優しい慈眼衆vsヒーローっぽい怪人

    作者:相原あきと

     そこは琵琶湖周辺の長閑な小さな町だった。
     大手観光の街とは違い、それら街と街を繋ぐ街道沿いの小さな町、そんな所だ。
     だが、そんな長閑な町にもダークネスの魔の手は伸びる。
     ガシャーンッ!
     小さなお土産屋のショーケースが倒されガラスが散乱する。
     音に驚き店主のお婆ちゃんがやって来てみれば、大男が店の棚やショーケースを破壊している。それは異様な着物を着て、口元にマスク(?)、そして頭に黒曜石の角を生やした巨漢だった。
     あまりの事に腰を抜かしたお婆ちゃん。
     その巨漢はお婆ちゃんに気が付くと、ノッシノッシと近寄り……。
    「あら、まぁ」
     優しく背に背負うと、お土産屋と道を挟んだ対面の家の側へと降ろす。
     巨漢はお婆ちゃんが怪我をしていないかと確認すると、コクリと頷き再びお土産屋を破壊しようと道を渡り――。
     その時だ。
    「待てぇい! それ以上の狼藉は許さん!」
     声に巨漢が仰ぎみれば、土産屋の屋根の上に1人の姿。
     屋根の上でシャキーンとポーズを取っている男は、ただ一つ、顔の部分が三角……いやペナントになっていた。
    「俺は琵琶湖ペナント怪人! ここでの悪行、見逃すわけにはいかない!」
     巨漢の羅刹がボソリと呟く。
    「ヒーロー……か」
    「違う! 怪人だ!」
     トウッと屋根から着地したペナント怪人。
     そしてダークネス同士、五分と五分の戦いが始まる……。

    「みんな、天海大僧正と安土城怪人が戦いの準備を進めているって話は聞いた?」
     教室の集まった皆を見回してエクスブレインの鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が言う。
     それは滋賀県大津市にある西教寺を調査した結果解った事だ。
     近江坂本に本拠を構える刺青羅刹の天海大僧正、近江八幡に本拠を持つ安土城怪人。
     この両者はかねてより敵同士らしく、近々両者は大戦を行なおうとお互い準備を進めているらしい。
    「実はその情報を裏付けるように、琵琶湖周辺で慈眼衆と琵琶湖ペナント怪人が戦う事件が発生しているの……」
     珠希が説明するには、安土城怪人は琵琶湖ペナント怪人を大量生産しており、その力で合戦に勝利しようとしているらしい。
     だが、それを許さぬ天海大僧正側は、琵琶湖のご当地パワーが減るよう琵琶湖周辺で慈眼衆に破壊工作を指示していると言う。
    「一つ特殊なのは、破壊工作をする慈眼衆は一般人に怪我人が出ないよう配慮しているようなの……これは武蔵坂学園と共闘したいって意図みたい」
     つまり、琵琶湖ペナント怪人達を強化させないため破壊工作は行なうが、武蔵坂とも手を組みたいので人間には手を出さないように気を使っている、という事か……。
    「この事件は、みなの出方によっては琵琶湖で行なおうとしている両者の合戦の流れを決めることになるかもしれない……。でも、現時点ではどの選択肢が正しいのか私にも解らないの。だから、どうするかは現場に行くみなに任せるわ」
     そこまで言うと、珠希は一度言葉を切り琵琶湖ペナント怪人と慈眼衆の戦闘方法について説明する。
     琵琶湖ペナント怪人はご当地ヒーローと無敵斬艦刀に似たサイキックを使い。
     慈眼衆は神薙使いと断罪輪に似たサイキックを使うらしい。
     双方とも防御より攻撃力特化な戦い方をしてくると言う。
     琵琶湖ペナント怪人と慈眼衆の戦闘力は互角であり、そのまま放置すればどっちが勝利するか解らない。
     つまり灼滅者の介入次第で戦いの結末は変わると言う事だ。
    「あ、でも、両方ダークネスだし、どっちも灼滅しちゃうのも有りよ? 別に悪い事じゃないわ」
     正々堂々、ガチンコで三つ巴戦も否定はしない。
     もちろん、どちらかに肩入れするのも現場の判断に任せられている。その結果、その陣営のダークネスとの関係がプラスに働く事もあるだろう。
     珠希は最後に。
    「みなの選択がきっと後々の戦いに影響を及ぼすと思う……それでも、ダークネスを少しでも灼滅するチャンス、逃すわけにはいかないわ」


    参加者
    鹿嵐・忍尽(現の闇霞・d01338)
    永倉・ユウキ(オールドディープ・d01383)
    文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)
    志那都・達人(菊理の風・d10457)
    神園・和真(カゲホウシ・d11174)
    エルシャ・プルート(スケッチブックと百面相・d11544)
    朱屋・雄斗(黒犬・d17629)
    水無瀬・冴絢(インディゴライトの徒花・d26418)

    ■リプレイ


     信用できる相手なのか見極めたい……。
     琵琶湖周辺のとある町に到着後、現場となる土産物屋に向かいつつ心の中で呟くは永倉・ユウキ(オールドディープ・d01383)だ。
     もっとも、今回依頼を受けた8人には多かれ少なかれ同じような気持ちがある。
     向かっている現場で相対するは琵琶湖ペナント怪人と慈眼衆、双方ともダークネスだ。
    「何かキナ臭い感じっすよねー。ま、今回は慈眼衆に味方って程度で、今後どうなるかは学園の皆次第ってことで」
    「ん。」
     ユウキの心を読んだかのようなタイミングで水無瀬・冴絢(インディゴライトの徒花・d26418)が呟き、思わずユウキが同意する。
     そう、今回8人が選んだのは慈眼衆に肩入れする道だった。もちろん相手はダークネスである、すぐに武蔵坂学園の8人を信用してくれるかどうか……。
    『エルたちは無事、慈眼衆さんとの交渉を成功させることが出来るのでしょうか』
     と、こちら(?)にフリップを提示するのはエルシャ・プルート(スケッチブックと百面相・d11544)だった……。

     琵琶湖ペナント怪人が空中から斜め下に向かってキックを放つ。
     一方、慈眼衆は回避しようとするが、背後のお婆さんに気がつくと両足を踏ん張り盾になるよう車輪状の武器を構え――。
     バジッ!
     衝撃と共に怪人が宙返りしつつ距離を取る。
     そして慈眼衆の前には、怪人を迎撃した忍装束の男と一匹の秋田犬。
    「故あって助太刀致すでござる!」
    「……どういう、ことだ」
     忍――鹿嵐・忍尽(現の闇霞・d01338)の言葉に助けられた慈眼衆が低い声で問う。
     それに答えたのは慈眼衆の横に並んだ朱屋・雄斗(黒犬・d17629)だった。
    「老人を庇おうとはいい心掛けだ。物を破壊したのは見過ごせんが、命に代わるものなど無い……この場は、力を貸すぜ」
     そう良いながらも雄斗は慈眼衆の方を見ない。判断としては納得しているが、そうそうダークネスを信用はできない。警戒だけは常にしておいて損は無いだろう。
    「彼等……安土城怪人たちと敵対することになるぞ?」
     灼滅者を心配しているのか問うてくる慈眼衆。
    「気にするな。これも縁ってやつだ」
    「それに、前に仲間を無事に返してくれた借りもある」
     神園・和真(カゲホウシ・d11174)が眠そうにしつつも笑顔で返し、文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)が怪人に視線を向けたまま面倒臭そうに賛同する。
    「そうか……お前たち、武蔵坂の灼滅者たちか」
     慈眼衆の言葉を、志那都・達人(菊理の風・d10457)が。
    「その通り、仲間を助けてくれた恩は返さないとね」
     肯定し、飄々と微笑む。
    「……感謝する」
     素直に礼を言う慈眼衆。
    「では共に戦うでござる。ただ、此方も市井の人々を巻き込みたくは無い故、人払いを施させて頂くでござるよ」
    「構わん」
     短く返す慈眼衆に忍尽がコクリと頷き殺界形成を発動させ、ユウキもサウンドシャッターを展開する。
     と、そこで。
    「どうやら琵琶湖を荒らす狼藉者は1人ではなかったようだ! いいだろう、この琵琶湖ペナント怪人がまとめて成敗してくれる!」
     会話が終わるのを待っていた怪人がビシッとポーズを付け、戦闘の開始を宣言したのだった。


     疾走するライドキャリバー空我から飛び出し、達人の流星のごとき蹴りが怪人へと迫る。
     それをクロスさせた両腕で防ぐ怪人。
     しかし、空我の加速も利用した跳び蹴りの威力は想像以上で、その勢いを殺し切れずに大地にくるぶしまでめり込んだ。
     達人が怪人の両手を蹴り空中へ、着地場所に回り込んだ空我にそのまま乗り込む。
    「今のを防ぐとは、ね」
    「この世界を制す俺達に、勝てると思うな!」
     足を地面から引っ張りだしつつ達人に言い返す怪人。
    「お前達は一体この世界をどうするつもりだ! もっとも、下っ端は知らされていないかな?」
     挑発的に言う達人だが、怪人は指を突きつけ。
    「琵琶湖を愛すのなら教えてやろう」
     微笑む達人。
     だが、怪人の言葉に強く反応したのは忍尽。
     もっとも、一歩前に出ただけでその顔は無表情だったが。
    「……汝らへ思う処は大きいでござるが、今は己が役目を果たせて頂く」
     故郷という言葉を振り切るよう印を組みつつ「土筆袴、エルシャ殿をお守りせよ!」と霊犬に指示を飛ばす。
    『ありがとう』『安心して攻撃するね』
     と書かれたスケッチブックをめくりつつ、エルシャが炎をまとったふわふわのグローブを振りかぶって怪人へと走り込み、同時に連携した雄斗が挟み込むよう雷をまとった拳を振りかぶりつつ怪人へと迫る。
     エルシャのレーヴァテインに右手を、雄斗の抗雷撃に左手を差しだし、ダメージを受けつつ耐える怪人。
    「ハッ!」
     気合い一閃、強引に左右の手で2人をまとめて吹き飛ばす。
     なんとか空中で体勢を直して着地するエルシャと雄斗だが、2人が構え直した時には怪人は地を蹴っていた。
     向かうは……巨漢の慈眼衆。
     だが、巨漢の前に立ち塞がる影。
     ガガッ!
    「邪魔をするな!」
     叫ぶ怪人。
    「それはできない相談だろ?」
     慈眼衆を庇った和真が言い、同じく守るようビハインドのカゲホウシも佇む。
    「……すまん」
     短く感謝の意を伝えつつ、慈眼衆が右手を突き出す。
     即座にそれを中心に轟々と風が渦巻き初め、それを見た咲哉がそれとなく並んで立ち、十六夜を引き抜き片手は刃に添えて平行に構える。
     気がついた慈眼衆がチラリと確認すると同時に、右手を突き出し鎌鼬を放つ。
     同じく、咲哉の平行に持つ刃が夜闇を切り裂く月光のように輝き、瞬後、夜より深い殺気の黒が怪人を包む。
     即席の連携が決まり慈眼衆が目だけで咲哉にうなずいた。
     殺気と刃風の結界から何とか出てきた怪人を、今度はユウキのチェーンソー剣が襲う。
     咄嗟に真剣白刃取りを行う怪人だが、そうして両手が塞がったところを今度は冴絢のコールドファイアが命中。
    「へへ、バッキバキに凍らせてやるっすよ!」
     冴絢の言う通り凍り付いていく怪人。
    「こんな程度で!」
     叫ぶと同時に凍りを割り、息を切らせながら怪人が復活。
     戦いは始まったばかり……。


     戦いは数にて有為な慈眼衆と灼滅者に優勢だった。
     とはいえ怪人の攻撃は個人を狙うものばかりで、その1撃は重い。
     エルシャが祭霊光で傷ついた雄斗を癒しつつ、片手でスケッチブックをめくってユウキに指示を出す。
     それを見たユウキが己がオーラを癒しの力に変え、「今から癒すよ」と、そばで戦う慈眼衆に分け与えた。
     しかし、そのオーラは巨漢の男を癒さず霧散する。
     ヒールを拒否されたのだ。
    「いいの?」
    「そこまで……深い仲では、無い」
     無愛想に答える慈眼衆、だが小声で「気持ちだけ受け取っておく」と言われたのをユウキは聞き逃さなかった。
    「くらえ!」
     怪人の声に慈眼衆とユウキが飛び退き、空いた大地に怪人の手刀が振り下ろされ、まるで戦艦でも切り裂くように大地を穿つ。
     空振りに終わったその瞬間、ダダダダダダッとライドキャリバーが一斉掃射を放ち、怪人は咄嗟に顔をガードする。
     腕の隙間から射撃をしてくる方を盗み見た怪人だが、そこに移ったのは十字架、淡緑色の光だった。
     ズシャッ!
     相棒との連携で達人のサイキックソードがジャストヒットする。
    「くっ、お、のれ……琵琶湖の、琵琶湖の平和は俺が守る!」
     怪人が絶叫し、そして――。
     戦いは終幕へと向かっていた。
     すでに満身創痍なのは琵琶湖ペナント怪人、敗因は慈眼衆に灼滅者8人が味方したからだろう。こうなっては逆転の目すら無い。
     荒く息を吐く怪人、そこに声をかけたのは和真だった。
    「いくらなんでも多勢に無勢、ここで倒れることが本望じゃないはず。再起を図ることは、決して恥ずべきことじゃないよ」
    「ふざけるな! お前達のような奴に、見せる背中は持っていない!」
     憤慨する怪人。
     だが和真は愛用のマフラーをひるがえし。
    「退いたらどうだ? このまま本気で勝てるなんて思ってないだろ?」
    「そ、れは……」
     ガックリとうな垂れる怪人……と思いきや、そのまま地を滑るように慈眼衆へと駆け。
     ダンッ!
    「ぐはっ」
     響く銃声、怪人が苦痛の声を漏らす。
    「おぉっとー、変な動きしちゃあ駄目っすよ」
     太股を撃たれて慈眼衆の目前で膝を付く怪人に、銃を撃った構えのまま青眼鏡に左手をかけて冴絢が言う。
    「く、くそっ」
     怪人が悔しがる……その前に立つは忍びが1人。
     慌てて後ろへ強引に飛び退く怪人だが、直後に背中へ鋭い痛みが走る。
     わずかに顔を捩れば、背後から六文銭を撃った霊犬がいた。
     再び視線を前へと向けた時、そこには印を組み終わった忍尽の姿。
     忍尽の放ったリングスラッシャーが胴を薙ぐ。
     目がかすむ中、忍が霊犬にアイコンタクトをしているのが僅かに見え。
    「俺は……琵琶湖を……」
     最後の力で何とか立ちつくす怪人が呟く。
     それを真正面から見詰めるは褐色の肌を持つ精悍な男。
     ――例え誰であれ他者を傷つけることは良しとしない。
     その感情を隠すように眼光鋭く怪人を見つめ。
    「すまん」
     短い言葉と共に、雄斗の掌から放たれたオーラに琵琶湖ペナント怪人は貫かれ、ドウと仰向けに倒れる。
     ピタリ。
     倒れた怪人の首元に日本刀が付きつけられる。
    「聞かせろ。ペナント量産して戦争までして何企んでやがる。残留思念集めてスキュラの復活でも狙うのか?」
     日本刀をギリギリまで首に迫らせ咲哉が聞く。
    「琵琶湖を……愛さぬ者達に……伝える言葉は……ない」
    「最後まで信念を貫くか」
     刀を鞘にしまい離れる咲哉。
     しかし、数歩離れたその時、怪人は事切れ爆発したのだった。


    「なんで天海さんは安土城怪人と戦いたがってんすかね?」
     戦闘後、老人の安否を確かめていた巨漢の慈眼衆にそう声をかけたのは冴絢だった。
    「……気になるか?」
    「気になるっすね。それとも何か都合悪いことでも?」
     思ったままダダ漏れる冴絢の言葉に、慈眼衆は「正直だな」と呟き。
    「決着を付けるべき宿敵、だ」
     それ以上語らない慈眼衆に、今度は忍尽と咲哉が聞く。
    「では、此度始まろうとしている大戦、何かきっかけがあったのでござろうか?」
    「正直状況理解が追いついて無くてな、できれば教えて貰いたい」
     2人の態度と言葉に何かを言いかける慈眼衆だが、すぐに口を閉ざすと。
    「……それを話すにはまだ汝らを信用しきれてはいない。だが、我から天海様へは伝えておこう」
    「そうでござるか」
    「……ああ、頼む」
     忍尽と咲哉が無理に欲張らずに礼を言えば「ん。ユウキも質問したい」と手をあげるユウキ。
    「どうしてそんなに安土城怪人との対戦を急ぐ必要があるんだ? もし学園が協力することになったら、それを知ってた方がやりやすいと思うんだ」
     巨漢の慈眼衆はユウキの目を真っ直ぐに見詰めると。
    「本当に協力してくれると言うのなら……話す事もあろう。だが、まだお前達だけだ、信用するには……な」
    「なら、安土城怪人を倒したら、そのあと何を目指すんだ?」
    「……救い」
     短く答える慈眼衆。
    「わかった。今は無理でも、いつか教えてくれたら嬉しい、ぞ」
    「……ああ」
     ユウキの言葉に、わずかに慈眼衆が笑った気がした。
     その後、安土城怪人を放置したらどうなるかや刺青についての話をしてみたが、巨漢の慈眼衆が言うには「奴らを放置はしない」「知らないし、知っていたとしても今の関係では教えぬだろう」との事で空振りだった。
    「……さて、話は終わりか?」
     あらかた聞きたい事を聞いた灼滅者たちは、最後に1つ約束して欲しいと言い、代表してエルシャがスケッチブックにペンを走らせる。
     それをジッと待つ巨漢。
    『慈眼衆さん達の破壊活動って、怪我させなくても、一般の人達にすごく迷惑がかかることなの。やめてもらうことって出来ないかな?』
    「……否、奴らにご当地パワーを与えるわけにはいかぬ」
     拒絶する慈眼衆に今度は雄斗が。
    「なあ、あんたは一般人の命を助けてくれた。だから話が分かる奴だと思って話すぜ。俺は誰かが傷つくのは好まない。それは心身共に、だ。だから今後もこういう破壊は止めてくれないか? そうすれば学園の皆も話を聞いてくれると思うぜ」
    「……それは、こちらも同じ事。汝らが味方となるならば……いや、これは我の希望か」
     スッと目を閉じ瞑想する慈眼衆に、ふわりと言葉繋げるは達人。
    「なら、今この場での破壊活動は切り上げてもらえないか? 怪人を灼滅し、戦力を削たって意味では目的を果たせたと思うし……どうかな?」
     パチリと目を開け一瞬躊躇する慈眼衆。
     だが。
    「……ああ、構わん」
     ありがとう、と微笑む達人。
     そして巨漢の慈眼衆は自主的に破壊した土産物屋を片付けだし、灼滅者もそれにならう様にできるだけ元通りに土産物屋をしていく。
     ツンツン、と慈眼衆の背がつつかれ振り返れば、スケッチブックを掲げるエルシャ。
    『例えば、学園が味方に付いたら、破壊工作はしなくてよくなるの……?』
    「……汝らの組織が完全に味方となるのなら、その可能性は、ある」
     可能性、それが今の所の距離感なのだろう。コクリと頷くエルシャ。
     片付けつつ、そんな様子を見て心の中が少し悲しくなるのはユウキ。
     その視線に気が付いた慈眼衆がやってくる。
    「……なんだ」
     言うか迷うが、意を決してユウキが口を開く。
    「お願いだ。もしも学園の協力が不要になっても、学園と道を違えることになっても、一般人には優しくしてくれないか?」
    「………………」
     返事は無い。怒って殴られるかと思ったが、それも無い。
     ただ、無言で巨漢の慈眼衆はユウキの頭にポンと手を乗せる。
     それは何も解っていない子供を親が慈しむように……。

     やがて、片付けも終わり別れの時が来る。
    「今回の件を含めて、学園は決して一枚岩で行動しているわけじゃない。これを学園の総意とは受け取らないで欲しい」
     きっぱりと言い放つは和真。
    『学園には何万人もの灼滅者がいるから。ここで約束することは出来ないけど……慈眼衆さんたちが信頼出来るってって分かれば、少しずつ協力する人も増えると思う。だから、天海さんにも……』
     エルシャがペンを走らせたものに目を通し、慈眼衆は頷き。
    「……進言はする。だが、お前達も武蔵坂の仲間を説得してくれ」


     慈眼衆と別れ、帰ろうと灼滅者たちも歩きだす。
    「……この選択、如何成るでござろうな」
     忍尽が呟き。
    「人の中で生きることを好む、って天海僧正の言葉。俺個人としては信じたいけどね」
     達人が返す。
    「俺は慈眼衆、天海を信用したわけじゃない……それでも、共に道を歩める可能性があるんだったら……」
     和真がどこか遠くを見つめつつ。
     そして、どこか気分が良いのか少しだけ流暢に咲哉が。
    「裏にどんな野望が潜んでいるのか、腹の探り合いだな……」

     いつか起こるであろう琵琶湖決戦……勝つのは、果たして――。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 11
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