武蔵坂学園の修学旅行は、毎年6月に行われている。
今年の修学旅行は、6月24日から6月27日までの4日間。
この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅立つ訳である。
また、大学に進学したばかりの大学1年生が、同じ学部の仲間などと親睦を深める為の親睦旅行も、同じ日程・スケジュールで行われており、行き先は沖縄。沖縄そばを食べたり、美ら海水族館を観光したり、マリンスポーツや沖縄離島巡りなど、沖縄ならではの楽しみが満載なのである!
「この姿では……初めてのヤツもいるな」
佐藤・誠十郎(高校生ファイアブラッド・dn0182)が、恥ずかしそうに咳をする。
何となく人型になっては見たものの、もふりーと形態が長かったせいか、落ち着かない。
この格好も、まわりの視線も、何もかも!
「来る6月26日、俺達は西表島に向かう! まず船に乗って日本最大のマングローブ林を眺めながら島に上陸! 日本一のサキシマオウノキに向かい、そこにある展望台で弁当を食べる事が今回の目的だ! だが、俺達には果たさなければならないミッションがある! それはイリオモテヤマネコの発見! お前達も知っていると思うが、イリオモテヤマネコはレア中のレア! 西表島でさえ百匹程度しか存在しておらず、絶滅危惧種に指定されているほど。そのため、島民でさえ、発見する事は困難。その代わり、イリオモテヤマイヌ、イリオモテヤマガラス、イリオモテハムスター、イリオモテヘビトマングースなどが確認されているとか、いないとか」
最後の方は適当だった。とりあえず、頭にイリオモテをつければいいや感が満載であった。
おそらく、観光客が勝手につけた名前なのだろう。
地元民に言ったら、確実に笑われそうなネーミングばかりである。
「まあ、イリオモテヤマネコは、見れたらラッキー程度に思ってくれ! 一番、大切なのはお前達が楽しむ事。ただそれだけだ。俺は極力、道案内役に徹するから、迷子にならないように必ずついてきてくれよ! それじゃ、一緒に修学旅行を楽しもうぜ!」
そう言って誠十郎がもふりーと形態になって、ホッとした様子で溜息を洩らした。
●沖縄・西表島
「まさか討真と修学旅行に来れるなんて思わなかったわね……」
修学旅行で西表島にやってきた木島・御凛(ハイメガキャノン・d03917)は、他の生徒達と同じ船に乗り、マングローブの林に眺めていた。
「沖縄には何度か来た事があるが、西表は初めてだな」
緋神・討真(黒翼咆哮・d03253)が、心の中で幸せを噛み締める。
修学旅行とは言え、隣には御凛がいる。
状況的にはかなり幸せな分類に入る事。
「西表島にはまだ見た事もないような食材……もとい動物がいっぱいおる。……こりゃ料理人の……じゃなかったわ、動物ってかわええよな!」
神宮寺・柚貴(アサシンコック・d28225)が、小さくコホンと咳をした。
「転入早々旅行というのも気が引けますが、せっかくですから楽しみたいですね」
琴宮・総一(子犬な狼・d28217)が、緊張した様子で口を開く。
まわりにいるのは、知らない人ばかり。
その中でも面識のある者達と一緒に行動しているものの、何か話さなければいけないという気持ちが先走ってしまい、頭の中が真っ白になった。
「この機会に仲良くならなきゃね。努力だよ、努力!」
そんな総一を月島・アリッサ(中学生魔法使い・d28241)が励ました。
「何だかワクワクするね」
水無月・蛍(ブレーキは置いてきた・d25236)が【武蔵境中2I】の仲間達と共に、マングローブの林に視線を送る。
船から見えるマングローブの林は、実に神秘的。
日常では、滅多に経験できないような事でも、この場所であれば経験する事が出来そうである。
「そう言えば、沖縄でしか会えないんですよねぇ、イリオモテヤマネコ。どんな鳴き声なのかぁ、是非是非、聞いてみたいのですよぉ」
船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)が、興味津々な様子で瞳をランランと輝かせる。
ただし、イリオモテヤマネコは、レア中のレア。
地元の人間であっても、目撃する事が難しいため、最悪の場合は見つからない可能性も高かった。
「よっしゃ、気合を入れてヤマネコを探すぜ!! 加えて、我がクラブの重点捜索対象はイリオモテハムスターもだ! 各員、心して任務に当たるように!!」
一之瀬・春人(花になれないパラリソス・d20925)が【Little Slayers】のリーダーとして仲間達に気合を入れる。
「ヤマネコというからには、ひょっとして木の上に居る事が多いのだろうか……?」
楠原・センリ(廻る歯車・d21130)が自らの目を頼りに、木の上を重点的に探す。
「あ……、あそこに居るのは、イリオモテ佐藤さん……」
それとは別のモノを見つけ、リオン・ウォーカー(りすぺくと・d03541)がフラッと歩く。
「イリオモテ佐藤にばっか気を取られるなよー?」
そう言って春人が、ニカッと笑う。
「はっ! すみません、隊長! あ、そう言えば、誕生日でしたよね? あの、これプレゼントです」
リオンが思い出した様子で、もふもふイリオモテハムスター人形を渡す。
こうなると怒る訳にもいかず、有耶無耶になった。
●マングローブの林
「南国の海を渡る風は、柔らかくて心地ええね」
八千草・保(楊柳一枝・d26173)は【吉祥寺小6薔薇】の仲間達と共に、マングローブの林を眺めていた。
「どうせだから、ここでしか見つからないものを探したいしね」
墓守・白露(トンベリのランプ・d23522)が、双眼鏡を覗き込む。
「……ヤマネコに、会えれば、嬉しいな……」
リヴィア・ソリチュード(ラパンノワール・d26536)が、警戒した様子で口を開く。
「まあ、見つからなくても皆で探せば、良い思い出になるだろ」
仁王頭・角夜(千刺万咬・d22515)が、ジャージ姿で答えを返す。
「それに長期戦に備えて、非常食のチョコもあるのよー。なるは用意周到な女なのよー」
鐘賀・なる(あの鐘を鳴らすのはなる・d22234)が、えっへんと胸を張る。
「まあ、のんびりと行こうや」
佐藤・誠十郎(高校生ファイアブラッド・dn0182)が、人間形態で顔を出す。
この姿だと落ち着かないのか、シガレットチョコを口に咥えている。
「佐藤さんがこんなにカッコイイおじさまだったなんて……、夜のビーチテラスで、泡盛を注いだ琉球グラスを傾けて、『マーヴェラス』とか言ってる姿が似合うおじさまだったなんて……!」
水瀬・ゆま(箱庭の空の果て・d09774)が、あからさまにションボリとした。
「オ、オジサマって……佐藤さんは同学年だから! 引率してるケド、先生じゃないから! 確かに、見えないけど……、未成年だから! 泡盛、飲めないし!」
神堂・律(悔恨のアルゴリズム・d09731)が、思わずツッコミを入れる。
「人型での説明ごくろーさま」
久寝・唯世(ぼんやりダンピールっぽいもの・d26619)が、【御殿山2年7組】の仲間達と共に誠十郎の前に立つ。
「オイ、佐藤ォ! 貴様ばかり、毎回ひな……鈴森くんと任務も連絡も多くて恨んでなどいないが、教室でプリントなどを回すたびに『うわ誰だっけ、このオッサン』と思ってしまうんだ、この常時もふりーと老け顔がァアアアア!!!!」
それと同時に狼川・貢(ボーンズデッド・d23454)が、背後から誠十郎に蹴りを入れる。
「ぬおっ!」
その途端、誠十郎が反射的に、もふりーと形態になった。
「……佐藤さん、イフリート形態でないと落ち着かないほどになってしまわれて……私が言えた義理ではございませんが、それで大丈夫なのですか、学生としての生活は……」
ロジオン・ジュラフスキー(ヘタレライオン・d24010)が、哀れみの視線を誠十郎に送る。
「それ以前に、人の姿で話すのが疲れるって問題だろ」
これには大空・焔戯(蒼焔狼牙・d23444)も、呆れ顔。
その間に貢が再び勢いをつけて誠十郎に蹴りを入れようとしたため、ロジオンが慌ててガード。
「骨の一本や、二本、逝ってるな、これ」
東光・和子(高校生殺人鬼・d28209)が甲板の上で転げ回るロジオンを眺めて、ポリポリとお菓子を食べる。
それに気づいた誠十郎がロジオンに駆け寄ろうとしたが、大須賀・エマ(ゴールディ・d23477)がすかさずダイブ!
「Hiダーリン! 久々だな。いや、前も言ったけどよー、別にモフりにきたわけじゃねーし。人間形態イケてたじゃん。エマはそっちの方が好きだけどな」
そう言ってエマが、誠十郎の背中に乗る。
「……佐藤はあれだな、もふもふ詐欺とか、もふもふ美人局に遭いそうだな」
巴衛・円(くろがね・d02547)が、軽く冗談を言う。
よく見れば、誠十郎の背中にいくつもフラグが立っていた。
●サキシマオウノキ
「……俺達には果たさなければならないミッションがある!」
西表島に上陸した塵屑・芥汰(お口にチャック・d13981)は【雪桜】の仲間達と共に、サキシマオウノキを見物した後、イリオモテヤマネコを探し始めた。
「ミッションか! すげぇテンション上がる! よし、じゃあご一緒に! えいえい、おー!」
帆風・奏詩(蒼と煌きを追って・d23791)が、元気よく拳を突き上げた。
「えいえいおー……!」
結川・叶世(夢先の歩・d25518)も、キリリとした表情を浮かべる。
「あくたがいつになくやる気だし、頑張ってみようかな」
斉藤・春(子福桜・d19229)も、何となく気合を入れた。
「早くヤマピカリャーを見つけましょう」
秋山・清美(お茶汲み委員長・d15451)が、慎重に森の中を進んでいく。
「そういや、地元だとヤマピカリャーって言うんだっけ? 呼んだら出て来っかな?」
深山・一也(中学生デモノイドヒューマン・d23287)が、【天文台通り中学2年F組】の仲間と共に辺りを見回した。
「病院で培ったこのサバイバル技術があればイリオモテヤマネコだってモフれるはず!」
レクシィ・ノーザンブルグ(自称病院一のモフリスト・d23632)が双眼鏡を覗きつつ、なるべく周囲に気を配る。
「……むむッ! アレはこの島に一匹しかいないイリオモテ誠十郎ではないかッ……とつげーき☆」
それと同時に煌星・紅虎(もふもふ探検隊・d23713)が、誠十郎にダイブ!
一難去って、また一難。
誠十郎が心の中で涙しつつ、『今度、厄払いに行こう』と心に誓う。
「……もふ、もふ。……すみません。どさくさに紛れてみました。もふもふには少々、目がないものですから」
月島・海碧(凍刻の狂詩曲・d26917)が、誠十郎の頭を撫でる。
「こうしてはおれぬ、わしも追撃しなければ! わしにももふもふを供給して欲しいのじゃー!」
それを目の当たりにした秋桐・響凍(銀狼ヴィヴァーチェ・d27283)が、自らの感情を爆発させて誠十郎に飛びついた
「佐藤さん、もふりーと形態もだけど、人間形態も格好いいよな……おれもいつかあんな感じになりてーわ」
シグルス・グラム(きざした焔・d26945)が、羨ましそうに誠十郎を眺める。
「ところで……、イリオモテヘビトマングースってなんだろうね?」
天瀬・麒麟(中学生サウンドソルジャー・d14035)が、不思議そうに首を傾げた。
「それって、観光客が適当につけた名前のようだよ」
椎宮・司(ワーズクラウン・d13919)が、苦笑いを浮かべて答えを返す。
とにかく、変わったものを。ここでしか見れないものを、という気持ちが、観光客に架空の生物を見せた結果……らしい。
「……とは言え、なかなか見つからないな」
桜田・紋次郎(懶・d04712)が、カンムリワシを探して、空を見上げた。
千鳥・操(大学生ファイアブラッド・d15349)も釣られて空を見上げたが、そういう時に限って見つからない。
「イリオモテヤマネコは、たぶん見つからないだろうな」
そのため、井之原・雄一(怪物喰いの怪物・d23659)は、諦めムード。
「……かもな」
レイチェル・ベルベット(火煙シスター・d25278)も、生返事。
だが、完全には諦めておらず、一心不乱に周囲を見回している。
「とにかく、やるだけの事はやってみるか」
大和・閂(暁より勝利を求め・d20314)が、ニホンオオカミ状態の天城・兎(赤狼・d09120)に視線を送る。
それに気づいた兎が木の上に登り、イリオモテヤマネコの匂いを探すようにして、鼻をヒクヒクさせるのだった。
●展望台までの道のり
「まあ、希少な動物を探さなくても、ここを歩くだけで充分堪能できるな」
エマは辺りの景色を眺めながら、展望台に向かっていた。
一応、イリオモテヤマネコを探してはいるものの、大半は諦めムード。
「さすがにレアはなかなか見つからないか……」
司が残念そうに溜息をもらす。
「見つからなかったら……、司くんが猫変身して、代わりにもふもふさせて?」
麒麟が期待の眼差しを送る。
無論、拒否権はない。
「……仕方ない。手近のイリオモテイフリートをもふろうかと思う」
キリッとした表情を浮かべ、雄一が誠十郎をもふる。
「……って、佐藤の事か」
それを見たセンリが、残念そうにする。
「いや、これでも十分……」
総一が幸せそうに、誠十郎をもふる。
「それじゃ、旅の思い出に、記念撮影を!」
リオンがVサインで、誠十郎達と写真を撮った。
「モテモテだな、佐藤……羨ましいぜ!」
春人も笑顔を浮かべる。
「イリオモテヤマネコ、見つかればいいですね」
ロジオンがゆっくりと口を開く。
「まあ、見つからなかったら、さとーくんをもふり倒すけどね」
唯世が瞳をランランと輝かせる。
「ネコ見つかったらいいよな。なんかすごいもふもふしてそうだし……ロジオンといい勝負かな」
そう言って焔戯がロジオンに視線を送る。
「モフモフしてそうなイリオモテヤマネコや佐藤くんもいーけど、やっぱ一番はロジオンくん!」
和子がロジオンの尻尾を可愛がる。
「ねえ、みんな。野生……というか。野良さんと仲良くなる方法、知ってる?
叶世が仲間達に声をかける。
「確か、いりおもてにゃんこは、夜行性らしいよ。だから樹洞とか、岩穴でおやすみしてるらしいけど……」
春がそれっぽい岩穴を覗いていく。
「お、春すっげぇ。物知りだな」
奏詩が感心した様子で呟いた。
「あとはこっちが警戒しないように、目を合わせちゃダメだったかな」
芥汰が言葉を付け足した。
「せっかく、西表島まで来たんだし、できれば見つけてぇな!」
シグルスがイリオモテヤマネコの写真を眺める。
「イリオモテ響凍じゃったら、もふもふしてもいいんじゃぞ!」
響凍がふんぞり返る。
「……イリオモテ響凍さん……」
海碧がウットリ。
「もふもふ……もふもふがオレを呼んでいるっす……」
紅虎も何かに取りつかれた様子でフラフラ。
「よーし、まとめてもふったれー!」
一也の言葉を合図に、みんながもふった、もふりまくった!
「いま何か動いたような気が……」
その途端、白露が何かに気付く。
「……あっち……」
リヴィアが茂みを指さした。
茂みの中に……何かがいる。
「……みんな、静かに」
なるが人差し指をピンと立てた。
「気づかれたら、逃げられそうだな」
角夜が望遠鏡を覗き込む。
しばらくして、イリオモテヤマネコが茂みの中から顔を出した。
幸い、まだこちらの存在には、気づいていない。
そのため、カメラを持った者達の間に緊張が走る。
ほんの一瞬の油断が……命取り!
「足音は立てへんように気をつけよぉか」
保が足音を立てないようにして、ゆっくりと近づいていく。
その途端、イリオモテヤマネコがビクッと体を震わせ、走り出す。
「にっ、逃げるな! 待て、こらー!」
レイチェルが涙目になった。
身体に染みついた火薬の匂いが原因なのか、イリオモテヤマネコがダッシュで逃げた。
「逃がしませんよぉ」
すぐさま、亜綾が霊犬の烈光をむんずと掴んで放り投げる。
それを目の当たりにした蛍が、憐れんだ表情を浮かべて、胸の前で十字を切った。
「……いない!」
レクシィが烈光の落下した場所に向かうが、既にイリオモテヤマネコの姿はない。
ただ烈光の魂がひょろりと抜け、この世とサヨナラしかけていた。
「もふってはみたいが流石にそうはいかんよなぁ」
円が残念そうに肩を落とす。
「でも、可愛かったです。沖縄まで来たかいがありました」
清美がにこっと笑う。
ほんの一瞬ではあったが、その愛らしい姿を、瞳に焼き付ける事が出来た。
それだけでも、幸せ。ハッピーである。
「まあ、見れただけでも、良しとするか」
閂が自分を納得させつつ、兎をもふる。
兎はゆっくりと目を閉じ、大人しくもふもふされた。
『それじゃ、飯にするか』
そう言って誠十郎が、もふりーと姿で歩き出す。
そして、誠十郎達は展望台に向かい、みんなでお弁当を食べるのだった。
作者:ゆうきつかさ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年6月26日
難度:簡単
参加:43人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 7
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