――長野県のとある路地裏。
そこではダンボールに入れられた子猫がニャーニャー鳴いていた。
今時珍しい捨て猫らしい。
「ねーねー、おかーさん、猫飼ってもいい?」
幼稚園児くらいの女の子が母親に問う。
「だめよ。自分で面倒みられないでしょう」
小さいうちは動物って飼いたがるものよね、と母親は思いつつそう答える。
しかしどうしてもと言うならば、情操教育にも悪くはない、飼ってみても良いかもしれない――と思っていたら。
「なめこを育てろ」
……なんか素敵なテノールボイスがした。
親子が声の方を見ると、なにやらダンボールを切り抜いて作った人形っぽいモノがいた。
その形状は、キノコっぽい。
つーか、真ん中あたりに人の顔があった。
ダンボールを切り抜いて作ったキノコ形状の着ぐるみのような感じだ。
「おじちゃん誰?」
女の子が問うと、途端にダンボールで出来たキノコは眉をつり上げた。
「俺はおじちゃんじゃーない。なめこ怪人だ」
「ごめんねおじちゃん」
……幼児は凶悪であった。
気を取り直しダンボールで出来たキノコ――なめこ怪人はコホンと咳払い。
「それはともかくなめこを育てろ」
ふっとい木の枝をどこからともなく取り出した。
「この栽培キットを使ってなめこを育てるんだ! 原木には接種もしてある。さあ!」
そんな言葉に慌てたのは母親の方で。
「そ……そんな原木家に置く場所はありません!」
「ならばこのビンに詰めた菌床でどうだ? トイレや寝室のインテリアにも最適。神棚に飾ってみるのも良いだろう……! お世話はこまめな霧吹きだけ! 猫よりとっても楽!」
ずい、とビンを取り出すなめこ怪人。そんな彼のダンボールを幼女ががしっと掴んだ。
「……なんだ、コムスメ。俺はお前のおかーさんに用事があるのだが」
「ねーねーおじちゃん。なめこだったらゲームで育ててるよ?」
幼児の言葉になめこ怪人、ちょっぴりピシっと固まった。
「……俺はおじちゃんじゃー……それはさておきゲームだと?」
ぎり、となめこ怪人が歯ぎしりする音が聞こえた。
「駄目だ! 駄目だ! 駄目駄目だ!! 子供はゲームとかばっかりしてないでお外でなめこを育てろ! そして世界をなめこで満たす事で我々の世界征服は成就するのだ。ハラショーなめこ! なめこステキー! なめこになら抱かれてもいいー! なめこ、ウラー!!」
全力の駄目だしに幼女は涙目。寧ろ泣かなかっただけえらい。
なんだか駄目な感じのなめこ怪人はそう一人で盛り上がり……そしてこう告げた。
「えぇい、どうしてもなめこを育てないというのなら……お前らをさらってなめこを育てさせてやる!」
怪人は手にしたなめこ原木へと己の力を分け与える。途端に原木からはにょっきりなめこが生え、それどころか犬くらいの大きさをした直立二足歩行の存在へと変化した。
そいつらは幼女を担ぎ上げ、なめこ怪人本体は母親を抱えて駆け出す。
「なお食事は三食なめこ尽くしだ! はーっはっは!」
高笑いをだけ残しなめこ怪人はどこかへと去っていった。
「エクスブレインの未来予測が、灼滅者の宿敵であるダークネスの行動を察知しました」
五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)はそう穏やかに語り出す。
今回予測されたダークネスは、なめこ怪人。
このなめこ怪人、困った事に出会った人に無理矢理なめこを育てろと迫るのだという。
原木やら菌床の詰まったビンやらは自前で準備してる点だけは良心的かもしれないが、迷惑極まりない。
そして断った人間を無理矢理さらい、なめこを育てさせるのだと。
放置しておけば囚われた人々は奴隷の如くなめこを育てさせられる事になるだろう。
ダークネスにはバベルの鎖の力による予知がある。ただ徒に現地に向かうだけでは灼滅する事は出来ない。だが、エクスブレインが予測した未来に従えば、その予知をかいくぐりダークネスに迫る事が出来る。
「なめこ怪人は今回、とある路地裏、捨て猫を見つけた母子の前へと現れます」
路地裏の場所を姫子は示す。若干くねくね曲がりくねった道だが、戦闘に支障が出る程狭くはなさそうだ。
「母子がなめこ怪人に遭遇した所でみなさんは接触し、そして二人を逃しつつなめこを倒してください」
曲がりくねった道だけに上手い事角を曲がらせれば母子に攻撃が加えられる事は無いだろう。
なめこ怪人は原木を振り回し、近場の相手を殴ったり、なめこをぽいっとぶん投げる事により遠距離の相手へとダメージと共に毒を与える攻撃を繰り出してきたりする。
更には配下として犬サイズくらいの直立二足歩行するなめこがついているらしい。その数は2体。攻撃は頭突きしか出来ない上極めて弱い為あっさり倒す事が出来るだろう。
「ダークネスは強力で危険な敵です」
姫子はそう語る。
……なめこだとあんまりそうは思えないかも知れないが。
「ですが、ダークネスを灼滅する事こそ、灼滅者の宿命……厳しい戦いになるでしょうけれど、どうか宜しくお願いいたします」
そう告げ、彼女は灼滅者達へと優雅に頭を下げるのであった。
参加者 | |
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沢渡・春雪(高校生シャドウハンター・d00449) |
襟裳・岬(の這い寄る混沌・d00930) |
霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621) |
ガイスト・インビジビリティ(亡霊・d02915) |
梅干田・春秋(食卓の惑う師・d03762) |
椎名・茜(明日はきっと向こう側・d03875) |
朝丘・佳乃(来光を導く者・d05152) |
野神・友馬(高校生エクソシスト・d05641) |
●守れ、菌類の未来?
なーめこー、なーめこー、とちょっとアレゲな歌とともに襟裳・岬(の這い寄る混沌・d00930)が道をやってくる。
「キノコとタケノコは戦争する運命なんだって」
まあ、アレはなめこじゃないけど、ね! と朝丘・佳乃(来光を導く者・d05152)はちょっぴりデンジャラスな発言。
だが、それはそれとして、だ。
「現場へ急いで向かおう……遅くなると、女の子の心に何か深めの傷が残ることになりそうだし」
椎名・茜(明日はきっと向こう側・d03875)はなめこが居るであろう方向をじっと見据えている。
確かになめこは美味しい。茜だってそれは認める所だ。
栽培を通して広めたいという気持ちも、まあ、わからんでもない。
しかし、だ。無理強いはやはりいけない。
(「なめこよりしいたけ栽培したい人だっているだろうし……」)
確かにあまりなめこばかりプッシュされまくった日にはしいたけ農家の方や、しいたけラブな方には迷惑がかかってしまうだろう。干し椎茸がなくなった日には日本における大事な出汁の一つが大打撃をうけてしまう! 出汁が違えば料理の味だって変わってしまうのだ。
かくして灼滅者達は現場へと急ぐ。
女の子とか、しいたけとか、いろんなものの未来を守る為に!
●現れた菌類。
くねりまがる路地に入り込んだ野神・友馬(高校生エクソシスト・d05641)は素早く周囲に目を走らせた。恐らくこのあたりの道を利用すれば親子を逃すのは容易に出来るはず。
しっかり確認が出来た所で、道を進む。丁度そこではなめこ怪人が親子へと迫っている所だった。
「このなめこ栽培キットを使ってなめこを育てるんだ! 原木には接種もしてある。さあ!」
ぶっとい原木を手にずいずい迫るなめこ。見計らい、茜が素早く塀の上へと昇りすぅ、と大きく息を吸い込む。そして。
「ちょっと待った、じゃすたもーめんと!」
大きく声を張り上げた!
ぴしっと一瞬固まるなめこ怪人。
「な、なんだお前はっっ!」
「エリンギ、舞茸、ぶな、しめじ! 煮てよし焼いてよし、炊き込みご飯に混ぜてもよし! そして、つるんとしたなめこはお味噌汁に入れたりするととっても美味しい! だから……その原木はわたしが貰い受ける!!」
一瞬なめこ、固まった。どうやら思考が追いつかなかったらしい。
「なめこのおじさん、その素敵ななめこ、僕らも一つ貰ってもよいかな?」
「だから、俺はおじさんじゃー……ん?」
くるりと振り向くなめこ怪人。その先には梅干田・春秋(食卓の惑う師・d03762)の姿が。
「今、なんつった」
「なめこのおじさん、その素敵ななめこ、僕らも一つ貰ってもよいかな?」
「おじさんは余計だ。その後」
「素敵ななめこ、僕らも一つ貰ってもよいかな!」
2回も言い直させられた!
しかし優しい彼はきちんとなめこのソレにつきあった!
「そして、嬢ちゃん。あんたも何って言った」
「煮てよし焼いてよし、炊き込みご飯に混ぜてもよし! そして、つるんとしたなめこはお味噌汁に入れたりするととっても美味しい! だから……その原木はわたしが貰い受ける!!」
つるっと再現する茜。恐ろしい子である。
「いいだろういいだろう。この元気な原木か、それともお求めやすい菌床か! 今ならどちらを選んでもおまけにもう片方がついてくる!」
意味ねぇ。
そんな突っ込みを呑み込む灼滅者達。
「なめこ、美味。食感、味、素晴らしき。特になめこ汁、食し易く、身体に優しき也」
言葉少なにガイスト・インビジビリティ(亡霊・d02915)がこくりと頷く。
「おお、そこのおにーちゃんもなめこのすばらしさが分かるか!」
更にとばかりに霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621)もたたみかけるようになめこ怪人へと語りかける。
「なめこ……それは数あるぬるぬる系食物の一角…… !味噌汁になめこ入ってるのが俺は特に好きなんですよね~」
「なめこの味噌汁のすばらしさが分かるか! あのぬるぬる感。そして、あの歯触り……!」
目をきらきらと輝かせる怪人。なんか無駄に子供っぽい。
「うん。今日の夕飯はなめこ汁にしようかな」
ほんわりにこにこ沢渡・春雪(高校生シャドウハンター・d00449)も続ける。
(「今のうちに母親と子供が逃げてくれますように……」)
そんな彼の胸中は知らず、なめこ怪人は調子にのって語り続けている所だ。
「ビンに詰めた菌床ならば育てるのはとっても楽! お世話はこまめな霧吹きだけ!」
「く、そんな上手い説明されてしまっては思わず食卓のインテリアにしながら育ててしまう……!」
刑一もノリノリでつきあいつつ、気づけば手の上に菌床のつまったビンが乗せられている。
しかし。
「なめこ可愛いよなー。俺なめこストラップつけてるぜ。それにアプリでも育ててるし」
ほら、と春雪が指し示すと。
「ノォォォォォォッッ! なめこストラップってぇのはそういうもんじゃないッッ! そしてなめこを育てるというのはそういう事じゃぁないッッ!!」
なめこ怪人、頭(?)を抱えて悶絶した。
「そんな塩ビだかプラスチックだかで出来たようななめこは偽モノだッッ! 電子の世界で育てるなめこなどまやかしだッッ!!」
段ボールっぽい自分の外見は棚上げしてまさかのダメだしやってきた!
だからといって、乾燥させてかぴかぴになったなめこがついてるストラップなんてのもそれはそれでイヤだと思うが。
「えー、でも俺、なめこ好きだぞー」
「本当かッッッ! ならば許す!」
さらっと続けられた春雪の言葉に、なめこ怪人は素早く頷いた。
変わり身の早いなめこである。
ていうか、人様の好みに対して許すも許さないも無いと思うのだが。
良い感じになめこの意識が灼滅者たちへとそれたのを見計らい、佳乃が母子の背を押す。
「この子のこと、お願いね。あっちの角に避難してて」
段ボールに入ったままの子猫を箱ごと親子に渡し、ちょっと先の角を指さす。
あの先ならば、間違い無く敵の攻撃は飛んでこない。
二人と1匹が角へと消えたのを確かめたところで、漸くなめこは彼女らの姿が消えたことに気づいたらしい。
「あっ! さっきの母子にもなめこをっ!」
「なめこのおじさん、そう言えば、これなんてきのこ?」
「なめこに決まっているだろう」
春秋がすかさず原木を指す。足止めの為の一言にさらりと答えは返ってきたが。
「なめこってのは、煮たらぬめりが出るきのこの総称で、なめこってきのこは存在しないんだよ」
「そ、そんな馬鹿な! 我々モエギタケ科スギタケ属ナメコ種は一体……!?」
ものすごくショックな顔になった。どう見ても顔に縦線入ってる感じである。
「いや、だがしかし……俺はなめこを布教せねばならないッ! そこを退け!」
母子が消えた方へと駆け出そうとするなめこ。そこに。
「ちょっと待ったァー! なめこは貰うけどアナタはたおーすっ!」
ずい、と岬がなめこと母子の逃げ去った角の間に入り込んだ。
「な、なんだと……? お前達に預けたなめこは俺の子のようなものだというにッ……! 父である俺を間引くというのかッ!?」
「人に強制させるのは良くないな。ましてや、誘拐など以ての外だ」
友馬もずいっと入り込む。
「なめこって美味しいよね」
と春秋も続ける。
「僕は茸も大好きなんだけど、無理強いはよく……ええと、なめこを増やしてどうやって世界征服に繋がるかはわからないけれど、止めてみせる!」
灼滅者達の団結っぷりにさしものなめこも怒りでも覚えたのだろうか。
「む、む……むむむむむ……どうしても俺の世界なめこ化計画を阻止しようというのかッ!」
じり、と距離を置き、身構える。
「ならば、その愚かしさ、なめこにまみれて後悔するがいい」
抱えた原木からむくむくとなめこが育ち、それは犬サイズの直立二足歩行するなめこ配下へと変身する。
「そしてなめこを育てろ!」
……妙な所でブレないなめこ怪人であった。
●戦う菌類。
「くらえェ! なめこみさいるゥゥゥゥゥ!」
ぽいっと投げられた掌大なめこが岬に飛来。ぺちょっとべっとりくっついた。
「ぬるぬるべっとりキモチワルイー! しかも毒っぽいー!!」
くらりとよろめく彼女。
「気色悪いんだよ。ヌメヌメしやがってこの菌類が」
春雪の発言になめこがショックな顔をした!?
彼は中段に構えた日本刀をまっすぐに振り下ろす。斬撃はなめこを捕らえ深い傷を刻み込む。
「日本には70種以上のおいしいきのこがあるのになめこを悪者にしようとするなんて!」
春秋がマテリアルロッドをびしりと構える。
「喰らえ、春秋ヴォルテックス!」
ヒーローは斯くあるべき、と彼は懸命に演技をしつつ、ロッドから発生した竜巻がなめこを巻き込み段ボールっぽいその装甲を引き裂いた。
(「まずは配下から……!」)
茜はなめこ配下をまず狙う。
ご当地の力を宿したビームが放たれ、なめこ配下を焦がした。だが、あと一息。
目的としては速攻。若干ながら齟齬はあるものの、手応えからすれば概ねなんとかなりそうな雰囲気だ。
「悪しきなめこ、間引く」
ガイストの全身からどす黒い殺気が放出される。
無尽蔵に放出されたそれは敵達を呑み込み、研ぎ澄まされた殺意が敵を傷つける。
「うおおおお、なんだこれはッ!?」
わめくなめこ怪人を一瞥し、ガイストは淡々と指示を出す。
「ピリオド、今、狙い目」
彼のサーヴァント、ビハインドのピリオドが焦げかけたなめこ配下に霊撃を叩きこんだ。
「今こそ悪いなめこ撃滅のとき! うりゃー!」
刑一が喊声とともにガンナイフを向け、その引き金を引く。弾丸は逃れようとするなめこ配下に直撃。配下は消滅する。
威力こそあまり強くは無かったが、残り体力の少なかったなめこ配下を倒すには十分だった。
残った配下が頭突きをしようとじたばたする所を友馬が狙う。その背後に入り込むようにして、サイキックソードを振るった。
サイキックエナジーで出来た光の刃がなめこ配下の死角から襲う。
すぱぱっと切り裂かれつつもなめこ配下は倒れず耐えた。しかしそんな健気な? 配下の様子に、なめこ怪人が吼える。
「お……おのれ、俺のかわいい配下をぉぉぉぉ!」
「なめこの美味しさは分かるが、人を攫って育てさせてるようなやり方ではなめこの良さは伝わらない!」
友馬が叫ぶもなめこ怪人は耳を貸す様子は無い。
「ゆるさん……俺たちはただ繁殖し、栄えたいだけなのに……!」
それが世界征服につながっちゃうらしい迷惑行為なのが大問題な気がするのだが。
「頼むよ、相棒!」
佳乃が自由にやっていいから。暴れてやりなさいといと指示を出すと、応えるように、ライドキャリバーのオブシディアンが機銃を掃射。
同タイミングで彼女自身も銃撃を繰り出す。
一人と一体による弾丸の雨が敵の足元あたりを狙って降り注ぐ。敵達はそれを避けようと必死でじたばたと暴れるが、その様はまるで踊っているようにも見える。
そこに岬が紅の逆十字を放ち、なめこ配下2号を完膚無きまでに切り裂いた。
若干ながら灼滅者達の間で作戦の齟齬はあったが、思ったよりなめこ配下が弱かった事もあり、概ね作戦通りに進んでいる。あとはなめこ怪人を倒すのみだ。
原木をぶんまわされたり、なめこがぽーんと飛んできたりしつつも、灼滅者も着実にダメージを重ねていく。
毒を喰らった仲間には佳乃が治癒の力を宿した光を照射し、仲間の傷を癒す。
メディックとしての力を存分に発揮した事もあり、回復量は多い。毒自体の解除は望めないものの、それでも体力に余裕があるのは助かる限りだ。
灼滅者達の攻撃の前に、次第になめこ怪人は追い詰められていく。
「ええぃ、これでもくらえっ!」
なめこ怪人が半ば破れかぶれ気味になめこをぽんっとぶん投げた。
狙い先は後衛にいた刑一。しかし彼を庇うように間に春秋が割ってはいる。
べぢょり、とビミョーな音と共に彼の身体に凄まじい衝撃が走った。
「それでも……」
春秋は倒れそうな所を懸命に踏みとどまる。
「ヒーローは、弱音を吐かずに立ち上がるんだ……!」
「春秋ッ!」
刑一が身を案じつつも攻撃に転じる。
「なめこ……ぬるぬるしてるだけあって油断ができない……!」
まあ、うっかりするととぅるっと滑るしね!
「しかし俺は負けるわけにはいきません! なめこにトラウマを!」
ぶわり、と彼の影が広がり、なめこ怪人を呑み込む。それでもまだまだ敵は粘着質に耐えた。なめこだけに。
「うう……まだだ……まだ俺は終わらないぞ……」
大分弱ってよろよろ立ち上がる怪人に向けて。
「菌類、動くは不自然、止める」
ガイストが手にしたロケットハンマーを全力で振りかぶる。
「……大震撃」
ドゴン、と地へと叩きつけたハンマーから、凄まじい衝撃が奔る。
「う、お。わ、ぁぁぁあ!?」
よろめくなめこに春雪が接敵する。
「消えろ。目障りだ」
鞘に収めたままの日本刀を一瞬にして抜刀。刃が弧を描きなめこを切り捨てる。
「う、そ、そんな……馬鹿な……! だがしかしなめこは滅びぬ……何度でも……」
末期の台詞も言い切らぬうちに、なめこ怪人は大爆発をしたのであった。
●そして食卓へ……?
「ふっ……空しい戦いだったわ……」
なめこを喰らいまくった岬はちょっと遠くを見やる。
「さて、全て終わったし、なめこ供養でスーパーに寄ってくかな」
今夜のご飯はなめこ汁とばかりに佳乃はオブシディアンへと颯爽とまたがった。
「なめこかってかーえろっと」
春雪も何時も通りふんわりほわほわ。
しかし、ちょっといい事思いついた。
「あ。そうだ。原木持って帰ったらなめこ栽培できねぇかな?」
「さっき殴りあった相手ってのは、ちと気味が悪いけど……きのこに罪は無い」
茜も早速原木かかえてずるずると。
「なめこの未来は任せて、残念無く成仏してね♪」
なんか残念というと意味合いが違うようにとれない事もない。何せ怪人自体が大変残念ななめこだったのだから。
「……でもこの原木、育てたらなめこ手下になったりしないわよね?」
岬がぽつんと言った瞬間、原木や菌床手にした一同がぴしりと固まった。
そんな事は無い、はず!
「実は結構興味があったんだ」
にこにこ笑顔で菌床の詰まったビンを抱えているのは友馬。
「心配無用、怪人滅ぶも、なめこ滅びず。常、心と食卓に、なめこ」
ガイストもうんうん、と頷いているし。
彼の言うとおり、怪人が滅びてもなめこは育てて美味しく頂けば良い。
そんなわけで、持ち帰られた原木その他が灼滅者達の食卓を彩る日も近い……かも知れない。
作者:高橋一希 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年9月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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