●修学旅行のしおり
武蔵坂学園の修学旅行は、毎年6月に行われます。
今年の修学旅行は、6月24日から6月27日までの4日間。
この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅立つのです。
また、大学に進学したばかりの大学1年生が、同じ学部の仲間などと親睦を深める為の親睦旅行も、同じ日程・スケジュールで行われます。
修学旅行の行き先は沖縄です。
沖縄そばを食べたり、美ら海水族館を観光したり、マリンスポーツや沖縄離島巡りなど、沖縄ならではの楽しみが満載です。
さあ、あなたも、修学旅行で楽しい思い出を作りましょう!
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修学旅行、一日目の夕食は沖縄料理。
南国のおおらかな空気のなかで育った野菜、美ら海でのびのびと育った魚や海藻などを使った郷土料理を満喫しましょう。
たくさんの料理が並ぶテーブルから、好きなものを好きなだけとって食べることができます。
ラフテー、は豚の角煮。箸でちぎれるほど軟らかく、口のなかでとろけるような食感でコク深いそれに舌鼓を打つこと間違いなし。
ぷるぷるむにむにとした、てびち――豚足のことで、昆布や大根、鰹節と豚のスープで煮込んだおでんがあります。少しだけ辛子をのせたりして、美味しく頂きましょう。
健康に良い味がする、ゴーヤー。苦味を持つゴーヤーは暑さのなかでも食欲を増進させ、ビタミンが豊富です。
野菜や卵、豆腐と一緒に炒めたゴーヤチャンプルーは栄養たっぷりで、ほどよい苦味が後を引きます。
そしてゴーヤジュースは苦味がしっかりと活かされています。飲みやすいようにパイナップルやバナナなどのジュースと混ぜたものもあるので、ぜひとも挑戦を。
魚料理は、グルクンを丸ごと揚げたから揚げ。頭からしっぽの先まで食べられて、カリッとした食感が魅力的。新鮮な魚を使った刺身の盛り合わせも勿論あります。
重みがあり、しっかりとした島豆腐を楽しむなら、ざる豆腐で。お好みでおろししょうがやねぎを添えて食べましょう。豆腐チャンプルーもおすすめです。
香りが強くシャキシャキとした歯ごたえの島らっきょう。
グリーンキャビアとも呼ばれる美しい海藻・海ぶどうは、三杯酢にちょっと浸して食べると止まらなくなりそう。口のなかでぷちぷちと弾ける食感は楽しいはずです。
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修学旅行のしおりにくわえ、沖縄料理の写真が掲載された本に付箋を貼りながら西園寺・アベル(高校生エクスブレイン・dn0191)が言った。
「現地での食事は、その場所特有の空気や文化に触れながら味わうことができ、それはとても良い経験となります。どうやらこのお店では島唄のライブをしてくれるようですね」
沖縄の唄をバックコーラスに。
仲間や友人、親しい人とまったりと語り合えそうな空間だ。
アベルの言葉に、ほうほうと頷く灼滅者たち。
「皆さんと一緒に沖縄料理を楽しみながら、たくさん食べて、これを機にレパートリーを増やしたいと思っています」
「ところで西園寺が今、一番食べたいものって何?」
頷いたあとで問う灼滅者。アベルは少し考えるそぶりを見せた。
「コリコリとしたミミガー、トロロとマグロやウニがのった海ぶどう丼でしょうか。ワサビの香りが際立って――」
…………。
シーン。
様々な灼滅者が集う教室が、沈黙に包まれた。
「アベルくん、おなかすいた」
「……我慢ですよ。沖縄に着いたら思いっきり食べましょうね」
写真見るともっと食べたくなる! という言葉を皮切りに、沖縄のごはんについて教室がにぎわいだす。
「楽しみですね、修学旅行。たくさんの思い出を作りましょう」
「沖縄いいとこだねぇ。寒くないからいっそこのまま住みたいくらいだ」
こっちにキャンパス作ってくれたらいいのに、とネモ。
囲む料理はゴーヤチャンプルーとラフテー、落花生の良い香り漂うジーマーミー豆腐、ネモおすすめのヒラヤーチー、ちんびんとポーポー。
ソーキそばに、ご飯ものではジューシー。
味噌汁を前に菖蒲は首を傾けた。
「……なんだか、私の思っていたモノよりだいぶ違うんですが」
「アバサーの味噌汁は、ハリセンボン……俺も、つい取ってきてしまった」
応じた旭に菖蒲が頷く。
「何といいますか、大きいですねぇ~お味噌汁だけでお腹いっぱいになりそうです」
アバサーが店内の水槽ですいすい泳いでおります。
「二人とも、ハリセンボン持ってきたんだ」
水槽を見ながら席に戻ってきた颯が持つのは、アイス? フロートっぽい。
「僕も珍しい飲み物を見付けたよ。見た目はビールみたいだけど、アルコールが入ってない炭酸飲料なんだってさ」
本土じゃまず見ないよね、と颯。お子様もお年寄りも飲めるジュースです。
「これで乾杯してみちゃう?」
そう言った旭が追加でルートビアフロートを持ってきて、遠い目になったネモ。何度か飲んだことがあるようだ。
乾杯!
――高校を卒業して四人の進んだ学部は別々だったが、こうやって会える時がとても嬉しい。
「西園寺、俺らと一緒に食べよう!」
壱の声にアベルが振り返った。
「アベル君は初めまして、すいーとはにー壱君からお噂はかねがふぅ!?」
挨拶も半ばに颯音が壱の肘打ちを喰らって沈む。壱は気にもせず、アベルに笑顔を向けた。
「何食べるの?」
「最初は刺身とサラダ、魚系の唐揚げ、ご飯系に汁物と順に食べます。目指すは全種でしょうか」
「迷いが無いねアベル君! ……バイキングは迷うよね」
問う壱に間髪入れず答えたアベルへ、蹲った体勢のまま颯音が言う。
迷うの声に、こくこく頷く昭子。
「海ぶどう、食べてみたいです。島豆腐も」
「多様な料理が並ぶ中から好きな物を好きなだけ皿に移しての飲食が可能な食事形態。つまり望む品が無ければ何もとる必要が無いという事、素晴らしい」
淡々と言う純也は、頑なに料理の群を見ようとしない。
「鈴木さん、センダツが携帯食に逃げないよう頼む」
「えっ壱くんあの、そんな難しいことを」
昭子の肩に軽くポンと手を置いてから、料理を選びにいく壱。もう一方の肩には颯音の手が置かれた。
「島豆腐に海ぶどうは了解、純也君は任せた!」
ご飯調達組を見送った昭子は、意を決して純也に向き合った。
「純也くん、沖縄のひとが長生きなのは、食生活にも要因があるという話です」
食事の有用性を聞きつつ、純也は料理の群を横目で見た。他にも理由があるようだ。
「現時点、においと戦闘中で」
その匂いが近付く。唐揚げとかラフテー、チャンプルーも接敵し、いざ尋常にいただきます。
四人の会話にアベルも笑みを浮かべながら。
五人で囲んだ食卓、楽しいシーンが一つ一つデジカメにおさめられていく。
ましろとキリカはそれぞれ違うのをよそって分けっこだ。名案だ。
「ましろ、それ一口頂戴?」
「うんっ。キリカちゃんの角煮も美味しそうだねぇ」
しばらくしたのち女子二人は、じいぃっと優志と倭――じゃなくて二人が食べている物を見始めた。
気付いた男子二人が目配せしあう。
「美味しそー。ね、チョーダイ」
キタ。
「良い匂いがするんだよ。ちょーだい」
「これ、ゴーヤーチャンプルーだぞ? ピーマンより苦いぞ……大丈夫か?」
雛鳥のように口を開けたましろに、倭が卵をやや多めに掬ってチャンプルーを食べさせる。
「チョーダイ! チョーダイ! 一口で良いんだってば!」
エスカレートしてきたキリカに、ミミガーを食べていた優志が「はいはいはい」と答えた。
「気になったのがあるなら持ってけよ。っと、豆腐ようは癖強いから気を付けろよ?」
話す最中に半分強奪されていく豆腐よう。
「んまい! 凄く、んまい! ほら、ましろ、あーん!」
あーんとするましろに、新しく強奪したものを食べさせるキリカ。
二人が夢中になっている間、優志と倭はソーキそばやスーチカーに調味料でひと工夫。辛い物のあとは甘味が欲しくなってくる。
「あとでアイスを巻いたポーポーでも貰ってくるか。ましろが好きそうだしな」
「じゃ、俺は黒糖のアイスでも貰って来るかな」
まずは知っている名前の料理を、ってことでギーゼルベルトがゴーヤチャンプルー。
「みんなは何を食べるんだ?」
席に着いた彼の問いかけに、あやとが皿を見せる。
「ラフテーとーテビチとー……あとチャンプルー! ゴーヤも豆腐もこんもり盛って、たーっぷり食べるにゃっ。あれ連夜ー?」
何故か気配を消しさって席に座っている連夜の皿には、あやとのに加えてグルクンとミミガー。
彼はゴーヤジュース(ストレート)を手に。
「……うん、苦いねぇ……思った以上に」
気配もうっかり消えてしまう程に。のんびりと言う連夜だがダメージは大きかったようだ。
その間、あやとの視線がグルクンの唐揚げに定まった。
「連夜、それちょーだいにゃっ♪」
「どうぞ」
ゴーヤジュースを差し出す連夜。
「そ、そっちじゃないっす!」
「連夜……ほら、水飲んでおけ。甘いのがいいなら、何か他のジュース持ってくるぞ?」
見かねたギーゼルベルトが水を持ってきた。
「ありがとう、ギル。お礼にこのゴー」
「遠慮しておく」
エイジが持ってきた二皿のチャンプルーは、まともな量がラナーク、エイジの分はゴーヤー三倍増量。
二人で一緒にいただきます。
「……お、ゴーヤ料理は苦いけどうまいな。エイジはどうだ」
そう言ったラナークがエイジを見ると、彼は懸命にもぐもぐしていた。
シリアスな空気を感じるラナーク。ゴーヤー三倍ってほぼゴーヤー構成だ。
「この苦さは半端じゃないですよ、ラナークさん! 飲み物で口内の苦さを中和せねばっ」
「おい、それは、健康な良さそうな味の」
緑の飲み物。悶絶するエイジ。
「おいおい大丈夫か? 水持ってきてやるよ」
「……っ、キュアをっ」
花恋と勇也は美味しい物ハントの基本、食欲をそそる香りから堪能する。
「さーてどれから攻めようか、肉料理とスイーツはフル抑えたいよね」
「肉狙いとはさすがだね。なら、俺は魚を取っていこうかな」
「沖縄名物ソーキそばも忘れない。立ち上ってくるカツオだしと昆布だしの融合! 透き通る真っ白な麺にソーキ肉の輝きがたまんない」
勇也、ぴたりと停止。
「……いや、やはり俺も肉料理に」
食レポ怖い。
「あー、ケモノの本能がくすぐられますにゃー」
一瞬飛び出た花恋の猫耳に、勇也はびくっとする。
「?」
「い、いやなんでもないさ。君は食レポの才能あると思うよ」
「島らっきょうの塩漬けはシンプルですが、おつですね」
藤子は、丁寧に盛り付けた料理を堪能する。種類様々だ。
その中のひとつ。
「アロエの刺身ですか。透明感があって美しいですよね」
クラスメイトのアベルの声に、藤子は控えめにこくりと頷いた。
「それに、面白そうでしたから」
苦味はあるがシャキっとしていて、美味しい。
魚の刺身と豚の角煮をお皿にいっぱいのせた、水鳥。
飲み物はじーっと佇み、マンゴーとパイナップルで迷っていて中々決められないようだったが、無事に静かに席につく。
(「豆腐と海藻の料理、美味しい。家でも作れるかしら? 西園寺さん、作り方知ってるかも……?」)
きょろ、と見渡せば水槽を眺めるアベルを発見。深呼吸して緊張をほぐす。
「鮮やかな青で綺麗だな」
友衛の言葉に、はい、と頷くアベル。
「味も淡白で、食べやすいです」
イラブチャーの刺身があった。
「西園寺が一番美味しかったと思うのはどの料理だ?」
「そうですね、どれも美味ですが、ここできちんと捌かれた新鮮な魚の刺身が」
と、彼が小皿に取り分けて、刺身を友衛に差し出す。
近くの席に座って箸を通せば、その白身は柔らかだ。
「……ん、これは美味しいな」
「アベルさんのおススメですかー」
ルウにも「召し上がってみてください」と小皿を渡すアベル。
ルウの皿は少量ずつで、色んな料理を楽しんでいるのだろうと分かる。
おかわりでは、島豆腐とラフテーをもう一度。好物のようだ。
「苦いものは苦手ですの」
二度目、ゴーヤーはちょっと避けた。
柚羽はもぐもぐしながら涙目になっていた。
(「美味しいです、けど、ソースの量ちょっと多かったかもしれません」)
食べてみたかったタコライス。タコミート、チーズと野菜と、サルサソース。
蛸が入っていると思ったけど、違った。
(「帰ったら自分で最初から作ってみようかな」)
水を口に含みながら考える柚羽だった――辛い。
じんわりと長い時間、ドカ食いしている五人がいる。
虚露の横には、積み上がった皿が柱と同化していた。
「すごいよ、虚露、ヤギ肉の刺身とかあったよ。匂いがきついけど元気が出そう」
珍しい料理を見つけては虚露に薦めるタージ。
「おお、ありがとなマハル! イラブー汁はどうだ!? いけるぞ」
「僕はどんな挑戦でも受けるよ! ……って、ヘビ? これはすごいね……」
ウミヘビもすいすい水槽で泳いでいる。
分けっこで食べていた仁紅丸とこぶしだったが、先程から攻防が激化してきた。
「一口!? それが一口!? ラフテーごっそり持っていくのが一口!?」
「先程のテビチの無念は晴らしましたよ」
こぶしの隙を突いた仁紅丸が、ラフテーを一口(無理矢理)で食べる。残りラフテー、一つ。
「僕のラフテー!」
「そのラフテーは僕に食べられたいと、そう言っています」
箸競り合いに桔梗が「まあまあまあ」と仲裁に入った。
さっきまで琉球の音楽を聴きながら、
(「命の取り合い無しで、のんびりした遠出なんて初めてだぜ」)
と、沖縄グルメを満喫していた桔梗だったが、忘れてはいけない。囲む食卓も戦場なのだということを。
「そろそろデザートなんてどうだ? サーターアンダギーがあるぞ」
桔梗の提案に、こぶしも仁紅丸も興味をもったようだ。
「これはポーポーとか、ちんびん、っていう名前らしいよ。どんなお菓子かは、食べてみないとわからないけど」
微笑んでタージも薦める。
「俺は、このムーチーを貰おうかな」
虚露の取ったサンニンの葉に包まれる菓子は、もちもちしたほんのり甘味のある餅。
甘く優しい香りが辺りに漂った。
「ふふっ苦くない、苦くない」
ゴーヤー料理を前に自分に言い聞かせるバトル。
護は黒豚チャーシューがたっぷり入ったソーキそば。エリスフィールも同じものを。
「んめえっ!! 前、取材で来たときは、普通の蕎麦と思って注文したらちょい太めのチャンポン麺みたいのだったんで、びっくりしたんだぜっ?」
次、角煮ー♪ と食べる護、そして翔汰が羨ましいなぁと呟いた。
「護は取材とかでいろんな所を行ってるのか――。うわっ、ラフテーってすごく柔らかいんだな。すぐに溶けてく感じがたまらない!」
次に、翔汰は不思議そうに海ぶどうを眺めた。煮込み料理からあっさりとした海藻へ。
「プチプチしていて癖になりそうだな」
食感が面白かった。やっぱり同じものを食べていたエリスフィールも頷いている。
「お、クロイツェルも食うヒト?」
大盛りの皿を前にする律とエリスフィール、現在まだ前菜の段階。
「って、ホンダ君、口からなんか垂れてるよ」
「ジュースがベリーデリシャスすぎて!」
ゴーヤジュースにこっそりシロップを足したバトル。暗示が効かなかったようだ。ジュースがたらっと口からこぼれていた。
「あの、エリ」
「俺が拭いてやろう」
エリスフィールに寄っていこうとしたバトルの顔に、キリッとした表情でおしぼりを突き出す律。
「そう言えばゴーヤは完熟すると苦味が薄れると聞くが、そちらの料理は聞かないな……」
エリスフィールの疑問にはアベルも頷く。
「皮はサラダにしたり、中は甘くなりますからデザートとして使われる方が多いですね。それにしてもお二方、たくさん食べますね」
山になった取り皿を見たアベルの言葉に、律とエリスフィールは苦笑を返した。
「貴耶、ここで沖縄料理堪能したら、夕食のレパートリーとかに追加されたりする?」
そう言ったさくらえは「ラフテーとかチャンプルーとか」と続けた。
「そりゃ美味しければ。でも、その前に本を買って練習してから食卓にはのせる」
貴耶の誠実な言葉に、さくらえはにっこり。
「これで綾瀬家の食卓は安泰だね」
「安泰……?」
貴耶は怪訝そうにさくらえを見た。漂っていたオカンの空気が一掃される。
けらりと笑ったさくらえ。貴耶は料理を吟味しながら箸を進める。
「この豆腐、食べごたえあるな。箸で持てる」
「それ、ピーナッツの豆腐らしいよ」
興味津々な貴耶を楽しそうに見るさくらえだった。
(「ここはやっぱり原価の高そうな肉だろ」)
そう思った翔の皿の上は、肉だった。
「あー、まーた翔くんは肉ばっかりー。ほら! これ食べたほうがいいよー」
千歳が肉々しい翔の皿にパパイヤチャンプルーを盛り付けた。ちゃんと豚肉も混ざっているのが優しさ。
「とりあえず野菜をだな……ただでさえ普段の食生活偏ってそうなのにお前。せめて魚も食え」
「北郷こそそれで足りるのか?」
水辰の言葉に、パパイヤを返しながら翔が応じる。水辰の皿は少しずつの量。
「足りる。佐藤、ゴーヤジュースを飲まされるか大人しく他も食うか選べ」
わかったわかったと言いながら刺身にツマと追加する翔。
結果的に、パパイヤの多くなったチャンプルーを食べる千歳は、不思議そうな表情。
「果物だと思ってたけど、野菜? 不思議だけどこれご飯にあうような」
「パパイヤは瓜科だし、アリなのかも。そういう発想がなかったけど」
応えた水辰は早速食べてみる。味を覚えて献立に使えれば――と、主夫な発想に。
「春翔くんお先どうぞ」
「俺を実験台にするのは止めてくれないか」
響の言葉に、呆れたように答える春翔。彼がてびちを食べたのを見届けてから、杏月は箸を持った。てびちに挑戦。
「杏月は何食べる? 酸っぱいの苦手じゃないなら海ぶどう行くか? グルクンとかも美味そうだぞ」
世話焼きお兄さんといった感じで響が杏月へと取り分ける。
「好き嫌いは特にありませんが、普段の好みからすると、ゴーヤチャンプルーや島豆腐を選ぶところでしょうか」
「了解!」
追加で置かれるものを黙々と食べる杏月。
そんな二人を見て、響と彼の妹のやり取りを思い出した春翔は静かに笑む。
「そんなに盛っても鵜島さんも困るでしょう。無理なら遠慮なく断っていいのですからね」
「……いえ、大丈夫です全く問題ありませんお腹いっぱいなどとそんな」
澱みなく淡々と答える杏月だったが、箸の進みは徐々に落ちているような。
気付いた響は重そうな料理を自身の方に寄せ、春翔も響の方へとぐいぐいと寄せた。
「ラフテーとは、如何なる意味があるのじゃろうな?」
「語源の説は今だ定まってはいないようですが、中国語だとか?」
ラフテーを沢山よそって席に着いた姫月の疑問に、皆無が応じる。
「なるほどのぅ。それはそれとて、皆無殿、少し分けてくれぬかの? かわりに我がラフテーを進呈するのじゃ!」
「どうぞ。ちょっと苦いですが、美味しいですよ」
チャンプルーは食べなければと思っている二人が分けっこ。
「これ、なんていうんです?」
戸惑う緋月の声に透が顔をあげた。ちょうど自分が食べようとしていたモノだ。
「えーっと、コレ、なんだっけ……」
サーターアンダギーを齧るナノナノのなのの耳が目に入った透は思い出す。
「あ、豚の耳! みみがーだっけ?」
なの、耳をぱたぱた。
驚いた緋月だったが、食べた次の瞬間には「美味しいですね」と顔を綻ばせた。そして気付く。
「おや、倉丈さん、口元が汚れていますよ……」
姫月の口元をハンカチで拭う緋月。
「お、美味しく食べられれば食べ方なぞ気にせんでも良いのじゃぞー」
二人のやり取りに、透と大郎がにっこりとした。
「皆さん、海ぶどう丼も美味しいですよ。トロロとぷちぷちの食感が楽しいです」
たくさん食べましょうという言葉通り、テーブルの上にはたくさんの料理。クラスメイトと一緒に仲良く分けっこだ。
修学旅行、この時を思いっきり楽しもう。
そんな大郎の傍にジャスミンの香り漂う茶を置く皆無。
「沖縄の料理と相性が良いらしく、頼んでみました」
さっぱりとした茶を飲んで落ち着いたあとは、再び美味しいものを探しに――。
ラフテーを食べたうずらはうんちくをクレイに教えていくのだが、しばらくすると窓越しの夜空を見上げた。でも、と続く。
「土地の料理は気候に合わせた味付けも多くて、沖縄なら、お日様に照らされて食べるとより一層美味しくなるんだよー」
暑い暑いと言いながら食べる、昼の料理は例えるなら「元気」だ。活力を頂く。
もったいないと呟くうずらをクレイは眺める。
「卵ちゃん。けどほら、唄を聞きながら目を閉じて郷土料理を食べるのもいいじゃないか」
徐々に冷めていく外の熱気に負けじと、新たな熱。
「俺はこんな夜も好きだよ。歴史が生きているって感じられるよな」
感慨深げにクレイは言った。
料理を食べ、味わうことで沖縄を知る、修学旅行一日目の夜だった。
作者:ねこあじ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年6月24日
難度:簡単
参加:49人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 7
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