どうにか立ち上がる忍。どうやら致命傷と言う程のダメージは受けていない様だ。
「今回復する。もう一息のはずだ」
直ちにセイクリッドウインドによって治癒を開始する翔琉。
「これじゃ舗装出来ないなー☆」
一方、敵もローラー部分は斬撃や弾痕によってボコボコに凹み、傷ついた状態。
これではかえって道路を傷つけてしまいかねない。さすがに困り顔のロードローラー。
「ざまぁ。そろそろトドメなのです」
あまり抑揚をつけずに言い放ちつつ、目配せをするノーラ。
「よっしゃ、あんじょう成仏しいや」
「さあ、本気よ? 力の限り切り刻んであげるから」
――ドカッ!
断罪の刃がロードローラーの眉間に深々と突き刺さり、瞬間的に闇の力を得た立花の影とノーラの拳が、ひびだらけのローラーを完全に砕き割る。
「あぁー……舗装がまだ途中だよ……」
次第に小さくなってゆくエンジン音が、やがて完全に消え、同時にロードローラーの姿も掻き消えた。
●
「迷惑なんか有益なんか、強敵なんか弱かったんか、いまいち掴み所の無い敵やったな」
最初に感じた違和感を解消するどころか、倒しても尚払拭出来ずにため息をつく忍。
「何にしても、切り刻むにはちょいと堅い敵だったな」
刀に刃こぼれが無い事を確認し、それを鞘に収める弦斎。
「うん、厄介なローラーだったなあ。こんなのがまだ出てくるのか……。いつまで続くんだろう」
ダルマ仮面に寄りかかりつつ言う登も、肉体的と言うより精神的な疲労の割合が大きそうだ。
「……なんで灰色は舗装工事に従事しているんだろうか。九条、そっちはどうだ?」
「いや、こっちも特に何もだな。何がしてェのか……」
一方翔琉と風は、先ほどまでロードローラーが舗装していた道を調べるが、これと言った手がかりは認められない。
「六六六人衆が進行しやすいように舗装してた可能性もあると思うのですが、さすがに妨害のために破壊するのはダメなのですよね」
「そう言う訳にはいかないでしょうね。……何もないといいんだけど、ね」
ノーラの言葉に頷きつつ、立花。
「何だか少しモヤっとするけど、撤収しようか」
アナスタシアの言葉に頷いた一同は、現場を後にする。
敵ながらイマイチ憎めない奇妙なロードローラーだったが、ともかく無事作戦に成功した灼滅者達。
プラシーボ効果の類いかも知れないが、歩きやすくなったかも知れないその道を辿って、学園に凱帰するのだった。
作者:小茄 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年6月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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