数十年ぶりのプロポーズ

    作者:飛翔優

    ●絆の喪失
     ――それは、涼し気な風が心地よい夜中のこと。
     閑静な住宅街の一軒家。年老いた夫婦、和敏と小梅が眠る寝室に、宇宙服のような不思議な意匠の服を纏う少年が入り込んできた。
     少年は小梅の枕元にしゃがみ込み、静かに囁きかけていく。
    「君の絆を僕にちょうだいね」
     それ以外には何もせず、少年は枕元から立ち去った。
     小梅に大きな変化はない。今は、まだ……。

     午前六時。いつも通りの時間に目覚めた老婆。いつも通り散歩に行くのだと、大きく伸びをしながら起き上がった。
     今だ夢に身を委ねている和敏へと視線を向けて、声をかけようと手を伸ばし……。
    「……え?」
     ふと、心によぎった。
     どうして、和敏と一緒に散歩に行かなければならないのか。
     何故、枕を共にしていたのか。
     いや、分かる。理屈では。和敏は夫で、自分は妻。五十年寄り添ってきた相手。
     しかし、今までは理屈で考える必要などなかった。当たり前のように和敏を起こし、一緒に散歩に向かっていた。
     なのに何故、行かなければならないのかとの思いが浮かぶのか。なぜ、こんなのにも和敏が遠い存在だと感じているのか。
     考えている内に、時が過ぎる。
     やがて、和敏が自分で起きてきた。
     おはよう、との言葉を聞いても、小梅は遠い場所のできごとのように感じられて……。

    ●夕暮れ時の教室にて
     神妙な面持ちで灼滅者たちを出迎えた倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は、静かな声音と共に口を開いた。
    「強力なシャドウ、絆のべへリタスがついに動き出したみたいです」
     絆のべへリタスと関係が深いだろう謎の人物が、一般人から絆を奪い、絆のべへリタスの卵を産み付けているらしい。
     このままでは、次々と絆のべへリタスが孵化してしまうことだろう。
     強力なシャドウである絆のべへリタスが次々と孵化してしまうというのは、悪夢以外のなにものでもない。
    「しかし、孵化した直後を狙えば、条件によっては弱体化させる事も可能です。ですのでどうか、絆のべへリタスがソウルボードに逃げこむ前に灼滅してきて下さい」
     概要説明を終えた後、葉月は地図を広げていく。
    「今回、皆様に向かってもらうのはこの街。絆のべへリタスに卵を産み付けられた方の名は、小梅さん」
     小梅、御年七十歳。本来は物腰穏やかで、子どもたちがはしゃいでいる光景を見るのが大好きな、時には一緒に遊ぶことも大好きな優しい老婆。
     失った絆の相手は、夫の和敏。言葉数は少ないが気遣いのできる老爺。小梅とは五十年連れ添い、共に一生添い遂げると誓っていた。今もなお、愛し合っていると近所では評判の二人である。
    「そんな絆を、絆のべへリタスは奪おうとしているわけですが……」
     ともあれ、当日の午後三時、小梅は住宅街の公園で一人落ち込んでいる。そこに接触していく形となるだろう。
    「とはいっても、説得するというわけではありません。何をするかは任せますが……絆を結んで下さい」
     というのも、小梅が……卵を産み付けられた者が絆を結んだ相手に対しては、絆のべへリタスに対して与えるダメージが増加し、受けるダメージは減少する……という弱点を持つ
     制限時間は、出会った時間から計算して約二十六時間。その間に絆を結び……出会った翌日の午後五時に絆のべへリタスと相対する……という流れになる。
     絆のべへリタスの姿は、いびつな仮面を被っている兵隊。力量は、絆を結ぶことなく真正面から戦ったらまず間違いなく負けるほどに高い。
     意識は攻撃面に割いており、技はライフルによる狙撃、銃剣による連続刺突、防具を破壊し広範囲に広がる手榴弾。どれも、絆を結ばない状態では一撃を受けることすら覚束ないだろう。
    「また、戦闘に十分以上の時間をかけた場合、絆のべへリタスはソウルボードを通じて逃走してしまいます。灼滅は不可能になってしまうので、注意して下さい」
     以上で説明は終了と、葉月は地図などを手渡していく。
    「絆が強ければ、それだけ有利に戦うことはできます。また、絆の種類に制限はないので、色々なアプローチができるかと思います。また、絆のべへリタスを倒せば、失われた絆は取り戻されます。なのでその後のフォローも必要でしょう。絆の結び方によっては、フォローは難しいかもしれませんが……」
     ともあれ、と締めくくりに移行した。
    「どうか、全力での救済を。何よりも無事に帰って来て下さいね? 約束ですよ?」


    参加者
    葛木・一(適応概念・d01791)
    楓・十六夜(蒼魔竜葬・d11790)
    阿久沢・木菟(灰色八門・d12081)
    平戸・梵我(蘇芳の祭鬼・d18177)
    廻谷・遠野(架空英雄・d18700)
    月光降・リケ(魍魎猖獗・d20001)
    ルーナ・カランテ(ペルディテンポ・d26061)
    楠木・夏希(冥界の花嫁・d26334)

    ■リプレイ

    ●絆の形
     雨上がりの土の匂い、雲を運ぶ涼しげな風、冷えた体を程よく温めてくれる優しい日差し。木々のざわめきだけが心を満たしていく小さな公園で、一人の老婆がベンチに腰掛けて、うなだれていた。
     原因は、頭にくっついている歪な卵か。
     早々に老婆を……小梅を救い出すために、葛木・一(適応概念・d01791)が心配気に瞳を細めながら話しかけていく。
    「なあなあ、そこの婆ちゃん」
    「……? 何だい、坊や」
    「しょんぼりしてどうしたんだ?」
     まっすぐに瞳を覗き込み、真剣な思いを伝えていく。
     小梅は首を横に振り弱々しく微笑んだ。
    「ごめんね、心配かけてしまって。大丈夫だよ、これは私自身の問題だから……」
     瞳を閉じるは、拒絶の意。
     元より悩みを聞いてあげようとしたわけではないからと、一は明るい声を響かせる。
     お願いがあると。
     学校の宿題で遊びを調べているから教えてほしいと、同道する仲間たちも紹介した。
     小梅は目を見開いた後、優しく瞳を細め頷いた。
    「こんな老いぼれで良かったら、いくらでも教えてあげるよ。さ、何を聞きたいんだい?」
     ――お手玉、けん玉、ビー玉おはじき竹とんぼ。
     一たちが古い遊具を取り出して、小梅が楽しげに遊び方を教えていく。時には自ら実演し、過去の光景を再現していた。
     さなか、阿久沢・木菟(灰色八門・d12081)が一礼すると共に手を広げていく。
    「ここで一つ、お礼に手品……」
     数枚のコインを取り出し指の間に挟んでいく。
    「いやー、そういえば拙者よく、ヘンな喋り方って言われるんでござるよね」
    「まあ、ほんとに?」
    「おじいちゃんっ子でござる故、時代劇から変な喋り方覚えちゃったんでござるよ、っと」
     おどけた調子でコインを掌へと仕舞い、力強く握りしめる。
     固めた拳を小梅の前に差し出した。
    「それでは一つご協力を。この手を軽く叩いて欲しいでござるよ」
    「こう、かしら?」
     軽く叩かれた手の内側から、一輪の花が咲いていく。
     目を見開く小梅、微笑む木菟。
    「拙者、女性に信じてもらえればどんな奇跡だって起こせるんでござるけどね。ま、今はこれが精一杯、でござる」
    「あらあら、まあまあ、おませさんねぇ……」
     花を受け取り、小梅は照れくさそうに微笑んだ。
     笑顔になってくれたのが嬉しいのか、一もにししと笑っていく。
    「おお、なになに、それなにしてるの?」
     楽しげな光景に誘われたか、廻谷・遠野(架空英雄・d18700)がやって来た。
     面白そう、私にも教えてよ! とねだる彼女を、小梅は快く受け入れる。
     手始めに一個でのお手玉を始めた時、ずっとお手玉に挑戦していた楠木・夏希(冥界の花嫁・d26334)が声を上げた。
    「お、あ、むむ……ダメ、みっつでいっぱい!」
     足元には、小さなお手玉が二つ。
     小梅は拾い上げながら微笑んだ。
    「そうだね。それじゃ一つ、またお手本でも見せようかね」
     身軽にお手玉をこなしながら、小梅は少しずつ、けれども的確なアドバイスを行った。
     教えを受けた夏希たちが再びお手玉を始めた頃、楓・十六夜(蒼魔竜葬・d11790)が許可を得た上で優しく肩もみを始めていく。
    「ありがとねぇ。久々にひ孫に合った気分だよ」
    「……オレは叔父や叔母には会った事が無いが……生きていれば貴女位の歳だったのだろうね。少し、叔母に触れられた気がする。……感謝するよ」
    「おやまあ。じゃあ、存分に甘えなさい、こんな老いぼれで良ければね」
     多くは追求せず、小梅は十六夜に肩を委ねていく。
     二人が静かな時間を過ごしている中、ルーナ・カランテ(ペルディテンポ・d26061)が隣に腰掛け話しかけた。
    「ほんと、お話助かりました! 私、日本にはちっちゃいころに来たんですけど、それでも歴史とか文化とか聞くと何だか不思議な気分になるんですよね……」
    「外人さんとも、何か通じあう所があるんだろうねぇ……うんうん」
     そんな、感謝と笑顔を贈り合う優しい交流。瞬く間に時間は過ぎ、夕暮れ時が訪れた。
     小梅も帰宅し、夕食を作り始めなければならない時間。
     明日も会うという契りを交わし、彼らは一時帰路につく。
     勝負は明日、更なる絆を結んだ後。願わくば最善の、叶うのならば最高の道を辿れん事を……。

    ●お婆さんとお爺さん
     数年単位か、はたまた今回が始めてなのか。
     弾んだ調子で朝もやに包まれた優しい朝の道を行く霊犬、リードを操る主はルーナ。
     遊歩道に繋がる道へと向かう曲がり角、老人と……夫、和敏と共に歩く小梅の姿を発見した。
     ルーナはリードを引き霊犬に向かうよう指示して歩み寄る。
    「おはようございます、小梅さん!」
    「おやまあ、おはよう。早起きなんだねぇ」
    「はいっ。ええと、もしかして隣の方は……」
     一瞬表情を曇らせながらも、小梅は和敏を紹介する。
     元気よく頭を下げた後、ルーナは目的地まで同道する事を申し出た。
     許可を得て隣を歩く中、静かな調子で願っていく。
    「実は、昨日は皆がいる手前、ちょっと言い出せなかったんですけど、私一人暮らしでこの子しか家族いないから、なんというか……寂しいん、ですかねー……。……今だけお婆ちゃんって、呼んでもいいです?」
    「……」 
     しばし考え込んだ後、小梅は優しく微笑んだ。
    「構わないよ。でもね、家族がいない、って言っちゃいけないよ。あんたにはほら、家族がいるじゃないか」
     咎めるような声音を向ける先、元気に歩く霊犬が。
     あっ、と口を開けた時、今度は夏希がやって来た。
    「おはようございます! ってルーナさんと……お爺さん? もも一緒なんですね!」
    「ああ、おはよう。あんたも早起きなんだねぇ」
     和敏を紹介され、夏希は礼儀正しく頭を下げた。
     顔を上げると共に小梅と和敏に視線を送り、楽しげな笑顔を浮かべていく。
    「実は、以前にお二人でお散歩してるのを公園で見かけてステキなご夫婦だなって思ってました」
    「……あらあら、まあまあ」
     反応が鈍いのは、きっとべへリタスの卵のせい。
     夏希は心の奥に、べへリタスへの思いを隠し、小梅と、和敏とルーナと共に楽しい朝を過ごしていく……。

     散歩が終わり、二人と別れ、帰宅した小梅と和敏。
     昼が過ぎ、小梅が約束通り公園へと向かっていく。
     曲がり角の向こう側に消えていくまで待った後、平戸・梵我(蘇芳の祭鬼・d18177)が門へと向かいインターフォンをプッシュした。
     五秒も経たない内にドアを開けて顔を出してきた和敏に、挨拶と共に己の立場を語っていく。その上で、真剣味を帯びた抑えた声音で伝えていく。
    「昨日お手玉を教えてもらっていたが、小梅さんがどうも落ち込んでいる。不安があるのかもしれないから貴方の数十年来の思いをもう一度言葉にして伝えてあげて欲しい」
     続いて戦闘終了が予想される午後五時半頃を提示ししたなら、和敏が眉根を寄せていく。
     しばし考え込んだ後、静かな息を吐き出した。
    「あいつが何かおかしい事は知っていた。ちょいと元気づけようかと思っていたが……そうか。わかった。あいつが信頼した子どもたちだ、俺が信頼しないわけにはいかん。何かあるんだろう。その時間に行くとしよう」
     ――こうして、和敏との契りも交わされた。
     後は契りを違えぬよう死力を尽くそうか。

     仲間たちに遅れて合流した梵我。
     和敏とやり取りしていた時とは対照的に、子供っぽい笑みを浮かべながら小梅に教えを請うていく。
     お手玉を繰り返してもなかなか上手く行かないけれど、それでも、アドバイスを受けるたびに一回、二回と継続できる時間が増えてきた。
     どんどん腕を上げていく彼らを眺める小梅の横顔も、晴れやかな笑顔に満ちている。十六夜は心のなかで絆は結べたようだと呟きながら、少しずつ、思考を来たる戦いの時へ向けて切り替えていく。
     時間も四時を回った頃。不意に、月光降・リケ(魍魎猖獗・d20001)が小梅のもとに歩み寄った。
    「そういえば、思い出したことがあるんです!」
    「ん? なんだい?」
    「今の今まですっかり忘れていたのですが、小梅おばあちゃんには子供の頃に遊んでもらった記憶があるんです! 記憶って不思議ですね。きっかけがあれば思い出すものですね」
    「おやまあ、ほんとかい?」
     昔の知り合いを演じるリケに、小梅は驚いたような声を上げていく。
     晴れやかな笑顔を浮かべながら、リケは更に続けていく。
    「ずっと子供の頃なので大きくなりましたし、わからないのも仕方ないですね。和敏おじいさまはお元気ですか?」
    「ん……そうだね。元気、だと思うよ」
     歯切れの悪い返答。
     無理もない、と思考を巡らせながら、更なる言葉を続けていく。
     和敏ともお話をしてみたいと。あまりお話もしなかったから、初対面みたいになるかもしれないけれど……と。
     小さなサプライズを含めた交流をする内に、孵化の時が近づいてきた。
     ぽつり、ぽつりと、仲間たちがこっそりと戦いの準備を始めていく中、遠野が小梅に話しかけていく。
    「そろそろ、お別れの時間だね」
    「そうだね、楽しい時間をありがとう」
    「ううん、こっちこそ! ……うん、また遊びに来るよ」
     ――だって、友達でしょ? と呼びかければ、小梅は笑顔で答えてくれた。
     だからこそ、遠野は言葉を重ねるのだ。
    「……時々疲れたって、少し感じられなくなったってそれだけで、愛が全て無くなってしまうなんてことはないよ」
    「え……」
    「きっと、大丈夫だよ。お爺さんと、仲良くね」
    「あ……ええと……!」
     小梅が返答しようとした時、頭上の卵が振動した。
     瞬く間に闇を放ち、歪な仮面をかぶっている兵隊へと……絆のべへリタスへと変わっていく。
     驚きすくみあがっている小梅をすぐさま手元に引き寄せて、遠野は元気に呼びかけた。
    「さ、ちょっと危ないから離れててね!」
    「……あんたたちは」
    「だいじょーぶ! 私は、ヒーローなんだから!」
     手を叩くと共にプリンセスモードを起動して、華麗に可憐なヒーローへと変身する。
     ニヤリと小梅に絵顔を送った後、絆のべへリタスへと向き直る!
    「守るって言ったしね。ヒーローだから、約束は守らないと」
     タイムリミットは約十分。
     小梅と和敏の絆を取り戻すため、灼滅者たちは立ち向かっていく……!

    ●確かな絆はどんな時も
     十分経てば、絆のべへリタスは夢と消える。
     絆は永久に失われる。
     させぬために来たのだと、一は剣を掲げ大きくジャンプ!
    「大切な絆は取り返してやるからな!」
    「守りを知らない兵隊ですか。攻め合いなら遅れはとりません」
     一が縦一文字の軌跡を描いた直後、リケが螺旋状の回転を加えた槍を突き出した。
     貫かれながらも絆のべへリタスは銃剣を持ち上げて、一に向かい刺突を放っていく。
     合間にルーナの霊犬が割り込んで、斬魔刀で打ち払った。
     卵が付加していく光景を、そしていくつも付加していく光景を想像し口元を歪めていたルーナは氷の塊を発射した。
    「お婆ちゃんの絆、持ち去らせたりなんかしませんよー」
    「……」
     氷結した足元を、無駄のない足取りで背後に回った十六夜の黒き冷気を纏う黒刃の蒼剣が切り裂いた。
     走り抜けることなく振り返り、掌に球状の魔法陣を展開する。
    「……Schwarze Grenze……黒き境界の狭間へ堕ちろ」
    「まずは動きを鈍らせるでござるよ!」
     木菟もまた背後に周り、凍りついた脚を切り裂いた。
     灼滅者たちはまず隙を生み出すことに注力しつつ、絆のべへリタスからの反撃を受け流しダメージを最小限度に留めていく。
     時に直せば四分ほど。絆のべへリタスがふらつき始めた頃合いに、遠野が拳を握り飛び込んだ。
     顔に、腹に、胸に、鳩尾に……急所と呼ばれる場所全てに拳を叩き込んだ後、静かに冷たく言い放つ。
    「……お婆さんに、乱暴にしないでくれる?」
     反論は、銃剣から撃ち出された弾丸が。
     遠野は体を捻り腕に掠めさせながら距離を取る。
     直後、絆のべへリタスに闇の顎が襲いかかった。
    「……深淵の竜顎に喰われろ」
     担い手たる十六夜の言葉と共に飲み込んで、闇の内側へと閉ざしていく。
     直後、無造作に伸ばした銀髪と細身の体を包む執事服が特徴的なビハインド、ノワールが闇へと霊障を放ち、夏希が優しき光で遠野を照らした。
    「この調子ならもうすぐ倒せるはず……ですから、皆さん……お願いします!」
     炎が上がり、氷は広がる。
     絆のべへリタスはまともな行動すらかなわない。
     願いが背中を後押ししたかのように、灼滅者たちは更に苛烈な一撃を絆のべへリタスへと叩き込んだ。
     仕上げだ……と、十六夜が地面に剣を刺し魔法陣を展開する。
    「……氷哭極夜……冥府の氷霜に蝕まれろ」
     氷の世界を作り出し、絆のべへリタスの半身を氷の中へと閉じ込めた。
     すかさず梵我は間合いの内側へと踏み込んで、魔力を込めた杖を振り上げていく。
    「あんな短い時間でもこうして絆は結べる。そいつが人間ってモンだ。テメェが何度食い尽くそうが、何度でも結び直してやる。人間なめんな!」
     強い意志のもとに振り下ろし、脳天を強打すると共に魔力を爆発させていく。
    「くたばれ寄生虫ヤロォーーーーッ!!!」
     言葉が響き渡ると共に、絆のべへリタスはガラス細工のように砕け散る。
     魔力に押しつぶされ砂粒へと変わったなら、風にさらわれ煌き残して消え失せた。
     偶然か、必然か。煌きは風に運ばれ小梅の方へ。
     灼滅者たちは頷きあった後、小梅の下へと向かっていく……。

     絆は取り戻されたのだろう、小梅の表情にどことなく悔しげな色が浮かんでいた。
     泣かぬよう、リケが語りかけていく。
    「記憶って不思議ですね。でもきっかけがあれば思い出すものですね」
     微笑み、力強く言い切った。
    「絆はきっと失われない。結び直せばもっと強くなりますよ」
    「然り。ところで、今の光景は……」
     頷く木菟が戦いの光景を忘れてくれるよう申し出たが、小梅は小さく首を横に振る。
     助けてくれた人たちを、忘れられるはずなどない。何より、この英雄譚を刻んでおきたい。大丈夫、誰かに話してもボケたとしか思われないから、と。
    「あいわかった。では話は変わるでござるが、今度はご主人ともお話させて欲しいでござるよ。ご主人、碁とか指せないでござるか?」
    「どうだったかねぇ。わりとあの人、アウトドア派だから」
    「また遊んでもらいたいな。今から、どう? できれば爺ちゃんも一緒にね!」
     続いて、一が笑顔で申し出た。
     優しく微笑んだ後、小梅は首を横に振る。
    「ごめんなさい。お婆ちゃん、やらなきゃいけないことが……あ」
     言葉を途切れさせた小梅が見つめる先、公園の入口に、花束を抱えた和敏の姿があった。
     改めて絆を確かめ合う時間なのだろうと、灼滅者たちは顔を見合わせ小梅の側から離れていく。
     再び歩み出すためのプロポーズ。二人の新たな契りはもう、二度と切れることはないだろう。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 1
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