武蔵坂学園の修学旅行は、毎年6月に行われる。
今年の修学旅行は、6月24日から6月27日までの4日間。
この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅立つのだ。
また、大学に進学したばかりの大学1年生が、同じ学部の仲間などと親睦を深める為の親睦旅行も、同じ日程・スケジュールで行われる。
修学旅行の行き先は沖縄。
沖縄そばを食べたり、美ら海水族館を観光したり、マリンスポーツや沖縄離島巡りをしたりなど、沖縄ならではの楽しみが満載だ。
さあ、あなたも、修学旅行で楽しい思い出を作ろう!
●目指すはピナイサーラの滝
修学旅行3日目の自由行動では、西表島観光に行くことができる。
まずは那覇空港から飛行機で石垣島に向かい、そこからさらに船に乗り換え40分ほど行けば、そこが沖縄では本島に次ぐ大きさを誇る西表島だ。
そしてこの西表島には、落差約55メートルを誇る沖縄県最大の滝、ピナイサーラの滝がある。
「それは是非、滝に打たれて修行をしてみたいものでござる」
修学旅行のしおりに目を通していた源・勘十郎(高校生デモノイドヒューマン・dn0169)がつぶやく。しおりによれば、ピナイサーラの滝は滝の上から眺めることも、滝壺から見上げることもできるようだ。
「しかし滝に辿り着くには、ジャングルの中を2時間ほど歩く必要があるようでござるな」
「ジャングルだべか!」
『ジャングル』という単語に反応したのは、叢雲・ねね子(小学生人狼・dn0200)だ。
「おら、本州の森ん中はあちこち駆け回ったことあるけんど、ジャングルには行ったことないずら。おらもジャングルに行ってみたいずら!」
野生児らしく目を輝かせるねね子。
「なるほど、ジャングル探検も中々楽しいかもしれないでござるな。それに、うまくすればイリオモテヤマネコにも会えるかも知れないでござる」
イリオモテヤマネコとは、西表島だけに住む野生のヤマネコで、絶滅危惧種にも指定されているとても珍しいネコだ。
「……おら、そのヤマネコにも会ってみたいずら!」
ねね子がさらに目を輝かせる。ニホンオオカミの末裔として、絶滅危惧種のヤマネコに何か思うところがあるのかもしれない。
●西表島への誘い
「水着を持って行けば、ピナイサーラの滝の滝壺で泳ぐこともできるようでござる。……うーむ、ふんどしでは駄目でござろうか?」
勘十郎は、既に西表島に行くことに決めたようだ。
「おらも、3日目の自由行動は西表島に行くことに決めたずら! どうだべ? みんなも一緒にジャングル探検に行かないずらか?」
ねね子は、教室に集まっている仲間達にさっそく声をかける。
「せっかくの修学旅行だべ。楽しまなきゃ損ずら。みんなで、ジャングルを抜けてピナイサーラの滝を目指すずら!」
●出発!ジャングル探検
修学旅行3日目。今日も天気は快晴、絶好のジャングル探検日和だ。
「ほな中学天文2E探検隊、出撃やー!」
ベージュのコテコテな探検隊衣装を身につけたバアル・ヴァサーゴが、ノリノリに先頭を切って歩き出す。見れば、ヘッドライト、アミ、コンパスと装備も無駄に充実している。やる気満々だ。
バアルの後を、天文台中2Eのクラスメート達が続いていく。
「……沖縄なら……マングースとかも……いるかな……?」
立花・イツキは持参したデジカメを構えて、目に付いた珍しい動植物や風景を次々と写真に写していく。
キケロクロット・クロックスはジャングルには似つかわしくない、いつも通りの黒いドレス姿だ。だが、汗ひとつかかず動きにくさも感じさせずに、涼しい顔をしてマングローブの林を進んでいた。
「カノン様に釘を刺されていなければ、機械の姿で来たかったのですが」
出発前にクラスメイトであり主任でもあるカノンに機械の姿でいることを禁じられてしまったせいか、クロは妙にツンツンしていた。
「せやなー。ウチもイフリート形態で新種のイリオモテヤマネコと言い張ってゼニ儲けようとしたけど、人間やないとアカンてカノンはんが言うてたんで自重しようと思い直したで」
バアルが調子に乗ってバカな事を告白し、さっそくクロに冷たい目を向けられる。
「へへ、ヤマネコさん、会えるといいっスねー」
一空・零菜が元気よく周囲を見渡せば、
「ヤマネコっておいしいんでしょうか……もし見つけられたなら食べてみたいものです……」
山育ちの坪撃・天誅が、さらっととんでもないことを言い出した。
「食う気か。天然記念物食う気か貴様ーっ!?」
さっそく水霧・青羽からツッコミが入ったのは、まあやむを得ないことだろう。
一方、凰夜・壱琉と香月・琥珀は、叢雲・ねね子と源・勘十郎に声をかけていた。
「ねね子さんも勘十郎さんも珍しいもの見つけた?」
琥珀の問いに、勘十郎は川辺を指さす。そこには、川岸を歩く魚の姿。
「ミナミトビハゼというらしいでござる。魚が陸を歩くとは、なんとも珍妙でござるな」
「さすが西表島だな。俺、イリオモテヤマネコに逢いたいんだけど逢えるかな?」
普段見ることのできない色んな動植物の姿を目にして静かに感動に打ち震えつつ、壱琉が微かな期待を込めて聞くと、
「絶対会えるずら! なんかそんな予感がするんだべ!」
ねね子は胸を張ってそう答えたのだった。
マングローブの林を抜け、丈の低い草の生える草原を抜けると、いよいよ亜熱帯の植物が茂るジャングルに突入だ。
「ジャングル……ジャングルっスね。日本にこんな所あったっスか。マジパネェっス。こいつはわくわくして来たっスよー」
零菜がジャングルの景観に圧倒されていると、早速飛び出していこうとする影が一つ。
「これがジャングルだべか! 凄いところずらー!!」
一目散に駆けだしていこうとするねね子の首を、武藤・蒼麻が掴んで引き留めた。
「一人で道を外れてフラフラしたら危ないさね」
そう言いつつ、先ほど捕まえたヤシガニをねね子に見せる。ねね子は目を輝かせて、ヤシガニにそっと指を差しだして危うくハサミに挟まれそうになったり。蒼麻はそんなねね子の反応を見て、楽しんでいた。
「山! それは獣の住処! 山! それは食料の宝庫! ご飯! ご飯です! いっぱい狩ってお腹いっぱいになるんです!」
そして、ねね子とは別の方向で暴走しているのは、天誅だった。
「狩り!? 狩っちゃ駄目っスよ! 勿論買うのも飼うのも駄目っスよ!?」
すばやく零菜がつっこみ、天誅の口に物理的にチャックをする。
「ジャングルと言うだけあって凄い所だな。まさかここまでとは……まさに道無き道だ。置いていかれない様にしなければ」
そんな騒動を尻目に、志賀野・友衛は迷わないように慎重に歩を進めていた。友衛の目が、自分とは正反対に、ずんずんジャングルを突き進んでは時折引率者状態の蒼麻に引き戻されているねね子に向けられる。
「叢雲は本当に楽しそうだな。何と言うか、自然の中で生き生きしている感じだ。……でも、自然の中が気持ち良く感じるのは解る気がする。それが、人狼らしさなのかもしれないな」
後天的に人狼に目覚めた友衛には、人狼らしさというものがまだよく分からない。でも、何かが掴めた、そんな気がしたのだった。
同じ人狼でも、ヒノワ一族はまとまってジャングルの中を歩いていたが、その中から日輪・美薙と日輪・藍晶が進み出て、ねね子に声をかけた。
「日輪の美薙と申します。一族の者共々、どうぞよしなにお願い致します」
お嬢様らしく優雅に頭を下げる美薙と、
「よろしくね、ねね子」
簡潔に挨拶する藍晶。
「おう。こちらこそよろしくずら!」
対するねね子も元気いっぱい挨拶を返す。
一方、壱琉と琥珀は珍しい動植物に目を奪われていて。
「あ、壱琉、あれ何? えっ……きゃん!?」
真っ赤なカワセミを見つけた琥珀が駆けだし、張り出た木の根につまずく。
「ちょ、琥珀!?」
周囲の景色に目を奪われていた壱琉は、転びそうになった琥珀に気づき、あわてて手を伸ばして支えた。
「もう、しょうがないな……」
思わず壱琉が笑いだし、つられたように琥珀も笑いだしたのだった。
●発見!幻のネコ
「叢雲達は、こういう森の中で暮らしていたりもしたのか?」
「ジャングルは初めてずら。でも、森の中での生活は長いずら!」
いつしか友衛はねね子とお互いの事を話しながらジャングルを奥へ奥へと進んでいた。
途中、御崎・清純が二人に
「可愛いねー」
とか言いながらナンパを仕掛けたが、蒼麻に追い払われた挙げ句、パニーニャ・バルテッサに怒らたりといった一幕もあり。
「カノン様へのお土産はどうしましょう。例のイリオモテヤマネコでも捕獲しましょうか。それか適当な石でも」
そして、クロがおみやげになりそうなものがないか足下の石を拾って品定めなどをしていたその時。
「……あれ? ネコがおる」
先頭を歩いていたバアルが、ジャングルの一角を指さして、そう呟いた。
「あー! ヤママヤー! ヤママヤーっス!」
バアルの呟きに視線を向けた零菜が叫び、その声を聞いた一行の足が一斉に止まる。皆の視線の先には、暗灰色に縞模様の入った体色と、丸い耳が特徴的なネコの姿。
「イリオモテヤマネコだ……、間違いない」
遭遇を楽しみに、色々と調べてきていた壱琉が断言したことで、周囲にどよめきが広がっていく。
「ヤマネコ……狩っちゃダメとは言われましたが、少しかじるくらいはきっと許されます……?」
反射的に駆け出そうとする天誅だったが、
「……もふもふを……食べちゃダメだよ……」
イツキがさりげなく足を引っかけて天誅の暴走を阻止し、
「おい、誰かコイツ縛り上げろ!」
青羽が用意してきたサーターアンダギーやチンスコウで気を引いているうちに、あえなく捕らえられてしまったのだった。
「あれ、猫モフるみたいにできないかねェ」
蒼麻がそっとイリオモテヤマネコへの接近を試みるが、ヤマネコは警戒して後ずさる。これ以上無理をしてはせっかく出てきたヤマネコに逃げられかねないと、蒼麻は触るのを諦めた。
しかし、ヤマネコは逃げる様子はなく、イツキや日輪・雲葛達カメラを持ってきたメンバーは、ここぞとばかりにイリオモテヤマネコを写真に納めていく。
ねね子が何やら鳴き声のようなものでヤマネコに話しかけると、ヤマネコもそれに答えるようにニャーと鳴き声を上げた。意思の疎通ができているのかいないのか、それは本人達にしか分からないことだろう。
地元の人でも中々出会えないというイリオモテヤマネコとの邂逅に、一行のテンションは(猫が苦手な青羽を除き)一気に高まったのだった。
●飛び込め!ピナイサーラの滝
イリオモテヤマネコとの遭遇から10分あまり。一同はとうとうピナイサーラの滝に到着した。
落差約55メートルをまっすぐに流れ落ちる滝は、轟音と共に周囲に水しぶきを撒き散らしている。
真っ先に滝壺にジャンプして飛び込んだのは琥珀で、まだ岸にいる壱琉に水を掬って掛け始めた。
「壱琉もはやく~。気持ちいいよ~♪」
水を掛けられた壱琉も、
「お返しっ!」
と掛けられた倍の水を掛け返し、琥珀はきゃあ、きゃあと笑ってお返しのお返しとばかりに更に水を掛ける。
楽しそうに笑う琥珀の姿に、壱琉も自然と笑顔になっていった。
「突撃ー♪」
ヒノワ一族の中で一番に滝壺に飛び込んでいったのは、パレオタイプの女性用水着を着た日輪・黒曜だ。その後からは、青色の水着姿の藍晶、パーカーを脱いで水着姿になった美薙、華麗な飛び込みを披露した日輪・玖栗らが続いていく。
日輪・ユァトムは初めて見る滝に目を輝かしつつ、狼に変身して滝に飛び込んでみたいという衝動を、頭をぶんぶん振って我慢していた。心を落ち着けようと滝壺の水を手ですくい、
「み、水……甘い……」
思わぬおいしさに、楽しそうに喉を潤す。
セクシー水着に肩掛けケープ、腰にパレオを巻いた雲葛は、滝壺には飛び込まず、滝の飛沫を浴びた艶っぽい姿でゆったり観光を楽しんでいた。時折カメラを取り出しては、色々ばしゃばしゃ撮っていく。
「俺達の住んでた里には、こんな立派な滝なんてなかったから、眺めてるだけでも新鮮で楽しいね」
ヒノワ一族の族長である日輪・竜胆は、一族の皆と一緒に飛び込むことはせずに、滝の傍らで泳ぐ仲間達を眺めて微笑んでいた。
「竜胆はいつもお疲れ様だな」
そう言って持参した水筒を差しだしたのは日輪・義和だ。高校生の夏服にハット姿の義和は端から泳ぐ気はなく、皆の荷物番を買って出ていた。
「一族の長としてよくやってる。こういう時位は肩の荷を降ろせ」
義和の気遣いに、竜胆は感謝しつつ水筒を受け取った。
そんな竜胆と義和に、滝壺の中から玖栗が、
「おーい! 一緒に泳ごうよー! 気持ちいいよー!」
と呼びかける。
近くを泳いでいた黒曜も手をふりながら、
「滝壺の中は気持ちがいいわよー♪」
と声掛けした後、
「私は泳ぎは得意なんだから」
と犬かきで再び泳ぎ始めた。
「いや、俺は見てるだけで……」
二人にそう答える竜胆だったが、突然水中から伸びてきた手がそんな竜胆の腕を取り、無理矢理水中に引き込んでしまう。
「ぷはあっ!」
なんとか態勢を整え水面に顔を出した竜胆が見たのは、くすくす笑う美薙の姿。
「こぉんなに可愛い女の子が一杯いるんだから、ぜひご招待しないとなぁって♪」
上に残された義和はやや呆れ気味で、
「騒がしい奴等だ。ま、年齢から考えればそんなモンなのか?」
そんなことを呟いていたが、
「油断、してたわね? ふふっふ。ふふ、ふふ♪」
背後からいきなり雲葛に抱きつかれ、更に眉をしかめていった。
そんな仲間達の大騒ぎを、日輪・朔太郎は近くの木にもたれかかりながら眺めていた。
「ヒヒヒ……皆、元気だねぇ……。まぁ珠にはこういうのも良いさぁ……。思う存分に羽を伸ばさないとねぇ……」
帽子で顔を隠しニヤニヤと笑みを浮かべながら、手にしたジュースをちびちびと飲む。と、その視線が、滝壺の傍らでぼーっと滝を眺めている今井・来留とぶつかった。
「あはは♪」
朔太郎の視線に気付き、なぜか笑い声を上げる来留。
「ヒヒヒ……」
「あははは♪」
傍観者に徹していた二人の笑い声は、いつまでも滝壺に響き渡ったという。
「コンテスト用に買った水着もあるし……目いっぱい泳ごうかしら♪」
向日葵模様のパレオと黄色いビキニのセットに着替えたパニーニャが準備体操をしていると、
「パニちゃん水着とっても似合ってるよ、かわいー」
トランクスタイプの水着に着替えた清純が、いつものようにナンパスマイルでつきまとってきた。
「……清住、またナンパ?」
パニーニャは微妙に肩を竦めると、清純を置き去りに滝壺の下へ潜水するように潜っていく。
その後は流れに身を任せたり、逆らったり楽しそうに泳いでいたが、ついはしゃぎすぎたのか、ビキニのトップが水の流れで解けてしまった。
「……あれ? ……! 私の水着……っ」
軽くパニックに陥るパニーニャ。その時、飛び込んできた清純がパニーニャを片手で抱き寄せてその胸元を自分の体で隠した。
「大丈夫かい?」
普段とは全く違う真面目な顔で心配そうに見下ろす清純。
「ぇ、き、清純っ!? わ、わわ……」
パニーニャは思わず赤面して、いつもと雰囲気の違う様子の清純にどきっとする。
清純は空いている方の手で水着を回収するとそれをパニーニャに渡し、背を向けた。
(「……ちょっと格好いいって……思っちゃったわよ、もぅ」)
慌てて水着を着けながら、パニーニャは満更でもなさそうに笑みを浮かべていた。
「ん、こういう所で思い切り泳ぐのもいいわね」
せっかくの機会と泳ぎを満喫していた藍晶だが、それでも周囲に気を配るのは忘れていない。特に、小学生のユァトムや玖栗には常に気をかけていた。だから、ユァトムが足場となる岩で足を滑らせて転んだのに真っ先に気付いたのも、藍晶だった。
「雲葛、ちょっと来て!」
藍晶の呼び声に、何事かと駆けつけた雲葛はユァトムが怪我をしているのを見て、
「一応、救急箱と、包帯も、用意してきて、よかったわ」
手早く応急手当を施していく。
「も、雲葛さん……あ、ありがと……っ」
ユァトムのお礼の言葉に、雲葛はユァトムの頭を軽く撫でて応じたのだった。
●思い出を永遠に
「名残惜しいでござるが、そろそろ帰路につく時間でござる」
勘十郎の呼びかけに、時間を忘れて遊んでいた灼滅者達は、その時間が終わりを迎えようとしていることを知った。
何か昔を思い出してしまいそうで、滝の水飛沫を受けて誤魔化していた来留も。
お弁当を広げて雑談に興じていた雲葛達も。
いつも通りナンパをしていた清純も。
それぞれに帰り支度を始める。
すでにねね子達、滝の上に行っていたメンバーも合流していた。
「最後に……集合写真を撮ろうよ……。……きっと……いい思い出になるよ……」
イツキの発案で、仲の良い者同士、そして参加者全員での記念写真の撮影が始まる。
今日という日の思い出を、永遠に変えられたらいいと、そう願って。
作者:J九郎 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年6月26日
難度:簡単
参加:22人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 1
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