修学旅行2014~与那国・海底遺跡への誘い

    作者:一縷野望

    ●修学旅行は南国へ
     武蔵坂学園の修学旅行は、毎年6月に行われます。
     今年の修学旅行は、6月24日から6月27日までの4日間。
     この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅立つのです。
     また、大学に進学したばかりの大学1年生が、同じ学部の仲間などと親睦を深める為の親睦旅行も、同じ日程・スケジュールで行われます。

     修学旅行の行き先は沖縄です。
     沖縄そばを食べたり、美ら海水族館を観光したり、マリンスポーツや沖縄離島巡りなど、沖縄ならではの楽しみが満載です。
     さあ、あなたも、修学旅行で楽しい思い出を作りましょう!
     
    ●神秘の海底遺跡
     日本最西端の与那国島。
     沖縄本島からさらに飛行機で1時間40分、天気の良い日は台湾の山々が望めるというから、まさに国境の島。
     幽深な紺瑠璃の海の中、神秘的な造作の『地形』が眠っている。
     広大な石造りのそれは、人の肩ぐらいの高さの階段状になっており、あがればさながら神殿のような構え。
     先端側の城門を思わせる大きな岩と岩の間は人一人が丁度通れる。
     周囲は、ループ道路と呼ばれる掃き清められたように綺麗な路がぐるり巡る。
     自然地形か人工物か、1986年の発見以来未だ結論が出ていない。
     ――この不思議な地形を『海底遺跡』と呼ぶ人もいる。
     もし『海底遺跡』が遙か昔に人の手により作られたのだとしたら、人類の文明史が変わると言われている。
    ●謎への招待状
     目が醒めるような蒼の写真を眺める灯道・標(小学生エクスブレイン・dn0085)は、頬で切りそろえた髪が落ちてくるのを無意識に払う。
    「何を見ているのか?」問いたげな視線に彼女は「与那国島の海底遺跡だよ」と小さく笑った。
     瑠璃海の中の階段状の岩場。
     板のような岩の上、等間隔にあけられた穴。
    「それは『クサビ』の痕じゃないかって。人工物だっていう根拠としてあげられてる」
     亀岩と呼ばれる岩は鋭利に削られ、子供が描く星のよう。
     そんな周りをちらほら泳ぐきらびやかな熱帯魚たち。
    「なんだかすごいね、沖縄ってさ」
     ここでようやく修学旅行の話だとつながった。3日目に行ける与那国島の側にあるのだと添えて。
    「未だに人工物か否かの結論は出てないんだって。ボク達が生きてる間に判明するのかな……しなくても、いーかな」
     ――だって謎めいているからこそ魅力的なんだよ。
     ミステリィ好きの彼女は、気に入った小説ほど解決編を中々読めないのだという。わかる事でなにかがひとつ終わる、それが惜しいからだ、と。
    「というわけでさ、謎の間に見にいかない? 『海底遺跡』」
     ぴらりつまみ上げた写真には、ダイバー姿が確かに映り込んでいる。
     標曰く。
    『海底遺跡』にはダイビングで間近にまで行く事ができる、実は。
     特別な用意は必要ない。道具は案内してくれるダイビングサービスの所に揃っているのだ。
     みんなは船でダイビングポイントまで乗り付けて、そこから……。
    「じゃぶん」
     楽しげに手を合わせ口ずさむ水音。
    「かなり間近まで行けるんだって。いいよね、ボクは行くよ。キミ達も行かない?」
     自然に触れるダイビングは数あれど、自然物か人工物か謎で隠された遺跡をかぶりつきで見れるのはそうそうない。
     もちろん海底ならではの楽しみ、バラクーダの大群と遭遇したり、愛らしいクマノミがイソギンチャクに隠れるのに和んだりもばっちり!
    「餌付けしたい人は、海底遺跡から更にボートで移動トコでできるみたいだよ」
     色鮮やかな熱帯魚が手から啄んでくれるなんて、まさに南国ならではの体験だろう。
     さぁ、本州を飛び出して日本最西端の与那国で、めいっぱいの笑顔と思い出を作ってお土産にしよう!


    ■リプレイ

    ●弾ける期待!
     空と海の境目は、水面を往くモーターボートがなければ解け合ってしまいそうな程。
     船に乗るのはダイビングのレクチャーを終えた武蔵坂の若人達。中でも、新しい技術を学ぶ興奮に紫炎と高明のコンビは張り切りMAX!
    「青い海、すごーい!」
    「まさにリゾートって感じですね!」
     初めての沖縄に全身で喜び表す奏樹をはじめ幼い子達を、克至は優しげに見守る。その脇では遺跡への期待が南国の熱に負けじと打ち上げられる。
    「廃墟好きとしてはやっぱり遺跡であってほしいか?」
    「当然でしょ。水没してしまった遺跡」
    「僕も人工物だと思う、その方が気が利いてるじゃん」
     蒼刃の問いかけにエミーリエと友梨が瞳を輝かせた。
    「どちらにしても神秘的に違わないわ」
     裸眼の影薙だがいつもの教室と変わらずクール。
    「前衛は朱梨に任せて!」
    「冒険にはお宝でも欲しいところだな」
    「ヴァイス、武器は出さなくて大丈夫よ」
     ダンジョンアタック気分の朱梨とヴァイスへエミーリエは思わず吹き出した。
    「冒険……ですか? すぐに上がれてズル出来そうですよ?」
     洵哉もまた相好崩し会話用ボードを配る。
    「いかにもあなた好みって感じね」
    「ミステリアスでしょ」
     アリスからの依頼のお礼に標は「こちらこそ」とぺこり。
    「ね。謎だからこそ魅力的だよね?」
    「はい、謎は難しいほど解いた瞬間の快感は大きいのですよ」
     ボートの上、藍は標と沙希に頷く。
    「なら、組まなく探せばヒントがつかめるのではないでしょうか」
     いざダイブ!

    ●まずはお魚さんと一緒
     姉未羽の笑みに釣られ弟柚羽も頬緩める。
     紺碧の中揺らめく極彩色、心奪われし未羽は、弟に遅れて自分もと餌を翳す。
     その綺羅は姉の瞳に映るからこそ美しい――そんな柚羽は、姉のふくれっ面に小首を傾げ、すぐ理由に気づいた。
     お魚は柚羽に鈴なり、それが羨ましいのだ。
     未羽。
     と、手の甲を包み魚達の中心へ。
     柚羽。
     一緒にご飯あげるんだね♪
     ――夢のように次々現れる熱帯魚に、双子は破顔。
    『お魚さん、おいしそう?』
    『確かにマカロンっぽい』
     白いボードに文字を綴りおしゃべり陽桜と標、初めての緊張もすっかり解れた。
     陽桜の指先にツートンカラーの子がイソギンチャクへかくれんぼ。
    『クマノミさん!』
     標の手を引きそおっと触ろうとしたら、人魚姫少女達からささっと逃走!

    ●浪漫潜粋行
     頭上で水音。
     見上げるアルヴァレスは、煌めく陽を飾りに広がる翡翠に瞳を奪われた。
    (「……凄く綺麗です」)
     側に来たユエファの瞳がゴーグル越しに笑うように傾ぐ。染めた頬でアルヴァレスも頷き、ぎこちなく揺れる手をそっと取った。
     一面の青にゆらゆらきらきら。
     太陽の光がこんなに綺麗だと知らなかった。
     ……同じ綺羅を共有できた幸い胸に、寄り添うようにユエファとアルヴァレスは水底へ。
     せーの!
     朱梨の合図で潜った井の頭2-3の面々は石玄関の前でしばし無言。
    (「地上で見る遺跡とは違った趣があるわね」)
     相当古い石材と見て取りエミーリエは感嘆する。
    『素敵な景色を残してくれたこの海に感謝、だね』
     瞬きするのすらもったいない程に幻想的との朱梨、影薙は同意だと頷く。
    『人工物なら面白そうな話になりそうです』
    『どんな人達がいたんだろうね』
     洵哉と友梨のボード会話に影薙が書いた白板を見せる。
    『人が造ったなら、なんのため?』
     謎は深まる。
     白黒つけたい学者の気持ちもわかるけど、謎のままの方が面白そうだとヴァイス。
    (「こんな不思議が隠されてからこそ……」)
     世界は楽しい。
     潮の流れに仲間が巻き込まれぬよう留意する蒼刃はさながらディフェンダーか。
    『写真、お願いします』
     テラス前にて、仲睦まじい面々をカメラに収めた奏は、はしゃぐように先へ進む柊の背に苦笑を向ける。
    (「子供だな」)
     そんな事知らず柊は興奮真っ盛り!
    (「なにこれすっご! 人工物じゃないの?」)
     瞳白黒の柊はピン☆と悪戯閃いた、今日こそは!
     一方、柊の姿が消えたのに気づきつつ奏は素知らぬ顔で二枚岩の隙間へさしかかる。
    (「わっ!」)
     さらっ。
     だがしかし、流麗に身を躱されて横倒しにふよふよ漂うしかない柊。残念☆
     予想通りと醒めた瞳で見下ろす奏へ、柊の頬が徐々に膨れていく。
     陸に戻ったら――憶えてろよ!/頭使うようアドバイスかな。
     ……水底にて。
     懐くよう寄る彩魚に瞳瞬かせる紫炎は、背に響く感触に振り返る。
    (「魚に大人気だな、よっ色男」)
     高明の目が悪戯っぽく傾いでるのがかろうじてわかる程度、カンペが欲しい。
     はしゃぐように奥への高明をやれやれと紫炎。
    (「自然にできたとは思えないもんなあ……」)
     横たわり伸ばした高明の腕の中、泳ぐ紫炎が横切る。まるで写真のような1シーン。
    (「神秘的な場所を直に見るのはワクワクしますね♪」)
     言葉にしなくても克至の感動は奏樹に伝わる。
     にかっと瞳を傾けて、ぽこんと口元に泡1つ。
    (「かっちゃん!」)
     迷子にならないように、仔犬のような少女からの掌を、照れ顔の青年は柔らかにつないだ。
     さぁ、戦いの日々をしばし忘れ遺跡探索としゃれ込もう。
    (「想像以上に沈む」)
     人姿の潜水にようやく慣れたセレスは斜め下に見つけた標の背へ追いつき、ちょん。
    『人!』
     ――驚かれた。
     遺跡巡りへ向かう彼らを見送ったアリスは、階段に手を掛け上昇開始。
    (「遺跡だとしたって、ダークネスは絡んでないでしょうね」)
     バベルの鎖が働いていないから。アリスの探求心は更なる水底沖縄トラフへ――流石に生身では無理だけど。
    (「おー……明らかに人工物っぽいし」)
     そして自然に奪い返された今を思いフィズィしみじみ。
    『なんだと思う?』
    『琉球王国、もっと古い?』
     自然物か人工物か謎が残る、朝乃と標は同じわくわくで胸が弾けそう!
    『狭間のロマンがたまらない』
    『うん!』
     海底は昔地上にあったと知らぬユァトム。
    『沖縄の人って、半魚人だったのかな?』
     家みたいだったと身振り手振りのユァトムに、
    『新説いいね、そーゆーの好き』
     ぽこり、標の泡が弾ける。
    『なんか封印されてそうでカッコイイよね』
    『確かに』
     クサビ痕を踵でタッチの朝乃、皆も痕跡拝見。
    『人工物だとしたらこのあたり、陸地?』
     神妙に指さすセレスの問いへ、
    『人工物』
     その方が謎めくから。
     フィズィが標の前でちょいちょい、指の先にあるのは巨大な階段。
    『のぼるの大変そー』
     フィズィが手を貸し並んで座れば、かつて存在したワンシーンのよう。

    ●何者が為したのか
     海底に眠る剛健なる岩の競演。
     ある者は首をひねりある者はただただ圧倒され……ゴーグルの中、十人十色の表情浮かべ彼らはアクアマリンの中を漂う。
     防水カメラは準備OKと桔平。
     ボードを大輔から受け取り、梗鼓はサインの復習に余念がない紫信へ。
     瑠璃の中、耳に届くは自分の息だけ。
     やがて辿り着いた二枚岩の間で遊ぶ極彩色――その不可思議さに四人の耳元音がしばし、止まる。
    (「すげぇ」)
    (「ああ」)
     大輔と桔平は写真も忘れ神秘的な光景に飲み込まれた。
     人工物か自然物か云々する気はないとの紫信に、同意だと大輔は首を揺らす。
    『不思議は不思議のまま』
     すんなりした指で紫信が気持ちを綴れば、生き生きとした梗鼓の瞳が皆の前に飛び込んできた。浮かんだままでボードにかきかき、はしゃぐように翳したボードには、
    『アタシはこれ、人工物だと思うんだ』
     さらに追加。
    『みんなは、どっち派?』
     改めて問われ弾ける謎。
     瑠璃の海が藍の髪みたいと、沙希がこんっとゴーグルをつつけば、はにかみが返った。
    (「彼らもダークネスと戦っていたのかも……」)
    『何世代に渡って研究すれば色々わかるかもしれませんですよ』
     ならば、今わかる事を見にいこう。
     ボードを描くため離れた手を、互いにつなぎ直して更なる水底へ。
     まんまる瞳で二枚岩を見上げる穂純に、セトラスフィーノは微笑ましさを胸一杯。水中カメラで切り取る1枚目はこれに決まり!
     手をつなぎ滑るようにメインテラスへ。
    (「すごい、本当に人が造ったみたい……!」)
     もし人が作りしモノならばどんな物語が描かれたのか。
    (「巨人さん?」)
     巨大な階段と自分の背を比べる穂純にセトラスフィーノもこくり。
     階段に腰掛け二人寄り添った写真、この感動も添えれば本土で待つ二人へのお土産いっぱい!
     意思疎通はエレナと流人の接触テレパスで。
    「どっかにすごいお宝が眠ってるんとちゃう?」
     炎次郎は勢いよく先行。
    「一体どうやって作ったのか気になりますね」
    「ふむ、岩に等間隔で楔を打つ技術は……いや、石器では砕けるか」
     さりとて金属を使い出した時代には既に海の中――凛音の投げかけに深まる謎。
    「いいわね、こういう浪漫溢れる不可思議なモノって」
     クレハは目の前の岩に触れ存在を実感する。
     思索に浸る皆の前をふよりふより、漂う磯良。
    『すごいねすごいね!』
     キラキラ光が瞬き綺麗。思わずあがる口元の泡にエレナは『竜宮城の跡って気もしてくるわね』と。
    「夢があって素敵だよね」
     にっこり。
     お魚磯良、またまたくるり。クレハの胸にも竜宮城が描かれる。
    「じゃあ、遺跡の大きさ比べあってみようか」
    「ご一緒します」
     人の痕跡があるだろうかと凛音は興味津々でクレハについていく。
    「……案外、ニライカナイから来た神々が造っていたりしてな」
     新羅がぼそり。
    「此処こそがそのニライカナイとして伝わったルーツなのかもしれないな」
     頷く流人。
     腰より高い階段に広いテラス、確かに遺跡と思う者が居るのも頷け……。
     ――わぁああああ!
     オーバーアクションで岩に手を取られた炎次郎が助けを求める。
    「と、迦具土は一体何をしてるんだ……」
    「迦具土。遺跡荒らしは関心しないぞ」
     やれやれとひっぱりだして、流人と新羅はお説教。
    「す、すんませんした、杉崎さんに遺跡さん……」
     船の上、ちゃぷんと水音。
    「気になるのは『拝所』だずね」
    「あのカメのヤツだな」
     紅華とフィナレの弾む声を耳にアトレイアがまた指をちゃぷんと遊ばせる。
    「あっ今クマノミ見えた」
    「吸い込まれそうです」
     落ちかけを引っ張るマサムネ。改めてダイブ!
     まずは拝所。
     ……己のダークネスに負けぬように。
     ……哀しき過去の戦いを繰り返さぬように。
     ……皆の行く末に祝福を。
     ……安らかな眠りを。
     四人で窪みに身を預け思い思いに祈りを捧げたら一転、軽快に探検モード!
     まるで星のような亀石にちょんとつま先を触れるとフィナレは背中に一番乗り。
    (「出発進行ー」)
    (「本当に動いたらどうします?」)
     指さしはしゃぐ級友に綻ぶマサムネの頬、そして……お腹。
    (「後で、うんめー沖縄グルメ食いに行こうぜー」)
     美味しい提案はあがってから!

    ●謎解きは未来へ?
     オーパーツ研究部にとって、この修学旅行の行き先はまさにうってつけ。
    (「明らかに人工物のような階段ぽいものやクサビ……」)
     奏が触れる脇で、デルタがカメラのシャッターを切った。
    (「これが人工物なら凄いロマンチックです」)
     聡明な瞳を瞬かせ、四季。
     この興奮を早く語りたいと天花。
     そんな仲間達を保護者のように見守る有人も知的好奇心をそそられっぱなしだ。
     船の上、デルタは巨大階段の写真を皆に見せ考察のスタートを切る。
    「ここまで巨大な階段状の構造物を作りあげる文明…」
    「昔沈んでしまった旧文明の跡かも?」
     スポーツドリンクを配る有人の言に奏はクサビ痕をあげた。
    「これだな」
     デルタが呼び出した写真には窪みが整然と並んでいる。
    「個人的に、あれは人工物っぽいものだと思います」
     神妙に四季は述べるとペットボトルに口をつける。
    「自然にできたっていうなら、それはそれですごいことだよね」
     ダークネスとの戦いすら小さく思えるスケールの大きさ、だがそれを「すごい」と思えるのも「人」――護りたいと天花の誓い新たに。
    「今度はここの遺跡に関する研究でも行おうかな」
     デルタに頷く面々。
    「いつかクラブの皆で、再び訪れる日が来るといいですね」
     ……謎を解き明かすために。
     ますます議論が熱くなる反対側の縁で、さくらえは「大丈夫」と幼なじみと友人へ笑いかける、それがダイブの合図となった。
     水中で勇弥はまず想希をカメラで捉える。
    『俺はいいですよ!』
     ボードの文字の焦りなど何処吹く風、大事な人へ満喫する姿を見せなくちゃ!
     出迎えは巨大な階段いただくテラス。
    「!」
     興奮の勇弥にさくらえは吹き出し泡零す。
     ――謎はすっげー。
    (「どんな時だって希望がかくれてるかもしれないじゃん!」)
     ぽこん。
     二人の口元であがる泡。
     ……ね、とりさんはすごいでしょ。
     ……さくら、君の自慢の幼馴染は本当にすごい人ですね。
     想希の微笑みに頷き、さくらえはボードに文字を走らせる。
    (「そうだね、だからこそ信じて見つけ出せ、だね」)
     勇弥手放しの笑顔を「可愛い」と、想希はカメラを受け取りお土産へ。
     謎。
     わからぬモノ。
     解決したらつまらない、この遺跡とかこの気持ちとか。
     瑠璃の中、葵は海底遺跡に興奮隠せない黒武の手首に触れ、テレパス。
     ……教えて欲しい、其の世界を。
    『……火山噴火によって沈んだ説がある位、かな』
    『未だ解明されてないからこそロマンチックだよね』
     離れかけた手を黒武が握れば伝わる――共に見られてよかった。率直な心に破顔し、彼は誘う。
    『まぁ、葵ちゃん』
     いざ探そう、此処がどのような時を過ごしたのかを。
     ――少しでも長く。
     呼吸を減じ、神流は腕広げくるような壮大なる石壁をじっと見据える。
     自然か人か……奇跡の業であろう事間違いない。
     神流の観察を邪魔せぬよう二枚岩に身を隠し、龍人は水と馴染み巡った回廊を今一度思い起こす。
     不思議な事に人の手で清められたようだった……が、やはり結論は出せない。
     ただ経営と違い空想するのが醍醐味か、ナビゲーターの少女を浮かべ口元を崩した。
    (「部屋というか、トンネル?」)
     龍人とすれ違った聡美は壁にそっと指を触れる。
     遺跡といえば財宝! ……と、意気込み片っ端から隙間に頭を突っ込んで、此処であった生活に思いを馳せる。
     次なる部屋へ勇ましく行く聡美を横目に、燎はテラスにて水に委ねる。
     自然が為した偶然か、何かを描いた人の手による物か――。
     ダークネス。
     そんな単語に首を振り、気を取り直して海中から空へ灰を向ければ、誰かの蹴った水が揺らぎ陽の彩織りが降ってくる。

     遙か昔、此処にはどのような『日常』があったのだろう。
     それは潮の流れが作った自然の魔法か?
     はたまたこの地に暮らす誰かの思いの結晶か?
     瑠璃紺の中浮かぶ白亜は、昨日も今日もそして恐らく明日も、静謐な貌で誰かの訪れを待つのだろう――。

    作者:一縷野望 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月26日
    難度:簡単
    参加:56人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 16/キャラが大事にされていた 0
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