巡りの路~緋色天狗

    作者:志羽

    ●巡りの路
     白炎の柱が立ち上る。それはエクスブレインの予知の及ばぬ場所、ブレイズゲート。
     とある山奥にまた一つ、ブレイズゲートが生じた。
     緑生い茂る中、突然に石の路が始まる。それが続く場所にはいくつかの鳥居。時折道は分かたれたり出会ったり、奇異に重なりその行く先を、行きつく先を隠し続ける。
     ひとつ、遠吠えが空を震わせた。オオカミが低く響かせたような声だ。一声鳴いたはこのブレイズゲートの中心たる存在、古きスサノオ。
     古きスサノオは己の領域ともいえるブレイズゲートを歩む。白炎の巨躯は揺らめき続け鋭い瞳が先を見つめていた。
     そのスサノオはふと思い立ったように視線を動かす。その先で何かが呼応するようにか蠢いた。
     スサノオにとってそのものはかつて見たことがあるもの――自分が以前生み出した『古の畏れ』であった。
     その姿現れるとスサノオは興味を失ったように白炎の尾を振り踵を返す。生み出した『古の畏れ』をそのままに、スサノオはどこかへ歩み消えていった。

    ●緋色天狗
     それが現れたのなら、と灼滅者達は新たなるブレイズゲートへ足を運んだ。
     灼滅者たちを迎えたのは長く続く石段。その道は無数に続く鳥居に囲われるようにあった。その先は長く、終わりが見える様子はない。
     石の路は少しずつ傾斜を増し段差を生み始める。その幅は広かったり狭かったりとちぐはぐだ。
     灼滅者達が進みゆく石段。その行く先、見上げた先に気配が一つあった。
     まるで先に進ませぬ――そう言っているように立ちふさがる影。
     山伏のような格好、けれど纏う衣は白ではなく緋色。そしてその顔には長い鼻の、赤き面――天狗だ。
     しゃしゃん、と硬い音が響く。
     その音を響かせたのは手にしている錫杖だ。その先の環が揺れ音を奏でている。
     しゃらんと錫杖を鳴らし、緋色の衣纏う天狗は灼滅者達の行く手に立ち塞がる。
     向けられたのは敵意。倒さねばこの先へは進めない事は明らかだ。
     くつりと、喉奥で天狗が嗤ったようだった。
     これから行う戦いをまるで楽しみにしているように。 


    参加者
    函南・ゆずる(緋色の研究・d02143)
    佐々賀谷・充(猩血衣・d02443)
    函南・喬市(血の軛・d03131)
    モーガン・イードナー(灰炎・d09370)
    東堂・秋五(君と見た夕焼け・d10836)
    松乃木・亨人(アヤトリ遊び・d10991)
    矢城・架月(ウイルスチェッカー・d11247)
    扇・吉光(ナーバスモンスター・d24857)

    ■リプレイ

    ●遭遇
     ブレイズゲートの中に入り、灼滅者達を迎えたものは生ぬるく優しいものではなかった。
     登って、登って、まだ続く。そんな石段を悠々楽々のメンバーはただただ進んでいた。
     最初は緩やかであって余裕、と思っていたがそれは段々と傾斜を増したり、曲がりくねったりと優しいものではなくなってゆく。
     後で筋肉痛になりそう……と、扇・吉光(ナーバスモンスター・d24857)が思った矢先、その声は上がった。
    「いや、なんなんだこの石段! 正直ちょっと舐めてた……」
     もうどれだけ歩んだかと足を止めて東堂・秋五(君と見た夕焼け・d10836)はひとつ、大きく息をついた。視線を階段の先に向けても行き着く先が見えるわけもなく。つられるように佐々賀谷・充(猩血衣・d02443)も足を止め、先を見上げた。
    「……しかしまァ、この階段も随分長ェな。まだ先が見えねェ、とか……」
     秋五は頷き、力なく笑うとかなり精神的にくるんだけどと零す。充は肩越しに視線を後ろへ投げた。
     曲がりその先隠すような石段。後ろには登ってきた、踏みしめてきた石段があるがその始まりはもう見えないほど遠い。
     それにこの、頭上に延々続く鳥居もまた奇異さを紡ぎ出している。
     続く石段、この先に一体何があるのだろうと函南・ゆずる(緋色の研究・d02143)も青の瞳を向けた。サーヴァント、ナノナノのしまださんはその隣でふよりふより。
     歩みを止めた面々に、行くぞと前から声がかかる。
     確かに止まっていてもと重くなりそうな足を向け、再び登り始めると、進む先に影ひとつ。
     その姿に最初に気付いたのは松乃木・亨人(アヤトリ遊び・d10991)だった。
    「ハテ。面妖ナ場所に、面妖な顔色ヲシタ者がオル、なァ。オアツラエムキ、と云ウ奴か」
     琥珀色の瞳細め、すいと視線で皆に促す。
     しゃんと金属の硬い音と共に映るのは緋色。緋色の衣に天狗の面を被るそれは『古の畏れ』だった。
    「連なる鳥居に天狗か……文字通り、民話の世界に迷い込んだようだな」
     行く手を塞ぐ緋色を纏う天狗――それにどのような逸話があったのか気になる所だが、相手がなんであろうと、と鋭い黒き眼を函南・喬市(血の軛・d03131)は向けた。
     灼滅するだけ、と。
    「天狗にはいろいろな伝承がありますね。神とも妖怪とも言われる存在……いずれも、畏れを表してのことではありますが」
     さて、と矢城・架月(ウイルスチェッカー・d11247)は仕切りなおす。
    「それでは、そんな天狗に挑む僕たちは怖いもの知らずの大うつけといったところでしょうか」
     一体でこの場所に構えているのだ。おそらく強敵と言える相手。古から大妖怪と伝わるような、そんな相手と戦えるとは、なかなか光栄なものだなとモーガン・イードナー(灰炎・d09370)は笑む。
    「相手にとって不足はない」
     愛用のチェーンソー剣を油断なく構え、だがとモーガンは足元に一瞬視線を向けた。
     一つ杞憂があるとしたらこの足場。横には4人が並べる程度の広さ。これは問題はない。けれど石段の幅はさまざま、そして傾斜は少し厳しくある。
     しかし大丈夫、と後ろから声が一つ。もし落ちてきたら受け止めてみせると、ぐっと拳握るゆずるの姿があった。
     なんだろう――この妙な安心感。
     けれどそれを感じるのも一瞬。天狗が向かい来るのが見え、充が咄嗟に前にでる。
    「ったく、ここまで苦労して登って来たんだ」
     何も収穫無しに帰るっつーワケには、いかねェよなァ? と充は少し口の端あげた。錫杖での一撃と共に流し込まれた力の大きさに楽しめそうな相手と少し逸る気持ちがある。
    「一体何の罰ゲームだ」
     そう零しながらも先を切ったのは秋五。加速する鞭剣の刃が伸び天狗の身を切り刻み、架月が放つどす黒い殺気が天狗を覆い、亨人の足元より伸びる影がその殺気の中にある天狗を縛りあげる。
    「サテ、早二片付けるとスルか、なァ」
     仲間と共にならそれも叶うだろうと。

    ●石段の罠
     とん、と急な石段を気にせぬような動きの天狗。けれど、天狗に仲間はおらず一人。それにどうやら自らを癒す術はない様子。
     それならば時間がかかっても確実に、その力を削いでゆく。
     ぎゅっと周囲の木々に鳥居を伝う赤く細い糸。喬市の扱う鋼糸が空を踊り天狗に絡む。その鋼糸を絞るべく踏みしめた瞬間、足場の不安定さにぐらつくが喬市は堪えた。灼滅者としての力を差し引いても、身体能力はそこそこにある方。うまくこの場に慣れたのだ。
     鋼糸を天狗は振り切り錫杖を掲げた。風が立ち上がり竜巻が起こると、それは前衛の皆を巻き込んでゆく。
     その風に煽られてか押されてかモーガンのサーヴァント、ライドキャリバーのミーシャが騒々しいドリブル音を立てた。堪えようとしたが、ずる、と石段よりすべり落ちていく先には――しまださんがいた。
     そのまま落ちればぶつかるところ、だがしまださんは避けもせず、ただ滑らかな動きでミーシャをエスコートし戦列へと戻す。
     ドキッ――紳士なしまださんの行動で乙女なミーシャのときめき指数が駆け上がる。けれど、けれど今は戦いの最中とそのときめき抑えるようにミーシャは天狗へと突撃する。
     相棒に続きモーガンはチェーンソー剣の音を滑らし斬撃を向け、そのモーガンの体躯の後ろから息を合わせ架月が斬りかかる。
     架月は小柄な体格に大きなチェーンソーを振り回し、仲間が追わせた傷をさらに広げる。
     吉光は自らの魂を削り冷たい炎とし天狗へと放った。冷たい炎がその身を焼き氷となり、天狗の体力を削ぎ取るべく張り付いてゆく。
     妨害すればきっとあの天狗は怒る。それはちょっと怖いけれどと思うのはガタイは良いけれど気が小さいが故。
     そんな杞憂のせいか、吉光は攻撃を掛けた瞬間バランスを崩した。
    「わわわわ!」
     長いその手足。足は堪え切れず一本でバランスを、そして手をばたつかせ吉光はなんとかその瞬間を堪えきってひと安心。
    「……割と本気で怖いんだけど……」
     秋五はスナイパー、つまり後衛。敵は見上げる方向に、そして傾斜が急というのはわかりきった事実。落ちてきたらどうしよう、けれど自分も落ちるかもしれないと気をつけつつその手を天狗へ向けた。
    「いつまでも余裕でいられると思うなよ、天狗風情が」
     掌に集めたオーラを放てば天狗の上で爆ぜるようにぶつかった。
     天狗はその衝撃に仰け反りつつ、錫杖を振り上げる。怒りに満ちたその挙動のままに充をそれは打った。荒れ狂うように魔力は流れ込み続ける。初撃で充は天狗の意識を自分へ引き寄せるようエネルギー障壁のシールドで殴りつけた。天狗の攻撃の半分は怒りに任され向けられる。
     その中でも今までで一番強く力の奔流を受け揺らぎかけた。
    「ソノまま落ちテこられたら、巻き込まれるトコやなァ」
     気をつけんと、とけらりと軽口叩きながら亨人はサイキックエナジーの小光輪を充へと向かわせる。それは盾となり守りを固め充の傷を癒してゆく。
     その間にゆずるはバベルブレイカーを構えた。
    「天狗さん、やっつけなきゃ、ね」
     ドリルの如く高速回転する杭が天狗の肉体の端を持っていく。貫けば穴、かすってもダメージは決して小さなものではない。
     天狗はその痛みを感じているのか、いないのか。再びその錫杖が振るわれた。天狗の振るった雷は真っ直ぐ秋五に落ちた。
     雷の一撃にずるりと足が石段より落ちる。
    「!」
     気を付けていたのに落ちるとはっとした瞬間、隣にいたゆずるの手が伸びた。反射的に互いに伸ばした手を掴みあい秋五は踏みとどまることができた。
     それはまさしく某有名ドリンクのCM的な危険な場所での危機一髪ににた感覚。
     ぐい、と支え立ちあがらせるゆずるのイケメン的包容力。不覚にもトゥンク……――していたがくつりと小さな笑いにはっとする。亨人の心配こそすれ、無事だからこそ込みあげたその笑み。
    「あ、ありがとう……」
     ぶっきらぼうに、たどたどしい礼を秋五は落とし再び戦闘へ。フラグは立っていない一瞬の事だ。もう落ちるものか、とぐっとその足に力がはいる。
    「すかさずキャッチして、戻してあげる、ね」
     また誰か落ちても大丈夫、とゆずるは紡ぎその隣でしまださんもその通りというようにふよりと跳ぶ。
     ゆずるに任せておけば安心、任せると亨人は紡いだ。充はそんな様子に面白い子とふと笑み零し天狗に一撃を向ける。
     もし落ちても、という安心感。けれど、もしキャッチされたら――きっと男前っぷりに感動するだろうと吉光は思う。が、しかし。
    (「……絵面はシュール」)
     おっきい吉光、ちっちゃいゆずる。抱きかかえキャッチを頂いたら気まずくなる気がして、落ちないようにしようと吉光の決意は新たに。
     そんな決意はガタイの良い男子共通の、頭の端にチラっとする事でもあった。

    ●終わりを以て
     石段の意地悪さにもめげず負けず、確実に天狗を追い詰めかかっていた。
     日本刀を構え石段を蹴る。駆けあがるように距離を詰め、真っ直ぐに早く重く、斬撃をゆずるは振り降ろした。
     刃の切っ先は肩口から真っ直ぐに傷を残す。攻撃の息をあわせて喬市がその隣に並んで一歩踏み出した。
    「一気に攻め落とすぞ」
     静かに落とした言葉、喬市はそろそろ頃合いだというように呟いた。天狗のその身には氷が纏い付き、その身の動きは精彩を欠きおぼつかぬ時もある。時間をかけて撒いた攻撃の果てだ。
     拳にオーラを集中させる。喬市の繰り出した連打が重なり天狗は一歩後ろへ引いた。
     その連打を目に頼もしいねェと充は笑い、それに続く。
     多少ぐらついても、登ってきた労力を考えれば――
    「落ちるわけにいかねェよな」
     緋色のオーラを武器に纏わせて天狗へ向ける。その色は鮮血の如くあった。天狗へ向けたその攻撃は充へと生命力を吸い上げる。
     さらに吉光が突きだす杭一撃は天狗の身にさらなる痺れをもたらし、同じ攻撃をしないように気をつけ架月は自らの深淵に在る暗き想念をもって漆黒の弾丸を形成した。
     架月が打ち出した弾丸を天狗はただ受けるだけ。それは身を蝕んでゆくものだ。
     風が巻き上がる。それはぼろぼろの天狗が投じた攻撃。
     前衛の間を駆けるそれは威力は弱まっているがそれでも募れば苦しいものとなる。
     そこへふわふわとハートが飛ぶ。しまださんのからのハートはモーガンに。モーガンもまた、充と共に早いうちに攻撃を自分達へ向けるべく動いていたのだ。
     天狗から受ける攻撃頻度が高かった分、風の力は強大でなくともだ。
     モーガンはエアシューズに炎を纏わせようとした。瞬間、勢い良すぎて滑り、チェーンソー剣で地を突き刺すように支えで踏みとどまる。
    「それにしても、何故こうも意地の悪い足場で戦うハメに……」
     そう零し、ミーシャが掃射し天狗の動き止めその道を開く。
     場所の悪さを、終わりの見えてきた戦いに思う。勢いをつけ走ればエアシューズには炎が舞う。その炎纏うままに激しい蹴りを一撃、モーガンは天狗へと見舞った。炎はそのまま天狗の身の上で踊り体力を奪う。
     戦いは決して楽ではない。けれど気持ちの上では、心情的には『古の畏れ』であるこの天狗相手の一戦は秋五にとっては楽であった。
    (「ダークネスは……あれでも心を持つ奴が居るから、な」)
     大した情念を持たずただ戦う事を求めていたかのような天狗相手はやりやすい。
     けれどそれも、終わりにしなければならないこと。
     今までお返し、とばかりにマテリアルロッドを向ける。それと天狗の錫杖が噛みあうが弾き落としその身へと魔力を流し込んだ。
     が、天狗はどうにかその攻撃を堪えた。
    「あァ、ようやく一息付ケル、なァ」
     ふ、と緩やかに。亨人の足元から伸びた影が天狗を飲みこむ。その瞬間か、飲みこまれると同時に天狗の姿はこの場所から消え去った。
     緋色の衣纏った天狗が灼滅されたのだ。
     その存在が消えると風が一陣駆けた。その存在の消失をまるでどこかへ伝えるかのように。

    ●帰路
     石段の先に何があるのか――と、思い少し進んでみるも相変わらず変わりはない。先は確認できないか、と喬市は零し改めて周囲を見渡す。すでに急な場所でさえものともせぬ喬市はきびきびと動いていた。
    「風光明媚な場所ではあるが、ブレイズゲートに長居は無用だな」
     喬市は言って帰ろうかと皆を見る。
    「このへん、何もかわったもんはなかったしな」
     足の動く範囲で倒した天狗が何か落したりなどはないかと、たりィと言いながら充も探ってみたがそういう類のものはない。
     賛成ですと吉光は頷く。先ほどから足がガクガクしているような気がしないでもない。
    「あー、なんか普段よりずっと疲れた感じがするな」
     この階段、本当に強敵だったと秋五は零し脚をさすり一息。
     いろいろと、もといいろいろな意味で大変な一戦でしたと架月は思い起こす。しかし何はともあれ、皆さんお疲れ様と紡ごうと思ったのだが。
    「……松乃木さん、体力残ってますか?」
     残っていないとゆっくり首は横に。モーガンのミーシャの上に亨人はお世話になっていた。
    「手ヲ貸すと云ッテくれたノデ、有難く」
     言葉を交わしたわけではない。マラ石段が難儀ナ事よ、なァと零したのを耳にしたのか、動きでミーシャが表し、亨人が解しただけのこと。
     そんな様子にいつの間に面倒見が良くなったんだ? とモーガンは首を傾げる。それはサーヴァントの新たな一面なのかもしれない。
     急な石段をゆっくりとミーシャは下り始める。
     ああ、この石段を今度は降りるのかと秋五が溜息交じりに呟く。するとゆずるは落ちたらまた受け止めてあげるよと小さく紡いだ。
     言って、ふと思う事がひとつあった。
    「古の畏れがいたんだから、スサノオもいる、よね」
     その言葉にきっとそうだろうと喬市は短く返し、先を進む。
     いつかきっと、このブレイズゲートの中心たるスサノオと対することになるのだろうと歩を止めて思い馳せる。
     いつかその姿と相見える事を願って。

     石段続く路の着く果ては、深くには一体何があるのかは、まだ何もわからないだ。
     この場所を紐解くべく、最初に行く手を塞いだ緋色天狗は『悠々楽々』の8人とサーヴァント達の手によって灼滅され次へ至る道を開くことになる。
     ブレイズゲートの中にあるスサノオの残すものを巡りゆく路は――まだ始まったばかり。

    作者:志羽 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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