修学旅行2014~想いの花を咲かせましょう

    作者:篁みゆ

    ●修学旅行&親睦旅行へ
     武蔵坂学園の修学旅行は、毎年6月に行われます。
     今年の修学旅行は、6月24日から6月27日までの4日間。
     この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅立つのです。
     また、大学に進学したばかりの大学1年生が、同じ学部の仲間などと親睦を深める為の親睦旅行も、同じ日程・スケジュールで行われます。

     修学旅行の行き先は沖縄です。
     沖縄そばを食べたり、美ら海水族館を観光したり、マリンスポーツや沖縄離島巡りなど、沖縄ならではの楽しみが満載です。
     さあ、あなたも、修学旅行で楽しい思い出を作りましょう!
     
    ●旅の夜に
     修学旅行1日目は、旅館に宿泊します。
     広い旅館は非日常的な雰囲気を提供してくれます。一緒に泊まる仲間達の存在も、常の夜ならざる雰囲気作りに色を添えます。
     こんな夜をただ眠るだけで過ごすなんてもったいない!
     そう思う生徒たちが行動を起こして、どうやら大部屋を確保したようなのです。
     先生に内緒の噂として生徒の口から口へと伝えられていくそれは、素敵な時間への案内。
     男女混合の大部屋では、クラスメイトやクラブの仲間と性別に関係なく集まることができるでしょう。
     そしてお約束の男子部屋と女子部屋もあります。
     旅の夜といえば恋バナなのです。
     彼氏彼女のノロケや愚痴、片思いの相手への想いはもちろんのこと、「まだ恋なんて!」と思う人はいつか出会いたいと考える理想の相手の話をしてみるのはいかがですか?
     
     
    「楽しそうですね。夜に集まって皆さんとお話するの、わくわくします。私、この噂広めてきますね」
     誰かから噂を聞いた向坂・ユリア(つきのおと・dn0041)は楽しそうに小走りで走って行きました。
    「そう。……まあ、この手の話はつきものだよね」
     神童・瀞真(大学生エクスブレイン・dn0069)は苦笑しつつも、その声は楽しそうです。
    「君も行くのかい? 僕も行ってみようかな」
     お菓子を持ち込んでワイワイと。窓際で月や星に見守られながら内緒話、なんてどうです?
     楽しい夜を、すごしましょう?


    ■リプレイ

    ●みんなで語ろう!
     修学旅行一日目の夜。噂を聞きつけた者達は先生に見つからないように指定された部屋へ集まった。出入り自由、持ち込み自由の秘密の集まり。
     昼間に買っておいたお菓子をたくさん広げて、囲むように座ったのは【満足同盟】の四人。事前にテーマは決めてきたのだが、中々自分から口を開きづらいという空気だ。ついついお菓子に手が伸びてしまう。
    「で、お前等は初恋ってどの位でした?」
     そんな空気を破ったのは隼人だ。ぐるりと他の三人を見渡して発言を促す。
    「ん~……、初恋……ねぇ」
     応えたのは銃儀。考えるようにして記憶の中をまさぐると、学園に来るよりも前に親しかった女性はいた。ただ、それが恋愛感情なのかどうかは分からないが。
    「なんっつーか、こう、蛇みてぇ印象の女性でよ」
    「蛇?」
     陽が不思議そうに声を上げる。その向かいでお菓子を手にした紅鳥も首を傾げた。
    「神出鬼没で毎度何処からもなく勝手に現れ、人懐っこい癖に小悪魔で、おちょくる様に絡んで俺で遊びやがり、でも相手にされないとすぐに拗ねる寂しがり屋で」
     語っているうちに色々思い出したのだろう、拳を握りしめて立ち上がりかねない勢いの銃儀。
    「挙句の果てには体力尽きるまで、強引にアッチコッチに連れ回す始末……ッ!」
     それでも本気で嫌がってないように聞こえる。
    「……でもま、不思議とアイツとの時間は……嫌いじゃなかったな……」
    「ほうほう、お前にもそんな時期がねぇ~……」
    「……って、良く考えたら、初恋には程遠い話になっちまったなこりゃ、カカカッ!」
     からかうように告げた隼人の言葉に一瞬だけ寂しそうな雰囲気を醸し出したのは気のせいだろうか、いつもの様に笑って銃儀は次は紅鳥だと指名する。
    「へっ? 俺? お、おぅ。では……」
     あわよくば話さなくていいようになんて考えていたが、話を振られたのに逃げるなんてことはしない。ほんのり顔を赤らめて口を開く紅鳥の言葉を、陽は姉のように微笑を浮かべて待っている。
    「んー、ホントに初恋っつーと……小学生の頃、家族でいったファミレスのウェイトレスさんだな」
     初めて身内以外で見た綺麗なお姉さんの印象は、小さかった紅鳥の心に強く残って。その後も彼女目当てでお小遣いを貯めて一人でファミレスへ行ったりしたのだ。
    「小学生が一人でファミレスって敷居高くなかった?」
    「まあ、その人に会いたい一心でな……」
    「結局どうなったんだ?」
     陽の質問の答えはやっぱり恋のパワーか。隼人が続きを急かすが紅鳥の心に浮かんでくるのは甘酸っぱい想い。
    「まあ、結局その人に彼氏がいたんで恋は破れた訳ですが……あーちくしょー、こっぱずかしいなオイ……」
    「顔赤いぜ、カカカッ!」
     銃儀に指摘されて少し赤みが増した紅鳥の頬。そんなやり取りを見つつ、陽はこれも修学旅行らしいなぁと思ったりもして。そんな陽にも追及の手が伸びる。どこまで話したもんだろう……首をかしげて悩みながら言葉を選ぶ。
    「どれ位からカウントするのかによるけど……幼稚園の頃……それ位、かな?」
     隣に座っている恋人の隼人の視線を感じる気がする。
    「相手は?」
    「ほら、先生にあこがれるーとか、ちっちゃい子でとよくあるじゃない? 覚えてないけど多分その辺!」
     この話はもう終わりとばかりに言い切った陽に惜しむ声がかけられたが、おしまいと言ったらおしまいだ。ちなみに陽の通っていた幼稚園の先生は女性ばかりであることは内緒にしておく。
    「じゃあ、代わりに隼人が語ったらどうだ?」
    「あん? 空気が甘いとか云うのに聞きたいのか? ……まあ、良いか」
     銃儀に話を向けられた隼人は、堂々と話し始める。6歳位の頃、両親が共働きでそれまでもよく預けられていて陽とは一緒だったこと。だが。
    「どんな時だったか、陽の笑顔を見た時に今まで感じていた『飢え』が満たされた気がしたんだよな……それからかな、アイツの事が、笑顔が、好きで愛して守りたくなったのは……」
     それは臆することも照れることもない堂々とした愛の告白のようで。
    「ははっ、胸焼けしたか?」
     用意していたチョコレート菓子よりも、甘かった。

     好きなタイプはあっても好きな相手はまだいない。けれどもこの手の話にはとても興味があるモカは、後の自分の恋愛に役立てるため(そして後でニヤニヤするため)に周りの会話を拾っては一言一句聞き漏らさないようにメモを取っていた。そんな彼女と対照的に浴衣に身を包んで隅っこでずっと戦記物を読んでいたのはレオナ。自分が恋愛事からは遠い場所にいることはわかっているが、恋に恋する気持ちはある。だって年頃の女の子なのだから。
    「あなたは恋の話しないのですか? 好きなタイプは? 私は時代劇に出てくる将軍さんや平蔵さんが好みなんです」
    「すまない、私はそういう話は……そろそろ寝る」
     話を振られてもどう答えていいのかわからないレオナは本を閉じて立ち上がろうとしたが、上手く着られなかった浴衣は簡単に崩れてはらりと帯も解ける。
    「! きゃぁっ!」
    「見ちゃ駄目ですっ!」
     レオナの口から漏れた女の子らしい悲鳴に部屋の中の男女が何事かと視線を向ける。間一髪、傍にいたモカがレオナを隠すように立って、白い肌が男子の目にさらされることは防げたのだった。

     偶然レオナの近くにいたセカイは彼女の浴衣を直してあげて、再び腰を下ろす。
    「それで、いちごさんのお悩みとは……?」
     セカイが視線を向けたのはいちご。ユリアと瀞真と共にお菓子をつまんでいた所、悩みを聞いてほしいと言われたので快諾したのだ。
    「私はこんななりでも一応男なので……女性に言い寄られるのは悪い気はしないですが、相手が二人となると……」
    「ふたり、ですか」
     下手な女性よりも女の子らしい格好と仕草のいちごから告げられた悩みは意外なもので。ユリアも驚いた表情を見せた。
    「好意は嬉しいですし、私がハッキリ態度を決めればいいのはわかってますが、最近は私の意思そっちのけで二人で争ってるような事もあり、どうしたものかと……」
    「悩んでらっしゃる方にこう告げるのもなんですが、いちごさんは幸せですね」
    「幸せ、ですか?」
     セカイの言葉に首を傾げたいちご。ユリアが後を引き取って続ける。
    「そのお二人は、いちごさんの内面の良さをきちんとわかっていらっしゃるのだと思います。そんな方がお二人もいるのですから」
    「そうですね……情けないですね、私。すみません、聞いてくれただけでもありがたいです。私自身で何とかしなくてはいけないことですしね」
     俯いた後、いちごは顔を上げて微笑んだ。話を聞いていた瀞真も優しく微笑む。
    「自分で決めるべきだとわかっていても、それが自分自身を追い詰めてしまうこともあるからね。誰かに聞いてもらうことは悪いことじゃないと思うよ。僕も、聞くくらいならいつでも受け付けてるよ」
    「ありがとうございます、話して少しスッキリしました。皆さんの話も聞かせてください」
     いちごの言葉に自然に視線が集まったのは、セカイ。セカイはわたくしですか? と目を瞬いた後。
    「そうですね……理想の相手は、他人の為に真剣に泣いたり笑ったりできる様な優しい方……でしょうか」
    「素敵な理想ですね。セカイさんがそんな相手と出会えるよう、私も祈りますね」
     そっと笑んだユリアに、セカイも笑みを返した。

     窓際で菓子と飲み物を片手に、冬舞は月を見上げていた。綺麗な月が見下ろしている。ふと室内に視線を走らせると、丁度瀞真が話の輪から立ち上がったところだった。男子部屋に移動するのだろうか、冬舞も立ち上がってその姿を追う。
    「瀞真。明日からの三日間、いろいろと行くのか?」
    「ああ、冬舞君。そうだね、折角だから見て回りたいと思うよ」
     男子部屋への移動がてら、のんびりと交わす会話はお互いの近況など。大学に進学してからは何かと忙しくて、こうして話すのは久しぶりな気がする。
    「大学に入って2ヶ月、そっちはどうだ?」
    「興味のあることを深く学べるというのはいいね。必修科目はあるけれど、自分で履修選択を出来るのは楽しいよ」
     他人に聞かれても支障のないような話をしながら、二人は男子部屋へと辿り着いた。

    ●男子部屋の様子は?
    「男同士で恋バナも、アリなんじゃないでしょうかー。旅の恥はなんとやらー?」
    「……それ聞く側だから言ってるよね」
     流零と芥汰は壁に寄りかかって恋バナを……というより流零が一方的に聞き出そうとしているようだ。
    「いつか彼女出来たら絶対仕返しするから。確りと心に刻んでおくのよ河童くん」
    「わー仕返しとか怖いすねー彼女作れませーん」
     なーんて言いつつも彼女がいない流零は根掘り葉掘り聞くつもりだ。どこが一番好きなのかとか時めく言動は何なのかとか、質問攻めである。遠慮なんてもちろんない。
    「どこって……素直なトコ? 好きなもの好きって向かって行けるのも、一生懸命なのも。あ。これ一番とかじゃなかったか」
     さらりと言って、少し考えて。芥汰は続ける。
    「言動はあれじゃん、面白いよね。微妙な日本語。あと、あのねって、俺のこと呼ぶの。好きかも」
    「ひゅーひゅー惚気やがりますねー爆発しろー。もー語り顔写メしちゃうんですからー」
     表情を変えぬまま冷やかす流零の行動は素早かった。光の速さで携帯を取り出して写メを撮り、送信。
    「まぁでも、幸せそうで何よりですー」
    「……その冷やかしからの写メ、送信までが早すぎるだろ。まァ、幸せそうに見えてるなら、良いケド」
     とは言ったものの、やっぱり不公平感が拭えない芥汰。
    「ところで。俺だけって狡くなァい? ゲーム好きって言ってたケド、その中でどの子が好きなの。性格とか顔の好みとか、是非ともお聞きしたいな?」
     反撃に転じてみるが。
    「えー? 今宵は若に質問責め祭のつもりなんすけどー……と言うか、三次元リア充の話を聞いた後に二次元の話題とか、寂し過ぎるじゃないすかーやだー」
    「いいから教えてよ」
     男だけの空間だから出来る話、なのかもしれない。

    「俺の恋話は、瀞真は知ってるだろう?」
    「そうだね。その後、連絡はとっているのかい?」
     冬舞は恋愛絡みで闇堕ちした所を、武蔵坂の生徒に救出されて学園へと来たのだった。
    「幼馴染は相変わらず時々電話がくるけど、元気でやってるみたいだ。喧嘩して仲直りして、また喧嘩して爆ぜないかな」
     思わず本音が漏れた。冬舞は咳払いをしてごまかして。
    「だから、瀞真の話が聞きたい」
    「僕の話、か。今は想いを寄せている相手はいないけれど、理想の恋人像位なら」
     苦笑した瀞真に頷いて、冬舞は先を促す。
    「何事にも一生懸命向い合えて、自分の命を軽んじない相手、かな」
    「そうか……俺の恋愛感は引かれるから、うん、まぁ、その」
     その言葉の先に潜む意図を感じ取ったのか、瀞真は尋ね返すことをしなかった。しばらくは講義が大変だな、なんて誤魔化すように言葉を挟んだ後、冬舞は小さな声で告げた。
    「でも、……出逢えたら、次は、その時は、瀞真にも教えるな」
     男子の思いがそれぞれ夜の室内に染み渡っていく。

    ●女子部屋の様子は?
     女子部屋は、グループに分かれるというよりもみんな纏まって色々な人の話を聞いている、そんな空気だった。
    「それじゃ、私の好きな人のことを」
     小さく手を上げて、紅緋がためらわずに語りだす。お母さんの形見の一眼レフが何より大事で、振り向いてくれない人の話。
    「明日は、その人がナイトシュノーケルに同行者募集してるので、一緒に行くつもりです。きわどい水着で誘惑したかったんですけど、ウェットスーツ着用なんですよね」
     お子様体型が目立つだけだとため息をつく紅緋。その行動力に周りから感嘆の声が上がった。次どうぞと話を振られた友衛はもじもじしながら言葉を紡ぐ。
    「ま、まだ決めた人がいるという訳じゃないが。その、人狼は……こ、子供を作って力を継承しないといけない、らしい。だから、そういう事もちゃんと考えなくてはいけないと、思って……」
    「人狼さんならではの悩みですね」
     皆、いつかは考えることだけれど、人狼とはやはり少し感覚の違いはあるのかもしれない。セカイの呟きに友衛が顔を上げる。
    「やっぱり自分から行動しないと駄目か?」
    「それは相手によりけりだと思いますね」
     紅緋のいうことも尤もである。一概に積極的になればいいというものでもない。
    「そもそも、私を好きになってくれる人がいるんだろうか……」
     可愛くなりたいし大人らしくあろうと思うけれど身体はついてこないし……思考のループにはまってしまう。
    「急ぎすぎることはないと思うよ♪ きっと出会うべき時に出会えるよっ」
     かおりがにこっと笑ってくれたから、思いつめていた心が少し軽くなったように感じる友衛だった。
    「ところでユリアちゃんはダレか気になる人、いるのかな?」
    「ユリアさん結構モテそうですから。いるんじゃないですか?」
    「えっ、私ですか?」
     かおりと紅緋から問われ、ユリアは困って首をかしげて。
    「そうですね……私に声をかけてくださったり気を使ってくださる方たちは、皆良い方だと思います。嬉しく思います」
    「理想の相手はどのような方なのでしょう?」
    「お互いに、色々と新しい世界を見せ合える相手、でしょうか」
     セカイの問いにはにかんで答えたユリアはかおりに問う。
    「かおりはね、もう出会う前から心に決めてた人がいるんだよ。シャドウハンターならではだよね。夢で先に出逢ってたの」
    「ロマンチックだな」
    「でしょ♪」
     友衛の言葉に蕩けるような笑顔のかおり。紅緋はひとり、頷いて。
    「うん、好きな人がいると、明日も元気にがんばろうって気になれますよね」
     たとえ会えなくても同じ空の下、同じ学園で過ごしていると思えば前向きになれる。でも、本音はいつも一緒にいたい、それはきっとみんな同じ。
    「わたくしはまだ恋を知りませんが、例え誰かを好きになっても、友情は変わらずに大切にしたいですね」
     セカイがそっと伸ばした手は、ユリアの手に重なって。

     旅の初日、興奮冷めやらぬけれどもまだ修学旅行は始まったばかり。
     自然とお開きになって先生にばれぬように部屋へと戻る。少しでも眠っておかねば旅を楽しめない。
     もしかしたらこの修学旅行で新たなロマンスが生まれるかもしれない。
     想いの花の種は、誰の心にも眠っているものだから。

    作者:篁みゆ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月24日
    難度:簡単
    参加:14人
    結果:成功!
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