恋の行方を占っちゃうゾ

    作者:八雲秋

    ●君は運命の
    「本当にミコトの占いってよく当たるよね、わたしがケータイどこに落としてたのか見つけてくれたし」
    「こないだなんか迷子の猫が裏山の木の上にいるって当ててたよね」
    「私なんか好きな人と……」
     放課後、黒髪が美しいストレートロング少女の周りに皆が集まって、彼女の占いの精度の高さを口々にほめそやしている。
     彼女は皆の賞賛に微笑んで返し、
    「うん、でもね、ここまで当たるようになったのって、サスケ君とであってからだから。それでサスケ君と私の事を占ったら、私とサスケ君は運命の二人、永久に結ばれるってでたのよね」
     その名前に教室にいた皆が、教室の隅にぼんやり座っていた男子に視線を向ける。彼は困ったように笑って頭を掻く。
    「は、はは、僕はただの何のとりえもない中学生なんだけどね」
    「そんな風に言わないの。それに私に大きな災いが降りかかった時にあなたの力が目覚めるとも出ていたわ」
     ミコトは彼のもとに歩み寄ると、当たり前のように彼の膝の上に横向けに座り、彼の首に自分の腕をからめながら、耳元で囁く。
    「私はいずれ呪いによって異形化するかもしれない。それを恐れ、殺そうとする人もいるかもしれない」
    「そんなひどい!」
    「でもね、その時にあなたは私を守るために、その内なる力を解放させるの。だから、お願い。これからもずっと、傍にいて私を守って」
    「う、うん!」
    ●依頼
    「自分の特別を信じたいお年頃、そこへ彼女の奇跡的な占い能力による予言、彼はすっかり彼女の設定に乗っかってしまったって訳だな」
     エクスブレインが説明を続ける。
     ミコトと言う女は実は淫魔で狩野・サスケは地味なただの中学2年生だ、今の所、だがな。ミコトは自分のボディガードを得ようとダークネスの素養のある一般人を手なずけて自分の配下に置く計画に打って出た。
     実際サスケは闇堕ち寸前、そして彼女の事を信じきっている。ミコトの方も最後の仕上げとばかり始終離れないでいる。けれど絶対彼の闇堕ちを防げないと言う訳でもない、非常に危うい所ではあるけどね。

    「さて、解決方法として考えられるのは」
     二人が一緒の所で戦闘するか二人を引き離して戦闘するか。
     どちらにせよサスケが闇堕ちする危険性が常にある。
     そうならないように慎重なフォローや説得に心を砕くか、いっそ彼の闇堕ち覚悟で計画を練るか……勿論、俺の思い付きが正解って訳じゃない、作戦自体は君らに完全に任せるよ。
    「と、任せるって言う割にはまだ出してない情報があったな」
     戦闘場所は校内になる。今はテスト準備期間とか言う奴でミコトとサスケがこっそり学校に残ってる他は誰もいない。二人は教室にいるけど、もし誘い出せるようなら場所は学校内ならどこでも大丈夫だろう。
     ミコトは淫魔としの力と、護符揃えと同等の力を持つタロットカードを持っているが攻撃力も体力も低い。
     サスケは闇堕ちすればバトルオーラを身に纏った羅刹となる。羅刹の彼はミコトと違ってかなりの力を持つ。君たちが勝てないとまでは言わないが全員でかからなければいけないぐらいの苦戦を強いられるだろうな。
     ミコトがいればサスケは彼女を守ろうと動くだろうし、彼女が倒されていれば、君たちに向かって全力で攻撃を仕掛けてくることだろう。
     
    「簡単な依頼じゃないかもしれないけど、君らならやってくれるって信じてるからな」
     エクスブレインはそう言ってこの場をしめた。


    参加者
    喜屋武・波琉那(淫魔の踊り子・d01788)
    ヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839)
    清水・式(猫娘の夫・d13169)
    水城・恭太朗(転がる補助輪・d13442)
    渋谷・チカ(ギャル・d15375)
    狩生・光臣(天樂ヴァリゼ・d17309)
    浅木・蓮(決意の刃・d18269)
    フーゴ・クラフト(ヴィントシュトゥース・d24450)

    ■リプレイ

    ●潜入
    「テスト期間で人がいなくて良かったね。……あぁ、こっちはもうテスト帰って来るんだなぁ」
     浅木・蓮(決意の刃・d18269)潜入した中学の屋上から下界を見下ろし、呟いた。それから設置されていた台の上に携帯を置く。
    「ボイスレコーダーは教室に持って行って……ここの準備は大丈夫。後は頼んだよ」
    「了解!」
     喜屋武・波琉那(淫魔の踊り子・d01788)は彼の言葉に笑顔で親指を立てながら返事した。

    ●分断
     水城・恭太朗(転がる補助輪・d13442)は教室に二人がいるのを確認し、ドアを開け、顔を覗かせて言う。
    「サスケ君て君だよね? 俺の友達がさ、話があるから呼び出して欲しいって言われて」
    「私たち、今忙しいんだけど」
     ミコトがにべもなく返すとサスケも頷く。
    「駄目? 拒否するならせめて話を聞いてからにしてやってよ。女の子から呼び出された男子は……まぁ、男気を試されるモンだろ」
     恭太朗はサスケに近寄ると肩を抱き、彼の耳元で小声で告げる。
    「多分告白だから、せめて顔くらいは合わせてやれよ、な?」
     そのまま強引目にサスケを立たせるとミコトに言う。
    「悪いね、借りてくよ」
     廊下を歩いていくと渋谷・チカ(ギャル・d15375)が待っていた。サスケが尋ねる。
    「えっと君?」
    「違うよ、その子は屋上で待ってるから」 
    「やっぱり僕戻る。断っておいて」
     踵を返そうとするサスケをチカはまぁまぁといなす。
    「この前ミコトもさぁ、話も聞かない人なんてヤダよねーって言ってたよ。話ぐらい聞いたっていいんじゃない?」
    「そう、なの?」
    「そうそう、ま、とりあえず屋上まで付き合ってよ」
     屋上では波琉那がいた。彼女は、
    「私、その……あなたの事……うーん、緊張してうまく言えないから私が落ち着くまで一寸そこで待っててくれるかな」
     と言い扉を閉め、屋上を後にする。
    「え、何? ちょ、ちょっと……」
    『あなたたち、誰?』
     彼が呼び止めようとした瞬間、背後から声が聞こえた。
    「え?」
     それは屋上の台に置かれた携帯からのミコトの声。
     彼は扉に向かいかけた足を止めた。

    ●対峙
     サスケが連れ出されたタイミングを見計らい蓮たちが教室に入る。蓮は眼鏡を外すとミコトをまっすぐ見据え、問う。
    「狩野サスケだっけ。君は彼のことどう思ってるの?」
     彼女のの本性を引き出すために。
    「良く、好きでもない人に愛想が振りまけますよね」
     清水・式(猫娘の夫・d13169)が皮肉気に言葉を重ねるとミコトは首を傾げ無邪気に答える。
    「私、サスケ君の事好きよ」
    「得られる力が好き、ではないのですか」
     ヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839)が即座に切り返す。
     彼女が怪訝そうに眉を顰めた。
    「……サスケ君が話したの?」
     教室に戻ってきた恭太朗とチカの二人がにやりと笑い挑発するように次々と言う。
    「そのサスケ君だけど、残念だったなー呼び出し先に居るのは可愛くてスタイル抜群のイッケイケ美女だし、彼、コロっと落ちちゃうかもね」
    「アンタさぁ、彼のこと超便利に使ってたんでしょ? チカの周りにもそういう子居たりするけどさぁ、他の素敵な子見つけたら絶対そっち行っちゃうって言ってたよ。男の子もそこまでバカじゃないもんねー」
     ミコトは疎ましげに髪を掻き上げ、
    「何、あなたたち私とサスケ君を引き離したいの? 彼はそんなのに騙されたりなんか……」
    「ミコトちゃんを守るために力が覚醒したとしてもサスケ君は危険になるよね……彼氏を捨て駒みたいにしても平気なの?」
     波琉那はその問いを投げかけて、ミコトの挙動をじっと見る。他の灼滅者らも同様に観察するが、
    「捨て駒なんてつもりないもの」
     そうきっぱり言いきる彼女に嘘は見られない。
    「君にとって、彼はどういう存在なのかな?」
    「捨て駒でなければ手駒かな。時間かけて騙してきた手駒は大事って事かな? 他にも色かけてた奴何人も居るんでしょ?」
     そう言う蓮と恭太朗をミコトは睨みつける。
    「私の運命の人を手駒だの捨て駒だの失礼な話じゃない。他に好きな人ね……今は彼が一番だから」
    「卑劣な遣り口だな、其処まで手駒が欲しいか。今までその手口で何人籠絡してきた? ダークネス」
     狩生・光臣(天樂ヴァリゼ・d17309)の率直な言葉にぴくりとミコトが肩を震わせた。
    「彼はこのままでは闇堕ちしてしまいますよ。闇堕ちして彼の身に何かあったらどうするのですか? 彼は替えのきく使い捨ての駒だから別の手駒を探せばどうでもいい……と?」
    「そうか、私の事がばれてたのか」
     彼女は口の端に笑みを作ってヴァンに言ってのける。
    「何かあったらなんて思っちゃいないわ。だって彼は強くなるもの、あなたたちに負けないぐらい」
     光臣がミコトにではなくむしろ携帯の向こうにいるだろうサスケに向かって言う。
    「サスケ君、ミコトはダークネス、僕等の……人類の敵だ」
     辛そうに告げる光臣をミコトは薄く笑み浮かべながら、見遣る。彼女の目は怪しく光り、頭からは山羊のように捻じれた角が生え、背からは黒い翼が生え、異形の、本来の淫魔の姿を取り戻していく。
    「そうね、あなたたちは私の敵、私は人類にとって呪わしい存在……だからっておとなしく灼熱される気なんてないけどね!」
    (「女性に手を挙げるのは好きではないのですが」)
     そう思いながらもヴァンは眼鏡を外す。彼にとっての戦闘モードに入る儀式。 
     他の灼滅者らも一斉にスレイヤーカードを構えた。

    ●戦闘
    (「口では『ただの取り得の無い』と言ってる割にはサスケ乗り気なようだな、まあ相手が淫魔じゃ仕方ないか」)
     フーゴ・クラフト(ヴィントシュトゥース・d24450)は解除を唱えながら目の前の敵を睨む。いずれにせよ今できる事はこれ以上の現況の悪化を防ぐ事。
    「僕達で皆を守るぞ、スピネルは前を頼む。痛っ!」
     光臣が出現したナノナノに指令を飛ばすと、わかってるよと言うようにぴしりと彼を一叩きして前に出る。
    「スピネル、今は鞭での激励は良いから!?」
     彼はナノナノに向かってそう声をかけた。
    「サスケ君を闇堕ちさせる訳にはいきませんしね、頑張りましょうか」
    (「逆ハー……ちょっとロマンだけどさぁ、やっぱそういうのはゲームやドラマの世界みたいで現実感ないよねー、チカならチカだけの王子をGETしたいし! でも」)
    「ねー、男子はやっぱハーレムとか夢見ちゃったりすんの?」
     チカがフーゴに尋ねてみると彼は、さぁなと肩を竦めた。
     蓮が前衛に立ち日本刀を彼女にめがけ振り上げる。 
    「まずはそのカード!」
    「つっ!」
     蓮の雲耀剣が決まる。日本刀による重い斬撃を受け、ミコトの手から数枚のカードが零れ落ちる。
    「まいったな、どこか逃げられる箇所……無いか」 
     ミコトは周囲を見回すが彼女を灼滅するための陣が敷かれてる事を改めて確認し、
    「油断したな」
     悔しそうにぼやき防御の壁をタロットで作る。
     式がその図柄を見て呟いた。
    「恋人のカード。でも逆位置、か『誤った選択での苦しみと恋愛関係の破綻』」
    「そもそも何であんな普通の奴を? 元から頑丈な奴とかのほうが篭絡した後も使えるんじゃねーの?」
     恭太朗の疑問にミコトはフンと鼻を鳴らし、
    「私はそんな目先で動くような女じゃないの、サスケの持ってる力は相当なものだと思ったから……ちょっと間に合わなかったみたいだけどさ」
     ならばとヴァンは自分の胸に手を当て小首を傾げるとミコトに言う。
    「今から代わりの駒をお探しでしたら私では如何でしょう? ……冗談ですけどね」
     彼らのやり取りにチカが声を上げる。 
    「と、チカの仲間を誘惑したりしないでよね。イケメンばっかだけどさぁ!」
     波琉那がミコトの前に立ち武器を構え、
    「守ってもらいたいなら、偽りの恋心じゃダメなんだからね!」
     斬影刃がミコトの服を切り裂く。
    「しょうがないじゃない私は弱いんだから。強かったら一人でやってるっての!」
     ミコトは前衛の列に舞いで攻撃を仕掛け立て直しを図る。しかしディフェンダーとしてその位置に立つ波琉那、スミス、神夜らがその被害を押え、複数に与えられたダメージもわずかなものとなり、灼滅者らに素早く癒されてしまい、ミコトは自分を癒す間すら碌に与えられなかった。
    「これで終わりだ!」
     フーゴがヴァルキュリアスで螺穿槍を繰り出した。その技で彼女は腹を貫かれ大きなダメージを受けた。
    「……確かに、もう、駄目みたいね」
     ミコトが腹を押え悔しげに呟いた瞬間。
    「ミコト!」
     サスケが教室の飛び込んできた。彼女は彼の姿を確認し小さく舌打ちする。
    「残念だな、まだ私と同じにはなれなかったか」
    「ごめん、守りたいと思ったのに、僕、間に合わなくて」
    「まだ弱っちーみたいじゃん、逃げた方がいいよ、あんたまでやられちゃ……」
     彼女は塵と消えていく。サスケが彼らを睨むように見回し、言う。
    「もし、僕も化物になったら僕まで一緒に殺す気なのか」
     光臣は首を横に振る。
    「違う。僕等は君を殺し合いに巻き込みたくない一心、其れだけで来たんだ」
     彼の言葉に嘘はない。サスケにも確かに届いていた。だがそれはミコトへの思いを消すまでには至らず。 
    「ミコトの言ってた通り、彼女が化物だから倒したのなら僕も今はきっと彼女の仲間だ……見ろよ!」
     彼の顔が険しさを増し頭からは数本の角が生え、何よりも彼の心の内からどす黒い執念めいたものが沸き起こっていた。
    「お前なんだろミコトを殺したのは!」
    「ぐっ」
     叫びと共に彼の手からオーラが放たれフーゴに直撃する。
     膝をつくフーゴを傍にいた波琉那の霊犬が指示通りに浄霊眼で癒す。
    「お前らも!」
     再びサスケが異形化し不気味に膨れ上がった拳を振りかざす。
    「それ以上はやめるんだ、サスケ!」
    「戻れなくなるぞ!」
     式と恭太朗がそう叫び、除霊結界を彼に仕掛ける。
    「うっ……」
     ダメージを受け、更に何か能力を制限されているような感覚。相手が能力を使い戦い慣れてるのに比べ、まだ自分の覚醒は不十分、彼はそう判断した。
    「ちっ!」
    「待って! サスケ君」
     彼は踵を返し、教室を飛び出し、そのまま逃亡した。それは灼滅者たちにとってあるいは幸運だったかもしれない。今の状態で彼とのまともな戦闘となれば重傷者も複数出ていた可能性がある。
    「まだ彼を戻す事はできるだろうか」
    「どっちにしても今は自分らだけじゃ探せなさそうだね」
     新たなダークネスは誕生してしまった。だが一体は確実に灼滅することが出来たのだ。
     今はそれだけでも善しとして学園に戻るしかない。

    作者:八雲秋 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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