●修学旅行のお知らせ
武蔵坂学園の6月の行事といえば修学旅行。
今年の日程は6月24日から6月27日の4日間。
小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒の皆さん、準備OK?
忘れちゃいけない、進学したばかりの大学1年生の親睦旅行も同じスケジュールで行われます。この機会に同じ学部の仲間や友人と親交を深めては。
行き先は沖縄。
東京では味わえない自然や文化に触れてたくさんの思い出を作りましょう!
3日目の自由行動は離島観光へ。
沖縄のあふれる自然、中でも海は外せません。
水晶を砕いたような水面の下に広がる青を堪能するならやっぱりダイビング。石垣島にはマンタに会えると評判のダイビングスポットがあるのです。
さあ、ウェットスーツに身を包み、青い海にダイブしましょう。
全幅3~5mにもなる大きな胸びれを羽ばたくように揺らめかせ、ゆったりと泳ぐマンタ。白いお腹についた斑点は皆違う形をしているから、注意してみていれば一度通り過ぎた子が戻ってきたのがわかるかも。
ちなみにマンタがこの場所にやってくるのは、小魚に体をクリーニングしてもらうためなんだとか。マンタの周りにはどんな魚が集まってくるのでしょう。お腹にはコバンザメがくっついていることも。
頭上を通り過ぎる雄大な魚影に圧倒されるもよし。水中カメラを持ってベストショットを狙うもよし。マンタを待つ間に色鮮やかな魚達を数えるもよし。
もちろんインストラクターが丁寧に教えるので、ダイビングが初めての人も泳ぐのが苦手な人も安心です。ウェットスーツの着方からマンタを撮影するコツまで、なんでも教えてくれますよ。
石垣島の海をあなたはどんな風に楽しみますか?
●指折り数えて
「マンタって大きくってかわいいよね」
草薙・彩香(小学生ファイアブラッド・dn0009)が手にした修学旅行のしおりは早くもしわが寄っている。一緒に胸に抱えているのは石垣島のガイドブックだ。
「3日目は離島の観光に行けるんだって」
大きな瞳を輝かせて首を傾げれば、頭の花飾りが笑うように踊る。
広げたガイドブックには青い海の中を悠々と泳ぐマンタの写真。
「どこへ行くか決まってないなら、一緒にマンタを見に行かない?」
せっかくだし、カメラを持って行ってマンタを撮ってみたいし、海の底に注ぐお日様の光だって見てみたい。きっと青空に輝く太陽とは違った色をしているのだろう。名前を知らないカラフルな魚だってきっとかわいいに違いない。
うまく写真撮れるといいなあ。彩香はそわそわと体を揺らしてはにかむ。
ガイドブックの写真はやさしくも鮮やかな青。
自分の目で見る青は、きっともっときらきらだ。
「えへへ、修学旅行楽しみだよね」
友達と、クラスメイトと、クラブの仲間と。
楽しい思い出の1ページに、マンタとの出会いを記しに行こう!
●蒼い空の下
くっきりと色濃い空から注ぐ日差しが海面を輝かせる。覗き込めば、波打つたびに姿を変える影が水底に揺らめいた。光の中を横切って行った黄色い魚はなんて名前だろう。
「こういうの憧れてたんだよねぇ」
クラスのみんなとダイビング。黎也は笑みを零して……ウェットスーツの描くラインをチラ見していた。
(「いやいや、僕には恋人ががががっ!」)
「男の子ってこれだから」
「紅緋、海にもぐる服の着方はこれでいいか?」
視線をそらした先で桐が両手を広げる。八重歯の覗く笑顔に紅緋は紅の瞳を和らげた。
クラスメイトを見渡し、涼莉は観光案内を抱きしめる。
「えとえと、あのね、綺麗な貝殻があったらね、拾ってみたいの~」
「貝殻か、おっきいのがあるといいな!」
「楽しみだね。カメラ係は任せて」
砌が愛用のカメラを持ち上げて微笑んだ。
説明を受けたとおりに装備をチェックする間にも船上の空気はそわそわ。
「おお、思ってた以上に動き易い~♪」
初めて着るウェットスーツ。腕を上下に動かしながら空が振り返れば。
「……いちごさん、後ろ姿がさあ……もう女性にしか」
「よく言われます。いい事なのか悪い事なのか……」
「秋風さんは十分女性っぽいですっ」
特に胸のあたり。自分の胸を見下ろす沙希。いや、よそう。今日の目的はマンタとのベストショットだ。
「最高の1枚目指して、頑張りましょー♪」
びしっとポーズを決める空に、光画部の面々は笑顔で頷いた。
鍵人はウェットスーツのファスナーを上げてほっと息を吐く。逆に残念そうな声を漏らすのはジアン。
いつも長袖ばかりだけど、もっと可愛い格好も似あうのに。考えていたら視線を感じて、ジアンはウェットスーツに袖を通した。
「……華やかで、いい、ですね」
「アイグ……そんなに見ると恥ずかしいよ……」
改めて準備はOK。2人は向かい合ってきらめく波に身をゆだねた。足の下を通り過ぎた魚に目を細め、一生の思い出を作りに、いざマリンブルーの世界へ。
切りそろえた髪を水に遊ばせて、紅緋は広がる世界を見渡した。
マンタはどこにいるだろう? 首を巡らせた先で黎也がハンドサインを出した。
ゆっくりと前方を横切る大きな魚影。
しばし、シャッターを切るのも忘れて見とれてしまう。波打つように動くひれを目で追いかけて、砌ははっとしてカメラを構えた。
(「飛行機みたいなの~」)
涼莉が目を輝かせていたら手を引かれた。
もっと近くで見てみたい。桐が大きな瞳をいっそう丸くして振り向いたのに頷いて、涼莉も足を動かした。
紅緋が浮上を開始する。マンタの背中に乗れたなら、きっと海中を飛んでいる気分になれるに違いない。笑みを深めて黎也も後へ。
尾をそよがせたマンタが、乗れるものならと言わんばかりに頭鰭をくるくる巻いていたずらっぽく旋回した。
透き通る光の先を見透かせど、どこまでも青い世界。
別世界みたい。紅葉が胸を躍らせていると、左手を強く握られた。振り向けば、かすかに揺れる大きな瞳。握り返して微笑めば、千聖の唇も弧を描く。
ゆるやかに水を蹴って水底へ。
散っていったかと思えば近づいてくる色とりどりの魚達に誰もが唇を綻ばせた。
真魔もまた、鋭い瞳を和ませてカメラを構える。ゴーグル越しにもわかる表情に貴明が肩を揺らした。
急に暗くなって顔を上げる。頭上を通り過ぎるコバンザメをくっつけたお腹。
(「でっかいなーかわええなー!」)
目を丸くしながら紅葉が視線を隣にやれば、千聖がレンズを向けてきた。シャッターを切る表情につられて笑う。
(「ゆらゆらしてる……! 超かわいい!!」)
ごぼ。口元から泡を白く吐きながら貴明の腕をつつく真魔。マンタを指さして、かと思えばカメラを構えなおして。さらには近づこうと腕を引かれ、貴明は大仰に肩を竦めた。幻想的な景色に浸る暇もない。でも、一人では来なかった場所だ。視界を埋め尽くす透明な青に目を細めた。
激しくエアを消費しているのは八雲と仁恵。
「にえええまんたあああああきたああまんたああああ」
「あっすううなんでえええうわああまんたあああおおきいなんでえええ」
しがみつく八雲の手を握り、仁恵は頭上を通り過ぎるマンタを見上げた。近くを泳いでいるように見えて、浮かび上がる白い泡はまるで届かない。
つないだ手がぎゅっと握られる。空に迷い込んだみたいな世界の中で、掌だけはあたたかい。
回頭したマンタにカメラの存在を思い出す。再びエアをぶくぶく消費する八雲に向けてシャッターを切った。
広がる青。カラフルな魚達。撮影戦隊と化した空と紅葉が右へ左へとカメラを向ける。合間に魚につつかれて肩を震わせたりもして。
にぎやかな2人を写真に収め、次の被写体はと首を巡らせるいちごを沙希が手招いた。指差す先には近づいてくる巨大な影。振り返って2人を呼ぼうとしたら、空が別の方角を示す。
ゆうらり、ふわり。
交差するマンタが陽光を遮り、光のカーテンを押しのけた。絶好のシャッターチャンスを光画部が逃すはずもなく。2枚のマンタが行き交う姿をレンズに写し取る。
皆はどんな写真が撮れたかな。それは海から上がってのお楽しみ。
●碧く揺らめく
「わたし、およげないよ~」
「何泣きそうになってんだよ。大丈夫だろ、皆いるんだから」
ハの字になった眉に苦笑して和志はひらりと手を振った。先へ行かれて唇を歪ませる武士につられて夜月も瞳を揺らす。
「ボク泳ぎ苦手なんだけど平気かな……」
「普通に泳ぐのはともかくダイビングはやったことがないな」
伝播する不安。歩夢まで胸をざわつかせはじめて、香名はゆるく首を振った。
「私達でしたら海の底でもそうそうどうにかなる訳でもありません。気を楽にしていきましょう」
「泳げなくても大丈夫だよ! 思い出作りに一緒に行こう♪」
「わたしも泳ぐの得意じゃないけど、きっとだいじょうぶだよ」
清和が親指を立て、ましろが胸元で拳を握る。
「武士ちゃんも夜月ちゃんも、一緒にどぼーんしよ♪」
「うん、一緒だからね、ね?」
「僕もいいかな」
マハルが手を差し出した。手をつないで横一列に並ぶ。武士の表情も晴れて。
「うん、大丈夫! 怖くない!」
手をつないだまま一緒にどぼーん!
その瞬間をカメラがばっちり捉えたのを確認して昇は頬を緩めた。皆を追いかけてカメラ片手に澄んだ海に飛び込む。
(「というか、関東の海と違い過ぎ!」)
(「本当に綺麗な海だね」)
清和は目を見開き、歩夢は吐息を漏らす。
遠くまで見晴るかせる。光と青の生み出すグラデーションの中に鮮やかな魚の群れが泳いでいた。
餌付けは環境を破壊するらしいと下調べした昇が説明していたが、餌なんてやるまでもなく魚達が目の前を横切った。
(「ちょ、花守押すな!?」)
魚の群れに囲まれて身動き取れなくなる和志。指先をつんつんつつかれる。餌だと思われてるの?
さすが芸人。写真を撮りながらしみじみする昇。
いっそ感心していたら魚達が進路を変えて。
(「清和くんシールド!」)
(「ぶっしーは僕が守る」)
きりっとした表情はゴーグルに阻まれ誰も見ることは叶わなかった。だって正面には魚しかいないし。
思わず笑みを零しはするけれど、カラフルな魚は目に楽しく。
(「うちの部室でも海水魚、飼ってみましょうかね」)
香名はふと部室に思いをはせた。広がる青い世界との相乗効果か、飼っている熱帯魚より派手かもしれない。
考える横顔を注視するマハル。眼鏡を取った香名を見るのははじめてかも。
と、武士が顔を上げる。つられて皆で見上げれば、光を遮る大きな影がゆったりと通り過ぎる。マンタだ。
近寄っても大丈夫かな。静かに水を蹴る。マンタさん、少し一緒に泳いでも?
「やっぱり沖縄の海って透き通ってて綺麗ッスよね!」
我先にと和巳が透き通る海にダイブする。後に続こうとして、葉蘭は足を止めた。
「私、なぜか水に浮かないんですよね」
「そうなの? 今日は潜るんだから大丈夫だよ!」
「浮かないと戻れないのでは……」
拳を握る彩香に首を傾げはしたが、波の下にはマンタが待っている。レギュレータをくわえ、思い切って飛び込んだ。波間に沈むツインテール。
「わあ、待って待って」
彩香が飛び込み、パメラが続く。
緊張気味に飛び込んだミルドレッドの泳ぎはぎこちない。先陣切って魚の群れを追いかける和巳との距離は離れる一方だ。眉根を寄せたところで差し出された掌。顔を上げればパメラが微笑む。
彩香が手を振って一方を指さした。
マンタだ。近いような、遠いような。どこまでも続く青とマンタの大きさに距離が掴めない。ゆらり、ゆらり。大きくなる姿。
のけぞる和巳。見とれるミルドレッド達。
一度通り過ぎたマンタが旋回したところで葉蘭がカメラを掲げた。忘れちゃいけない記念写真。もう一度近づいてくるマンタと一緒に写るように皆で肩を寄せて、はいチーズ。
光のカーテンがたなびく青い世界をゆらりと進む。
乗ってみたいな。驚かせるかな。
魔法の絨毯みたいにたゆたうマンタの姿に海漣は紫の瞳を輝かせる。何メートルあるんだろう。両腕を広げたって全然足りない。間近で見る魚影は想像以上の迫力だけど。小魚につつかれてのんびりするマンタに唇が綻んだ。
(「あ、カメラカメラ!」)
華月が我に返ってシャッターボタンに指をかける。青い光の中で羽ばたく姿に見とれてしまった。マンタが通り過ぎた場所を横切る魚にもカメラを向ける。色とりどりの魚は宝石みたい。鮮やかな景色を心とカメラに焼き付けた。
テレビで見たことはあったけれど、実際に潜るのは初めてで。360度の青を堪能しようと葵は首を巡らせた。イスカがまだ海面近くに漂っている。手を振って、写真を1枚。そんな葵を横から激写する緋頼。
肩を跳ねさせる葵に笑みを返して、緋頼はイスカを見上げる。
(「写真? ばっちこいだよー」)
ぐっと腕を突き出したタイミングではもちろんシャッターは切らず。向かう先には額を押さえる佐奈の姿。
(「海……合宿……うっ頭が……」)
地獄合宿は確実に佐奈の精神に何かを残したようだった。ひとつ首を振り――緋頼がシャッターボタンを押す瞬間に振り向いてピースした。瞬きの後に微笑んだ緋頼に口角を持ち上げて見せて、佐奈もまたカメラをたゆたうマンタに向ける。
「稀に全身が黒いブラック・マンタというのがいるらしい」
「なんか名前が凄い格好良いね」
潜る前に告げればイスカが歓声を上げた。いるだろうか。頭上を通り過ぎたマンタの腹を見上げる。視界の端に潜るのに慣れたらしいイスカの背が見えた。
きらめく海面を見上げている。不思議な景色。吐息を泡に換えたところで緋頼のシャッターが音を立てた。
カラフルな魚の群れが目の前を通り過ぎる。
藍は腕を伸ばして統弥を振り返った。声を出せない代わりに動く手と、ゴーグル越しにもわかる瞳の輝き。統弥が笑みを零していると、ふいに影が落ちてきた。
そろって見上げれば悠然と泳ぐ白いお腹。
藍が持ってきたカメラを交互に構えて、マンタとの写真をパシャリ。手振りで頼んで、他の生徒にマンタをバックに2人一緒の写真も撮ってもらって。
海から上がったらこの感動を傍らの人に伝えよう。ハイタッチしながら同じことを考えた。
上下に揺れる鰭が二の腕に触れて、初美は肩を揺らした。通り過ぎたマンタを振り返って手を伸ばす。
(「……綺麗だなあ」)
ゴーグルの向こうの瞳だとか、緩んだ頬だとか。楽しそうな姿に、いつの間にかシャッターを押すのを忘れてしまう真咲。どうしたのかと視線で問われて我に返る。首を左右に振って撮影を再開すれば、微笑んだ初美に腕を引かれた。
せっかくマンタが近くにいるのだから、という彼女の思惑とは裏腹に、近づいた距離で写真を1枚。瞬いた初美にもう一度首を左右に振った。
水底に近づいたマンタが飛ぶようにして横をすり抜ける。
アルトの視線を受けて、リーズディットは頷いた。2人で青の中を舞う白と黒のコントラストを眺める。
揺れる光。空を目指す泡。静かだけれど命に溢れた世界。
いつの間にか、青や黄色の魚達がアルトの周りを泳いでいた。瞬いて視線を横に向ければ、ゴーグルの向こうでやわらかに細められる目。自然と唇が綻ぶ。
でも。言葉にならずに上る泡を視線で追いかけた。匂いが遠い。声が聞きたい。ああ、陸の生き物でよかった。地上が恋しいね。
●青春の1ページ
名残惜しくもそろそろ海中散歩は終わりの時間。
ゆったりと旋回するマンタ達に別れを告げて、水を蹴る。光のカーテンの間を縫ってきらめく海面から顔を出せば太陽がおかえりと輝いた。
船に上がってゴーグルとレギュレータを外せば自然と深呼吸。ここが本来の場所だけど、波の下の幻想的な世界も名残惜しい。誰かが記念写真を撮ろうよと声を上げる。
濡れたまま皆ならんでくっついて。カメラを受け取ったインストラクターが合図する。
「1たす1はー?」
「2!!」
――カシャッ!
シャッターの音と同時に。
たくさんの輝く笑顔の背景に水飛沫があがった。目を丸くして振り向けば、青空にさらされる艶やかな黒い背中。大きなジャンプをして1枚のマンタが波間に消えていく。きらきら輝く水飛沫。
楽しんでくれたかな?
そう、微笑まれたようで。マンタの見送りに誰からともなく手を振った。
作者:柚井しい奈 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年6月26日
難度:簡単
参加:42人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 5
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